位相空間論7:商位相

提供: Mathpedia

位相空間論7:商位相

続いて、商位相について述べよう。商位相は、位相空間を「貼り合わせて」新しい位相空間を作るのに必要な概念である。商位相の写像バージョンであり、埋め込みと双対な概念である商写像についても合わせて述べる。


入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論7:商位相


はじめに、同値関係と商集合について復習しておく。

$\sim$ を $X$ 上の二項関係とする。すなわち、任意の $x, y\in X$ に対して、$x\sim y$ であるか、そうでないかが定まっているとする。$\sim$ が $X$ 上の同値関係(equivalence relation)であるとは、次の三性質が成り立つことである。

  • (E1) $x\sim x$
  • (E2) $x\sim y$ ならば $y\sim x$
  • (E3) $x\sim y$, $y\sim z$ ならば $x\sim z$

(E1)は反射律(reflexivity)、(E2)は対称律(symmetry)、(E3)は推移律(transitivity)と呼ばれる。 このとき、各 $x\in X$ に対して、$X$ の部分集合 $\{y\in X\,|\,x\sim y\}$ を $x$ の $\sim$ に関する同値類(equivalence class)といい、$[x]$ で表す。このとき、同値類全体の集合 $\{[x]\,|\,x\in X\}$ を $X$ の $\sim$ による商集合(quotient set)といい、$X/\mathord{\sim}$ で表す。全射 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ が $p(x)=[x]$ で定義され、この $p$ を射影と呼ぶ。

$\xi$ を $\tilde{X}$ の要素とすると、$\xi$ はある $x\in X$ によって $\xi=[x]$ の形に書くことができるが、このような $x$ を $\xi$ の代表元(representative)という。$\xi$ の代表元は一般には何通りもあるので注意する。実際、$x$ が $\xi$ の代表元であって $y\in X,$ $y\sim x$ ならば $y$ も $\xi$ の代表元である。

さて、以下では $(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$X$ 上の同値関係 $\sim$ が与えられたとする。このとき、$X$ の位相を基にして商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ に位相を定める良い方法を考えたい。そのような位相は、少なくとも射影 $p\colon X\to \overline{X}$ が連続であるように定めるべきであろう。そこで、極端な場合として、$\overline{X}$ に密着位相(考え得る最も粗い位相)を入れれば、$p$ は連続である(例 5.5)。しかし、密着位相では $X$ の位相が何も反映されていない。そこで、$p$ が連続となるという制約のもとで、$\overline{X}$ の位相を可能な限り細かくすることを考える。いま、$p$ が連続であるという条件は、定義により

$\overline{X}$ の任意の開集合 $V$ に対して、$p^{-1}(V)$ が $X$ の開集合である

という条件である。したがって、$p$ が連続であることは、 $\overline{X}$ のすべての開集合が集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset \overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ に属していることと同値である。そこで、$\overline{\mathcal{O}}$ を開集合の全体として、$\overline{X}$ に位相を定めることができないかを考えてみる。それができれば、$\overline{X}$ は $p$ を連続とする最も細かい位相をもつことになるだろう(実際、$\overline{X}$ の開集合のうちに $\overline{\mathcal{O}}$ に属していないものがあれば、$p$ は連続とはなり得ないから)。問題は、$\overline{\mathcal{O}}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすかどうかであるが、それは以下の命題で見るように実際に成り立つ。

命題 7.1 (集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、上で定義された $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は $\overline{X}$ 上の位相を定める。すなわち、$\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とする。まず、(O1) を示す。$p^{-1}(\emptyset)=\emptyset\in\mathcal{O}$ であるから、$\emptyset\in\overline{\mathcal{O}}$ である。また、$p^{-1}(\overline{X})=X\in\mathcal{O}$ であるから、$\overline{X}\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

次に、(O2) を示すため、$V_1, V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると $p^{-1}(V_1), p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ であるから、$p^{-1}(V_1\cap V_2)=p^{-1}(V_1)\cap p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ である。よって、$V_1\cap V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

最後に、(O3) を示すため、$\{V_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して、$p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ であるから、$p^{-1}(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ である。よって、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda\in\overline{\mathcal{O}}$ である。$\square$

定義 7.2 (商位相)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ は命題 7.1により開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすから、$(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ は位相空間となる。ただし、$p\colon X\to\overline{X}$ は射影とする。このとき、$\overline{\mathcal{O}}$ を $\overline{X}$ 上の商位相(quotient topology)といい、$(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ を $(X, \mathcal{O})$ の商空間(quotient space)という。

以下では、位相空間 $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、商集合 $X/\mathord{\sim}$ は、特に断りのない限り商位相によって位相空間とみなす。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 7.3 (商位相と射影)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相 $\overline{\mathcal{O}}$ は、射影 $p\colon X\to\overline{X}$ を連続とする $\overline{X}$ 上の位相の中で、最も細かい位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • $p\colon X\to \overline{X}$ は、$(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ への連続写像となる。
  • $p$ が $(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}}')$ への連続写像となるような $\overline{X}$ 上の任意の位相 $\overline{\mathcal{O}}'$ に対して、$\overline{\mathcal{O}}'\subset\overline{\mathcal{O}}$ である。$\square$

命題 7.4 (商位相に関する閉集合)

$X$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、商空間 $X/\mathord{\sim}$ の閉集合全体の集合は $$ \overline{\mathcal{F}}=\{F\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(F)\text{ は }X\text{ の閉集合}\} $$ となる。

証明

$F$ を商空間 $\overline{X}$ の閉集合とすると、$\overline{X}\setminus F$ は $\overline{X}$ の開集合だから、$p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ は $X$ の開集合である。$X\setminus p^{-1}(F)=p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ だから、$X\setminus p^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって $p^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合だから、$F\in\overline{\mathcal{F}}$ である。この議論を逆にたどることにより、$F\in\overline{\mathcal{F}}$ ならば $F$ が $\overline{X}$ の閉集合となることも分かる。$\square$

上の命題から、$\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相は、$p^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であるような $\overline{X}$ の部分集合 $F$ を閉集合とする位相であるということもできる。

商集合からの写像の定め方について復習しておこう。$X,$ $Y$ を集合とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。写像 $f\colon X\to Y$ が次の条件を満たすとする。

$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$ である。

このとき、商集合 $X/\mathord{\sim}$ からの写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $$ \overline{f}([x])=f(x)\quad (x\in X) $$ により定義することができる(ただし、$[x]$ は $x$ の $\sim$ に関する同値類を表す)。これは、$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とするときに、$\overline{f}$ を $\overline{f}\circ p=f$ となる唯一の写像 $\overline{f}$ として定義したと言ってもよい。この $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $f$ により誘導される写像という。

命題 7.5 (商空間の普遍性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$\sim$ を $X$ 上の同値関係として $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ を商空間とする。連続写像 $f\colon X\to Y$ が条件「$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$」を満たすとする。このとき、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ が $\overline{f}([x])=f(x)\,(x\in X)$ により定まるが、この $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ は連続である。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とすると、定義により、$\overline{f}\circ p=f$ であることに注意する。$\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ の連続性を示すため、$V$ を $Y$ の開集合とする。すると、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合であるが、$f^{-1}(V)=(\overline{f}\circ p)^{-1}(V)=p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ であるから、$p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ は $X$ の開集合である。よって、商位相の定義により、$\overline{f}^{-1}(V)$ は $\overline{X}$ の開集合である。これで、$\overline{f}$ の連続性が示された。$\square$

例 7.6 (商空間の普遍性による連続写像の構成)

単位閉区間 $[0,1]$ 上の同値関係 $\sim$ を $$ s\sim t \Longleftrightarrow s=t\text{ または }\{s, t\}=\{0, 1\} $$ により定義しよう。すると、$[0, 1]/\mathord{\sim}$ は直観的には、$[0, 1]$ の両端点 $0,$ $1$ を「くっつけた」ものである。$S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ を単位円周とするとき、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ を $f(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ により定義すると、$f(0)=(1,0)=f(1)$ であるから、条件「$s\sim t$ ならば $f(s)=f(t)$」が成り立つ。よって、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ が定義され、しかも命題 7.5により $\overline{f}$ は連続となる。 このように、商空間を定義域とする連続写像を構成するときは、命題 7.5が非常によく使用される。

さらに、三角関数の性質から確かめられるように、$\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ は実際には全単射となる。この連続全単射 $\overline{f}$ は、実際には同相写像となるのだが、それを示すにはさらなる概念を用意した方が効率的なので、後に第11章で証明することにしたい(例 11.15)。ともあれ、この事実を認めれば、「区間 $[0,1]$ の両端をくっつけた」ものである $[0,1]/\mathord{\sim}$ が円周 $S^1$ と同一視されることになり、直観ともよく調和する。$\square$

例 7.7 (実数直線の距離化可能でない商空間)

実数直線 $\mathbb{R}$ 上の次のような同値関係 $\sim$ を考える。 $$ x\sim y \Longleftrightarrow x=y\text{ または }x, y\in\mathbb{Z} $$ $X=\mathbb{R}/\mathord{\sim}$ とし、$p\colon \mathbb{R}\to X$ を射影とする。$p(\mathbb{Z})$ は $X$ のただ一つの点からなるが、その点を $p_0$ と書くことにしよう。$X$ は $\mathbb{Z}$ を一点 $p_0$ に同一視して得られる $\mathbb{R}$ の商空間である。

このとき、$X$ が第一可算でないことを示そう。もし、$X$ が第一可算であれば、$p_0$ の高々可算な基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が存在する。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n$ は開集合であるとしてよい。すると、$p^{-1}(V_n)$ は $\mathbb{R}$ の開集合で $\mathbb{Z}\subset p^{-1}(V_n)$ である。よって、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $0<r_n<1/2$ となる $r_n$ であって $[n-r_n, n+r_n]\subset p^{-1}(V_n)$ を満たすようなものが存在する。$W=(-\infty, 1/2)\cup\bigcup_{n=1}^\infty (n-r_n, n+r_n)$ とおくと、$p^{-1}(p(W))$ だから、$p(W)$ は $X$ の開集合で、$p_0$ の開近傍となる。$\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は $p_0$ の基本近傍系なので、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n\subset p(W)$ であり、したがって $p^{-1}(V_n)\subset p^{-1}(p(W))=W$ である。ところが、$n+r_n\in p^{-1}(V_n)\setminus W$ であるから矛盾する。これで、$X$ が第一可算でないこと(より詳しく、$p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないこと)が示された。よって、$X$ は、距離空間 $\mathbb{R}$ の商空間であるにもかかわらず、距離化可能ではない。$\square$

上の例は、距離空間の商空間が必ずしも距離化可能でないことを示している。これは距離空間の範囲内にとどまる限り、自由に商空間を考えることはできないことを示している。また、距離空間 $(X, d)$ の商空間が「運よく」距離化可能になったとしても、その位相を定める距離を $d$ をもとに構成することは容易でないことが多い。このような事情は、距離空間に限らず一般の位相空間を考える積極的な動機の一つとなっている。

位相空間 $X,$ $Y$ について、$Y=X/\mathord{\sim}$ の形でない場合でも、適切な全射 $f\colon X\to Y$ があるとき、$Y$ を $X$ の商空間であるかのように考え、$f$ を射影であるかのように考えたいことがある。このときの「適切な全射」を定式化したのが、商写像の概念である。

商写像を定義する前に、次の考察をしておく。一般に集合の間の写像 $f\colon X\to Y$ が与えられたとき、$X$ 上の同値関係 $\sim_f$ を $$ x\sim_f x' \Longleftrightarrow f(x)=f(x') $$ により定義すると、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が定まり、この $\overline{f}$ は単射である。さらに、$f$ が全射であれば、$\overline{f}$ は全単射となる。

定義 7.8 (商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$f$ が商写像(quotient map)であるとは、$f$ が全射であって、上で定義した連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が同相写像となることをいう。

上の定義で「連続全単射 $\overline{f}$」と述べたが、$\overline{f}$ の連続性は命題 7.5により保証されていることである。明らかな場合として、$\sim$ が $X$ 上の同値関係のとき $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、$p$ は商写像である。実際、このとき同値関係 $\sim_p$ は $\sim$ と一致し、しかも連続全単射 $\overline{p}\colon X/\mathord{\sim}_p\to X/\mathord{\sim}$ は単なる恒等写像だから $\overline{p}$ は同相写像となっている。

商写像を上の定義のまま扱うのは少々難しいので、次にその言い換えを述べよう。

命題 7.9 (商写像の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続な全射とするとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は商写像である。
  • (2) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合ならば $A$ は $Y$ の開集合である。
  • (3) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、$f^{-1}(A)$ が $X$ の閉集合ならば $A$ は $Y$ の閉集合である。
  • (4) 任意の位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ に対して、$g\circ f\colon X\to Z$ が連続ならば $g$ も連続である。

証明

$\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ を前に定義した通り、$f$ により誘導される連続全単射とする。すると、$p_f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ を射影とするとき $\overline{f}\circ p_f=f$ である。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を商写像として、$A\subset Y$ とし、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であると仮定する。いま、$f^{-1}(A)=(\overline{f}\circ p_f)^{-1}(A)=p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ であるから、$p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $X$ の開集合であり、よって、商位相の定義により、$\overline{f}^{-1}(A)$ は $X/\mathord{\sim}_f$ の開集合である。$\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ は同相写像なので、とくに開写像であり(命題 5.27)、よって $A=\overline{f}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Leftrightarrow$ (3) は、任意の $A\subset Y$ について成り立つ式 $f^{-1}(Y\setminus A)=X\setminus f^{-1}(A)$ から簡単に示される。

(2) $\Rightarrow$ (4) を示す。(2) を仮定し、位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ で $g\circ f\colon X\to Z$ が連続となるものを任意に与える。このとき、$g$ が連続となることを示せばよい。そこで、$Z$ の開集合 $V$ を任意に与える。いま、$g\circ f$ の連続性により $f^{-1}(g^{-1}(V))=(g\circ f)^{-1}(V)$ は開集合なので、(2) により $g^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合である。よって、$g$ は連続である。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) を仮定するとき、連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ が同相写像であることを示せばよい。それには、$\overline{f}^{-1}\colon Y\to X/\mathord{\sim}_f$ が連続といえればよい。ところが、合成 $\overline{f}^{-1}\circ f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ は定義により $p_f$ に等しいから、連続である。よっていま仮定している (4) により、$\overline{f}^{-1}$ は連続である。$\square$

ここでは商写像の定義を埋め込みとの双対性を重視した形で与えたが、他の多くの文献では、商写像の定義として命題 7.9の条件(2)あるいは(3)を用いている。証明に用いるのにはこの形の方が便利であろう。

命題 7.10 (写像の合成と商写像)

$X,$ $Y,$ $Z$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  • (1) $f,$ $g$ が商写像ならば、$g\circ f$ も商写像である。
  • (2) $g\circ f$ が商写像ならば、$g$ も商写像である。

証明

(1) $f,$ $g$ を商写像とする。命題 7.9の条件(2)を用いて、$g\circ f\colon X\to Z$ が商写像であることを示そう。$f,$ $g$ は連続な全射だから、$g\circ f$ は連続な全射である。$A\subset Z$ として、$(g\circ f)^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。$(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ であって $f$ は商写像なので、$g^{-1}(A)$ は $Y$ の開集合である。$g$ は商写像なので、$A$ は $Z$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g\circ f$ は商写像である。

(2) $g\circ f\colon X\to Z$ を商写像とする。このとき、$g\colon Y\to Z$ は全射である。実際、任意に $z\in Z$ を与えると、$g\circ f$ の全射性により $x\in X$ が存在して $z=g\circ f(x)=g(f(x))$ となるからである。命題 7.9の条件(2)を用いて、$g\colon Y\to Z$ が商写像であることを示そう。$A\subset Z$ として、$g^{-1}(A)$ が $Y$ の開集合であるとする。$f$ は商写像だから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、$(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ は $X$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g\circ f$ は商写像である。$\square$


命題 7.11 (開写像・閉写像と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。$f$ が開写像あるいは閉写像であるならば、$f$ は商写像である。

証明

$f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。$f$ が開写像であるとして、命題 7.9の条件(2)を用いて $f$ が商写像であることを示そう。$A\subset Y$ として、$f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。このとき、$f$ の全射性より $A=f(f^{-1}(A))$ であるが、$f$ は開写像であるから、$f(f^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。よって、$A$ は $Y$ の開集合である。命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$f$ は商写像である。$f$ が閉写像である場合も、命題 7.9の条件(3)を用いることで、同様に $f$ が商写像であることが示される。$\square$

例 7.12 (開写像として得られる商写像)

連続写像 $f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を $f(x,y)=x$ で定義する。$f$ は明らかに全射である。この $f$ が開写像であり、したがって商写像にもなることを示そう。そこで、$U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合とする。$f(U)$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることを示すため、$x\in f(U)$ を任意に与える。すると、$f$ の定義によりある $y\in \mathbb{R}$ が存在して $(x,y)\in U$ となる。$U$ は開集合なので、$B((x,y),r)\subset U$ となるような $r>0$ が存在する。すると $B(x,r)=f(B{(}(x,y),r{)})\subset f(U)$ である。よって、命題 2.4により、$f(U)$ は $\mathbb{R}$ の開集合である。これで、$f$ が開写像であることが分かり、よって命題 7.11により $f$ が商写像であることが分かった。$\square$

最後に、部分空間をとる操作と商写像との関係について述べる。$f\colon X\to Y$ を商写像とし、$A$ を $X$ の部分空間とする。このとき、$f|_A\colon A\to Y$ の終域を $f(A)$ に制限したものを、ここでは $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ と表すことにしよう。このとき $f|_A^{f(A)}$ は連続な全射であるが、これが再び商写像になるかどうかを考える。

命題 7.13 (部分空間と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を商写像として、$A\subset X$ とする。次の各場合に、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は商写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。

証明

(1) 商写像 $f\colon X\to Y$ が開写像であるとし、$A\subset X$ を開集合とする。このとき、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が開写像であることを示そう。$U$ を $A$ の開集合とすると、命題 6.7により、$U$ は $X$ の開集合でもある。$f$ は開写像なので、$f(U)$ は $Y$ の開集合である。よって、$f|_A^{f(A)}(U)=f(U)=f(U)\cap f(A)$ は $f(A)$ の開集合である。よって、$f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は開写像であるから、命題 7.11により、商写像となる。

(2) (1) と同様である。

(3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合であるとする。$g=f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が商写像であることを示すため、$B\subset f(A)$ とし、$g^{-1}(B)$ が $A$ の開集合であると仮定する。$g$ の定義から、$g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=f^{-1}(B)\cap f^{-1}(f(A))=f^{-1}(B\cap f(A))=f^{-1}(B)$ であるので、$f^{-1}(B)$ は $A$ の開集合である。$f$ は商写像であるから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、$B$ は $Y$ の開集合である。$B\subset f(A)$ なので、命題 6.8により $B$ は $f(A)$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、$g=f|_A^{f(A)}$ は商写像である。

(4) (3) と同様である。命題 7.9 の (2) の代わりに (3) の条件を使えばよい。$\square$


例 7.14 (部分空間と商写像が交換しない例)

$f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を、例 7.12の通り、$f(x,y)=x$ で定義される連続写像とする。この $f$ は商写像となるのであった。$A$ を、次のような $\mathbb{R}^2$ の部分集合とする。 $$ A=\{(0,0)\}\cup\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ このとき、$f(A)=[0,\infty)$ であるが、$g=f|_A^{f(A)}\colon A\to [0,\infty)$ は商写像ではない。それを示すため、$B=f(A)\setminus\{0\}=(0,\infty)$ という $f(A)$ の部分集合を考えよう。 $$ g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ であるので、$g^{-1}(B)$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。$g^{-1}(B)\subset A$ なので、命題 6.8により $g^{-1}(B)$ は $A$ の閉集合でもある。もし、$g$ が商写像であれば、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (3)により、$B=(0,\infty)$ は $f(A)=[0,\infty)$ の閉集合でなければならないが、すると命題 6.15により$0\in f(A)\cap \operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=\operatorname{Cl}_{f(A)} B=B$ となるから矛盾する。$\square$

注意 7.15 (同値関係の場合)

$X$ を位相空間、$\sim$ を $X$ 上の同値関係として、$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。$A$ を $X$ の部分集合とすると、$\sim$ を $A$ に制限することで、$A$ 上の同値関係 $\sim_A$ が得られる(つまり、$a, b\in A$ に対して、$a\sim_A b$ であるのは $a\sim b$ のときと定義すれば、$\sim_A$ は $A$ 上の同値関係となる)。このとき自然な全単射 $$ \varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A) $$ が、$a\in A$ の $\sim_A$ に関する同値類を、$a$ の $\sim$ に関する同値類に写すことによって定義される。

命題 この全単射 $\varphi$ は連続である。
証明 包含写像 $i\colon A\to X$ について、合成 $p\circ i\colon A\to X/\mathord{\sim}$ を考えると、これは連続であって、$a, a'\in A$ に対して「$a\sim_A a'\Longrightarrow p\circ i(a)=p\circ i(a')$」を満たすので、$p\circ i$ により誘導される写像 $\tilde{\varphi}\colon A/\mathord{\sim}_A\to X/\mathord{\sim}$ がある。命題 7.5により $\tilde{\varphi}$ は連続であるが、定義から $\varphi$ は $\tilde{\varphi}$ の終域を $p(A)$ に制限したものなので、命題 6.17により $\varphi$ は連続である。

$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ は商写像であるので、$q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ を考えれば、これが商写像であるための条件は命題 7.13によって与えられる。ところで、$q$ が商写像であるということは、定義により $q$ が誘導する写像 $\bar{q}\colon A/\mathord{\sim}_q\to p(A)$ が同相写像であるということであるが、このとき定義から $\sim_q$ は $\sim_A$ と一致し、$\bar{q}$ は $\varphi$ と一致する。つまり $q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ が商写像であることは、上の自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ が同相写像であることと同値である。

そこで、いま考察した場合について命題 7.13を述べれば以下のようになる。

命題 7.16 (部分空間と商空間との交換)

$\sim$ を位相空間 $X$ 上の同値関係とし、$\sim$ を $X$ の部分集合 $A$ に制限したものを $\sim_A$ とする。$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。注意 7.15における自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ は、次の各場合に同相写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、$A$ が $X$ の閉集合である場合。$\square$

$\varphi$ の定義域 $A/\mathord{\sim}_A$ は、$X$ の部分空間 $A$ の商空間であり、終域 $p(A)$ は、$X$ の商空間 $X/\mathord{\sim}$ の部分空間である。$\varphi$ が同相写像であるということは、この二つが同一視できるということである。したがって、上の命題は、部分空間と商空間とが交換可能となるための十分条件を述べていると解釈できる。


次に読む

関連項目