9-1 多項式環とGaussの補題

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整数係数多項式を因数分解するとき、有理数係数まで広げれば割り算が使えて便利です。しかし、係数体を広げたことで新しい因数分解が生じないかを確認する必要があります。Gaussの補題は、係数の共通因子と多項式本体を分離し、この往復を正当化します。
本章では $R$ をUFD、$K=\operatorname{Frac}(R)$ をその分数体とします。最重要例は $R=\mathbb Z,K=\mathbb Q$ です。

内容と原始多項式

多項式の内容

非零多項式
$$ f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\in R[x] $$
の係数 $a_0,\ldots,a_n$ の最大公約元を $f$ の多項式の内容|内容といい $c(f)$ と書く。内容が単元である多項式を原始多項式という。

最大公約元は単元倍を除いて一意なので、内容も単元倍を除いて定まります。$R=\mathbb Z$ では正の最大公約数を選び、内容を一意にできます。
たとえば
$$ f(x)=6x^3-9x^2+15 $$
の内容は3で、
$$ f(x)=3(2x^3-3x^2+5) $$
と内容と原始部分へ分かれます。
任意の非零 $f\in R[x]$ は
$$ f=c(f)f_0 $$
と書け、$f_0$ は原始多項式です。

原始多項式の積

Gaussの補題(原始性)

UFD $R$ 上の原始多項式 $f,g$ の積 $fg$ は原始多項式である。

$fg$ が原始的でないと仮定します。その全係数を割る非単元があり、その既約因子として素元 $p\in R$ を取れます。UFDでは既約元は素元です。
$p$ は $f$ の全係数を割るわけではありません。そうなら $f$ が原始的であることに反します。同様に $g$ にも $p$ で割れない係数があります。
商環 $R/(p)$ を考えます。$p$ は素元なので $(p)$ は素イデアルで、$R/(p)$ は整域です。係数をmod $p$ で写した多項式を $\overline f,\overline g$ とすると、どちらも零多項式ではありません。整域上の多項式環も整域なので
$$ \overline f\,\overline g\ne0. $$
しかし $p$ が $fg$ の全係数を割るという仮定は、$\overline{fg}=0$ を意味し、
$$ \overline{fg}=\overline f\,\overline g $$
に矛盾します。従って $fg$ は原始的です。□

内容の乗法性

非零 $f,g\in R[x]$ に対し
$$ c(fg)\sim c(f)c(g) $$
である。ここで $\sim$ は同伴を表す。

$f=c(f)f_0,g=c(g)g_0$ と原始部分へ分けます。すると
$$ fg=c(f)c(g)f_0g_0. $$
Gaussの補題から $f_0g_0$ は原始的なので、右辺の係数全体の最大公約元は $c(f)c(g)$ と同伴です。□

分母を払っても因数分解は変わらない

Gaussの補題(既約性)

原始多項式 $f\in R[x]$ に対し、次は同値である。

  1. $f$ は $R[x]$ で既約。
  2. $f$ は $K[x]$ で既約。

$K[x]$ で既約なら、$R[x]$ での非自明な分解はそのまま $K[x]$ での分解になるので $R[x]$ でも既約です。
逆向きの対偶を示します。$f$ が $K[x]$ で可約とし
$$ f=gh, \qquad g,h\in K[x], \qquad \deg g,\deg h>0 $$
と書きます。係数の分母をまとめて払うと、非零 $a,b\in R$ と $G,H\in R[x]$ があり
$$ g=G/a, \qquad h=H/b. $$
従って
$$ abf=GH. $$
$G=c(G)G_0,H=c(H)H_0$ と原始部分へ分けると
$$ abf=c(G)c(H)G_0H_0. $$
内容を比較します。$f,G_0,H_0$ は原始的で、原始多項式の積も原始的なので
$$ ab\sim c(G)c(H). $$
したがってある単元 $u\in R^\times$ により
$$ ab=u\,c(G)c(H) $$
と書けます。整域 $R[x]$ で非零定数を消去すると
$$ f=u^{-1}G_0H_0. $$
$u^{-1}G_0$ と $H_0$ は正次数の $R[x]$ の多項式なので、$f$ は $R[x]$ でも可約です。対偶により主張を得ます。□

この定理により、原始な整数係数多項式の既約性は $\mathbb Q[x]$ で調べて構いません。

有理根定理

有理根定理

整数係数多項式
$$ f(x)=a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0, \qquad a_n\ne0 $$
が、互いに素な整数 $p,q$($q>0$)に対して $f(p/q)=0$ を満たすなら
$$ p\mid a_0, \qquad q\mid a_n. $$

$f(p/q)=0$ に $q^n$ を掛けると
$$ a_np^n+a_{n-1}p^{n-1}q+\cdots+a_1pq^{n-1}+a_0q^n=0. $$
最後の項を右辺へ移すと、右辺の各項は $p$ の倍数なので $p\mid a_0q^n$。$\gcd(p,q)=1$ だから $p$ は $q^n$ と互いに素で、Euclidの補題から $p\mid a_0$。
同様に最初の項を残して他を右へ移すと $q\mid a_np^n$。$q$ と $p^n$ は互いに素なので $q\mid a_n$ です。□

たとえば
$$ 2x^3-3x^2-8x+12 $$
の有理根候補は
$$ \pm1,\pm2,\pm3,\pm4,\pm6,\pm12, \quad \pm\frac12,\pm\frac32. $$
実際 $x=2$ は根で、割ると
$$ 2x^3-3x^2-8x+12=(x-2)(2x^2+x-6) =(x-2)(2x-3)(x+2). $$

UFD上の多項式環

多項式環のUFD性

$R$ がUFDなら $R[x]$ もUFDである。

まず既約分解の存在を示します。非零多項式 $f$ を
$$ f=c(f)f_0 $$
と内容と原始部分へ分けます。$c(f)$ はUFD $R$ で既約分解できます。一方、$K[x]$ はEuclid整域なのでUFDで、$f_0$ は $K[x]$ で既約多項式の積に分解できます。
各 $K[x]$ の因子について分母を払い、その係数の内容を除けば、$K^\times$ 倍を除いて原始な $R[x]$ の多項式 $P_i$ になります。従って
$$ f_0=\lambda P_1\cdots P_m \qquad(\lambda\in K^\times). $$
$\lambda=a/b$ と既約な分数で書いて分母を払うと
$$ bf_0=aP_1\cdots P_m. $$
両辺の内容を比較すると、$f_0$ と $P_1\cdots P_m$ は原始的なので $b\sim a$。$a,b$ は互いに素だから両方とも単元で、$\lambda$ は $R$ の単元です。Gaussの既約性補題により、$K[x]$ で既約な原始因子 $P_i$ は $R[x]$ でも既約です。従って $R[x]$ で既約分解が存在します。
一意性のため、$R[x]$ の既約元が素元であることを示します。定数既約元 $p\in R$ については、UFDで既約元は素元なので $R/(p)$ は整域。従って
$$ R[x]/(p)\cong(R/(p))[x] $$
も整域で、$(p)$ は素イデアル、すなわち $p$ は $R[x]$ でも素元です。
非定数既約元 $P\in R[x]$ は原始です。$P\mid FG$ が $R[x]$ で成り立つと、$K[x]$ でも $P\mid FG$。$K[x]$ はPIDなので既約元 $P$ は素元で、$P\mid F$ または $P\mid G$ が $K[x]$ で成り立ちます。
たとえば $F=PH$、$H\in K[x]$ とします。$F=c(F)F_0$ と原始部分へ分け、$H$ の分母を払って $H=H_1/d$($H_1\in R[x],d\ne0$)と書き、さらに $H_1=c(H_1)H_0$ とします。すると
$$ dc(F)F_0=c(H_1)PH_0. $$
両辺の内容を比較すると
$$ dc(F)\sim c(H_1), $$
なぜなら $F_0,P,H_0$ は原始的だからです。定数部分を消去すれば
$$ F_0=uPH_0 $$
となる単元 $u\in R^\times$ を得ます。従って $P\mid F_0$、ゆえに $P\mid F$ が $R[x]$ でも成り立ちます。よって $P$ は $R[x]$ の素元です。
すべての既約元が素元なら、二つの既約分解の一方の先頭因子は他方のどれかを割り、既約性から同伴になります。消去を繰り返せば順序と単元倍を除く一意性が従います。よって $R[x]$ はUFDです。□

帰納法により
$$ R[x_1,\ldots,x_n] $$
もUFDです。特に $\mathbb Z[x_1,\ldots,x_n]$ と $K[x_1,\ldots,x_n]$ はUFDです。

UFDでもPIDとは限らない

$K[x,y]$ は上の定理によりUFDですが、イデアル $(x,y)$ は単項ではありません。

$(x,y)$ は単項でない

体 $K$ に対し、$K[x,y]$ のイデアル $(x,y)$ は単項イデアルでない。

$(x,y)=(f)$ と仮定します。$x,y\in(f)$ なので $f\mid x$ かつ $f\mid y$。UFD $K[x,y]$ で $x,y$ は互いに同伴でない既約元なので、共通因子 $f$ は単元でなければなりません。すると $(f)=K[x,y]$ です。
しかし $(x,y)$ は真のイデアルです。実際、評価写像
$$ K[x,y]\to K, \qquad F(x,y)\mapsto F(0,0) $$
の核が $(x,y)$ なので $1\notin(x,y)$。矛盾。従って単項ではありません。□

これで
$$ \text{PID}\Longrightarrow\text{UFD} $$
の逆が一般には成り立たないことも確認できました。

内容を計算する

$$ f=6x^2+9x+3, \qquad g=10x-15 $$
について $c(f),c(g),c(fg)$ を求め、内容の乗法性を確認せよ。

解答

$$ c(f)=3,qquad c(g)=5. $$
積は
$$ fg=60x^3+0x^2-105x-45. $$
非零係数の最大公約数は
$$ \gcd(60,105,45)=15. $$
従って
$$ c(fg)=15=c(f)c(g). $$
□

二次多項式の既約性

$2x^2+3x+3$ が $\mathbb Z[x]$ で既約であることを示せ。

解答

係数の最大公約数は1なので原始的です。二次多項式が $\mathbb Q[x]$ で可約なら有理根をもちます。有理根定理による候補は
$$ \pm1,\pm3,\pm\frac12,\pm\frac32. $$
代入しても0になりません。あるいは判別式
$$ 3^2-4\cdot2\cdot3=-15 $$
は $\mathbb Q$ の平方でないため有理根をもちません。従って $\mathbb Q[x]$ で既約。Gaussの補題から $\mathbb Z[x]$ でも既約です。□

$\mathbb Z[x]$ はPIDでない

$\mathbb Z[x]$ のイデアル $(2,x)$ が単項でないことを示せ。

解答

$(2,x)=(f)$ と仮定します。$f\mid2$ なので $f$ は定数で、その絶対値は1または2です。$f=\pm1$ なら $(f)=\mathbb Z[x]$ ですが、$(2,x)$ は写像
$$ \mathbb Z[x]\to\mathbb F_2, \qquad F\mapsto[F(0)] $$
の核なので真のイデアルです。$f=\pm2$ なら $f$ は $x$ を割りません。どちらも矛盾なので $(2,x)$ は単項でなく、$\mathbb Z[x]$ はPIDではありません。□

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環とイデアル ― 多項式環・PID・UFDの表紙
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