9-2 多項式の既約性判定

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多項式が既約かどうかは、商環が体になるか、体拡大を作れるかを決めます。しかし定義どおり全因数分解を試すのは非現実的です。本章では、有理根、有限体への還元、Eisenstein判定という三つの実用的な方法を証明します。

低次数では根を探せばよい

二次・三次多項式の既約性

体 $K$ 上の次数2または3の多項式 $f\in K[x]$ は、$K$ に根をもたないことと既約であることが同値である。

$f$ が根 $a\in K$ をもてば因数定理から $(x-a)\mid f$ で、次数が2以上なので可約です。
逆に $f$ が可約なら
$$ f=gh, \qquad0<\deg g,\deg h<\deg f. $$
$\deg f=2$ なら両因子は一次、$\deg f=3$ なら一方は一次です。一次因子は $c(x-a)$ の形なので $a\in K$ が $f$ の根になります。□

次数4以上では根がなくても可約なことがあります。たとえば
$$ x^4+5x^2+4=(x^2+1)(x^2+4) $$
は $\mathbb Q$ に根をもちませんが可約です。

有理根定理の使い方

整数係数多項式
$$ f(x)=a_nx^n+\cdots+a_0 $$
の有理根 $p/q$ を既約分数で書けば
$$ p\mid a_0,qquad q\mid a_n $$
でした。候補が有限個へ絞られます。
例として
$$ f(x)=2x^3+x+1 $$
の有理根候補は
$$ \pm1,\quad\pm\frac12. $$
どれも根でないため、三次の根判定から $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約です。係数は原始的なのでGaussの補題から $\mathbb Z[x]$ でも既約です。

素数を法として還元する

$f\in\mathbb Z[x]$ の各係数をmod $p$ へ写した多項式を $\overline f\in\mathbb F_p[x]$ と書きます。

mod $p$ 既約性判定

原始多項式 $f\in\mathbb Z[x]$ と素数 $p$ について、$p$ が $f$ の最高次係数を割らず、$\overline f$ が $\mathbb F_p[x]$ で既約なら、$f$ は $\mathbb Q[x]$ および $\mathbb Z[x]$ で既約である。

$f$ が $\mathbb Q[x]$ で可約だと仮定します。Gaussの補題から、正次数の $g,h\in\mathbb Z[x]$ により
$$ f=gh $$
と書けます。最高次係数について
$$ \operatorname{lc}(f)=\operatorname{lc}(g)\operatorname{lc}(h). $$
$p\nmid\operatorname{lc}(f)$ なので、$p$ はどちらの最高次係数も割りません。従ってmod $p$ にしても $g,h$ の次数は落ちず、$\overline g,\overline h$ はともに正次数です。
ところが
$$ \overline f=\overline g\,\overline h $$
となり、$\overline f$ の既約性に反します。よって $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約。原始性とGaussの補題から $\mathbb Z[x]$ でも既約です。□

最高次係数の条件は次数落ちを防ぐために必要です。また $\overline f$ が可約でも、元の $f$ が可約とは限りません。この判定は十分条件です。

例:$x^4+x+1$

mod 2で考えます。$0,1$ を代入すると
$$ \overline f(0)=1, \qquad\overline f(1)=1+1+1=1, $$
なので一次因子はありません。四次多項式が一次因子なしで可約なら、二つの既約二次式の積です。$\mathbb F_2[x]$ のmonic既約二次式は
$$ x^2+x+1 $$
だけです。
この式を法として $x^2=x+1$、従って $x^3=1,x^4=x$。よって
$$ x^4+x+1\equiv x+x+1=1 $$
で割り切れません。したがってmod 2で既約、ゆえに $\mathbb Z[x]$ で既約です。

Eisenstein判定法

Eisensteinの既約性判定

$$ f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0\in\mathbb Z[x] $$
を原始多項式とする。ある素数 $p$ が
$$ p\nmid a_n, $$
$$ p\mid a_i\quad(0\le i< n), $$
$$ p^2\nmid a_0 $$
を満たすなら、$f$ は $\mathbb Q[x]$ と $\mathbb Z[x]$ で既約である。

$f$ が可約だと仮定します。Gaussの補題により、正次数の $g,h\in\mathbb Z[x]$ があり
$$ f=gh. $$
mod $p$ では下位係数がすべて0なので
$$ \overline f=\overline{a_n}x^n. $$
$p\nmid a_n$ だから $g,h$ の最高次係数も $p$ で割れず、還元で次数は落ちません。$\mathbb F_p[x]$ はUFDで、$x$ は素元です。積 $\overline g\,\overline h$ が単項式 $\overline{a_n}x^n$ なので
$$ \overline g=cx^r, \qquad \overline h=dx^s $$
となり、$r=\deg g>0,s=\deg h>0$ です。従って $g,h$ の定数項はともに $p$ で割り切れます。
$f$ の定数項は $g(0)h(0)$ なので $p^2$ で割り切れます。これは $p^2\nmid a_0$ に反します。従って $f$ は既約です。□

たとえば
$$ x^5+10x^3+15x+5 $$
は $p=5$ についてEisenstein条件を満たすため既約です。

変数をずらしてEisensteinを使う

置換
$$ T_c:\mathbb Q[x]\to\mathbb Q[x], \qquad f(x)\mapsto f(x+c) $$
は逆写像 $T_{-c}$ をもつ環自己同型です。従って $f(x)$ が既約であることと $f(x+c)$ が既約であることは同値です。

素数次数の円分多項式

素数 $p$ に対し
$$ \Phi_p(x)=1+x+\cdots+x^{p-1} $$
は $\mathbb Q[x]$ で既約である。

$x$ を $x+1$ に替えると
$$ \Phi_p(x+1) =\frac{(x+1)^p-1}{x} $$
$$ =x^{p-1}+\binom p1x^{p-2} +\binom p2x^{p-3}+\cdots+\binom p{p-1}. $$
$1\le k\le p-1$ で $\binom pk$ は $p$ で割り切れます。最高次係数は1で $p$ に割られず、定数項は $\binom p{p-1}=p$ で $p^2$ に割られません。従って $p$ に関するEisenstein判定から $\Phi_p(x+1)$ は既約。変数移動の自己同型により $\Phi_p(x)$ も既約です。□

どの判定を選ぶか

  • 二次・三次:まず根を探す。
  • 整数係数:有理根定理で候補を有限化する。
  • 高次数:小さな素数で還元し、有限体上で因子を調べる。
  • 係数の大部分が同じ素数で割れる:Eisensteinを試す。
  • 直接Eisensteinにならない:$x\mapsto x+c$ を試す。
    どの方法も「可約なら何が起こるか」を有限体や係数の整除へ移し、矛盾を作るものです。
Eisenstein判定

$$ f(x)=3x^4+6x^3+12x^2+10x+2 $$
が $\mathbb Q[x]$ で既約であることを示せ。

解答

$p=2$ を使います。最高次係数3は2で割れません。他の係数
$$ 6,12,10,2 $$
はすべて2で割れ、定数項2は4で割れません。従ってEisenstein判定法により $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約です。□

mod 2判定

$x^4+x^3+1$ が $\mathbb Q[x]$ で既約であることをmod 2で示せ。

解答

mod 2で $f=x^4+x^3+1$ とします。$f(0)=1,f(1)=1+1+1=1$ なので一次因子はありません。唯一のmonic既約二次式 $q=x^2+x+1$ を法とすると $x^3=1,x^4=x$ なので
$$ f\equiv x+1+1=x\ne0. $$
従って二次因子もありません。四次式が可約なら一次因子または二次因子をもつため、$f$ は $\mathbb F_2[x]$ で既約。mod $p$ 判定から $\mathbb Q[x]$ でも既約です。□

変数移動

$$ f(x)=x^4+x^3+x^2+x+1 $$
が $\mathbb Q[x]$ で既約であることを、$f(x+1)$ にEisenstein判定を適用して示せ。

解答

これは $\Phi_5(x)$ です。
$$ f(x+1)=\frac{(x+1)^5-1}{x} =x^4+5x^3+10x^2+10x+5. $$
$p=5$ について最高次係数1は割れず、他の係数はすべて5で割れ、定数項5は25で割れません。従って $f(x+1)$ は既約。変数移動は環自己同型なので $f(x)$ も既約です。□

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