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定義

定義1

群(ぐん、group)とは、集合 $G$ と $G$ の上で閉じた二項演算 $\times$、$G$ の要素 $1$ の三つ組 $\langle G, \times, 1\rangle$ で、次の公理を満たすものをいう。

$ \forall a,b,c \in G, (a \times b) \times c = a \times (b \times c) $

$ \forall a \in G, a \times 1 = 1 \times a = a $

$ \forall a \in G, \exists b \in G, a \times b = b \times a = 1 $

補足

上の定義に関連して、一般に集合 $G$ とその上の二項演算 $\times$ が与えられているとき、(G2)の条件を満たす元 $1 \in G$ のことを単位元と呼び、(G3)の条件を満たす元 $b \in G$ のことを $a$ の逆元と呼ぶ。~ 正整数 $n$ に対し、$G$ の元 $g$の $n$ 乗を $$g^n = g \times g \times \cdots \times g$$ ( $g$ を $n$ 回掛ける)と定める(結合律によりこれは元を掛ける順番によらない)。また、$$g^0 = 1$$ とし、負の整数 $-n$ ( $n$ は正整数) に対しては、$g$ の逆元を$g^{-1}$ と書いて $$g^{-n} = (g^{-1})^n$$ と定める。~ このとき、実数のべき乗に関する指数法則と同様に、整数 $m, n$ に対し $g^{m + n} = g^m \times g^n, g^{mn} = (g^m)^n $が成り立つ。~ 通常、二項演算 $\times$ と単位元 $1$ の内容が明らかなとき、群 $\langle G, \times, 1\rangle$ のことを単に群 $G$ と呼ぶことがある。特に構造としての群のその台集合を誤解を招かない範囲で同一の記号で表す。~ 一般に群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の単位元は $1$ に限られる(証明)ので、群を二つ組 $\langle G, \times \rangle$ として定義しても混乱が生じる恐れはない。この場合の定義は以下の通り。

とは、集合 $G$ と $G$ の上で閉じた二項演算 $\times$ のニつ組 $\langle G, \times \rangle$ で、次の公理を満たすものをいう。
  • (G1)(結合律)

$ \forall a,b,c \in G, (a \times b) \times c = a \times (b \times c) $

  • (G2)'(単位元の存在)

$ \exists 1 \in G, \forall a \in G, a \times 1 = 1 \times a = a $ 以下 $1$ を(G2)'から存在が分かる単位元とする ((公理(G2)'において、$1$ という記号は $G$ の元を表す変数なので、(G3)における $1$ は(記号上は同じでも)論理的に同じ元を表すとは限らない。そこで「 $1$ を(G2)'から存在が分かる単位元とする」という文言が必要になる。))

  • (G3)(逆元の存在)

$ \forall a \in G, \exists b \in G, a \times b = b \times a = 1 $ <また、群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の各元に対してその逆元は一意に定まるので、逆元演算子 ${}^{-1}$ を用いた四つ組 $\langle G, \times, {}^{-1}, 1\rangle$ で定義することもある。具体的には以下の通り。((この場合、等式の全称閉包のみで公理化可能なので、普遍代数学ではこの定義が用いられる。))

とは、集合 $G$ と $G$ の上で閉じた二項演算 $\times$、単項演算 ${}^{-1}$、$G$ の要素 $1$ の四つ組 $\langle G, \times, {}^{-1}, 1\rangle$ で、次の公理を満たすものをいう。 ~
  • (G1)(結合律)

$ \forall a,b,c \in G, (a \times b) \times c = a \times (b \times c) $

  • (G2)(単位元の存在)

$ \forall a \in G, a \times 1 = 1 \times a = a $

  • (G3)'(逆元の存在)

$ \forall a \in G, a \times a^{-1} = a^{-1} \times a = 1 $ <またMcCune 1993では群 $ \langle G, \times , {}^{-1}\rangle $ を一つの等式で公理化できることを示している、以下に一例を表す。

  • (G) $ (w\times ( (x^{-1}\times w)^{-1}\times z) )\times ((y\times z)^{-1}\times y)=x $

定義2

圏 $\mathscr{C}$ が群であるとは、$\mathop{\mathrm{Ob}}(\mathscr{C})$ が一元集合であり、任意の射 $f\in\mathop{\mathrm{Mor}}(\mathscr{C})$ が可逆であることである。

具体例

  • 自明群 $\{1\}$ 。簡略化のために $1$ と書くこともある。
  • 整数 $\mathbb{Z}$、有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$、四元数 $\mathbb{H}$ は、それぞれ $0$ を単位元として加法について群である。
  • 有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$、四元数 $\mathbb{H}$ からそれぞれ $0$ を除いた集合は、それぞれ $1$ を単位元として乗法について群である。
  • 有限集合 $\{1, 2, \ldots, n\}$ の置換の全体 $S_n$ は、恒等置換を単位元とし、置換の合成について群である。(対称群
  • 有限集合 $\{1, 2, \ldots, n\}$ の偶置換の全体 $A_n$ は、恒等置換を単位元とし、置換の合成について群である。(交代群
  • n次実正則行列の全体 $\mathop{\mathrm{GL}_n}(\mathbb{R})$ は、単位行列を単位元とし、行列の乗法について群である。(一般線形群
  • 有限群の分類(位数1~100)

群の定義そのものに関する基本的性質

命題1(単位元の唯一性)

群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の単位元は $1$ に限られる。 すなわち、$e \in G$ が

$ \forall a \in G, a \times e = e \times a = a $

<を満たすならば、$e=1$ 。

Proof.

$e$について仮定した条件式において $a = 1$ として、$1 \times e = e \times 1 = 1$ 。 一方、群の公理(G2)で $a = e$ として、$e \times 1 = 1\times e = e$ 。 よって、$e = 1$ 。

より一般的な状況での証明については、「単位元」を参照。

命題2(逆元の唯一性)

群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の各元 $a$ に対して、その逆元は一意に定まる。

Proof.

元 $b, b' \in G$ が、どちらも群の公理(G3)の条件式を満たすとする: $a \times b = b \times a = 1, a \times b' = b' \times a = 1$ 。 このとき、$$b = b \times 1 = b \times (a \times b') = (b \times a) \times b' = 1 \times b' = b'$$ となるので、結局 $b$ と $b'$ は等しい。

命題3(吸収元)

吸収元を持つ群は、自明群に限られる。

Proof.

$\langle G, \times, 1\rangle$ を群とし、$0 \in G$ を吸収元とする。このとき、$0$ の逆元 $0^{-1} \in G$ が存在して、

$0 \times 0^{-1} = 1$

一方、$0$ は吸収元だから、

$0 \times 0^{-1} = 0$

よって、$0=1$ なので、$G=\{1\}$ が得られた。

命題4(逆演算可能性)

$\langle M, \times \rangle$ を結合的マグマとする。このとき、以下は同値。

  1. $1 \in M$ が存在して $\langle M, \times, 1 \rangle$ は群。
  2. 任意の $a,b \in M$ に対して
$a \times x = b$

$y \times a = b$ <を満たす $x,y \in M$ が一意に定まる。(逆演算可能)


群の位数、群の元の位数

群の位数

群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の台集合 $G$ の元の個数を、その群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の位数(いすう、order)といい、$|G|$ または $\#G$ で表す。$G$ が無限集合であるときは「元の個数」という概念が言葉通りには適用できないので、$G$ の[[濃度>集合の濃度]]をその群の位数と定める。

群の元の位数

群 $\langle G, \times, 1\rangle$ と $G$ の元 $g$ が与えられているとする。$g$ のべき乗 $g^n$ について、以下の2つのうちどちらか1つが成り立つ。

  1. ある正整数 $n$ が存在して、$g^n = 1$ となる。
  2. 任意の正整数 $n$ に対して、$g^n \neq 1$ である。

1番目の条件が成り立つとき、$g^n = 1$ となる最小の正整数 $n$ が存在する。その最小の正整数を、$g$ の位数という。このとき $g$ は有限位数であるともいう。 2番目の条件が成り立つときは、$g$ は無限位数であるという。このとき $g$ の位数を便宜的に $\infty$と書くことがある。

命題5(元の位数の基本的な性質)

群 $G$ とその元 $g$ が与えられていて、$g$ は有限位数であるとし、その位数を $l$ とする。このとき、整数 $m, n$ に対し以下は同値である。

  1. $g^m = g^n$。
  2. $m - n$ は $l$ で割り切れる。

特に、$g^n = 1$ であることと $n$ が $l$ で割り切れることは同値であり、また $1 = g^0, g^1, \ldots , g^{l - 1}$ はどの2つも相異なり、 さらに $n$ を $l$ で割った余りを $r$ としたとき $g^n = g^r$ となる。

群の位数、群の元の位数の例

群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ ( $n$ は正整数)の位数は $n$ である。 群 $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ について、元 $\overline{0},\overline{1},\overline{2},\overline{3}$ の位数はそれぞれ $1,4,2,4$ である。 群 $\mathbb{Z}$ について、元 $0$ の位数は $1$ であり、その他の元は全て無限位数である。

部分群

部分群

与えられた群 $G$ の部分群(ぶぶんぐん、subgroup)とは、$G$ の部分集合 $H$ で、もとの群 $G$ と同じ演算によって群の構造を持つもののことである。より正確には、以下のように定義する。

部分群の定義

群 $\langle G, \times, 1\rangle$ と、$G$ の部分集合 $H$ が与えられているとする。さらに、$H$ は $G$ の単位元 $1$ を含み、$G$ の積演算 $\times$ は $H$ 上で閉じているとする。このとき、群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の台集合と演算を $H$ 上に制限すると、組 $\langle H, \times|_{H\times H}, 1\rangle$ ができる。これが再び群の公理を満たすとき、組 $\langle H, \times|_{H\times H}, 1\rangle$ は群 $\langle G, \times, 1\rangle$ の部分群であるという。もちろん、このとき $\langle H, \times|_{H\times H}, 1\rangle$ はまた群である。

定義の補足

  • 積演算の内容が明らかなときは単に、$H$ は群 $G$ の部分群である、という。
  • $H$ が群 $G$ の部分群であることを、$H \le G$ と書くことがある。この記号は数に対する不等式(例えば $1 \le 2$ )と重複しているが、数と群に同じ記号を用いることは( $1$ を除いて)ないので、文脈によって判断できる。

命題6(部分群となるための条件)

$G$ を群、$H$ を $G$ の部分集合とするとき、$H$ に関する以下の条件は全て同値である。

  1. $H$ は上の定義の条件を満たし、$G$ の部分群を成す。
  2. 以下の3条件が成立する。
    1. $H$ は $G$ の単位元 $1$ を含む。
    2. $H$ は積について閉じている、つまり任意の $H$ の元 $x$、$y$ に対し $xy\in H$ が成り立つ。
    3. $H$ は逆元について閉じている、つまり任意の $H$ の元 $x$ に対し $x^{-1}\in H$ が成り立つ。
  3. 上の3条件のうち、1番目を以下の条件に置き換えたものが成立する。
    1. $H$ は空集合ではない。
  4. $H$ は空集合ではなく、また任意の $H$ の元 $x$、$y$ に対し $x^{-1}y\in H$ が成り立つ。
Proof.

(1 $\Rightarrow $ 2) (i)、(ii)は、それぞれ「 $H$ は $G$ の単位元 $1$ を含み」、「 $G$ の積演算 $\times$ は $H$ 上で閉じている」という仮定から明らか。 (iii) $H$ の任意の元 $x$ をとる。今 $\langle H, \times|_{H\times H}, 1\rangle$ が群であることから、ある $H$の元 $y$ が存在して $xy = yx = 1$ が成り立つ。等式 $xy = 1$ の両辺に左から $x^{-1} (\in G)$ を掛ければ等式 $1y = x^{-1}$ を得て、結局 $y = x^{-1}$ となる。つまり、$x$ の $H$ における逆元は $G$ における逆元 $x^{-1}$ であることがわかり、同時に $x^{-1} \in H$ となることがわかる。

部分群による剰余類

群 $G$ とその部分群 $H$ に対し、「 $H$ の元を右から掛けて移り合う元を同一視する」という同値関係が考えられる。この同値関係による商は左剰余類と呼ばれる。この商集合には自然に $G$ が作用し(群の作用については後述)、そのため群の作用の典型的な例ができる。

剰余類の定義

群 $G$ とその部分群 $H$ に対し、集合 $G$ の上の同値関係 $\sim$ を $$g \sim g' \Leftrightarrow \exists h \in H \ g' = gh$$ で定める。この同値関係による商集合を $G/H$ と書き、「この $G/H$ の元(つまり1つ1つの同値類)」を(左)剰余類という。

正規部分群

与えられた群 $G$ の正規部分群(せいきぶぶんぐん、normal subgroup)とは、部分群であってさらに $G$ の構造によるある演算で不変なもののことである。具体的な定義は以下で述べる。

共役

$G$ を群、$g$ を $G$ の元とする。 $G$ の元 $h$ に対して、$h$ の $g$ による共役(きょうやく、conjugation)を、$ghg^{-1}$ で定める。 同様に、$G$ の部分集合 $S$ に対して、$S$ の $g$ による共役集合を、$gSg^{-1} := \{ gsg^{-1} \mid s\in S\}$ で定める。 $G$ の2つの元 $h$、$k$ が、ある $g$ によって $k = ghg^{-1}$ という関係にあるとき、$h$ と $k$ は共役である(conjugate)という。この関係を成り立たせる $g$ を指定して、$g$ により共役であるともいう。同様に、$G$ の部分集合 $S$ と $T$ がある $g$ について $T = gSg^{-1}$ となるとき、$S$ と $T$ は( $g$ により)共役であるという。

正規部分群の定義

群 $G$ と、その部分群 $H$ が与えられているとする。 $H$ が $G$ の正規部分群であるとは、 $G$ の任意の元 $g$ に対して $$gHg^{-1}\subset H$$ となることをいう。

命題7(正規部分群となるための条件)

$G$ を群、$H$ を $G$ の部分群とするとき、$H$ に関する以下の条件は全て同値である。

  1. 任意の $g\in G$ に対し $gHg^{-1}\subset H$ となる。
  2. 任意の $g\in G$ に対し $gHg^{-1} = H$ となる。
  3. 任意の $g\in G$ に対し $gH = Hg$ となる。
  4. $G$ の任意の2つの左剰余類 $xH$、$yH$ に対し、$xH$、$yH$ のそれぞれの代表元 $x'$、$y'$ について、積 $x'y'$ の左剰余類 $x'y'H$ は $x'$、$y'$ の取り方によらない。
  5. $G$ の任意の2つの右剰余類 $Hx$、$Hy$ に対し、 $Hx$、$Hy$ のそれぞれの代表元 $x'$、$y'$ について、積 $x'y'$ の右剰余類 $Hx'y'$ は $x'$、$y'$ の取り方によらない。

群準同型

群準同型

(群)準同型(ぐんじゅんどうけい、group homomorphism、homomorphism of group)とは、2つの群 $G,H$ の間の写像 $f\colon G \to H$ で、群の演算、すなわち積を「保つ」ようなものである。より正確には、以下のように定義する。

群準同型の定義

$G,H$ を群とする。写像 $f\colon G \to H$ が(群)準同型であるとは、任意の $g,g'\in G$ に対し $$f(g\cdot g') = f(g)\cdot f(g')$$ となることをいう。

補足

定義の条件式において、左辺の $\cdot$ は $G$ における積であり、右辺の $\cdot$ は $H$ における積である。( $G$ での)積を $f$ でまるごと $H$ に送ったものが再び( $H$ での)積に分解されている様子を、「積を保つ」と表しているわけである。

命題8 (群準同型が保つもの)

$G,H$を群、$f \colon G \to H$ を群準同型写像とする。 (1) $f$ は単位元を保つ、つまり $f(1)=1$ が成り立つ。 (2) $f$ は逆元を保つ、つまり任意の $g\in G$ に対し $f(g^{-1})=f(g)^{-1}$が成り立つ。

群同型

$G,H$ を群とする。写像 $f \colon G \to H$ が(群)同型 (ぐんどうけい、group isomorphism、isomorphism of group)であるとは、$f$ が全単射であり、$f$ とその逆写像 $f^{-1}$ が共に群準同型であることをいう。群同型 $f$ が存在するとき、$G$ と $H$ は同型(どうけい、isomorphic)であるという。

補足

  • 2つの群 $G,H$ の間に同型写像 $f \colon G \to H$ があるとき、積の計算や元の一致不一致、部分群の個数などの「群に関係する事柄」が $G$ と $H$ で完全に対応する。そこで、逆に群同型が存在するような群 $G,H$ について完全に対応する性質など(のうちで群を考えることにより初めて現れるもの)を群論的性質などと呼ぶことがある。
  • さらに、群論を考える上ではこのような $G,H$ は全く同一の振る舞いをするので、しばしばこの2つを同一視したような言葉使いをすることがある。しかし、群同型がある2つの群をいつでも同一視すると、文脈によってはよくないことがある。例えば、対称群 $S_4$ の部分群 $\langle (1 2) \rangle$ と $\langle (3 4) \rangle$ は(どちらも位数2の巡回群だから)同型であるが、共通部分をとれば $1$ となる(「 $S_4$ の部分群であって位数2の巡回群であるもの2つの共通部分」という情報だけからその共通部分が確定しないことを強調しておく)。この点でこの2つの群は「 $S_4$ の部分群としては」区別されるべきものである。

群同士の演算

与えられた群(たち)から、新たな群を作る一般的な方法がある。ここでは、そのうち基本的なものを紹介する。

直積群

与えられた群 $G, H$ に対し、台集合を直積集合 $G \times H$ とする直積群が作られる。この直積群では、$G$ と $H$ (それぞれ $G \times H$ の部分群とみなす)の元は可換となる。

直積群の定義

$G, H$ を群とする。直積集合 $G \times H$ の上の二項演算 $\cdot$ を、以下で定める。$$(g,h) \cdot (g',h') := (gg',hh')$$ このとき、$\langle G \times H, \cdot \rangle$ は単位元が $(1,1)$ 、$(g,h)$ の逆元が $(g^{-1},h^{-1})$ であるような群となる。この群を、$G$ と $H$ の直積群といい、やはり $G \times H$ と書く。

自己同型群

群 $G$ に対し、$G$ から自分自身への同型 $f \colon G \to G$ を $G$ の自己同型(じこどうけい、automorphism)という。$G$ の自己同型全体の集合を $\text{Aut} G$と書くと、これは写像の合成 $\circ$ に関して群を成す(単位元が恒等写像 $\text{id}_G$、$f \in \text{Aut} G$ の逆元が $f^{-1}$ ( $f$ の逆写像)であるような群)。この群 $\text{Aut} G$ を、$G$ の自己同型群という。

群の圏

群の作用

群の作用の定義

群 $G$ と集合 $X$ に対して、写像 $G \times X \to X$ ( $(g, x)\in G \times X$ の像を $g\cdot x$ と書くことにする)が以下の2条件を満たすとき、この写像を群 $G$ の $X$ への左作用であるという。

  • 任意の $g, h \in G$ 、$x \in X$ に対し $g\cdot (h\cdot x) = (gh)\cdot x$
  • 任意の $x\in X$ に対し $1\cdot x = x$

群の左作用 $G \times X \to X$ は以下の群準同型を定める。 \[G \to \text{Sym}(X)\] \[g\mapsto (x\mapsto g\cdot x)\] (ただし $\text{Sym}(X) = \text{Sym}_{\text{left}}(X)$ は $X$ から $X$ 自身への全単射全体の集合で、$\sigma, \tau\in \text{Sym}(X)$ の積を $(\sigma\tau)(x) \ \colon = \sigma(\tau(x)) (x\in X)$ で定めてできる群である。)

逆に、群準同型 $\rho \ \colon G \to \text{Sym}(X)$が与えられたとき、写像 $G \times X \to X; (g, x)\mapsto \rho(g)(x)$ は上の2条件を満たす。したがって、2条件を満たす写像 $G \times X \to X$ と群準同型 $\rho \ \colon G \to \text{Sym}(X)$ には(自然な)1対1対応があるので、群準同型の方を作用と言うこともある。

また、写像 $X \times G \to X$ ( $(x, g)\in X \times G$ の像を $x\cdot g$ と書くことにする)が以下の2条件を満たすとき、この写像を群の $G$ の $X$ への右作用であるという。

  • 任意の $g, h\in G$ 、$x\in X$ に対し $(x\cdot g)\cdot h = x\cdot (gh)$
  • 任意の $x\in X$ に対し $x\cdot 1 = x$

左作用の場合と同様に、この写像は \[G \to \text{Sym}(X)^{\text{op}}\] \[g\mapsto (x\mapsto x\cdot g)\] (ただし $\text{Sym}(X)^{\text{op}} = \text{Sym}_{\text{right}}(X)$ は集合としては $\text{Sym}(X)$ と同じものとし、$\sigma, \tau\in \text{Sym}(X)^{\text{op}}$ の積を $(\sigma\tau)(x) \ \colon = \tau(\sigma(x)) (x\in X)$ で定めてできる群である。) と1対1対応する。

以下左作用のみを用いることにし、左作用を単に作用と言うことにする。 作用 $G \times X \to X$ を $G \curvearrowright X$ と書く。

  • 群 $G$ とその部分群 $H$ に対し、$G$ の元を $G/H$ の元に左からかける写像

\[G \times G/H \to G/H\] \[(g, g'H)\mapsto gg'H\] は作用である。この作用は置換作用と呼ばれる。

  • 群 $G$ とその正規部分群 $N$ に対し、$N$ の元を $G$ の元による共役に移す写像

\[G \times N \to N\] \[(g, n)\mapsto gng^{-1}\] は作用である。この作用は共役作用と呼ばれる。

命題(Cayley)

$G$ を位数 $n$ の有限群とする。このとき、$G$ から $n$ 次対称群 $S_n$ への単射群準同型 $G\to S_n$ が存在する。

Proof.

$G$ の $G$ 自身への作用を左からの積 $g\cdot h \ \colon = gh$ で定めると、これに対応する群準同型 $G \to \text{Sym}(G) \ ; g\mapsto (h \mapsto gh)$ は単射である。(∵ $g$ の像が $\text{id}_G$ なら $1$ の像が $1$ 、すなわち $g1 = 1$ 。よって $g = 1$ 。)

$G$ の元に番号を付けて $G = \{g_1, \ldots, g_n\}$ とすれば、これは単射群準同型 $G \to S_n \ ; g\mapsto (i \mapsto (j\text{であって}gg_i = g_j\text{を満たすもの}))$ を定める。$\square$

定義

作用 $G \curvearrowright X$ を考える。

  • $X$ の元 $x$ の軌道

\[\mathcal{O}(x) = \text{Orb}_G(x) = \text{Orb}(x) = G\cdot x \ \colon = \{g\cdot x \mid g\in G\} = \{y\in X\mid \exists g\in G \quad y = g\cdot x\}\] で定める。

  • 作用が可移(推移的)であるとは、$X$ が少なくとも $1$ 個の元をもち、かつ任意の $x,y\in X$ に対しある $g\in G$ が存在して $y = g\cdot x$ となることをいう。軌道の言葉を使って簡潔に書けば、$X \neq \emptyset$ かつ $\forall x\in X \quad X = \text{Orb}(x)$ となる。$X \neq \emptyset$ かつ $\exists x\in X \quad X = \text{Orb}(x)$ とも同値である。
  • $X$ 上の関係 $\sim$ を $x\sim y \ \colon \Leftrightarrow \text{Orb}(x) = \text{Orb}(y)$ で定めると、これは同値関係となる。そこで、この同値関係による $X$ の分割

\[X = \bigsqcup_{O\in X/\sim} O\] をこの作用による $X$ の軌道分解という。

  • $X$ の元 $x$ の安定化群

\[\text{Stab}_G(x) = \text{Stab}(x) = G_x \ \colon = \{g\in G \mid g\cdot x = x\}\] で定める。

定理(Orbit-Stabilizer theorem)

作用 $G \curvearrowright X$ と $x\in X$ に対し、全単射 \[G/\text{Stab}(x)\to \text{Orb}(x)\] \[g \ \text{Stab}(x)\mapsto g\cdot x\] がある。

Proof.

まず、上の写像がwell-definedであることを示す。$g, g'\in G$ に対し $g \ \text{Stab}(x) = g' \ \text{Stab}(x)\Leftrightarrow g'^{-1}g\in\text{Stab}(x) \Leftrightarrow g'^{-1}g\cdot x = x \Leftrightarrow g\cdot x = g'\cdot x$ だから、well-definedである。そして、この写像が全単射であることを示す。上の同値を逆にたどることで単射であることがわかる。また、任意の $y\in \text{Orb}(x)$ に対し、軌道の定義により $g\in G$ で $y = g\cdot x$ なるものをとれば $g \ \text{Stab}(x)\mapsto g\cdot x = y$ となるから、全射であることがわかる。$\square$

特殊な群のクラス

関連する概念

より強い概念

より弱い概念

参考文献

W.W. McCune. Single axioms for groups and Abelian groups with various operations.:https://doi.org/10.1007/BF00881862 Journal of Automated Reasoning 10.1 1993: 1-13.

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