曲線束の Brauer 群(Brauer group of a fibred surface)とは、正則な 1 次元スキーム $Y$ 上の固有平坦な曲線束 $f\colon X\to Y$($X$ は正則 2 次元)について、$\mathrm{Br}'(X)$ を底 $Y$ 上の相対 Picard 層のコホモロジーと生成ファイバーのヤコビアンの Tate–Shafarevich 群 $Ш$ で表す理論である。本頁ではその前半として、完全列 $0\to S\to\mathrm{Br}'(Y)\to\mathrm{Br}'(X)\to H^1(Y,P)\to T\to0$ を導き、閉ファイバーの成分と重複度から局所の不変量を計算する。局所の不変量についての原論文の主張 III (4.26)–(4.29) と (4.43) は本頁の定義のもとでは偽であり、有限体上の円錐曲線束による反例を示す。局所条件による $H^1(Y,P)$ と $Ш(Y,B)$ の比較、誤差 $S,T$ の制御、底が代数閉体上・有限体上の曲線の場合は本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』で扱う。原論文 III §4 の前半に当たる。
前提知識: Tate–Shafarevich群, 相対Picard関手, Néronモデル, 重複ファイバー, Brauer群, Hensel局所環
本頁を通じて次の設定を置く。$Y$ は正則な整スキームで次元 1、その局所環はすべて excellent である。$\eta$ は生成点、$K=\kappa(\eta)$ は関数体、$i\colon\eta\to Y$ は包含である。$f\colon X\to Y$ は固有平坦な射で、$X$ は正則で 2 次元であり、$f_*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$ である(これが成り立たないときは $Y$ を $\operatorname{Spec}f_*\mathcal O_X$ に取り替えればよい)。閉点 $y$ について $X_y=f^{-1}(y)$(スキーム構造つき)、$X_\eta$ は生成ファイバーである。$P=R^1f_*\mathbb G_m$、$B=i_*i^*P$、$E=\ker(P\to B)$、$F=\operatorname{Coker}(P\to B)$ と置く。原論文は、excellent の仮定を外しても、以下の結果は $Y$ の剰余標数と異なる $\ell$ の $\ell$ 準素部分については成り立つと注意している。$X,Y$ は正則なので $H^2(X,\mathbb G_m)$ と $H^2(Y,\mathbb G_m)$ は捩れ群であり、$\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$、$\mathrm{Br}'(Y)=H^2(Y,\mathbb G_m)$ である。原論文はこの節で $\mathrm{Br}$ を $H^2(\cdot,\mathbb G_m)$ の意味で書くが、本頁は $\mathrm{Br}'$ と書く。
本頁の主結果は次の 6 つである。
有限体 $\mathbb F_q$ 上の曲線 $Y$ の上の楕円曲面 $X\to Y$ を考えると、$X$ の Brauer 群と、生成ファイバー(関数体 $K$ 上の楕円曲線 $E$)の Tate–Shafarevich 群 $Ш(E/K)$ は、どちらも「局所的には自明だが大域的には自明でない」ねじれを測る群である。Artin と Tate は、有限体上の曲面についての予想公式の研究の中で、この二つが本質的に同じ群であることに注目した。原論文 III §4 は、その比較を少し一般化した形で、層のコホモロジーの言葉で述べ直す。
考え方は次のとおりである。Leray スペクトル系列により、$\mathrm{Br}'(X)$ は底 $Y$ の Brauer 群と、相対 Picard 層 $P$ の $H^1$ の間に挟まれる。高次の項は前頁(『Artin の定理(Hensel 離散付値環上の曲面)』)の系 $R^qf_*\mathbb G_m=0$($q\ge2$)で消える。$P$ を生成点での値の層 $B$ と比べると、その差は閉ファイバーの既約成分と重複度で決まる局所的な項になる。$H^1(Y,B)$ は関数体 $K$ の Galois コホモロジー $H^1(K,\mathrm{Pic}_{X_\eta})$ の部分群であり、局所条件を課した部分群が Tate–Shafarevich 群である。本頁は基本列と局所の不変量を扱い、Tate–Shafarevich 群、大域の比較、底が特別な場合は本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』で続ける。
曲線束の Brauer 群を底 $Y$ の上の層のコホモロジーで表すために、まず相対 Picard 層と、それを生成点での値と比べるための層を定める。
上の設定で、エタール層
$$P=R^1f_*\mathbb G_m,\qquad B=i_*i^*P,\qquad E=\ker(P\to B),\qquad F=\operatorname{Coker}(P\to B)$$
を考える($P\to B$ は随伴の単位)。$\mathrm{Pic}(X/Y)=H^0(Y,P)$、$\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)=H^0(\eta,i^*P)=H^0(Y,B)$ と置く。
原論文は、$P$ を $\mathrm{Pic}_{X/Y}$ と書き、ここではこの等式を記号の定義として採ると述べている(相対Picard関手 としての Picard 関手との両立は、第 4 章で fppf 位相を使って扱われる)。本頁も $P$ を上のエタール層として扱う。
次数を次のように定める。$X_\eta$ 上の因子 $D$、より一般に $\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)$ の元 $\xi$ に対して、$K$ 上の次数 $\deg D$、$\deg\xi$ をとる。$\mathrm{Pic}(X)$ や $\mathrm{Pic}(X/Y)$ の元の次数は、その $X_\eta$ への制限の次数とする。
次の三つの正の整数を定める。
$\mathcal O^{\mathrm h}_{Y,y}\subset\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ なので、射 $\tilde Y\to\bar Y$、$\tilde X\to\bar X$、$\tilde\eta\to\bar\eta$ がある。この向きが以下の関係の向きを決める。$\tilde Y,\bar Y$ はどちらも離散付値環のスペクトルで、$\tilde Y\to Y$、$\bar Y\to Y$ は平坦なので、上の設定($\tilde X,\bar X$ の正則性、$f_*\mathcal O=\mathcal O$ を含む)はこれらの底変換で保たれる。
閉ファイバーの成分から、次数の最大公約数とは別の整数を定める。
閉点 $y$ について、$X$ 上の因子として $X_y=\sum_ja^j_yC^j_y$ と書く($C^j_y$ は $X_y$ の既約成分、$a^j_y$ はその重複度)。$\kappa(y)^j$ を、$C^j_y$ の関数体の中での $\kappa(y)$ の分離的代数閉包とし、$\nu^j_y=[\kappa(y)^j:\kappa(y)]$ と置く。$\nu^j_y$ は $C^j_y\otimes_{\kappa(y)}\kappa(y)^{\mathrm s}$ の既約成分の個数に等しい。
$$m_y=\gcd_j\bigl(a^j_y\bigr),\qquad d_y=\gcd_j\bigl(a^j_y\nu^j_y\bigr)$$
と置く。$m_y\mid d_y$ である。$Z^j_y=\operatorname{Spec}\kappa(y)^j$、$Z_y=\coprod_jZ^j_y$ とし、$p_y\colon Z_y\to y$ を構造射とする。
$\nu^j_y$ の定義について。原論文は「成分が幾何的に既約になる最小の Galois 拡大」の次数を使う。$\kappa(y)$ が有限体なら有限次拡大はすべて Galois なので両者は一致するが、一般の体では、Galois 閉包の次数は幾何的成分の個数より大きくなりうるので、$p_{y*}\mathbb Z$ の階数を合わせるために本頁は上の定義を採る。$C^j_y\otimes\kappa(y)^{\mathrm s}$ の既約成分が $\kappa(y)$ 上の埋め込み $\kappa(y)^j\to\kappa(y)^{\mathrm s}$ と Galois 同変に一対一に対応することは、$\kappa(y)^j$ が関数体の中で分離的に閉じていることによる標準的な事実である。
記号が多いので、ここで一覧にし、後で示す関係を先取りしておく。
上の整数を一覧にする。プライムの本数は「どの Picard 群で次数の最大公約数をとるか」を、チルダ・横線の有無は「どの局所化をとるか」を表す。
| 記号 | 局所化 | 何か |
|---|---|---|
| $\delta$ | なし($Y$ そのもの) | $\mathrm{Pic}(X_\eta)$ の元の次数の最大公約数 |
| $\delta'$ | なし | $\mathrm{Pic}(X/Y)=H^0(Y,P)$ の元の次数の最大公約数 |
| $\delta''$ | なし | $\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)=H^0(Y,B)$ の元の次数の最大公約数 |
| $\delta_y,\delta'_y,\delta''_y$ | 狭義 Hensel 化 $\tilde X\to\tilde Y$ | $\delta,\delta',\delta''$ の局所版 |
| $\bar\delta_y,\bar\delta'_y,\bar\delta''_y$ | Hensel 化 $\bar X\to\bar Y$ | $\delta,\delta',\delta''$ の局所版 |
| $m_y$ | 局所化ではない | 閉ファイバーの重複度の最大公約数 $\gcd_j a^j_y$ |
| $d_y$ | 局所化ではない | $\gcd_j(a^j_y\nu^j_y)$。局所項 $H^1(y,E_y)$ を消す整数 |
これらの間には次の関係がある。
最初の目標は、前頁の高次順像の消滅を Leray スペクトル系列に入れて $\mathrm{Br}'(X)$ と $H^1(Y,P)$ を結ぶ完全列を得ることで、そのために $f_*\mathbb G_m$ をまず決めておく。
$f\colon X\to Y$ が準コンパクト準分離で $f_*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$ なら、エタール層として $f_*\mathbb G_{m,X}=\mathbb G_{m,Y}$ である。
$Y'\to Y$ をエタールとし、$X'=X\times_YY'$ と置く。$Y'$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B'$ が $Y$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B$ の上にあるとき、$X_B$ を有限個のアフィン開集合で覆うと、$\Gamma(X_B,\mathcal O)$ はそれらの切断の間の等化子として書ける。平坦な $B'$ とのテンソル積は有限個の加群の間の左完全列を保つので $\Gamma(X_{B'},\mathcal O)=\Gamma(X_B,\mathcal O)\otimes_BB'=B'$ である。貼り合わせて $\Gamma(X',\mathcal O_{X'})=\Gamma(Y',\mathcal O_{Y'})$ を得る。環が等しいので単元群も等しい。
$f_*\mathbb G_m$ と $R^qf_*\mathbb G_m$($q\ge2$)が定まったので、Leray スペクトル系列を書き下す。
上の設定で、長完全列
$$\cdots\to H^i(Y,\mathbb G_m)\to H^i(X,\mathbb G_m)\to H^{i-1}(Y,P)\to H^{i+1}(Y,\mathbb G_m)\to H^{i+1}(X,\mathbb G_m)\to\cdots$$
がある。とくに
$$0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\to\mathrm{Br}'(Y)\to\mathrm{Br}'(X)\to H^1(Y,P)\to H^3(Y,\mathbb G_m)\to H^3(X,\mathbb G_m)$$
は完全であり、
$$S=\operatorname{Coker}(\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)),\qquad T=\ker(H^3(Y,\mathbb G_m)\to H^3(X,\mathbb G_m))$$
と置くと
$$0\to S\to\mathrm{Br}'(Y)\to\mathrm{Br}'(X)\to H^1(Y,P)\to T\to0,\qquad 0\to\mathrm{Br}'(X)/\operatorname{Im}\mathrm{Br}'(Y)\to H^1(Y,P)\to T\to0$$
は完全である。さらに $S\cong\ker(\mathrm{Br}'(Y)\to\mathrm{Br}'(X))$ である。
$Y$ の局所環は excellent なので japonais であり、$f$ のファイバーは 1 次元である($X$ は 2 次元で $Y$ 上平坦)。本書『Artin の定理(Hensel 離散付値環上の曲面)』の系により $R^qf_*\mathbb G_m=0$($q\ge2$)であり、
補題
により $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ である。
Leray スペクトル系列 $E_2^{a,b}=H^a(Y,R^bf_*\mathbb G_m)\Rightarrow H^{a+b}(X,\mathbb G_m)$ は $b=0,1$ の 2 行しかもたないので、残る微分は $d_2\colon E_2^{a,1}\to E_2^{a+2,0}$ だけであり、$E_\infty^{a,0}=\operatorname{Coker}(d_2\colon E_2^{a-2,1}\to E_2^{a,0})$、$E_\infty^{a,1}=\ker(d_2\colon E_2^{a,1}\to E_2^{a+2,0})$、および短完全列 $0\to E_\infty^{i,0}\to H^i(X,\mathbb G_m)\to E_\infty^{i-1,1}\to0$ がある。これらを継ぎ合わせると最初の長完全列を得る。$i=1$ の段では $E_2^{-1,1}=0$ なので列は $0\to\mathrm{Pic}(Y)$ から始まり、$E_2^{0,1}=H^0(Y,P)=\mathrm{Pic}(X/Y)$ である。$X,Y$ は正則なので $H^2(\cdot,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}'(\cdot)$ である。残りの主張は、この完全列の言い換えである。
以下の目標は、$S$ と $T$ が多くの場合に有限、さらには $0$ であることを示し、$H^1(Y,P)$ を生成ファイバーのヤコビアンの Tate–Shafarevich 群で書き表すことである。すなわち $\mathrm{Br}'(X)$ を $Ш$ で近似し、誤差を $S,T$ に閉じ込める(本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』)。そのために、本頁ではまず閉点ごとの局所の不変量を調べる。
三つの最大公約数 $\delta,\delta',\delta''$ の間の整除関係と、それらが一致する十分条件から始める。
次の可換図式を使う。
$$\begin{array}{ccc}
\mathrm{Pic}(X)&\longrightarrow&\mathrm{Pic}(X_\eta)\\
\downarrow&&\downarrow\\
\mathrm{Pic}(X/Y)&\longrightarrow&\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)
\end{array}$$
次数はどの矢印とも両立する。$X$ は正則なので $\mathrm{Pic}(X)$ は Weil 因子類群に等しく、開部分スキーム $X_\eta$ への制限は、因子の閉包をとることにより全射である。$X_\eta$ も正則なので、$\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X_\eta)$ は全射である。したがって $\delta$ は $\mathrm{Pic}(X)$ の元の次数の最大公約数に等しい。
1:$\mathrm{Pic}(X)$ の像は $\mathrm{Pic}(X/Y)$ に含まれるので $\delta'\mid\delta$。$\mathrm{Pic}(X/Y)$ の像は $\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)$ に含まれるので $\delta''\mid\delta'$。
2:
基本完全列
の最初の数項(Leray の 5 項完全列で、$R^2$ の消滅は要らない)を $X_\eta\to\eta$ に適用すると $\mathrm{Pic}(X_\eta)\to\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)\to\mathrm{Br}(K)$ が完全である。$\mathrm{Br}(K)=0$ なら左の写像は全射で、$\delta''=\delta$。1 と合わせて三つは等しい。
3:同様に $\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\to\mathrm{Br}'(Y)$ から、$\mathrm{Br}'(Y)=0$ なら $\delta'=\delta$。
4:$X_\eta$ は正則な曲線なので $\mathrm{Pic}(X_\eta)$ は閉点の類で生成され、$\sum n_QQ$ の次数は $\sum n_Q[\kappa(Q):K]$ である。
局所版:上の議論は設定と
基本完全列
しか使わず、設定は $\tilde Y\to Y$、$\bar Y\to Y$ による底変換で保たれるので、そのまま通用する。二つの局所版の間:射 $\tilde\eta\to\bar\eta$ による引き戻しは、次数を保つ準同型 $\mathrm{Pic}(\bar X_{\bar\eta}/\bar\eta)\to\mathrm{Pic}(\tilde X_{\tilde\eta}/\tilde\eta)$ を与えるので、左辺の元の次数は右辺の元の次数の集合に含まれ、$\bar\delta''_y\mathbb Z\subset\delta''_y\mathbb Z$、すなわち $\delta''_y\mid\bar\delta''_y$ である。$\delta_y\mid\bar\delta_y$ も同じ。
閉点の次数は、次の補題を通して Brauer 群の側の情報に効く。
上の設定(または $\tilde Y$、$\bar Y$ への底変換)で、$Q$ を $X_\eta$ の閉点、$e=[\kappa(Q):K]$ とし、$Z$ を $Q$ の $X$ における閉包(被約な閉部分スキーム)とする。
1:$X$ は正則で連結($f_*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$ より)なので整で 2 次元であり、$Z\ne X$ だから $\dim Z\le1$。$Z$ は既約なので、閉点 $y$ 上のファイバー $Z_y$($Z$ の真の閉部分集合)は 0 次元である。よって $Z\to Y$ は固有かつ準有限、したがって有限である。$Z$ は整で $Y$ を支配するので $\mathcal O_Y$ 上捩れのない加群を与え、$Y$ は正則 1 次元なので $Z\to Y$ は平坦、したがって有限局所自由であり、その階数は生成点での次数 $e$ である。
2:有限局所自由で階数 $e$ の射 $\pi\colon Z\to Y$ について、ノルム写像 $N\colon\pi_*\mathbb G_{m,Z}\to\mathbb G_{m,Y}$ があり、$N$ と単位 $\mathbb G_{m,Y}\to\pi_*\mathbb G_{m,Z}$ の合成は $e$ 乗である。$\pi$ は有限なので $\pi_*$ は完全で $H^q(Z,\mathbb G_m)=H^q(Y,\pi_*\mathbb G_m)$ である(SGA4 VIII による)。したがって $N$ の誘導する写像と $\pi^*$ の合成は $H^q(Y,\mathbb G_m)$ 上の $e$ 倍であり、$\ker(\pi^*)$ は $e$ で消える。$\pi$ は $Z\hookrightarrow X\to Y$ と分解するので、$\ker(H^q(Y)\to H^q(X))\subset\ker(H^q(Y)\to H^q(Z))$ である。
3:$\operatorname{Spec}\kappa(Q)\to\operatorname{Spec}L$ は階数 $e$ の有限局所自由な射なので、2 の議論がそのまま通る。
2 の仮定 $\mathrm{Br}(K)=0$ は、たとえば $Y$ が代数閉体上の曲線のとき(Tsen の定理、本書『次元 1 以下の体』)や、$Y$ が完全剰余体をもつ狭義 Hensel 離散付値環のスペクトルのとき(本書『次元 1 以下の体』の Lang の定理。$Y$ の局所環は excellent と仮定している)に成り立つ。3 の仮定 $\mathrm{Br}'(Y)=0$ は、$Y$ が有限体上の固有曲線のとき(本書『次元 1 のスキームと類体論』)、$Y$ が狭義 Hensel 局所のとき(正次数のコホモロジーがすべて消える)、$Y$ が分離閉体上の固有曲線のとき(本書『fppf 位相と相対 Picard 群』で扱う)に成り立つ。
$\delta=\delta''$ と $\delta=\delta'$ がつねに成り立つかについては、原論文自身が問いを残している。
原論文は、つねに $\delta=\delta''$ とは限らないことを、射影直線の捻れた形(Severi–Brauer 曲線)で示し(下の「例と反例」)、つねに $\delta=\delta'$ が成り立つかは知らないと書いている。これは原論文の時点での著者自身の問いである。また原論文は、$\delta$ が「$Y$ 射 $Y'\to X$ をもつ有限平坦被覆 $Y'\to Y$ の次数の最大公約数」とも解釈でき、$\delta''$ が生成ファイバーのヤコビアンのある捩子の類の位数と解釈できると述べるが、その導出は書いていない。本書はこの解釈を使わず、必要な一方向だけを直接示す(本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』の定理($S$ と $T$ は $\delta$ で消える))。
次に、$P$ とその生成点での値 $B$ の差である $E$ と $F$ が閉点にしか台をもたないことと、その茎の形を確かめる。
1:$i^*$ を $P\to B$ に施すと同型になるので $E|_\eta=F|_\eta=0$。$Y$ は 1 次元の整スキームで $\eta$ が唯一の閉でない点なので、$E,F$ の台は閉点の集合に含まれる。
2:高次順像の茎の計算により $P_{\bar y}=H^1(\tilde X,\mathbb G_m)=\mathrm{Pic}(\tilde X)$ であり、$B_{\bar y}=H^0(\tilde\eta,i^*P)=\mathrm{Pic}(\tilde X_{\tilde\eta}/\tilde\eta)$ である。写像 $P_{\bar y}\to B_{\bar y}$ は $\mathrm{Pic}(\tilde X_{\tilde\eta})$ を経由し、$\tilde X$ は正則なので $\mathrm{Pic}(\tilde X)\to\mathrm{Pic}(\tilde X_{\tilde\eta})$ は全射である(
命題
の証明と同じ)。よって核と余核は主張の形になる。
3:Leray の 5 項完全列を $\tilde X_{\tilde\eta}\to\tilde\eta$ に適用すると、$F_{\bar y}$ は $\ker(\mathrm{Br}(\tilde\eta)\to H^2(\tilde X_{\tilde\eta},\mathbb G_m))$ に同型である($f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ は平坦な底変換で保たれる)。$\tilde\eta$ は狭義 Hensel 離散付値環の分数体なので、本書『次元 1 以下の体』により $\mathrm{Br}(\tilde\eta)$ の $\ell$ 部分($\ell\ne p_y$)は $0$、したがって $F_{\bar y}$ は $p_y$ 準素である。$\kappa(y)$ が完全なら狭義 Hensel 化の剰余体は代数閉で、$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ は excellent なので(本書『Artin の定理(Hensel 離散付値環上の曲面)』の (E11))、本書『次元 1 以下の体』の Lang の定理により $\mathrm{Br}(\tilde\eta)=0$。$\delta_y=1$ の場合は、
閉点の閉包とノルムの補題
の 3 を底 $\tilde\eta$(体)の上の曲線 $\tilde X_{\tilde\eta}$ に適用すると、上の核は $\tilde X_{\tilde\eta}$ の各閉点の次数で消え、
命題
の 4 の局所版によりその最大公約数 $\delta_y=1$ で消える。
以下では
$$F=0\tag{F}$$
を仮定する。上の命題により、これはすべての閉点の剰余体が完全なとき(とくに $Y$ が有限体上や代数閉体上の曲線のとき)に成り立つ。原論文は、(F) が成り立たないときは剰余標数と素な部分に限ればよいと述べる。(F) のもとで $0\to E\to P\to B\to0$ は完全である。
$E$ の茎を閉ファイバーの成分で書く。原論文はこれを「易しい計算」として結果だけを述べるが、本頁では証明を与える。そのうえで、原論文が同じ箇所で述べる主張のうち偽のものを分ける。
閉点 $y$ の上の幾何的点 $\bar y$ をとり、$\pi$ を $\mathcal O_{Y,y}$ の素元、$\Pi_y$ を $\tilde X$ の閉ファイバー $X_y\otimes_{\kappa(y)}\kappa(y)^{\mathrm s}$ の既約成分の集合とする。
1:$\tilde X\to X$ は ind-エタールなので、閉ファイバーの成分の生成点での局所環の長さは保たれ、$C^j_y$ の上の成分の重複度は $a^j_y$ である。個数は $\nu^j_y$ の定義の後の注意による。
2:$\tilde X$ は正則なので $\mathrm{Pic}=$ Weil 因子類群であり、開部分 $\tilde X_{\tilde\eta}$ への制限の核は、補集合(閉ファイバー)の成分で生成される。すなわち $\mathbb Z^{(\Pi_y)}\to\mathrm{Pic}(\tilde X)$ の像が $E_{\bar y}$ である(
前の命題
の 2)。この写像の核は、有理関数 $g$ で $\operatorname{div}(g)$ が閉ファイバーに台をもつものの因子からなる。そのような $g$ は $\tilde X_{\tilde\eta}$ 上で可逆な正則関数であり、$f_*\mathcal O=\mathcal O$ が平坦な底変換で保たれることから $\Gamma(\tilde X_{\tilde\eta},\mathcal O)=\operatorname{Frac}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ なので、$g=u\pi^n$($u$ は $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ の単元)と書ける。よって核は $\mathbb Z\cdot\operatorname{div}(\pi)=\mathbb Z\cdot\sum_Ca_CC$ である。Galois 群は成分を置換し、$\Pi_y$ を $\operatorname{Gal}$ 集合として見ると、$C^j_y$ の上の部分は $\kappa(y)$ 上の埋め込み $\kappa(y)^j\to\kappa(y)^{\mathrm s}$ の集合、すなわち $Z^j_y$ の幾何的点の集合に同型である。これが層の完全列の言い換えである。
3:$v=\sum_Ca_CC=m_y\,v'$ と書くと $v'$ の係数の最大公約数は $1$ なので、$v'$ は $\mathbb Z^{(\Pi_y)}$ の直和因子を生成し、$\mathbb Z^{(\Pi_y)}/\mathbb Zv'$ は捩れをもたない。完全列 $0\to\mathbb Zv'/\mathbb Zv\to\mathbb Z^{(\Pi_y)}/\mathbb Zv\to\mathbb Z^{(\Pi_y)}/\mathbb Zv'\to0$ から捩れ部分は $\mathbb Zv'/\mathbb Zv\cong\mathbb Z/m_y\mathbb Z$ である。
4(整除):$\tilde X_{\tilde\eta}$ の閉点 $Q$ をとり、その閉包を $\operatorname{Spec}R$ とする。
閉点の閉包とノルムの補題
の 1(底 $\tilde Y$ の場合)により $R$ は $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ 上有限な整域であり、Hensel 性から局所環である。その閉点 $z$ での $\tilde X$ の局所環は正則で分解整域なので、$z$ を通る成分 $C$ の局所方程式 $g_C$ により $\pi=u\prod_Cg_C^{a_C}$ と書ける。$R$ は 1 次元の局所整域で各 $g_C$ は $R$ で $0$ でないから、長さは積について加法的で
$$[\kappa(Q):\tilde K]=\dim_{\kappa(y)^{\mathrm s}}R/\pi R=[\kappa(z):\kappa(y)^{\mathrm s}]\sum_Ca_C\,\operatorname{length}_R(R/g_CR)$$
($\tilde K$ は $\tilde\eta$ の剰余体)。右辺は $m_y$ の倍数なので、
命題
の 4 の局所版により $m_y\mid\delta_y$。
4(等号):$\kappa(y)$ が完全なら $\kappa(y)^{\mathrm s}$ は代数閉である。各 $C\in\Pi_y$ について、$C$ の被約化が滑らかで他の成分に乗らない閉点 $x$ をとる(代数閉体上の被約な曲線の滑らかな点は稠密)。$\mathcal O=\mathcal O_{\tilde X,x}$ は 2 次元正則局所環で、$C$ の局所方程式 $g$ について $\mathcal O/g$ は正則なので $g\notin\mathfrak m_x^2$ であり、$\mathfrak m_x=(g,h)$ となる $h$ がとれる。$\mathcal O/h$ は $g$ の像を素元とする離散付値環で、$x$ の近くで $\pi=u\,g^{a_C}$ なので $\pi$ の付値は $a_C$ である。$V(h)$ と閉ファイバーの共通部分は $x$ の近くで $\{x\}$ だから、$V(h)$ は $x$ でファイバーの中で孤立しており、底が Hensel なので $\mathcal O/h$ は $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,y}$ 上有限である。剰余体は $\kappa(x)=\kappa(y)^{\mathrm s}$ なので、$\mathcal O/h$ の階数は分岐指数 $a_C$ に等しい。その生成点は $\tilde X_{\tilde\eta}$ の次数 $a_C$ の閉点である。よって $\delta_y\mid a_C$ がすべての $C$ で成り立ち、$\delta_y\mid m_y$。
この命題を原論文の記述と比べておく。
原論文は同じ箇所(III (4.18)–(4.29))で、次の事実を結果だけ述べる。
$E$ の茎が分かったので、$0\to E\to P\to B\to0$ の長完全列に現れる局所項 $H^1(y,E_y)$ を計算する。
1:
命題
の 2 の完全列を使う。$p_y$ は有限なので $H^q(y,p_{y*}\mathbb Z)=\prod_jH^q(\kappa(y)^j,\mathbb Z)$。長完全列
$$H^1(y,p_{y*}\mathbb Z)\to H^1(y,E_y)\to H^2(y,\mathbb Z)\to H^2(y,p_{y*}\mathbb Z)$$
で、体の $H^1(\cdot,\mathbb Z)$ は $0$ なので(本書『次元 1 のスキームと類体論』の補題)左端は $0$ であり、$H^1(y,E_y)\cong\ker(H^2(\kappa(y),\mathbb Z)\to\prod_jH^2(\kappa(y)^j,\mathbb Z))$。同じ補題の同型 $H^2(\cdot,\mathbb Z)\cong H^1(\cdot,\mathbb Q/\mathbb Z)$ で書き換える。成分 $j$ の写像が制限の $a^j_y$ 倍であることは、第 1 の写像の記述による。
2:$\chi$ が核に入るとすると、各 $j$ で $a^j_y\operatorname{res}_j(\chi)=0$。$\kappa(y)^j/\kappa(y)$ は次数 $\nu^j_y$ の分離拡大なので、余制限との合成 $\operatorname{cor}_j\circ\operatorname{res}_j$ は $\nu^j_y$ 倍であり、$a^j_y\nu^j_y\chi=\operatorname{cor}_j(a^j_y\operatorname{res}_j\chi)=0$。よって $\chi$ は各 $a^j_y\nu^j_y$ で、したがってその最大公約数 $d_y$ で消える。
3:$H^1(\kappa(y),\mathbb Q/\mathbb Z)=\operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(\hat{\mathbb Z},\mathbb Q/\mathbb Z)=\mathbb Q/\mathbb Z$ であり、指数 $\nu$ の開部分群への制限はこの同一視のもとで $\nu$ 倍に当たる。よって成分 $j$ の写像は $a^j_y\nu^j_y$ 倍で、その核は $\mathbb Z/a^j_y\nu^j_y\mathbb Z$。共通部分をとって $\mathbb Z/d_y\mathbb Z$。
局所項 $H^1(y,E_y)$ を消すのは $m_y$ ではなく $d_y$ であり、$d_y=1$ の確かめられる十分条件は、ある成分 $C^j_y$ が重複度 $1$ で幾何的に既約であること(このとき $a^j_y\nu^j_y=1$)である。
(F) のもとで、完全列
$$0\to\bigoplus_yH^0(y,E_y)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\to\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)\to\bigoplus_yH^1(y,E_y)\to H^1(Y,P)\to H^1(Y,B)\to\bigoplus_yH^2(y,E_y)$$
がある(和は閉点 $y$ にわたる。$E_y$ は $y$ 上の層)。とくにすべての閉点の剰余体が分離閉なら $H^1(Y,P)\cong H^1(Y,B)$。
$E$ は閉点に台をもつので $E=\bigoplus_yi_{y*}E_y$ であり、閉埋め込みの順像は完全なので $H^q(Y,E)=\bigoplus_yH^q(y,E_y)$。$H^0(Y,P)=\mathrm{Pic}(X/Y)$、$H^0(Y,B)=\mathrm{Pic}(X_\eta/\eta)$ を $0\to E\to P\to B\to0$ の長完全列に代入すればよい。剰余体が分離閉なら $H^q(y,E_y)=0$($q\ge1$)。
以下の例は、命題(次数の最大公約数の整除関係)の仮定が外せないこと、局所項が実際に現れること、原論文の局所の不変量についての主張が破れることを示す。
$\mathrm{Br}(K)\ne0$ のとき $\delta''=\delta$ が破れる例である。$C\subset\mathbb P^2_{\mathbb R}$ を円錐曲線 $x^2+y^2+z^2=0$ とし、$Y=\mathbb A^1_{\mathbb R}$、$X=C\times_{\mathbb R}Y$ とする($C$ は $\mathbb R$ 上の射影直線の捻れた形で、$C_{\mathbb C}\cong\mathbb P^1_{\mathbb C}$)。$K=\mathbb R(t)$ である。
次は、局所項が $0$ にならない最も簡単な形である。
有限体上の底で、閉点 $y$ のファイバーが $X_y=2C$($C$ は幾何的に整)の形なら $m_y=d_y=2$ であり、 局所項の計算 の 3 により $H^1(y,E_y)\cong\mathbb Z/2\mathbb Z\ne0$ である。このとき $H^1(Y,P)$ と $Ш(Y,B)$ の間には、この局所項の分だけの食い違いが残りうる。式 (4.41) に仮定 $d_y=1$ が要るのはこのためである(本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』の注意(原論文の式 (4.41) について))。
最後は、記号の一覧の注意で偽とした原論文の主張を、一つの円錐曲線束で同時に破る例である。
原論文の主張「$d_y\mid\delta_y$」「$\kappa(y)$ が完全なら $d_y=\delta_y$」(III (4.26)–(4.29))、「$\delta_y=1$ なら $d_y=1$」、「$E_{\bar y}$ の捩れ部分は $\mathbb Z/d_y\mathbb Z$」、および有限体上の固有曲線の上での「$\bar\delta_y=\delta_y$」(III (4.43))が、本頁の定義のもとで成り立たない例である。原論文には無い。
局所の構成.$q$ を奇数、$A$ を剰余体 $\mathbb F_q$ の excellent な離散付値環(たとえば $\mathbb F_q$ 上の曲線の $\mathbb F_q$ 有理点での局所環)、$\pi$ を素元、$a\in A^\times$ を剰余 $\bar a$ が $\mathbb F_q$ で平方でない単元とし、$X\subset\mathbb P^2_A$ を $x^2-ay^2=\pi z^2$ で定める。
本頁の範囲に関わる後の話題は、本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』の「その後の発展」にまとめて記す。原論文が未解決とした $\delta=\delta'$ の問い(上の注意(原論文の問いと解釈))について、その後の状況を本頁は確かめていない。
本頁が対応する原論文は Le groupe de Brauer III Gro68 である。
頁は『Dix exposés』(1968)の印字頁である。本頁は原論文の段落の順ではなく、基本列、局所の不変量の順に並べた。Tate–Shafarevich 群、大域の比較、底が特別な場合に当たる箇所は本書『3-5 Tate–Shafarevich 群と大域の比較』の対応表にある。
| 原論文 | 頁 | 本頁の箇所 |
|---|---|---|
| III §4 冒頭、(4.1)–(4.7) | 107–109 | 単元の層の順像 、 基本完全列 |
| III Prop. (4.1) | 110 | 次数の最大公約数の整除関係 |
| III Rem. (4.2) a)–e) | 110–112 | 「原論文の問いと解釈」の注意、 Severi–Brauer 曲線の反例 |
| III (4.8)–(4.14 bis) | 113–115 | $E$ と $F$ の構造 、 局所項をもつ完全列 |
| III (4.18)–(4.29)(局所項の計算の部分) | 116–118 | 重複度と $m_y$、$d_y$ ($\nu^j_y$ の定義を直した形)、 $E$ の茎と閉ファイバー 、 局所項の計算 |
| III (4.26)–(4.29)(整除と等号の主張) | 116–118 | 本頁の定義では偽: 原論文の主張との違い 、 反例 。正しい形は $E$ の茎と閉ファイバー の 3・4 |
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