2-2 正規部分群を核とする表現

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

アフィン代数群の閉正規部分群は、ある有理表現の核にちょうど一致する。原論文はこれを Chevalley の定理の系として十行ほどで示すが、その証明の「部分群が正規だから重さの空間が群全体で不変」という一段は偽であり、単項行列の群がその反例になる。本頁は、重さ空間の直和分解と、区分対角な自己準同型の代数への共役作用を使って証明を立て直し、群が連結または可換なら原論文の一段もそのまま通ることを示す。
前提知識: 線形代数群, 正規部分群, 有理表現, 指標, 反傾表現, テンソル積

この頁で示すこと

$K$ を代数的閉体とする。$G$ はアフィン代数群、$A(G)$ はその正則関数の代数、$L_sf(t)=f(s^{-1}t)$ は左正則表現で、$H$ は $G$ の閉正規部分群とする。本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果「閉部分群の半不変式による切り出し」により、$H$ を左移動で同時に半不変にする元の全体として切り出す $F_1,\dots,F_n\in A(G)$ と、$H$ の上の共通の重さ $\lambda$ が定まる。
本頁の主結果は次の二つである。

  1. 正規部分群を核とする有理表現(原論文 Théorème 1 の系、証明を替えたもの):アフィン代数群の閉正規部分群 $H$ に対し、核がちょうど $H$ に等しい $G$ の有理表現がある。[条件付き:本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果「閉部分群の半不変式による切り出し」、本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「正則関数の移動の有限性(アフィンの場合)」による]原論文の証明の一段は反例「単項行列の群と対角部分:原論文の構成の核は部分群より小さい」で破れる。
  2. 重さが共役で動かない場合の原論文の議論(Théorème 1 の系の証明):$G$ が連結または可換なら、重さ $\lambda$ は $G$ の共役で動かず、$F_i$ とその左移動の張る空間の上で $H$ はちょうどスカラーで作用する元の全体になり、原論文の構成した表現 $\check u\otimes u$ の核が $H$ に等しい。[条件付き:本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果「閉部分群の半不変式による切り出し」、本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「正則関数の移動の有限性(アフィンの場合)」による。連結の場合に使う「連結な群の指数有限の閉部分群は全体」は頁内で連結の定義から示し、可換の場合は共役が自明なのでこれも要らない]
    主結果 1 の証明は、前頁の定理を引いたあとは、重さ空間の直和(相異なる指標の一次独立性)と区分対角な代数の可換子という初等的な線形代数だけで閉じる。札が条件付きなのは前頁の定理が Hilbert の基底定理・零点定理・積の座標環の定理を引くためである。原論文の証明の一段が偽であることは、主張の偽ではなく証明の段の偽で、主張は正しいので主結果の札には数えない。原論文の印字は注意に、それを破る群は反例に置く。

背景と動機

原論文 Gro56 は、定理 1(本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』)の直後に、閉正規部分群は有理表現の核になるという系を置く(印字 4-04)。有理表現の核は閉正規部分群なので、系はその逆を述べている。この系があれば、アフィン代数群の閉正規部分群による商を、その表現の像という線形代数群として実現する道が開ける。原論文の後の段では、系は可換な群、とくにトーラスで使われ、トーラスの閉部分群が有限個の指標の核の共通部分であること(本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』)の出発点になる(本書はその主張を別の経路で示し、原論文の道筋はその頁の注意で述べる)。
原論文の証明は次の筋である。定理 1 の半不変式 $F_i$ とその左移動の張る有限次元の空間 $E$ をとり、$H$ のもとで重さ $\lambda$ をもつ関数の部分空間 $E_0$ を考える。$E_0$ は $F_i$ を含み、「$H$ が正規だから」$G$ で不変であり、ゆえに $E$ 全体に等しい。すると $H$ の元は $E$ にスカラーで作用し、逆にスカラーで作用する元は $F_i$ を半不変にするので $H$ に属する。スカラーで作用する元の全体は $\check u\otimes u$ の核なので、これが求める表現である。
この筋の弱いところは、$E_0$ が $G$ で不変だという一段である。$g\in G$ は重さ $\lambda$ の関数を、重さ $\lambda^g(h)=\lambda(g^{-1}hg)$ の関数に移す。$H$ が正規であることは $\lambda^g$ が $H$ の指標であることを保証するが、$\lambda^g=\lambda$ までは保証しない。本頁の例と反例の節で、生成元を $b$ 一つにとって原論文の構成を文字どおり行うと $E_0\ne E$ となり、作られる表現の核が $H$ より真に小さくなる群を示す。そのうえで、$E$ を重さ空間の直和に分け、$G$ がその直和成分を入れ替えることを見込んだ表現を作って、系を証明する。

定義と準備

$G$ の元が重さを入れ替える様子を記述するために、正規部分群の指標の共役と、重さ空間を置く。

重さ空間と共役な指標

$G$ を群、$H$ をその正規部分群、$u\colon G\to\mathrm{GL}(E)$ を有限次元の空間 $E$ 上の表現とする。群準同型 $\chi\colon H\to K^*$($H$ の指標)に対し、
$$E_\chi=\{f\in E:u(h)f=\chi(h)f\ (h\in H)\}$$
を重さ $\chi$ の空間という。$E_\chi\ne0$ のとき $\chi$ を $E$ の重さという。$g\in G$ について $\chi^g(h)=\chi(g^{-1}hg)$ とおく。$H$ は正規なので $g^{-1}hg\in H$ で、$\chi^g$ も $H$ の指標である。

$(\chi^g)^{g'}(h)=\chi^g(g'^{-1}hg')=\chi(g^{-1}g'^{-1}hg'g)=\chi^{g'g}(h)$ なので、$\chi\mapsto\chi^g$ は $G$ の $H$ の指標全体への左作用である。$h_0\in H$ については $\chi^{h_0}(h)=\chi(h_0^{-1}hh_0)=\chi(h_0)^{-1}\chi(h)\chi(h_0)=\chi(h)$ で、$H$ 自身は指標を動かさない。$G$ が可換なら、どの $g$ も指標を動かさない。

重さ空間の分解と置換

上の定義の状況で、次が成り立つ。

  1. $g\in G$ と $H$ の指標 $\chi$ について $u(g)E_\chi=E_{\chi^g}$。
  2. 相異なる指標の重さ空間の和は直和で、$E$ の重さの全体 $X$ は有限集合である。
  3. $E$ が重さ空間の元(重さベクトル)で張られるなら、$E=\bigoplus_{\chi\in X}E_\chi$ で、$\chi\mapsto\chi^g$ は $X$ の置換を定める。

段 1(重さの移り方).$f\in E_\chi$、$h\in H$ について、$hg=g\cdot(g^{-1}hg)$ だから
$$u(h)u(g)f=u(g)u(g^{-1}hg)f=\chi(g^{-1}hg)\,u(g)f=\chi^g(h)\,u(g)f$$
で、$u(g)E_\chi\subset E_{\chi^g}$ である。同じことを $g^{-1}$ と $\chi^g$ に当てると、$(\chi^g)^{g^{-1}}=\chi$ なので $u(g^{-1})E_{\chi^g}\subset E_\chi$、すなわち $E_{\chi^g}\subset u(g)E_\chi$ である。
段 2(直和).$H$ は $E$ に線形に作用するので、本書『0-3 線形代数と群の道具』の定理「相異なる指標の一次独立性(Dedekind–Artin)」の (2) により、相異なる指標の $E_\chi$ の和は直和である。$E$ は有限次元なので、$E_\chi\ne0$ となる $\chi$ は $\dim E$ 個以下である。
段 3(分解と置換).$E$ が重さベクトルで張られるなら、$E=\sum_{\chi\in X}E_\chi$ で、段 2 によりこれは直和である。段 1 により $E_\chi\ne0$ なら $E_{\chi^g}=u(g)E_\chi\ne0$ なので $\chi^g\in X$ で、$\chi\mapsto\chi^g$ は $X$ の上の $G$ の作用、とくに各 $g$ について $X$ の置換である。

$E$ がこのように分かれると、$u(g)$ は直和成分を $\chi\mapsto\chi^g$ に従って入れ替える。そこで、各成分を保つ自己準同型の全体を考え、$G$ をその上に共役で作用させる。$H$ の元は各成分の上でスカラーなので、この作用で自明になる。

区分対角な代数とその上の共役作用

上の補題(重さ空間の分解と置換)の 3 の状況で、
$$\mathcal A=\bigoplus_{\chi\in X}\mathrm{End}(E_\chi)\subset\mathrm{End}(E)$$
を、各 $E_\chi$ を保つ自己準同型(区分対角な自己準同型)の代数とする。$g\in G$ と $\varphi\in\mathrm{End}(E)$ に $\rho(g)\varphi=u(g)\,\varphi\,u(g)^{-1}$ とおき、$\rho$ を $\mathcal A$ に制限したものを $\rho_{\mathcal A}$ と書く。

$\varphi\in\mathcal A$ なら、$u(g)\varphi u(g)^{-1}$ は $E_{\chi^g}$ を $u(g)^{-1}$ で $E_\chi$ に戻し、$\varphi$ で $E_\chi$ の中に移し、$u(g)$ で $E_{\chi^g}$ に送るので、各 $E_{\chi^g}$ を保つ。$\chi\mapsto\chi^g$ は $X$ の置換なので、$\rho(g)\varphi\in\mathcal A$ である。すなわち $\mathcal A$ は $\rho$ で不変で、$\rho_{\mathcal A}$ は $G$ の $\mathcal A$ の上の表現である。$X$ が一点なら $\mathcal A=\mathrm{End}(E)$ で、$\rho_{\mathcal A}=\rho$ である。
$\rho$ の核を調べるには、区分対角な代数と可換な自己準同型が何かを知ればよい。これは本書『0-3 線形代数と群の道具』の定理「全行列環と区分対角な代数の可換子」にある。

可換子の二つの形

有限次元の $E$ の自己準同型で $\mathrm{End}(E)$ のすべての元と可換なものはスカラーである。$E=\bigoplus_{\chi\in X}E_\chi$ のとき、$\mathcal A$ のすべての元と可換な自己準同型は、各 $E_\chi$ を保ち、各 $E_\chi$ の上でスカラーである(本書『0-3 線形代数と群の道具』の定理「全行列環と区分対角な代数の可換子」の (1)(2))。前者は原論文の構成($\mathrm{End}(E)$ 全体への共役)の核を、後者は本書の構成($\mathcal A$ への共役)の核を決める。二つの違いは、スカラーであることを $E$ 全体で要求するか、成分ごとに要求するかである。

最後に、表現の有理性を確かめる道具を思い出す。$\mathrm{End}(E)$ は $E'\otimes E$ と $x'\otimes x\mapsto(y\mapsto\langle y,x'\rangle x)$ で同一視され、このとき
$$\bigl(\check u(g)x'\bigr)\otimes\bigl(u(g)x\bigr)\ \longmapsto\ \bigl(y\mapsto\langle u(g)^{-1}y,x'\rangle\,u(g)x\bigr)=u(g)\circ(\text{もとの写像})\circ u(g)^{-1}$$
となるので、$\rho$ は原論文の表現 $\check u\otimes u$ そのものである。$u$ の基底に関する行列を $F(g)$ とすると、$\rho(g)$ の行列単位に関する成分は $F_{ik}(g)F_{lj}(g^{-1})$ の形の積で、$u$ が有理なら正則関数である。ゆえに $\rho$ は有理表現で(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「有理性の判定」)、不変な部分空間 $\mathcal A$ への制限 $\rho_{\mathcal A}$ も、$\mathcal A$ の基底を $\mathrm{End}(E)$ の基底に延ばして行列を見れば成分が正則なので、有理表現である。

引用する事実

次の二つは前の頁の主結果で、証明は繰り返さない。1 は第 0 章の標準的な定理(Hilbert の基底定理、零点定理、アフィン集合の積の座標環)に依るので、それを使う本頁の主結果は条件付きになる。

  1. 閉部分群の半不変式による切り出し(本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果):アフィン代数群 $G$ の閉部分群 $H$ に対し、$F_1,\dots,F_n\in A(G)$ と $H$ の指標 $\lambda$ があって、$H=\{s:$ 各 $F_i$ が $L_s$ のもとで半不変$\}$、かつ $L_hF_i=\lambda(h)F_i$($h\in H$、$1\le i\le n$)。
  2. 正則関数の移動の有限性(アフィンの場合)(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果):$f\in A(G)$ の左移動の張る空間は有限次元で、その上の左移動の表現は有理表現である。

主結果と証明

これで、重さ空間の入れ替えを見込んだ表現を作る準備ができた。半不変式の左移動の張る空間は重さベクトルで張られ、$G$ はその重さを置換する。区分対角な代数への共役作用は、その置換を見たうえで $H$ だけを殺す。

系の証明の立て直し

正規部分群を核とする有理表現

$G$ をアフィン代数群、$H$ をその閉正規部分群とする。$G$ の有理表現 $\rho_{\mathcal A}$ で、核がちょうど $H$ に等しいものがある。具体的には、$F_1,\dots,F_n$ と $\lambda$ を引用する事実 1 のとおりにとり、$E$ を $L_gF_i$($g\in G$、$1\le i\le n$)の張る空間、$u(g)=L_g|_E$ とすると、$E$ は有限次元で、$E=\bigoplus_{\chi\in X}E_\chi$ と重さ空間に分かれ、区分対角な代数 $\mathcal A$ への共役作用 $\rho_{\mathcal A}$ の核は $H$ である。

段 1(有限次元の有理表現).各 $F_i$ の左移動の張る空間は有限次元なので(引用する事実 2)、その和 $E$ は有限次元で、$L_{g'}L_gF_i=L_{g'g}F_i$ により左移動で不変である。$u(g)=L_g|_E$ は有理表現である(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「有理性の判定」の 2 の後半)。
段 2(重さ空間の分解).$F_i\in E_\lambda$ である(引用する事実 1)。上の補題(重さ空間の分解と置換)の 1 により $L_gF_i=u(g)F_i\in E_{\lambda^g}$ で、$E$ は重さベクトル $L_gF_i$ で張られる。同じ補題の 3 により、$E$ の重さの有限集合 $X$ について $E=\bigoplus_{\chi\in X}E_\chi$ で、$G$ は $X$ を置換する。
段 3(有理表現 $\rho_{\mathcal A}$).上の定義(区分対角な代数とその上の共役作用)の $\mathcal A$ と $\rho_{\mathcal A}$ をとる。定義の後に見たとおり $\mathcal A$ は $\rho$ で不変で、$\rho_{\mathcal A}$ は有理表現である。
段 4($H$ は核に入る).$h\in H$ は各 $E_\chi$ の上でスカラー $\chi(h)$ として作用するので、$u(h)$ は区分対角な $\varphi\in\mathcal A$ と可換で、$\rho_{\mathcal A}(h)\varphi=u(h)\varphi u(h)^{-1}=\varphi$ である。ゆえに $H\subset\ker\rho_{\mathcal A}$。
段 5(核は $H$ に入る).$\rho_{\mathcal A}(g)=\mathrm{id}$ とすると、$u(g)$ は $\mathcal A$ のすべての元と可換である。上の注意(可換子の二つの形)により、$u(g)$ は各 $E_\chi$ を保ち、その上でスカラーである。とくに $E_\lambda$ の上でスカラー $c$ で、$F_i\in E_\lambda$ だから $L_gF_i=cF_i$($1\le i\le n$)。すなわち $g$ はすべての $F_i$ を左移動で半不変にするので、引用する事実 1 により $g\in H$ である。ゆえに $\ker\rho_{\mathcal A}=H$。

段 5 で使ったのは、$u(g)$ が $E_\lambda$ の上でスカラーであることだけである。原論文は同じ結論を「$u(g)$ が $E$ 全体でスカラー」という強い条件から引き出そうとし、そのために $E=E_\lambda$ を必要とした。本書の構成では、$u(g)$ が重さ空間を入れ替えても、成分ごとにスカラーであれば $\rho_{\mathcal A}(g)=\mathrm{id}$ を妨げない代わりに、入れ替えそのものは $\rho_{\mathcal A}$ に映る。$X$ が一点なら $\mathcal A=\mathrm{End}(E)$ で、$\rho_{\mathcal A}$ は原論文の $\check u\otimes u$ に一致する。

原論文の証明の一段

原論文の証明(印字 4-04)は、$H$ のもとで重さ $\lambda$ をもつ関数の空間を $E_0$ と書き(本書の $E_\lambda$)、それが $F_i$ を含み、さらに「invariant sous G grâce au fait que H est invariant」、ゆえに $E$ に等しいとする。上の補題(重さ空間の分解と置換)の 1 のとおり $u(g)E_\lambda=E_{\lambda^g}$ で、$H$ が正規であることから分かるのは $\lambda^g$ が $H$ の指標であることまでである。$\lambda^g\ne\lambda$ となる $g$ があれば、$E_{\lambda^g}$ と $E_\lambda$ は $0$ でない相異なる重さ空間で、直和の中で交わりが $0$ なので、$E_\lambda$ は $u(g)$ で不変でない。この一段は偽であり、下の反例「単項行列の群と対角部分:原論文の構成の核は部分群より小さい」がそれを破る。その群では、生成元を $b$ 一つにとって原論文の構成を文字どおり行うと $E_0\ne E$ で、作られる表現 $\check u\otimes u$ の核は $H$ より真に小さい。偽なのは証明の段で、系の主張は上の定理のとおり正しい。原論文の段が通るのは $\lambda^g=\lambda$ がすべての $g$ で成り立つときで、それが次の主結果である。

重さが共役で動かない場合

原論文の一段を救う条件は、重さ $\lambda$ が $G$ の共役で動かないことである。これは $G$ が可換なら自明に成り立ち、$G$ が連結なら重さの置換が有限集合の上の連続な作用であることから出る。

重さが共役で動かない場合の原論文の議論

上の定理(正規部分群を核とする有理表現)の記号で、$G$ が連結または可換であるとする。このとき、すべての $g\in G$ について $\lambda^g=\lambda$ で、$E=E_\lambda$ である。とくに $s\in G$ について、$s\in H$ であることと $u(s)$ が $E$ の上でスカラーであることは同値で、原論文の表現 $\check u\otimes u$($\mathrm{End}(E)$ への共役 $\rho$)の核は $H$ に等しい。

段 1(可換の場合).$G$ が可換なら $\lambda^g(h)=\lambda(g^{-1}hg)=\lambda(h)$ である。
段 2(固定群は閉で指数有限).$G$ が連結な場合を考える。$G_\lambda=\{g\in G:\lambda^g=\lambda\}$ は、$X$ への $G$ の作用の $\lambda$ の固定群なので部分群で、$X$ は有限なので指数は $|X|$ 以下である。上の補題(重さ空間の分解と置換)の 1 と、相異なる重さ空間の交わりが $0$ であることから、$G_\lambda=\{g:u(g)E_\lambda\subset E_\lambda\}$ である。$E_\lambda$ の基底を $E$ の基底に延ばすと、条件 $u(g)E_\lambda\subset E_\lambda$ は $u(g)$ の行列のいくつかの成分が $0$ になることで、行列成分は正則関数なので、$G_\lambda$ は正則関数の共通零点として閉である。
段 3(連結なら全体).$G_\lambda$ の剰余類 $gG_\lambda$ は、左移動 $x\mapsto gx$ が逆も射である射、したがって同相写像なので、どれも閉である。$G$ は有限個の剰余類の交わらない和で、$G_\lambda$ の補集合は残りの有限個の閉な剰余類の和なので閉である。ゆえに $G_\lambda$ は開かつ閉で、空でない。$G$ は連結なので $G_\lambda=G$ である。
段 4($E=E_\lambda$).段 1 または段 3 により $\lambda^g=\lambda$($g\in G$)で、$L_gF_i\in E_{\lambda^g}=E_\lambda$ である。$E$ はこれらで張られるので $E=E_\lambda$。
段 5(核).$h\in H$ なら $u(h)=\lambda(h)\,\mathrm{id}_E$ でスカラーである。逆に $u(s)$ が $E$ の上でスカラー $c$ なら $L_sF_i=cF_i$ で、引用する事実 1 により $s\in H$ である。上の注意(可換子の二つの形)の前半により、$\rho(s)=\mathrm{id}$ であることと $u(s)$ がスカラーであることは同値なので、$\ker\rho=H$ である。$X=\{\lambda\}$ なので、これは上の定理の $\rho_{\mathcal A}$ と同じ表現である。

段 3 は、本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定理「閉部分群と単位成分の基本」の (4)(連結な群の指数有限の閉部分群は全体)の、この場合の証明である。使ったのは、代数的集合の射が連続であること(射の定義)と、連結の定義だけである。
可換の場合は、本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』の注意「原論文の道筋(系 1):Chevalley の定理の系による証明」で使う(3-1 の主結果の証明はこれに依らない)。トーラスは可換なので、その閉部分群はどれも正規で、この定理により原論文の構成そのものが核 $H$ の表現を与える。その表現を対角化すれば、$H$ は有限個の指標の核の共通部分になる。連結でも可換でもない群では、次の節の反例のとおり原論文の構成は $H$ を取り逃がす。

例と反例

まず、原論文の構成がそのまま通る可換な場合を一つ計算し、次に、原論文の一段が破れる群で、原論文の構成と本書の構成を並べる。

乗法群の有限部分群を核とする表現

$G=K^*$、$p\nmid n$ の正の整数 $n$ について $H=\mu_n$ とする。本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の例「乗法群の中の 1 の冪根の群」のとおり、$F_1=X^n-1$ で、$H$ の上の重さは $\lambda=1$ である。$L_gF_1=g^{-n}X^n-1$ なので $E=\langle X^n,1\rangle$ で、$H$ は $X^n$ と $1$ をどちらも動かさないから $E=E_\lambda$ である。基底 $(X^n,1)$ で $u(s)=\mathrm{diag}(s^{-n},1)$ で、これがスカラーなのは $s^n=1$ のときに限る。上の定理(重さが共役で動かない場合の原論文の議論)のとおり、$\check u\otimes u$ の核は $\mu_n$ である。$\check u\otimes u$ は $\mathrm{End}(E)$ の上で行列単位 $e_{12}$、$e_{21}$ をそれぞれ $s^{-n}$、$s^n$ 倍し、対角の行列単位を動かさないので、核が $\mu_n$ であることは直接にも読める。

次の群は、本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の例「単項行列の群と単位成分」で閉部分群であることを確かめた群である。

反例:単項行列の群と対角部分:原論文の構成の核は部分群より小さい

外すのは、$G$ が連結または可換であるという条件である。$G\subset\mathrm{GL}(2,K)$ を、$\mathrm{diag}(s,s^{-1})$ と $\begin{pmatrix}0&r\\r^{-1}&0\end{pmatrix}$($s,r\in K^*$)の全体とする。$H=\{\mathrm{diag}(s,s^{-1})\}$ は指数 $2$ の閉正規部分群で、$G=H\sqcup wH$($w=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$)は連結でも可換でもない。行列の成分を $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ と書き、$a,b,c,d$ を $G$ 上の正則関数とみる。標数は任意である。
段 1(定理 1 の半不変式).$H$ のイデアル $\mathfrak a$ は $b$ で生成される。$bc$ は $wH$ の上で $1$、$H$ の上で $0$ なので、$f\in\mathfrak a$ なら $f=f\cdot bc=b\cdot(cf)$ である。$L_gb(t)=(g^{-1}t)_{12}=(g^{-1})_{11}b(t)+(g^{-1})_{12}d(t)$ で $L_wb=d$ なので、前頁の構成の空間は $V=Kb\oplus Kd$、$\mathfrak a$ との交わりは $Kb$($\alpha b+\beta d$ が $H$ で消えるなら $\beta=0$)、直線は $a_0=b$ である。基底 $(b,d)$ で直線の固定を表す成分は $(g^{-1})_{12}$ で、半不変式は $F_1(t)=t_{12}$、すなわち $F_1=b$ である。実際 $H=\{b=0\}$ で、$b$ を左移動で半不変にする元はちょうど $H$ の元である。
段 2(重さとその共役).$h=\mathrm{diag}(s,s^{-1})$ について $L_hb(t)=(h^{-1}t)_{12}=s^{-1}b(t)$、$L_hd(t)=(h^{-1}t)_{22}=s\,d(t)$ である。重さは $\lambda(h)=s^{-1}$ で、$w^{-1}hw=\mathrm{diag}(s^{-1},s)$ だから $\lambda^w(h)=s$ である。$K$ は無限体なので $s^2\ne1$ となる $s$ があり、$\lambda^w\ne\lambda$ である。
段 3(原論文の構成).$E$ は $b$ とその左移動の張る空間で $E=Kb\oplus Kd$、原論文の $E_0=E_\lambda$ は $Kb$ である。$L_wb=d\notin E_0$ なので、$E_0$ は $G$ で不変でなく、$E_0\ne E$ である。原論文の表現 $\check u\otimes u$ の核は $u(g)$ が $E$ 全体でスカラーになる $g$ の全体である。基底 $(b,d)$ で $u(h)=\mathrm{diag}(s^{-1},s)$ がスカラーなのは $s^2=1$ のときだけで、$wH$ の元は $b$ を $d$ の倍に移すのでスカラーでない。ゆえに核は $\{\mathrm{diag}(s,s^{-1}):s^2=1\}$、すなわち標数が $2$ でなければ $\{\pm1\}$、標数 $2$ なら $\{1\}$ で、$H$ ではない。
段 4(本書の構成).$X=\{\lambda,\lambda^w\}$、$E=E_\lambda\oplus E_{\lambda^w}=Kb\oplus Kd$ で、$\mathcal A=\mathrm{End}(Kb)\oplus\mathrm{End}(Kd)$ は基底 $(b,d)$ の対角行列の代数($K^2$ に同型)である。$H$ の元は $\mathcal A$ に自明に作用する。$L_wd(t)=(wt)_{22}=t_{12}$ より $L_wd=b$ で、$u(w)$ は $b$ と $d$ を入れ替えるので、$\rho_{\mathcal A}(w)$ は対角成分を入れ替え、恒等でない。$wH$ の元も同じである。ゆえに $\ker\rho_{\mathcal A}=H$ で、$\rho_{\mathcal A}$ は $G/H$(位数 $2$)の、二つの座標の入れ替えによる表現である。標数 $2$ でも入れ替えは恒等でない。
破れているのは、原論文の証明の「$H$ が正規だから $E_0$ は $G$ で不変」という一段である。この群では $w$ による共役が重さ $\lambda$ を $\lambda^{-1}$ に移し、その原因は $G$ が連結でないこと($w$ が単位成分 $H$ の外にあること)である。系の主張は壊れない。
破れは $\mathfrak a$ の生成元の選び方にもよる。段 1 のように生成元を $b$ 一つにとれば上のとおり破れる。生成元を $b,c$ の二つにとると、$V=\langle a,b,c,d\rangle$、$H$ で消える部分は $W=\langle b,c\rangle$、$d=\dim W=2$ で、外冪をとる直線は $K\,b\wedge c$ になる。$L_hb=s^{-1}b$、$L_hc=s\,c$ なので重さは自明($\lambda=1$)であり、$\lambda^w=\lambda$ となって $E_0=E$ が成り立ち、原論文の一段もこの場合はそのまま通って、$\check u\otimes u$ の核は $H$ に等しくなる。原論文の証明は生成元を固定せずに述べるので、一つの選び方($b$ のみ)で一段が破れれば、証明の段としては偽である。

この群は、連結性を外すと対角化可能な正規部分群が中心に入らないことの反例として、本書『3-3 有限位数の元の稠密性』にもう一度現れる。どちらの反例でも、単位成分の外の元 $w$ が対角部分を反転させることが要点である。

その後の発展

以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献の該当箇所を確かめていない)。

  • 商のアフィン性(1960 年代〜):閉正規部分群 $H$ による商 $G/H$ は、この系の表現の像として、アフィン代数群の構造をもつ。線形代数群の教科書 Borel Bor91(初版 1969 年)はこの形で商を扱い、群スキームの枠では Waterhouse Wat79(1979 年)が、正規部分群スキームによる商がアフィン群スキームになることを Hopf 代数の言葉で述べる。
  • 証明の型:後代の教科書は、この系を重さ空間の直和分解と、その上の区分対角な自己準同型への共役作用によって示すとされる。本頁の証明はその型に当たるが、本書はどの教科書のどの箇所かを確かめていない。
  • 反例の位置:原論文の一段を破る群は、二次形式 $xy$ を保つ $\mathrm{GL}(2,K)$ の元の全体、すなわち直交群 $\mathrm{O}(2)$ である(行列 $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ が $xy$ を保つ条件 $ac=bd=0$、$ad+bc=1$ は、本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の例「単項行列の群と単位成分」の方程式と同値である)。単位成分は 1 次元のトーラスで、それを反転させる元をもつ。群が連結なら一段は救われるので、原論文の後の段が使う可換な場合(トーラス)には影響しない。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Gro56 の n° 2 の後半である。

本頁原論文印字頁
背景と動機(系の位置と証明の筋)Théorème 1 の系とその証明4-04
定義(重さ空間と共役な指標)、補題(重さ空間の分解と置換)、定義(区分対角な代数とその上の共役作用)系の証明の $E_0$(本書が一般化した)4-04
注意(可換子の二つの形)系の証明の「$u(s)$ がスカラー ⇔ $(\check u\otimes u)(s)$ が恒等」4-04
定理(正規部分群を核とする有理表現)Théorème 1 の系の主張(証明は本書が替えた)4-04
注意(原論文の証明の一段)、反例(単項行列の群と対角部分:原論文の構成の核は部分群より小さい)系の証明の「$E_0$ は $G$ で不変、ゆえに $E$ に等しい」4-04
定理(重さが共役で動かない場合の原論文の議論)系の証明($E_0=E$、$\check u\otimes u$)4-04
例(乗法群の有限部分群を核とする表現)系の証明の構成を可換な場合に当てたもの4-04

参考文献

[1]
Alexander Grothendieck, Généralités sur les groupes algébriques affines. Groupes algébriques affines commutatifs(exposé n° 4), Séminaire C. Chevalley, Classification des groupes de Lie algébriques tome 1 (1956–1958), 1956, 1–14
[2]
Séminaire C. Chevalley(Claude Chevalley 他), Classification des groupes de Lie algébriques, tome 1(années 1956–1958), Secrétariat mathématique, Paris, 1958
[4]
László Fuchs, Infinite Abelian Groups, Vol. I, Academic Press(Pure and Applied Mathematics 36), 1970, §23 The Structure of the Divisible Groups
[5]
Pierre Cartier, Définition des variétés algébriques(exposé n° 1), Séminaire C. Chevalley, Classification des groupes de Lie algébriques tome 1 (1956–1958), 1956, 1–13
[6]
Claude Chevalley, Une démonstration d'un théorème sur les groupes algébriques, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées 9e série, 1960, 307–317
[8]
Maxwell Rosenlicht, Some basic theorems on algebraic groups, American Journal of Mathematics, 1956, 401–443
[11]
Claude Chevalley, Théorie des groupes de Lie, Tome III : Théorèmes généraux sur les algèbres de Lie, 1226, Hermann, Actualités Scientifiques et Industrielles, 1955
[12]
Michel Lazard, Groupes algébriques (généralités)(exposé n° 3), Séminaire C. Chevalley, Classification des groupes de Lie algébriques tome 1 (1956–1958), 1956, 1–7
[13]
Claude Chevalley, Théorie des groupes de Lie, Tome II : Groupes algébriques, 1152, Hermann, Actualités Scientifiques et Industrielles, 1951
[16]
Nicolas Bourbaki, Algèbre, Chapitre 8 : Modules et anneaux semi-simples, Hermann, 1958
[17]
Michel Demazure, Alexander Grothendieck, Schémas en groupes (SGA 3), 151, 152, 153, Springer, Lecture Notes in Mathematics, 1970
[18]
Brian Conrad, A modern proof of Chevalley's theorem on algebraic groups, Journal of the Ramanujan Mathematical Society, 2002, 1–18
[19]
Armand Borel, Groupes linéaires algébriques, Annals of Mathematics, 1956, 20–82
[22]
Jean-Pierre Serre, Faisceaux algébriques cohérents, Annals of Mathematics, 1955, 197–278
[23]
Michel Demazure, Pierre Gabriel, Groupes algébriques, Tome I : Géométrie algébrique, généralités, groupes commutatifs, Masson / North-Holland, 1970
[24]
Alexander Grothendieck, Les théorèmes de structure fondamentaux pour les groupes algébriques affines, Séminaire C. Chevalley, Classification des groupes de Lie algébriques tome 1(1956–1958), exposé n° 6, 1958, 1–16
[26]
Ernst Witt, Zyklische Körper und Algebren der Charakteristik p vom Grad p^n. Struktur diskret bewerteter perfekter Körper mit vollkommenem Restklassenkörper der Charakteristik p, Journal für die reine und angewandte Mathematik, 1937, 126–140
[28]
Hermann Weyl, Theorie der Darstellung kontinuierlicher halb-einfacher Gruppen durch lineare Transformationen I, II, III, Mathematische Zeitschrift 23; 24, 1925, I: 23 (1925) 271–309; II: 24 (1926) 328–376; III: 24 (1926) 377–395

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
アフィン代数群と可換アフィン代数群(Grothendieck「Généralités sur les groupes algébriques affines. Groupes algébriques affines commutatifs」を読む)の表紙
次ページへ