素数全体の集合 $\PP$ は $0, 1$ を含まないので加法的基ではないが、$0, 1$ を加えると加法的基となる。
具体的には、
Brunの篩
の応用として、次の事実が示される。
$\PP^\prime$ を $0, 1$ および素数からなる集合とすると、$\sigma(\PP^\prime + \PP^\prime)>0.$
このことから、$\PP^\prime$ は $\N_{\geq 0}$ の基であることがわかる。
まず、Brunの篩を用いて次の補題を示す。
$r(n)$ を、整数 $n$ を$2$つの素数の和 $p+q$ の形にあらわす方法の個数とすると、$x\geq 4$ のとき
$$\sum_{n\leq x}r(n) \gg \frac{x^2}{\log^2 x}$$
かつ
$$\sum_{n\leq x}r^2 (n) \ll \frac{x^3}{\log^4 x}.$$
ただし $n=p+q$ とあらわすうえで、$p=q$ でもよく、また $p, q$ を入れ替えたものは別の表現として数える。また、$\gg, \ll$ は
Vinogradov記号
である。
$\sum_{n\leq x}r(n)$ は $p+q\leq x$ となる素数の組 $(p, q)$ の総数と一致するが、$p, q$ が $x/2$ 以下の素数ならば $p+q\leq x$ となるので、$x\geq 4$ のとき
$$\sum_{n\leq x}r(n) \geq (\pi(x/2))^2\gg\frac{(x/2)^2}{\log^2(x/2)}\gg\frac{x^2}{\log^2 x}$$
となるのでひとつ目の不等式が示される。
一方、
「篩法」Brunの篩(応用)の定理3
より、$n$ が偶数のとき
$$r(n)\ll \frac{f(n)n}{\log^2 n}\leq \frac{n}{\log^2 n}\sum_{d\mid n}\frac{1}{d}$$
となる。ただし、
$$f(n)=\prod_{p\mid n}\left(1+\frac{1}{p}\right)$$
である。また、$n$ が奇数の場合、 $n=p+q$ ならば $p, q$ の一方が $2$ でなければならないから $n$ が奇数ならば $r(n)\leq 2$ となるので、結局上記の不等式はすべての正の整数について成り立つ。
よって
$$\begin{split}
\sum_{n\leq x} r^2(n) & \ll \sum_{n\leq x}\frac{n}{\log^2 n}\left(\sum_{d\mid n}\frac{1}{d}\right)^2 \\
& \leq \frac{x^2}{\log^4 x}\sum_{n\leq x} \sum_{d_1, d_2\mid n}\frac{1}{d_1 d_2} \\
& =\frac{x^2}{\log^4 x}\sum_{d_1, d_2\leq x} \frac{1}{d_1 d_2} \#\{n\leq x: (d_1\mid n)\land(d_2\mid n)\} \\
& \leq \frac{x^2}{\log^4 x}\sum_{d_1, d_2\leq x} \frac{x}{d_1 d_2\mathrm{LCM}[d_1, d_2]}
\end{split}$$
となるが、
$$\mathrm{LCM}[d_1, d_2]\geq \max\{d_1, d_2\}\geq (d_1 d_2)^{1/2}$$
より
$$\begin{split}
\sum_{n\leq x} r^2(n) & \leq \frac{x^3}{\log^4 x}\sum_{d_1, d_2\leq x} \frac{1}{(d_1 d_2)^{3/2}} \\
& =\frac{x^3}{\log^4 x}\left(\sum_{d\leq x}\frac{1}{d^{3/2}}\right)^2 \\
& <\frac{\zeta^2(3/2)x^3}{\log^4 x}
\end{split}$$
となるので
$$\sum_{n\leq x}r^2 (n) \ll \frac{x^3}{\log^4 x}$$
が示された。
これを用いて、
定理1
はすぐに証明できる。
実際、$A=\PP^\prime + \PP^\prime$ とおくと、Cauchy-Schwarzの不等式から
$$\left(\sum_{n\leq x}r(n)\right)^2\leq A(x)\sum_{n\leq x}r^2(n)$$
となる。よって、
先の補題
から、$x\geq 4$ のとき
$$\frac{x^4}{\log^4 x}\ll A(x)\frac{x^3}{\log^4 x}$$
つまり
$$A(x)\gg x$$
となる。$A$ は $0, 1$ を含むので、$\sigma A>0$ となる。
このことから、Goldbach予想の部分的解決として、つぎのSchnirelmannの定理が示される。
十分大きなすべての整数は $C$ 個以下の素数の和であらわされる。
Schnirelmanの定理
あるいは
Mannの定理
より $\PP$ は $\N_{\geq 0}$ の基であるから、その位数を $k$ とおくと
$$n-2=s+\sum_{i=1}^t p_i$$
かつ
$s+t\leq k$
となる整数 $s, t$ および素数 $p_1, p_2, \ldots, p_t$ が存在する。
よって
$$n=s+2+\sum_{i=1}^t p_i$$
となる。$s=2m$ が偶数の場合
$$n=2(m+1)+\sum_{i=1}^t p_i$$
となるので、$n$ は $m+t+1\leq t+(s+1)/2$ 個の素数の和であらわされる。
$s=2m+1$ が奇数の場合
$$n=2m+3+\sum_{i=1}^t p_i$$
となるので、やはり $n$ は $m+t+1\leq t+(s+1)/2$ 個の素数の和であらわされる。