アフィン代数群の元 $g$ が可換な閉正規部分群 $N$ に共役で作用するとき、$g$ が半単純で $N$ が単冪(またはその逆)なら、交換子の写像 $n\mapsto gng^{-1}n^{-1}$ の核と像は単位元でしか交わらず、$N$ が連結なら $N$ はその二つの積に分かれることを示す。鍵は、共役が部分群とその商に恒等を誘導する元は部分群全体を中心化する、という原論文の系である。最後に、トーラスの有限位数の自己同型が部分群とその商に恒等を誘導すれば恒等であることを、可除群の議論で示す。
前提知識: 正規部分群, 中心化群, Jordan–Chevalley分解, 代数的トーラス, 可除群
$K$ を代数的閉体、$G$ をアフィン代数群とし、忠実な実現 $G\subset\mathrm{GL}(V)$(閉部分群)を一つ固定する。元が半単純(単冪)であるとは、この実現で行列が半単純(単冪)であることをいう。部分集合 $X\subset G$ の半単純な元の全体を $X_s$、単冪な元の全体を $X_u$ と書く。$g\in G$ の共役を $\sigma_g(m)=gmg^{-1}$ と書く。$N$ が $G$ の閉・正規・可換な部分群のとき、$\gamma_g(n)=gng^{-1}n^{-1}$($n\in N$)とおき、その核を $N'_g$、像を $N''_g$ と書く(下の定義)。
本頁の主結果は次の三つである。
原論文 n° 5 は、可換なアフィン代数群の直積分解(Théorème 4)と標数による違いの注意(本書『5-1 可換群の直積分解と標数 0 の単冪群』、本書『5-2 正標数の可換単冪群と加法多項式』)のあと、最後に「主に技術的な興味の結果」として Proposition 5 を置き、その証明が Théorème 3・4 を使わないと断る(印字 4-12)。
主張は、可換な正規部分群 $N$ の上の共役作用 $\sigma_g$ を、$\sigma_g$ で固定される部分 $N'_g$ と、$\sigma_g$ が「動かす」部分 $N''_g$ に分けるものである。$N$ がベクトル群で $g$ が線形に作用するなら、$\gamma_g$ は線形写像 $A-1$ に当たり、主張は「半単純な $A$ について $\ker(A-1)$ と $\operatorname{im}(A-1)$ は直和」という線形代数に帰着する(下の例「アフィン変換の群とベクトル群」)。原論文はこれを、線形構造を使わずに、群の半単純・単冪の型の食い違いだけから導く。
証明(印字 4-13)は、次元の議論で主張を「$N'_g\cap N''_g=e$」に帰着させ、それを系 1 から出す。系 1 の証明は、$g$ を含む最小の閉部分群 $H$ の元がすべて半単純(単冪)であることを述べ、$H$ から $M'$ への準同型 $f_m$ を作って型の食い違いで自明にする。続く系 2(印字 4-14)は「同じ考え方で」とされ、トーラスの自己同型について、有限位数の元の稠密性(Proposition 2)で有限位数の元に帰着させる。
原論文の主張の印字には、共通部分の記号の脱落がある。Proposition 5 は「$N'_gN''_g=e$」と印字されているが、次頁の証明は二度「$N'_g\cap N''_g$」と書く。印字のままでは主張は偽になる(下の反例「印字の積の等式は成り立たない」)ので、本書は訂正した形を主結果にする。
主結果に出る「恒等を誘導する」と、交換子の写像を定める。どれも $G$ の中の群論の言葉である。
$M$ を $G$ の部分群、$M'$ を $M$ の正規部分群、$g\in G$ とする。$g$ が $M$ を正規化するとは $\sigma_g(M)=M$ となることをいう。このとき、$\sigma_g$ が $M'$ に恒等を誘導するとは、すべての $m'\in M'$ で $\sigma_g(m')=m'$ となること、$M/M'$ に恒等を誘導するとは、すべての $m\in M$ で $\sigma_g(m)m^{-1}\in M'$ となることをいう。$g$ が $M$ を中心化するとは、すべての $m\in M$ で $gm=mg$ となることをいう。
$M'$ と $M/M'$ の両方に恒等を誘導しても、$M$ の上で恒等とは限らない(下の反例「系 1 で半単純と単冪の組み合わせを外す」)。主結果 1 は、半単純・単冪の型の条件がこの隙間を埋めることを述べる。
$N$ を $G$ の閉・正規・可換な部分群、$g\in G$ とする。$\gamma_g\colon N\to N$ を $\gamma_g(n)=gng^{-1}n^{-1}=\sigma_g(n)n^{-1}$ で定め、$N'_g=\{n\in N:\gamma_g(n)=e\}$($g$ と可換な $N$ の元の全体)、$N''_g=\gamma_g(N)$ とおく。
$N$ が正規なので $\sigma_g(n)\in N$ で、$\gamma_g$ の値は $N$ に入る。$\gamma_g$ が準同型であることは $N$ の可換性から出る(主結果 2 の証明の段 1)。
本頁では、半単純・単冪を固定した実現 $G\subset\mathrm{GL}(V)$ の行列で言う。閉部分群 $M$、$M'$、$N$ の元についても同じ実現で言う。本書『4-2 準同型と閉部分群と Jordan 分解』の主結果「半単純・単冪は実現によらない」により、これは実現の選び方によらないが、本頁の証明はそれを使わない。
次の事実は証明せずに引く。1 は本書の頁の主結果で、そこでの札は半単純な元についての部分が[条件付き]、単冪な元についての部分が[完結]である。2〜4 は本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』に集めた代数群の一般論で、出典は Hum75、Bor91 だが、該当箇所は本頁では確認していない。5・6 は完結の側の結果である。
原論文の順序とは逆に、系 1 から始める。Proposition 5 の証明は、交わりが単位元であることを系 1 に、残りを次元の数え上げに帰着させるからである。
$M$ を $G$ の閉部分群、$M'$ を $M$ の閉正規部分群、$g\in G$ を、$M$ を正規化し $\sigma_g$ が $M'$ と $M/M'$ に恒等を誘導する元とする。次のどちらかが成り立てば、$g$ は $M$ を中心化する。
段 1($g$ の生成する閉部分群への拡張).$X$ を、$M$ を正規化し $M'$ と $M/M'$ に恒等を誘導する $x\in G$ の全体とする。引用する事実 2 の (5) により $X$ は $G$ の閉部分群で、仮定から $g\in X$ である。$H=G(g)$ は $g$ を含む閉部分群の共通部分なので $H\subset X$ である。
段 2($H$ の元の型).1 の場合、$g$ は半単純なので、$V$ の基底をとって $g$ を対角行列にできる。その基底に関する対角行列の群 $D(n)$ は $\mathrm{GL}(V)$ の閉部分群で、$D(n)\cap G$ は $g$ を含む $G$ の閉部分群だから $H\subset D(n)$ であり、$H$ の元はすべて対角行列、すなわち半単純である。2 の場合、$g$ は単冪なので固有値はすべて $1$ で、$g$ を対角成分が $1$ の上三角行列にする基底がある(本書『0-3 線形代数と群の道具』の定理(可換な作用素族の同時三角化と同時対角化))。その基底に関する群 $U(n)$ は閉部分群で、同じく $H\subset U(n)$、$H$ の元はすべて単冪である。
段 3(準同型 $f_m$).$m\in M$ を固定し、$f_m(x)=m^{-1}xmx^{-1}$($x\in H$)とおく。$x\in X$ なので $\sigma_x(m)m^{-1}\in M'$ で、$M'$ は $M$ で正規だから $f_m(x)=m^{-1}\bigl(\sigma_x(m)m^{-1}\bigr)m\in M'$ である。$x,y\in H$ について $ymy^{-1}=mf_m(y)$ なので、
$$xymy^{-1}x^{-1}=\sigma_x(m)\,\sigma_x(f_m(y))=mf_m(x)f_m(y)$$
である($\sigma_x(m)=mf_m(x)$ と、$\sigma_x$ が $M'$ の上で恒等であることを使った)。ゆえに $f_m(xy)=m^{-1}xymy^{-1}x^{-1}=f_m(x)f_m(y)$ で、$f_m$ は群準同型である。$f_m$ は積と逆元の射の合成なので射であり、値は閉部分群 $M'$ に入る。すなわち $f_m$ は線形代数群 $H\subset\mathrm{GL}(V)$ から $\mathrm{GL}(V)$ への有理準同型で、像は $M'$ に含まれる。
段 4(型の食い違い).1 の場合、$x\in H$ は段 2 により半単純なので、引用する事実 1 により $f_m(x)$ は半単純である。一方 $f_m(x)\in M'=M'_u$ は単冪である。引用する事実 5 により $f_m(x)=e$ である。2 の場合も同様に、$f_m(x)$ は引用する事実 1 により単冪で、$M'=M'_s$ により半単純なので $e$ である。
段 5(結論).段 4 により、すべての $x\in H$ と $m\in M$ で $m^{-1}xmx^{-1}=e$、すなわち $xm=mx$ である。$g\in H$ なので、$g$ は $M$ を中心化する。
証明で第 0 章の一般論を引いたのは段 1 の $X$ の閉性だけで、これが $g$ についての仮定を $H$ 全体に広げる。段 2 は、$H$ を共通部分として定義したおかげで、冪の閉包を経ずに対角行列(上三角単冪行列)の群の中に閉じ込められる。段 4 で引いた「有理準同型は型を保つ」は、2 の場合(単冪な元)には本書の基準で完結の側にある。
原論文の系 1 の主張(印字 4-13)は、$g$ についての場合分けを「半単純(resp. 冪零)」と印字する。可逆な元は冪零でないので、印字のままでは後半は空虚な主張になる。Proposition 5 の主張と、系 1 の証明の「$H=H_u$」がどちらも単冪の場合を扱うので、本書は「単冪」と読む。また原論文は、$H$ の元がすべて半単純(単冪)であることを、$g$ の冪がそうで $H$ が可換だから、とだけ書く。可換な群の半単純な元が閉部分群をなすことは Théorème 4(本書『5-1 可換群の直積分解と標数 0 の単冪群』の主結果「可換なアフィン代数群の直積分解」)から出るが、原論文は Proposition 5 の証明が Théorème 3・4 を使わないと断っている。上の段 2 は、$g$ を対角化(上三角化)する基底で直接示すので、その断りを保つ。n° 5 の注意の中の単冪群の定義は「tout ses éléments」と印字され、文法の誤りなので「tous」と読む(主張に影響しない)。
系 1 は、$\sigma_g$ が $M$ の「上下」に恒等を誘導するなら、型の食い違いのおかげで「中」でも恒等になることを言う。次にこれを、交換子の写像の核と像を分ける道具として使う。
$N$ を $G$ の閉・正規・可換な部分群、$g\in G$ とし、$g$ が半単純で $N=N_u$ であるか、$g$ が単冪で $N=N_s$ であるとする。
以下 $N'=N'_g$、$N''=N''_g$ と書く。
段 1($\gamma_g$ は有理準同型).$n,n'\in N$ について、$\sigma_g(n),\sigma_g(n')\in N$ で $N$ は可換なので
$$\gamma_g(nn')=\sigma_g(n)\sigma_g(n')n'^{-1}n^{-1}=\sigma_g(n)n^{-1}\,\sigma_g(n')n'^{-1}=\gamma_g(n)\gamma_g(n')$$
である。$\gamma_g$ は積と逆元の射の合成なので射であり、有理準同型 $N\to N$ である。核 $N'$ は $\{e\}$ の逆像なので閉部分群で、引用する事実 3 により像 $N''$ も閉部分群であり、$\dim N'+\dim N''=\dim N$ である。
段 2(交わり).$y\in N'\cap N''$ をとり、$y=\gamma_g(n)$($n\in N$)と書く。$M$ を、$N'$ と $n$ を含む $N$ の閉部分群すべての共通部分とする。$M$ は $G$ の閉部分群で、$N$ の部分群なので可換であり、$M'=N'$ は $M$ の閉正規部分群である。$\sigma_g$ を $N$ に制限したものは代数群 $N$ の自己同型(逆は $\sigma_{g^{-1}}$)なので、閉部分群を閉部分群に移す。$\sigma_g(N')=N'$($\sigma_g$ は $N'$ の上で恒等)で、$\sigma_g(n)=\gamma_g(n)n=yn\in M$ なので、$\sigma_g^{-1}(M)$ は $N'$ と $n$ を含む閉部分群であり、$M\subset\sigma_g^{-1}(M)$、すなわち $\sigma_g(M)\subset M$ である。また $\sigma_g(y^{-1}n)=y^{-1}yn=n$ なので $\sigma_g^{-1}(n)=y^{-1}n\in M$ で、同じ議論で $\sigma_g^{-1}(M)\subset M$ である。ゆえに $g$ は $M$ を正規化し、$\sigma_g$ は $M'=N'$ に恒等を誘導する。さらに $\gamma_g^{-1}(N')$ は閉部分群 $N'$ の有理準同型による逆像なので $N$ の閉部分群で、$N'$($\gamma_g(N')=\{e\}$)と $n$($\gamma_g(n)=y\in N'$)を含むから $M$ を含む。すなわち $m\in M$ について $\sigma_g(m)m^{-1}\in N'$ で、$\sigma_g$ は $M/M'$ にも恒等を誘導する。$M'\subset N$ なので、$N=N_u$ なら $M'=M'_u$、$N=N_s$ なら $M'=M'_s$ である。上の定理(共役が恒等を誘導する元は中心化する)により $g$ は $M$ を中心化し、$n\in M$ なので $y=\gamma_g(n)=e$ である。これで 1 が出た。
段 3($N''$ の上の全単射).$\gamma_g(N'')\subset\gamma_g(N)=N''$ で、$\gamma_g|_{N''}$ の核は $N'\cap N''=\{e\}$ だから単射である。引用する事実 3 により $\gamma_g(N'')$ は $N''$ の閉部分群で、次元は $\dim N''-0=\dim N''$ である。単位成分 $N''_0$ の像 $\gamma_g(N''_0)$ は連結な閉部分群で $N''_0$ に含まれ(連結で $e$ を含むので)、次元は $\dim N''_0=\dim N''$ に等しいので、引用する事実 2 の (4) により $\gamma_g(N''_0)=N''_0$ である。$N''/N''_0$ は有限(引用する事実 2 の (3))で、$\gamma_g$ はその上に写像 $aN''_0\mapsto\gamma_g(a)N''_0$ を誘導する。$\gamma_g(a)\in N''_0=\gamma_g(N''_0)$ なら単射性から $a\in N''_0$ となるので、この写像は有限集合の単射、ゆえに全単射である。したがって $a\in N''$ について $\gamma_g(a')N''_0=aN''_0$ となる $a'\in N''$ があり、$a=\gamma_g(a')\gamma_g(c)$($c\in N''_0$)と書けて $a\in\gamma_g(N'')$ である。これで 2 が出た。
段 4($N$ が連結な場合).積写像 $\mu\colon N'\times N''\to N$、$(n',n'')\mapsto n'n''$ は、$N$ が可換なので有理準同型で、核は $\{(n',n'^{-1}):n'\in N'\cap N''\}=\{e\}$ である。単位成分の積 $N'_0\times N''_0$ は既約(引用する事実 4)なので、$\mu$ をこれに制限した像 $\mu(N'_0\times N''_0)$ は連結な閉部分群(引用する事実 3)で、次元は $\dim N'_0+\dim N''_0$(引用する事実 4 の次元の公式)に等しい。$N'_0$、$N''_0$ の次元はそれぞれ $N'$、$N''$ の次元に等しい(引用する事実 2 の (3))ので、これは段 1 の $\dim N'+\dim N''=\dim N$ により $\dim N$ に等しい。$N$ が連結なら、引用する事実 2 の (4) により $\mu(N'_0\times N''_0)=N$ であり、とくに $N'N''=N$ である。$a\in N'$ について $a=a'a''$($a'\in N'_0$、$a''\in N''_0$)と書けば、$\mu$ の単射性から $a=a'$、$a''=e$ となり、$N'=N'_0$ である。同様に $N''=N''_0$ である。これで 3 が出た。
段 2 が系 1 の使いどころで、$g$ が $N$ 全体ではなく小さな部分群 $M$ の上下に恒等を誘導することを確かめ、系 1 に渡している。段 3・段 4 は次元と単位成分の数え上げで、$\gamma_g$ が線形写像であれば「核と像の次元の和は全体の次元」「単射なら全射」という線形代数の議論に当たる。
原論文の Proposition 5(印字 4-12)は、結論の最初を「$N'_gN''_g=e$」と印字する。印字のままでは、$N$ が連結なら結論の「$N=N'_gN''_g$」と合わせて $N=\{e\}$ となり、主張は $N\ne\{e\}$ の例で偽になる(下の反例「印字の積の等式は成り立たない」)。次頁の証明(印字 4-13)は、「$N'_g\cap N''_g=e$ を示せば」、「残るのは $N'_g\cap N''_g=(e)$ を示すことだけ」と二度共通部分の形で書き、積の形にする理由はどこにも無い。本書はこれを共通部分の記号の脱落と読み、訂正した形を主結果にした。原論文の証明の「$\gamma_g$ は $N''_g$ の上で単射なので次元の理由で全単射」の括弧の中の議論は、上の段 3 に当たる。
主結果 2 の仮定の型の組み合わせは外せない。型をそろえると、交わりが大きくなり、積が $N$ を覆わなくなる(下の反例「命題 5 で半単純と単冪の組み合わせを外す」)。
原論文は系 2 を「同じ考え方で」として置く。部分群とその商に恒等を誘導する写像が全体で恒等になる、という形は系 1 と同じだが、ここで効くのは型の食い違いではなく位数の有限性である。
$T$ をトーラス、$H$ を $T$ の部分群(閉とは限らない)、$u$ を $T$ の群としての自己同型で位数が有限なもの(ある正の整数 $m$ で $u^m=\mathrm{id}$)とする。$u$ が $H$ の上で恒等であり、すべての $t\in T$ で $u(t)t^{-1}\in H$ ならば、$u$ は恒等写像である。
段 1(ずれの準同型).$\zeta(t)=u(t)t^{-1}$ とおくと、仮定から $\zeta(t)\in H$ である。$T$ は可換なので $\zeta(ts)=u(t)u(s)s^{-1}t^{-1}=\zeta(t)\zeta(s)$ で、$\zeta\colon T\to H$ は群準同型である。
段 2(反復).$\zeta(t)\in H$ で $u$ は $H$ の上で恒等なので $u(\zeta(t))=\zeta(t)$ である。$u^i(t)=t\zeta(t)^i$ を $i$ についての帰納法で示す。$i=1$ は定義である。$i$ で正しければ $u^{i+1}(t)=u(t)\,u(\zeta(t))^i=t\zeta(t)\zeta(t)^i=t\zeta(t)^{i+1}$ である。
段 3(像は有限).$i=m$ とおくと $t=u^m(t)=t\zeta(t)^m$ なので $\zeta(t)^m=e$ である。ゆえに $\zeta(T)$ は $T[m]=\{x\in T:x^m=e\}$ に含まれる。$T\cong K^{*n}$ なら $T[m]$ は各成分が $X^m=1$ の根である元の全体で、元の個数は高々 $m^n$ なので有限である。
段 4(可除性).引用する事実 6 により $T$ は可除群で、その準同型像 $\zeta(T)$ も可除である。段 3 により $\zeta(T)$ は有限なので、同じ事実により $\zeta(T)=\{e\}$ である。ゆえにすべての $t$ で $u(t)=t$ である。
証明は $u$ が射であることを一度も使っていない。使ったのは $T$ が可換で可除であることと、$u$ の位数が有限であることだけである。$K$ が代数的閉であることは可除性の中に入っており、実数体の上の $\mathbf R^*\times\mathbf R^*$ では同じ形の $u$ が恒等でない(本書『0-3 線形代数と群の道具』の反例「可除でない群では有限群への準同型の像が自明にならない」)。
原論文の証明(印字 4-14)は別の道をとる。Proposition 2(本書『3-3 有限位数の元の稠密性』の主結果「有限位数の元の稠密性」)により、$m$ と素な $n$ についての $T_n=\{t:t^n=e\}$ の和集合は稠密なので、$u$ が各 $T_n$ の上で恒等であることを示せば足りる、とする。$t\in T_n$ なら $s=u(t)t^{-1}$ は $T_n\cap H$ に入り、$u^i(t)=ts^i$ から $s^m=e$ となり、$s$ の位数は $m$ と $n$ の両方を割るので $s=e$ である。この道で「稠密な集合の上で恒等なら全体で恒等」と結ぶには、固定点の集合 $\{t:u(t)=t\}$ が閉であることが要り、そのためには $u$ が射であること、すなわち $u$ が代数群としての自己同型であることが要る。原論文は「自己同型」の意味を書かないので、この道を通すには $u$ を代数群の自己同型と読む(本書が足した仮定の読み)必要がある。この読みの下では、この道も本書の基準で閉じる。稠密性の主結果は[完結]であり、$T$ はアフィンなので、固定点の集合は $u$ の座標と $t$ の座標の差の零点として定義から直ちに閉である(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定理(Zariski 位相の基本)の (4) の後の段)。ただしこの道は足した仮定の読みを要する。本書の主な証明は、稠密性も閉性も使わず、$u$ を抽象群の自己同型としても成り立つ。和集合の稠密性は、$p$ とも $m$ の素因数とも異なる一つの素数 $q$ の冪 $n=q^k$ だけで足りる(本書『3-3 有限位数の元の稠密性』)。なお、原論文は $H$ を閉とは書かず、どちらの証明も $H$ の閉性を使わない。
本書『3-3 有限位数の元の稠密性』で予告したとおり、原論文は「対角化可能群の有限位数の元は稠密なので、閉な条件は有限位数の元で確かめれば足りる」という型を三度使い、系 2 はその三度目に当たる。本書はこの三度目だけ、同じ結論を可除性という群の性質から直接出した。稠密性の型は、Théorème 3 のように閉部分群の中で元を捕まえるときには欠かせないが、ここでは写像 $\zeta$ の像が有限であることを可除性で潰す方が短い。
まず、主結果 2 がベクトル群の上では線形代数そのものであることを見る。
$G\subset\mathrm{GL}(n+1,K)$ を $\begin{pmatrix}A&v\\0&1\end{pmatrix}$($A\in\mathrm{GL}(n,K)$、$v\in K^n$)の形の行列の閉部分群、$N=\{n_v\}$、$n_v=\begin{pmatrix}1&v\\0&1\end{pmatrix}$ とする。$n_vn_w=n_{v+w}$ なので $N$ は加法群 $K^n$ に同型な閉・正規・可換な部分群で、元はすべて単冪で、$K^n$ に同型なので連結である。$g=\begin{pmatrix}A&0\\0&1\end{pmatrix}$ について $gn_vg^{-1}=n_{Av}$ なので $\gamma_g(n_v)=n_{(A-1)v}$ で、$N'_g=\{n_v:v\in\ker(A-1)\}$、$N''_g=\{n_v:v\in\operatorname{im}(A-1)\}$ である。$A$ が半単純なら $g$ は半単純で、$A$ の固有空間分解から $K^n=\ker(A-1)\oplus\operatorname{im}(A-1)$(固有値 $1$ の固有空間と、それ以外の固有値の固有空間の和)となり、上の定理(共役作用の核と像の分解(訂正形))のとおりである。$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$(単冪)なら $\ker(A-1)=\operatorname{im}(A-1)=Ke_1$ で、交わりは $0$ でなく、和は $K^2$ を覆わない。このとき $g$ も $N$ も単冪で、主結果 2 の仮定の組み合わせが外れている。
次の反例は、原論文の印字の等式そのものが成り立たないことを示す。仮定は一つも外していない。
原論文の印字「$N'_gN''_g=e$」は、主結果 2 の仮定をすべて満たす次の例で成り立たない。上の例(アフィン変換の群とベクトル群)で $n=1$ とし、$G=\bigl\{\begin{pmatrix}t&b\\0&1\end{pmatrix}\bigr\}$、$N=\{n_b\}\cong K$(閉・正規・可換・連結で、元はすべて単冪)、$g=\mathrm{diag}(t,1)$($t\ne1$、半単純)とする。$\gamma_g(n_b)=n_{(t-1)b}$ なので $N'_g=\{e\}$、$N''_g=N$ で、$N'_gN''_g=N\ne\{e\}$ である。訂正した形の $N'_g\cap N''_g=\{e\}$、$\gamma_g$ の $N''_g$ の上での全単射性($b\mapsto(t-1)b$)、$N=N'_gN''_g$ はどれも成り立つ。
次の二つは、主結果 1・2 の半単純と単冪の組み合わせを外す。どちらも 3 次の上三角単冪群(Heisenberg 群)の中で計算できる。
上の定理(共役が恒等を誘導する元は中心化する)から、「$g$ が半単純で $M'=M'_u$、または $g$ が単冪で $M'=M'_s$」という条件を外す。$G=U(3)$ の元を $(x,y,z)$($(1,2)$、$(2,3)$、$(1,3)$ 成分)と書くと、積は $(x,y,z)(x',y',z')=(x+x',\ y+y',\ z+z'+xy')$ である。$M=\{(a,0,c)\}$ は準同型 $(x,y,z)\mapsto y$ の核なので閉正規部分群で可換、$M'=\{(0,0,c)\}$ は中心である。$g=(0,b,0)$($b\ne0$)について $g^{-1}=(0,-b,0)$ で、
$$\sigma_g(a,0,c)=(a,b,c)(0,-b,0)=(a,0,c-ab)$$
である。$\sigma_g$ は $M'$ の上で恒等で、$\sigma_g(a,0,c)(a,0,c)^{-1}=(0,0,-ab)\in M'$ なので $M/M'$ にも恒等を誘導するが、$a\ne0$ の元とは可換でない。$g$ は単冪で、$M'$ の元はすべて単冪なので $M'=M'_u\ne M'_s=\{e\}$ であり、どちらの組み合わせも成り立っていない。証明で壊れるのは段 4 で、$f_m$ の値は単冪で、単冪な $H$ から単冪な $M'$ への準同型は自明になる理由がない。
上の定理(共役作用の核と像の分解(訂正形))から、同じ条件を外す。上の反例と同じ $G=U(3)$、$N=M=\{(a,0,c)\}$(閉・正規・可換で、$K^2$ に同型なので連結、元はすべて単冪)、$g=(0,b,0)$($b\ne0$、単冪)をとる。$\gamma_g(a,0,c)=(a,0,c-ab)(-a,0,-c)=(0,0,-ab)$ なので、$N'_g=\{(0,0,c)\}$、$N''_g=\{(0,0,c)\}$ で、どちらも中心 $Z\cong K$ に等しい。したがって $N'_g\cap N''_g=Z\ne\{e\}$、$N'_gN''_g=Z\ne N$ で、$\gamma_g$ は $N''_g=Z$ の上で自明なので全単射でない。壊れるのは結論のうちこの三つで、$N'_g$ と $N''_g$ が連結であることはこの例でも成り立つ。
最後の反例は、主結果 3 から位数の有限性を外す。
上の定理(トーラスの有限位数の自己同型)から、$u$ の位数が有限であるという条件を外す。$T=K^{*2}$、$u(x,y)=(x,xy)$、$H=\{1\}\times K^*$ とする。$u$ は代数群の自己同型(逆は $(x,x^{-1}y)$)で、$H$ の上で恒等、$u(x,y)(x,y)^{-1}=(1,x)\in H$ だが、$u\ne\mathrm{id}$ である。$u^k(x,y)=(x,x^ky)$ なので位数は無限である。証明で壊れるのは段 3 で、$\zeta(x,y)=(1,x)$ の像 $H$ は有限でない。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro56 の n° 5 の末尾である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(共役が部分群とその商に恒等を誘導すること) | Proposition 5 の系 1 の主張の用語 | 4-13 |
| 定義(交換子の写像とその核と像) | Proposition 5 の主張の $\sigma_g$、$\gamma_g$、$N'_g$、$N''_g$ | 4-12 |
| 定理(共役が恒等を誘導する元は中心化する)、注意(原論文の証明の読みと印字) | Proposition 5 の系 1 とその証明(単冪群の定義の文法は n° 5 の注意) | 4-13(4-12) |
| 定理(共役作用の核と像の分解(訂正形))、注意(原論文の印字の積の等式) | Proposition 5 とその証明 | 4-12〜4-13 |
| 定理(トーラスの有限位数の自己同型)、注意(原論文の証明の道と、自己同型の読み) | Proposition 5 の系 2 とその証明 | 4-14 |
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