アフィン代数群の閉部分群は、有限個の正則関数を左移動で同時に半不変にする元の全体としてちょうど書ける。これが Chevalley の定理であり、閉部分群を一つの有理表現の中の一本の直線の固定群に置き換える道具になる。本頁は、原論文の証明が外冪をとる空間を取り違え、行列成分の添字の規約が二つの式で食い違っている点を直し、外冪を全体の空間でとり、半不変式を反傾表現の行列成分に取り替えて証明を閉じる。
前提知識: 線形代数群, 閉部分群, 正則関数, 外積代数, 反傾表現, Hilbertの基底定理
$K$ を代数的閉体とする。$G$ はアフィン代数群(一般線形群の閉部分群に同型な代数群)で、$A(G)$ はその正則関数の代数、$L_sf(t)=f(s^{-1}t)$ は左正則表現である。$H$ は $G$ の閉部分群とする。有限次元の表現の行列 $F(s)=(F_{ij}(s))$ は列の規約 $u(s)e_j=\sum_iF_{ij}(s)e_i$ でとる。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文 Gro56 の n° 2 は「アフィン代数群の閉部分群」と題され、冒頭に Chevalley に帰属させた定理 1 を置く(印字 4-03)。前章で、アフィン代数群は一般線形群の閉部分群として実現され、正則関数はすべて有理表現の係数であることが分かった(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』、本書『1-2 アフィン代数群は線形群』)。そこで次に問われるのは、閉部分群が表現の言葉でどう見えるかである。
閉部分群 $H$ は、定義上は $H$ で消える正則関数の零点集合である。定理 1 は、これを「ある有限次元の表現の中の一本の直線を保つ元の全体」という形に書き直す。直線の固定群として書ければ、商 $G/H$ をその直線の軌道として射影空間の中に実現する道が開け、また $H$ が正規なら、その直線の重さを使って核が $H$ の表現を作ることができる(本書『2-2 正規部分群を核とする表現』)。後者は、原論文では、トーラスの閉部分群が指標の核の共通部分であること(本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』)の証明に使われる。本書はその主張を別の経路で示し、原論文のこの道筋はその頁の注意で述べる。
原論文の証明は二十数行で、流れは明快である。$H$ のイデアルの生成元の左移動が張る有限次元の空間 $V$ をとり、その中の $H$ で消える関数の部分空間 $W$ を固定する元がちょうど $H$ の元であることを示し、$W$ の外冪の直線に移り、その直線の座標を与える行列成分を半不変式とする。ところが紙面では、外冪を $W$ の側でとると書き(部分群の外の元は $W$ を保たないので、そのままでは表現が定義されない)、半不変式に選ぶ行列成分の添字が、乗法公式 (2) と直線の固定の判定とで別々の規約に従っている。本頁はこの二点を直し、証明の各段を書き下す。
まず原論文の定義に添えられた、半不変元の重さについての主張を確かめる。原論文はこれを「évidemment」の一語で済ませる(印字 4-03)。
群 $\Gamma$ が $K$ 上のベクトル空間 $E$ に線形に作用するとする。$F\in E$ が $s\in\Gamma$ のもとで半不変であるとは、ある $\lambda(s)\in K$ があって $sF=\lambda(s)F$ となることをいう。$F\ne0$ のとき、$F$ を半不変にする $s$ の全体の上で $s\mapsto\lambda(s)$ を $F$ の重さという。$\lambda(s)=1$ のとき $F$ は $s$ のもとで不変であるという。
上の定義の状況で $F\ne0$ とする。$F$ を半不変にする $s\in\Gamma$ の全体 $\Gamma_F$ は $\Gamma$ の部分群で、各 $s\in\Gamma_F$ について $\lambda(s)$ は一意に定まり、$\lambda\colon\Gamma_F\to K^*$ は群準同型(乗法的指標)である。
段 1(一意性).$sF=\lambda F=\lambda'F$ なら $(\lambda-\lambda')F=0$ で、$F\ne0$ だから $\lambda=\lambda'$ である。
段 2(値は $0$ でない).$s$ は $E$ の線形同型として作用するので、$sF\ne0$ である。ゆえに $\lambda(s)\ne0$。
段 3(部分群と準同型).$s,t\in\Gamma_F$ なら $(st)F=s(\lambda(t)F)=\lambda(t)\lambda(s)F$ なので $st\in\Gamma_F$、$\lambda(st)=\lambda(s)\lambda(t)$ である。$eF=F$ なので $e\in\Gamma_F$、$\lambda(e)=1$。$F=s^{-1}(sF)=\lambda(s)\,s^{-1}F$ から $s^{-1}F=\lambda(s)^{-1}F$ で、$s^{-1}\in\Gamma_F$ である。
本頁では $\Gamma=G$ が $A(G)$ に左移動 $L_s$ で作用する場合にこの定理を使う。「$F_1,\dots,F_n$ を同時に半不変にする元の全体」は、上の定理により部分群 $\Gamma_{F_1}\cap\dots\cap\Gamma_{F_n}$ である。
次に行列の規約を固定する。原論文は規約を書かずに式 (2) を置くので、どちらの規約で読むかが証明の成否に効く。
$u$ を群 $G$ の有限次元の空間 $E$ 上の表現、$(e_i)_{0\le i\le n}$ を $E$ の基底とする。$u(s)$ の行列 $F(s)=(F_{ij}(s))$ を $u(s)e_j=\sum_iF_{ij}(s)e_i$ で定める(第 $j$ 列が $u(s)e_j$ の座標。列の規約)。双対空間 $E'$ への反傾表現 $\check u$ を $\langle x,\check u(s)x'\rangle=\langle u(s^{-1})x,x'\rangle$ で定め、双対基底 $(e_i^*)$ に関する $\check u(s)$ の行列(列の規約)を $\check F(s)=(\check F_{ij}(s))$ と書く。
$\check F_{ij}(s)=\langle e_i,\check u(s)e_j^*\rangle=\langle u(s^{-1})e_i,e_j^*\rangle=F_{ji}(s^{-1})$ である。すなわち $\check F(s)$ は $F(s^{-1})$ の転置行列である。$u$ が $G$ の有理表現なら、行列成分 $F_{ij}$ は正則関数で(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「有理性の判定」)、逆元の射との合成 $\check F_{ij}$ も正則関数である。
上の定義の状況で、$s,t\in G$ と $0\le k,i\le n$ について
$$F_{ki}(st)=\sum_{j=0}^nF_{kj}(s)F_{ji}(t),\qquad\check F_{ki}(st)=\sum_{j=0}^n\check F_{kj}(s)\check F_{ji}(t)$$
が成り立つ。
段 1($F$ について).$u(st)=u(s)u(t)$ を $e_i$ に施すと
$$u(st)e_i=u(s)\sum_jF_{ji}(t)e_j=\sum_jF_{ji}(t)\sum_kF_{kj}(s)e_k$$
で、$e_k$ の係数を比べて第一式を得る。行列で書けば $F(st)=F(s)F(t)$ である。
段 2($\check F$ について).$\check F(s)$ は $F(s^{-1})$ の転置なので、段 1 を $t^{-1}$、$s^{-1}$ に当てて転置すると
$$\check F(st)={}^tF(t^{-1}s^{-1})={}^t\bigl(F(t^{-1})F(s^{-1})\bigr)={}^tF(s^{-1})\,{}^tF(t^{-1})=\check F(s)\check F(t)$$
である。これが第二式である。$\check u$ が表現であることからも同じことが出る。
列の規約をとると、行列の積が群の積と同じ順に並ぶ。行の規約($u(s)e_i=\sum_jF_{ij}(s)e_j$)をとると $F(st)=F(t)F(s)$ となり、式 (2) の形は崩れる。定理 1 の証明では、この公式を反傾表現の側で使う。
最後に、外冪による部分空間の判定を思い出す。これは初等的な線形代数で、本書『0-3 線形代数と群の道具』に証明がある。
$W\subset V$ を $d$ 次元の部分空間($1\le d\le\dim V$)、$w_1,\dots,w_d$ をその基底とし、$a=w_1\wedge\dots\wedge w_d\in\Lambda^dV$ とおく。$a\ne0$ で、$g\in\mathrm{GL}(V)$ について $gW=W$ であることと $(\Lambda^dg)(a)\in Ka$ であることは同値である(本書『0-3 線形代数と群の道具』の定理「外冪による部分空間の判定」)。要点は、$W=\{v\in V:v\wedge a=0\}$ によって $W$ が直線 $Ka$ から復元されることである。部分空間の固定という $d$ 次元の条件が、一本の直線の固定という条件に置き換わる。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に AM69、Har77 で、該当箇所は本頁では確認していない。要点は本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定理「アフィン代数的集合の基本定理」にある。
準備はそろった。半不変元の重さは部分群の上の指標として扱えるようになり、行列成分の乗法公式は反傾表現の側でも使える。あとは、閉部分群のイデアルから有限次元の空間を作り、その中の一本の直線に $H$ を固定させればよい。
$G$ をアフィン代数群、$H$ をその閉部分群とする。有限個の $F_1,\dots,F_n\in A(G)$ があって、次が成り立つ。
$H=G$ のときは、定数関数 $F_1=1$ が $L_s1=1$ を満たすので 1・2 が成り立ち($\lambda=1$)、$E=K$、$u=1$、$a=1$ とすればよい。以下 $H\ne G$ とする。
段 1(有限次元の空間 $V$ と部分空間 $W$).$\mathfrak a\subset A(G)$ を $H$ で消える正則関数のイデアルとする。Hilbert の基底定理(引用する事実 1)により、$\mathfrak a$ は有限個の元 $f_1,\dots,f_m$ で生成される。各 $f_k$ の左移動の張る空間は有限次元なので(引用する事実 2)、それらの和 $V$ は有限次元で、$L_bL_af=L_{ba}f$ により左移動で不変である。$W=V\cap\mathfrak a$ とおく。$W$ は生成元 $f_k$ を含むので、イデアルとして $\mathfrak a$ を生成する。$h\in H$ と $f\in\mathfrak a$ について、$t\in H$ なら $h^{-1}t\in H$ なので $L_hf(t)=f(h^{-1}t)=0$、すなわち $L_h\mathfrak a\subset\mathfrak a$ である。$L_hV\subset V$ と合わせて $L_hW\subset W$。
段 2($H$ は $W$ の固定群).$s\in G$ が $L_sW\subset W$ を満たすとする。$f\in W$ について $L_sf\in W\subset\mathfrak a$ で、$e\in H$ だから $0=L_sf(e)=f(s^{-1})$ である。$W$ は $\mathfrak a$ を生成するので、$\mathfrak a$ のすべての関数が $s^{-1}$ で消える。$H$ は閉なので、$H=V(S)$ となる正則関数の集合 $S$ がとれ(閉集合の定義)、$S$ の元は $H$ で消えるから $\mathfrak a$ に入り、$\mathfrak a$ のすべての関数が $s^{-1}$ で消えることから $s^{-1}\in V(S)=H$、ゆえに $s\in H$ である。段 1 と合わせて $H=\{s:L_sW\subset W\}$。$L_s$ は単射で $W$ は有限次元なので、$L_sW\subset W$ と $L_sW=W$ は同じである。$H\ne G$ だから $\mathfrak a\ne0$ で、$W\ne0$。また $W\ne V$ である($W=V$ なら $V$ は左移動で不変なので $L_sW=W$ がすべての $s$ で成り立ち、$H=G$ となる)。
段 3(外冪の一本の直線へ).$d=\dim W$($1\le d<\dim V$)とし、$E=\Lambda^dV$、$u(s)=\Lambda^d(L_s|_V)$ とおく。$s\mapsto L_s|_V$ は有理表現で(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「有理性の判定」)、$\Lambda^d$ をとった表現の行列成分はもとの行列成分の $d$ 次の小行列式なので、$u$ も有理表現である。$W$ の基底 $w_1,\dots,w_d$ をとり $a=w_1\wedge\dots\wedge w_d$ とおくと、上の注意(外冪で部分空間を一本の直線に置き換える)により $L_sW=W$ ⇔ $u(s)a\in Ka$ である。ゆえに
$$H=\{s\in G:u(s)a\in Ka\}.$$
$d<\dim V$ なので $\dim E\ge2$ である。
段 4(直線の固定を行列成分で書く).$e_0=a$ を含む $E$ の基底 $(e_i)_{0\le i\le n}$($n=\dim E-1\ge1$)をとり、列の規約で $u(s)$ の行列 $F(s)$ をとる。$u(s)e_0=\sum_iF_{i0}(s)e_i$ なので、
$$s\in H\iff F_{i0}(s)=0\quad(1\le i\le n)$$
である。直線の固定を表すのは第 $0$ 列の成分 $F_{i0}$ で、第 $0$ 行の成分 $F_{0i}$ ではない。
段 5(半不変式の取り替え).$0\le i\le n$ について
$$F_i(t)=\check F_{0i}(t)=F_{i0}(t^{-1})$$
とおく。正則関数 $F_{i0}$ と逆元の射の合成なので $F_i\in A(G)$ である。上の定理(行列成分の乗法公式)の第二式により
$$L_sF_i(t)=\check F_{0i}(s^{-1}t)=\sum_{j=0}^n\check F_{0j}(s^{-1})\check F_{ji}(t),\qquad\check F_{0j}(s^{-1})=F_{j0}(s).$$
$s\in H$ なら段 4 により $j\ge1$ の項が消え、$L_sF_i=F_{00}(s)F_i$ となる。ゆえに $F_0,F_1,\dots,F_n$ はどれも $H$ のもとで半不変で、重さは共通の $\lambda(s)=F_{00}(s)$、すなわち $u(s)a=\lambda(s)a$ の固有値である。これで 2 が示され、1 の包含 $\subset$ も出た。
段 6(逆向き).$s\in G$ で、各 $1\le i\le n$ について $L_sF_i=\lambda_iF_i$($\lambda_i\in K$)とする。$t=e$ で評価すると、$F(e)$ は単位行列なので $F_i(e)=F_{i0}(e)=0$($i\ge1$)で、
$$F_{i0}(s)=F_i(s^{-1})=L_sF_i(e)=\lambda_iF_i(e)=0\qquad(1\le i\le n).$$
段 4 により $s\in H$ である。これで 1 が示された。$F_i$ は $u$ の反傾表現の行列成分 $\check F_{0i}$ なので、最後の主張も成り立つ。
段 1・段 2 で閉部分群は有限次元の空間 $W$ の固定群になり、段 3 でそれが一本の直線 $Ka$ の固定群になった。段 4〜6 は、直線の固定という条件を $n$ 個の関数の半不変性に言い換えるだけの線形代数である。ここで $H$ が正規かどうかは使っていない。重さ $\lambda$ が $H$ の上で共通であることは、次の頁で正規部分群を核とする表現を作るときの出発点になる。
原論文の証明(印字 4-04)は、$E$ を「$W$ の $d$ 次外冪」とし、$u$ を「$L_s$ で定める $G$ の $E$ 上の表現」と書く。しかし $s\notin H$ の $L_s$ は $W$ を保たないので(段 2 がまさにそれを示す)、$W$ の外冪の上に $G$ の表現は定義されない。同じ段で原論文は $V$ を左移動で不変と明記し、「$L_sW\subset W$ ⇔ $a$ が $u(s)$ の半不変元」とすべての $s$ について述べているので、$u(s)$ はすべての $s$ で定義されていなければならない。本書は $E$ を $V$ の $d$ 次外冪 $\Lambda^dV$ と読み、$a\in\Lambda^dW\subset\Lambda^dV$ とする。こう読むと原論文の文はすべて通る。印字の不備で、主張には影響しない。
原論文は、段 5 の半不変式を $F_i=F_{0i}$(第 $0$ 行の成分)とし、式 (2) $F_{0i}(st)=\sum_jF_{0j}(s)F_{ji}(t)$ と「$s\in H$ ⇔ $F_{0i}(s)=0$($1\le i\le n$)」とを組み合わせて $L_sF_i(t)=F_{00}(s^{-1})F_i(t)$ を出す(印字 4-04)。ところが、式 (2) が成り立つのは列の規約で(上の定理(行列成分の乗法公式))、列の規約で直線 $Ka$ の固定を表すのは段 4 のとおり $F_{i0}(s)=0$ である。行の規約 $u(s)e_i=\sum_jF_{ij}(s)e_j$ をとれば固定の判定は $F_{0i}(s)=0$ になるが、今度は $F(st)=F(t)F(s)$ となって式 (2) が崩れる。したがって印字の二つの式は、どちらの規約でも同時には成り立たない(具体的な食い違いは下の反例「印字の添字では別の部分群が切り出される」)。本書は半不変式を反傾表現の行列成分 $F_i(t)=\check F_{0i}(t)=F_{i0}(t^{-1})$ に取り替えた。反傾表現の側では、乗法公式(上の定理の第二式)と固定の判定(段 4 を $s^{-1}$ で書いた $\check F_{0j}(s^{-1})=F_{j0}(s)=0$)が同時に成り立つので、原論文の論証の文面がそのまま通る。重さは、原論文の印字の $F_{00}(s^{-1})$ に代わって $F_{00}(s)$ になる。これは証明の段の規約の食い違いで、定理の主張と札は変わらない。
原論文の半不変元の定義(印字 4-03)は「sous un A ∈ G」と打つが、直後の式が $sF=\lambda(s)F$ なので、「$s\in G$ のもとで」と読む。また、段 1 に当たる箇所で原論文は、生成元の左移動の張る空間が有限次元であることを Lemme 2 から引くが、Lemme 2 の主張は右移動についてである。本書は本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「正則関数の移動の有限性(アフィンの場合)」の左移動の部分を引いた。
原論文は定理 1 の最後に、$G$ が既約なら半不変式を不変な有理関数に取り替えられると述べ、「同様に」とだけ書く。分母に共通の重さをもつ関数を置けばよい。
$G$ を既約なアフィン代数群、$H$ をその閉部分群とする。$A(G)$ は整域で、左移動 $L_s$ はその商体 $K(G)$ の自己同型に延びる。有限個の $G_1,\dots,G_n\in K(G)$ があって、$H=\{s\in G:L_sG_i=G_i\ (1\le i\le n)\}$ となる。
段 1(整域と商体).$f,g\in A(G)$ で $fg=0$ なら、$G$ は閉集合 $\{f=0\}$ と $\{g=0\}$ の和で、$G$ は既約なのでどちらかが $G$ 全体、すなわち $f=0$ または $g=0$ である。ゆえに $A(G)$ は整域である。$L_s$ は $A(G)$ の $K$ 代数の自己同型(逆は $L_{s^{-1}}$)なので、商体の自己同型 $L_s(f/g)=L_sf/L_sg$ に一意に延びる。
段 2(分母の選択).$H=G$ なら $G_1=1$ でよい。$H\ne G$ とし、上の定理(閉部分群の半不変式による切り出し)の証明の $u$、$F_0,F_1,\dots,F_n$ をとる。$F_0(e)=F_{00}(e)=1$ なので $F_0\ne0$ で、$G_i=F_i/F_0$($1\le i\le n$)とおける。
段 3($H$ の元は不変にする).$s\in H$ なら、上の定理の証明の段 5 により $L_sF_i=\lambda(s)F_i$、$L_sF_0=\lambda(s)F_0$ で、同じ重さなので $L_sG_i=G_i$ である。
段 4(逆向き).$L_sG_i=G_i$ なら、$A(G)$ の中で $(L_sF_i)F_0=F_i\,(L_sF_0)$ が成り立つ。$t=e$ で評価すると $F_i(s^{-1})F_0(e)=F_i(e)F_0(s^{-1})$ で、$F_0(e)=1$、$F_i(e)=0$($i\ge1$)だから $F_{i0}(s)=F_i(s^{-1})=0$ である。これが $1\le i\le n$ で成り立つので、上の定理の証明の段 4 により $s\in H$ である。
半不変式を不変式に取り替えられるのは、重さが $H$ の上で共通だからである。原論文は分母を $F_{00}$ と書くが、段 5 の取り替えに合わせて $F_0(t)=F_{00}(t^{-1})$ とした。$G$ が既約でないと $A(G)$ に零因子があり、分母として割れる関数が選べるとは限らないので、既約性はこの取り替えのための仮定である。
定理の構成を、いちばん小さな二つの場合で最後まで計算する。一つ目は正規でない閉部分群、二つ目は可換な群の有限部分群である。一つ目では、原論文の印字の添字のままだと別の部分群が出てくることも確かめる。
$G=\mathrm{GL}(2,K)$、$A(G)=K[X_{11},X_{12},X_{21},X_{22},\det^{-1}]$ とし、$H=B$ を上三角行列の群 $\{X_{21}=0\}$ とする。$B$ は正規でない。
$B$ で消える関数のイデアル $\mathfrak a$ は $X_{21}$ で生成される。実際、$f=P/\det^N$($P$ は多項式)が $B$ で消えるなら、$B$ の上で $\det=X_{11}X_{22}$ なので、多項式 $P(x_{11},x_{12},0,x_{22})\,x_{11}x_{22}$ は $K^3$ 全体で消え、本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」の (1) により $P(X_{11},X_{12},0,X_{22})=0$、すなわち $X_{21}$ は $P$ を割る。
左移動は $L_gX_{21}(t)=(g^{-1}t)_{21}=(g^{-1})_{21}t_{11}+(g^{-1})_{22}t_{21}$ で、$g=1$ と $g=w=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ から $V=\langle X_{11},X_{21}\rangle$ である。$\alpha X_{11}+\beta X_{21}$ が $B$ で消えるのは $\alpha=0$ のときだけなので $W=KX_{21}$、$d=1$、$E=V$、$a=X_{21}$ である。基底 $e_0=X_{21}$、$e_1=X_{11}$ をとると、$L_sX_{11}(t)=(s^{-1})_{11}t_{11}+(s^{-1})_{12}t_{21}$ も合わせて
$$u(s)e_0=(s^{-1})_{22}\,e_0+(s^{-1})_{21}\,e_1,\qquad u(s)e_1=(s^{-1})_{12}\,e_0+(s^{-1})_{11}\,e_1$$
で、列の規約の行列成分は $F_{00}(s)=(s^{-1})_{22}$、$F_{10}(s)=(s^{-1})_{21}$、$F_{01}(s)=(s^{-1})_{12}$、$F_{11}(s)=(s^{-1})_{11}$ である。直線 $Ka$ の固定は $F_{10}(s)=0$、すなわち $s^{-1}\in B$、すなわち $s\in B$ で、定理の証明の段 4 のとおりである。
半不変式は $F_1(t)=F_{10}(t^{-1})=t_{21}$、すなわち $F_1=X_{21}$ そのもので、$s\in B$ なら $L_sX_{21}=(s^{-1})_{22}X_{21}$、重さは $\lambda(s)=F_{00}(s)=s_{22}^{-1}$ である。逆に $L_sX_{21}$ が $X_{21}$ の倍なら $(s^{-1})_{21}=0$ で $s\in B$。$G$ は既約なので($A(G)$ は整域)、分母 $F_0(t)=F_{00}(t^{-1})=t_{22}$ で割った有理関数 $G_1=X_{21}/X_{22}$ は、ちょうど $s\in B$ の左移動で不変である:$s\in B$ なら $(s^{-1}t)_{21}=(s^{-1})_{22}t_{21}$、$(s^{-1}t)_{22}=(s^{-1})_{22}t_{22}$ で比が変わらない。
同じ計算で、原論文の印字どおりの添字を使うと何が起きるかを見る。
外すのは、半不変式を反傾表現の行列成分 $F_{i0}(t^{-1})$ にとるという取り替えで、代わりに原論文の印字どおり、式 (2) が成り立つ列の規約のもとで第 $0$ 行の成分 $F_{0i}$ をとる。上の例の $G=\mathrm{GL}(2,K)$、$H=B$、$E=\langle X_{21},X_{11}\rangle$ で、$F_{01}(s)=(s^{-1})_{12}$ である。印字の判定「$s\in H$ ⇔ $F_{01}(s)=0$」の右辺は $(s^{-1})_{12}=0$、すなわち $s$ が下三角行列であることで、$B$ ではなく下三角群 $B^-$ を与える。関数 $F_{01}(t)=(t^{-1})_{12}$ の半不変性も同じ群を与える:
$$L_sF_{01}(t)=\bigl((s^{-1}t)^{-1}\bigr)_{12}=(t^{-1}s)_{12}=(t^{-1})_{11}\,s_{12}+(t^{-1})_{12}\,s_{22}$$
で、$(t^{-1})_{11}=t_{22}/\det t$ と $(t^{-1})_{12}=-t_{12}/\det t$ は一次独立だから、$L_sF_{01}$ が $F_{01}$ の倍になるのは $s_{12}=0$ のとき、すなわち $s\in B^-$ のときに限る。印字どおりの構成は、上三角群 $B$ の代わりに下三角群 $B^-$ を切り出す。破れるのは主張ではなく、式 (2) と第 $0$ 行による固定の判定を同じ規約で組み合わせる段である。
次は可換な群の有限部分群で、重さが自明になる場合である。
$G=K^*$、$A(G)=K[X,X^{-1}]$ とし、$p\nmid n$ の正の整数 $n$ について $H=\mu_n=\{x:x^n=1\}$ をとる。$\mu_n$ はちょうど $n$ 点からなり(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の例「1 の冪根の群と点の枠組み」)、$\mu_n$ で消える Laurent 多項式に十分大きい $X^N$ を掛けた多項式は、重根をもたない $X^n-1$ の $n$ 個の根で消えるので $X^n-1$ で割り切れる。ゆえに $\mathfrak a=(X^n-1)$ である。
$L_g(X^n-1)(t)=g^{-n}t^n-1$ なので $V=\langle X^n,1\rangle$、$W=V\cap\mathfrak a=K(X^n-1)$($\alpha X^n+\beta$ が $\mu_n$ で消えるのは $\alpha+\beta=0$ のとき)、$E=V$、$a=X^n-1$ である。基底 $e_0=X^n-1$、$e_1=1$ で
$$u(s)e_0=s^{-n}X^n-1=s^{-n}e_0+(s^{-n}-1)e_1,\qquad u(s)e_1=e_1$$
だから $F_{00}(s)=s^{-n}$、$F_{10}(s)=s^{-n}-1$ で、直線の固定は $s^n=1$ である。半不変式は $F_1(t)=F_{10}(t^{-1})=t^n-1$、すなわち生成元 $X^n-1$ そのもので、$H$ の上の重さは $\lambda(s)=s^{-n}=1$、つまり $F_1$ は $H$ のもとで不変である。$G$ は既約で、$F_0(t)=F_{00}(t^{-1})=t^n$ で割った $G_1=(X^n-1)/X^n=1-X^{-n}$ について $L_sG_1=1-s^nX^{-n}$ だから、$L_sG_1=G_1$ ⇔ $s^n=1$ で、主結果 4 のとおりである。
二つの例では、$V$ が 2 次元で $W$ が 1 次元なので $E=V$ となり、半不変式はどちらも $H$ のイデアルの生成元そのものになった。一般には $E=\Lambda^dV$ は大きく、$F_i$ はその上の表現の行列成分であって、イデアルの生成元と一致するとは限らない。定理が保証するのは、そのような関数が有限個で足りることである。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献の該当箇所を確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro56 の n° 2 の前半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(n° 2 の題と定理 1 の位置) | n° 2 の見出し、Théorème 1 | 4-03 |
| 定義(半不変元と重さ)、定理(半不変元の重さ) | 半不変元と重さの定義(「évidemment」) | 4-03 |
| 定義(列の規約と反傾表現の行列)、定理(行列成分の乗法公式) | 式 (2) | 4-04 |
| 注意(外冪で部分空間を一本の直線に置き換える) | Théorème 1 の証明の「Il est bien connu」の段 | 4-04 |
| 定理(閉部分群の半不変式による切り出し) | Théorème 1 の主張の前半とその証明 | 4-03〜4-04 |
| 注意(原論文の外冪の空間の読み) | Théorème 1 の証明の $E$ の定義 | 4-04 |
| 注意(原論文の半不変式の添字と重さ)、反例(印字の添字では別の部分群が切り出される) | Théorème 1 の証明の $F_i=F_{0i}$ と式 (2) の組み合わせ | 4-04 |
| 注意(印字の読み(半不変元の定義と Lemme 2 の使い方)) | 半不変元の定義の「sous un A」、証明の Lemme 2 の引用 | 4-03〜4-04 |
| 定理(既約な群での不変な有理関数) | Théorème 1 の主張の最後の文と証明の最後の文 | 4-03〜4-04 |
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