群の表現の係数を群の上の関数として扱い、係数が平行移動でどう動くか、表現と係数空間がどんな関係にあるかを調べる。そのうえで、代数群の表現が有理的であることを係数の正則性で判定し、正則関数の平行移動がつねに有限次元の空間に収まるという有限性の補題を示す。原論文が「左右の平行移動の張る空間」と書く係数空間は、左右の移動の和ではなく両側の移動の張る空間と読むべきことを、一般線形群の例で確かめる。
前提知識: 群の表現, 双対空間, 半単純加群, アフィン代数的集合, 正則関数
$K$ を代数的閉体とする。$G$ は群(主結果 1〜3 では代数群とは限らない)、$u$ は $G$ のベクトル空間 $V$ 上の線形表現、$V'$ は双対空間で、$G$ は $V'$ に反傾表現で作用する。$A_u$ は $u$ の係数の張る空間、$L_s$、$R_s$ は左右の正則表現である(下の定義)。主結果 4〜6 では $G$ は代数群で、$A(G)$ はその正則関数の代数である。
本頁の主結果は次の六つである。
原論文 Gro56 は、1956 年 11 月 26 日の Chevalley セミナーでの講演の記録である。冒頭で、次回以降の講演の目的は Borel の論文 Bor56 の結果の解説であると述べ、本講演をその前置きに位置づける(印字 4-01)。続く「用語と記号」の段で、基礎体 $K$ を簡単のため代数的閉とする。原論文は、多くの結果がこの仮定なしでも成り立つと断るが、どれがそうかは書かない。代数的集合は同じセミナーの exposé 1 Car56 の意味とされ、代数群は連結とは限らず、忠実な有理線形表現をもつとも限らないと明記される。有限次元の $V$ の一般線形群 $\mathrm{GL}(V)$ の閉部分群を線形代数群と呼ぶ。
本書は exposé 1 の本文を開いていない。代数的集合は、$K$ 上有限型の分離的な被約スキームを、その $K$ 点の集合と同一視したもの(古典的な意味の代数多様体の非交和を許すもの)と読む。これは本書が足した枠組みの読みで、本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』と『0-4 記号と約束』に説明がある。
n° 1 の主題は「線形表現の一般論」である。原論文はまず、代数群とは限らない一般の群 $G$ について、表現の係数という関数を導入する。表現を群の上の関数の空間に写し取ると、表現の性質が関数の平行移動の性質に置き換わる。とくに、表現の組成因子や半単純性は、係数の張る有限次元の関数空間で読み取れる(Lemme 1)。そのうえで $G$ を代数群とし、正則関数の平行移動が有限次元の空間に収まること(Lemme 2)を示す。これで、正則関数と有理表現の係数が同じものであることが分かり、次の頁の結果(有理表現の半単純性と $A(G)$ の半単純性の同値、アフィン代数群が線形群であること)が出る。
原論文はこの部分の証明の大半を一、二行で済ませる。係数空間を「左右の平行移動の張る空間」と書く一文は、左右の移動の和とも、左右を同時に施した移動の張る空間とも読める。また、有理表現の定義は本講演に書かれず、「係数がすべて正則関数であること」が有理性と同値であることを定義の言い換えのように述べる。本頁はこの二点を確定させ、Lemme 2 の証明の外部依存をアフィンの場合と一般の場合に分ける。
主結果 1〜3 は群の構造しか使わないので、最初の二つの定義は一般の群について置く。
$G$ を群、$u$ を $G$ の $K$ 上のベクトル空間 $V$ 上の線形表現とし、$s\in G$ による $x\in V$ の像を $s.x$ と書く。双対空間 $V'$ には反傾表現で作用させる。すなわち $s.x'\in V'$ を
$$\langle x,s.x'\rangle=\langle s^{-1}.x,x'\rangle\qquad(x\in V,\ x'\in V')$$
で定める。$x\in V$、$x'\in V'$ に対し、$G$ 上の関数
$$u_{x,x'}(s)=\langle s.x,x'\rangle\qquad(s\in G)$$
を $u$ の係数と呼ぶ。係数の張る $G$ 上の関数の空間を $A_u$ と書き、$u$ の係数空間と呼ぶ。
$V$ が有限次元で基底 $(e_i)$ と双対基底 $(e_i^*)$ をとり、$u(s)$ の行列を $u(s)e_j=\sum_iF_{ij}(s)e_i$(列の規約。本書『0-4 記号と約束』)で定めると、$F_{ij}=u_{e_j,e_i^*}$ で、どの係数も $u_{x,x'}=\sum_{i,j}\langle e_i,x'\rangle\langle x,e_j^*\rangle F_{ij}$ と行列成分の一次結合になる。したがって $A_u$ は行列成分 $F_{ij}$ の張る空間で、$\dim A_u\le(\dim V)^2$ である。行列係数という名はここから来る。
係数は $G$ 上の関数なので、$G$ が関数に平行移動で作用する仕方を決めておく。
$G$ を群とし、$G$ 上の $K$ に値をとる関数 $f$ と $s\in G$ に対し
$$L_sf(t)=f(s^{-1}t),\qquad R_sf(t)=f(ts)\qquad(t\in G)$$
とおく。$L_{st}=L_sL_t$、$R_{st}=R_sR_t$、$L_e=R_e=\mathrm{id}$ が成り立ち、$s\mapsto L_s$、$s\mapsto R_s$ は $G$ 上の関数の空間の上の線形表現である(左正則表現、右正則表現)。また $L_s$ と $R_t$ は可換である。関数 $f$ の右移動 $R_bf$($b\in G$)の張る空間を $V_f$ と書く。
$R_s(R_tf)(x)=(R_tf)(xs)=f(xst)=R_{st}f(x)$、$L_s(L_tf)(x)=(L_tf)(s^{-1}x)=f(t^{-1}s^{-1}x)=L_{st}f(x)$、$L_sR_tf(x)=f(s^{-1}xt)=R_tL_sf(x)$ で、定義の等式はすぐ確かめられる。$R_sV_f\subset V_f$ は $R_sR_bf=R_{sb}f$ から出るので、$V_f$ は右移動で不変である。関数の空間の部分空間で $R_s$($s\in G$)で不変なものを、右移動の作用で $G$ 加群とみる。加群の準同型・部分加群・商加群・半単純性・組成因子はこの意味で言う。
次に代数群を置く。原論文は代数的集合と代数群の定義を exposé 1 に委ねるので、本書の読みで述べる。
代数的集合とは、$K$ 上有限型の分離的な被約スキームを、その $K$ 点の集合と同一視したものをいう。代数的集合 $X$ の上の正則関数の $K$ 代数を $A(X)$ と書く。代数群とは、代数的集合 $G$ に群の構造が与えられ、積 $G\times G\to G$ と逆元 $G\to G$ が代数的集合の射であるものをいう。$V$ を有限次元とする。$G$ の $V$ 上の表現 $u\colon G\to\mathrm{GL}(V)$ が有理的であるとは、$u$ が代数的集合の射であることをいう(本書が足した仮定の読み。群準同型であることは表現の定義に含まれる)。有理表現どうしの $G$ 準同型を有理表現の準同型と呼ぶ。
$\mathrm{GL}(V)$ は $\dim V=n$ の基底をとると $\mathrm{GL}(n,K)$ と同一視され、$\mathrm{GL}(n,K)$ はアフィン空間 $K^{n^2}$ の主開集合 $\{\det\ne0\}$ である。その座標環は
$$A(\mathrm{GL}(n,K))=K[X_{ij},\det^{-1}]$$
で、代数的集合 $X$ から $\mathrm{GL}(n,K)$ への写像 $\phi$ が射であることは、座標 $X_{ij}\circ\phi$ がすべて $X$ 上の正則関数であることと同値である。これは標準的な空間の座標環とその射の記述で、本書はこれを完結の側で使う(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」の (3)(4))。また、代数群では左移動 $x\mapsto tx$、右移動 $x\mapsto xt$、逆元 $x\mapsto x^{-1}$ が射なので、正則関数 $h$ に対し $s\mapsto h(ts)$、$s\mapsto h(st)$、$s\mapsto h(s^{-1})$ はまた正則関数である。とくに $A(G)$ は $L_s$、$R_s$ で保たれる。
有理性を「表現が射であること」と読むのは、原論文が有理表現を本講演で定義しないからである。この読みを外して抽象群の準同型まで許すと、有理性の判定は意味を失う(下の反例「移動が有限次元でも正則とは限らない」)。
次の事実は証明せずに引用する。事実 1 は本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定理「アフィン代数的集合の基本定理」の (5) に当たる。出典は AM69、Har77 で、該当箇所は本頁では確認していない。事実 2 は原論文が同じセミナーの exposé 1 Car56 に委ねる事実で、本書は exposé 1 の本文を開いていない。要点は本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』にある。
まず、係数を平行移動すると別の係数になることを確かめる。反傾表現の約束がちょうどこのために選ばれている。
$G$ を群、$u$ を $V$ 上の表現とする。$x\in V$、$x'\in V'$、$s\in G$ について
$$L_su_{x,x'}=u_{x,s.x'},\qquad R_su_{x,x'}=u_{s.x,x'}$$
が成り立つ。とくに係数空間 $A_u$ は $L_s$、$R_s$($s\in G$)で不変である。
段 1(左移動).$t\in G$ について、反傾表現の定義を $y=t.x$ に当てると
$$L_su_{x,x'}(t)=u_{x,x'}(s^{-1}t)=\langle s^{-1}.(t.x),x'\rangle=\langle t.x,s.x'\rangle=u_{x,s.x'}(t).$$
段 2(右移動).$R_su_{x,x'}(t)=u_{x,x'}(ts)=\langle t.(s.x),x'\rangle=u_{s.x,x'}(t)$。
段 3(不変性).$A_u$ は係数の張る空間で、$L_s$、$R_s$ は線形なので、段 1・段 2 により $L_sA_u\subset A_u$、$R_sA_u\subset A_u$ である。
これで係数空間は左右どちらの移動でも閉じた空間であることが分かった。とくに右移動で $A_u$ は $G$ 加群になり、$x'$ を固定した写像 $x\mapsto u_{x,x'}$ は段 2 によって $V$ から $A_u$ への $G$ 準同型になる。この準同型が次の二つの主結果の要になる。
次に、有限次元の表現と、移動が有限次元に収まる関数とが、ちょうど同じものの二つの見方であることを示す。
$G$ を群とする。
段 1(1 の証明).定義「係数と係数空間」の後に見たとおり、$A_u$ は $(\dim V)^2$ 個の行列成分で張られる。移動が $A_u$ に属することは、上の定理(係数の平行移動の公式)の段 3 による。
段 2(2 の証明).$V_f$ は右移動で不変なので $u$ は表現である。$u_{f,\varepsilon}(s)=\varepsilon(R_sf)=(R_sf)(e)=f(es)=f(s)$。
段 3(評価が双対を張ること).$a\in G$ での評価 $\mathrm{ev}_a\colon g\mapsto g(a)$ を $V_f$ に制限したものは $V_f'$ の元である。$g\in V_f$ がすべての $\mathrm{ev}_a$ で $0$ なら、$g$ は関数として $0$ である。したがって $\{\mathrm{ev}_a\}_{a\in G}$ の張る $V_f'$ の部分空間の零化空間は $0$ で、$V_f$ は有限次元だから、これらの評価は $V_f'$ を張る。
段 4(3 の証明).$A_u$ は $u_{g,x'}$($g\in V_f$、$x'\in V_f'$)で張られ、係数は $g$、$x'$ について双線形である。$V_f$ は $R_bf$ で、$V_f'$ は段 3 により $\mathrm{ev}_a$ で張られるので、$A_u$ は
$$u_{R_bf,\mathrm{ev}_a}(s)=(R_sR_bf)(a)=f(asb)=(L_{a^{-1}}R_bf)(s)$$
の形の関数で張られる。$a$ が $G$ 全体を動けば $a^{-1}$ も $G$ 全体を動くので、$A_u$ は両側の移動 $L_aR_bf$ の張る空間に等しい。
2 は、移動が有限次元に収まる関数からいつでも有限次元の表現が作れることを言い、1 はその逆向きである。3 は、その表現の係数空間が、$f$ に左右の移動を同時に施した関数 $s\mapsto f(asb)$ で張られることを言う。原論文の句はこの点で二通りに読めるので、読みを確定させておく。
原論文は式 (1) の後の観察(印字 4-02)で、2 の表現の係数空間を、$f$ の「左右の平行移動の張る空間」と書く。この句は、左移動 $L_af$ の全体と右移動 $R_bf$ の全体を合わせた集合の張る空間(和の読み)とも、左右を同時に施した $L_aR_bf$ の張る空間(両側の読み)とも読める。上の定理の 3 が示すとおり、正しいのは両側の読みである。和の読みでは空間が係数空間より真に小さくなる例があり(下の反例「左右の移動の和では係数空間にならない」)、和の読みは偽になる。一方、両側の読みの空間は $a=e$ または $b=e$ のときの左移動・右移動を含み、また $L$ と $R$ で閉じるので、左移動と右移動で閉じた空間のうち $f$ を含む最小のものでもある。原論文の語は両様に読めるので、本書はこれを原論文の誤りとは数えず、読みの確定として扱う。1 の前半(係数の左右の移動の張る空間は有限次元)は、どちらの読みでも正しい。
有限次元の表現は、係数空間の中にそのまま映る。次の補題は、その映り方を部分加群と商加群の言葉で述べる。
$G$ を群、$u$ を有限次元の $V$ 上の表現とし、$A_u$ を右移動で $G$ 加群とみる。$V'$ の生成系 $x_1',\dots,x_n'$ をとる(たとえば双対基底で $n=\dim V$)。
段 1(準同型であること).上の定理(係数の平行移動の公式)の $R_su_{x,x'}=u_{s.x,x'}$ により、$x'$ を固定した $x\mapsto u_{x,x'}$ は $G$ 準同型である。1・2 の写像はその直和と和なので $G$ 準同型である。
段 2(単射).すべての $i$ で $u_{x,x_i'}=0$ なら、$e$ での値 $u_{x,x_i'}(e)=\langle x,x_i'\rangle$ がすべて $0$ である。$x_i'$ は $V'$ を生成するので $V'$ のすべての元が $x$ で $0$ になり、$x=0$。
段 3(全射).係数 $u_{x,x'}$ をとり、$x'=\sum_ic_ix_i'$ と書くと、$u_{x,x'}$ は $x'$ について線形なので $u_{x,x'}=\sum_iu_{c_ix,x_i'}$ で、これは $(c_ix)_i$ の像である。像は部分空間で、$A_u$ を張る係数をすべて含むので $A_u$ に等しい。
段 4(組成因子と半単純性).$V$ も $A_u$ も有限次元なので組成列をもつ。$V$ は $A_u^n$ の部分加群に同型なので、$V$ の組成因子は $A_u^n$ の組成因子、すなわち $A_u$ の組成因子に含まれる。$A_u$ は $V^n$ の商加群に同型なので、$A_u$ の組成因子は $V$ の組成因子に含まれる。半単純性については、$A_u$ が半単純なら $A_u^n$ も、その部分加群と同型な $V$ も半単純である。$V$ が半単純なら $V^n$ も、その商加群と同型な $A_u$ も半単純である。ここで使ったのは、半単純加群の有限直和・部分加群・商加群が半単純であることと、組成因子が部分・商・有限直和で保たれることで、初等的な加群の事実である(Bou58、本書『0-3 線形代数と群の道具』)。
3 で一致するのは組成因子の同型類の集合で、重複度ではない。たとえば $\mathrm{GL}(2,K)$ の標準表現では、係数空間は標準表現の二つの直和になる(一般に $\mathrm{GL}(n,K)$ では $n$ 個。下の例「一般線形群の標準表現の係数空間」)。組成因子の種類だけが問題になる場面、たとえば半単純性の判定では、表現をその係数空間に取り替えてよい。これが次の頁の主結果の出発点になる。
ここから $G$ を代数群とする。係数空間が $A(G)$ の中にあるかどうかで、表現が有理的かどうかが決まる。
$G$ を代数群、$V$ を有限次元とする。
段 1((b) と (c) の同値).$A_u$ は係数の張る空間で、$A(G)$ は部分空間なので、係数がすべて $A(G)$ に属することと $A_u\subset A(G)$ は同じである。
段 2((a) と (b) の同値).$V$ の基底をとって $\mathrm{GL}(V)=\mathrm{GL}(n,K)$ と同一視する。定義「係数と係数空間」の後に見たとおり、行列成分 $F_{ij}=u_{e_j,e_i^*}$ は係数で、どの係数も $F_{ij}$ の一次結合である。したがって (b) は「$F_{ij}=X_{ij}\circ u$ がすべて正則」と同値である。定義「代数群と有理表現」の後に述べた $\mathrm{GL}(n,K)$ への射の記述により、これは $u$ が射であること、すなわち (a) と同値である。
段 3(基準点の選択).2 を示す。$W$ の基底 $h_1,\dots,h_m$ をとる。$t\in G$ に対するベクトル $(h_1(t),\dots,h_m(t))\in K^m$ の全体は $K^m$ を張る。実際、張らなければ零でない $(c_k)$ があって、すべての $t$ で $\sum_kc_kh_k(t)=0$、すなわち $\sum_kc_kh_k=0$ となり、基底であることに反する。そこで $t_1,\dots,t_m\in G$ を、行列 $M=(h_k(t_j))_{j,k}$ が可逆になるようにとれる。
段 4(行列成分の正則性).$R_sh_k\in W$ なので $R_sh_k=\sum_lc_{lk}(s)h_l$ と書ける。これを $t_j$ で評価すると
$$h_k(t_js)=\sum_lh_l(t_j)c_{lk}(s)\qquad(j=1,\dots,m).$$
$M$ は可逆なので、$c_{lk}(s)$ は関数 $s\mapsto h_k(t_js)$($j=1,\dots,m$)の、$M^{-1}$ の成分を係数とする一次結合である。$s\mapsto h_k(t_js)$ は正則関数 $h_k$ と左移動の射 $s\mapsto t_js$ の合成なので正則で、したがって $c_{lk}$ は正則である。
段 5(有理性).$c_{lk}(s)$ は基底 $(h_l)$ に関する $R_s|_W$ の行列成分(列の規約)で、$R_{st}=R_sR_t$、$R_e=\mathrm{id}$ から $s\mapsto R_s|_W$ は $\mathrm{GL}(W)$ への群準同型である。行列成分がすべて正則なので、1 の (b) から (a) により有理的である。左移動の場合は $L_sh_k(t_j)=h_k(s^{-1}t_j)$ で、$s\mapsto h_k(s^{-1}t_j)$ は逆元の射と右移動の射の合成を経た正則関数なので、同じ議論が通る。
1 は、有理性を行列成分の言葉に直しただけで、一般線形群の座標環が行列成分と $\det^{-1}$ で生成されることがすべてである。2 は、正則関数の空間の中に有限次元で移動不変な部分空間が見つかれば、そこから有理表現が作れることを言う。残る問題は、そのような部分空間がいつ見つかるかである。
原論文は本講演で有理表現を定義しない。Lemme 1 の後(印字 4-02)で、代数群 $G$ の有限次元の表現が有理的であるための必要十分条件は係数が正則関数であること、すなわち $A_u\subset A(G)$ であると一文で述べ、証明を添えない。先行する講演に定義があるとみられるが、本書は確かめていない。本書は有理表現を「代数群の射である群準同型」と読み(本書が足した仮定の読み)、原論文の一文を上の定理の 1 として証明した。この読みでは、原論文の一文は定義の言い換えではなく、一般線形群の座標環の形から出る命題である。
上の定理の 2 を使うには、正則関数の右移動が有限次元の空間に収まることが要る。アフィンの場合、これは群の積を座標環のテンソル積で書くことから出る。
$G$ を、アフィン代数的集合である代数群とし、$f\in A(G)$ とする。
段 1(積の分解).積 $\mu\colon G\times G\to G$ は射なので、$f\circ\mu$ は $G\times G$ 上の正則関数である。$G$ はアフィンなので、引用する事実 1 により、有限個の $a_i,b_i\in A(G)$ があって
$$f(ts)=\sum_{i=1}^ka_i(t)b_i(s)\qquad(s,t\in G).$$
段 2(右移動).$R_sf(t)=f(ts)=\sum_ib_i(s)a_i(t)$ なので、$R_sf=\sum_ib_i(s)a_i$ は $a_1,\dots,a_k$ の張る空間に入る。ゆえに $V_f$ は有限次元で、各 $R_sf$ は正則だから $V_f\subset A(G)$ である。
段 3(有理性と係数).$V_f$ は右移動で不変な $A(G)$ の有限次元部分空間なので、上の定理(有理性の判定)の 2 により $s\mapsto R_s|_{V_f}$ は有理表現である。上の定理(係数空間の訂正した読みと有限次元性)の 2 により $f=u_{f,\varepsilon}$ で、$f$ はこの有理表現の係数である。
段 4(左移動).$c,d\in G$ について $L_cf(t)=f(c^{-1}t)=\sum_ia_i(c^{-1})b_i(t)$ なので、$L_cf=\sum_ia_i(c^{-1})b_i$ は $b_1,\dots,b_k$ の張る空間に入る。$L_dL_cf=L_{dc}f$ なので左移動の張る空間は左移動で不変で、上の定理(有理性の判定)の 2 の後半により、その上の左移動の表現は有理表現である。
段 1 の分解さえあれば、あとは線形代数である。アフィンとは限らない代数群でも、原論文はこの分解を exposé 1 に委ねて同じ議論を行う。
$G$ を代数群(アフィンとは限らない)とし、$f\in A(G)$ とする。このとき上の定理(正則関数の移動の有限性(アフィンの場合))の 1・2 がそのまま成り立つ。
段 1(積の分解).引用する事実 2 を $X=Y=G$ に当てると、$f\circ\mu$ は有限和 $\sum_ia_i(t)b_i(s)$($a_i,b_i\in A(G)$)に書ける。
段 2(以下同じ).上の定理(正則関数の移動の有限性(アフィンの場合))の証明の段 2〜段 4 は、段 1 の分解と上の定理(有理性の判定)だけを使い、$G$ がアフィンであることを使わない。したがってそのまま通る。
二つの定理を分けたのは、依っている外の事実が違うからである。アフィンの場合は座標環のテンソル積という標準的な定理で済むが、一般の場合は本書が開いていない exposé 1 の結果に依る。本書の以後の頁で使うのはアフィンの場合だけで、アフィン代数群が線形群であること(本書『1-2 アフィン代数群は線形群』)も、閉部分群を半不変式で切り出す定理(本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』)も、上の定理(正則関数の移動の有限性(アフィンの場合))を引く。とくに後者の証明は左移動の有限次元性を使うので、その部分を 2 に含めた。
原論文の Lemme 2 の証明(印字 4-02)は「$R_sf(t)=f(st)$」と打つが、右正則表現の定義(印字 4-01)は $R_sf(t)=f(ts)$ なので、$f(ts)$ と読む。論証はどちらでも通る。$f(st)$ と読んでも、積の上の関数として $\sum_ig_i(s)h_i(t)$ と分解すれば、$R_sf$ は $h_i$ の一次結合になるからである。原論文が一般の代数群のまま述べている Lemme 2 を、本書はアフィンの場合と一般の場合の二つの定理に分けた。また、Lemme 1 の直前の「susjective」は surjective の、Lemme 1 の主張の「sous-G-module」の G が上にずれた印字は sous-G-module の打ち損じである。原論文は定理 1 の証明とその系の証明(印字 4-04)で Lemme 2 を左移動にも使うが、Lemme 2 の主張は右移動だけを述べる。本書はその部分を上の定理の 2 として示した。
一般線形群のいちばん簡単な関数で、係数空間と移動の空間を実際に書き出す。ここでは $G=\mathrm{GL}(2,K)$ とし、$X_{ij}$ で行列の $(i,j)$ 成分を表す。$w=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ とおく。
$f=X_{11}$ とする。$R_bf(t)=(tb)_{11}=t_{11}b_{11}+t_{12}b_{21}$ なので $R_bf=b_{11}X_{11}+b_{21}X_{12}$ で、$b=1$ と $b=w$ から $V_f=\langle X_{11},X_{12}\rangle$ である。同様に $R_sX_{12}(t)=(ts)_{12}=t_{11}s_{12}+t_{12}s_{22}$ だから
$$R_sX_{11}=s_{11}X_{11}+s_{21}X_{12},\qquad R_sX_{12}=s_{12}X_{11}+s_{22}X_{12}.$$
基底 $(X_{11},X_{12})$ に関する $R_s|_{V_f}$ の行列(列の規約)は $s$ そのもので、$V_f$ は標準表現 $K^2$ に同型である。その係数空間は行列成分 $X_{11},X_{12},X_{21},X_{22}$ の張る 4 次元の空間で、右移動の加群として $\langle X_{11},X_{12}\rangle\oplus\langle X_{21},X_{22}\rangle$ に分かれ、どちらの成分も同じ計算で標準表現に同型である。上の定理(表現と係数空間の組成因子)の 3 のとおり、組成因子は標準表現だけで一致するが、重複度は $V_f$ で 1、$A_u$ で 2 と違う。上の定理(係数空間の訂正した読みと有限次元性)の 3 も確かめられる:$f(asb)=\sum_{i,j}a_{1i}s_{ij}b_{j1}$ で、$a,b\in\{1,w\}$ をとると $X_{11},X_{12},X_{21},X_{22}$ がそれぞれ単独で現れる。
同じ関数で、左右の移動の和をとると何が起きるかを見る。
外すのは、係数空間を両側の移動 $L_aR_bf$ で張るという読みで、代わりに左移動の全体と右移動の全体の和をとる。上の例と同じく $G=\mathrm{GL}(2,K)$、$f=X_{11}$ とする。右移動の張る空間は $\langle X_{11},X_{12}\rangle$ である。左移動は $L_af(t)=(a^{-1}t)_{11}=(a^{-1})_{11}t_{11}+(a^{-1})_{12}t_{21}$ なので、左移動の張る空間は $\langle X_{11},X_{21}\rangle$($a=1$ と $a=w$ で両方が出る)。二つの和は $\langle X_{11},X_{12},X_{21}\rangle$ で 3 次元である。一方、$V_f$ 上の右移動の表現の係数空間は、上の例により 4 次元の $\langle X_{11},X_{12},X_{21},X_{22}\rangle$ である。和の読みでは $X_{22}$ が落ち、係数空間より真に小さい。したがって、上の定理(係数空間の訂正した読みと有限次元性)の 3 は、和の読みでは偽になる。$X_{22}$ は両側の移動 $f(wsw)=s_{22}$ として初めて現れる。
次の二つの例は加法群 $G=K$(群演算は加法、$A(K)=K[X]$)での計算で、標数によって移動の空間の形が変わることと、正則性の条件が外せないことを示す。
$G=K$、$f=X^n$ とする。$R_sf(t)=(t+s)^n=\sum_{k=0}^n\binom nks^{n-k}t^k$ なので、$V_f$ は $\binom nk\ne0$($K$ の中で)となる $k$ についての $X^k$ の張る空間に含まれ、$s$ を $n+1$ 個の相異なる値に動かすと Vandermonde 行列の議論でちょうどそれに等しい。標数 0 なら $V_f$ は次数 $n$ 以下の多項式全体で $n+1$ 次元である。標数 $p$ で $n=p$ なら $\binom pk$ は $0< k< p$ で $0$ になるので、$(t+s)^p=t^p+s^p$ から $V_{X^p}=\langle1,X^p\rangle$ で 2 次元である。どちらの場合も有限次元で、上の定理(正則関数の移動の有限性(アフィンの場合))と合う。基底 $(1,X^p)$ に関する $R_s$ の行列は $\begin{pmatrix}1&s^p\\0&1\end{pmatrix}$ である。
外すのは、関数が正則であるという条件である。$K=\mathbf C$、$G=\mathbf C$(加法群)とし、$f(t)=\bar t$(複素共役)とする。$R_sf(t)=\overline{t+s}=f(t)+\bar s$ なので $V_f=\langle1,f\rangle$ は 2 次元で、上の定理(係数空間の訂正した読みと有限次元性)の 2 により $f$ は 2 次元の表現の係数である。基底 $(1,f)$ に関する $R_s$ の行列は $\begin{pmatrix}1&\bar s\\0&1\end{pmatrix}$ で、$s\mapsto$ この行列は抽象群の準同型 $\mathbf C\to\mathrm{GL}(2,\mathbf C)$ である。しかし $f$ は正則関数(多項式)でない。実際、多項式 $P$ が $P(t)=\bar t$ をみたせば、実数 $x$ で $P(x)=x$ なので $P=X$ となるが、$P(i)=i\ne-i=\bar i$ である。ゆえに行列成分 $\bar s$ は正則でなく、上の定理(有理性の判定)の 1 によりこの表現は有理的でない。移動が有限次元であることは正則性を導かず、正則関数の移動の有限性の定理の逆は成り立たない。また、有理性を「抽象群の準同型であること」まで広げると、有理性の判定の 1 は偽になる。
以下は後代の結果の紹介である(本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Généralités sur les groupes algébriques affines. Groupes algébriques affines commutatifs Gro56 の前置きと n° 1 の前半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(Borel の結果の解説の前置き、$K$ は代数的閉、代数的集合と代数群の約束) | 前置き、用語と記号 | 4-01 |
| 定義(係数と係数空間)、定義(左右の正則表現) | n° 1 の係数・係数空間・正則表現の定義 | 4-01 |
| 定義(代数群と有理表現) | 用語と記号(exposé 1 を引く)。有理表現の定義は無い | 4-01 |
| 定理(係数の平行移動の公式) | 式 (1) | 4-01 |
| 定理(係数空間の訂正した読みと有限次元性)、注意(原論文の句「左右の移動の張る空間」の読み) | 式 (1) の後の観察 | 4-01〜4-02 |
| 定理(表現と係数空間の組成因子) | Lemme 1 とその前の証明 | 4-02 |
| 定理(有理性の判定)、注意(有理表現の定義と原論文の言い換え) | Lemme 1 の後の言い換え | 4-02 |
| 定理(正則関数の移動の有限性(アフィンの場合))、定理(正則関数の移動の有限性(一般の代数群)) | Lemme 2 とその証明 | 4-02 |
| 注意(印字の読み(Lemme 2 の証明と綴り)) | Lemme 2 の証明の $R_sf(t)$、Lemme 1 の前後の綴り、Lemme 2 を左移動に使う箇所 | 4-02、4-04 |
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する