4-1 fppf 位相と相対 Picard 群

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

fppf 位相による相対 Picard 群の解析(relative Picard group via the fppf topology)とは、Grothendieck が講演「Le groupe de Brauer」III Gro68 の §5 で行った、相対 Picard 群 $\mathrm{Pic}(X/Y)$ の元を絶対 Picard 群へ持ち上げる障害を $H^2(Y,\mathbb G_m)$ の元として取り出す議論である。本頁では、相対 Picard 群の元がエタール局所に持ち上がること(III (5.1))、障害準同型 $\partial$ を含む完全列(III (5.3))、分離閉体上の固有スキームで $H^2(-,\mathbb G_m)$ が代数閉包への底変換でどう変わるかの記述(III (5.6)〜(5.9))を示し、分離閉体上の固有曲線で $\mathrm{Br}=0$ となること(III (5.8)の引用)を導く。原論文 III §5 に当たる。
前提知識: fppf位相, エタールコホモロジー, 相対Picard関手, コホモロジー的Brauer群, Lerayスペクトル系列, 狭義Hensel局所環

この頁で示すこと

本頁の記号は本書の記号表に従う。とくに $H^i(X,F)$ は添字が無ければエタールコホモロジーであり、fppf 位相では $H^i(X_{\mathrm{fppf}},F)$ と添字を付ける。$\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)_{\mathrm{tors}}$ であり、捩れでない部分まで含めるときは $H^2(X,\mathbb G_m)$ と書く。第1章の余境界 $\delta$ と区別するため、本頁の障害準同型は $\partial$ と書く。射 $f:X\to Y$ に課す条件 (S) と相対 Picard 群 $\mathrm{Pic}(X/Y)$ は「定義と準備」で定める。後半では $k$ を分離閉体、$\bar k$ をその代数閉包、$X$ を $k$ 上固有なスキーム、$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ をその Picard スキームとし、$H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ で $X_{\bar k}$ の $H^2$ のうち降下データと両立する元の部分群を表す。
本頁の主結果は次の七つである。

  1. エタール局所的な持ち上げ(III (5.1)):$f$ が (S) を満たせば、$\mathrm{Pic}(X/Y)$ の各元は $Y$ のエタール被覆の上で $\mathrm{Pic}(X)$ の元の像になり、とくに $Y$ が狭義局所なら $\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)$ は同型である(III (5.2)、系「狭義局所な底」)。[条件付き:比較定理(『エタールと fppf の比較定理』の頁)と引用 3 を引用]
  2. 障害準同型を含む完全列(III (5.3)):(S) の第 2 条件が任意の底変換で保たれるとき、完全列 $0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\xrightarrow{\ \partial\ }H^2(Y,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}\to H^1(Y,\mathcal Pic_{X/Y})$ がある(記号は本文で定める)。[条件付き:比較定理と引用 1・2 を引用]
  3. 分離閉体上の降下の完全列(III (5.6)):完全列 $0\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}\to H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)$ がある。[条件付き:比較定理と引用 2、fppf 被覆の細分を引用。証明は概略]
  4. Picardスキームが滑らかな場合(III (5.7)):$P$ が滑らかなら $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ は同型であり、$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ または $H^1(X,\mathcal O_X)=0$ なら $P$ は滑らかである。[条件付き:比較定理と引用 4 を引用]
  5. 分離閉体上の曲線(III (5.8)):分離閉体上の固有な代数曲線 $X$ について $H^2(X,\mathbb G_m)=0$、とくに $\mathrm{Br}(X)=0$ である。[条件付き:引用 7・8 を引用]
  6. Picardスキームが滑らかでない場合(III (5.9)、式 (5.16)〜(5.18)):標数 $p>0$ で $P_{\mathrm{red}}$ が滑らかな部分群スキームなら、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ は全射であり、$k$ が完全でないとき、それが単射であることと $P$ が滑らかであることは同値である。[条件付き:引用 5 を引用]
  7. 降下の写像の全射性(III 式 (5.19)):$P$ に何も仮定しなくても $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$($i\ge2$)であり、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ はつねに全射である。[条件付き:引用 4・6 を引用]
    証明はいずれも、fppf 位相とエタール位相の比較定理(本書『エタールと fppf の比較定理』の頁で証明する)と、「定義と準備」に一覧にした引用に依存する。原論文はもう一つ、$f$ が射影的な場合に $\partial$ の値が Azumaya 代数の Brauer 群 $\mathrm{Br}(Y)$ に入るという主張(III (5.5))を述べる。本頁はこれを証明しない。その理由は「主結果と証明」の注意「障害はいつAzumaya代数の類になるか」に書く。

背景と動機

第2章で見たとおり、Brauer 群は $H^2(-,\mathbb G_m)$ の中に住む。他方、相対 Picard 関手 $\mathcal Pic_{X/Y}$ は、$Y$ 上のスキーム $Y'$ に $\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ を対応させる関手を層化して得られ、FGA 以来、忠実平坦な位相で層化するのが自然とされてきた。層化をすると、$Y$ 全体の上では「局所的には直線束の類だが、大域的には直線束から来ない」元が現れる。§5 の出発点は、この「来ない」ことの障害が $H^2(Y,\mathbb G_m)$ に値をもつこと、すなわち相対 Picard 群と Brauer 群が一本の完全列でつながることである。
この完全列を得るには Leray スペクトル系列を fppf 位相で使う必要がある。一方、Brauer 群はエタール位相で定義される。二つの位相をつなぐのが、滑らかな可換群スキームについてエタールコホモロジーと fppf コホモロジーが一致するという比較定理であり、原論文は §5 ではこれを引用し、証明を付録 §11 に回す(本書の『エタールと fppf の比較定理』の頁)。
§5 の後半は、分離閉体 $k$ 上の固有スキームを扱う。$k$ が完全でないとき、代数閉包 $\bar k/k$ は純非分離拡大であり、$\operatorname{Spec}\bar k\to\operatorname{Spec}k$ はエタールでない。したがって Galois 降下は使えず、$H^2(X,\mathbb G_m)$ と $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ の関係はエタール位相だけでは見えない。fppf 位相では純非分離拡大も被覆になるので、降下の言葉で比較ができる。そこに現れる障害が $\mathrm{Pic}_{X/k}$ の fppf コホモロジーであり、それが消えるかどうかは $\mathrm{Pic}_{X/k}$ が滑らかかどうかで決まる。つまり、Picard スキームの非被約性が Brauer 群に跡を残すというのが §5 後半の内容である。

定義と準備

fppf 位相

スキーム $X$ の fppf 景 $X_{\mathrm{fppf}}$ とは、$X$ 上局所有限表示なスキームを対象とし、平坦かつ局所有限表示な射の全射族を被覆とする景である(fppf位相)。エタール射は平坦かつ局所有限表示なので、エタール景 $X_{\mathrm{et}}$ は $X_{\mathrm{fppf}}$ の充満部分圏であり、景の射
$$ \varepsilon:X_{\mathrm{fppf}}\to X_{\mathrm{et}} $$
がある。$\varepsilon_*$ はエタールな対象への制限である。原論文は fppf 景を $X_{\mathrm{pl}}$ と書き、この射を $p$ と書く。
$X$ 上の可換群スキーム $G$ は、$T\mapsto\operatorname{Hom}_X(T,G)$ によって $X_{\mathrm{fppf}}$ 上の層を定め、それを $X_{\mathrm{et}}$ に制限したものがエタール層としての $G$ である。
こうして同じ $G$ が二つの位相でコホモロジーをもつ。両者を比べる標準写像について、$G$ に何も仮定せずに言えることを先に見ておく。

低い次数での比較

$X$ 上の任意の可換群スキーム $G$ について、標準写像 $H^i(X,G)\to H^i(X_{\mathrm{fppf}},G)$ は $i=0$ で同型、$i=1$ で単射である。

上の説明により $\varepsilon_*G=G$(エタール層としての $G$)である。$\varepsilon$ の Leray スペクトル系列の低次の完全列
$$ 0\to H^1(X,\varepsilon_*G)\to H^1(X_{\mathrm{fppf}},G)\to H^0(X,R^1\varepsilon_*G) $$
から $i=1$ の単射性が出る。$i=0$ では両辺とも $\operatorname{Hom}_X(X,G)$ である。

高い次数での同型には $G$ の滑らかさが要る。次の定理は本書の『エタールと fppf の比較定理』の頁で証明する(そこで述べる引用に依存する)。

比較定理(『エタールと fppf の比較定理』の頁の主結果)

$G$ が $X$ 上の滑らかな可換群スキーム(局所有限表示)なら、すべての $i$ について $H^i(X,G)\cong H^i(X_{\mathrm{fppf}},G)$ である。とくに $G=\mathbb G_m$、$G=\mathbb G_a$ に当てられる。

一方、滑らかでない群では $\mathbb G_m$ の $p$ 乗写像がエタール位相で全射でなくなる。次の事実が、§5 後半の非消滅の源である。

fppf 位相での p 乗写像

$p$ を素数とすると、$1\to\mu_p\to\mathbb G_m\xrightarrow{\,x\mapsto x^p\,}\mathbb G_m\to1$ は $X_{\mathrm{fppf}}$ 上の層の完全列である($p$ が $X$ 上可逆とは限らない)。標数 $p$ の $X$ 上では、$0\to\alpha_p\to\mathbb G_a\xrightarrow{\,x\mapsto x^p\,}\mathbb G_a\to0$ も $X_{\mathrm{fppf}}$ 上完全である。

核については定義どおりである。全射性を示す。$T$ を $X_{\mathrm{fppf}}$ の対象、$a\in\Gamma(T,\mathcal O_T)^\times$ とし、$T'=\operatorname{Spec}_T\mathcal O_T[S]/(S^p-a)$ と置く。$T'\to T$ は階数 $p$ の自由加群を与える有限射なので、平坦かつ有限表示な全射であり、fppf 被覆である。$T'$ の上で $a=S^p$ は $p$ 乗である。$\mathbb G_a$ についても、$S^p-a$($a\in\Gamma(T,\mathcal O_T)$)で同じ議論をすればよい。

$p$ が可逆でないとき $T'\to T$ はエタールでない。これがエタール位相との違いである。

相対 Picard 群

比較定理の使い道は、相対 Picard 群を fppf 位相の Leray スペクトル系列で扱うことにある。まずその相対 Picard 群を、fppf 位相での層化として定める。

相対Picard群と障害準同型の設定

$f:X\to Y$ をスキームの射とする。$Y_{\mathrm{fppf}}$ 上の前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ の層化を $\mathcal Pic_{X/Y}$ と書き、その大域切断の群
$$ \mathrm{Pic}(X/Y):=\mathcal Pic_{X/Y}(Y) $$
を相対 Picard 群と呼ぶ(相対Picard関手)。

本頁では、次の条件をまとめて (S) と呼ぶ。

  • $f$ は準コンパクトかつ準分離である。
  • 任意の平坦な $Y'\to Y$ について $\mathcal O_{Y'}\to f'_*\mathcal O_{X\times_YY'}$ は同型である($f'$ は底変換)。原論文はこれを式 (5.3) として置き、平坦な底変換で保たれることを注意する。後半の議論では、より強く任意の底変換で保たれることを仮定する。
  • $f$ は $Y$ 上 fppf 局所的に切断をもつ(たとえば $f$ が忠実平坦かつ有限表示)。

引用する事実

次の事実は本頁では証明せず、引用として使う。出典は主に SGA4、SGA3、FGA、Mil80 で、該当箇所は本頁では確認していない。

  1. 高次順像の茎(SGA 4 VIII の型):$f$ が準コンパクト準分離なら、エタール層 $F$ について $(R^qf_*F)_{\bar y}\cong H^q(X\times_YY_{\bar y},F)$ である。ここで $Y_{\bar y}$ は $\bar y$ における狭義局所化である。
  2. 極限との交換(SGA 4 VII の型):準コンパクト準分離なスキームのアフィンな射影系について、コホモロジーは帰納極限と交換する。
  3. 狭義局所なスキームの非輪状性:$Y$ が狭義局所なら、任意のエタール層 $F$ について $H^i(Y,F)=0$($i\ge1$)。また $Y$ のエタール被覆の一つの成分は $Y$ と同型な連結成分をもつ(剰余体が分離閉で、$\mathcal O_Y$ が Hensel であることによる)。
  4. Picard スキーム(FGA):$X$ が体 $k$ 上固有なら、$\mathrm{Pic}_{X/k}$ は $k$ 上局所有限型な群スキームで表現され、原点での接空間は $H^1(X,\mathcal O_X)$、変形の障害は $H^2(X,\mathcal O_X)$ に住む。
  5. 無限小群の分類(SGA 3 の型):分離閉体 $k$(標数 $p>0$)上の有限無限小可換群スキームで単純なものは $\alpha_p$ または $\mu_p$ に同型である。
  6. 滑らかな商(SGA 3 の型):標数 $p>0$ の体 $k$ 上局所有限型な可換群スキーム $P$ には、有限無限小な部分群スキーム $N$ で $P/N$ が滑らかになるものがある。
  7. 代数閉体上の曲線:代数閉体上の代数曲線 $C$ について $\mathrm{Br}(C)=0$(III (1.2)。本書『次元 1 以下の体』の頁)。
  8. 次元 1 での $\mathrm{Br}=H^2$:ネーターで次元 1 以下のスキーム $V$ では $\mathrm{Br}(V)=H^2(V,\mathbb G_m)$(II (2.2) として引かれる形)。剰余体の条件は要らない。

主結果と証明

原論文は §5 の前半で結論を短く並べ、証明の多くを「いつものように」「直ちに」で済ませる。本頁では依存の順に並べ直し、省かれた段を補う。とくに原論文は、エタール位相での層化の式(原論文の式 (5.7))を狭義局所な底の場合(III (5.2))より前に印字するが、論理的には後者が先に要るので、本頁はその順に述べる。

前半:障害の完全列

出発点は、$f$ の fppf 位相での Leray スペクトル系列の低次の部分である。そこに現れる順像を (S) のもとで同定し、比較定理で $H^1$ と $H^2$ を読み替えると、相対 Picard 群と $H^2(Y,\mathbb G_m)$ をつなぐ列が得られる。

fppf位相でのLerayの低次の列

$f:X\to Y$ が (S) を満たすとする。このとき $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$($Y_{\mathrm{fppf}}$ 上の層を、$Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象に制限したものとして)、$R^1f_*\mathbb G_m=\mathcal Pic_{X/Y}$ であり(どちらも fppf 位相での順像)、完全列
$$ 0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\xrightarrow{\ \partial\ }H^2(Y,\mathbb G_m) $$
がある。ここで最後の項は、比較定理により $H^2(Y_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ と同一視したものである。

(a) $Y'$ を $Y$ 上平坦かつ局所有限表示とすると、(S) により $\Gamma(X\times_YY',\mathcal O)=\Gamma(Y',\mathcal O)$ なので単数の群も一致する。よって、平坦かつ局所有限表示な対象の上で $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$。fppf 位相のコホモロジーは、被覆がもともと平坦な射からなるので、$Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象だけからなる景で計算しても同じであり、以下の議論にはこの範囲の等式で足りる。
(b) $R^1f_*\mathbb G_m$ は前層 $Y'\mapsto H^1((X\times_YY')_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ の層化であり、比較定理によりこの前層は $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')$ に等しい。前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(Y')$ の層化は $0$ である(可逆層は Zariski 局所に自明だから)。層化は完全関手なので、商の前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ の層化 $\mathcal Pic_{X/Y}$ は $R^1f_*\mathbb G_m$ に等しい。
(c) $f$ の fppf 位相での Leray スペクトル系列の低次の完全列に (a)(b) を代入し、比較定理で $H^1(-_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)=\mathrm{Pic}$、$H^2(Y_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)=H^2(Y,\mathbb G_m)$ と書き換えればよい。

(S) の第 3 条件(fppf 局所的な切断)は、原論文が $\mathcal Pic_{X/Y}$ を FGA の定義(忠実平坦な位相での層化)と一致させるために置くもので、上の証明の段では直接は使っていない。原論文は (S) のもとでの等式 $\mathcal Pic_{X/Y}=R^1f_*\mathbb G_m$ に「一粒の塩をもって」という但し書きを付ける(III 印字 p. 126)。本頁の定義では、これは両辺を $Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象の上で比べるという意味である。
補題の完全列は、相対的な類が絶対的な直線束から来るための障害を $H^2(Y,\mathbb G_m)$ の元として与える。この障害が fppf 局所にではなくエタール局所に消えることが、次の定理である。

エタール局所的な持ち上げ

$f:X\to Y$ が (S) を満たすとする。$\xi\in\mathrm{Pic}(X/Y)$ に対し、$Y$ のエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ で、各 $i$ について $\xi$ の $\mathrm{Pic}(X\times_YY_i/Y_i)$ への像が $\mathrm{Pic}(X\times_YY_i)$ の元から来るものがある。

補題の完全列により、$\xi$ が $\mathrm{Pic}(X)$ から来るための障害はただ一つ、$\partial\xi\in H^2(Y,\mathbb G_m)$ の消滅である。エタールコホモロジーの正の次数の類は、適当なエタール被覆に制限すると消える(前層 $V\mapsto H^2(V,\mathbb G_m)$ の層化は $0$)。そこで $\partial\xi$ が消えるエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ をとる。(S) はエタールな底変換で保たれ、補題の完全列は $Y_i$ の上でも成り立ち、$\partial$ は底変換と両立する。よって各 $Y_i$ の上で $\xi$ の像は持ち上がる。

底が狭義局所なら、エタール局所的な持ち上げは大域的な持ち上げになる。

狭義局所な底

(S) に加えて $Y$ が狭義局所なら、$\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)$ は同型である。

引用 3 により $\mathrm{Pic}(Y)=H^1(Y,\mathbb G_m)=0$ なので、補題の完全列から単射性が出る。全射性:$\xi\in\mathrm{Pic}(X/Y)$ について定理のエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ をとる。引用 3 により、ある $Y_i$ は $Y$ と同型な連結成分 $Y^\circ$ をもつ。$\xi$ の像は $X\times_YY^\circ\cong X$ の上で直線束から来るので、$\xi$ 自身が $\mathrm{Pic}(X)$ の元の像である。

系は、狭義局所化の上では相対 Picard 群と絶対 Picard 群が一致することを言う。これを茎ごとに読めば、fppf 位相で層化した $\mathcal Pic_{X/Y}$ をエタール位相に制限したものが何であるかが分かる。

エタール位相での層化

$f:X\to Y$ が (S) を満たし、(S) の第 2 条件が任意の底変換で保たれるとする。このとき $\mathcal Pic_{X/Y}$ を $Y_{\mathrm{et}}$ に制限したものは $R^1f_*\mathbb G_m$(エタール位相での順像)に等しい。

概略のみ述べる。標準射があるので、幾何的点 $\bar y$ での茎を比べればよい。引用 1 により右辺の茎は $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y})$ である。左辺の茎は $\bar y$ のエタール近傍 $V$ にわたる帰納極限 $\varinjlim_V\mathrm{Pic}(X\times_YV/V)$ であり、引用 2 によりこれは $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y}/Y_{\bar y})$ に等しい。$Y_{\bar y}$ は狭義局所なので、系によりこれは $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y})$ である。

原論文はこの主張を III (5.1) の言い換えと位置づけ、証明を書かない。上の概略では、系を狭義局所化 $Y_{\bar y}$($Y$ 上局所有限表示とは限らない)に当てるところで、相対 Picard 群の定義を極限で延ばす操作を引用 2 に任せている。
この命題により、fppf 位相で得た補題の完全列を、エタール位相の Leray スペクトル系列から読み直すことができる。その利点は、列が右へ延びて $H^2(X,\mathbb G_m)$ との関係まで見えることである。

障害準同型を含む完全列

前の命題の仮定のもとで、エタールコホモロジーの完全列
$$ 0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\xrightarrow{\ \partial\ }H^2(Y,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}\to H^1(Y,\mathcal Pic_{X/Y}) $$
がある。ここで $H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}:=\ker\big(H^2(X,\mathbb G_m)\to H^0(Y,R^2f_*\mathbb G_m)\big)$ である。

$f$ のエタール位相での Leray スペクトル系列 $E_2^{s,t}=H^s(Y,R^tf_*\mathbb G_m)\Rightarrow H^{s+t}(X,\mathbb G_m)$ をとる。エタール射は平坦なので、補題の (a) と同じ理由で $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ であり、前の命題により $R^1f_*\mathbb G_m=\mathcal Pic_{X/Y}$ である。第一象限のスペクトル系列の低次の完全列
$$ 0\to E_2^{1,0}\to H^1\to E_2^{0,1}\to E_2^{2,0}\to\ker(H^2\to E_2^{0,2})\to E_2^{1,1} $$
にこれらを代入すると、$E_2^{1,0}=\mathrm{Pic}(Y)$、$H^1=\mathrm{Pic}(X)$、$E_2^{0,1}=\mathrm{Pic}(X/Y)$、$E_2^{2,0}=H^2(Y,\mathbb G_m)$、$E_2^{1,1}=H^1(Y,\mathcal Pic_{X/Y})$ となり、主張の列を得る。$\partial$ は微分 $d_2:E_2^{0,1}\to E_2^{2,0}$ である。

$H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}$ は、原論文が「遷移的な元」と呼ぶものを核として書き直したものである。$\partial\xi=0$ であることと $\xi$ が $\mathrm{Pic}(X)$ から来ることが同値なので、$\partial$ は相対的な直線束の類を絶対的な直線束へ持ち上げる障害である。$\partial$ の像は $H^2(Y,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ の核であり、「$X$ に引き戻すと消える Brauer 類」を相対 Picard 群が記述する、と読むこともできる。
残る問いは、この障害が Azumaya 代数の類として実現されるか、すなわち $\partial$ の値が $\mathrm{Br}(Y)$ に入るかである。原論文はこれに一つの主張を与えるが、本頁はそれを定理としては扱わない。

障害はいつAzumaya代数の類になるか

$\partial$ の値は一般には $H^2(Y,\mathbb G_m)$ の元であって、Azumaya 代数の類とは限らない。原論文は、Mumford の正規曲面(II の §1 の例)の特異点の補集合をとると $\partial$ の値が $\mathrm{Br}(Y)$ に入らない場合があると述べるが、その例自体に講演者の思い違いでなければという留保を付けている。本書はこの例を検証していない。
さらに原論文は、$f$ が平坦・固有・有限表示で (S) が普遍的に成り立つ場合に $\partial$ の値が $\mathrm{Br}(Y)$ に入るかは分からないと書き(III 印字 p. 128、原文は「J'ignore」)、$f$ が射影的で $Y$ が準コンパクト、各 $y$ で $\kappa(y)\cong H^0(X_y,\mathcal O)$ となる場合に $\partial$ が $\mathrm{Pic}(X/Y)\to\mathrm{Br}(Y)$ を与えると主張する(III (5.5))。その論拠は、十分豊富な $\xi$ に対して、$f_*$ した局所自由層の射影化をエタール降下して $Y$ 上の Severi–Brauer スキームを作り、その類が $\partial\xi$ に等しいとするものである。しかし原論文は、この類の一致を J. Giraud に帰して証明も文献も与えず、また任意の元が十分豊富な二つの元の差に書けることにも証明を与えない。本書はこの二点を確かめておらず、III (5.5) を定理としては扱わない。

後半:分離閉体上の固有スキーム

以下、$k$ を分離閉体、$\bar k$ をその代数閉包($\bar k/k$ は純非分離拡大)、$X$ を $k$ 上固有なスキーム、$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ とする。
$$ H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}:=\ker\Big(H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)\rightrightarrows H^2(X\otimes_k(\bar k\otimes_k\bar k),\mathbb G_m)\Big) $$
と置く。二つの射は $\bar k\otimes_k\bar k$ の二つの因子への埋め込みから来る。これは、降下の意味で「$k$ 上に定義されていてよい」元の部分群である。
前半と同じ Leray スペクトル系列を、今度は底を体 $k$ にして使う。底の fppf コホモロジーの係数として Picard スキーム $P$ が現れ、それが $H^2(X,\mathbb G_m)$ と上の部分群との差を測る。

分離閉体上の降下の完全列

上の設定で、制限写像を含む完全列
$$ 0\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}\to H^2(k_{\mathrm{fppf}},P) $$
がある。とくに、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ が単射であることと $H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$ は同値であり、$H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$ なら像はちょうど $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ である。

概略のみ述べる。$f:X\to\operatorname{Spec}k$ の fppf 位相での Leray スペクトル系列 $E_2^{s,t}=H^s(k_{\mathrm{fppf}},R^tf_*\mathbb G_m)$ を使う。
(1) 底の行が消えること.$A=H^0(X,\mathcal O_X)$ は $k$ 上有限な代数である。体上ではすべてのスキームが平坦なので、$k$ 上の任意の $T$ について $\Gamma(X_T,\mathcal O)=A\otimes_k\Gamma(T,\mathcal O)$ であり、$f_*\mathbb G_m$ は「$A$ の単数」の群スキーム $G$ で表される。$G$ は $A$ を台とするアフィン空間の中でノルムが可逆な開部分スキームなので、$k$ 上滑らかである。比較定理と、分離閉体の Galois コホモロジーが正の次数で消えることから、$E_2^{s,0}=H^s(k_{\mathrm{fppf}},G)=H^s(k,G)=0$($s\ge1$)。
(2) $R^1f_*\mathbb G_m=P$。 補題の (b) と同じ議論である。
(3) 列を読む.底の行が消えるので、$H^2(X_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ のフィルトレーションの次数付きの部分は $E_\infty^{1,1}=E_2^{1,1}=H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)$ と $E_\infty^{0,2}=\ker(d_2:E_2^{0,2}\to E_2^{2,1})$ だけである。これを並べると
$$ 0\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^2(X_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)\to H^0(k_{\mathrm{fppf}},R^2f_*\mathbb G_m)\to H^2(k_{\mathrm{fppf}},P) $$
を得る。比較定理により中央の項は $H^2(X,\mathbb G_m)$ である。
(4) 第 3 項の同定.$R^2f_*\mathbb G_m$ は前層 $T\mapsto H^2(X_T,\mathbb G_m)$ の層化である。$\operatorname{Spec}k$ の fppf 被覆は、有限な局所 $k$ 代数による被覆で細分でき(fppf 被覆が準有限な射で細分できるという SGA 3 の型の事実による)、さらにその剰余体 $L$ による被覆 $\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}k$ で細分できる。$k$ は分離閉なので $L/k$ は有限純非分離拡大であり、$\bar k$ はそのような $L$ の帰納極限である。引用 2 で極限をとると、大域切断は $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ になる。第 2 項から第 3 項への写像は Leray スペクトル系列の縁写像であり、これは底変換による制限写像である。

原論文は (4) を「容易な極限移行」とだけ書く。上の概略は、分離閉体の fppf 被覆が純非分離拡大で細分できるという一点に帰着させたものであり、層化の大域切断と帰納極限の交換は引用 2 に任せている。
この列の両端が消えれば、$H^2(X,\mathbb G_m)$ は降下データと両立する元の群そのものになる。両端が消える最も簡単な場合が、$P$ が滑らかな場合である。

Picardスキームが滑らかな場合

$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ が $k$ 上滑らかなら、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ は同型である。$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ の場合と $H^1(X,\mathcal O_X)=0$ の場合は、$P$ が滑らかになる。

$P$ が滑らかなら、比較定理と $k$ の分離閉性により $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=H^i(k,P)=0$($i\ge1$)なので、命題の列から主張が出る。
後半の二つの場合は理由が異なる。$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ なら、引用 4 により変形の障害が消えるので、局所有限型の $P$ は形式的に滑らか、したがって滑らかである。$H^1(X,\mathcal O_X)=0$ なら、引用 4 により原点での接空間が $0$ である。体上局所有限型の群スキームは平行移動で等質なので、どの点でも不分岐であり、したがって $P$ はエタール、とくに滑らかである。

滑らかさの十分条件のうち $H^2(X,\mathcal O_X)=0$ は、次元 1 では自動的に満たされる。これが曲線の場合を与える。

分離閉体上の曲線

$X$ を分離閉体 $k$ 上の固有な代数曲線とする。このとき $H^2(X,\mathbb G_m)=0$、とくに $\mathrm{Br}(X)=0$ である。

$X$ は次元 1 なので、連接層の $H^2$ は消え、$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ である。前の系により $P$ は滑らかで、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ は単射である。$X_{\bar k}$ は代数閉体上の固有な代数曲線なので、引用 7 により $\mathrm{Br}(X_{\bar k})=0$ であり、引用 8 により $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(X_{\bar k})=0$ である。よって $H^2(X,\mathbb G_m)=0$ であり、標準的な単射 $\mathrm{Br}(X)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ により $\mathrm{Br}(X)=0$ である。

$X_{\bar k}$ に引用 8 を当てる段に留保はない。$X_{\bar k}$ はネーターで次元 $1$ の曲線であり、引用 8 は剰余体の条件なしに適用できる(原論文は III (1.2) を $X_{\bar k}$ に当てることも、そのために単射性が要ることも書かず、「(1.2) を使えば」とだけ書く)。
$P$ が滑らかでない場合には、命題の列の両端が残る。標数 $p>0$ で、$P$ を滑らかな部分と無限小の商に分けて、その残りがどれだけかを見る。

Picardスキームが滑らかでない場合

$k$ の標数を $p>0$ とし、$P$ の被約部分 $P'=P_{\mathrm{red}}$ が $k$ 上滑らかな部分群スキームであると仮定する。$P''=P/P'$ と置くと次が成り立つ。

  1. $P''$ は有限無限小な可換群スキームであり、$H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)\cong H^i(k_{\mathrm{fppf}},P'')$($i\ge1$)。
  2. $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P'')=0$($i\ge2$)。
  3. $k$ が完全でなく $P''\ne0$ なら、$H^1(k_{\mathrm{fppf}},P'')\ne0$。
    したがって $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ は全射であり、$k$ が完全でないとき、それが単射であることと $P$ が滑らかであることは同値である。
  1. $P''$ は被約な部分を割った商なので、有限かつ無限小(点が一つで局所環がアルティン)である。$P'$ は滑らかなので $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P')=H^i(k,P')=0$($i\ge1$)であり、$0\to P'\to P\to P''\to0$ の長完全列から主張が出る。
    (2)(3) まず単純な場合を計算する。引用 5 により、単純なものは $\alpha_p$ か $\mu_p$ である。$0\to\alpha_p\to\mathbb G_a\to\mathbb G_a\to0$(fppf 位相で完全)と $H^i(k_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_a)=H^i(k,\mathbb G_a)=0$($i\ge1$)から
    $$ H^1(k_{\mathrm{fppf}},\alpha_p)=k/k^p,\qquad H^i(k_{\mathrm{fppf}},\alpha_p)=0\ (i\ge2) $$
    を得る。同様に $1\to\mu_p\to\mathbb G_m\to\mathbb G_m\to1$ と $H^i(k_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)=H^i(k,\mathbb G_m)=0$($i\ge1$)から
    $$ H^1(k_{\mathrm{fppf}},\mu_p)=k^\times/(k^\times)^p,\qquad H^i(k_{\mathrm{fppf}},\mu_p)=0\ (i\ge2) $$
    を得る。$k$ が完全でなければ $a\in k\setminus k^p$ がとれ、$a$ は $0$ でないので単数で $p$ 乗でもない。よって二つの $H^1$ はどちらも $0$ でない。$k$ が分離閉であることはここでは助けにならない($S^p-a$ は純非分離な多項式である)。
    一般の $P''$ は単純な部分商による有限の組成列をもつので、長完全列と長さについての帰納法で (2) が出る。(3) については、$0$ でない単純な部分群 $P_1\subset P''$ をとり、$Q=P''/P_1$ と置く。無限小な群の $k$ 有理点は単位元だけなので $Q(k)=0$ であり、長完全列 $Q(k)\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P_1)\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P'')$ から右の写像は単射である。左辺は $0$ でないので $H^1(k_{\mathrm{fppf}},P'')\ne0$。
    最後の主張:(1)(2) により $H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$ なので、降下の完全列により全射である。核は $H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\cong H^1(k_{\mathrm{fppf}},P'')$ で、$k$ が完全でなければ、これが $0$ であることは $P''=0$、すなわち $P=P_{\mathrm{red}}$ が滑らかであることと同値である。

原論文はこの計算を「容易な分解(dévissage)」の一言で済ませ(III 印字 p. 132)、$\alpha_p$ と $\mu_p$ への分解も、$H^1$ が $0$ でないことの論証も書かない。また原論文は、$P^0$ が $k$ 上固有なら(たとえば $X$ が幾何的に正規なら)$P_{\mathrm{red}}$ が滑らかな部分群スキームになると述べるが、紙面に証明は無く、本書は確かめていない。非完全体の上では被約な群スキームが滑らかとは限らないので、本頁ではこれを仮定として置いた。
前の命題は $P_{\mathrm{red}}$ の滑らかさを仮定した。全射性だけなら、この仮定なしに同じ結論が得られる。

降下の写像の全射性

$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ に何も仮定しなくても、$H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$($i\ge2$)である。したがって $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ はつねに全射である。

標数 $0$ なら $k$ は完全で分離閉、すなわち代数閉なので $\bar k=k$ であり、主張は自明である($P$ も滑らかである)。標数 $p>0$ とする。引用 4・引用 6 により、有限無限小な部分群 $N\subset P$ で $P/N$ が滑らかなものがとれる。$P/N$ は滑らかなので $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P/N)=0$($i\ge1$)であり、長完全列
$$ H^{i-1}(k_{\mathrm{fppf}},P/N)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},N)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},P/N) $$
で $i\ge2$ なら両端が $0$ である。$N$ は有限無限小な可換群スキームなので、前の命題の (2) の証明(組成列による帰納法)により $H^i(k_{\mathrm{fppf}},N)=0$($i\ge2$)。よって $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$($i\ge2$)であり、降下の完全列から全射性が出る。

原論文は $N$ の存在を使えと括弧で指示するだけで、この長完全列を書かない。また原論文の印字では、結論の右辺が $\mathrm{Br}(X_{\bar k})^{\mathrm{inv}}$ と書かれているが、定義に合わせて $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ と読む。

例と反例

以下の例は、前半の障害準同型が実際に $0$ でない値をとる場合と、後半で群の滑らかさを外したときに何が起きるかを示す。まず前半の例である。

実数体上の点をもたない円錐曲線

原論文に無い例である。$Y=\operatorname{Spec}\mathbb R$、$X\subset\mathbb P^2_{\mathbb R}$ を $x^2+y^2+z^2=0$ で定まる円錐曲線とする。$X$ は固有で幾何的に整なので (S) の第 2 条件を普遍的に満たし、$X_{\mathbb C}\cong\mathbb P^1_{\mathbb C}$ は切断をもつので第 3 条件も満たす。

  • $\mathrm{Pic}(X/Y)$:エタール位相での層化の命題により、これは $\mathrm{Pic}(X_{\mathbb C})=\mathbb Z$(次数)の $\mathrm{Gal}(\mathbb C/\mathbb R)$ 不変部分であり、複素共役は次数を保つので $\mathrm{Pic}(X/Y)=\mathbb Z$。
  • $\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)$ の像:$X$ は実点をもたないので、閉点の次数はすべて $2$ であり、$X$ 上の因子の次数は偶数である。$\mathcal O_{\mathbb P^2}(1)|_X$ は次数 $2$ なので、像はちょうど $2\mathbb Z$ である。
  • したがって障害の完全列により、$\partial:\mathbb Z\to H^2(\mathbb R,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(\mathbb R)\cong\mathbb Z/2$ は核 $2\mathbb Z$ をもち、$\partial(1)$ は $\mathrm{Br}(\mathbb R)$ の $0$ でない元(Hamilton の四元数の類)である。
    この例では $\partial$ の値は Azumaya 代数の類であり、次数 $1$ の相対的な直線束が $X$ 上に実在しないことを、四元数環の類が測っている。また完全列の次の項から、この類は $X$ に引き戻すと $0$ になる。

次の二つは後半に関わる。まず、比較定理の滑らかさの仮定が外せないことを、最も小さい群で見る。

滑らかでない群では比較が壊れる

$k$ を標数 $p>0$ の完全でない分離閉体とする。命題「Picardスキームが滑らかでない場合」の証明と同じ計算で $H^1(k_{\mathrm{fppf}},\mu_p)=k^\times/(k^\times)^p\ne0$ である。他方、エタールコホモロジーでは $H^1(k,\mu_p)=0$($k$ は分離閉)である。したがって、比較定理から「滑らか」を外すことはできない。破られるのは群の滑らかさだけで、$\mu_p$ は $k$ 上有限かつ平坦な可換群スキームである。

この $\mu_p$ の計算が、Picard スキームが被約でない場合にそのまま効く。

降下の写像が単射でない場合

完全体 $k_0$ 上の射影的で滑らかな曲面 $X_0$ で、$\mathrm{Pic}_{X_0/k_0}$ が被約でないものがあるとする(標数 $2$ の Igusa の曲面がそのような例であることが知られている。本頁では出典を確認していない)。$k$ を $k_0$ を含む完全でない分離閉体(たとえば $\bar k_0(t)$ の分離閉包)とし、$X=X_0\otimes_{k_0}k$ と置く。$\mathrm{Pic}_{X/k}=\mathrm{Pic}_{X_0/k_0}\otimes k$ であり、完全体上では被約部分が滑らかな部分群スキームなので、その底変換は $\mathrm{Pic}_{X/k}$ の被約部分で、滑らかである。$\mathrm{Pic}_{X/k}$ は滑らかでないので、命題「Picard スキームが滑らかでない場合」により、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ は単射でない。すなわち、代数閉包へ上げると消える $H^2$ の元がある。

曲線ではこの現象は起きない。次元 1 では $H^2(X,\mathcal O_X)=0$ なので Picard スキームはつねに滑らかであり、系「分離閉体上の曲線」の証明がその事実を使っている。

その後の発展

以下は原論文(1966 年の講演、1968 年刊)より後の展開であり、本頁では出典を確認していない。

  • 相対 Picard 関手を fppf 位相での層化として定義し、原論文の完全列(補題と定理「障害準同型を含む完全列」)を基本的な道具として述べる扱いは、その後の Picard スキームの解説(たとえば 2005 年に刊行された FGA の解説書の Kleiman の章)で標準になったとされる。表現可能性は、M. Artin により代数空間としての表現可能性へ一般化されたとされる(1969 年ごろ)。
  • 障害 $\partial\xi$ は、$\xi$ を直線束へ持ち上げる仕方の全体がなす $\mathbb G_m$ ジェルブの類として解釈される。この見方は J. Giraud の非可換コホモロジー(1971 年刊)に由来するとされ、原論文が類の一致を Giraud に帰したこととつながると読めるが、原論文の紙面はそう書いていない。
  • $\mathrm{Br}$ と $H^2(-,\mathbb G_m)_{\mathrm{tors}}$ の比較については、本書『2-2 Brauer 類の実現』の頁の「その後の発展」を見よ。

原論文との対応表

原論文(III §5、印字 pp. 124–133、Gro68)本頁
式 (5.1)(5.2):$\varepsilon_*$ と比較写像命題「低い次数での比較」
式 (5.2) が滑らかな $G$ で同型であること(付録 (11.7) に委任)定理「比較定理」(『エタールと fppf の比較定理』の頁で証明)
式 (5.3)(5.4):仮定と $\mathcal Pic_{X/Y}=R^1f_*\mathbb G_m$条件 (S)、補題「fppf位相でのLerayの低次の列」
式 (5.5)(5.6)同上の補題の完全列と比較定理
定理 (5.1)定理「エタール局所的な持ち上げ」
式 (5.7)命題「エタール位相での層化」(順序を系の後に回した)
系 (5.2)・式 (5.8)系「狭義局所な底」
系 (5.3)・式 (5.9)、段落 (5.4)定理「障害準同型を含む完全列」
Mumford の例、「J'ignore」、射影束の構成、系 (5.5)・式 (5.10)注意「障害はいつAzumaya代数の類になるか」(III (5.5) は定理として扱わない)
式 (5.11)〜(5.14)、命題 (5.6)命題「分離閉体上の降下の完全列」
式 (5.15)、系 (5.7)系「Picardスキームが滑らかな場合」
系 (5.8)系「分離閉体上の曲線」
注意 (5.9)・式 (5.16)〜(5.18)命題「Picardスキームが滑らかでない場合」
式 (5.19)定理「降下の写像の全射性」
(原論文に無い)例「実数体上の点をもたない円錐曲線」、例「降下の写像が単射でない場合」

原論文の §5 では、式番号と言明の番号が同じ数字を使う(式 (5.1)〜(5.4) と定理 (5.1)・系 (5.2)(5.3) など)。上の表では種別を添えて区別した。また原論文は式番号 (5.12) を二度印字している。

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