本書で使う線形代数と群の初等的な事実(半単純加群と組成因子、自己準同型の加法的 Jordan 分解、可換な作用素の族の同時三角化と同時対角化、外冪による部分空間の判定、相異なる指標の一次独立性と全行列環の可換子、有限生成アーベル群と単因子、有限アーベル群の双対、可除群、冪零な作用素の指数と対数、標数 $p$ の二項定理)を集めた頁である。ここに挙げる事実は、本書では初等的な代数として[完結]の証明に使ってよいものに数え、アフィン代数的集合と代数群の一般論(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』。[条件付き]の側に置く標準的な定理)とは扱いを分ける(本書『0-4 記号と約束』の状態札の項)。各項目は要点をボックスに書き、短く閉じるものには証明を添え、続けて本書での使いどころと案内を書く。案内に挙げる文献の該当箇所は、本書では確かめていない。
前提知識: 線形写像, 固有値, Jordan標準形, 半単純加群, 外積代数, 指標, 有限生成アーベル群, 形式的冪級数
本頁を通じて、$K$ は代数的閉体、$p$ はその標数指数(標数が $0$ でなければ標数、$0$ なら $1$)、$V$ は $K$ 上の有限次元ベクトル空間、$\mathrm{End}(V)$ はその自己準同型の代数である。原論文はこれを $L(V,V)$ と書く。
原論文は Lemme 1 で表現とその係数空間の組成因子を比べ(印字 4-02)、Lemme 3 の証明では可換な半単純作用素の生成する代数の上で補空間をとる(印字 4-11)。どちらも加群の初歩で、まずそれを並べる。
$R$ を単位元をもつ環、$M$ を $R$ 加群とする。
(1) 次の三つは同値である:$M$ は単純部分加群の和である、$M$ は単純部分加群の直和である、$M$ のどの部分加群も直和因子である。これらが成り立つとき $M$ は半単純であるという。
(2) 半単純加群の部分加群と商加群、半単純加群の直和は半単純である。
(3) Jordan–Hölder の定理:長さ有限の加群の組成列の商(組成因子)は、重複度を込め順序を除いて一意である。完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ について、$M$ の組成因子は $M'$ の組成因子と $M''$ の組成因子を合わせたものである。有限直和の組成因子は各成分の組成因子を合わせたものである。
(4) 長さ有限の半単純加群は、その組成因子の直和に同型である。
(5) 長さ有限の加群 $M$、$N$ について、$M$ が $N^n$ の部分加群に同型で、$N$ が $M^m$ の商加群に同型なら、$M$ と $N$ の組成因子の同型類の集合は一致し、$M$ が半単純であることと $N$ が半単純であることは同値である。
(1)〜(4) は加群の基本事実として引く(Bou58 の半単純加群の章の型)。(5) は要点のみ述べる。(3) により、$N^n$ の部分加群の組成因子は $N$ の組成因子のどれかと同型で、$M^m$ の商加群の組成因子は $M$ の組成因子のどれかと同型である。二つを合わせて同型類の集合は一致する。$N$ が半単純なら $N^n$ も、その部分加群 $M$ も半単純で、$M$ が半単純なら $M^m$ も、その商 $N$ も半単純である((2))。
上の定理(半単純加群の基本)の (4) から、加群が半単純であるという仮定を外す。$K$ の加法群が $V=K^2$ に $t\mapsto\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ で作用するとし、$V$ をこの群の群環の加群とみる。直線 $Ke_1$ は不変で、$t\ne0$ の行列の固有ベクトルは $e_1$ の倍だけなので、不変な直線は $Ke_1$ しかない。ゆえに $Ke_1$ は不変な補空間をもたず、$V$ は半単純でない。組成因子は $Ke_1$ と $V/Ke_1$ で、どちらも自明な 1 次元の表現だが、$V$ はその直和(群が自明に作用する $K^2$)に同型でない。この表現は本書『1-2 アフィン代数群は線形群』の例と、本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の加法群の有理表現に現れる。
原論文 n° 4 は、自己準同型の半単純性を加群の言葉で定義し、$K$ が代数的閉体なのでそれは対角化可能と同じだと断ってから、加法的 Jordan 分解を「よく知られた事実」として想起する(印字 4-08)。本書もその順に置く。
$x\in\mathrm{End}(V)$ の生成する単位的部分代数を $K[x]\subset\mathrm{End}(V)$ と書く。$x$ が半単純であるとは、$V$ が $K[x]$ 加群として半単純であることをいう。$x$ が冪零であるとは、ある $r\ge1$ で $x^r=0$ となることをいい、このとき $x^{\dim V}=0$ である。$x$ が単冪であるとは、$x-1$ が冪零であること、すなわち $x$ の固有値がすべて $1$ であることをいう。
$x\in\mathrm{End}(V)$ について次は同値である。(a) $x$ は半単純である。(b) $x$ は対角化可能である($x$ の固有ベクトルからなる $V$ の基底がある)。(c) $x$ の最小多項式は重根をもたない。
段 1(単純な $K[x]$ 加群は 1 次元).$S$ を単純な $K[x]$ 加群とする。$S$ は有限次元で $K$ は代数的閉なので、$x$ は $S$ に固有ベクトル $v$ をもち、$Kv$ は部分加群である。単純性から $S=Kv$ である。
段 2((a) と (b)).(a) なら $V$ は単純部分加群の直和で、段 1 からそれは $x$ で不変な直線の直和であり、各直線の生成元が固有ベクトルの基底をなす。(b) なら固有ベクトルの張る直線は単純部分加群で、$V$ はその和なので半単純である。
段 3((b) と (c)).(b) なら相異なる固有値を $\lambda_1,\dots,\lambda_m$ として、$\prod_i(x-\lambda_i)$ は基底の各固有ベクトルを消すので $0$ で、最小多項式はこれを割り重根をもたない。(c) なら最小多項式は $\mu=\prod_i(T-\lambda_i)$($\lambda_i$ は相異なる)で、多項式 $\prod_{j\ne i}(T-\lambda_j)$($1\le i\le m$)の最大公約元は $1$ なので、$1=\sum_ia_i(T)\prod_{j\ne i}(T-\lambda_j)$ となる多項式 $a_i$ がある。$v=\sum_ia_i(x)\prod_{j\ne i}(x-\lambda_j)v$ の第 $i$ 項は $(x-\lambda_i)$ を掛けると $\mu(x)=0$ の倍になるので $\ker(x-\lambda_i)$ に入る。ゆえに $V$ は固有空間の和で、(b) が成り立つ。
単冪な自己準同型が可逆であることと、半単純かつ単冪な自己準同型が恒等写像であることは、原論文が単冪の定義と Proposition 3 の系に添えて述べる主張なので、本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の主結果として示す。
Jordan 分解の一意性にも、原論文の Lemme 3 と Théorème 3 にも、互いに可換な作用素をまとめて三角化・対角化する事実が要る。
$V\ne0$ とし、$\mathcal F\subset\mathrm{End}(V)$ を互いに可換な自己準同型の集合とする。
(1) $\mathcal F$ のすべての元に共通な固有ベクトルがある。したがって $\mathcal F$ のすべての元で安定な完全旗 $0=V_0\subset V_1\subset\dots\subset V_r=V$($\dim V_i=i$)があり、それに適合した基底で $\mathcal F$ の元はすべて上三角行列になる。
(2) $\mathcal F$ の元がすべて対角化可能なら、$\mathcal F$ は同時に対角化できる。このとき $\mathcal F$ の生成する単位的部分代数 $\mathfrak B$ はその基底で対角行列の代数に含まれ、$V$ は半単純な $\mathfrak B$ 加群である。とくに $\mathfrak B$ で安定な部分空間は $\mathfrak B$ で安定な補空間をもつ。
(3) 互いに可換な半単純な自己準同型の積と和は半単純である。互いに可換な冪零な自己準同型の和と差は冪零である。互いに可換な単冪な自己準同型の積は単冪である。
段 1(共通の固有ベクトル).$\dim V$ についての帰納法による。$\mathcal F$ の元がすべてスカラーなら任意の $v\ne0$ でよい。スカラーでない $x\in\mathcal F$ があれば、その固有値 $\lambda$ の固有空間 $V_\lambda$ は $0$ でも $V$ でもなく、$y\in\mathcal F$ は $x$ と可換なので $yV_\lambda\subset V_\lambda$ である。$V_\lambda$ に帰納法の仮定を当てる。
段 2(安定な旗).共通の固有ベクトル $v_1$ をとり $V_1=Kv_1$ とする。$\mathcal F$ が $V/V_1$ に誘導する可換な族に帰納法を当て、得られた旗を $V$ に引き戻す。
段 3(同時対角化).スカラーでない $x\in\mathcal F$ の固有空間分解 $V=\bigoplus_\lambda V_\lambda$ の各 $V_\lambda$ は $\mathcal F$ で安定である。対角化可能な作用素の安定な部分空間への制限は対角化可能である(制限の最小多項式は重根のない多項式を割る。上の定理(半単純と対角化可能))。各 $V_\lambda$ に帰納法を当てる。得られた基底で $\mathfrak B$ の元は対角行列の多項式なので対角であり、基底ベクトルの張る直線は単純な $\mathfrak B$ 部分加群、$V$ はその直和なので半単純である。補空間の存在は上の定理(半単純加群の基本)の (1) による。
段 4(積と和).(2) の基底で可換な半単純作用素は同時に対角行列になり、積と和も対角である。(1) の基底で可換な冪零作用素は同時に上三角行列になり、対角成分は固有値なので $0$ である。対角成分が $0$ の上三角行列の和・差はまたそうで冪零である。可換な単冪作用素は同時に対角成分が $1$ の上三角行列になり、その積もそうなので単冪である。
原論文は (3) を Proposition 3 の証明の末尾で使い(印字 4-08)、(1) を Proposition 4 b) と Théorème 3 の証明で、(2) の補空間を Lemme 3 の証明で、どれも「よく知られた」事実として使う(印字 4-09〜4-11)。
上の定理(可換な作用素族の同時三角化と同時対角化)の (3) から、「互いに可換」という仮定を外す。$a\in K^*$、$a\ne1$ をとり、$A=\begin{pmatrix}a&0\\0&1\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}a^{-1}&1\\0&1\end{pmatrix}$ とする。$A$ は対角行列、$B$ は相異なる固有値 $a^{-1}$ と $1$ をもつので対角化可能で、どちらも半単純である。ところが $AB=\begin{pmatrix}1&a\\0&1\end{pmatrix}$ の最小多項式は $(T-1)^2$ で重根をもつので、$AB$ は半単純でない。実際 $BA=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ で、$a\ne1$ なので $AB\ne BA$ である。単冪な行列の積についての同じ型の反例は、本書『5-1 可換群の直積分解と標数 0 の単冪群』にある。
$x\in\mathrm{End}(V)$ とする。
(1) $x=x_s+x_n$、$x_s$ は半単純、$x_n$ は冪零、$x_sx_n=x_nx_s$ となる $x_s$、$x_n$ がただ一組ある。$x_s$ を $x$ の半単純部分、$x_n$ を冪零部分という。
(2) $x_s$ と $x_n$ は $x$ の定数項のない多項式で書ける。とくに $x$ と可換な自己準同型は $x_s$、$x_n$ と可換であり、$x$ で安定な部分空間は $x_s$、$x_n$ でも安定である。
(3) $x$ と $x_s$ の固有値は重複度を込めて同じである。とくに $x$ が可逆であることと $x_s$ が可逆であることは同値で、このとき $x_s^{-1}$ は $x_s$ の多項式である。
段 1(一般固有空間への分解).$x$ の特性多項式を $\prod_{i=1}^m(T-\lambda_i)^{m_i}$($\lambda_i$ は相異なる)とし、$V_i=\ker(x-\lambda_i)^{m_i}$ とおく。多項式 $(T-\lambda_i)^{m_i}$ は互いに素なので、上の定理(半単純と対角化可能)の段 3 と同じ Bézout の議論と、Cayley–Hamilton の定理 $\prod_i(x-\lambda_i)^{m_i}=0$ から $V=\sum_iV_i$ となり、同じ議論で和は直和である。$\dim V_i=m_i$ である。
段 2(存在).中国剰余定理により、多項式 $P$ で、各 $i$ について $P\equiv\lambda_i\pmod{(T-\lambda_i)^{m_i}}$ となり、さらに $0$ がどの $\lambda_i$ とも異なるときは $P\equiv0\pmod T$ となるものがある。$0$ が固有値 $\lambda_i$ のときは第一の合同式から $P\equiv0\pmod T$ なので、どちらの場合も $P(0)=0$ である。$x_s=P(x)$ は各 $V_i$ に $\lambda_i$ 倍で作用するので対角化可能、すなわち半単純であり、$x_n=x-x_s=(T-P)(x)$ は各 $V_i$ の上で $x-\lambda_i$ に等しく冪零である。どちらも $x$ の定数項のない多項式なので互いに可換である。これで (1) の存在と (2) が出る。(3) は $x_s$ が $V_i$ に $\lambda_i$ で作用し $\dim V_i=m_i$ であることから出る。$x_s$ が可逆なら特性多項式の定数項が $0$ でないので、Cayley–Hamilton により $x_s^{-1}$ は $x_s$ の多項式である。
段 3(一意性).$x=s+n$ を (1) の条件を満たす別の分解とする。$s$ と $n$ は互いに可換なので $x$ と可換で、したがって $x$ の多項式 $x_s$、$x_n$ とも可換である。$x_s-s=n-x_n$ の左辺は可換な半単純作用素の差なので半単純(上の定理(可換な作用素族の同時三角化と同時対角化)の (2)(3)。$-s$ も半単純)、右辺は可換な冪零作用素の差なので冪零である。半単純かつ冪零な作用素は、対角化したときの固有値がすべて $0$ なので $0$ である。ゆえに $s=x_s$、$n=x_n$ である。
原論文は (1)〜(3) を「よく知られた事実」として想起し、$x$ が可逆なら $x_u=1+x_s^{-1}x_n$ とおいて $x=x_sx_u$ と書けると続ける(印字 4-08)。この乗法的な分解の一意性と、可換な自己準同型の分解の規則(原論文の Proposition 3 とその系)は本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の主結果である。原論文が想起として書く「$x$ が可逆 ⇔ $x_s$ が可逆」は、本書では (3) を引いて済ませる。
$\lambda\ne\mu$ とし、$x=\begin{pmatrix}\lambda&1&0\\0&\lambda&0\\0&0&\mu\end{pmatrix}$ とする。特性多項式は $(T-\lambda)^2(T-\mu)$ で、上の定理(加法的 Jordan 分解)の段 2 の合同式 $P\equiv\lambda\pmod{(T-\lambda)^2}$、$P\equiv\mu\pmod{T-\mu}$ は $P(T)=\lambda+(T-\lambda)^2/(\mu-\lambda)$ で満たされる($0$ が固有値でないときは $P(0)=0$ の条件を足すと次数が一つ上がるが、$x_s=P(x)$ は同じになる)。$x-\lambda=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&0\\0&0&\mu-\lambda\end{pmatrix}$ の平方は $\mathrm{diag}(0,0,(\mu-\lambda)^2)$ なので、
$$x_s=P(x)=\mathrm{diag}(\lambda,\lambda,\mu),\qquad x_n=x-x_s=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}$$
である。$x_s$ と $x_n$ は可換で、$x_n^2=0$ である。$\lambda\mu\ne0$ なら $x$ は可逆で、乗法的な単冪部分は $x_u=1+x_s^{-1}x_n$、その $(1,2)$ 成分は $\lambda^{-1}$ である。
上の定理(半単純と対角化可能)から、体が代数的閉であるという仮定を外す。実数体 $\mathbf R$ の上で $x=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ とする。最小多項式 $T^2+1$ は $\mathbf R$ 上既約なので $\mathbf R[x]\cong\mathbf C$ は体であり、$V=\mathbf R^2$ は $1$ 次元の $\mathbf C$ ベクトル空間として単純な $\mathbf R[x]$ 加群である。したがって $x$ は定義の意味で半単純である。しかし $x$ は実の固有値をもたず、$\mathbf R$ の上では対角化できない。壊れるのは証明の段 1(単純な加群が 1 次元であること)である。原論文が半単純性を加群の言葉で定義し、$K$ が代数的閉だから対角化可能と同じだと断る(印字 4-08)のは、この違いに当たる。
原論文の Théorème 1(Chevalley)の証明は、閉部分群を、ある部分空間を保つ元の全体として書いたあと、部分空間の固定群を外冪の一本の直線の固定群に置き換える(印字 4-04)。その置き換えを原論文は「よく知られている」とだけ書く。
$W\subset V$ を $d$ 次元の部分空間($1\le d\le\dim V$)、$w_1,\dots,w_d$ を $W$ の基底とし、$a=w_1\wedge\dots\wedge w_d\in\Lambda^dV$ とおく。
(1) $a\ne0$ で、直線 $Ka$ は基底の選び方によらない。
(2) $W=\{v\in V:v\wedge a=0\}$(右辺の $v\wedge a$ は $\Lambda^{d+1}V$ の元)。したがって $W$ は直線 $Ka$ から復元できる。
(3) $g\in\mathrm{GL}(V)$ について、$gW=W$ であることと $(\Lambda^dg)(a)\in Ka$ であることは同値である。
$W$ の基底を $V$ の基底 $w_1,\dots,w_d,v_{d+1},\dots,v_n$ に延ばす。(1) この基底から作る $\Lambda^dV$ の基底の一つが $a$ なので $a\ne0$ である。$W$ の別の基底は $W$ の可逆な変換 $c$ で移り、対応する外積は $a$ の $\det c$ 倍になる。(2) $v=\sum_ic_iw_i+\sum_jc'_jv_j$ について $v\wedge a=\sum_jc'_j\,v_j\wedge w_1\wedge\dots\wedge w_d$ で、$v_j\wedge w_1\wedge\dots\wedge w_d$($d< j\le n$)は $\Lambda^{d+1}V$ の基底の一部なので、$v\wedge a=0$ ⇔ すべての $c'_j=0$ ⇔ $v\in W$ である。$d=\dim V$ なら $\Lambda^{d+1}V=0$ で両辺とも $V$ である。(3) $(\Lambda^dg)(a)=gw_1\wedge\dots\wedge gw_d$ は、$d$ 次元の部分空間 $gW$ に (1) で対応する直線の生成元である。$gW=W$ なら (1) によりそれは $Ka$ に入る。逆に $(\Lambda^dg)(a)=ca$($c\in K^*$)なら、(2) を $gW$ と $W$ に当てて $gW=\{v:v\wedge ca=0\}=W$ である。
原論文の証明は外冪を部分空間 $W$ の側でとると書くが、部分群の外の元の平行移動は $W$ を保たないので、そのままでは表現が定義されない。本書は全体の空間 $V$ の外冪 $\Lambda^dV$ でとって読む。上の定理はまさにその形($W\subset V$ の直線 $Ka\subset\Lambda^dV$)である(本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』、本書『0-4 記号と約束』の誤植の表)。
原論文は Théorème 2 の直前で、トーラスの有理指標が単項式に限ることを「指標の一次独立性のため」の一言で済ませる(印字 4-05)。本書はこの一次独立性を、正規部分群を核とする表現の構成(重さ空間の直和)と、指標群の双対性の証明にも使う。
原論文は Théorème 1 の系の証明を、「部分群の元はちょうど $u(s)$ がスカラーになる元」という形で閉じる(印字 4-04)。本書はその段の代わりに重さ空間の直和と区分対角な代数を使って証明を立て直すので、上の二つの定理がそのまま要る(本書『2-2 正規部分群を核とする表現』)。
対角化可能群の記述(原論文 n° 3)は、有理指標の群が有限生成アーベル群であることを通して、有限生成アーベル群の構造定理と単因子、有限アーベル群の双対に帰着する。
証明は引用する(Lan02 の有限生成アーベル群と単項イデアル整域の上の加群の章の型)。(2) から、$\mathbf Z^n/B$ が素数 $\ell$ のねじれをもたないことは、どの $d_i$ も $\ell$ で割れないことと同じである。
原論文は (2) を「古典的」とし(印字 4-06)、(3) を「次元の理由で」と書く(同)。
$\mathbf Z^2$ の部分群 $B$ を $(2,4)$ と $(0,6)$ で生成されるものとする。$e_1=(1,2)$、$e_2=(0,1)$ は行列式 $1$ の基底で、$(2,4)=2e_1$、$(0,6)=6e_2$ なので、上の定理(有限生成アーベル群の構造と単因子)の (2) の形で $d_1=2$、$d_2=6$、$\mathbf Z^2/B\cong\mathbf Z/2\oplus\mathbf Z/6$ である。$\mathbf Z^2$ を $K^{*2}$ の単項式 $X^aY^b$ の群と読むと、$e_1=XY^2$、$e_2=Y$ は $K^{*2}$ の座標の取り替え $(x,y)\mapsto(xy^2,y)$(逆も単項式で与えられる)を定め、$B$ のすべての単項式が $1$ になる点の集合は、新しい座標で $\{x'^2=1,\ y'^6=1\}=\mu_2\times\mu_6$ になる。$p\nmid6$ ならこれは位数 $12$ の群だが、上の定理(有限アーベル群の双対)の (1) により、標数 $2$ では $\mu_2\times\mu_6=\{1\}\times\mu_3$ の位数は $3$、標数 $3$ では $\mu_2\times\mu_2$ の位数は $4$ に落ちる。$\mathbf Z^2/B$ が $p$ ねじれをもつと、部分群と点の集合の対応が崩れる。この型の計算は本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』で、対応が崩れることの反例は本書『3-2 指標群との双対性』で扱う。
上の定理(有限アーベル群の双対)の (2) から、$p\nmid N$ という仮定を外す。$p\ne1$ とし、$F=\mathbf Z/p$ とする。$K^*$ は位数 $p$ の元をもたない(同じ定理の (1))ので、$\mathrm{Hom}(\mathbf Z/p,K^*)$ は自明な群である。したがって $|\hat F|=1\ne p=|F|$ で、$F\to\mathrm{Hom}(\hat F,K^*)$ は単射でない。対角化可能群の指標群のねじれの位数が $p$ と素に限られること(本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』、本書『3-2 指標群との双対性』)は、この現象の裏返しである。
アーベル群 $A$(乗法的に書く)が可除であるとは、任意の $a\in A$ と正の整数 $k$ について $b^k=a$ となる $b\in A$ があることをいう。
(1) $K$ は代数的閉なので $K^*$ は可除で、トーラス $K^{*n}$ も可除である。可除群の準同型像は可除である。
(2) 有限な可除群は単位元だけからなる。
(3) 可除アーベル群は、有理数体 $\mathbf Q$ の加法群の直和と、ねじれ部分(それ自身可除)の直和に分解する。
(1)(2) は、トーラスの有限位数の自己同型についての主張を、有限位数の元の稠密性を経ずに閉じる証明に使う(本書『5-3 共役作用の分解』。原論文 Proposition 5 の系 2 の別証)。(3) は証明には使わず、対角化可能群の定義の「部分群」を閉部分群と読む理由を示す反例(複素数の加法群は抽象群としては乗法群の部分群に同型だが、代数群としては対角化できない。本書『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』、本書『0-4 記号と約束』の本書が足した仮定)で、抽象群の同型を確かめるのに使う。
上の定理(可除アーベル群の初歩)の (1) から、体が代数的閉であるという仮定を外す。実数体では $-1$ は平方根をもたないので $\mathbf R^*$ は可除でない。$T=\mathbf R^*\times\mathbf R^*$ とし、$\zeta(x,y)=(1,\operatorname{sgn}x)$ とおくと、$\zeta$ は $T$ から有限群 $H=\{1\}\times\{\pm1\}$ への準同型で、像は自明でない。$u(x,y)=(x,\ y\operatorname{sgn}x)$ は $T$ の抽象群としての位数 $2$ の自己同型で、$H$ の上で恒等、$u(t)t^{-1}=\zeta(t)\in H$ を満たすが、恒等写像でない。$K$ が代数的閉なら $K^{*2}$ は可除で、同じ形の $\zeta$ の像は (2) により自明になり、この現象は起こらない。本書『5-3 共役作用の分解』でトーラスの有限位数の自己同型を扱う証明は、まさにこの点で $K$ が代数的閉であることを使う。
標数 $0$ では、加法群の有理表現と単冪な元が、冪零な作用素の指数関数で記述される(原論文 Proposition 4 b)、印字 4-09)。そのための形式的な恒等式をまとめる。
$p=1$(標数 $0$)とし、$r=\dim V$ とする。冪零な $N\in\mathrm{End}(V)$ と単冪な $y\in\mathrm{GL}(V)$ に
$$\exp N=\sum_{k=0}^{r-1}\frac{N^k}{k!},\qquad\log y=\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k+1}\frac{(y-1)^k}{k}$$
とおく($N^r=0$、$(y-1)^r=0$ なので、どちらも無限級数を有限で切ったものに等しい)。
(1) $\exp N$ は単冪で $N$ の多項式、$\log y$ は冪零で $y$ の多項式であり、$\log(\exp N)=N$、$\exp(\log y)=y$ である。
(2) 互いに可換な冪零 $a$、$b$ について $\exp(a+b)=\exp a\,\exp b$ である。とくに $t\mapsto\exp(tN)$ は $t$ の多項式で、$\exp((s+t)N)=\exp(sN)\exp(tN)$、$\exp(0\cdot N)=1$ を満たす。
(3) 互いに可換な単冪 $x$、$y$ について $\log(xy)=\log x+\log y$ である。
段 1(形式的冪級数の恒等式).有理数係数の形式的冪級数環で $\exp T=\sum_{k\ge0}T^k/k!$、$\log(1+T)=\sum_{k\ge1}(-1)^{k+1}T^k/k$ とおく。二変数の形式的冪級数環で $\exp(S+T)=\exp S\exp T$ が成り立つ(両辺の $S^iT^j$ の係数はどちらも $1/(i!\,j!)$)。$f=\exp(\log(1+T))$ は形式的な微分で $f'=f/(1+T)$ を満たすので $(f/(1+T))'=0$ で、定数項を比べて $f=1+T$ である。$g=\log(\exp T)$ は $g'=\exp T/\exp T=1$、$g(0)=0$ なので $g=T$ である(標数 $0$ では微分が $0$ の冪級数は定数)。
段 2(代入).$N^r=0$ なので、$T\mapsto N$ は形式的冪級数環から $\mathrm{End}(V)$ への環準同型を定める(次数 $r$ 以上の項は $0$ に行く)。可換な冪零 $a$、$b$ については $S\mapsto a$、$T\mapsto b$ が二変数の形式的冪級数環からの環準同型を定める。定数項のない冪級数 $L$ に冪零元を代入したものは冪零で、$\exp(L)$ への代入は $L$ への代入を $\exp$ に入れたものに等しい。段 1 の恒等式に代入すると (1)(2) が出る。
段 3((3)).$a=\log x$、$b=\log y$ は $x$、$y$ の多項式なので可換な冪零である。(2) により $\exp(a+b)=\exp a\exp b=xy$ で、(1) により $\log(xy)=a+b$ である。
原論文はこれらを「形式的冪級数の恒等式」「よく知られた恒等式」として使う(印字 4-09)。ただし印字の対数の級数は係数 $1/k$ を欠き、そのままでは (1) が成り立たないので、本書は $1/k$ を補って読む(本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』の反例、本書『0-4 記号と約束』の誤植の表)。
$p=1$ とし、$N=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\0&0&0\end{pmatrix}$ とする。$N^2$ は $(1,3)$ 成分だけが $1$ で、$N^3=0$ である。$y=\exp(tN)=\begin{pmatrix}1&t&t^2/2\\0&1&t\\0&0&1\end{pmatrix}$ について $y-1=tN+t^2N^2/2$、$(y-1)^2=t^2N^2$、$(y-1)^3=0$ なので、$\log y=(y-1)-(y-1)^2/2=tN$ に戻る。係数 $1/k$ を落とした級数 $(y-1)-(y-1)^2$ では $tN-t^2N^2/2$ になり、$t\ne0$ で $tN$ と食い違う。
上の定理(冪零作用素の指数と対数)から、$p=1$ という仮定を外す。$p\ne1$ とし、$V=K^{p+1}$ の上で $Ne_1=0$、$Ne_{i+1}=e_i$ と定めた冪零な $N$ をとる。$N^p\ne0$ なので $\exp N$ の級数は次数 $p$ の項で切れず、その係数 $1/p!$ は $K$ の中に無い($p!=0$)。さらに下の定理(正標数の二項定理)により $y=1+N$ は $y^{p^a}=1$($p^a\ge p+1$)を満たし、位数有限である。標数 $0$ の単冪な元は $1$ でなければ位数無限で加法群の像に入るのに対し、正標数の単冪な元は位数が $p$ の冪になる(本書『4-1 乗法的 Jordan 分解と単冪性』)。
$p\ne1$ とし、$R$ を標数 $p$ の可換環($K$、多項式環 $K[X,Y]$、互いに可換な作用素の生成する代数など)とする。
(1) $0< k< p$ なら二項係数 $\binom pk$ は $p$ で割れる。したがって $q=p^a$ と $\alpha,\beta\in R$ について $(\alpha+\beta)^q=\alpha^q+\beta^q$ で、とくに冪零な $n$ について $(1+n)^q=1+n^q$ である。
(2) $m=p^am'$($p\nmid m'$、$m'>1$)とすると、$K[X,Y]$ の中で $(X+Y)^m-X^m-Y^m$ の単項式 $X^{p^a}Y^{m-p^a}$ の係数は $m'$ で、$0$ でない。
(3) $\zeta\in K$ が $\zeta^{p^a}=1$ を満たせば $\zeta=1$ である。
標数 $0$ で $m>1$ なら、$(X+Y)^m-X^m-Y^m$ の $XY^{m-1}$ の係数は $m\ne0$ である。(2) とこの一言が、加法群の有理自己準同型を決める計算(本書『5-2 正標数の可換単冪群と加法多項式』)の中身になる。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro56 である。本頁は前提の頁で、原論文の主張の証明は含まない。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定理(半単純加群の基本) | Lemme 1 とその系、Lemme 3 の証明の「よく知られた」半単純性 | 4-02、4-03、4-11 |
| 定義(半単純・冪零・単冪な自己準同型)、定理(半単純と対角化可能)、定理(加法的 Jordan 分解) | n° 4 冒頭の定義と加法的 Jordan 分解の想起、単冪の定義 | 4-08 |
| 定理(可換な作用素族の同時三角化と同時対角化) | Proposition 3 の証明の末尾、Proposition 4 b) の証明の安定な列、Théorème 3 の証明、Lemme 3 の証明 | 4-08〜4-11 |
| 定理(外冪による部分空間の判定) | Théorème 1 の証明の「よく知られている」段 | 4-04 |
| 定理(相異なる指標の一次独立性(Dedekind–Artin))、定理(全行列環と区分対角な代数の可換子) | Théorème 2 の前の「指標の一次独立性」、Théorème 1 の系の証明 | 4-04、4-05 |
| 定理(有限生成アーベル群の構造と単因子)、定理(有限アーベル群の双対) | 系 1 の後の観察(基底と整数 $n_i$)、系 3 a) b) の証明 | 4-05〜4-06 |
| 定理(可除アーベル群の初歩) | Proposition 5 の系 2(本書の別証で使う) | 4-14 |
| 定理(冪零作用素の指数と対数) | Proposition 4 b) の証明 | 4-09 |
| 定理(正標数の二項定理) | Proposition 4 a) の証明、系 1 の後の観察の「1 の $p$ 乗根は 1」、n° 5 の注意 | 4-05、4-09、4-12 |
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