0-2 アフィン代数的集合と代数群

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

本書で引用として使う代数幾何と代数群の基本(原論文の意味の代数的集合、アフィン代数的集合と座標環、Hilbert の基底定理と零点定理、主開集合、積の座標環、射と余射、閉埋め込みの判定、Zariski 位相、代数群と閉部分群、部分群の閉包、単位成分、準同型の像と次元の公式、正規化群と中心化群、一般線形群と対角群・上三角単冪群、加法群と乗法群)を集めた頁である。各項目は要点をボックスに書き、続けて本書での使いどころと案内を書く。本書の札の基準で、どれを完結の証明に使ってよい側に置き、どれを引用として[条件付き]の側に置くかも項目ごとに明記する。案内に挙げる文献の該当箇所は、本書では確かめていない。線形代数と群の道具は本書『0-3 線形代数と群の道具』に、記号と行列の規約、本書が足した仮定の一覧は本書『0-4 記号と約束』にある。
前提知識: 代数多様体, アフィン多様体, 座標環, Hilbertの零点定理, Zariski位相, 代数群, 線形代数群

原論文の代数的集合

原論文は冒頭の「用語と記号」で、基礎体 $K$ を代数的閉体とし(「簡単のため」と断り、多くの結果はこの仮定なしでも正しいと添える)、代数的集合を同じセミナーの第 1 講演 Car56 の意味で使うと述べる。本講演の中に定義は無く、本書はその講演の本文を開いていない。そこで本書の読みをまず決める。

代数的集合と多様体(本書の読み)

$K$ を代数的閉体とする。本書では、原論文の代数的集合(ensemble algébrique)を、$K$ 上有限型の分離的な被約スキームを、その $K$ 点の集合と同一視したものと読む。これは古典的な意味の代数多様体(既約とは限らない)であり、互いに交わらない有限個の多様体の和も許す。点とは $K$ 点のことで、代数的集合 $X$ は点の集合と Zariski 位相(下の定義(Zariski 位相・既約性・次元))と正則関数の層で決まる。$X$ 上の正則関数の $K$ 代数を $A(X)$ と書く。多様体(variété)は既約な代数的集合である。代数的集合の間の射は、連続で、正則関数を正則関数に引き戻す写像である。

この読みは本書が足した仮定の一つで、有理表現を代数群の射と読むこと(下の定義(代数群・有理準同型・線形代数群))と合わせて本書『0-4 記号と約束』にまとめる。要点は、代数群を点の群として扱い、後代の群スキームと同一視しないことである。1956 年の講演は群スキームの言葉を使わず、本書の「アフィン代数群」「対角化可能群」は、代数的閉体の上の被約なアフィン群スキームの $K$ 点に当たる。

点の枠組みで何が見えなくなるか

点の枠組みでは、被約でない構造は見えない。標数 $p\ne1$ で多項式 $X^p-1=(X-1)^p$ の零点は $1$ だけなので、方程式 $X^p=1$ の定める代数的集合は一点で、その座標環は $K$ である。後代の群スキームの枠では $K[X]/(X^p-1)$ そのものが位数 $p$ の群スキーム $\mu_p$ を定め、その指標群は $\mathbf Z/p$ になる。本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』と本書『3-2 指標群との双対性』で、対角化可能群の指標群のねじれの位数が標数と素になるという制限が現れるのは、この枠組みのためである。二つの枠の違いは本書『3-2 指標群との双対性』の「その後の発展」で述べる。

  • 使いどころ:全頁。有理表現の読みと合わせて、本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の有理性の判定、本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』の反例「有理でない指標(複素共役)」。
  • 案内:代数多様体、Ser55(代数多様体を位相空間と正則関数の層の組として定める)、Har77 第 I 章、Car56(原論文が引く定義。本書は開いていない)。

アフィン代数的集合と座標環

原論文の証明は、正則関数の有限性(補題 2)、閉部分群のイデアルの生成元(Théorème 1)、閉埋め込み(Proposition 1)の三か所で、アフィン代数的集合の基本定理を理由を書かずに使う。それを一つにまとめる。

定義と基本定理

アフィン代数的集合と座標環

多項式の集合 $S\subset K[X_1,\dots,X_n]$ の共通零点 $V(S)=\{x\in K^n:f(x)=0\ (f\in S)\}$ を $K^n$ の閉集合という。閉集合 $X\subset K^n$ に対し、$X$ で消える多項式のイデアルを $I(X)$、多項式関数の $X$ への制限のなす $K$ 代数 $A(X)=K[X_1,\dots,X_n]/I(X)$ を $X$ の座標環という。$A(X)$ は有限生成の被約 $K$ 代数である。$K^n$ の閉集合 $X\subset K^n$、$Y\subset K^m$ の間の写像 $\varphi\colon X\to Y$ は、座標 $\varphi_1,\dots,\varphi_m$ がどれも $A(X)$ の元であるとき射であるという。射 $\varphi$ は $K$ 代数の準同型 $\varphi^*\colon A(Y)\to A(X)$、$g\mapsto g\circ\varphi$ を定め、これを余射という。代数的集合でこのような閉集合に同型なものをアフィン代数的集合という。$f\in A(X)$ について $D(f)=\{x\in X:f(x)\ne0\}$ を主開集合という。

座標環が $X$ の上の関数の代数であることは定義から分かるが、それが「正則関数の全体」と一致し、閉集合がイデアルで記述されることは、次の定理に依る。

アフィン代数的集合の基本定理

$X$、$Y$ をアフィン代数的集合とする。
(1) Hilbert の基底定理:$K[X_1,\dots,X_n]$ のイデアルは有限生成である。したがって $K^n$ の閉集合は有限個の多項式の共通零点であり、$A(X)$ のイデアルも有限生成である。
(2) 零点定理:イデアル $J\subset K[X_1,\dots,X_n]$ について $I(V(J))=\sqrt J$。したがって $X$ の閉部分集合と $A(X)$ の根基イデアルは $Z\mapsto I(Z)$ で一対一に対応し、$X$ の点は $A(X)$ の極大イデアルと $x\mapsto\{f:f(x)=0\}$ で一対一に対応する。有限生成の被約 $K$ 代数はすべて、あるアフィン代数的集合の座標環に同型である。
(3) 射と余射:$\varphi\mapsto\varphi^*$ は、射 $X\to Y$ の全体と $K$ 代数準同型 $A(Y)\to A(X)$ の全体の間の全単射である。より一般に、任意の代数的集合 $Z$ からアフィン代数的集合 $Y$ への射は、$K$ 代数準同型 $A(Y)\to A(Z)$ と同じものである。アフィン代数的集合 $X$ の上の正則関数の全体は座標環 $A(X)$ に一致する。
(4) 閉部分集合:アフィン代数的集合の閉部分集合 $Z\subset X$ はアフィンで、制限 $A(X)\to A(Z)$ は全射、その核は $I(Z)$ である。
(5) 積:$X\times Y$ はアフィン代数的集合で、$A(X\times Y)=A(X)\otimes_KA(Y)$ である。すなわち $X\times Y$ 上の正則関数は $\sum_ig_i(x)h_i(y)$($g_i\in A(X)$、$h_i\in A(Y)$、有限和)の形に書ける。
(6) 主開集合:$f\in A(X)$ について $D(f)$ は $\{(x,t)\in X\times K:f(x)t=1\}$ と同一視されてアフィン代数的集合になり、$A(D(f))=A(X)[1/f]$ である。
(7) 閉埋め込みの判定:射 $\varphi\colon X\to Y$ の余射 $\varphi^*$ が全射なら、像 $\varphi(X)$ は $\ker\varphi^*$ の零点集合で閉であり、$\varphi$ は $X$ から $\varphi(X)$ への代数的集合の同型である。

  1. の後半と (3) により、アフィン代数的集合は座標環で決まる。(5) で被約性が保たれるのは $K$ が代数的閉体だからである。(7) は、余射の全射性から $A(X)\cong A(Y)/\ker\varphi^*$ となり、(2) と (3) で右辺が $\varphi(X)$ の座標環と分かることによる。
    本書の札の基準では、この定理の (1)〜(7) を使う主結果は[条件付き]とし、使った項目を札の中で名指しする。原論文の証明のどこでどれが使われるかは次のとおりである。
  • 使いどころ:(5) は補題 2 のアフィンの場合(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果 5)で、ここから閉部分群・対角化可能群の主結果の多くに伝わる。(1)(2) は閉部分群のイデアルの有限生成と、閉な $H$ がイデアルの零点で復元されること(本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果 3)。(4) は部分群の指標が全体の指標の制限であること(本書『3-2 指標群との双対性』の主結果 4)。(7) と、座標環の有限生成は Proposition 1(本書『1-2 アフィン代数群は線形群』の主結果 4)。原論文は (5) を、アフィンとは限らない代数的集合の場合も含めて同じセミナーの第 1 講演 Car56 に委ね、(7) を黙って使う。
  • 案内:Hilbertの基底定理、Hilbertの零点定理、AM69 第 1・5・7 章、Har77 第 I 章 1〜3 節、Ser55。

標準的な空間の座標環

アフィン空間、トーラス、一般線形群の座標環は、上の定理を使わずに初等的に計算できる。本書はこれを完結の証明に使ってよい側に置く(本書の判断。基準の全体は本書『0-1 本書の読み方』の「状態札の読み方」)。

標準的な空間の座標環
  1. $A(K^n)=K[X_1,\dots,X_n]$。すなわち $K^n$ の上で恒等的に $0$ になる多項式は $0$ である。
  2. 乗法群の積 $K^{*n}$ を $K^{n+1}$ の閉集合 $\{(x,t):x_1\cdots x_nt=1\}$ と同一視すると、$A(K^{*n})=K[X_1,X_1^{-1},\dots,X_n,X_n^{-1}]$(Laurent 多項式環)で、単項式 $X_1^{k_1}\cdots X_n^{k_n}$($k_i\in\mathbf Z$)が基底である。
  3. $n$ 次元の $V$ について、一般線形群 $\mathrm{GL}(V)\cong\mathrm{GL}(n,K)$ を $K^{n^2+1}$ の閉集合 $\{(M,t):\det(M)\,t=1\}$ と同一視すると、$A(\mathrm{GL}(V))=K[X_{ij},\det^{-1}]$ で、正則関数は行列成分 $X_{ij}$ の多項式を $\det$ の冪で割ったものである。
  4. 代数的集合 $Z$ から $K^n$ への写像は、座標がすべて $A(Z)$ の元であるとき、かつそのときに限り射である。$Z$ から $\mathrm{GL}(V)$ への写像は、行列成分がすべて $A(Z)$ の元であるとき、かつそのときに限り射である(このとき $\det^{-1}$ の引き戻しも正則である)。
  1. 変数の数についての帰納法で示す。$n=1$ では、$0$ でない 1 変数の多項式の零点は次数以下の個数しかなく、$K$ は代数的閉体なので無限体だから、$K$ 全体で消える多項式は $0$ である。$f=\sum_kg_k(X_1,\dots,X_{n-1})X_n^k$ が $K^n$ で消えるなら、$(x_1,\dots,x_{n-1})$ を固定した $X_n$ の多項式は $K$ 全体で消えるので係数 $g_k(x_1,\dots,x_{n-1})$ はすべて $0$ で、帰納法の仮定から $g_k=0$ である。
  2. 定義から $A(K^{*n})$ は $x_i$ と $t=(x_1\cdots x_n)^{-1}$ の多項式関数の全体で、$t$ は単項式 $X_1^{-1}\cdots X_n^{-1}$ なので、Laurent 多項式の全体に一致する。Laurent 多項式 $f$ が $K^{*n}$ で消えるなら、十分大きい単項式 $m$ を掛けた多項式 $mf$ は $K^{*n}$ で消える。(1) と同じ帰納法を、無限集合 $K^*$ の上で行えば $mf=0$、ゆえに $f=0$ で、単項式は一次独立である。
    1. と同じく、正則関数は $X_{ij}$ と $t=\det^{-1}$ の多項式関数である。多項式 $P(X,T)$ について関数 $P(M,\det(M)^{-1})$ が $\mathrm{GL}(n,K)$ で消えるなら、$\det^N$ を掛けた多項式 $Q(M)$ は $\det M\ne0$ で消え、$Q\cdot\det$ は $K^{n^2}$ 全体で消えるので (1) により $0$、多項式環は整域なので $Q=0$ である。ゆえに関数としての等式と $K[X_{ij},\det^{-1}]$ の中の等式は同じである。
  3. $Z$ がアフィン空間の閉集合なら、上の定義(アフィン代数的集合と座標環)そのものである。一般の $Z$ では、射は正則関数を正則関数に引き戻すので座標は正則である。逆向き(座標が正則な写像は射)は、正則関数の層の局所的な性質で、本書はこれを定義の側に数える。$\mathrm{GL}(V)$ への写像 $\varphi$ では、$\det\circ\varphi$ は正則で零点をもたないので、その逆数も正則である。
  1. の最後の一文は、$Z$ が代数群で写像が群準同型の場合には、$\det(F(s))^{-1}=\det F(s^{-1})$ が逆元の射との合成であることからも見える。この形で本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果 4(有理性の判定)が完結になる。
  • 使いどころ:(1) は Proposition 4 b) の一致の議論(本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の主結果 5)と加法群の自己準同型(本書『5-2 正標数の可換単冪群と加法多項式』の主結果 2)。(2) は Théorème 2(本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』の主結果 1)。(3)(4) は有理性の判定(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果 4)と、群の演算が多項式で書けることの確認(本書『5-1 可換群の直積分解と標数 0 の単冪群』、本書『5-2 正標数の可換単冪群と加法多項式』)。
  • 案内:座標環、AM69 第 3 章(局所化)、Hum75 §1。
反例:有限体の上では多項式は関数で決まらない

上の命題(標準的な空間の座標環)の (1) から、基礎体が無限であるという条件を外す。$q$ 元体 $\mathbf F_q$ の上では、多項式 $X^q-X$ は $0$ でないが、$\mathbf F_q$ のすべての元で $0$ になる(乗法群 $\mathbf F_q^*$ の位数が $q-1$ なので $a^{q-1}=1$)。したがって多項式環と「$\mathbf F_q$ 上の関数の環」は一致しない。原論文が $K$ を代数的閉体(とくに無限体)と置くことは、本書の完結の証明で多項式の恒等式を点で確かめるたびに使われる。

1 の冪根の群と点の枠組み

正の整数 $d$ について、$\mu_d=\{x\in K^*:x^d=1\}$ は $K^*$ の閉部分群である。$p\nmid d$ なら $X^d-1$ は導関数 $dX^{d-1}$ と共通根をもたないので重根がなく、$\mu_d$ はちょうど $d$ 点からなる。$K^*$ の有限部分群は巡回群なので、$\mu_d$ は位数 $d$ の巡回群で、座標環は $K[X]/(X^d-1)\cong K^d$($d$ 点の上の関数の全体)である。一方 $p\ne1$ で $d=p$ なら、$X^p-1=(X-1)^p$ なので $\mu_p=\{1\}$ で、座標環は $K[X]/(X-1)=K$ である(零点定理の根基は $(X-1)$)。上の注意(点の枠組みで何が見えなくなるか)の $\mu_p$ は、この一点の上に被約でない構造を載せたものである。一般に $d=p^ad'$($p\nmid d'$)なら $\mu_d=\mu_{d'}$ である。

Zariski 位相

原論文は、閉包・稠密性・連結性を Zariski 位相の意味で、断りなく使う。とくに「有限位数の元が稠密なので、閉な性質は有限位数の元で確かめれば足りる」という型の議論が三度現れる(Proposition 2 の系、Théorème 3、Proposition 5 の系 2。どれも Proposition 2 の稠密性を使う)。その土台を置く。

Zariski 位相・既約性・次元

アフィン代数的集合 $X$ の閉集合を、$A(X)$ の部分集合の共通零点の全体として定めた位相を Zariski 位相という。一般の代数的集合の Zariski 位相は、アフィンな開集合の位相を貼り合わせたものである。部分集合 $S$ の閉包を $\overline S$ と書き、$\overline S=X$ のとき $S$ は稠密であるという。空でない $X$ が二つの真の閉部分集合の和に書けないとき既約という。極大な既約閉部分集合を既約成分という。$X$ が二つの交わらない空でない閉集合の和に書けないとき連結という。既約な $X$ の次元は、既約閉部分集合の真の増大列 $Z_0\subsetneq Z_1\subsetneq\dots\subsetneq Z_d$ の長さ $d$ の最大値で、一般の $X$ の次元は既約成分の次元の最大値である。

Zariski 位相の基本

$X$、$Y$ を代数的集合とする。
(1) $X$ の閉集合の減少列は有限で止まる。$X$ は有限個の既約成分の和で、既約成分の分解は一意である。既約なら連結である。
(2) 射は連続である。既約な集合の射による像は既約である。
(3) 既約な $X$、$Y$ の積 $X\times Y$ は既約で、$\dim(X\times Y)=\dim X+\dim Y$ である。$S\subset X$、$T\subset Y$ が稠密なら $S\times T$ は $X\times Y$ で稠密である。
(4) 二つの射 $\varphi,\psi\colon X\to Y$ の一致する点の集合 $\{x:\varphi(x)=\psi(x)\}$ は閉である。
(5) 既約な $X$ の真の閉部分集合の次元は $\dim X$ より小さい。$\dim K^n=\dim K^{*n}=n$ である。

  1. は $Y$ が分離的であることによる。$Y$ がアフィンなら、座標の差の零点の共通部分なので、定義から直ちに閉である。本書の基準では、(1)〜(5) の一般の場合を使う主結果は[条件付き]である。ただし次の命題の範囲は初等的に閉じるので、完結の証明に使ってよい。
1 次元の場合と積の稠密性
  1. $K$ と $K^*$ の真の閉部分集合は有限である。したがって無限部分集合は稠密である。
  2. 無限部分集合 $S\subset K^*$ について $S^m$ は $K^{*m}$ で稠密であり、無限部分集合 $S\subset K$ について $S^m$ は $K^m$ で稠密である。
  3. $K$ の閉部分群は $K$ 自身であるか有限である。$K^*$ の閉部分群は $K^*$ 自身であるか、ある $\mu_d$($p\nmid d$)である。
  1. 真の閉部分集合は $0$ でない多項式($K^*$ では Laurent 多項式に単項式を掛けた多項式)の零点に含まれ、その零点は次数以下の個数しかない。
  2. $f\in A(K^{*m})$ が $S^m$ で消えるとき、$f=\sum_kg_k(X_1,\dots,X_{m-1})X_m^k$ と書く。$(s_1,\dots,s_{m-1})\in S^{m-1}$ を固定した $X_m$ の Laurent 多項式は無限集合 $S$ で消えるので $0$ で、各 $g_k$ は $S^{m-1}$ で消える。帰納法で $g_k=0$、ゆえに $f=0$ である。$S^m$ の閉包は $S^m$ で消える関数の零点集合なので、$K^{*m}$ 全体である。$K^m$ でも同じである。
    1. により閉部分群は全体か有限である。$K^*$ の有限部分群は巡回群で、位数 $d$ の元 $\zeta$ は $\zeta^d=1$ を満たす。$K^*$ には $1$ 以外に $p$ 乗して $1$ になる元が無い(上の例(1 の冪根の群と点の枠組み))ので $p\nmid d$ で、部分群は $\mu_d$ である。
  • 使いどころ:(1) は Proposition 4 b) の最小の閉部分群の決定(本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の主結果 5)。(2) は Proposition 2 の稠密性(本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の主結果 1)。上の定理(Zariski 位相の基本)の (2) は連結な群の共役の像(本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の主結果 2。射の連続性と点が閉であることを使う)に使う。(4) は Proposition 5 の系 2 の原論文の道(本書『5-3 共役作用の分解』)に使う。
  • 案内:Zariski位相、Har77 第 I 章 1 節、Hum75 §1〜§3。
閉でない部分群とその閉包

標数 0 で、加法群 $K$ の部分群 $\mathbf Z\cdot1$ は無限なので、上の命題(1 次元の場合と積の稠密性)の (1) により閉包は $K$ 全体で、閉でない。$p$ と異なる素数 $q$ について、$q$ 冪乗根の全体 $\mu_{q^\infty}=\bigcup_k\mu_{q^k}$ は $K^*$ の無限部分群で、閉包は $K^*$ である。このように、元 $y$ の生成する抽象的な部分群と、$y$ を含む最小の閉部分群は一般に違う。前者が有限なら両者は一致する(有限集合は閉)。本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の主結果 1 は、$\mu_{q^\infty}$ の稠密性を $K^{*n}$ へ広げたものである。

代数群と閉部分群

原論文は代数群の定義を書かず、冒頭で、連結とも、忠実な有理表現をもつとも限らないと一言述べるだけである。有理表現の定義は本講演に無い。本書の読みをここで決める。

代数群・有理準同型・線形代数群

代数群とは、代数的集合 $G$ に群の構造が与えられ、積 $G\times G\to G$ と逆元 $G\to G$ が射であるものをいう。単位元を $e$ と書く。代数群の間の群準同型で射でもあるものを有理準同型といい、代数群 $G$ から一般線形群 $\mathrm{GL}(V)$($V$ は有限次元)への有理準同型を有理表現という(本書が足した仮定の読み)。有理準同型で逆写像も有理準同型であるものを代数群の同型という。有限次元の $V$ について $\mathrm{GL}(V)$ の閉部分群を線形代数群、$\mathrm{GL}(n,K)$ の閉部分群を行列代数群という。線形代数群に同型な代数群をアフィン代数群という(原論文の定義)。代数群 $G$ の閉集合で部分群であるものを閉部分群といい、閉部分群は $G$ から誘導された構造で代数群になる。

有理表現を「係数がすべて正則な表現」と定義する流儀もある。本書の読み(代数群の射である準同型)とそれが同値であることは、本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果 4 で上の命題(標準的な空間の座標環)の (3)(4) から示す。アフィン代数群がちょうどアフィン代数的集合である代数群であることは、本書『1-2 アフィン代数群は線形群』の主結果 4 で示す。

閉部分群と単位成分の基本

$G$ を代数群とする。
(1) 部分群の閉包は部分群である。可換な部分群の閉包は可換であり、正規な部分群の閉包は正規である。
(2) 局所閉(ある開集合と閉集合の交わり)な部分群は閉である。
(3) 単位元を含む既約成分 $G_0$(単位成分)は、指数有限の閉正規部分群で、$G$ の既約成分と連結成分はどちらもちょうど $G_0$ の剰余類である。とくに代数群は、連結であることと既約であることが同値である。
(4) $G$ が連結なら、指数有限の閉部分群は $G$ 自身であり、$\dim H=\dim G$ となる閉部分群 $H$ も $G$ 自身である。
(5) 閉部分群 $M$ の正規化群 $\{x:xMx^{-1}=M\}$ と中心化群 $\{x:xm=mx\ (m\in M)\}$、とくに $G$ の中心は閉部分群である。$M$ の閉正規部分群 $M'$ について、集合 $\{x:xMx^{-1}=M,\ xm'x^{-1}=m'\ (m'\in M'),\ xmx^{-1}m^{-1}\in M'\ (m\in M)\}$ は閉部分群である。

  1. で連結な代数群が既約であることは、既約成分が互いに交わらないことによる。単位元を通る既約成分が一つしかないことがまず示され、平行移動は既約成分を既約成分に移すので、どの点を通る既約成分も一つになり、既約成分は連結成分と一致する。
元の生成する最小の閉部分群

代数群 $G$ の元 $y$ について、$y$ を含む閉部分群すべての共通部分を $G(y)$ と書き、$y$ を含む最小の閉部分群という。閉集合の共通部分は閉で、部分群の共通部分は部分群なので、$G(y)$ は閉部分群である。

上の定理(閉部分群と単位成分の基本)の (1) により、$G(y)$ は冪 $\{y^n\}_{n\in\mathbf Z}$ の閉包に一致し、可換である。本書は $G(y)$ を共通部分として定義し、閉包との一致を使う段だけを[条件付き]の側に置く。こうすると、本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の主結果 5(単冪な元はある加法群の表現の像に入り、その像が $G(y)$ である)は、上の命題(1 次元の場合と積の稠密性)の (1) だけで閉じ、[完結]のまま書ける。$G(y)$ が可換であることも、$\mathrm{GL}(V)$ の中では $y$ の中心化群が行列の方程式で定まる閉部分群であることから、閉包の一般論を使わずに出る(本書『4-2 準同型と閉部分群と Jordan 分解』の命題(最小の閉部分群の二つの性質))。同じ頁の主結果 5(Théorème 3)が[条件付き]なのは、可換性ではなく準同型の像の閉性による。

準同型の像と次元の公式

$f\colon G\to G'$ を代数群の有理準同型とする。
(1) 核 $\ker f$ は $G$ の閉正規部分群で、像 $f(G)$ は $G'$ の閉部分群である。
(2) $\dim G=\dim\ker f+\dim f(G)$ である。
(3) $G$ が連結なら $f(G)$ は連結である。

  1. の核の閉性は、$\{e\}$ の逆像なので定義から直ちに出る。像の閉性は、像が $\overline{f(G)}$ の稠密な開集合を含むこと(Chevalley の構成可能集合の定理)と上の定理(閉部分群と単位成分の基本)の (1)(2) から出る。(3) は上の定理(Zariski 位相の基本)の (2) である。原論文は (2) を同じセミナーの第 3 講演 Laz56 に委ね、(1) の像の閉性を理由を書かずに使う。
  • 使いどころ:定理(閉部分群と単位成分の基本)の (4) は、Proposition 5 の $N''_g$ の上の全単射性(本書『5-3 共役作用の分解』の主結果 2)。(5) の中心の閉性は Proposition 2 の系(本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の主結果 2)。(3) の既約性は同じ頁の注意で別の経路として触れる。(5) の最後の集合は Proposition 5 の系 1(本書『5-3 共役作用の分解』の主結果 1)。(1) の可換性は原論文の Théorème 3 の証明が黙って使う(本書『4-2 準同型と閉部分群と Jordan 分解』は中心化群で示すので使わない)。定理(準同型の像と次元の公式)の (1) の像の閉性は Théorème 3(本書『4-2 準同型と閉部分群と Jordan 分解』の主結果 5)と系 3 c)(本書『3-2 指標群との双対性』の主結果 4)。次元の公式は Proposition 5(本書『5-3 共役作用の分解』の主結果 2)。
  • 案内:代数群、線形代数群、Bor56 §1、Hum75 §7〜§8、Bor91 第 I 章、Spr98 第 2 章、Laz56(原論文が次元の公式を委ねる講演。本書は開いていない)。

一般線形群と基本の例

本書の例と反例に繰り返し現れる群を、座標環とともに挙げる。どれも上の命題(標準的な空間の座標環)の範囲で計算できる。

一般線形群・対角群・上三角群

$\mathrm{GL}(n,K)$ は上の命題(標準的な空間の座標環)の (3) により座標環 $K[X_{ij},\det^{-1}]$ をもつアフィン代数的集合で、行列の積と逆行列(余因子行列を $\det$ で割ったもの)は座標が正則なので射であり、代数群である。その閉部分群として次がある。対角群 $D(n)=\{X_{ij}=0\ (i\ne j)\}$ は $K^{*n}$ に同型で、座標環は Laurent 多項式環である。上三角群 $B(n)=\{X_{ij}=0\ (i>j)\}$、対角成分が $1$ の上三角群 $U(n)=B(n)\cap\{X_{ii}=1\}$、特殊線形群 $\mathrm{SL}(n,K)=\{\det=1\}$ も閉部分群である。$U(n)$ は対角より上の成分を座標として $K^{n(n-1)/2}$ に同型な代数的集合で、既約である。$D(n)$ の元は半単純、$U(n)$ の元は単冪である(本書『0-3 線形代数と群の道具』)。

加法群と乗法群

加法群 $K$(座標環 $K[X]$)と乗法群 $K^*=\mathrm{GL}(1,K)=D(1)$(座標環 $K[X,X^{-1}]$)は、どちらも連結な 1 次元の代数群である。写像 $t\mapsto\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ は $K$ から $U(2)$ への群準同型で、座標が正則であり、逆写像は行列の $(1,2)$ 成分なので、代数群の同型である。したがって加法群は線形代数群である。乗法群の積 $K^{*n}$(トーラス)は $D(n)$ に同型である。$p\nmid d$ のとき $\mu_d\subset K^*$ は位数 $d$ の巡回群で、上の命題(1 次元の場合と積の稠密性)の (3) により $K^*$ の閉部分群は $K^*$ とこれらで尽くされる。加法群では、標数 0 なら閉部分群は $\{0\}$ と $K$ だけであり、標数 $p\ne1$ なら $\mathbf F_p\cdot1$ のような有限部分群も閉部分群である。

単項行列の群と単位成分

$\mathrm{GL}(2,K)$ の部分集合 $G=\{\mathrm{diag}(s,s^{-1})\}\cup\bigl\{\begin{pmatrix}0&r\\r^{-1}&0\end{pmatrix}\bigr\}$($s,r\in K^*$)は、行列 $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ についての方程式 $ab=ac=db=dc=0$、$ad+bc=1$ の零点集合に一致する($a\ne0$ なら $b=c=0$、$ad=1$。$a=0$ なら、$d\ne0$ とすると $b=c=0$ で $ad+bc=0$ となり矛盾するので $d=0$、$bc=1$)。積と逆元で閉じるので(反対角の元は位数 $2$)閉部分群である。対角部分 $H=\{b=c=0\}$ は乗法群に同型で連結、$G=H\sqcup wH$($w=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$)は二つの開かつ閉な部分の和なので、単位成分は $G_0=H$ で、指数は $2$ である。$w$ による共役は $\mathrm{diag}(s,s^{-1})$ を $\mathrm{diag}(s^{-1},s)$ に移す。この群は本書『2-2 正規部分群を核とする表現』の反例「単項行列の群と対角部分:原論文の構成の核は部分群より小さい」と本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の反例(反例:連結性を外すと中心に入らない)に現れる。

その後の発展

以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。

  • 群スキーム(1962〜1970 年):Demazure と Grothendieck の SGA 3 SGA3 と Demazure–Gabriel DG70 は、代数群を群スキームとして扱い直した。代数的閉体の上でも、$\mu_p$ や加法群の Frobenius 核のような被約でない群スキームが現れ、本書の点の枠組みでは見えない。本書の「アフィン代数群」は被約なアフィン群スキームの $K$ 点に当たり、座標環は余乗法をもつ Hopf 代数になる(Wat79、Mil17)。標数 0 では体の上の群スキームは自動的に被約であること(Cartier の定理)も、これらの本にある。
  • アフィンでない代数群(1956〜1960 年):Rosenlicht Ros56 と Chevalley Che60 は、連結な代数群がアフィンな正規部分群とアーベル多様体の拡大になることを示した。現代的な証明は Conrad Con02 にある。本書の原論文はアフィンの場合だけを扱い、一般の代数群の正則関数の分解を同じセミナーの第 1 講演に委ねる(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』、本書『1-2 アフィン代数群は線形群』)。
  • 教科書(1969〜1998 年):代数的閉体の上の線形代数群の一般論(閉包、単位成分、像の閉性、次元の公式、Jordan 分解)は Borel Bor91(初版 1969 年)、Humphreys Hum75、Springer Spr98 にまとめられている。原論文が解説の対象として予告した Borel の論文 Bor56 の §1 がその出発点である。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Gro56 である。本頁は前提の頁で、原論文の主張の証明は含まない。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 4-$(n-1)$)である。

本頁原論文印字頁
定義(代数的集合と多様体(本書の読み))、注意(点の枠組みで何が見えなくなるか)冒頭の「用語と記号」4-01
定義(アフィン代数的集合と座標環)、定理(アフィン代数的集合の基本定理)Lemme 2 の証明(積)、Proposition 1(閉埋め込み)、Théorème 1 の証明(基底定理と零点定理)、系 3 c) の証明(制限)4-02、4-03、4-03〜4-04、4-06〜4-07
命題(標準的な空間の座標環)、例(1 の冪根の群と点の枠組み)有理性の言い換え、Théorème 2、系 1 の後の観察4-02、4-05〜4-06
定義(Zariski 位相・既約性・次元)、定理(Zariski 位相の基本)、命題(1 次元の場合と積の稠密性)Proposition 2 とその系、Proposition 4 b)、Proposition 5 の系 24-07〜4-10、4-14
定義(代数群・有理準同型・線形代数群)冒頭の「用語と記号」、アフィン代数群の定義4-01、4-03
定理(閉部分群と単位成分の基本)、定義(元の生成する最小の閉部分群)、定理(準同型の像と次元の公式)Proposition 2 の系、Proposition 4 b)、Théorème 3、Théorème 4、Proposition 5 とその系 14-07〜4-13

参考文献

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