同じ多項式を係数列でも値の組でも記録できる。どちらが「本当の座標」なのだろうか。
このページでできるようになること
基底を選んで抽象的な対象を一意な数列へ圧縮し、基底による座標の違いを計算できるようになる。
すべてを表せるだけでは係数が一意とは限らず、独立なだけではすべてを表せるとは限りません。二つを同時に満たす基底が、抽象的なベクトルを数の列へ翻訳します。
$V$ を生成する線形独立なベクトル列 $B=(v_1,\ldots,v_n)$ を $V$ の基底という。
生成性で表示の存在を、独立性で表示の一意性を示す。
$B=(v_1,\ldots,v_n)$ が基底なら、任意の $v\in V$ に対して
$$
v=a_1v_1+\cdots+a_nv_n
$$
となる係数はただ一組存在する。
基底は $V$ を生成するので係数は少なくとも一組存在する。二組の表示があるなら、差を取って
$$
(a_1-b_1)v_1+\cdots+(a_n-b_n)v_n=0.
$$
基底は独立なので各 $a_i-b_i=0$、すなわち $a_i=b_i$。よって一意である。
係数列を
$$
[v]_B=\begin{pmatrix}a_1\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}
$$
と書き、$B$ に関する座標と呼びます。
$V=\mathbb{R}[t]_{\le2}$ の標準基底 $B=(1,t,t^2)$ に関して
$$
p(t)=2-3t+5t^2
$$
の座標は $(2,-3,5)^{\mathsf T}$ です。
別の基底 $C=(1,1+t,(1+t)^2)$ を使い
$$
p=\alpha+\beta(1+t)+\gamma(1+2t+t^2)
$$
と置きます。係数比較により
$$
\gamma=5,
\qquad \beta+2\gamma=-3,
\qquad \alpha+\beta+\gamma=2.
$$
したがって $\gamma=5,\beta=-13,\alpha=10$ で
$$
[p]_C=\begin{pmatrix}10\\-13\\5\end{pmatrix}.
$$
同じベクトルでも座標は基底に依存します。
生成性で表示の存在を、独立性で表示の一意性を示す。
$$
\Phi_B\colon V\to K^n,
\qquad v\mapsto[v]_B
$$
は加法とスカラー倍を保ち、全単射である。
$[u]_B=(a_i)$、$[v]_B=(b_i)$ なら
$$
cu+dv=\sum_i(ca_i+db_i)v_i
$$
で、座標の一意性から $[cu+dv]_B=c[u]_B+d[v]_B$。任意の列 $(a_i)$ は $\sum_i a_iv_i$ の座標なので全射。座標が同じなら一意性からベクトルも同じなので単射である。
基底は順序付きの列として扱う。$(v_1,v_2)$ と $(v_2,v_1)$ は同じベクトルを含むが、座標の成分順が入れ替わる。
$B=((1,1),(1,-1))$ に関する $(4,2)$ の座標を求めよ。
$a(1,1)+b(1,-1)=(a+b,a-b)=(4,2)$。二式を足して $2a=6$ だから $a=3$、差から $2b=2$ だから $b=1$。よって座標は $(3,1)^{\mathsf T}$。
基底によって座標は得られましたが、基底の本数が選び方で変わらないことはまだ証明していません。次に交換定理を使って示します。
座標は対象そのものではなく記録方式だと分かった。便利な基底を選ぶ発想が対角化やSVDへ続く。
次へ持ち越す問い
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