0-1 本書の読み方

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

本書の目的と原論文の位置づけ、本書の方針、章立て(第 0〜4 章、全 16 頁)と各章の要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案、状態札の読み方と本書全体の集計、同じ連作の他の回との関係をまとめる。分野ごとの要点は本書『0-2 圏と前層』、本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』、本書『0-4 解析空間』に、全頁に共通する記号、本書が足した仮定、原論文の引き方、状態札の意味、原論文の不備の分け方と誤植の読み方は本書『0-5 記号と約束』に分けて置く。

本書の使い方

本書は、A. Grothendieck が 1961 年 1 月 30 日に Cartan セミナー第 13 年「Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique」で行った講演「Formalisme général des foncteurs représentables」(exposé n° 11、28 頁。本書では Gro61iv と引く)を道案内にして、前層がいつ一つの対象で表されるかを判定する一般の方法を、主題ごとに解説する。この講演は、同じセミナーの連作「Techniques de construction en géométrie analytique」の第 IV 回である。連作は、第 I 回 Gro61i で Teichmüller 空間とその変種を公理的に記述し、第 II 回 Gro61ii で環付き空間と解析空間を定義し、第 III 回 Gro61iii で解析空間のファイバー積の存在を示す。本講演はそのあとで、普遍問題の解が存在するかどうかを関手の言葉で調べる一般の枠組みを与える。対象をその点の前層に置き換える対応(§2)、前層の射の相対的な表現可能性と底変換(§3)、表現可能な前層を同値の対で割った商の表現可能性(§4)、解析空間の圏での開被覆による貼り合わせ(§5)の順に進む。原論文自身が断るように、表現可能関手の言語は代数幾何の Bourbaki セミナーの講演 Gro60mod で先に素描され、同値の対と商の定義は同じ系列の講演 Gro61quot にある(二つを合わせたものが原論文の文献 [1])。本講演はそれを解析幾何に移す形をとり、後の回(第 V 回 Gro61v のベクトル束・Grassmann 束・旗束、第 IX 回 Gro61ix のモジュライ問題、第 X 回 Gro61x の Teichmüller 空間の構成)がこの枠組みを使う。
本書は原論文の翻訳ではない。原論文の §2〜§5 に一つずつ章を当て、前提知識の第 0 章を加えて 5 章 16 頁とした(§1 は短い導入で、第 1 章の最初の頁の「背景と動機」で扱う)。§3 は主題が多いので第 2 章を 4 頁に、§2・§4 はそれぞれ 2 頁に、§5 は 3 頁に分けた。第 1 章以後の各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表、という同じ形で書いてある。「この頁で示すこと」には主結果の名前と原論文の番号・印字頁、状態札が並び、札の中や直後の段に、その主結果が依る本書の頁と第 0 章の事実が名指しで書いてある。
本書の方針は五つある。

  1. 原論文が「ただちに分かる」「自明」「よく知られている」で済ませた段を補って閉じる。米田の対応の二つの写像が互いに逆であることの確かめ(『1-1』)、前層の圏の極限の点ごとの計算(『1-2』)、引き戻しの表現可能性の表す組と、スライス圏への制限の必要性の向き(『2-1』)、判定が表す組の選び方によらないための両側からの同型の合成(『2-4』)、商対象への射の記述の関手性と集合の大きさ(『3-1』)、主定理の証明の終わりの段と、原論文が事実として述べる二つの注意の証明(『3-2』)、局所化射の普遍性とコサイクル条件の等号(『4-1』)、局所的な関手の言い換えの証明と、主定理の条件 (c) を確かめる段(『4-2』)などがそれに当たる。
  2. 二層に分けて書く。原論文の §2〜§4 は任意の圏についての定理なので、第 1〜3 章は一般の圏の章とし、解析空間は例・注意と「その後の発展」にだけ出す(例外は、原論文の注意 3.13 の用例を扱う『2-4』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」の一つ)。解析空間は第 4 章で初めて使う。
  3. 解析空間の枠組みを連作の前の回から受け取る。原論文は解析空間を定義しないので、本書は連作第 II 回の定義とその直後の事実を「解析空間の定義」として受け取り、第 II 回・第 III 回の定理(はめ込みの底変換、ファイバー積の存在)は外部の結果として引用する(本書『0-4 解析空間』)。解析空間の底の位相空間に分離性を要求しないという連作の約束は、第 4 章の命題の成否を左右するので、例とともに明示する。
  4. 原論文が黙って使う仮定・読みは、本書が足した仮定として明示する(三つある。下の「状態札の読み方」)。
  5. 原論文の主張が印字のままでは成り立たないときは、訂正した形を主結果とし、原論文の印字と反例を注意と反例のボックスに置く(本書では一件)。
    使い方は三通りを想定している。
  6. 最初に通して読む:次の「本書の章立てと各章の要点」で全体の地図をつかみ、第 0 章の残りの四つの頁(0-2〜0-5)は見出しと各ボックスの名前だけ拾う。
  7. 頁を読んでいて分からない語に出会ったら引く:第 0 章の各項目は分野ごとに頁を分け、定義・補題・引用する事実をボックスに書き、本書での使いどころと教科書への案内を付けた。
  8. どこから読むかを決める:本頁の「頁ごとの前提の対応表」と「読む順序の案」を見る。
    用語解説記事へのリンク(表現可能関手、前層、米田の補題、ファイバー積、スライス圏、有効エピ、同値関係、降下、層、環付き空間、解析空間 など)は、記事が未作成のものもリンクの形で示してある。定義は各頁の中でも短く繰り返す。

本書の章立てと各章の要点

章ごとに、頁と原論文の対応と要点を挙げる。各頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果を要約したもので、詳しくは各頁の冒頭を見よ。印字頁は原論文の頁番号 11-01〜11-28 である。

章頁原論文要点
第 0 章 前提知識と読み方0-1〜0-5§1 の目的、§5 が前提にする連作の前の回読み方、圏と前層、層と環付き空間の貼り合わせ、解析空間、記号と約束
第 1 章 表現可能関手と米田の対応1-1、1-2§2(印字 11-01〜11-03)点の関手と米田の対応、普遍問題の解の一意性、前層の圏の極限と関手で与える群構造
第 2 章 底変換と相対的表現可能性2-1〜2-4§3(印字 11-03〜11-11)関手に沿った引き戻しとスライス圏への制限、射のファイバーと表現可能な射、表現可能な前層の間の射、底変換と合成での安定性と射のクラス
第 3 章 有効エピと商3-1、3-2§4(印字 11-11〜11-22)有効エピと降下、商対象への射の記述、ファイバー積の同値の対と商による表現可能性の主定理
第 4 章 解析空間の貼り合わせ4-1〜4-3§5(印字 11-22〜11-28)局所化射と貼り合わせの商、局所的な関手の表現可能性、開はめ込みの点ごとの判定

第 0 章は引用と準備の頁である。『0-2 圏と前層』は、宇宙と集合の圏、圏・関手・前層、極限の普遍性と一意性、Hom が極限を保つこと、カルテシアン正方形の貼り合わせ、エピと余等化子、集合の同値関係と商集合、スライス圏、点ごとの随伴をまとめ、定義から数行で出るこれらの事実をすべて証明まで書く。『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』は、開集合の上の前層と層(空の被覆を含める約束)、環付き空間、環付き空間と射の貼り合わせ、分離的な空間と非交和を、定義と引用としてまとめる。『0-4 解析空間』は、連作第 II 回の解析空間の定義、開部分空間とはめ込み、局所環の剰余体、解析空間の射を引用としてまとめ、そこから出る三つの補題と命題「開はめ込みの底変換と非交和」を証明し、第 II 回のはめ込みの底変換と第 III 回のファイバー積の存在を引用する。原点を二重にした直線と二重点の例もここに置く。『0-5 記号と約束』は記号、足した仮定、原論文の引き方、状態札、不備と誤植の一覧である。
第 1 章は原論文 §2 である。『1-1 米田の対応と表現可能関手』は、対象にその点の前層を対応させる関手が関手であること、点の前層から前層への射がその前層の値と一対一に対応すること(米田の対応。紙面に米田の名は無く、本書の名前である)、点の関手が充満忠実であること、前層を表す組が普遍元と両立するただ一つの同型を除いて一意で、点の関手が表現可能な前層の圏との圏同値を与えること、を示す。原論文は対応を作るだけで全単射であることの確かめを書かないので、その段を補った。『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』は、前層の圏の極限が点ごとに計算され、点の関手が存在する極限を保つことを示し、「ファイバー積が存在する」を点の前層のファイバー積が表現可能という意味で使う約束を置く。関手の値の群構造で対象の上の群構造を与える原論文の方法を、図式で書く群対象と比べる命題も置いた。この章の主結果はどれも本書の中で閉じる。
第 2 章は原論文 §3 である。『2-1 制限と底変換』は、関手に沿った前層の引き戻しの表現可能性を点ごとの随伴で言い換え、底の上の圏(スライス圏)への制限が表現可能であることが積の存在と同値であることを示し、制限の推移性と、終対象と定数前層の関係をまとめる。『2-2 ファイバーと表現可能な射』は、前層の射のファイバーを定義し、射が表現可能であることを、点の前層に沿うファイバー積が表現可能であることと言い換える(後の言い換えは原論文に無く、後代の定義との対応をつけるために本書が補った)。表現可能な前層の間の射が表現可能であることは、それを与える射が底変換可能であることと同値になる。『2-3 表現可能な関手の間の射』は、目標が表現可能なとき、普遍元の上の一つのファイバーが源の前層を決めることを示し、終対象への射の場合と、ファイバーを表す対象の底変換を扱う。『2-4 安定性と射のクラス』は、表現可能な射が底変換と合成で安定であること、ファイバー積への射の表現可能性、底変換で安定な射のクラスについての判定を示す。原論文の「合成と後の因子が表現可能なら前の因子も」は、ファイバー積の無い圏(空でない集合の圏)で破れるので、ファイバー積の存在を仮定する訂正形にした。射のクラスの判定では、原論文の安定性の定義の「どの選び方についても」の一句から、クラスが両側からの同型の合成で閉じることを示し、判定が表す組の選び方によらないことを確かめた。最後に、原論文の用例である解析空間のはめ込みのクラスの底変換を、連作第 II 回の定理を引いて示す。
第 3 章は原論文 §4 である。第 2 章の問題を逆向きにし、源が表現可能なとき、射の性質から目標の表現可能性を導く。『3-1 有効エピと降下』は、有効エピと普遍有効エピ、同値の対と有効な同値の対、有効降下の射を定義し、有効な同値の対の商射が有効エピであること、普遍有効エピに沿ってカルテシアン正方形が降りること、商対象への射が源の上の降下の組の同型類と一対一に対応することを示す。原論文が確かめを省いた関手性と集合の大きさを補った。『3-2 商と表現可能性の主定理』は、表現可能な源の自分自身とのファイバー積が同値の対を定めることを示し、主定理として、目標が表現可能で射が与えられたクラスに属するための三つの条件(ファイバーの表現可能性、降下、同値の対の有効性)を与える(原論文の定理 4.7)。原論文の証明は目標の表現可能性で終わり、射がクラスに属することを示さないので、その段を補った。原論文が事実として述べる二つの注意(最大の射のクラス、有効性の条件の省略)には証明を与え、後者は原論文の「他の二つの条件から」より強く、条件 (a) だけから従う形で示した。代数幾何の判定の例が解析幾何に移せるという原論文の一文は、証明も精確な形も無いので[未完結]とした。
第 4 章は原論文 §5 である。第 3 章の主定理を解析空間の圏で、射のクラスを局所化射に選んで当てはめる。『4-1 局所化射と貼り合わせの商』は、開はめ込みの非交和を全射で覆う局所化射を定義し、それが同型を含み、底変換と合成で閉じ、普遍有効エピであることを示し、開はめ込みで局所的な同値の対が貼り合わせで商をもつこと、同じことが底の上でも成り立つことを示す。分離的な解析空間だけで読むとこの商が作れないことを、二つの直線を原点の外で貼る同値の対で示した。『4-2 局所的な関手の表現可能性』は、局所的な関手を開被覆についての層として定義し(空の被覆を含める)、表現可能な関手が局所的であること、局所性の言い換え、開部分関手で覆われる局所的な関手が表現可能であること(原論文の命題 5.6)、底の開被覆による判定(系 5.7)を示す。原論文の命題 5.6 の証明の一段は、射影が局所化射であるというだけでは通らないので、条件 (a) を分解の片に当てる別の道で埋めた。空の被覆を除く読みと分離的な読みでの反例、分離的な読みでも系 5.7 が成り立つことも置いた。『4-3 開はめ込みの点ごとの判定』は、点だけからなる被約な部分空間とその上の値を使って、表現可能な前層への射が開はめ込みで表されることを、成分ごとの単射性、点の集合の開性、全体での持ち上げの三条件で判定する(原論文の命題 5.9)。三条件のどれか一つを外すと結論が崩れる反例を一つずつ置いた。

本書を読むのに要る分野

分野ごとに、本書で要る水準の目安を示す。「◎」は本書の多くの頁で証明の中で使うもの、「○」は一部の章で使うもの、「△」は言明の理解のために触れるだけのものである。

分野主な内容水準の目安主に使う章第 0 章の頁
集合と圏宇宙の約束、圏・関手・自然変換、極限と余極限、ファイバー積、スライス圏、エピと余等化子、同値関係と商集合◎ 定義を知っていればよい。基本事実は本書で証明する全章0-2
前層と表現可能関手点の前層、米田の対応、表現可能な前層、前層の圏の極限◎ 本書の第 1 章で一から述べる全章(第 1 章)
位相空間の層開集合の上の前層と層、開被覆、空の被覆○ 第 4 章で使う4 章0-3
環付き空間環付き空間とその射、開部分環付き空間、貼り合わせ、非交和、分離的な空間○ 第 4 章で使う。貼り合わせは引用4 章0-3
解析空間完備付値体の上の解析空間、開部分空間とはめ込み、局所環、ファイバー積の存在○ 第 4 章と 2-4 の一つの主結果で使う。定義と定理は連作の前の回から引用2・4 章0-4
代数幾何・後代の理論スキームの関手、表現可能な射、降下、代数空間、Hilbert スキーム、サイト△ 「その後の発展」で触れるだけ—0-2、0-3

第 0 章に頁を設けない事実は、使う頁の「定義と準備」で出典とともに述べる。例の中でだけ使う解析の事実(たとえば $E^1$ の平行移動 $z\mapsto z+\lambda$ や $z\mapsto-z$ が解析空間の自己同型であること、$\mathbf C$ や $\mathbf C^*$ が連結であること)は、使う例の中で「本書では証明しない」と断ってある(本書『4-1 局所化射と貼り合わせの商』、本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』の反例)。これらは主結果の札に影響しない。

頁ごとの前提の対応表

行は本書の頁、列は第 0 章の頁である。「◎」はその頁の証明の中心で使うもの、「○」は一部の段や引用で使うもの、空欄はほとんど使わないものを表す。「頁の前提」の列には、その頁の「この頁で示すこと」(札とその直後の段)が引く本書の頁を番号で挙げた(第 0 章の頁は省く)。括弧内は、そこには現れないが、証明・補題・例で定義や補題を引く頁である。後の頁への前向きの言及(予告や「その後の発展」)は数えない。

頁0-20-30-4頁の前提
1-1 米田の対応と表現可能関手○なし
1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造◎1-1
2-1 制限と底変換◎1-1(1-2)
2-2 ファイバーと表現可能な射◎2-1、1-2、1-1
2-3 表現可能な関手の間の射◎2-2、2-1、1-2、1-1
2-4 安定性と射のクラス◎○2-3、2-2、2-1、1-2、1-1
3-1 有効エピと降下◎2-4、1-2、1-1
3-2 商と表現可能性の主定理◎3-1、2-4、2-2、1-2、1-1
4-1 局所化射と貼り合わせの商○◎◎3-1(定義だけ)
4-2 局所的な関手の表現可能性○◎◎4-1、3-2、2-2、2-1(3-1、1-1)
4-3 開はめ込みの点ごとの判定○◎2-4(2-2、1-2、1-1)

表から読み取れることを四つ挙げておく。

  • 第 1〜3 章は、第 0 章からは『0-2 圏と前層』だけを使い、解析空間を使わない。例外は『2-4』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」で、これだけが証明で『0-4 解析空間』を引く(『1-2』『2-2』『2-3』『3-1』は注意と説明の中で定理「解析空間のファイバー積の存在」に触れるだけである)。『1-1』は第 0 章の定義だけで読め、『4-1』を除くすべての頁が『1-1』の定義・補題・主結果のどれかを引く。
  • 第 3 章が第 2 章から引くのは、『3-1』では『2-4』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」と定義「底変換で安定な射のクラス」、『3-2』ではそれに加えて『2-4』の主結果「表現可能な関手とのファイバー積」と『2-2』の定義・主結果である。『2-3』の主結果は第 3 章の証明に直接は現れない。
  • 第 4 章のうち『4-1』は、第 1〜3 章からは『3-1』の定義「同値の対と有効な同値の対」を引くだけなので、第 0 章の次に読める。『4-3』は第 1〜3 章からは主に『2-4』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」を引き、第 3 章に依らない。
  • 一般の圏の筋と解析空間の筋は『4-2』で合流する。『4-2』の主結果「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」は、『3-2』の主定理を射のクラスを局所化射にとって当てはめ、条件 (c) を『4-1』の貼り合わせの商で確かめる。

読む順序の案

原論文の順序は §2 から §5 まで一本道で、本書も章の順をそのまま保った。本書の頁が証明で使う引用はすべて前の頁への引用で、後の頁への言及は予告と注意だけである。そのうえで、三つの道筋を想定している。どの道筋でも、各頁の冒頭の「この頁で示すこと」に主結果と原論文の番号、状態札がまとめてあるので、まずそこだけを全頁通して読み、原論文のどの主張がどこまで閉じているかの全体像を先につかむのも一つの方法である。

開部分関手による表現可能性の判定まで通して読む

原論文の第 5 節の中心である命題 5.6(開部分関手で覆われる局所的な関手は表現可能)と系 5.7(底の開被覆による判定)へ向かう道筋である。
『1-1 米田の対応と表現可能関手』→『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』→『2-1 制限と底変換』→『2-2 ファイバーと表現可能な射』→『2-3 表現可能な関手の間の射』→『2-4 安定性と射のクラス』→『3-1 有効エピと降下』→『3-2 商と表現可能性の主定理』→『4-1 局所化射と貼り合わせの商』→『4-2 局所的な関手の表現可能性』
この道筋から外れるのは『4-3 開はめ込みの点ごとの判定』だけで、命題 5.6 の証明には使われない。『2-3』は第 3 章の証明に直接は現れないが、『2-4』の主結果が『2-3』の主結果と補題を引くので、この道筋に入る。

一般の圏の部分だけを読む

表現可能関手と商の一般論を、解析空間なしに知りたい読者のための道筋である。
『1-1 米田の対応と表現可能関手』→『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』→『2-1 制限と底変換』→『2-2 ファイバーと表現可能な射』→『2-3 表現可能な関手の間の射』→『2-4 安定性と射のクラス』→『3-1 有効エピと降下』→『3-2 商と表現可能性の主定理』
第 0 章からは『0-2 圏と前層』だけを使う。『2-4』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」は飛ばしてよい。各頁の例の多くは集合の圏で書いてあるので、例だけを追っても主定理が何を言うかが分かる(本書『3-2 商と表現可能性の主定理』の例「集合の圏での定理の読み」)。

解析空間の側から読む

第 4 章の解析空間の議論を先に知りたい読者のための道筋である。
『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』→『0-4 解析空間』→『4-1 局所化射と貼り合わせの商』
『4-1』は『3-1 有効エピと降下』の定義「同値の対と有効な同値の対」を引くだけなので、第 0 章の次に読める(有効エピと普遍有効エピの定義は『0-2 圏と前層』にある)。続けて『4-3 開はめ込みの点ごとの判定』を読むには、『2-4』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」を認めればよい。『4-2 局所的な関手の表現可能性』の主結果「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」は第 3 章の主定理に依るので、その前に『3-1』『3-2』を読む。

状態札の読み方

各主結果には、本書の判定として状態札を一つ付ける。[完結]は本書の中で証明し切ったもの、[条件付き:…]は引用した事実に依るもの(何を引用したかを札の中に書く)、[未完結:…]は証明を閉じられなかったもの(何が足りないかを書く)である。原論文に証明が無くても、本書が証明を与えたものは[完結]か[条件付き]であり、原論文にも本書にも証明が無いものだけが[未完結]である。
本書の基準は第 4〜8 巻と同じく厳しい(本書『0-5 記号と約束』の「状態札の意味」)。[完結]に使ってよいのは次の三つだけである。

  1. 本書の他の頁で[完結]とした主結果と、頁の中で証明した補題・命題。
  2. 本書『0-2 圏と前層』で証明まで書いた集合と圏の基本事実(集合の圏の極限と余極限、極限の普遍性と一意性、Hom は極限を保つこと、カルテシアン正方形の貼り合わせ、スライス圏、エピと余等化子、集合の同値関係と商集合)。どれも定義から数行で出るので、第 0 章の頁で証明したうえで完結の入力に数える。
  3. 定義。
    これ以外の事実を引いた段が一つでもあれば[条件付き]とする。本書で当たるのは、連作第 II 回の解析空間の定義とその直後の事実(本書『0-4 解析空間』の定義「解析空間の定義」「解析空間の射」と定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」「局所環の剰余体」)、本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』の層と環付き空間の貼り合わせ、連作の定理(本書『0-4 解析空間』の定理「はめ込みの底変換」「解析空間のファイバー積の存在」)である。本書『0-4 解析空間』の三つの補題と命題「開はめ込みの底変換と非交和」は頁の中で証明してあるが、証明がこれらの引用に依るので、使えば[条件付き]になる。条件は依存する主結果に伝わる。したがって[条件付き]は証明の欠落を意味せず、何に依って閉じたかを示す札である。
    [条件付き]の札の理由には、「解析空間の定義の下では完結」の句を添えることがある。証明が、本書の議論と完結の入力に加えて、連作第 II 回の定義とその直後の事実、層と環付き空間の貼り合わせ、本書『0-4 解析空間』で証明した補題・命題だけで閉じ、連作の定理(はめ込みの一般の底変換、ファイバー積の存在)を使わないという意味である。札の種類ではなく、理由の補足である。第 4 章の主結果はすべてこの句を添える。『2-4』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」は、はめ込みと閉はめ込みの場合に連作第 II 回の注意 2.10 の後半(はめ込みの底変換)を使うので、この句を添えない(開はめ込みの場合だけなら解析空間の定義の下で閉じることを、証明の中で書いた)。
    本書が足した仮定は、その仮定の下での判定として、主結果の札と頁の注意の両方に書く。足した仮定は三つある。
    足した仮定札に書いた主結果
    解析空間は分離的とは限らない(連作第 II 回の定義に従い、底の位相空間の分離性を要求しない)『4-1』の「はめ込みで局所的な同値の対の商」「相対的な貼り合わせの商」、『4-2』の「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」「底の開被覆による表現可能性の判定」
    空の和と空の被覆を含める(和を積に移す条件に空の族を、層の条件に空の被覆を含める)『4-2』の「表現可能な関手は局所的」「局所的な関手の言い換え」「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」「底の開被覆による表現可能性の判定」
    同値の対の読み(原論文の「graphe d'équivalence」を、各点で単射で像が同値関係のグラフである対と読み、「有効」も同じ文献の意味で読む)『3-1』の「有効な同値の対の商射は有効エピ」、『3-2』の「ファイバー積が定める同値の対」「商による表現可能性の判定」「有効性の条件の省略」、『4-1』の「はめ込みで局所的な同値の対の商」「相対的な貼り合わせの商」、『4-2』の「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」
    分離性の読みは第 4 章の全体に掛かる枠組みの読みなので、貼り合わせで作った空間が解析空間であることを証明で使う主結果の札にだけ書いた。ほかの二つは、直接使う主結果のすべての札に書いた。足した仮定を札に書いた主結果は合わせて十個である。外したときに何が壊れるかは本書『0-5 記号と約束』の「本書が足した仮定」にある。分離性を課すと原論文の命題 5.3 と命題 5.6 が偽になり(系 5.7 は分離的な読みでも成り立つ)、空の場合を除くと命題 5.6 は添字集合が空の場合に、系 5.7 は底が空の場合に偽になる。同値の対の読みは、$X\times X$ が存在する圏(解析空間の圏を含む)では部分対象の読みと同じで、外しても何も壊れない。
    原論文の不備は三つに分ける(本書『0-5 記号と約束』の「主張の偽と証明の段の不備」)。誤植は訂正した形で読み、主結果には数えない。主張の偽は一件で、原論文の命題 3.10 (iii)「合成と後の因子が表現可能なら前の因子も表現可能」である。ファイバー積の無い圏で破れるので、本書は訂正した主張『2-4』の主結果「合成から因子の表現可能性を戻す(訂正形)」を主結果とし、「この頁で示すこと」の札の後に原論文の形がどの反例で破れるかを一文で添えた。解析空間の圏にはファイバー積があるので、原論文のその後の結果には効かない。札に[偽]は現れない。主張は正しいが原論文の証明の段がそのままでは通らないものは四件で、札には影響させず、その頁の注意に書いた(『3-1』『3-2』に一件ずつ、『4-2』に二件)。
    状態札とは別に、原論文自身の確信度(「ただちに分かる」「自明」「よく知られている」の省略、「(3.7) の証明から次が出る」の形の帰結)を各頁の本文で添える。原論文の所見と予告(系 3.5 の括弧の見込み、注意 4.10 の普遍有効エピについての所見と後の講演の予告、注意 5.8 の前の講演についての所見)は主結果に数えず、注意のボックスや「背景と動機」に置いた。反例と例も主結果に数えず、各頁の「例と反例」の節に置く。

本書全体の集計

第 1〜4 章の 11 頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果の状態札を数えた。主結果は合わせて 47 個で、内訳は次のとおりである。所見・予告と反例・例はこの数に含めない。[偽]の札は無い(主張の偽は訂正形で数える)。

章頁主結果完結条件付き未完結
第 1 章1-1、1-25500
第 2 章2-1〜2-4212010
第 3 章3-1、3-2111001
第 4 章4-1〜4-3100100
合計11 頁4735111

頁別の内訳(完結/条件付き/未完結)は、1-1 が 4/0/0、1-2 が 1/0/0、2-1 が 6/0/0、2-2 が 4/0/0、2-3 が 4/0/0、2-4 が 6/1/0、3-1 が 5/0/0、3-2 が 5/0/1、4-1 が 0/3/0、4-2 が 0/5/0、4-3 が 0/2/0 である。
[完結]の 35 個は第 1〜3 章の主結果で、一般の圏の定理である。『1-1』の四つ、『1-2』の一つ、『2-1』の六つ、『2-2』の四つ、『2-3』の四つ、『2-4』の主結果 1〜6、『3-1』の五つ、『3-2』の主結果 1〜5 で、どれも定義、本書『0-2 圏と前層』の証明付きの基本事実、本書の前の頁の[完結]の結果と頁内の補題だけで閉じる。訂正形の『2-4』の主結果「合成から因子の表現可能性を戻す(訂正形)」もここに入る。このうち四つ(『3-1』の主結果「有効な同値の対の商射は有効エピ」、『3-2』の主結果 1・2・5)は、足した仮定(同値の対の読み)の下での判定である。
[条件付き]の 11 個は、何に依るかで二つに分かれる。

  1. 「解析空間の定義の下では完結」の句を札に添えたもの(10 個):第 4 章の主結果のすべて、すなわち『4-1』の三つ、『4-2』の五つ、『4-3』の二つである。連作第 II 回の定義とその直後の事実、本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』の層と貼り合わせ(『4-3』は使わない)、本書『0-4 解析空間』の補題と命題に依り、連作の定理は使わない。
  2. 連作の定理に依るもの(1 個):『2-4』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」で、連作第 II 回の注意 2.10 の後半(本書『0-4 解析空間』の定理「はめ込みの底変換」)を引く。
    解析空間の定義と環付き空間の貼り合わせを完結の側に数える緩い基準をとれば、完結は $35+10=45$ 個、条件付きは 1 個、未完結は 1 個になる。本書の札は厳しい基準による。

原論文が閉じていない点

[未完結]は一つだけで、『3-2』の主結果「代数幾何の判定例の解析幾何への移し替え」である。原論文は注意 4.10 の最後に、有効性の条件を省ける射のクラスの重要な例が代数幾何にあり、それは解析幾何に移せると述べて文献 [1] III を引く。しかし、どのクラスについてのどの形の定理を指すのかが本講演に書かれておらず、移し替えの証明も本講演と文献 [1] III(本書は同値の対の定義の所だけを開いた)に無い。本書は「原論文はこう述べる」と書き、証明したとは書かない。第 4 章の貼り合わせの判定は、この移し替えに頼らず、主定理の条件 (c) を直接確かめる。
このほか原論文の証明の段の不備は、本書がすべて別の道または書き足しで埋めた(上の「状態札の読み方」の四件)。

連作の他の回と文献との関係

本書は「古典を読む」の第 9 巻である。原論文は連作の第 IV 回で、本書は他の巻の主結果を証明に使わない。関係が深いのは同じ連作の他の回である。

  • 連作第 II 回 Gro61ii・第 III 回 Gro61iii:本書の解析空間の枠組みの出典である。第 II 回からは解析空間の定義、開部分空間とはめ込み、局所環の剰余体、射の定義とはめ込みの底変換を、第 III 回からはファイバー積の存在(定理 2.1)を引く(本書『0-4 解析空間』)。原論文の第 5 節が「前の講演」と呼ぶのは第 III 回である。第 III 回の定理は主結果の判定には使わず、注意と説明の中でだけ引く。
  • 連作第 V 回 Gro61v・第 IX 回 Gro61ix:原論文 §1 が予告する「次の講演」は第 V 回で、ベクトル束・Grassmann 束・旗束の表現可能性を、本講演の局所性の判定(原論文の命題 5.6・系 5.7)で示すとされる。第 IX 回は、Quot 関手・Hilbert 関手の多くの部分関手が開部分空間で表されることを、原論文の命題 5.9 を引いて示すとされる。本書はどちらの回も開いておらず、紹介は『1-1』『4-2』の「背景と動機」と、『1-1』『2-4』『4-2』『4-3』の「その後の発展」にとどめる。
  • 連作第 I 回 Gro61i・第 X 回 Gro61x:原論文 §4 の冒頭は、主定理の一般の形が Teichmüller 空間の構成に要ると予告する。その行き先で、本書は『3-1』の「背景と動機」と『3-2』の「その後の発展」で名前だけ挙げる(本書は二つの回を開いていない)。
  • 原論文の文献 [1](Gro60mod、Gro61quot):代数幾何の Bourbaki セミナーの二つの講演で、前者に表現可能関手の言語の素描が、後者に同値の対と有効性の定義がある。本書の同値の対の読み(足した仮定)は後者による。連作の第 II 回・第 III 回とは別のものである。
    原論文が予告する後の問題(ベクトル束と Grassmann 束の表現可能性、Hilbert・Quot 関手と Douady 空間、代数空間と商、サイトの上の層)は本書の範囲外で、各頁の「その後の発展」で名前だけ挙げ、内容を原論文に帰属させない。

記号と約束

全頁に共通する記号($\mathcal U$、$(\mathrm{Ens})$、$\mathbf C$、$\widehat{\mathbf C}$、$h_X$、$(X,\xi)$、$\mathbf C/S$、$i_{/S}$、$F_{/S}$、$p_T$、$e$、$c$、$F_\xi$、$F_\eta$、$\eta_Y$、$\xi_X$、$\mathcal S$、$R\rightrightarrows X$、$X/R$、$B_R$、$k$、$E^n$、$(\mathrm{An})$、$(\mathrm{An})_{/S}$、$e_t$、$i_t$、$\eta_t$、$T_\eta$ など)、枠組みの規約(二層の構成、宇宙と前層、ファイバー積が存在するという約束、解析空間の定義、分離性の読み、空の和と空の被覆、同値の対、射のクラス、訳語)、記号の衝突の読み分け、本書が足した仮定の文言、原論文の番号と印字頁の引き方、状態札の意味、原論文の不備の分け方と誤植の読み方の一覧は、本書『0-5 記号と約束』にまとめてある。

参考文献

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