1-2 単元・零因子・整域・体

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$\mathbb Z/6\mathbb Z$ では $[2][3]=[0]$ ですが、$\mathbb Z/7\mathbb Z$ では非零元どうしを掛けても0になりません。さらに7を法とする世界では、どの非零元でも割り算ができます。この違いを段階的に整理します。
本章では可換環 $R$ を考え、$0\ne1$ とします。

掛け算で逆をもつ元

単元

$u\in R$ に対し、ある $v\in R$ が存在して $uv=1$ となるとき、$u$ を単元といい、$v$ を $u^{-1}$ と書く。単元全体を $R^\times$ と書く。

逆元は一意です。実際 $uv=uw=1$ なら
$$ v=v1=v(uw)=(vu)w=1w=w. $$
単元の積も単元で $(uv)^{-1}=v^{-1}u^{-1}$、単位元は単元、単元の逆元も単元なので $R^\times$ は乗法について群です。
$\mathbb Z$ の単元は $1,-1$ だけです。$\mathbb Q,\mathbb R,\mathbb C$ では非零元がすべて単元です。$\mathbb Z/6\mathbb Z$ では $[1]^{-1}=[1]$、$[5]^{-1}=[5]$ で、単元は $[1],[5]$ だけです。

非零なのに積が0になる元

零因子

$a\ne0$ で、ある $b\ne0$ に対して $ab=0$ となるとき、$a$ を零因子という。

$\mathbb Z/6\mathbb Z$ では $[2]$ と $[3]$ が零因子です。直積環 $R\times S$ では
$$ (1,0)(0,1)=(0,0) $$
なので、両因子が非零環なら $(1,0),(0,1)$ は零因子です。

単元は零因子でない

可換環の単元は零因子ではない。

$u$ を単元とし、$ub=0$ とします。両辺に $u^{-1}$ を掛けると
$$ b=1b=(u^{-1}u)b=u^{-1}(ub)=u^{-1}0=0. $$
従って非零な $b$ との積が0になることはありません。□

無限環では「単元でも零因子でもない」元があり得ます。$\mathbb Z$ の2は逆元をもたず、しかも $2b=0$ なら $b=0$ なので零因子でもありません。

整域と消去律

整域

零因子をもたない可換環 $R$($0\ne1$)を整域という。

整数環 $\mathbb Z$、有理数体 $\mathbb Q$、実数体 $\mathbb R$ は整域です。$\mathbb Z/6\mathbb Z$ は整域ではありません。

整域の消去律

可換環 $R$ が整域であることと、任意の $a\ne0$ に対して
$$ ab=ac\quad\Longrightarrow\quad b=c $$
が成り立つことは同値である。

$R$ を整域とします。$ab=ac$ なら
$$ a(b-c)=ab-ac=0. $$
$a\ne0$ で零因子がないため $b-c=0$、従って $b=c$。
逆に消去律を仮定し、$a\ne0$ かつ $ab=0$ とします。$0=a0$ なので $ab=a0$。$a$ を消去して $b=0$。従って非零元どうしの積は0にならず、$R$ は整域です。□

零因子がある環で不用意に約分すると誤答になります。$\mathbb Z/6\mathbb Z$ では
$$ [2][1]=[2][4] $$
ですが $[1]\ne[4]$ です。両辺から $[2]$ を「割る」ことはできません。

体

体

可換環 $K$ のすべての非零元が単元であるとき、$K$ を体という。

$\mathbb Q,\mathbb R,\mathbb C$ は体です。$\mathbb Z$ は2の逆元をもたないので体ではありません。

体は整域

体 $K$ は整域である。

$a,b\in K$ で $ab=0$、$a\ne0$ とします。$a^{-1}$ を掛ければ
$$ b=a^{-1}(ab)=a^{-1}0=0. $$
従って零因子は存在せず、$K$ は整域です。□

逆は一般には偽で、$\mathbb Z$ が反例です。しかし有限集合では、単射と全射が同値になるため逆が成立します。

有限整域は体

有限個の元をもつ整域 $R$ は体である。

$a\in R$ を非零元とします。写像
$$ m_a:R\to R,\qquad x\mapsto ax $$
を考えます。$m_a(x)=m_a(y)$ なら $ax=ay$。整域の消去律から $x=y$ なので $m_a$ は単射です。
有限集合からそれ自身への単射は全射です。従って $1\in R$ に対し、ある $b\in R$ が存在して $m_a(b)=ab=1$。よって任意の非零元 $a$ が逆元をもち、$R$ は体です。□

有限環では非単元は零因子

有限可換環の二分法

有限可換環 $R$ の任意の非零元は、単元または零因子のいずれか一方である。

非零元 $a$ を取り、$m_a(x)=ax$ を考えます。$m_a$ が単射なら有限性から全射で、ある $b$ が $ab=1$ を満たすので $a$ は単元です。
$m_a$ が単射でないなら、異なる $x,y$ があり $ax=ay$。従って
$$ a(x-y)=0. $$
$x-y\ne0$ なので $a$ は零因子です。単元は零因子でないことをすでに示したので、両方になることはありません。□

$\mathbb Z/7\mathbb Z$ と $\mathbb Z/6\mathbb Z$

$\mathbb Z/7\mathbb Z$ の非零元の逆元は
$$ [1]^{-1}=[1],\ [2]^{-1}=[4],\ [3]^{-1}=[5], $$
$$ [4]^{-1}=[2],\ [5]^{-1}=[3],\ [6]^{-1}=[6]. $$
従って $\mathbb Z/7\mathbb Z$ は体です。
$\mathbb Z/6\mathbb Z$ では $[2][3]=0$ なので整域でなく、したがって体でもありません。$[1],[5]$ は単元、$[2],[3],[4]$ は零因子です。

多項式での違い

整域 $R$ 上の多項式 $f,g\ne0$ について、最高次係数の積は非零です。従って
$$ \deg(fg)=\deg f+\deg g $$
で、$R[x]$ も整域になります。一方、$\mathbb Z/6\mathbb Z[x]$ では
$$ (2x+1)(3x+1)=6x^2+5x+1=5x+1 $$
となり、二つの一次式の積が一次式になります。

$\mathbb Z/8\mathbb Z$ の分類

$\mathbb Z/8\mathbb Z$ の非零元を単元と零因子に分類し、各単元の逆元を求めよ。

解答

奇数類について
$$ [1]^2=[1],\quad[3]^2=[9]=[1], \quad[5]^2=[25]=[1],\quad[7]^2=[49]=[1]. $$
従って $[1],[3],[5],[7]$ は単元で、それぞれ自分自身が逆元です。
偶数の非零類は
$$ [2][4]=[0],\qquad[4][2]=[0],\qquad[6][4]=[0] $$
なので $[2],[4],[6]$ は零因子です。□

Boolean環

可換環 $R$ の全元が $a^2=a$ を満たすとする。

  1. 任意の $a$ で $a+a=0$ を示せ。
  2. $R$ が整域なら $R\cong\mathbb Z/2\mathbb Z$ を示せ。
解答

$(a+1)^2=a+1$ を展開すると
$$ a^2+2a+1=a+1. $$
$a^2=a$ を使って両辺から $a+1$ を引けば $2a=a+a=0$ です。
$R$ が整域なら $a^2=a$ から $a(a-1)=0$。零因子がないので各 $a$ は $0$ または $1$。$0\ne1$ なので元はちょうど二つで、演算表も $\mathbb Z/2\mathbb Z$ と一致します。□

有限整域で逆元を探す

有限整域 $R$ の元を $r_1=1,r_2,\ldots,r_N$ と並べる。$a\ne0$ のとき
$$ ar_1,ar_2,\ldots,ar_N $$
の中に1が必ず現れる理由を説明せよ。

解答

$ar_i=ar_j$ なら消去律により $r_i=r_j$。従って積の列は互いに異なります。$R$ には $N$ 個しか元がないので、この列は $R$ の全元をちょうど一度ずつ並べます。特に1が現れ、対応する $r_i$ が $a^{-1}$ です。□

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