2-2 イデアルの演算と根基

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イデアルは足したり掛けたりできます。和は二組の関係式を同時に生成し、共通部分は両方の条件を満たす元を集め、積は両方の因子を含むより強い条件を表します。根基は冪による重複を忘れ、どの元が「いつかイデアルへ入るか」を記録します。

和・共通部分・積

イデアルの和・共通部分・積

イデアルの和・共通部分・積を、イデアル $I,J\triangleleft R$ に対し
$$ I+J=\{a+b:a\in I,b\in J\}, $$
$$ I\cap J=\{x:x\in I\text{ かつ }x\in J\}, $$
$$ IJ=\left\{\sum_{k=1}^n a_kb_k: a_k\in I,b_k\in J,n\ge0\right\} $$
と定める。

積を単なる $\{ab:a\in I,b\in J\}$ とせず有限和まで取るのは、加法で閉じるイデアルにするためです。

イデアル演算の基本包含

$I+J,I\cap J,IJ$ はイデアルで、
$$ I,J\subset I+J, $$
$$ IJ\subset I\cap J $$
が成り立つ。また $I+J$ は $I,J$ の両方を含む最小のイデアルである。

$I+J$ について、$(a+b)-(a'+b')=(a-a')+(b-b')$ は再び $I+J$ に入り、$r(a+b)=ra+rb$ も入ります。$I\cap J$ は、差と外からの積が $I,J$ の両方に留まるのでイデアルです。$IJ$ も有限和の差と外からの積で同じ形を保つためイデアルです。
$a\in I$ は $a=a+0$ と書けるので $I\subset I+J$、同様に $J\subset I+J$。$I,J$ を含むイデアル $K$ は全 $a+b$ を含むので $I+J\subset K$。従って最小です。
$a_kb_k$ は $a_k\in I$ へ $b_k$ を掛けたものなので $I$ に入り、同様に $J$ にも入ります。有限和も両方に入るため $IJ\subset I\cap J$。□

一般に積と共通部分は等しくありません。$\mathbb Z$ で
$$ (4)(6)=(24), \qquad (4)\cap(6)=(12) $$
です。

互いに素なイデアル

comaximal

$I+J=R$ のとき、$I,J$ は互いに素なイデアル|comaximalであるという。これはある $a\in I,b\in J$ が
$$ a+b=1 $$
を満たすことと同値である。

comaximalなら積と共通部分が一致

$I+J=R$ なら
$$ I\cap J=IJ. $$

常に $IJ\subset I\cap J$ でした。逆包含を示します。$a\in I,b\in J$ で $a+b=1$ と取ります。$x\in I\cap J$ なら
$$ x=x(a+b)=xa+xb. $$
$x\in J,a\in I$ なので $xa\in IJ$、$x\in I,b\in J$ なので $xb\in IJ$。従って $x\in IJ$ で、$I\cap J\subset IJ$。□

$\mathbb Z$ では $(m)+(n)=(\gcd(m,n))$。従って $(m),(n)$ がcomaximalであることは $\gcd(m,n)=1$ と同値です。このとき
$$ (m)\cap(n)=(mn) $$
となり、互いに素な整数の最小公倍数が積になる事実を回収します。

イデアルの冪

$$ I^1=I, \qquad I^{n+1}=I^nI $$
と定めます。$I^{n+1}\subset I^n$ なので
$$ R\supset I\supset I^2\supset I^3\supset\cdots $$
という降鎖を得ます。
単項イデアルでは
$$ (a)^n=(a^n). $$
一方、多生成イデアル $(a,b)$ の二乗は
$$ (a,b)^2=(a^2,ab,b^2) $$
です。積を展開して得る全項が右辺に入り、右辺の生成元がそれぞれ二因子の積なので逆包含も成立します。

nilpotentとnilradical

nilpotent元とnilradical

$x\in R$ がある $n\ge1$ で $x^n=0$ を満たすとき冪零元|nilpotent元という。nilpotent元全体を
$$ \sqrt{(0)}=\{x\in R:x^n=0\text{ for some }n\ge1\} $$
と書き、冪零根基|nilradicalという。

$\mathbb Z/12\mathbb Z$ では $[6]^2=[0]$ なので $[6]$ はnilpotentです。整域では $x^n=0$ から消去を繰り返して $x=0$ となるため、nilradicalは $\{0\}$ です。

イデアルの根基

根基イデアル

イデアル $I\triangleleft R$ に対し
$$ \sqrt I=\{r\in R:r^n\in I\text{ となる }n\ge1\text{ がある}\} $$
を $I$ のイデアルの根基|根基という。$I=\sqrt I$ のとき $I$ をradical idealという。

根基はイデアル

$\sqrt I$ は $I$ を含むイデアルである。

$a\in I$ なら $a^1\in I$ なので $I\subset\sqrt I$。$x\in\sqrt I$、$r\in R$ で $x^m\in I$ とすると
$$ (rx)^m=r^mx^m\in I, $$
よって $rx\in\sqrt I$。
$x,y\in\sqrt I$ とし、$x^m\in I,y^n\in I$ とします。二項展開
$$ (x-y)^{m+n-1} =\sum_{k=0}^{m+n-1} \binom{m+n-1}{k}x^k(-y)^{m+n-1-k} $$
を見ます。各項で $k\ge m$ または $m+n-1-k\ge n$ の少なくとも一方が成り立ちます。前者なら $x^m$、後者なら $y^n$ を因子にもつため各項は $I$ に入ります。従って和も $I$ に入り、$x-y\in\sqrt I$。部分加群判定と同じ形の条件が揃い、$\sqrt I$ はイデアルです。□

根基と商環のnilpotent

標準射影 $\pi:R\to R/I$ に対し
$$ \sqrt I/I =\sqrt{(0)}_{,R/I}. $$
すなわち $r+I$ が $R/I$ でnilpotentであることと $r\in\sqrt I$ は同値である。

$$ (r+I)^n=0+I \quad\Longleftrightarrow\quad r^n+I=I \quad\Longleftrightarrow\quad r^n\in I. $$
ある $n\ge1$ についてこの条件が成り立つことが、それぞれnilpotent性と $r\in\sqrt I$ の定義です。□

従って $I$ がradical idealであることは、商環 $R/I$ が非零nilpotent元をもたないことと同値です。そのような環をreduced ringといいます。

具体例

$\mathbb Z$ で $n$ の異なる素因数の積を $\operatorname{rad}(n)$ と書くと
$$ \sqrt{(n)}=(\operatorname{rad}(n)). $$
たとえば
$$ \sqrt{(12)}=\sqrt{(2^2\cdot3)}=(6). $$
実際、$a^k$ が12で割り切れるなら $a$ は2と3の両方で割り切れ、従って6で割り切れます。逆に6の倍数 $a$ なら $a^2$ は36の倍数で、12でも割り切れます。
体 $K$ 上の $K[x,y]$ では
$$ \sqrt{(x^2,xy)}=(x). $$
右辺の元 $xg$ は二乗すると $x^2g^2\in(x^2,xy)$ なので $(x)\subset\sqrt{(x^2,xy)}$。逆に $f^n\in(x^2,xy)\subset(x)$ なら、$x$ はUFD $K[x,y]$ の素元なので $x\mid f^n$ から $x\mid f$。従って $f\in(x)$ です。

整数イデアルの演算

$I=(18),J=(30)\subset\mathbb Z$ について $I+J,I\cap J,IJ$ を求めよ。

解答

$$ I+J=(\gcd(18,30))=(6), $$
$$ I\cap J=(\operatorname{lcm}(18,30))=(90), $$
$$ IJ=(18\cdot30)=(540). $$
$I+J$ の式はBézout恒等式、共通部分は両方の倍数全体、積は生成元の積から従います。□

根基を求める

$\sqrt{(72)}\subset\mathbb Z$ を求めよ。

解答

$$ 72=2^3\cdot3^2 $$
なので、$a^n$ が72で割り切れるためには $a$ が2と3で割り切れる必要があり、これは $6\mid a$ と同値です。逆に $6\mid a$ なら $a^3$ は $2^3\cdot3^3$ で割り切れ、特に72で割り切れます。従って
$$ \sqrt{(72)}=(6). $$
□

素イデアルはradical

素イデアル $\mathfrak p$ がradical idealであることを示せ。

解答

$x\in\sqrt{\mathfrak p}$ なら、ある $n\ge1$ で $x^n\in\mathfrak p$。素性を $x^n=x\cdot x^{n-1}$ に適用すると $x\in\mathfrak p$ または $x^{n-1}\in\mathfrak p$。後者なら同じ議論を繰り返し、最終的に $x\in\mathfrak p$ を得ます。従って $\sqrt{\mathfrak p}\subset\mathfrak p$。常に逆包含があるので等号です。□

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