乗法群の積であるトーラスの正則関数の代数が有理指標を基底にもち、有理指標がちょうど単項式であることを示し、そこからトーラスの有理表現の対角化、閉部分群の指標による記述、対角化可能群の構造を導く。正則関数の代数の計算と有理表現の対角化は積の座標環の定理を使わずに、閉部分群の記述は Chevalley の定理を使わずに、原論文と別の経路で閉じる。
前提知識: 代数的トーラス, 対角化可能群, 指標, Laurent多項式, 有限生成アーベル群, 単因子
$K$ は代数的閉体、$p$ はその標数指数(標数が $0$ でなければ標数、$0$ なら $1$)である。$K^*=\mathrm{GL}(1,K)$ は乗法群、$K^{*n}$ はその $n$ 個の積(トーラス)で、座標環は Laurent 多項式環 $K[X_1,X_1^{-1},\dots,X_n,X_n^{-1}]$ である。代数群 $G$ の有理指標とは有理準同型 $G\to K^*$ のことで、その全体 $\hat G$ を加法的に書く。トーラス $D$ の部分群 $A$ に対し $A^\circ\subset\hat D$ は $A$ の上で $1$ になる有理指標の群、$\hat D$ の部分群 $B$ に対し $B^\circ\subset D$ は $B$ のすべての元が $1$ になる点の群である(下の定義)。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文 Gro56 の n° 3 は「対角化可能な代数群」と題され、印字 4-05 の冒頭で用語を定める。$\mathrm{GL}(n,K)$ の対角行列の部分群 $D(n)$ は $K^{*n}$ と標準的に同型であり、$\mathrm{GL}(n,K)$ の部分群は $D(n)$ に含まれるとき対角的、$D(n)$ の部分群に共役なとき対角化可能と呼ばれる。有限次元の表現は、像が対角的になる基底があるとき対角化可能と呼ばれる。そのうえで、$D(n)$ の部分群に同型な代数群を対角化可能な代数群、$K^{*n}$ に同型な代数群を代数的トーラスと呼ぶ。
n° 1 の終わりで原論文は、アフィン代数群の有理表現がすべて半単純であることは正則関数の代数の半単純性と同値だと示したあと、任意標数でこの性質をもつ重要な例は n° 3 で扱うと予告した(本書『1-2 アフィン代数群は線形群』)。その例がトーラスである。標数 0 の半単純群の場合と違い、トーラスでは正則関数の代数を具体的に書き下すことができ、有理表現が対角化できることまで直接に見える。
原論文の Théorème 2 の論証は数行である。$K^*$ はアフィン直線 $K$ から関数 $X$ の零点を除いたものなので、同じセミナーの第 1 講演 Car56 により $A(K^*)=K[X][1/X]$ で、単項式 $X^n$($n\in\mathbf Z$)が基底になり、それらは有理指標である。$A(K^{*n})$ は $A(K^*)$ の $n$ 個のテンソル積なので単項式が基底で、指標の一次独立性から有理指標は単項式に限る。最後に Lemme 1・2 の系により有理表現は対角化可能になる。本頁は、この論証のうちテンソル積と Lemme 1・2 の系を経由する二か所を避け、標準的な空間の座標環と Lemme 1 の段階の結果だけで閉じる。
Théorème 2 から、原論文は Théorème 1 の系(閉正規部分群は有理表現の核)を使ってトーラスの閉部分群を指標の核で書き、有限生成アーベル群の基底の取り替えでその形を決め、対角化可能群がトーラスと有限アーベル群の積であることを導く。本頁は最初の一歩を別の道で示す。閉部分群の外の点を分ける正則関数を単項式に展開し、指標の一次独立性を使えば、Chevalley の定理を経ずに指標の核として書ける。閉部分群と指標群の部分群の対応は、ここで始まり、本書『3-2 指標群との双対性』で対角化可能群全体の双対性にまとめられる。
原論文の定義を、本書の読み(代数群は点の群、有理準同型は代数群の射である準同型)で述べ直す。
$D(n)\subset\mathrm{GL}(n,K)$ を対角行列の部分群とし、対角成分をとって $K^{*n}$ と同一視する。$\mathrm{GL}(n,K)$ の部分群は、$D(n)$ に含まれるとき対角的、$D(n)$ の部分群に共役なとき対角化可能であるという。群 $G$ の有限次元の $V$ 上の表現は、$G$ の像が対角的になる $V$ の基底があるとき対角化可能であるという。$D(n)$ のある閉部分群に(代数群として)同型な代数群を対角化可能群といい、$K^{*n}$ に同型な代数群をトーラスという。
原論文は対角化可能群の定義で単に「$D(n)$ の部分群」と書く。本書はこれを閉部分群と読む。理由と、読み替えを外したときに何が壊れるかは次の注意に書く。
本書が足した仮定として、対角化可能群の定義の部分群は閉部分群と読む。部分群が代数群の構造をもつのは閉部分群(またはより一般に局所閉な部分群で、それは閉である。本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定理「閉部分群と単位成分の基本」の (2))のときなので、代数群として同型と言う以上この読みしかない。外れるのは、同型を抽象群の同型と読み替えたときである。$K=\mathbf C$ とすると、乗法群 $\mathbf C^*$ は可除アーベル群で $\mathbf Q/\mathbf Z\oplus\mathbf Q^{(\mathfrak c)}$ に、加法群 $\mathbf C$ は $\mathbf Q^{(\mathfrak c)}$ に同型である($\mathfrak c$ は連続体濃度で、$\mathbf Q$ 上の次元がどちらも $\mathfrak c$ であることによる)。したがって加法群 $\mathbf C$ は抽象群としては $D(1)=\mathbf C^*$ の部分群に同型である。しかし加法群は下の主結果(対角化可能群の構造)の意味で対角化可能群ではない。対角化可能群ならトーラスと有限群の積に同型で、加法群 $\mathbf C$ はねじれをもたないので有限群の部分は自明、したがって $\mathbf C^{*m}$ に同型になるが、$m\ge1$ なら $-1$ が位数 $2$ の元を与え、$m=0$ なら一点で、どちらも加法群 $\mathbf C$ と群として同型でないからである。加法群の有理表現 $t\mapsto\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ が対角化できないことも、同じことの別の表れである(本書『3-2 指標群との双対性』の主結果「指標は正則関数の基底」)。
トーラスや対角化可能群を調べる道具は、群から乗法群への有理準同型、すなわち有理指標である。
代数群 $G$ から乗法群 $K^*=\mathrm{GL}(1,K)$ への有理準同型を $G$ の有理指標といい、その全体を $\hat G$ と書く。二つの有理指標の各点ごとの積はまた有理指標なので、$\hat G$ はアーベル群をなす。本書は原論文に合わせて $\hat G$ を加法的に書き、$\chi,\psi\in\hat G$ の和 $\chi+\psi$ を $x\mapsto\chi(x)\psi(x)$、$0$ を定数関数 $1$ とする。$x\in G$、$\hat x\in\hat G$ に対し $\{x,\hat x\}=\hat x(x)$ と書く。有理指標は $A(G)$ の元である。
各点ごとの積が有理指標になるのは、$x\mapsto(\chi(x),\psi(x))$ と $K^*$ の積がどちらも射で、その合成だからである。$A(G)$ の元であることは、$K^*$ の座標関数 $X$ の引き戻しが $\chi$ 自身であることによる(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」の (4))。
$D$ を可換な代数群とする。部分集合 $A\subset D$ に対し
$$A^\circ=\{\hat x\in\hat D:\{a,\hat x\}=1\ (a\in A)\}$$
とおき、部分集合 $B\subset\hat D$ に対し
$$B^\circ=\{x\in D:\{x,\hat x\}=1\ (\hat x\in B)\}=\bigcap_{\hat x\in B}\ker\hat x$$
とおく。$A^\circ$ は $\hat D$ の部分群、$B^\circ$ は $D$ の閉部分群である。$A\subset(A^\circ)^\circ$、$B\subset(B^\circ)^\circ$ はつねに成り立つ。
$B^\circ$ が閉であるのは、各 $\ker\hat x$ が正則関数 $\hat x-1$ の零点集合で、閉集合の共通部分は閉だからである。原論文はこの記号をトーラスについて導入し、系 3 で対角化可能群一般に使う。本頁で $A^\circ$、$B^\circ$ を使うのはトーラスの場合だけである。
次の事実は証明せずに引用する。事実 1 は本書の他の頁の主結果で、その先で Hilbert の基底定理・零点定理とアフィン集合の積の座標環の定理(AM69、Har77。本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』)に依る。事実 1 は注意「原論文の道筋(系 1):Chevalley の定理の系による証明」でだけ使い、本頁の主結果の証明には使わない。事実 2〜4 は初等的な代数で、要点と証明(または引用元)は本書『0-3 線形代数と群の道具』にあり、本書は完結の証明に使ってよい側に置く。該当箇所は本頁では確認していない。
トーラスの計算に入る前に、正則関数の代数が有理指標を基底にもつ代数群では有理表現が対角化できる、という一般の補題を置く。トーラスの主結果 1 はこの補題の特別な場合で、本書『3-2 指標群との双対性』でも対角化可能群一般にもう一度使う。
$G$ を代数群とし、$A(G)$ が $G$ の有理指標からなる基底 $X$ をもつとする。
段 1(指標は右移動の固有ベクトル).$\chi\in\hat G$ について $R_s\chi(t)=\chi(ts)=\chi(s)\chi(t)$ なので、$R_s\chi=\chi(s)\chi$ である。
段 2(1 の証明).$f\in W$ を基底で $f=\sum_{\chi\in S}c_\chi\chi$($S\subset X$ は有限集合、$c_\chi\ne0$)と書く。段 1 により $R_sf=\sum_{\chi\in S}c_\chi\chi(s)\chi$ である。$K^S$ のベクトル $v(s)=(c_\chi\chi(s))_{\chi\in S}$($s\in G$)の全体は $K^S$ を張る。実際、張らなければ $0$ でない $(a_\chi)$ があってすべての $s$ で $\sum_\chi a_\chi c_\chi\chi(s)=0$、すなわち $A(G)$ の中で $\sum_\chi a_\chi c_\chi\chi=0$ となり、係数 $a_\chi c_\chi$ のどれかは $0$ でないので基底の一次独立性に反する。線形写像 $\Phi\colon K^S\to A(G)$、$(a_\chi)\mapsto\sum_\chi a_\chi\chi$ は $v(s)$ を $R_sf\in W$ に送るので、$\Phi(K^S)\subset W$ であり、とくに各 $\chi\in S$ は $W$ に属する。ゆえに $W$ の元はどれも $W$ に属する有理指標の一次結合である。
段 3(係数空間の分解).$u$ を $V$ 上の有理表現とする。係数空間 $A_u$ は有限次元で(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「係数空間の訂正した読みと有限次元性」)、$A(G)$ に含まれ(同じ頁の主結果「有理性の判定」)、右移動で不変である(同じ頁の主結果「係数の平行移動の公式」)。1 により $A_u$ は、それに属する有限個の有理指標 $\chi_1,\dots,\chi_m$ の張る直線の直和である。各直線 $K\chi_j$ は段 1 により右移動で不変な 1 次元の部分加群なので、$A_u$ は 1 次元の単純部分加群の直和で、半単純であり、組成因子はすべて 1 次元である。
段 4(2 の証明).本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「表現と係数空間の組成因子」により、$V$ は半単純で、その組成因子は $A_u$ の組成因子、すなわち 1 次元である。半単純加群は単純部分加群の直和であり(引用する事実 3)、単純部分加群は組成因子の一つなので 1 次元である。ゆえに $V=\bigoplus_iKv_i$ で各 $Kv_i$ は $G$ で不変、すなわち $u(s)v_i\in Kv_i$ である。基底 $(v_i)$ に関して $u(s)$ はすべて対角行列になる。
補題は、有理表現を係数空間に写し取るという本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の方法を、そのまま対角化に使ったものである。係数空間が有限次元で $A(G)$ に入ることは行列成分から直接に分かるので、正則関数の移動の有限性(原論文の Lemme 2)は要らない。
トーラスの正則関数の代数は Laurent 多項式環として具体的に分かっているので、補題の仮定を確かめるのは一次独立性の議論だけで済む。
$n\ge0$ とし、$k=(k_1,\dots,k_n)\in\mathbf Z^n$ に単項式 $X^k=X_1^{k_1}\cdots X_n^{k_n}$ を対応させる。
段 1(単項式は有理指標で基底).本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」の (2) により、$A(K^{*n})$ は Laurent 多項式環で、単項式 $X^k$ がその基底である。$X^k(xy)=X^k(x)X^k(y)$、$X^k(e)=1$ なので $X^k$ は $K^{*n}$ から $K^*$ への準同型で、値は $0$ にならない。$K^*=\mathrm{GL}(1,K)$ への写像として座標 $X^k$ が正則なので、同じ命題の (4) により射である。ゆえに $X^k$ は有理指標である。
段 2(有理指標は単項式).$\chi$ を $K^{*n}$ の有理指標とする。$\chi$ は $A(K^{*n})$ の元なので、有限和 $\chi=\sum_kc_kX^k$ に書ける。$\chi$ がどの単項式とも異なるとすると、$\chi$ と、$c_k\ne0$ となる単項式 $X^k$ とは、$K^{*n}$ から $K^*$ への相異なる準同型であり、$\chi-\sum_kc_kX^k=0$ は $\chi$ の係数が $1$ の非自明な一次関係になる。これは相異なる指標の一次独立性(引用する事実 2)に反する。ゆえに $\chi$ は単項式である。
段 3(群の同型).$X^{k+l}=X^kX^l$ なので、$k\mapsto X^k$ は加法的に書いた $\widehat{K^{*n}}$ への準同型である。相異なる $k$ の単項式は基底の相異なる元なので単射で、段 2 により全射である。
段 4(対角化).段 1・段 2 により $A(K^{*n})$ は有理指標からなる基底をもつので、上の補題(指標の基底と表現の対角化)の 2 により、有理表現はすべて対角化可能である。
これで、本書『1-2 アフィン代数群は線形群』で予告された任意標数の重要な例が得られた。$A(K^{*n})$ は右移動で不変な直線 $KX^k$ の直和なので半単純であり、$K^{*n}$ の有理表現は半単純であるばかりか対角化までできる。加法群ではこれが成り立たない(同じ頁の例「加法群の正則関数の代数は半単純でない」)。
原論文の Théorème 2 の論証(印字 4-05)は四つの段からなる。(a) $K^*$ は $K$ から $X$ の零点を除いたものなので、同じセミナーの第 1 講演 Car56 により $A(K^*)=K[X][1/X]$ である。(b) $A(K^{*n})$ は $A(K^*)$ の $n$ 個のテンソル積と同型なので単項式が基底である。(c) 指標の一次独立性により有理指標は単項式に限る。(d) Lemme 1・2 の系(本書『1-2 アフィン代数群は線形群』の主結果「有理表現の半単純性と正則関数の代数(アフィンの場合)」)により有理表現は対角化可能である。本書の基準では、(b) はアフィン集合の積の座標環の定理であり、(d) は本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「正則関数の移動の有限性(アフィンの場合)」を経て同じ定理に依るので、原論文の道では主結果は[条件付き]になる。本書は原論文と別の経路をとった。(a)(b) の代わりに $K^{*n}$ を閉集合 $\{x_1\cdots x_nt=1\}$ とみて座標環を直接に計算し(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」)、(d) の代わりに上の補題を使った。補題が使うのは係数空間の性質だけで、Lemme 2 を使わない。二つの道が示す主張は同じである。
次に閉部分群を調べる。原論文は Théorème 1 の系(閉正規部分群は有理表現の核)を使うが、本書は、閉集合の定義と上の定理(トーラスの正則関数と指標)から直接に示す。$H$ の外の点を分ける正則関数を単項式に展開し、単項式を $H$ への制限でまとめて指標の一次独立性を当てると、その点を分ける単項式が見つかる。
$H$ を $K^{*n}$ の閉部分群とする。有限個の有理指標 $\chi_1,\dots,\chi_m$ があって
$$H=\ker\chi_1\cap\dots\cap\ker\chi_m$$
となる($m=0$ のときは右辺を $K^{*n}$ と読む)。
段 1(点を分ける関数).$x\in K^{*n}$、$x\notin H$ とする。本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の定義「Zariski 位相・既約性・次元」により、$K^{*n}$ の閉集合は $A(K^{*n})$ の部分集合の共通零点なので、$H$ の上で消えて $x$ で消えない $f\in A(K^{*n})$ がある。同じ頁の命題「標準的な空間の座標環」の (2) により、$f=\sum_{k\in S}c_kX^k$($S\subset\mathbf Z^n$ は有限集合)と書ける。
段 2(類ごとの係数和).$k\in S$ について、$X^k$ の $H$ への制限 $X^k|_H$ は抽象群 $H$ から $K^*$ への準同型である。制限として現れる準同型の全体を $\Theta$ とし、$\theta\in\Theta$ ごとに $S_\theta=\{k\in S:X^k|_H=\theta\}$、$C_\theta=\sum_{k\in S_\theta}c_k$ とおく。$h\in H$ について $0=f(h)=\sum_{\theta\in\Theta}C_\theta\,\theta(h)$ で、$\Theta$ の元は $H$ から $K^*$ への相異なる準同型なので、相異なる指標の一次独立性(引用する事実 2)により、すべての $\theta$ で $C_\theta=0$ である。ここで $H$ が部分群であることが効く。
段 3($H$ で $1$、$x$ で $1$ でない単項式).$H$ の上で $1$ になる単項式がすべて $x$ でも $1$ になると仮定する。$k,k'\in S_\theta$ なら $X^{k-k'}=X^k/X^{k'}$ は $H$ の上で $1$ なので、仮定により $X^{k-k'}(x)=1$、すなわち $X^k(x)=X^{k'}(x)$ である。各 $\theta$ について $S_\theta$ から代表 $k_\theta$ を一つ選ぶと、$f(x)=\sum_\theta\sum_{k\in S_\theta}c_kX^k(x)=\sum_\theta X^{k_\theta}(x)\,C_\theta=0$ となり、$f(x)\ne0$ に反する。ゆえに $H$ の上で $1$ で $x$ で $1$ でない単項式 $X^k$ がある。$X^k$ は有理指標で(上の定理(トーラスの正則関数と指標)の 1)$H^\circ$ に属するので、$x\notin(H^\circ)^\circ$ である。$x\notin H$ は任意だったので $(H^\circ)^\circ\subset H$ で、逆の包含は定義から分かるので、$H=(H^\circ)^\circ$ である。
段 4(有限個の指標).$H^\circ$ は $\widehat{K^{*n}}\cong\mathbf Z^n$(上の定理(トーラスの正則関数と指標)の 2)の部分群なので有限生成である(引用する事実 4)。生成元 $\chi_1,\dots,\chi_m$ をとる($H^\circ=0$ なら $m=0$)。$H^\circ$ の元は $\chi_j$ の整数係数の和、すなわち値が $\chi_j$ の値の冪の積なので、$\bigcap_j\ker\chi_j$ は $H^\circ$ のすべての元の核に含まれる。ゆえに $\bigcap_j\ker\chi_j=(H^\circ)^\circ=H$ である。
この証明が使うのは、上の定理(トーラスの正則関数と指標)、閉集合の定義、Laurent 多項式環の単項式の基底、指標の一次独立性、$\mathbf Z^n$ の部分群の有限生成性だけで、Chevalley の定理とその系、Hilbert の基底定理、零点定理、積の座標環の定理を使わない。段 2 は $H$ が部分群であることを本質的に使う。任意の閉集合については、単項式の核の共通部分で書けるとは限らない。
原論文は系 1 を Théorème 1 の系(閉正規部分群は有理表現の核)から導く(印字 4-05)。トーラスは可換なので閉部分群はどれも正規である。この道を本書の言葉で書くと三つの段になる。(1) 引用する事実 1 により、核がちょうど $H$ である有理表現 $\rho\colon K^{*n}\to\mathrm{GL}(V)$ がある。(2) 上の定理(トーラスの正則関数と指標)の 3 により $\rho(s)=\mathrm{diag}(\chi_1(s),\dots,\chi_m(s))$ と対角化でき、各 $\chi_j$ は行列成分なので正則で(本書『1-1 行列係数と有限性の補題』の主結果「有理性の判定」)、乗法的で値が $0$ にならないので有理指標である。(3) $\rho(s)=1$ はすべての $j$ で $\chi_j(s)=1$ であることと同じなので、$H=\ker\rho=\bigcap_j\ker\chi_j$ である。事実 1 は、一般の閉正規部分群については原論文の証明の一段(重さの空間が群全体で不変であること)が偽になりうるが、群が可換なら重さが共役で動かないのでその段がそのまま通る、という本書『2-2 正規部分群を核とする表現』の結果である。したがってトーラスでは原論文の系 1 の論証は印字のままで正しい。ただし事実 1 は、本書『2-1 半不変式による閉部分群の切り出し』の主結果「閉部分群の半不変式による切り出し」を経て、Hilbert の基底定理・零点定理・積の座標環の定理に依るので、この道では主結果は[条件付き]になる。本書は上の証明を本線にし、この道を注意に回した。原論文は系 1 の後の観察の $A=(A^\circ)^\circ$ も「系 1 により」と述べ、下の定理の証明の段 1 はその形をとる。
指標の核として書けたので、閉部分群の形は指標群 $\mathbf Z^n$ の部分群の形で決まる。有限生成アーベル群の単因子で基底を取り替えると、閉部分群はトーラスと 1 の冪根の群の積として見える。
$D$ をトーラスとし、同型 $D\cong K^{*n}$ を一つとる。上の定理(トーラスの正則関数と指標)により $\hat D\cong\mathbf Z^n$ である。$A$ を $D$ の閉部分群とする。
段 1(1 の証明).$A\subset(A^\circ)^\circ$ は定義から分かる。同型 $D\cong K^{*n}$ で $A$ を $K^{*n}$ の閉部分群とみて上の定理(トーラスの閉部分群は指標の核)を当てると、$A=\bigcap_j\ker\chi_j$ となる有理指標 $\chi_j$ がある。各 $\chi_j$ は $A$ の上で $1$ なので $A^\circ$ に属し、$(A^\circ)^\circ\subset\bigcap_j\ker\chi_j=A$ である。
段 2(2 の証明).$p\ne1$ とし、$\hat x\in\hat D$ と $k\ge1$ について $p^k\hat x\in A^\circ$ とする。$a\in A$ について $\hat x(a)^{p^k}=1$ で、引用する事実 4 により $K^*$ は単位元以外に位数が $p$ の冪の元をもたないので $\hat x(a)=1$ である。ゆえに $\hat x\in A^\circ$ で、$\hat D/A^\circ$ の元で $p^k$ 倍が $0$ になるものは $0$ だけである。
段 3(3 の証明).$\hat D\cong\mathbf Z^n$ の部分群 $A^\circ$ に単因子の定理(引用する事実 4)を当てると、基底 $e_i$ と正の整数 $d_1\mid\dots\mid d_r$ で $d_ie_i$($i\le r$)が $A^\circ$ の基底になるものがあり、$\hat D/A^\circ\cong\bigoplus_{i\le r}\mathbf Z/d_i\oplus\mathbf Z^{n-r}$ である。ある $d_i$ が $p$ で割れれば、$(d_i/p)e_i$ の類は $0$ でなく $p$ 倍が $0$ になり、2 に反する。ゆえに $d_i$ はすべて $p$ と素である。
段 4(座標の取り替え).同型によって $D=K^{*n}$ とし、上の定理の同型で $\hat D=\mathbf Z^n$ とみる。$e_i=X^{m_i}$ と書くと、行ベクトル $m_i$ を並べた行列 $M$ は基底の取り替えなので $\mathrm{GL}_n(\mathbf Z)$ に属し、逆行列 $N=M^{-1}$ も整数成分である。$\varphi(x)=(x^{m_1},\dots,x^{m_n})$ と、$N$ の行 $n_i$ による $\psi(y)=(y^{n_1},\dots,y^{n_n})$ はどちらも座標が単項式の準同型なので、有理準同型である(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の命題「標準的な空間の座標環」の (4))。指数を計算すると $\psi(\varphi(x))$ の第 $i$ 成分は $x$ の $(NM)_i$ 乗、すなわち $x_i$ で、同様に $\varphi\circ\psi=\mathrm{id}$ である。ゆえに $\varphi$ は代数群の同型である。
段 5($A$ の像).1 により $A=\{x:\chi(x)=1\ (\chi\in A^\circ)\}$ で、$A^\circ$ は $d_ie_i$($i\le r$)で生成されるので、$A=\{x:e_i(x)^{d_i}=1\ (i\le r)\}$ である。$\varphi$ で移すと $\varphi(A)=\{y:y_i^{d_i}=1\ (i\le r)\}=\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_r}\times K^{*(n-r)}$ となる。$\varphi$ の閉部分群 $A$ への制限は、誘導された構造について $A$ から $\varphi(A)$ への代数群の同型である。$d_i$ は $p$ と素なので、$\mu_{d_i}$ は位数 $d_i$ の巡回群である(引用する事実 4)。
原論文はこの観察(印字 4-05〜4-06)で、単因子を $n_i$、1 の冪根の群を $u(n_i)$ と書く。$n$ はトーラスの次元、$u$ は表現の名にも使われているので、本書は $d_i$、$\mu_{d_i}$ と書き替えた。原論文は $\hat D/A^\circ$ が $p$ ねじれをもたないこと(上の定理の 2)を「$p\hat x=A^\circ$ ならば $\hat x\in A^\circ$」と打つが、元と部分群の等号は意味をなさないので「$p\hat x\in A^\circ$ ならば $\hat x\in A^\circ$」と読む。$A^\circ$ そのものは $\hat D\cong\mathbf Z^n$ の部分群なのでつねにねじれをもたず、条件が言っているのは商 $\hat D/A^\circ$ の性質である。理由として添えられた句(1 の $p$ 乗根は $1$ に等しい)は上の証明の段 2 に当たる。また、印字 4-06 の冒頭では、それまで $A$ と呼んでいた閉部分群が「$H$ は方程式 … で定まる」と $H$ の名で呼ばれるが、同じ部分群 $A$ のことと読む。原論文は $d_1\mid\dots\mid d_r$ を述べないが、単因子の定理から自由に仮定でき、以下では使わない。
トーラスの閉部分群がこの形なら、その閉部分群に同型な群、すなわち対角化可能群の形も決まる。有限群の部分を扱うため、有限な代数的集合の構造が点の個数だけで決まることを証明の中で確かめる。主張の (b) では、有限群 $F$ を、有限個の点からなるアフィン代数的集合($F$ の元をある $K^N$ の相異なる点に一対一に対応させたもの)として代数群とみる。下の証明の段 2 により、その上ではすべての関数が正則なので群の演算は射であり、この代数群の構造は、代数群の同型を除いて群の構造だけで決まる。
代数群 $G$ について、次の二つは同値である。
(a) $G$ は対角化可能群である。
(b) $G$ は、トーラス $K^{*m}$ と、位数が $p$ と素な有限アーベル群 $F$ との積 $F\times K^{*m}$ に、代数群として同型である。
段 1((a) から (b)).$G$ は $D(n)\cong K^{*n}$ のある閉部分群 $A$ に同型である(定義の部分群は閉部分群と読む)。上の定理(トーラスの閉部分群の構造)の 4 により $A\cong\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_r}\times K^{*(n-r)}$ で、$F=\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_r}$ は位数 $d_1\cdots d_r$ の有限アーベル群であり、この位数は $p$ と素である。
段 2(有限な代数群の構造).有限個の点からなるアフィン代数的集合 $F\subset K^N$ では、すべての関数 $F\to K$ が多項式の制限である。実際、$a\in F$ ごとに、$b\ne a$ となる各 $b\in F$ について $a$ と $b$ で値の違う座標 $X_{j(b)}$ をとると、$\prod_{b\ne a}(X_{j(b)}-b_{j(b)})/(a_{j(b)}-b_{j(b)})$ は $a$ で $1$、他の点で $0$ になる。したがって有限なアフィン代数的集合の間の写像はすべて射で、抽象群として同型な二つの有限な代数群は、代数群としても同型である。
段 3((b) から (a)).有限アーベル群 $F$ は $\bigoplus_{i\le k}\mathbf Z/d_i$ に同型で(引用する事実 4)、各 $d_i$ は $|F|$ を割るので $p$ と素である。$\mu_{d_i}$ は位数 $d_i$ の巡回群なので、$F$ は抽象群として $\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_k}$ に同型で、段 2 により代数群としても同型である。ゆえに $F\times K^{*m}\cong\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_k}\times K^{*m}$ であり、右辺は $D(k+m)\cong K^{*(k+m)}$ の閉部分群 $\{y_i^{d_i}=1\ (i\le k)\}$ である。したがって $G$ は対角化可能群である。
こうして対角化可能群は、トーラスと、位数が標数と素な有限アーベル群の積に尽きる。位数が標数と素になるのは、点の群の枠組みでは $K^*$ が位数 $p$ の元をもたないからである(本書『0-2 アフィン代数的集合と代数群』の注意「点の枠組みで何が見えなくなるか」)。本書『3-2 指標群との双対性』は、この構造を使って対角化可能群とその指標群の反変的な対応を完成させ、本書『3-3 有限位数の元の稠密性』は、この積の形から有限位数の元が稠密であることを導く。
まず 2 次元のトーラスの閉部分群で、上の定理(トーラスの閉部分群の構造)の基底の取り替えを実際に行う。続く二つの反例は、主結果の仮定のうち、有理性と、有限群の位数が $p$ と素であることを外したものである。
$D=K^{*2}$ とし、座標を $x$、$y$、指標群を $\mathbf Z^2$($(a,b)$ が単項式 $x^ay^b$)とする。
(i) $A=\{x^2y^3=1\}$ とする。$t\in K^*$ に $(t^3,t^{-2})$ を対応させると $A$ の点になり、逆に $x^2y^3=1$ なら $t=xy$ とおいて $x=t^3$、$y=t^{-2}$ が確かめられる($t^3=x^3y^3=x\cdot x^2y^3=x$、$t^{-2}=x^{-2}y^{-2}=y\cdot(x^2y^3)^{-1}=y$)。したがって単項式 $x^ay^b$ が $A$ の上で $1$ になるのは $t^{3a-2b}=1$ がすべての $t$ で成り立つとき、すなわち $3a=2b$ のときで、$A^\circ=\mathbf Z(2,3)$ である。$(2,3)$ は $e_1=(2,3)$、$e_2=(1,1)$(行列式 $-1$)と基底に延び、$d_1=1$、$r=1$ である。新しい座標 $x'=x^2y^3$、$y'=xy$(逆は $x=x'^{-1}y'^3$、$y=x'y'^{-2}$)で $A=\{x'=1\}$ となり、$A$ は 1 次元のトーラスである。$\hat D/A^\circ\cong\mathbf Z$ はねじれをもたない。
(ii) $A'=\{x^2y^4=1\}$ とする。$(2,4)=2(1,2)$ で、$e_1=(1,2)$、$e_2=(0,1)$ は行列式 $1$ の基底である。新しい座標 $x'=xy^2$、$y'=y$ で $A'=\{x'^2=1\}$ となる。$p\ne2$ なら $A'=\mu_2\times K^*$ で、$A'^\circ=\mathbf Z\cdot2e_1=\mathbf Z(2,4)$、$d_1=2$ である。$p=2$ なら $x'^2=1$ は $x'=1$ と同じなので $A'=\{xy^2=1\}$ は 1 次元のトーラスで、$A'^\circ=\mathbf Z(1,2)$ は方程式の単項式 $(2,4)$ の生成する部分群より大きい。$\mathbf Z^2/\mathbf Z(2,4)$ は位数 $2$ のねじれをもち、上の定理の 2 のとおり、標数 $2$ ではそれが $A'^\circ$ になりえない。
(ii) の標数 2 の場合は、閉部分群を定める方程式の単項式の群と $A^\circ$ が一致するとは限らないことを示している。どの部分群が $A^\circ$ として現れるかは、本書『3-2 指標群との双対性』の主結果「閉部分群と指標群の部分群の対応」で決まる。
外すのは、指標が有理的である(代数群の射である)という条件で、抽象群の準同型をすべて指標とみる。$K=\mathbf C$、$n=1$ とし、$\sigma(z)=\bar z$ とおく。$\sigma$ は $\mathbf C^*$ から $\mathbf C^*=\mathrm{GL}(1,\mathbf C)$ への群準同型、すなわち抽象群としての 1 次元の表現である。しかし $\sigma$ はどの単項式 $z^k$ とも一致しない。$z=i$ で $\bar i=-i=i^3$ なので $i^k=-i$ から $k\equiv3\pmod4$ が要り、$z=2$ で $\bar2=2$ なので $2^k=2$ から $k=1$ となって矛盾するからである。したがって上の定理(トーラスの正則関数と指標)の 2(有理指標は単項式に限る)は、抽象群の準同型については偽である。証明で壊れるのは段 2 で、$\sigma$ は正則関数でないので、単項式の有限一次結合に書けない。本書が有理指標と有理表現を代数群の射である準同型と読むのは、この読みの下でしか主結果 1 が意味をもたないからである。
上の定理(対角化可能群の構造)の (b) から、有限群の位数が $p$ と素であるという条件を外す。$p\ne1$ とし、加法群 $K$ の有限部分群 $\mathbf F_p=\mathbf F_p\cdot1$ を考える。有限集合なので閉部分群で、位数 $p$ の巡回群である。$D(n)\cong K^{*n}$ は単位元以外に位数 $p$ の元をもたない(引用する事実 4)ので、$\mathbf F_p$ は $D(n)$ のどの部分群とも同型でなく、対角化可能群ではない。有理表現の側からも見える。加法群の有理表現 $t\mapsto\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ を $\mathbf F_p$ に制限すると、$t\ne0$ の像は $1$ 以外の単冪な行列で、固有値が $1$ だけなので対角化できない。対角化可能群なら有理表現はすべて対角化できる(本書『3-2 指標群との双対性』の主結果「指標は正則関数の基底」)ので、ここでも対角化可能でないことが分かる。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Généralités sur les groupes algébriques affines. Groupes algébriques affines commutatifs Gro56 の n° 3 の前半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機、定義(対角的・対角化可能・トーラス)、注意(対角化可能群の定義の「部分群」の読み) | n° 3 冒頭の定義 | 4-05 |
| 定義(有理指標と指標群)、定義(直交する部分群) | Théorème 2 の前の段と系 1 の後の段の記号 | 4-05 |
| 補題(指標の基底と表現の対角化) | 無し(本書が立てた補題。原論文は Lemme 1・2 の系を引く) | 4-05 |
| 定理(トーラスの正則関数と指標)、注意(原論文の道筋と本書の経路) | Théorème 2 とその前の論証 | 4-05 |
| 定理(トーラスの閉部分群は指標の核)、注意(原論文の道筋(系 1):Chevalley の定理の系による証明) | Corollaire 1 とその前の一文 | 4-05 |
| 定理(トーラスの閉部分群の構造)、注意(原論文の記号と印字(系 1 の後の観察)) | 系 1 の後の観察 | 4-05〜4-06 |
| 定理(対角化可能群の構造) | Corollaire 2 とその前の一文 | 4-06 |
| 例(2 次元のトーラスの閉部分群と基底の取り替え)、反例(有理でない指標(複素共役))、反例(位数が標数で割れる有限群は対角化可能でない) | 無し(本書が立てた例) | — |
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