整数の素因数分解と多項式の既約因子分解はよく似ています。どちらにも余りつき除法があり、Euclid互除法が働き、最大公約数をBézout結合で表せます。本章では、この計算を可能にする構造を抽象化し、一意分解までの論理をつなぎます。
本章では整域だけを扱います。
$a,b\in R$ に対し、ある $c\in R$ が $b=ac$ を満たすとき $a\mid b$ と書く。$a\mid b$ かつ $b\mid a$ のとき $a,b$ は同伴元|同伴であるという。
整域では、非零元 $a,b$ が同伴であることと、ある単元 $u$ により $a=ub$ と書けることは同値です。実際 $a=rb,b=sa$ なら
$$
a=rsa.
$$
$a\ne0$ を消去して $rs=1$、従って $r,s$ は単元です。
素元は既約元です。実際 $p=ab$ なら $p\mid ab$ なので $p\mid a$ または $p\mid b$。$p\mid a$ として $a=pc$ と書けば
$$
p=pcb.
$$
$p\ne0$ を消去して $1=cb$、従って $b$ は単元です。
逆に既約元が常に素元とは限りません。PIDでは逆が成り立つことが、一意分解の核心になります。
整域 $R$ に写像
$$
\delta:R\setminus\{0\}\to\mathbb Z_{\ge0}
$$
があり、任意の $a,b\in R$、$b\ne0$ に対して
$$
a=bq+r
$$
かつ
$$
r=0\quad\text{または}\quad\delta(r)<\delta(b)
$$
となる $q,r\in R$ を取れるとき、$R$ をEuclid整域という。
$\mathbb Z$ では $\delta(n)=|n|$、体 $K$ 上の $K[x]$ では $\delta(f)=\deg f$ を使えます。除法を繰り返すと $\delta$ が真に減少するので有限回で止まり、Euclid互除法が成立します。
すべてのイデアルが単項イデアルである整域を主イデアル整域、略してPIDという。
Euclid整域はPIDである。
Euclid整域 $R$ のイデアル $I$ を取ります。$I=\{0\}$ なら $I=(0)$。$I\ne\{0\}$ なら、非零元 $a\in I$ の $\delta(a)$ のうち最小のものを取る $d\in I$ を選びます。
任意の $a\in I$ を $d$ で割り
$$
a=dq+r,
\qquad r=0\text{ または }\delta(r)<\delta(d)
$$
と書きます。$a,d\in I$ なので
$$
r=a-dq\in I.
$$
$r\ne0$ なら $d$ の選び方に反して $I$ により小さいEuclid値の非零元が入ります。従って $r=0$ で $d\mid a$。よって $I\subset(d)$。
逆に $d\in I$ なので吸収性から $(d)\subset I$。従って $I=(d)$ です。□
この証明で、Euclid除法は「イデアルの中の最小元が全体を生成する」ために使われています。
PID $R$ の元 $a,b$ に対し、イデアル $(a,b)$ の生成元 $d$ は $a,b$ の最大公約元であり、ある $x,y\in R$ により
$$
d=ax+by
$$
と書ける。
PIDなので $(a,b)=(d)$ となる $d$ があります。$a,b\in(d)$ だから $d\mid a,d\mid b$、すなわち $d$ は公約元です。
$c$ が $a,b$ の公約元なら $a=ca',b=cb'$ と書けます。$d\in(a,b)$ なので、ある $x,y$ により
$$
d=ax+by=c(a'x+b'y),
$$
従って $c\mid d$。よって $d$ は最大公約元です。また表示 $d=ax+by$ は $(a,b)$ の定義そのものから得られます。□
最大公約元は単元倍を除いて一意です。$d,d'$ がともに最大公約元なら互いに割り切るので同伴です。
PIDの既約元 $p$ は素元である。
$p\mid ab$ とします。イデアル $(p,a)$ はPIDなので $(d)$ と書けます。$d\mid p$ で $p$ は既約だから、$d$ は単元であるか $p$ と同伴です。
$d$ が $p$ と同伴なら $(p,a)=(p)$。特に $a\in(p)$ なので $p\mid a$。
$d$ が単元なら $(p,a)=R$。Bézout恒等式から
$$
xp+ya=1
$$
となる $x,y\in R$ があります。両辺に $b$ を掛けると
$$
b=xpb+yab.
$$
右辺の第一項は $p$ の倍数で、仮定 $p\mid ab$ から第二項も $p$ の倍数。従って $p\mid b$ です。いずれの場合も $p\mid a$ または $p\mid b$ なので、$p$ は素元です。□
整域 $R$ が次を満たすとき、一意分解整域、略してUFDという。
PIDからUFDを導くには、まず分解操作が無限に続かないことを示します。
PIDのイデアルの昇鎖
$$
I_1\subset I_2\subset I_3\subset\cdots
$$
は有限段で停止する。
和集合
$$
I=\bigcup_{n\ge1}I_n
$$
を考えます。$x\in I_m,y\in I_n$ なら、$N=\max(m,n)$ として $x,y\in I_N$ なので $x-y\in I_N\subset I$。また外からの積でも閉じるため $I$ はイデアルです。
PIDなので $I=(d)$。$d\in I$ だから、ある $N$ で $d\in I_N$。すると
$$
I=(d)\subset I_N\subset I,
$$
よって $I_N=I$。$n\ge N$ では $I_N\subset I_n\subset I$ なので全て等しく、昇鎖は停止します。□
主イデアル整域は一意分解整域である。
まず分解の存在を示します。非零非単元 $a$ が既約なら終わり。既約でなければ
$$
a=a_1b_1
$$
と非単元の積に分解できます。このとき
$$
(a)\subsetneq(a_1).
$$
包含は $a=a_1b_1$ から従います。もし等号なら $a_1=ac$ と書け、
$$
a_1=a_1b_1c.
$$
$a_1\ne0$ を消去すると $b_1c=1$ となり、$b_1$ が単元になって矛盾です。
$a_1$ が既約でなければさらに分解し、主イデアルの真の昇鎖
$$
(a)\subsetneq(a_1)\subsetneq(a_2)\subsetneq\cdots
$$
を得ます。昇鎖停止補題によりこれは有限回で止まります。同じ操作を各未分解因子へ行うと、有限個の既約元の積が得られます。より形式的には、分解不能な元があると仮定し、そのような元から上の昇鎖を作れば停止点も分解不能かつ可約となり矛盾します。
次に一意性を示します。
$$
p_1p_2\cdots p_r=q_1q_2\cdots q_s
$$
を既約分解とします。PIDでは既約元 $p_1$ は素元なので、右辺の積を割れば、ある $j$ で $p_1\mid q_j$。$q_j$ も既約なので $p_1$ と $q_j$ は同伴です。順序を入れ替え、単元を吸収して両辺からこの因子を消去できます。これを帰納的に繰り返すと $r=s$ で、順序を除いて各 $p_i$ が対応する $q_i$ と同伴になります。□
以上から
$$
\text{Euclid整域}\Longrightarrow\text{PID}
\Longrightarrow\text{UFD}
$$
が証明されました。
$$
\mathbb Z[i]=\{a+bi:a,b\in\mathbb Z\}
$$
にノルム
$$
N(a+bi)=a^2+b^2
$$
を定めます。
$\mathbb Z[i]$ は $N$ をEuclid関数とするEuclid整域である。
$\alpha,\beta\in\mathbb Z[i]$、$\beta\ne0$ とします。複素数 $z=\alpha/\beta$ の実部・虚部に最も近い整数 $m,n$ を選び、$q=m+ni$ と置きます。各座標の誤差は絶対値 $1/2$ 以下なので
$$
|z-q|^2\le\frac14+\frac14=\frac12<1.
$$
$r=\alpha-q\beta$ とすれば $\alpha=q\beta+r$ で、$r\ne0$ の場合
$$
N(r)=|r|^2=|\beta|^2|z-q|^2
<|\beta|^2=N(\beta).
$$
従ってEuclid除法が成り立ちます。□
たとえば $7$ を $3+i$ で割ります。
$$
\frac7{3+i}=\frac{21-7i}{10}=2.1-0.7i
$$
に近いGaussian整数として $2-i$ を取ると
$$
7=(2-i)(3+i)+i.
$$
余り $i$ は単元なので $7$ と $3+i$ は互いに素です。
$R=\mathbb Z[\sqrt{-5}]$ では
$$
6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
$$
という二つの分解があります。ノルム
$$
N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2
$$
は積を保ちます。ノルム2または3の元は存在しないため、ノルム4の2、ノルム9の3、ノルム6の $1\pm\sqrt{-5}$ はいずれも既約です。また単元のノルムは1なので単元は $\pm1$ だけで、二つの分解の因子は単元倍でも一致しません。従って $R$ はUFDではありません。
これは「整域なら素因数分解が一意」という思い込みが誤りであることを示します。
$\mathbb Z[i]$ の単元をすべて求めよ。
$\alpha\beta=1$ なら
$$
N(\alpha)N(\beta)=N(1)=1.
$$
ノルムは非負整数なので $N(\alpha)=1$。$a^2+b^2=1$ の整数解は
$$
(a,b)=(\pm1,0),(0,\pm1)
$$
だけです。従って単元は
$$
1,-1,i,-i
$$
です。実際それぞれ逆元をもちます。□
PID $R$ の元 $a,b$ について、共通の非単元因子をもたないことと
$$
(a,b)=R
$$
が同値であり、このとき $ax+by=1$ となる $x,y\in R$ が存在することを示せ。
$(a,b)=(d)$ とします。$d$ は最大公約元です。共通の非単元因子がないことは、最大公約元 $d$ が単元であることと同値です。$d$ が単元なら $(d)=R$、逆に $(d)=R$ なら $1\in(d)$ なので $d$ は単元です。従って最初の同値を得ます。
$(a,b)=R$ なら $1\in(a,b)$ なので、生成イデアルの定義から
$$
ax+by=1
$$
となる $x,y$ が存在します。□
本文で使ったノルムの議論を詳しく補い、$2,3,1+\sqrt{-5},1-\sqrt{-5}$ が既約であることを示せ。
ノルムは非負整数で積を保ち、非零非単元のノルムは1より大きいです。$a^2+5b^2=2$ または3には整数解がありません。実際 $b=0$ なら平方が2または3にならず、$|b|\ge1$ ならノルムは5以上です。
2が可約なら $N(2)=4$ が1より大きい二整数の積となるので両因子のノルムは2ですが、そのような元はありません。3が可約なら $N(3)=9$ から両因子のノルムは3ですが不可能です。
$N(1\pm\sqrt{-5})=6$。可約なら因子のノルムは2と3でなければなりませんが、どちらのノルムの元も存在しません。従って四元はすべて既約です。□
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