多項式が既約かどうかは、商環が体になるか、体拡大を作れるかを決めます。しかし定義どおり全因数分解を試すのは非現実的です。本章では、有理根、有限体への還元、Eisenstein判定という三つの実用的な方法を証明します。
体 $K$ 上の次数2または3の多項式 $f\in K[x]$ は、$K$ に根をもたないことと既約であることが同値である。
$f$ が根 $a\in K$ をもてば因数定理から $(x-a)\mid f$ で、次数が2以上なので可約です。
逆に $f$ が可約なら
$$
f=gh,
\qquad0<\deg g,\deg h<\deg f.
$$
$\deg f=2$ なら両因子は一次、$\deg f=3$ なら一方は一次です。一次因子は $c(x-a)$ の形なので $a\in K$ が $f$ の根になります。□
次数4以上では根がなくても可約なことがあります。たとえば
$$
x^4+5x^2+4=(x^2+1)(x^2+4)
$$
は $\mathbb Q$ に根をもちませんが可約です。
整数係数多項式
$$
f(x)=a_nx^n+\cdots+a_0
$$
の有理根 $p/q$ を既約分数で書けば
$$
p\mid a_0,qquad q\mid a_n
$$
でした。候補が有限個へ絞られます。
例として
$$
f(x)=2x^3+x+1
$$
の有理根候補は
$$
\pm1,\quad\pm\frac12.
$$
どれも根でないため、三次の根判定から $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約です。係数は原始的なのでGaussの補題から $\mathbb Z[x]$ でも既約です。
$f\in\mathbb Z[x]$ の各係数をmod $p$ へ写した多項式を $\overline f\in\mathbb F_p[x]$ と書きます。
原始多項式 $f\in\mathbb Z[x]$ と素数 $p$ について、$p$ が $f$ の最高次係数を割らず、$\overline f$ が $\mathbb F_p[x]$ で既約なら、$f$ は $\mathbb Q[x]$ および $\mathbb Z[x]$ で既約である。
$f$ が $\mathbb Q[x]$ で可約だと仮定します。Gaussの補題から、正次数の $g,h\in\mathbb Z[x]$ により
$$
f=gh
$$
と書けます。最高次係数について
$$
\operatorname{lc}(f)=\operatorname{lc}(g)\operatorname{lc}(h).
$$
$p\nmid\operatorname{lc}(f)$ なので、$p$ はどちらの最高次係数も割りません。従ってmod $p$ にしても $g,h$ の次数は落ちず、$\overline g,\overline h$ はともに正次数です。
ところが
$$
\overline f=\overline g\,\overline h
$$
となり、$\overline f$ の既約性に反します。よって $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約。原始性とGaussの補題から $\mathbb Z[x]$ でも既約です。□
最高次係数の条件は次数落ちを防ぐために必要です。また $\overline f$ が可約でも、元の $f$ が可約とは限りません。この判定は十分条件です。
mod 2で考えます。$0,1$ を代入すると
$$
\overline f(0)=1,
\qquad\overline f(1)=1+1+1=1,
$$
なので一次因子はありません。四次多項式が一次因子なしで可約なら、二つの既約二次式の積です。$\mathbb F_2[x]$ のmonic既約二次式は
$$
x^2+x+1
$$
だけです。
この式を法として $x^2=x+1$、従って $x^3=1,x^4=x$。よって
$$
x^4+x+1\equiv x+x+1=1
$$
で割り切れません。したがってmod 2で既約、ゆえに $\mathbb Z[x]$ で既約です。
$$
f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0\in\mathbb Z[x]
$$
を原始多項式とする。ある素数 $p$ が
$$
p\nmid a_n,
$$
$$
p\mid a_i\quad(0\le i< n),
$$
$$
p^2\nmid a_0
$$
を満たすなら、$f$ は $\mathbb Q[x]$ と $\mathbb Z[x]$ で既約である。
$f$ が可約だと仮定します。Gaussの補題により、正次数の $g,h\in\mathbb Z[x]$ があり
$$
f=gh.
$$
mod $p$ では下位係数がすべて0なので
$$
\overline f=\overline{a_n}x^n.
$$
$p\nmid a_n$ だから $g,h$ の最高次係数も $p$ で割れず、還元で次数は落ちません。$\mathbb F_p[x]$ はUFDで、$x$ は素元です。積 $\overline g\,\overline h$ が単項式 $\overline{a_n}x^n$ なので
$$
\overline g=cx^r,
\qquad
\overline h=dx^s
$$
となり、$r=\deg g>0,s=\deg h>0$ です。従って $g,h$ の定数項はともに $p$ で割り切れます。
$f$ の定数項は $g(0)h(0)$ なので $p^2$ で割り切れます。これは $p^2\nmid a_0$ に反します。従って $f$ は既約です。□
たとえば
$$
x^5+10x^3+15x+5
$$
は $p=5$ についてEisenstein条件を満たすため既約です。
置換
$$
T_c:\mathbb Q[x]\to\mathbb Q[x],
\qquad f(x)\mapsto f(x+c)
$$
は逆写像 $T_{-c}$ をもつ環自己同型です。従って $f(x)$ が既約であることと $f(x+c)$ が既約であることは同値です。
素数 $p$ に対し
$$
\Phi_p(x)=1+x+\cdots+x^{p-1}
$$
は $\mathbb Q[x]$ で既約である。
$x$ を $x+1$ に替えると
$$
\Phi_p(x+1)
=\frac{(x+1)^p-1}{x}
$$
$$
=x^{p-1}+\binom p1x^{p-2}
+\binom p2x^{p-3}+\cdots+\binom p{p-1}.
$$
$1\le k\le p-1$ で $\binom pk$ は $p$ で割り切れます。最高次係数は1で $p$ に割られず、定数項は $\binom p{p-1}=p$ で $p^2$ に割られません。従って $p$ に関するEisenstein判定から $\Phi_p(x+1)$ は既約。変数移動の自己同型により $\Phi_p(x)$ も既約です。□
$$
f(x)=3x^4+6x^3+12x^2+10x+2
$$
が $\mathbb Q[x]$ で既約であることを示せ。
$p=2$ を使います。最高次係数3は2で割れません。他の係数
$$
6,12,10,2
$$
はすべて2で割れ、定数項2は4で割れません。従ってEisenstein判定法により $f$ は $\mathbb Q[x]$ で既約です。□
$x^4+x^3+1$ が $\mathbb Q[x]$ で既約であることをmod 2で示せ。
mod 2で $f=x^4+x^3+1$ とします。$f(0)=1,f(1)=1+1+1=1$ なので一次因子はありません。唯一のmonic既約二次式 $q=x^2+x+1$ を法とすると $x^3=1,x^4=x$ なので
$$
f\equiv x+1+1=x\ne0.
$$
従って二次因子もありません。四次式が可約なら一次因子または二次因子をもつため、$f$ は $\mathbb F_2[x]$ で既約。mod $p$ 判定から $\mathbb Q[x]$ でも既約です。□
$$
f(x)=x^4+x^3+x^2+x+1
$$
が $\mathbb Q[x]$ で既約であることを、$f(x+1)$ にEisenstein判定を適用して示せ。
これは $\Phi_5(x)$ です。
$$
f(x+1)=\frac{(x+1)^5-1}{x}
=x^4+5x^3+10x^2+10x+5.
$$
$p=5$ について最高次係数1は割れず、他の係数はすべて5で割れ、定数項5は25で割れません。従って $f(x+1)$ は既約。変数移動は環自己同型なので $f(x)$ も既約です。□
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