前層の圏では、宇宙の中の型の図式の極限がいつも存在し、各対象での値の極限として点ごとに計算できることを示す。そのうえで、点の関手がもとの圏に存在する極限を保ち、点の前層の極限が表現可能なときに限ってもとの圏に極限があることを導き、対象の上の群の構造をその点の集合の上の群の構造として与える原論文の方法を、図式で書く群対象と比べる。
前提知識: 圏, 前層, 極限, ファイバー積, 群対象
本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』と同じく、宇宙 $\mathcal U$ を固定し、$\mathbf C$ は Hom がすべて $\mathcal U$ の元である圏、$\widehat{\mathbf C}$ はその前層の圏、$h\colon\mathbf C\to\widehat{\mathbf C}$ は点の関手とする。図式の型には $\mathcal U$ 小な圏 $I$(対象の全体と射の全体が $\mathcal U$ の元である圏。本書『0-2 圏と前層』の定義「宇宙と集合の圏」)をとる。
本頁の主結果は次の一つである。
米田の対応により、対象 $X$ はその点の前層 $h_X$ と同じものと思ってよい。すると、$\mathbf C$ の中で極限(積やファイバー積)を作る問題は、前層の圏で極限を作り、それが表現可能かどうかを問う問題に置き換わる。前層の圏では極限は集合の極限を点ごとにとるだけで作れるので、問題はつねに「作った前層が表現可能か」の一点に集まる。本講演の第 3 節以後の、ファイバー積・底変換・商についての議論は、すべてこの置き換えの上に立つ。
原論文は第 2 節の中ほどで、点の関手が射影極限と «commute aux limites projectives» こと、前層の圏には宇宙の中の型の射影極限が存在し、値の極限の公式で計算されることを「思い出そう(Rappelons)」とだけ書き、以後これを積とファイバー積に使うと断る(印字 11-03)。続けて、この注意を使えば、対象の上の群の構造(一般に、決まった種類の代数構造)を、対象が表す前層の各値の上の群の構造で、引き戻しが準同型になるものとして簡単に定義できる、と述べて第 2 節を閉じる。この定義の仕方は、群の構造を対象の側でなく点の前層の側で扱う、表現可能関手の言語の基本の形である。
本頁はこの二つを、証明のある形に直す。前者が主結果、後者は定義と、図式で書く群対象との対応の命題である。原論文は後者の対応を述べないが、「関手で与えた構造」が通常の群対象と同じものであることを確かめておくと、後の章で群の構造を関手の側だけで扱ってよいことが分かる。
極限の定義を本頁で使う形で繰り返す。本書『0-2 圏と前層』の定義「図式と極限」と同じもので、ここでは記号を固定するためだけに書く。
圏 $\mathbf A$ の $I$ 型の図式とは関手 $D\colon I\to\mathbf A$ のことである。対象 $L$ と射の族 $\lambda_i\colon L\to D(i)$ で、$I$ の任意の射 $a\colon i\to j$ について $D(a)\circ\lambda_i=\lambda_j$ となるものを $D$ の上の錐という。錐 $(L,(\lambda_i))$ が $D$ の極限であるとは、任意の錐 $(M,(\mu_i))$ について $\lambda_i\circ\mu=\mu_i$(すべての $i$)となる射 $\mu\colon M\to L$ がただ一つあることをいう。$I$ が射の無い二つの対象からなるときの極限が積 $D(1)\times D(2)$、$1\to0\leftarrow2$ の形の圏のときの極限がファイバー積 $D(1)\times_{D(3)}D(2)$、$I$ が空のときの極限が終対象である。
前層の図式 $D\colon I\to\widehat{\mathbf C}$ は、$I$ の対象 $i$ ごとの前層 $F_i=D(i)$ と、射 $a\colon i\to j$ ごとの前層の射 $F_a=D(a)\colon F_i\to F_j$ からなる。$\mathbf C$ の対象 $X$ を一つ固定すれば、$i\mapsto F_i(X)$、$a\mapsto F_a(X)$ は集合の圏の $I$ 型の図式である。これを $D(-)(X)$ と書く。$\mathbf C$ の図式 $i\mapsto X_i$ については、$h$ と合成した $i\mapsto h_{X_i}$ が前層の図式である。
主結果の証明では、本書『0-2 圏と前層』で証明まで書いた次の三つの補題を使う。
前層 $F$ の上の群構造とは、各対象 $Y$ について集合 $F(Y)$ の上の群の構造を与え、任意の射 $g\colon Y\to Y'$ について写像 $F(g)\colon F(Y')\to F(Y)$ が群の準同型になるようにしたものをいう。$F$ が対象 $X$ で表されるとき、$F$ の上の群構造を $X$ の上の群構造とも呼ぶ(原論文の定義の仕方。環・加群など他の代数構造も同じ形で定める)。
$\mathbf C$ に終対象 $e$ と任意の二つの対象の積があるとする。対象 $T$ から $e$ への唯一の射を $t_T$ と書き、射 $f,f'\colon T\to X$ の組が定める $T\to X\times X$ を $(f,f')$ と書く。対象 $X$ と射 $m\colon X\times X\to X$、$e_X\colon e\to X$、$\iota\colon X\to X$ の組が群対象であるとは、任意の対象 $T$ について、$\mathrm{Hom}(T,X)$ の上の演算
$$f\cdot f'=m\circ(f,f'),\qquad 1_T=e_X\circ t_T,\qquad f^{-1}=\iota\circ f$$
が群の公理(結合律、$1_T$ が単位元、$f^{-1}$ が逆元)をみたすことをいう。
この定義は、群の公理を図式で書く通常の定義と同じである。図式の等式が成り立てば点と合成して演算の公理が出る。逆に、結合律を $T=X\times X\times X$ と三つの射影 $\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2,\mathrm{pr}_3$ に当てた等式 $m\circ(m\circ(\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2),\mathrm{pr}_3)=m\circ(\mathrm{pr}_1,m\circ(\mathrm{pr}_2,\mathrm{pr}_3))$ は結合律の図式そのもので、単位元と逆元についても $T=X$ と $\mathrm{id}_X$ に当てれば図式の等式になる。
本頁は事実を引用しない。使うのは、上に挙げた本書『0-2 圏と前層』の三つの補題と、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果と補題だけである。
前層の極限を点ごとに作り、それが極限であることを確かめたうえで、点の前層の場合に $\mathbf C$ の極限と比べる。
$I$ を $\mathcal U$ 小な圏とする。
(a) 前層の図式 $D\colon I\to\widehat{\mathbf C}$($i\mapsto F_i$、$a\mapsto F_a$)には $\widehat{\mathbf C}$ の極限 $(L,(\lambda_i))$ があり、任意の対象 $X$ について $(L(X),(\lambda_i(X)))$ は集合の図式 $D(-)(X)$ の極限である。
(b) $\mathbf C$ の図式 $i\mapsto X_i$ が $\mathbf C$ に極限 $(X,(p_i))$ をもつなら、$(h_X,(h_{p_i}))$ は前層の図式 $i\mapsto h_{X_i}$ の極限である。
(c) 逆に、前層の図式 $i\mapsto h_{X_i}$ の極限 $(L,(\lambda_i))$ が表現可能で、同型 $w\colon h_X\to L$ があるとする。このとき $\lambda_i\circ w=h_{p_i}$ となる射 $p_i\colon X\to X_i$ がただ一つずつあり、$(X,(p_i))$ は図式 $i\mapsto X_i$ の $\mathbf C$ での極限である。
段 1(点ごとの構成).対象 $X$ について、$L(X)=\{(x_i)\in\prod_iF_i(X):F_a(X)(x_i)=x_j\ (a\colon i\to j)\}$ とおき、$\lambda_i(X)$ を第 $i$ 成分への射影とする。本書『0-2 圏と前層』の補題「集合の圏の極限と余極限」により、$L(X)$ は $\mathcal U$ の元で、$(L(X),(\lambda_i(X)))$ は $D(-)(X)$ の極限である。射 $g\colon Y\to X$ について $L(g)((x_i))=(F_i(g)(x_i))$ とおく。$F_a$ の自然性から $F_a(Y)(F_i(g)(x_i))=F_j(g)(F_a(X)(x_i))=F_j(g)(x_j)$ なので、右辺は $L(Y)$ の元である。$L(\mathrm{id})=\mathrm{id}$、$L(g\circ g')=L(g')\circ L(g)$ は成分ごとの等式から従い、$L$ は前層である。$\lambda_i$ は定義により前層の射で、$F_a\circ\lambda_i=\lambda_j$ は $L(X)$ の定義そのものなので、$(L,(\lambda_i))$ は $D$ の上の錐である。
段 2(極限であること).前層 $G$ の上の錐 $\mu_i\colon G\to F_i$ をとる。$y\in G(X)$ について、錐の条件から $(\mu_i(X)(y))_i$ は $L(X)$ の元なので、$\mu(X)(y)=(\mu_i(X)(y))_i$ とおく。各成分が自然なので $\mu$ は前層の射で、$\lambda_i\circ\mu=\mu_i$ である。$\lambda_i\circ\mu'=\mu_i$ となる $\mu'$ は、各 $X$ で $L(X)$ への写像として成分が決まるので、段 1 の極限の一意性の部分により $\mu'(X)=\mu(X)$ である。ゆえに $(L,(\lambda_i))$ は $D$ の極限である。$D$ の別の極限は、本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」により射影と両立する同型で $L$ に移るので、その各対象での値も $D(-)(X)$ の極限である。これで (a) が示された。
段 3((b):点の関手は極限を保つ).(a) の極限 $L$ を図式 $i\mapsto h_{X_i}$ に当てると $L(T)=\varprojlim_i\mathrm{Hom}(T,X_i)$ である。錐 $(h_X,(h_{p_i}))$ が段 2 で定める前層の射 $h_X\to L$ は $f\mapsto(p_i\circ f)_i$ で、本書『0-2 圏と前層』の補題「Hom は極限を保つ」により各 $T$ で全単射である。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の補題「成分ごとに全単射な前層の射は同型」によりこれは同型で、射影と両立するので $(h_X,(h_{p_i}))$ も極限である。
段 4((c):射の取り出し).$\lambda_i\circ w\colon h_X\to h_{X_i}$ は、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「点の関手の充満忠実性」により、ただ一つの $p_i\colon X\to X_i$ を用いて $h_{p_i}$ と書ける。$I$ の射 $a\colon i\to j$ と、その像 $X_a\colon X_i\to X_j$ について、$h_{X_a}\circ h_{p_i}=h_{X_a}\circ\lambda_i\circ w=\lambda_j\circ w=h_{p_j}$ なので、同じ主結果の単射性から $X_a\circ p_i=p_j$ で、$(X,(p_i))$ は錐である。
段 5((c):極限であること).対象 $T$ と錐 $q_i\colon T\to X_i$ をとる。段 1 の $(a)$ により $x\mapsto(\lambda_i(T)(x))_i$ は $L(T)$ から両立する族の集合への全単射である。$w(T)$ と合成した写像 $f\mapsto(\lambda_i(T)(w(T)(f)))_i=(h_{p_i}(T)(f))_i=(p_i\circ f)_i$ も全単射なので、$(q_i)_i$ が両立する族であることから、$p_i\circ f=q_i$(すべての $i$)となる $f\colon T\to X$ がただ一つある。ゆえに $(X,(p_i))$ は極限である。
(b) と (c) を合わせると、$\mathbf C$ の図式が $\mathbf C$ に極限をもつことと、点の前層の図式の(いつも存在する)極限が表現可能であることは同じである。前層の圏では極限の存在は問題にならず、問題は表現可能性だけに集まる。これを以後の頁の約束として定める。
$\mathbf C$ の射 $X\to Z$、$Y\to Z$ について、「ファイバー積 $X\times_ZY$ が存在する」とは、前層のファイバー積 $h_X\times_{h_Z}h_Y$(上の定理の (a) で点ごとに作ったもの)が表現可能であることをいい、それを表す対象を $X\times_ZY$ と書く。積 $X\times Y$、終対象、一般の $\mathcal U$ 小な図式の極限についても同じとする。上の定理の (b)(c) により、この意味で存在することと、通常の意味で $\mathbf C$ に極限があることは同じで、表す対象には射影 $\mathrm{pr}_1$、$\mathrm{pr}_2$ が伴う。
この約束の利点は、$X\times_ZY$ の $T$ 点が $\mathrm{Hom}(T,X)\times_{\mathrm{Hom}(T,Z)}\mathrm{Hom}(T,Y)$ である、という計算がいつでも使えることにある。原論文も第 3 節以後、ファイバー積を点の前層の側で扱う。
原論文は (a) と (b) を「思い出そう」の一句で述べ、(c) は述べない(印字 11-03)。本書はこれを三つの段に分けて補った:前層の極限を値の極限で作り、それが極限であることを確かめる段((a))、点の関手が極限を保つ段((b))、表現可能な極限を表す対象がもとの圏の極限である段((c))。原論文の「任意の」射影極限は、宇宙の中にある型の図式の極限、すなわち本書の $\mathcal U$ 小な圏を型とする極限の意味である。$I$ を $\mathcal U$ 小に限るのは、段 1 で $L(X)$ が $\mathcal U$ の元であることを保証するためで、この制限が無いと値が集合の圏に入らない。
原論文の定義「関手で与える代数構造」が、図式で書く群対象と同じものであることを示す。証明は米田の対応を、積と終対象に当てるだけである。
$\mathbf C$ に終対象 $e$ と任意の二つの対象の積があるとする。
(1) 対象 $X$ について、群対象の構造 $(m,e_X,\iota)$ に、定義「群対象」の演算による $h_X$ の上の群構造を対応させる写像は、$X$ の上の群対象の構造の全体から $h_X$ の上の群構造の全体への全単射である。
(2) 前層 $F$ が $(X,\xi)$ で表されるとき、同型 $\beta(\xi)\colon h_X\to F$ で群構造を移すことにより、$F$ の上の群構造は $X$ の上の群対象の構造と一対一に対応する。
段 1(群対象から群構造).群対象 $(m,e_X,\iota)$ について、各 $\mathrm{Hom}(T,X)$ は定義により群である。$g\colon T'\to T$ について、$(m\circ(f,f'))\circ g=m\circ(f\circ g,f'\circ g)$、$e_X\circ t_T\circ g=e_X\circ t_{T'}$、$(\iota\circ f)\circ g=\iota\circ(f\circ g)$ なので、$h_X(g)$ は群の準同型である。
段 2(群構造から射を取り出す).$h_X$ の上の群構造が与えられたとする。$m=\mathrm{pr}_1\cdot\mathrm{pr}_2\in\mathrm{Hom}(X\times X,X)$、$e_X=1_e\in\mathrm{Hom}(e,X)$、$\iota=(\mathrm{id}_X)^{-1}\in\mathrm{Hom}(X,X)$ とおく(演算は与えられた群構造のもの)。$f,f'\colon T\to X$ について、$h_X((f,f'))$ が準同型なので
$$m\circ(f,f')=h_X((f,f'))(\mathrm{pr}_1\cdot\mathrm{pr}_2)=(\mathrm{pr}_1\circ(f,f'))\cdot(\mathrm{pr}_2\circ(f,f'))=f\cdot f'$$
である。同様に、$h_X(t_T)$ が単位元を保つので $e_X\circ t_T=1_T$、$h_X(f)$ が逆元を保つので $\iota\circ f=(\mathrm{id}_X\circ f)^{-1}=f^{-1}$ である。したがって、$(m,e_X,\iota)$ の定める演算は与えられた群構造の演算そのもので、とくに群の公理をみたし、$(m,e_X,\iota)$ は群対象である。
段 3(二つの対応は互いに逆).段 2 は、群構造から作った群対象が段 1 でもとの群構造に戻ることを示している。逆に群対象 $(m,e_X,\iota)$ から段 1 の群構造を作り、段 2 で射を取り出すと、$\mathrm{pr}_1\cdot\mathrm{pr}_2=m\circ(\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2)=m$、$1_e=e_X\circ t_e=e_X$、$(\mathrm{id}_X)^{-1}=\iota\circ\mathrm{id}_X=\iota$ で、もとの組に戻る($(\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2)=\mathrm{id}_{X\times X}$、$t_e=\mathrm{id}_e$)。これで (1) が示された。
段 4((2)).本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の補題「表現の二つの言い方」により $\beta(\xi)$ は前層の同型で、各成分 $\beta(\xi)(Y)$ は全単射、しかも自然である。$F$ の上の群構造を各 $\beta(\xi)(Y)$ で $h_X(Y)$ に移すと、自然性から引き戻しは準同型のままで、$h_X$ の上の群構造になる。逆向きも同じで、この移し方は一対一である。(1) と合わせて (2) を得る。
段 2 の要点は、群構造の演算が普遍的な点($X\times X$ の上の二つの射影、$e$ の上の点、$X$ の上の恒等射)での値で決まることで、これは米田の対応の段 3 と同じ論法である。原論文はこの命題を述べないので、主結果には数えない。
原論文は、対象の上の群構造を上の定義「関手で与える代数構造」の形で直接定め、群対象の図式には触れない(印字 11-03)。この定め方では $\mathbf C$ に積や終対象があることを仮定しなくてよいが、そのぶん、構造の射 $m$ などを $\mathbf C$ の射として取り出すには積と終対象の存在が要る(上の命題の段 2)。第 4 章で扱う解析空間の圏では、終対象とファイバー積(したがって積)が存在することが連作の前の回で示されている(本書『0-4 解析空間』の「解析空間のファイバー積の存在」。証明は本書では確かめていない)ので、そこでは二つの定義は一致する。本頁の判定はこの事実に依らない。
集合の圏で主結果と命題を確かめ、最後に、ファイバー積の存在を外すと前層のファイバー積が表現可能でなくなる例を置く。この反例は第 2 章で二度引かれる。
$\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ とする。終対象は一点集合 $\{*\}$、積は直積である。群対象 $(G,m,e_G,\iota)$ の定義を $T=\{*\}$ に当てると、$\mathrm{Hom}(\{*\},G)$ は $G$ と同一視され、演算は $m$、$e_G(*)$、$\iota$ そのものになるので、$G$ は通常の意味の群である。逆に群 $G$ について、$\mathrm{Hom}(T,G)$ の点ごとの演算は群の公理をみたすので、群は群対象である。上の命題(群構造と群対象の対応)の言葉では、$h_G$ の上の群構造、すなわち各 $\mathrm{Hom}(T,G)$ の上の群の構造で引き戻しが準同型になるものは、$G$ の上の群の構造とちょうど一対一である。とくに、引き戻しがすべて準同型になるという条件の下では、各 $\mathrm{Hom}(T,G)$ の群の構造は $G$ のある群の構造から点ごとの積で作ったものに限られる。
次の例は、主結果の (a) と (b) を積の場合に具体的に見る。あわせて、点の関手が和とは相性がよくないことも見ておく。
(a) 一般の $\mathbf C$ で、前層 $F$、$G$ の積は点ごとの直積 $(F\times G)(T)=F(T)\times G(T)$ で与えられる(主結果の (a) を射の無い二つの対象の図式に当てたもの)。対象 $X$、$Y$ の積 $X\times Y$ が $\mathbf C$ にあれば $h_{X\times Y}\cong h_X\times h_Y$ で、$T$ 点の対応は $f\mapsto(\mathrm{pr}_1\circ f,\mathrm{pr}_2\circ f)$ である(主結果の (b))。約束「積とファイバー積が存在するという約束」は、逆に $h_X\times h_Y$ を表す対象を $X\times Y$ と呼ぶことにほかならない。
(b) $\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ で $a\neq b$ である二つの一点集合 $\{a\}$、$\{b\}$ をとる。点ごとの非交和で作った前層 $H(T)=\mathrm{Hom}(T,\{a\})\sqcup\mathrm{Hom}(T,\{b\})$ は、$T=\emptyset$ で二点をとる。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の反例「反例:定数前層は表現可能とは限らない」で確かめたとおり、集合の圏の表現可能な前層は空集合で一点をとるので、$H$ は表現可能でなく、とくに集合の圏の和 $\{a,b\}$ の点の前層とは同型でない。点の関手は極限を保つが、点ごとに作った和は保たない。主結果が極限だけを扱うのはこのためである。
最後の反例は、前層の圏ではファイバー積がいつも作れるのに、もとの圏ではそれを表す対象が無い場合である。主結果 (c) の仮定(表現可能性)が実際に破れうることを示す。
ファイバー積の存在を外す。$\mathbf C$ を空でない $\mathcal U$ 小な集合と写像のなす圏(集合の圏の充満部分圏)とし、包含 $f\colon\{0\}\to\{0,1\}$、$g\colon\{1\}\to\{0,1\}$ をとる。
前層のファイバー積 $P=h_{\{0\}}\times_{h_{\{0,1\}}}h_{\{1\}}$ は、主結果の (a) により $P(T)=\{(s,t):s\colon T\to\{0\},\ t\colon T\to\{1\},\ f\circ s=g\circ t\}$ である。$T$ は空でないので、$f\circ s$ は値 $0$ を、$g\circ t$ は値 $1$ をとり、両者は一致しない。したがってすべての対象 $T$ で $P(T)=\emptyset$ である。
$P$ が $(X,\xi)$ で表されるなら $\xi\in P(X)=\emptyset$ となって矛盾するので、$P$ は表現可能でない。主結果の (b) により、この二つの射のファイバー積は $\mathbf C$ に通常の意味でも存在しない。一方、$\mathbf C$ には終対象 $\{0\}$ があり、二つの空でない集合の直積は空でないので任意の二つの対象の積もある。欠けているのはファイバー積だけで、集合の圏でのファイバー積 $\emptyset$(本書『0-2 圏と前層』の補題「集合の圏の極限と余極限」の (4))が $\mathbf C$ から除かれたことが原因である。この圏は、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の反例「反例:底変換可能でない射」と本書『2-4 安定性と射のクラス』の反例「反例:ファイバー積の無い圏では合成から因子へ戻れない」で再び使う。
以下は後代の展開の紹介である(2026 年時点の一般的な記述。本書は各文献の該当箇所を確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Techniques de construction en géométrie analytique IV Gro61iv の第 2 節の後半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定理(前層の圏の極限と表現可能性)、注意(原論文の段(「思い出そう」の一句)) | §2 の「Rappelons」の段(点の関手と射影極限、前層の圏の射影極限の公式) | 11-03 |
| 定義(積とファイバー積が存在するという約束) | 同じ段の「積とファイバー積に使う」の句 | 11-03 |
| 定義(関手で与える代数構造)、注意(原論文の定義の仕方との関係) | §2 の末尾の群構造の定義の仕方 | 11-03 |
| 定義(図式と錐と極限)、定義(群対象)、命題(群構造と群対象の対応) | 原論文に無い(本書が補った) | — |
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