スキーム $X$ 上の Azumaya 代数を「有限局所自由で、各点のファイバーが中心単純な代数」と定義し、これがエタール局所に行列代数となる代数と同じであることを示す。行列代数の自己同型の層は $\mathrm{PGL}_r$ なので、階数 $r^2$ の Azumaya 代数は $\mathrm{PGL}_r$ トーサーと一対一に対応し、中心拡大 $1\to\mathbb G_m\to\mathrm{GL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$ の余境界が単射 $\mathrm{Br}(X)\hookrightarrow H^2(X,\mathbb G_m)$ を与える。Hensel 局所環の上では Azumaya 代数は閉ファイバーで決まり、$\mathrm{Br}(X)\cong\mathrm{Br}(x)$ となる。Zariski 位相では「局所的に行列代数」が成り立たないこと、非被約なスキームでは「全射で分裂する」だけでは Azumaya 代数にならないこと、単元群だけでは $A$ と $A^{\mathrm{op}}$ を区別できないことも例で示す。
$X$ をスキーム、$A$ を準連接 $\mathcal O_X$ 代数で、$\mathcal O_X$ 加群として有限表示なものとする。$\operatorname{Az}_r(X)$ は $X$ 上の階数 $r^2$ の Azumaya 代数の同型類の集合である。本頁の主結果は次の五つである。
本書『1-1 位相空間の Brauer 群』の位相空間の理論をスキームへ移すとき、「局所的に行列代数」の「局所的」を何と読むかが最初の問題になる。Zariski 位相では、体 $k$ の中心単純環 $A\ne M_r(k)$ ですら $\operatorname{Spec}k$ の上で局所的に行列代数にならない。一方本書『1-2 中心単純環と分裂体』で見たように、中心単純環は分離的な拡大で分裂する。したがって正しい局所性はエタール位相の局所性であり、そこでは Azumaya 代数が $\mathrm{PGL}_r$ トーサーとして分類され、本書『1-1 位相空間の Brauer 群』と同じ余境界の議論がエタールコホモロジーで働く(エタールコホモロジー)。
Grothendieck の講演 I が、Azumaya Azu51・Auslander–Goldman AG60 の環の理論をスキームへ移すこと自体を「本質的に自明」と評したのは、この辞書が一度立てば議論が形式的になるからである。本頁ではその辞書を、局所環上の二つの事実(Skolem–Noether の局所版と、Hensel 局所環上の分裂)から組み立てる。
点 $x\in X$ における $A$ のファイバーを $A(x)=A_x\otimes_{\mathcal O_{X,x}}\kappa(x)$ と書く。
スキーム $X$ 上の準連接 $\mathcal O_X$ 代数 $A$ で $\mathcal O_X$ 加群として有限表示なものが Azumaya 代数であるとは、$A$ が局所自由で、各点 $x$ でファイバー $A(x)$ が $\kappa(x)$ 上中心単純であることをいう(Azumaya代数)。階数 $r^2$ の Azumaya 代数の同型類の集合を $\operatorname{Az}_r(X)$ と書く。
後の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)で、この定義が「エタール局所に行列代数」「fppf 局所に行列代数」と同値であることを示す。
その同値を示し、Azumaya 代数を分類するには、行列代数の自己同型の群スキームと、それによる貼り合わせを数える言葉が要る。
$\mathrm{PGL}_r$ は $M_r$ の代数自己同型の群スキームである。射影空間 $\mathbb P(M_r)$ の中の $\det\ne0$ の開部分として $\mathbb Z$ 上アフィンで滑らかな群スキームであり、$\mathrm{GL}_r\to\mathrm{PGL}_r$ は Zariski 局所に自明な $\mathbb G_m$ トーサーである($x_{ij}\ne0$ の上で $y\mapsto y/y_{ij}$ が切断)。したがって $\mathrm{PGL}_r$ は $\mathrm{GL}_r/\mathbb G_m$ の Zariski 層としての商を表現する。
貼り合わせのデータを数える言葉は、本書『1-1 位相空間の Brauer 群』と同じくトーサーである。
群層 $G$ のトーサーとは、$G$ が単純推移的に作用し、局所的に切断をもつ層である(トーサー)。$H^1(X,G)$ はその同型類の点付き集合である。
後半の主結果(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)と局所環上の補題で使う環の条件を定める。
Hensel 局所環とは、剰余体上の単根が持ち上がる局所環である。狭義 Hensel 局所環は、さらに剰余体が分離閉なものをいう(狭義Hensel局所環)。$\mathcal O_{X,x}^{\mathrm{sh}}$ は $x$ の上の幾何的点のエタール近傍の局所環の帰納極限である。
本書『1-2 中心単純環と分裂体』の極大エタール部分代数と正則元を、スキーム上の代数の言葉に移す。これが「エタール局所に行列代数」を示す鍵になる。
階数 $r^2$ の $A$ の部分代数 $L$ で、有限エタール(可換、有限局所自由、ファイバーがエタール)で階数 $r$、包含がファイバーごとに単射なものを極大エタール部分代数という。切断 $\xi$ は、$\mathcal O_X[\xi]$ が極大エタール部分代数になるとき正則という。
本頁で引用として使う事実(証明しない。出典は主に EGA4):
$R$ を Hensel 局所環、$A$ を $R$ 上有限自由な代数で、$A\otimes k\cong M_r(k)$ とする。すると $A\cong M_r(R)$。
$A\otimes k$ の階数 $1$ の冪等元 $e_0$ をとる。$e_0$ の持ち上げ $a\in A$ は左乗法の特性多項式の根なので、$R[a]$ は $R$ 上有限な可換代数である。$R[a]\otimes k$ は Artin 可換環で、その像 $k[e_0]\cong k\times k$ への全射に沿って冪等元は持ち上がる(Artin 可換環は局所環の積)。これを (F1) で $R[a]$ の冪等元 $e$ に持ち上げると、$e$ は $A$ の冪等元で剰余は $e_0$ である。$P=Ae$ は $A$ の直和因子なので $R$ 上射影的、したがって自由で、$P\otimes k=M_r(k)e_0$ は $r$ 次元だから $P\cong R^r$。左乗法 $\lambda\colon A\to\operatorname{End}_R(P)$ は、閉ファイバーで $M_r(k)\to\operatorname{End}_k(k^r)$ の同型になる。両辺は階数 $r^2$ の自由加群なので、中山の補題で $\lambda$ は全射、階数の比較で同型。
この補題は、Hensel 局所環上の分裂を閉ファイバーの分裂に帰着させる。次に、行列代数の自己同型を局所環の上で決定する。これが Azumaya 代数と $\mathrm{PGL}_r$ トーサーの辞書を与える。
局所環 $R$ 上で $M_r(R)$ の自己同型はすべて内部であり、$\operatorname{Aut}(M_r)=\mathrm{PGL}_r$ である。したがって任意のスキーム $X$ について $\operatorname{Az}_r(X)\cong H^1(X,\mathrm{PGL}_r)$ であり、右辺はエタール位相でとっても fppf 位相でとっても同じである。
段 1(局所環上の自己同型は内部).$R$ を局所環、$u$ を $M_r(R)$ の自己同型、$e_{ij}$ を行列単位とする。$f=u(e_{11})$ は冪等元で、閉ファイバーでは $u_0$(Skolem–Noether の定理(本書『1-2 中心単純環と分裂体』)により内部 $b(\cdot)b^{-1}$)による $e_{11}$ の像だから階数 $1$。よって $fR^r$ は階数 $1$ の射影加群で、$R$ は局所だから $fR^r=Rq$ と書ける。$a\colon R^r\to R^r$ を $a(\varepsilon_i)=u(e_{i1})q$($\varepsilon_i$ は標準基底)で定めると、
$$u(e_{jl})\,a(\varepsilon_i)=u(e_{jl}e_{i1})q=\delta_{li}\,u(e_{j1})q=a(e_{jl}\varepsilon_i)$$
なので $u(m)a=am$($m\in M_r(R)$)。閉ファイバーでは $q_0=\lambda be_1$($\lambda\ne0$)と書け、$a_0(\varepsilon_i)=\lambda b\varepsilon_i$ だから $a_0$ は可逆、よって $a$ は可逆で $u(m)=ama^{-1}$。$am=ma$(全 $m$)なら $a$ はスカラーなので、$a$ は $R^\times$ 倍を除いて一意。以上から $\operatorname{Aut}(M_r(\mathcal O_X))=\mathrm{GL}_r/\mathbb G_m$ が Zariski 位相でも既に成り立ち、上の定義(群スキーム $\mathrm{PGL}_r$)によりこれが $\mathrm{PGL}_r$ である。
段 2(トーサーとの辞書).$\operatorname{Az}_r(X)\cong H^1(X,\mathrm{PGL}_r)$ は次の辞書による:$A$ に対し $\mathcal Isom(M_r,A)$ は(後の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)の (iii) により)エタール局所に切断をもつ $\mathrm{PGL}_r$ トーサーであり、逆にトーサー $T$ から $M_r$ を $T$ で捩って代数を作る。捩った対象が実際にスキーム上の代数として存在することは、アフィンな対象の降下が有効であること(F4)による。fppf 位相でも同じ辞書が成り立ち、fppf トーサーから作った代数は同じ定理の (iv) により Azumaya 代数なので、(iii) によりエタール局所に自明である。よって両者のトーサーの類は一致する。
辞書の段 2 は、Azumaya 代数がエタール局所に行列代数であること(後の定理の (iii))を先取りしている。その証明の要になるのが、点での正則元が近傍へ延びるという次の補題である。
$A$ が Azumaya 代数で、$x$ での階数が $r^2$、$\xi\in\Gamma(X,A)$ の $A(x)$ での値 $\xi_0$ が正則($\kappa(x)[\xi_0]$ が次元 $r$ のエタール代数。本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(極大エタール部分代数と分裂)の (a))なら、$x$ の近傍で $\xi$ は正則である。
$R=\mathcal O_{X,x}$ とし、$A_x$ を階数 $r^2$ の自由 $R$ 代数とする。$1,\xi_0,\dots,\xi_0^{r-1}$ は独立なので、$M=\sum_{i< r}R\xi^i$ は階数 $r$ の自由な直和因子である。要点は $\xi^r\in M$ を示すことである。
段 1(ネーター化).構造定数、$\xi$ の座標、$A\otimes A^{\mathrm{op}}\to\operatorname{End}(A)$ の逆行列の成分、$1,\dots,\xi^{r-1}$ の独立性を与える小行列式の逆元で生成される $R$ の部分環を、$\mathfrak m$ との交わりで局所化したネーター局所環 $\Lambda$ の上で示せば、底変換で $R$ の場合が従う。$\Lambda$ 上でも仮定は保たれる(剰余体上の $\xi$ の値の生成する代数は、独立性から次元 $\ge r$、次数 $r$ の中心単純環の元なので Cayley–Hamilton から次元 $\le r$、底変換がエタールなのでエタール)。
段 2(Artin 化).$R$ がネーターなら Krull の交叉定理で $\bigcap_n\mathfrak m^n(A/M)=0$ なので、各 $R/\mathfrak m^n$ 上で示せばよい。
段 3(Artin 局所環の場合).$A\otimes\kappa$ は有限分離拡大 $\kappa'=\kappa(\alpha)$ で分裂する(本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(極大エタール部分代数と分裂)の (c))。$\alpha$ の最小多項式のモニックな持ち上げ $g$ で $R'=R[t]/(g)$ とおくと、$R'$ は $R$ 上有限自由で剰余体 $\kappa'$ の局所 Artin 環であり、本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(局所 Artin 環上の持ち上げ)により $A\otimes R'\cong M_r(R')$。行列 $\xi\otimes1$ は次数 $r$ の特性多項式の根なので $\xi^r\in M\otimes R'$。$R\to R'$ は忠実平坦なので $\xi^r\in M$。
段 4(近傍への延長).$\xi^r=\sum_{i< r}a_i\xi^i$ から $P(t)=t^r-\sum a_it^i$ をとると、$R[t]/(P)\to R[\xi]=M$ は同じ階数の自由加群の全射なので同型で、$P$ の剰余は $\xi_0$ の最小多項式だから判別式は単元である。これらの等式と可逆性は $x$ の近傍へ延び、そこで $\mathcal O[\xi]\cong\mathcal O[t]/(P)$ は階数 $r$ の有限エタール部分代数になる。
この補題の証明は原論文が省いた部分なので、対応を記しておく。
原論文 I (5.8) は、上の補題(正則元の延長)の証明の各段を「通常の技法」「平坦な降下」で済ませている。上の段取りは本頁で補った。I (5.9) は、狭義 Hensel 化で分裂させて Hamilton–Cayley の多項式を降下で作る別の証明を示している。
局所環上の準備はこれで終わりである。三つの補題を使って、本頁の定義がエタール局所・fppf 局所の「行列代数」と同じものであることを示す。
$X$ をスキーム、$A$ を準連接 $\mathcal O_X$ 代数で $\mathcal O_X$ 加群として有限表示なものとする。次は同値である。
段 1((i)⇔(ii)).$A\otimes A^{\mathrm{op}}\to\mathcal End(A)$ は同じ階数の局所自由加群の射なので、同型であることは各点のファイバーで確かめればよい(中山の補題)。ファイバーでは本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(中心単純環の特徴づけ)の (ii)⇔(iii) である。(i) のファイバーは $0$ でないので階数は正である。
段 2((iii)⇒(iv)).有限エタール全射は fppf 被覆である。
段 3((iv)⇒(ii)).局所自由性(有限表示かつ平坦)と写像の同型性は忠実平坦な底変換から降りる(F4)。$M_r$ は (ii) をみたす。
段 4((i)⇒(iii):極大エタール部分代数).点 $x$ のアフィン近傍 $U=\operatorname{Spec}R$ で $A$ の階数は一定 $r^2$ としてよい。本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(極大エタール部分代数と分裂)の (a) で $A(x)$ の正則元 $\xi_0$ をとり、$U$ 上の切断 $\xi$ に持ち上げると、上の補題(正則元の延長)により $U$ を縮めて $L=\mathcal O_U[\xi]$ は極大エタール部分代数になる。$U'=\operatorname{Spec}L\to U$ は有限エタールで、階数 $r\ge1$ なので全射である。
段 5($A$ を $L$ 上の自己準同型環として表す).$A$ を右 $L$ 加群とみる。$L_x$ は $R$ 上有限なので半局所環であり、ファイバー $A(x)$ の $L(x)$ 上の基底(本書『1-2 中心単純環と分裂体』の定理(極大エタール部分代数と分裂)の (b))を持ち上げると、中山の補題により $A_x$ は右 $L_x$ 加群として階数 $r$ の自由加群になる。準同型 $v\colon A\otimes_{\mathcal O}L\to\mathcal End_L(A)$、$a\otimes l\mapsto(y\mapsto ayl)$ は階数 $r^2$ の自由 $L_x$ 加群の間の写像で、各剰余体への底変換が同じ定理の (b) により同型なので、行列式は $L_x$ の単元で、$v$ は同型である。これを近傍へ延ばすと、$U$ を縮めて $A_{U'}\cong\mathcal End_{\mathcal O_{U'}}(E')$($E'$ は $A$ を $U'$ 上の階数 $r$ の局所自由加群とみたもの)となる。
段 6($E'$ を自由にする).$x$ の上の $U'$ の点は有限個 $x'_1,\dots,x'_s$ であり、それらの外の元の積閉集合 $S$ で局所化した $L_S$ は半局所環なので、階数一定の射影加群 $E'_S$ は自由である。この自由性は、ある $h\in S$ について $D(h)\subset U'$ の上で既に成り立つ。$Z=U'\smallsetminus D(h)$ の像は、有限射が閉写像であることから $U$ の閉集合で、$x$ を含まない。$U_1=U\smallsetminus(Z\text{ の像})$ とおくと、その逆像 $U'_1$ は $D(h)$ に含まれ、$U'_1\to U_1$ は有限エタール全射で、$A_{U'_1}\cong M_r(\mathcal O_{U'_1})$ となる。
証明の段 6 の縮め方について注意しておく。
$U'$ の Zariski 開部分をとるだけでは $U'\to U$ が有限でなくなるので、上の証明の段 6 のように底 $U$ の側を縮める。
定理の (iii) の「有限エタール全射」を「単に全射」に弱めるとどうなるか。原論文はこれも同値と印字するが、正しくは次の形である。
上の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)の (iii) で $U'\to U$ を単に全射とした条件を (iii)′ とする。$A$ が局所自由なら、(iii)′ から (i) が従う。$X$ が被約なら、有限表示の $A$ について (iii)′ から (i) が従う。被約でない $X$ では、(iii)′ をみたすが Azumaya 代数でない $A$ がある。
$A$ が局所自由なら、全射 $U'\to U$ の点 $x'$ で $A(x)\otimes\kappa(x')\cong M_r(\kappa(x'))$ となるので、$A(x)$ は中心単純であり (i) が従う。$X$ が被約なら、同じ式からファイバーの次元は $r^2$ で一定であり、被約なスキーム上の有限表示加群でファイバーの次元が局所定数なものは局所自由なので、(iii)′ から (i) が従う。被約でない $X$ では、この段が成り立たない(例と反例の節の反例(原論文の (iii) bis))。
原論文の印字について二点を記す。
原論文 I (5.4) は、上の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)の証明に使う写像 $v$ を印字では $A\to\mathcal End_L(V)$ と書くが、階数が合わない。正しくは $A\otimes_{\mathcal O_X}L\to\mathcal End_L(V)$ である。原論文 I (5.1) は (i)⇒(iii) を (5.5)・(5.7) から従うとだけ述べる。
これで Azumaya 代数は $\mathrm{PGL}_r$ トーサーと同じものになった。本書『1-1 位相空間の Brauer 群』で位相空間の上に行った余境界の議論をエタール位相の層で繰り返せば、Brauer 群がコホモロジーに埋め込まれる。
中心拡大 $1\to\mathbb G_m\to\mathrm{GL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$ の余境界は単射な群準同型 $\delta\colon\mathrm{Br}(X)\hookrightarrow H^2(X,\mathbb G_m)$ を与え、階数 $r^2$ の代数の類は $r$ で消える。$X$ が準コンパクトなら $\mathrm{Br}(X)$ は捩れ群である。
本書『1-1 位相空間の Brauer 群』の定理(余境界の単射性)と同じ議論が、エタール位相の層で成り立つ。中心拡大 $1\to\mathbb G_m\to\mathrm{GL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$ はエタール層の完全列である(右端の全射性は上の定義(群スキーム $\mathrm{PGL}_r$)により Zariski 局所に既に成り立つ)。非可換コホモロジーの余境界 $\delta\colon H^1(X,\mathrm{PGL}_r)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ があり(Giraud。引用。階数が一定でない代数にも $\delta$ が定まる)、$\delta(A)=0$ は $A\cong\mathcal End(E)$($E$ は階数 $r$ の局所自由加群)と同値である。テンソル積との両立、同値類上での well-definedness、単射性は本書『1-1 位相空間の Brauer 群』の同定理の証明の (a)(b) の議論がそのまま通る。$r\delta(A)=0$ も、行列式と $r$ 乗写像による中心拡大の射(同証明の (c))で示せる。この議論は $r$ が $X$ 上可逆であることを使わない。$X$ が準コンパクトなら $A$ の階数は有限個の値しかとらないので、$\mathrm{Br}(X)$ は捩れ群である。
$\delta(A)$ が $\mu_r$ 係数の類から来るかどうかは、$r$ の可逆性に関わる。
$r$ が可逆なら、$1\to\mu_r\to\mathrm{SL}_r\to\mathrm{PGL}_r\to1$ がエタール層の完全列になり、$\delta(A)$ は $H^2(X,\mu_r)$ の元 $\delta_r(A)$ から来る。$r$ が可逆でないときは、この列は fppf 位相でのみ完全である(本書第 4 章)。
以上で、スキームの Brauer 群の基本的な枠組みが整った。次は、Hensel 局所環の上では Azumaya 代数が閉ファイバーで決まるという、局所的な計算の基礎になる定理である。証明には、補題(分裂した閉ファイバー)と、Skolem–Noether の局所版から来る同型のスキームの滑らかさを使う。
$R$ を Hensel 局所環、$k$ をその剰余体とすると、制限 $\operatorname{Az}_r(R)\to\operatorname{Az}_r(k)$ は全単射で、$\mathrm{Br}(R)\to\mathrm{Br}(k)$ は同型である。
段 1(単射性).$A,A'\in\operatorname{Az}_r(R)$ の閉ファイバーが同型とする。代数の同型のスキーム $I=\mathcal Isom_{\text{alg}}(A,A')$ は、$A,A'$ が自由なので $\mathcal Hom_R(A,A')\times\mathcal Hom_R(A',A)$ の中の方程式で定まる $R$ 上アフィンな有限表示スキームであり、$A,A'$ がともにエタール局所に $M_r$ に同型であること(上の定理(Azumaya 代数の特徴づけ))と上の定理(Skolem–Noether の局所版)により、$\mathrm{PGL}_r$ トーサーである。したがって $I$ は $R$ 上滑らかで、仮定から $I(k)\ne\emptyset$。(F2) により $I(R)\ne\emptyset$、すなわち $A\cong A'$。
段 2(全射性).$s=r^2$ とし、$\mathbb Z$ 上の $s$ 次元の代数の構造定数と単位元のうち、結合律と単位元の条件(閉条件)と、$A\otimes A^{\mathrm{op}}\to\operatorname{End}(A)$ の行列式の可逆性(開条件)をみたすもののなすアフィンスキームを $\Sigma$ とする。上の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)により、$\Sigma(T)$ は $\mathcal O_T^s$ 上の Azumaya 代数の構造の集合である。$\mathrm{GL}_s$ は $\Sigma$ に作用し、$M_r$ の構造の軌道写像 $\pi\colon\mathrm{GL}_s\to\Sigma$ は、同じ定理によりエタール層の全射で、固定化群は上の定理(Skolem–Noether の局所版)により $\mathrm{PGL}_r$ である。よって $\pi$ は $\Sigma$ 上の $\mathrm{PGL}_r$ トーサーであり、滑らかな全射である。$\mathrm{GL}_s$ は滑らかなので、(F4) により $\Sigma$ も滑らかである。$k$ 上の Azumaya 代数 $A_0$ は基底の選択で $\Sigma(k)$ の点を与え、(F2) で $\Sigma(R)$ の点に持ち上がる。
段 3($\mathrm{Br}$ の同型).$\mathrm{Br}(R)\to\mathrm{Br}(k)$ の全射性は段 2 から明らか。単射性:$[A_0]=0$ なら $A_0\cong M_r(k)$(体上では類 $0$ の中心単純環は行列環:Wedderburn の分解の一意性)で、上の補題(分裂した閉ファイバー)により $A\cong M_r(R)$。
原論文の証明との違いと、Hensel の仮定の必要性を記しておく。
原論文 I (6.1) の証明は、単射性の筋と $\Sigma$ の滑らかさだけを述べ、一般の場合を非可換 Galois コホモロジーの結果に委ねる。上の証明は同じ筋の細部を補ったものである。Hensel でない局所環では (F2) が使えず、上の定理(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)は成り立たない(例と反例の節の例(Hensel 性は必要))。
主結果はここまでである。補足として、$\mathrm{PGL}_r$ トーサーを Azumaya 代数ではなく線形群の側から見るとどうなるかを述べる。
$\mathrm{PGL}_r$ は内部自己同型によって $\mathrm{GL}_r$ に作用する。トーサー $T$ で $\mathrm{GL}_r$ を捩った群スキーム $G_T$ は $\mathrm{GL}_r$ の内部形式と呼ばれ、Azumaya 代数 $A$ に対応するものは単元群 $A^\times$($X'\mapsto\Gamma(X',A_{X'})^\times$)である。同様に既約ノルム $A^\times\to\mathbb G_m$ の核が $\mathrm{SL}_r$ の内部形式、$A^\times/\mathbb G_m=\mathcal Aut(A)$ が $\mathrm{PGL}_r$ の内部形式を与える。
ただし、群 $A^\times$ だけから $A$ を復元することはできない。
どの $r\ge1$ でも、$\mathrm{GL}_r$ の外部自己同型の群スキームは $\mathbb Z/2$ で、非自明元は転置逆 $g\mapsto{}^tg^{-1}$ である(中心 $\mathbb G_m$ に逆元をとる形で作用するので内部ではない)。$\mathrm{SL}_r$ と $\mathrm{PGL}_r$ の外部自己同型の群は、$r\ge3$ で $\mathbb Z/2$、$r\le2$ で自明であり、$r\le2$ ではこれらの群の形式はすべて内部形式である(引用:分裂簡約群の自己同型群の構造)。群 $G$ だけを見ると、$\mathrm{GL}_r$ の外部自己同型の分の情報が失われる(例と反例の節の例($A$ と $A^{\mathrm{op}}$ は同じ単元群を与える))。
極大エタール部分代数 $L$ は $A^\times$ の極大トーラス $L^\times$ に対応し、原論文 I (7.5) はこの対応を群スキームの極大トーラスの理論と並べている。II §0 は、$\mathrm{GL}_r$ の形式が Zariski 局所に自明であることと、Zariski 局所に自明な極大トーラスをもつことが同値であると補う(一般の簡約群については引用)。Azumaya 代数の場合は次のように直接示せる。
階数 $r^2$ の Azumaya 代数 $A$ が Zariski 局所に $M_r$ に同型であることと、$A$ が自明な極大エタール部分代数 $L\cong\mathcal O^r$ を局所にもつこととは同値である。
自明な極大エタール部分代数 $L\cong\mathcal O^r$ があれば、$\operatorname{Spec}L\to X$ の切断は $L$ の冪等元 $e$ で $Le\cong\mathcal O$ となるものに対応し、$Ae$ は(幾何的ファイバーで行列単位に共役なので)階数 $r$ の局所自由加群で、左乗法 $A\to\mathcal End(Ae)$ は階数の等しい Azumaya 代数の射として同型である。よって $A$ は Zariski 局所に $M_r$ に同型である。逆は対角行列の部分代数をとればよい。
以下の例と反例では、Zariski とエタールの局所性の差、原論文の (iii) bis、Hensel の仮定、単元群による区別の限界を順に見る。
$k=\mathbb R$、$A=\mathbb H$ とする。$\operatorname{Spec}\mathbb R$ は一点なので、Zariski 局所に $M_2$ ということは $\mathbb H\cong M_2(\mathbb R)$ を意味し、偽である。しかし $\mathbb H$ は上の定理(Azumaya 代数の特徴づけ)の (i)(ii) をみたし、有限エタール全射 $\operatorname{Spec}\mathbb C\to\operatorname{Spec}\mathbb R$ で分裂するので、Azumaya 代数である。「Zariski 局所に行列代数」は Azumaya 代数より真に狭い条件である(原論文 I (5.12))。
次は、命題(全射で分裂する代数)で予告した反例である。
原論文 I (5.1) は、(iii) の $U'\to U$ を「単に全射」としても同値であると印字している。被約でない $X$ ではこれは成り立たない。
$k$ を体、$X=\operatorname{Spec}k[\varepsilon]$($\varepsilon^2=0$)、$U=X$、$U'=\operatorname{Spec}k\to X$(全射な閉埋め込み)、$A=M_r(k)$($r\ge1$)に $\varepsilon$ を $0$ として作用させた $k[\varepsilon]$ 代数とする。
定理(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)の最も簡単な適用と、Hensel の仮定を外した場合を並べる。
$R$ を Hensel 局所環で剰余体が有限体 $\mathbb F_q$ のもの(たとえば $\mathbb Z_p$)とする。$\mathrm{Br}(\mathbb F_q)=0$(Wedderburn の定理)なので、上の定理(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)により $\mathrm{Br}(R)=0$ で、$R$ 上の階数 $r^2$ の Azumaya 代数はすべて $M_r(R)$ に同型である。
$R=\mathbb Z_{(p)}$($p$ で局所化した整数環。Hensel ではない)、$k=\mathbb F_p$ とする。$\mathrm{Br}(\mathbb F_p)=0$ である。一方 $\mathrm{Br}(\mathbb Z_{(p)})\to\mathrm{Br}(\mathbb Q)$ は単射であり(本書『2-1 Br′ の捩れ性と単射性』の定理(捩れ性と単射性))、$\mathrm{Br}(\mathbb Z_{(p)})\ne0$ であることが次のように分かる。$p\ne2$ として、$\mathbb Q$ 上の四元数代数 $(-1,-1)$ は $2$ と $\infty$ でのみ分岐し(引用:局所類体論による不変量の計算)、$\mathbb Z_{(p)}$ 上では $i^2=j^2=-1$、$ij=-ji$ の $\mathbb Z_{(p)}$ 代数が Azumaya 代数になる(判別式が $4$ の冪で、$p$ で可逆)。その類は $\mathrm{Br}(\mathbb Q)$ で非零なので $\mathrm{Br}(\mathbb Z_{(p)})$ でも非零。よって $\mathrm{Br}(\mathbb Z_{(p)})\to\mathrm{Br}(\mathbb F_p)=0$ は単射でなく、上の定理(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)は Hensel でない局所環では成り立たない。
残りは「線形群の内部形式」の小節に関わる。注意(外部自己同型と失われる情報)で述べた、群だけでは失われる情報を具体的に見る。
写像 $x\mapsto x^{-1}$ は群の同型 $A^\times\to(A^{\mathrm{op}})^\times$ である($(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}$ は $A^{\mathrm{op}}$ の積で $x^{-1}\cdot y^{-1}$)。一方、$A\cong A^{\mathrm{op}}$ なら $2[A]=0$ である。体の上では逆も成り立つ(同じ次元・同じ類の中心単純環は同型)が、一般のスキームの上では逆は成り立たない(次の反例)。$\mathbb Q_p$ 上の Hasse 不変量 $1/3$ の次数 $3$ の斜体 $D$(引用:局所類体論で $\mathrm{Br}(\mathbb Q_p)\cong\mathbb Q/\mathbb Z$)をとると、$D^{\mathrm{op}}$ の不変量は $-1/3$ で $D\not\cong D^{\mathrm{op}}$ だが、$D^\times\cong(D^{\mathrm{op}})^\times$。したがって $H^1(X,\mathrm{PGL}_r)\to H^1(X,\operatorname{Aut}(\mathrm{GL}_r))$ は単射ではない(原論文 I (7.4))。$X$ が連結なら、$A^\times\cong B^\times$(群スキームとして)となるのは $B\cong A$ または $B\cong A^{\mathrm{op}}$ のときに限る:$\operatorname{Aut}(\mathrm{GL}_r)=\mathrm{PGL}_r\rtimes\mathbb Z/2$ のトーサーを $\mathrm{PGL}_r$ で割ったものは自明な $\mathbb Z/2$ トーサーで、その二つの切断が $A$ と、転置で捩った $A^{\mathrm{op}}$ に対応する。
前の例で予告した反例である。
「$A\cong A^{\mathrm{op}}$ と $2[A]=0$ は同値」が、体でないスキームの上では成り立たない例である。
$k$ を体、$X=\mathbb P^1_k$、$E=\mathcal O\oplus\mathcal O(1)\oplus\mathcal O(3)$、$A=\mathcal End(E)$ とする。
最後に、Azumaya 代数を具体的に作る標準的な構成を挙げておく。
$R'/R$ を Galois 群 $G$ の有限エタール Galois 拡大、$c\in Z^2(G,R'^\times)$ を 2 コサイクルとすると、$\bigoplus_{\sigma\in G}R'u_\sigma$($u_\sigma\lambda=\sigma(\lambda)u_\sigma$、$u_\sigma u_\tau=c(\sigma,\tau)u_{\sigma\tau}$)は $R$ 上階数 $|G|^2$ の Azumaya 代数で、$R'$ で分裂する。本書『2-1 Br′ の捩れ性と単射性』の定理(Hensel 局所環の Brauer 群)で、局所環上の「有限エタール被覆で消える類」がすべてこの形で表されることを見る。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点の知識による。書誌の頁は確認していない)。現代的な扱いは Mil80 第 IV 章と CTS21 を見よ。
| 本頁 | 原論文(I Gro68a、II Gro68b) | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定理(Azumaya 代数の特徴づけ)(i)–(iii) | I (5.1)、(5.2)、(5.3) | 57–58 |
| 定理(Azumaya 代数の特徴づけ)(iv)、命題(全射で分裂する代数)、反例(原論文の (iii) bis) | I (5.1) の (iii) bis を訂正したもの | 57 |
| 補題(正則元の延長)、定理(Azumaya 代数の特徴づけ)の証明(極大エタール部分代数、正則元) | I (5.4)–(5.9) | 58–59 |
| 定理(Skolem–Noether の局所版) | I (5.10)、(5.11)、(5.12)、(5.14) | 59–60 |
| 定理(余境界の単射性) | I (2.1)(トポスでの単射 $\delta$)、I (1.4) の議論のエタール版 | 51–52 |
| 定理(Hensel 局所環上の Azumaya 代数)、例(Hensel 局所環上の分裂)、例(Hensel 性は必要) | I (6.1)、(6.2) | 61 |
| 線形群の内部形式、例($A$ と $A^{\mathrm{op}}$ は同じ単元群を与える)、反例($A\not\cong A^{\mathrm{op}}$) | I (7.1)–(7.5)、II §0(番号なし) | 61–63、67–68 |
| 例(Zariski 位相では局所的に行列代数にならない) | I (5.12) | 60 |
| 線形群の内部形式の既約ノルム | I (5.13)、(7.3) | 60、62–63 |
原論文は I (5.2)・(5.3)・(5.5) で「4.1 の条件」「4.4 の条件」と印字するが、指しているのは (5.1)・(5.4) である。本頁はそのように読んで対応させた。また原論文 I (5.13) は、特性多項式 $t^r+c_1t^{r-1}+\cdots+c_r$ の $c_1$ を既約トレース、$c_r$ を既約ノルムと呼ぶが、(7.3) の用法(既約ノルムの核が群をなす)と合うのは、既約トレース $-c_1$、既約ノルム $(-1)^rc_r$ の規約である。
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