代数的集合とイデアルの根基
の節で述べたように、$\K$ が代数閉体のときには
同節の定理2
の逆の包含関係が成り立ち、$I(V(I))=\sqrt{I}$ となるというのが、Hilbertの零点定理 (Hilbert's Nullstellensatz) である。
この節では、Hilbertの零点定理を証明する。この節での証明はFulton, 1.7節から1.10節を参考としている。証明の本質的部分は
体上有限生成環
の理論によるので、詳しくは可換環の理論の章を参照されたい。
まず、特殊な場合に相当する、次の定理を示す。
$\K$ が代数閉体とする。このとき $\K[X_1, \ldots, X_n]$ 上のイデアル $I$ について
$$V(I)=\emptyset \Longleftrightarrow I=\K[X_1, \ldots, X_n].$$
$I(V(I))=\K[X_1, \ldots, X_n]$ ならば、$1\in I(V(I))$ より、$V(I)=\emptyset$ となるので、
$I=\K[X_1, \ldots, X_n]$ となる。つまり、この定理はHilbertの零点定理の特殊な場合を与える。
$I=\K[X_1, \ldots, X_n]$ のとき、$1\in I$ より、$V(I)=\emptyset$ となる。
そこで、$I\neq \K[X_1, \ldots, X_n]$ と仮定する。
Hilbertの基底定理
より $\K[X_1, \ldots, X_n]$ はNoether環だから、Noether環の性質より $I$ を含む $\K[X_1, \ldots, X_n]$ の極大イデアル $J$ が存在する。
$\L=\K[X_1, \ldots, X_n]/J$ は $\K$ の拡大体に同型であるが、$\K$ 上環として有限生成で、一方 $\K$ は代数閉体だから
環として有限生成な体の拡大は代数拡大
であることから $\L=\K$ となる。よって、各 $i=1, \ldots, n$ について
$$X_i\equiv a_i\Mod J$$
となる $a_i\in\K$ が存在する。このとき $X_i-a_i\in J$ となるから、
$$(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)\subset J$$
となる。しかし、
代数的集合とイデアル:定理4
より $(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)$ は極大イデアルであるから、
$J=(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)$ でなければならない。
よって、$(a_1, \ldots, a_n)\in V(J)\subset V(I)$ となって、
$V(I)\neq\emptyset$ となることがわかる。
これを利用して、一般的な零点定理を示す。
$\K$ が代数閉体ならば、$\K[X_1, \ldots, X_n]$ 上のイデアル $I$ について、$I(V(I))=\sqrt{I}.$
$\sqrt{I}\subset I(V(I))$ は 代数的集合とイデアルの根基 で既に示しているので、$I(V(I))\subset\sqrt{I}$ を示す。
$I=(F_1, \ldots, F_r), F_i\in\K[X_1, \ldots, X_n]$ とおき、多項式 $G\in \K[X_1, \ldots, X_n]$ が $I(V(F_1, \ldots, F_r))$ に属するとする。
$$J=(F_1, \ldots, F_r, X_{n+1}G-1)$$
とおくと、これは $\K[X_1, \ldots, X_{n+1}]$ のイデアルである。
どの $i$ についても $F_i(a_1, \ldots, a_n)=0$ となるとき、$X_{n+1}G-1=-1\neq 0$ となる。よって、$V(J)=\emptyset$ となるから、
定理1
より $1\in J$ となる。
$$1=\sum_{i=1}^r A_i(X_1, \ldots, X_{n+1}) F_i+B(X_1, \ldots, X_{n+1})(X_{n+1}G-1)$$
となる $A_1, \ldots, A_r, B\in\K[X_1, \ldots, X_{n+1}]$ がとれる。
$Y=1/X_{n+1}$ とおくと、
$$1=Y^{-N}\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, Y) F_i+D(X_1, \ldots, Y)(G-Y)$$
つまり
$$Y^N=\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, Y) F_i+D(X_1, \ldots, Y)(G-Y)$$
となる整数 $N\geq 0$ と、$C_1, \ldots, C_r, D\in\K[X_1, \ldots, X_n, Y]$ がとれる。たとえば
$$B(X_1, \ldots, X_{n+1})=\sum_{i=0}^d H_i(X_1, \ldots, X_n)X_{n+1}^i$$
に対して、
$$D(X_1, \ldots, X_n, Y)=\sum_{i=0}^d H_i(X_1, \ldots, X_n)Y_{n+1}^{d-i}$$
とおくとよい。とくに$Y=G(X_1, \ldots, X_n)$ とおくと
$$G^N=\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, X_n, G(X_1, \ldots, X_n)) F_i$$
となるので、$G^N\in (F_1, \ldots, F_r)=I$ となる。これは $G$ が $\sqrt{I}$ に属することを示している。