2-3 表現可能な関手の間の射

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

目標の前層が表現可能なとき、前層の射が表現可能であることは、源の前層が表現可能で、対応するもとの圏の射が底変換可能であることと同じであることを示す。証明の要は、目標を表す普遍元の上のただ一つのファイバーが源の前層全体を決めることにある。あわせて、終対象への射の場合と、ファイバーを表す対象が底の取り替えに沿って底変換できることを述べる。
前提知識: 表現可能関手, 米田の補題, スライス圏, ファイバー積

この頁で示すこと

宇宙 $\mathcal U$ を固定し、$\mathbf C$ は Hom がすべて $\mathcal U$ の元である圏、$\widehat{\mathbf C}$ はその前層の圏とする(本書『0-2 圏と前層』の定義「宇宙と集合の圏」「圏と関手と前層」)。前層の射 $u\colon F\to G$ と、対象 $S$ と $\eta\in G(S)$ について、$F_\eta$ は $\mathbf C/S$ 上の前層 $F_\eta(T)=\{x\in F(T):u(x)=G(p_T)(\eta)\}$($p_T\colon T\to S$ は構造射)で、$u$ が表現可能とはすべての $F_\eta$ が $\mathbf C/S$ 上で表現可能なことである(本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』)。
本頁の主結果は次の四つである。

  1. 普遍元の上のファイバーが関手を決める(原論文 補題 3.6、印字 11-07〜11-08):$G$ が組 $(Y,\eta_Y)$ で表され $u$ が表現可能なら、$\mathbf C/Y$ 上で $F_{\eta_Y}$ を表す組 $((X,f),\xi_X)$ について、$(X,\xi_X)$ は $F$ を表し、$f$ は $u$ に対応する射で、底変換可能である。[完結]
  2. 表現可能な射と関手の表現可能性(原論文 命題 3.7、印字 11-08):$G$ が表現可能なとき、$u$ が表現可能であることは、$F$ が表現可能で $u$ に対応する射が底変換可能であることと同値である。$\mathbf C$ に任意のファイバー積があれば、後者の条件は自動的に成り立つ。[完結]
  3. 終対象への射の表現可能性(原論文 系 3.8 と N. B.、印字 11-08):$\mathbf C$ に終対象があるとき、一点集合への定数前層への射 $F\to c$ が表現可能であることは、$F$ が底変換可能な対象で表されることと同値である。対象と射の底変換可能性についての原論文の二つの言い換えも正しい。[完結]
  4. 表現するファイバーの底変換(原論文 系 3.9、印字 11-08):$u$ が表現可能で $(X_\eta,\xi_\eta)$ が $F_\eta$ を表すなら、任意の $S'\to S$ についてファイバー積 $X_\eta\times_SS'$ が存在し、それと引き戻した普遍元が、$\eta$ を $S'$ に引き戻した元のファイバーを表す。とくにファイバーを表す対象の構造射は底変換可能である。[完結]
    四つとも、本書『0-2 圏と前層』で証明した集合と圏の基本事実、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の米田の対応、本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の定義「積とファイバー積が存在するという約束」と主結果「前層の圏の極限と表現可能性」、本書『2-1 制限と底変換』『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果だけで閉じ、事実を引用しない。原論文の証明はどれも短いが正しく、本書は各段の確かめを書き足した。

背景と動機

本講演の第 3 節は、前層の射 $u\colon F\to G$ の「ファイバー」$F_\eta$ を定め、すべてのファイバーが表現可能な射を表現可能と呼ぶ(原論文の定義 3.3)。目標の $G$ が表現可能で、しかも $u$ がもとの圏の射 $f\colon X\to Y$ から来る場合には、ファイバーはファイバー積 $X\times_YS$ で表され、$u$ が表現可能であることは $f$ が底変換可能であることと同じになる(原論文の補題 3.4 と系 3.5。本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』)。
本頁はその逆向きから始まる。原論文は系 3.5 の直後に「逆に」と書いて補題 3.6 を置く(印字 11-07)。$G$ が表現可能で $u$ が表現可能なら、$F$ は自動的に表現可能になる、という主張である。これが表現可能関手の技法の一つの型を与える。前層 $F$ が表現可能であることを示したいとき、すでに表現可能と分かっている $G$ への射を一つ見つけ、各ファイバーが表現可能であることを示せばよい。ファイバーは底 $S$ の上の問題なので、問題を「$S$ の上の相対的な問題」に分けて考えられる。
原論文はこの補題と系 3.5 を合わせて命題 3.7 とし、終対象への射の場合を系 3.8 に、ファイバーを表す対象の底変換を系 3.9 に書く。命題 3.7 の括弧は、ファイバー積がつねに存在する圏では底変換可能の条件が自動的だと述べる。第 4 章で扱う解析空間の圏はそのような圏である(本書『0-4 解析空間』の定理「解析空間のファイバー積の存在」。本頁の証明には使わない)。

定義と準備

本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の定義「表現可能な射と底変換可能な射」、補題「表現可能な前層の間の射を与える射」と主結果のうち、本頁で使うものを短く繰り返す。射 $f\colon X\to Y$ が底変換可能(原論文の quarrable)とは、任意の射 $Y'\to Y$ についてファイバー積 $X\times_YY'$ が存在することである。ファイバー積の存在は、本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の定義「積とファイバー積が存在するという約束」の意味で使う。
$F$ が組 $(X,\xi_X)$ で、$G$ が組 $(Y,\eta_Y)$ で表されるとき、前層の射 $u\colon F\to G$ に対して、$u(X)(\xi_X)=G(f)(\eta_Y)$ となる射 $f\colon X\to Y$ がただ一つある($(Y,\eta_Y)$ が $G$ を表すので、$G(X)$ の元 $u(X)(\xi_X)$ はただ一つの $f$ で $\eta_Y$ を引き戻したものである)。これを、二つの組について $u$ に対応する射という。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の補題「米田の対応の自然性」により $u\circ\beta(\xi_X)=\beta(u(X)(\xi_X))=\beta(G(f)(\eta_Y))=\beta(\eta_Y)\circ h_f$ なので、同型 $\beta(\xi_X)\colon h_X\to F$、$\beta(\eta_Y)\colon h_Y\to G$ で $u$ と $h_f$ を移し合うことと同じである。本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の二つの主結果は、この状況で次のことを述べる。

  • 主結果「表現可能な関手の間の射のファイバー」:$\eta\in G(S)$ に対応する射を $p\colon S\to Y$($\eta=G(p)(\eta_Y)$)とすると、$F_\eta$ が $\mathbf C/S$ 上で表現可能であることは $X\times_YS$ が存在することと同値で、そのとき第 2 射影で $S$ 上の対象とみた $X\times_YS$ と元 $F(\mathrm{pr}_1)(\xi_X)$ の組が $F_\eta$ を表す。
  • 主結果「表現可能な射と底変換可能な射」:$u$ が表現可能であることは $f$ が底変換可能であることと同値である。
    $u$ に対応する射は表す組の選び方に依るが、その違いは同型だけで、底変換可能かどうかは変わらない。主結果 2 を選び方によらない形で述べるために、これを確かめておく。
対応する射の取り替え

$(X,\xi_X)$、$(X',\xi'_X)$ がともに $F$ を、$(Y,\eta_Y)$、$(Y',\eta'_Y)$ がともに $G$ を表すとし、$\varphi\colon X'\to X$、$\psi\colon Y'\to Y$ を $F(\varphi)(\xi_X)=\xi'_X$、$G(\psi)(\eta_Y)=\eta'_Y$ となる同型とする。$u\colon F\to G$ に対応する射を、前の二つの組について $f\colon X\to Y$、後の二つの組について $f'\colon X'\to Y'$ とする。
(1) $f'=\psi^{-1}\circ f\circ\varphi$ である。
(2) $f$ が底変換可能であることと $f'$ が底変換可能であることは同値である。

  1. $u$ の自然性から $u(X')(\xi'_X)=u(X')(F(\varphi)(\xi_X))=G(\varphi)(u(X)(\xi_X))=G(\varphi)(G(f)(\eta_Y))=G(f\circ\varphi)(\eta_Y)$ である。一方 $G(f')(\eta'_Y)=G(f')(G(\psi)(\eta_Y))=G(\psi\circ f')(\eta_Y)$ である。$f'$ の定義により両者は等しく、$(Y,\eta_Y)$ が $G$ を表すので $f\circ\varphi=\psi\circ f'$、すなわち $f'=\psi^{-1}\circ f\circ\varphi$ である。$\varphi$、$\psi$ の存在は本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」の (a) による。
  2. $f$ が底変換可能とし、射 $g\colon T\to Y'$ をとる。$f$ と $\psi\circ g$ のファイバー積 $(P;a,b)$($a\colon P\to X$、$b\colon P\to T$、$f\circ a=\psi\circ g\circ b$)がある。$f'\circ\varphi^{-1}\circ a=\psi^{-1}\circ f\circ a=g\circ b$ なので $(P;\varphi^{-1}\circ a,b)$ は $f'$ と $g$ の上の錐である。錐 $(Z;c,d)$($c\colon Z\to X'$、$d\colon Z\to T$、$f'\circ c=g\circ d$)は、$\psi$ を合成すれば $f\circ(\varphi\circ c)=\psi\circ g\circ d$ と同じなので、$a\circ z=\varphi\circ c$、$b\circ z=d$ となる $z\colon Z\to P$ がただ一つあり、これは $\varphi^{-1}\circ a\circ z=c$、$b\circ z=d$ となる $z$ がただ一つあることと同じである。ゆえに $(P;\varphi^{-1}\circ a,b)$ は $f'$ と $g$ のファイバー積で、$f'$ は底変換可能である。逆は、(1) の式 $f=\psi\circ f'\circ\varphi^{-1}$ に同じ議論を当てればよい。

原論文の系 3.8 の N. B. は、対象についても底変換可能の語を使う。対象の底変換可能性は本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の定義「表現可能な射と底変換可能な射」で定めた(原論文の N. B. の「objet quarrable」)。
同型な対象の一方が底変換可能なら他方もそうである。$X'\cong X$ のとき、$X\times T$ の射影に同型を合成すれば $X'\times T$ が得られるからである(本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」の (3))。したがって「$F$ が底変換可能な対象で表される」は、表す組の選び方によらない。

引用する事実

本頁は事実を引用しない。使うのは、本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」「スライス圏」、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果と補題、本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の定義「積とファイバー積が存在するという約束」と主結果「前層の圏の極限と表現可能性」、本書『2-1 制限と底変換』の主結果「スライス圏の間の底変換」「終対象と定数関手」、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の上に挙げた定義・補題と二つの主結果、と本頁の補題だけである。

主結果と証明

まず補題 3.6 を示し、それと系 3.5 を合わせて命題 3.7 を得る。系 3.8 は命題 3.7 を定数前層に当てたもので、系 3.9 は底の取り替えについての独立した主張である。

普遍元の上のファイバー

$G$ を表す組 $(Y,\eta_Y)$ の普遍元 $\eta_Y\in G(Y)$ は、それ自身が $G$ の一つの値の元なので、そのファイバー $F_{\eta_Y}$ は $\mathbf C/Y$ 上の前層である。次の主結果は、このただ一つのファイバーが $F$ 全体を決めることを言う。

普遍元の上のファイバーが関手を決める

$G$ を組 $(Y,\eta_Y)$ が表し、$u\colon F\to G$ が表現可能であるとする。$\mathbf C/Y$ 上の前層 $F_{\eta_Y}$ を表す組を $((X,f),\xi_X)$ とする($(X,f)$ は $\mathbf C/Y$ の対象で $f\colon X\to Y$ は構造射、$\xi_X\in F_{\eta_Y}(X,f)\subset F(X)$)。このとき $(X,\xi_X)$ は $F$ を表し、$f$ は組 $(X,\xi_X)$、$(Y,\eta_Y)$ について $u$ に対応する射で、$f$ は底変換可能である。

段 1($F(S)$ の分解).$S$ を $\mathbf C$ の対象とする。$x\in F(S)$ について、$(Y,\eta_Y)$ が $G$ を表すので、$G(p)(\eta_Y)=u(S)(x)$ となる射 $p\colon S\to Y$ がただ一つある。このとき $p$ で $S$ を $Y$ 上の対象とみれば、定義により $x\in F_{\eta_Y}(S,p)$ である。逆に $x\in F_{\eta_Y}(S,p)$ なら $u(S)(x)=G(p)(\eta_Y)$ で、$p$ は $x$ から決まる。したがって $F(S)$ は、射 $p\colon S\to Y$ ごとの部分集合 $F_{\eta_Y}(S,p)$ の互いに交わらない和である。
段 2(各部分の記述).$((X,f),\xi_X)$ が $\mathbf C/Y$ 上で $F_{\eta_Y}$ を表すので、各 $p$ について、$Y$ 射 $a\colon(S,p)\to(X,f)$($f\circ a=p$ を満たす $a\colon S\to X$)の集合 $\mathrm{Hom}_Y((S,p),(X,f))$ から $F_{\eta_Y}(S,p)$ への写像 $a\mapsto F_{\eta_Y}(a)(\xi_X)$ は全単射である。$F_{\eta_Y}$ は $F$ を $\mathbf C/Y$ に制限した前層の部分前層なので、$F_{\eta_Y}(a)(\xi_X)=F(a)(\xi_X)$ である。
段 3(まとめる).$\mathrm{Hom}(S,X)$ は、$a$ に $p=f\circ a$ を対応させることで、$p$ ごとの部分集合 $\mathrm{Hom}_Y((S,p),(X,f))$ の互いに交わらない和になる。写像 $\mathrm{Hom}(S,X)\to F(S)$、$a\mapsto F(a)(\xi_X)$ は、段 2 により各 $p$ の部分を $F_{\eta_Y}(S,p)$ に全単射に写し、段 1 によりそれらの和が $F(S)$ なので、全単射である。$S$ は任意なので、$(X,\xi_X)$ は $F$ を表す。
段 4(対応する射と底変換可能性).$\xi_X\in F_{\eta_Y}(X,f)$ は $u(X)(\xi_X)=G(f)(\eta_Y)$ を意味するので、$f$ は二つの組について $u$ に対応する射である。$u$ は表現可能なので、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果「表現可能な射と底変換可能な射」により $f$ は底変換可能である。

段 1 が要点で、$F$ の元はどれも、$G$ の側の像を通じてただ一つのファイバーの元とみなせる。原論文は段 1〜3 を、元 $\xi_S$ を与えることが「$\eta_S$ と、その上の $F(S)$ の元」を与えること、したがって $Y$ 射を与えることと同じだ、という一続きの言い換えで述べる(印字 11-07〜11-08)。本書は、それが全単射であることを分解の形で確かめた。
本書『3-2 商と表現可能性の主定理』の主結果「商による表現可能性の判定」の証明も、目標の前層の一つの元の上のファイバーから源の側の対象を取り出す形をとる。本頁の主結果 1 はその最も簡単な場合である。

命題 3.7

主結果 1 は表現可能な射から出発して $F$ の表現可能性を導いた。逆向きは本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果「表現可能な射と底変換可能な射」で済んでいるので、二つを合わせる。

表現可能な射と関手の表現可能性

$G$ が表現可能であるとする。前層の射 $u\colon F\to G$ が表現可能であることは、$F$ が表現可能で、$F$、$G$ を表す組について $u$ に対応する射 $f\colon X\to Y$ が底変換可能であることと同値である。後者の条件は表す組の選び方によらない。$\mathbf C$ で任意の二つの射 $X\to Z$、$Y\to Z$ のファイバー積が存在するなら、底変換可能の条件は自動的に成り立ち、$u$ が表現可能であることは $F$ が表現可能であることと同値である。

段 1(選び方によらないこと).$F$、$G$ を表す組を取り替えても、$u$ に対応する射は上の補題(対応する射の取り替え)の (1) の形で変わるだけで、同じ補題の (2) により底変換可能かどうかは変わらない。
段 2(表現可能なら).$G$ を表す組 $(Y,\eta_Y)$ を一つとる。$u$ が表現可能なら $F_{\eta_Y}$ は $\mathbf C/Y$ 上で表現可能で、それを表す組 $((X,f),\xi_X)$ に上の定理(普遍元の上のファイバーが関手を決める)を当てると、$(X,\xi_X)$ は $F$ を表し、$u$ に対応する射 $f$ は底変換可能である。段 1 により、どの表す組についても対応する射は底変換可能である。
段 3(逆).$F$ が $(X,\xi_X)$ で表され、$u$ に対応する射 $f\colon X\to Y$ が底変換可能なら、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果「表現可能な射と底変換可能な射」により $u$ は表現可能である。
段 4(ファイバー積がつねにある場合).このときどの射も定義により底変換可能なので、条件は $F$ の表現可能性だけになる。

原論文は命題 3.7 を、補題 3.6 と系 3.5 を「合わせて」得るとだけ書く(印字 11-08)。本書が足したのは段 1 で、「$u$ に対応する射」が表す組の選び方に依ることを原論文は断らない。命題が選び方によらない形で成り立つことは上の補題で確かめた。

終対象への射

一点集合への定数前層を $c$ と書く($c(T)=\{*\}$、制限は恒等写像)。$c$ は前層の圏の終対象で、どの前層 $F$ からもただ一つの射 $F\to c$ がある。$\mathbf C$ が終対象 $e$ をもてば $c$ は表現可能なので、主結果 2 を $G=c$ に当てられる。

終対象への射の表現可能性

$\mathbf C$ に終対象 $e$ があるとし、$u\colon F\to c$ をただ一つの射とする。$u$ が表現可能であることは、$F$ が底変換可能な対象で表されることと同値である。さらに次が成り立つ。
(1) 対象 $X$ が底変換可能であることは、ただ一つの射 $X\to e$ が底変換可能であることと同値である。
(2) 射 $f\colon X\to Y$ が底変換可能であることは、$(X,f)$ が $\mathbf C/Y$ の底変換可能な対象であることと同値である。

段 1($c$ を表す組).$e$ は終対象なので $\mathrm{Hom}(T,e)$ はどの $T$ でも一点で、$(e,*)$ は $c$ を表す(本書『2-1 制限と底変換』の主結果「終対象と定数関手」。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の例「終対象は一点の定数前層を表す」でも確かめた)。
段 2((1)).対象 $T$ について、$X\to e$ と $T\to e$ のファイバー積 $X\times_eT$ と積 $X\times T$ は同じもので、一方が存在すれば他方も存在する(本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」の (4))。$\mathbf C$ の射 $T\to e$ は各 $T$ にただ一つなので、$X\to e$ がどの $T\to e$ に沿っても底変換できることは、どの $T$ とも積をもつことと同じである。
段 3(主結果の同値).上の定理(表現可能な射と関手の表現可能性)を $G=c$、組 $(e,*)$ に当てると、$u$ が表現可能であることは、$F$ が表現可能で $u$ に対応する射が底変換可能であることと同値である。$F$ を $(X,\xi_X)$ が表すとき、$u$ に対応する射はただ一つの射 $X\to e$ なので、(1) によりこの条件は $X$ が底変換可能な対象であることである。
段 4((2)).$\mathbf C/Y$ の対象は射 $q\colon T\to Y$ と $T$ の組 $(T,q)$ で、$\mathbf C$ のどの射 $T\to Y$ もこの形である。本書『0-2 圏と前層』の補題「スライス圏」の (2) により、$\mathbf C/Y$ で $(X,f)$ と $(T,q)$ の積が存在することは、$\mathbf C$ で $f$ と $q$ のファイバー積 $X\times_YT$ が存在することと同値である。したがって $(X,f)$ がどの $(T,q)$ とも積をもつことは、$f$ がどの $q$ に沿っても底変換できることと同じである。

  1. を $\mathbf C/Y$ の終対象 $(Y,\mathrm{id}_Y)$(本書『0-2 圏と前層』の補題「スライス圏」の (1))について (1) と比べると、$(X,f)$ から終対象への射は $f$ そのものなので、二つの言い換えは同じことを述べている。原論文はこの二つを系 3.8 の後の括弧(N. B.)に書く(印字 11-08)。

底の取り替え

表現可能な射のファイバーを表す対象は、底 $S$ の上の対象である。底を $S'\to S$ で取り替えると元 $\eta$ も引き戻され、そのファイバーを表す対象は底変換で得られる。

表現するファイバーの底変換

$u\colon F\to G$ が表現可能であるとし、対象 $S$ と $\eta\in G(S)$ について、組 $(X_\eta,\xi_\eta)$ が $\mathbf C/S$ 上の前層 $F_\eta$ を表すとする($X_\eta$ は $\mathbf C/S$ の対象で、構造射を $p_\eta\colon X_\eta\to S$ と書く)。このとき任意の射 $g\colon S'\to S$ についてファイバー積 $X_\eta\times_SS'$ が存在し、それを第 2 射影で $S'$ 上の対象とみたものと元 $F(\mathrm{pr}_1)(\xi_\eta)$ の組は、$\eta'=G(g)(\eta)$ の定める $\mathbf C/S'$ 上の前層 $F_{\eta'}$ を表す。とくに $p_\eta$ は底変換可能である。

段 1(二つのファイバーの比較).$g$ で $S'$ を $\mathbf C/S$ の対象とみる。本書『0-2 圏と前層』の補題「スライス圏」の (3) により、$(\mathbf C/S)/S'$ は $\mathbf C/S'$ と同じ圏で、$S'$ 上の対象 $(T,p_T)$ は $S$ 上の対象 $(T,g\circ p_T)$ に当たる。そのとき
$$F_{\eta'}(T,p_T)=\{x\in F(T):u(x)=G(p_T)(G(g)(\eta))\}=\{x\in F(T):u(x)=G(g\circ p_T)(\eta)\}=F_\eta(T,g\circ p_T)$$
で、$S'$ 射に沿った制限はどちらも $F$ の制限なので、$F_{\eta'}$ は $F_\eta$ を $(\mathbf C/S)/S'=\mathbf C/S'$ に制限した前層に等しい(本書『2-1 制限と底変換』の主結果「制限の推移性」と同じ同一視)。
段 2(ファイバー積の存在).$u$ は表現可能なので $F_{\eta'}$ は $\mathbf C/S'$ 上で表現可能である。本書『2-1 制限と底変換』の主結果「スライス圏の間の底変換」を、$\mathbf C/S$ 上で $(X_\eta,\xi_\eta)$ が表す前層 $F_\eta$ と、射 $g\colon S'\to S$ に当てると、その $\mathbf C/S'$ への制限(段 1 により $F_{\eta'}$)が表現可能であることから、ファイバー積 $X_\eta\times_SS'$ が存在する。
段 3(表す組).$S'$ 上の対象 $(T,p_T)$ について、ファイバー積の定義により、$S'$ 射 $a\colon T\to X_\eta\times_SS'$ は、$p_\eta\circ b=g\circ p_T$ を満たす $b\colon T\to X_\eta$、すなわち $S$ 射 $b\colon(T,g\circ p_T)\to X_\eta$ と、$b=\mathrm{pr}_1\circ a$ によって一対一に対応する(第 2 成分は $p_T$ に決まっている)。$(X_\eta,\xi_\eta)$ が $F_\eta$ を表すので、$b\mapsto F(b)(\xi_\eta)$ はこの $S$ 射の集合から $F_\eta(T,g\circ p_T)=F_{\eta'}(T,p_T)$ への全単射である。合成は $a\mapsto F(\mathrm{pr}_1\circ a)(\xi_\eta)=F(a)(F(\mathrm{pr}_1)(\xi_\eta))$ で、これが全単射であることは、組 $(X_\eta\times_SS',F(\mathrm{pr}_1)(\xi_\eta))$ が $F_{\eta'}$ を表すことにほかならない($a=\mathrm{id}$ の場合から $F(\mathrm{pr}_1)(\xi_\eta)\in F_{\eta'}(X_\eta\times_SS')$ である)。
段 4(底変換可能性).段 2 は任意の $g$ について成り立つので、$p_\eta$ は底変換可能である。

原論文は系 3.9 の証明を、$F_{\eta'}$ が $F_\eta$ の $S'$ への制限であることを注意して命題 3.1 を当てる、の一文で済ませる(印字 11-08)。命題 3.1 を圏 $\mathbf C/S$ で読んだものが本書の「スライス圏の間の底変換」で、段 1 はその当てはめが正しいことの確かめである。

印字の読み(補題 3.6 と系 3.9)
  1. 原論文の補題 3.6 の主張は、$F$ を表す組を $(X,\eta_X)$ と書く(印字 11-07)。証明は同じ組を $(X,\xi_X)$ と書き、$\eta$ は $G$ の側の元の文字なので、$(X,\xi_X)$ と読む。(2) 系 3.9 は、$\eta'$ を $\eta$ の「$F(S)\to F(S')$ による像」と書く(印字 11-08)。$\eta$ は $G(S)$ の元なので $G(S)\to G(S')$ と読む。(3) 系 3.9 の直後の一文は、構造射 $X\to S$ が底変換可能であると書く(印字 11-08)。系 3.9 の記号ではファイバーを表す対象は $X_\eta$ なので、$X_\eta\to S$ と読む。三つとも近くの式が正しい形を与える誤植で、主張の内容は変わらない。

例と反例

集合の圏で主結果 1 の構成を具体的に見たあと、終対象の存在を外すと主結果 3 の同値が崩れる例を置く。

集合の圏での命題 3.7

$\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ とする。集合の圏には任意のファイバー積がある(本書『0-2 圏と前層』の補題「集合の圏の極限と余極限」)ので、主結果 2 により、表現可能な $G$ への射 $u\colon F\to G$ が表現可能であることは、$F$ が表現可能であることと同じである。主結果 1 の構成を一つの前層で見る。
$G$ を部分集合の前層($G(T)$ は $T$ の部分集合の全体、制限は逆像)とする。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の例「部分集合の前層を二点集合が表す」により、$G$ は $(Y,\eta_Y)=(\{0,1\},\{1\})$ で表される。前層 $F$ を、$F(T)$ は $A\subset B\subset T$ となる部分集合の組 $(A,B)$ の全体、制限は両成分の逆像で定め、$u(A,B)=B$ とする。$Y$ 上の対象 $(S,p)$ について、$\eta_Y$ を $p$ で引き戻した元は $p^{-1}(1)$ なので、$F_{\eta_Y}(S,p)$ は $B=p^{-1}(1)$ となる組の全体で、$p^{-1}(1)$ の部分集合 $A$ と一対一である。
三点集合 $X=\{0,1',1''\}$ と $f\colon X\to Y$、$f(0)=0$、$f(1')=f(1'')=1$ をとり、$\xi_X=(\{1'\},\{1',1''\})\in F(X)$ とおく。$u(\xi_X)=\{1',1''\}=f^{-1}(1)$ なので $\xi_X\in F_{\eta_Y}(X,f)$ である。$Y$ 射 $a\colon(S,p)\to(X,f)$ は、$p^{-1}(0)$ を $0$ に送り、$p^{-1}(1)$ の各点を $1'$ か $1''$ に送る写像で、$F(a)(\xi_X)=(a^{-1}(1'),a^{-1}(\{1',1''\}))=(a^{-1}(1'),p^{-1}(1))$ である。$a$ は $A=a^{-1}(1')$ で決まり、$p^{-1}(1)$ のどの部分集合もこの形なので、$a\mapsto F(a)(\xi_X)$ は全単射である。ゆえに $((X,f),\xi_X)$ は $F_{\eta_Y}$ を表す。
主結果 1 によれば $(X,\xi_X)$ は $F$ を表し、$f$ は $u$ に対応する射である。実際、組 $A\subset B\subset T$ は、$T-B$ の上で $0$、$B-A$ の上で $1''$、$A$ の上で $1'$ をとる写像 $T\to X$ と一対一で、その写像による $\xi_X$ の引き戻しが $(A,B)$ である。また $u(\xi_X)=f^{-1}(1)=G(f)(\eta_Y)$ である。

この例では、$F$ を直接表そうとすると三つの値をとる写像を思いつく必要があるが、主結果 1 に従えば、$Y$ の各点の上の「ファイバー」を並べるだけで表す対象が組み上がる。次の反例は、主結果 3 の終対象の仮定が外せないことを示す。

反例:終対象が無いと定数前層は表現可能でない

主結果 3 から、$\mathbf C$ が終対象をもつという仮定を外す。$\mathbf C$ を二つの対象 $A$、$B$ と恒等射だけからなる圏とする($\mathrm{Hom}(A,B)=\mathrm{Hom}(B,A)=\emptyset$)。
一点集合への定数前層 $c$ は表現可能でない。$(X,\xi)$ が $c$ を表すなら $\mathrm{Hom}(A,X)$ と $\mathrm{Hom}(B,X)$ はともに一点で、$X=A$ かつ $X=B$ となって矛盾するからである。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の例「終対象は一点の定数前層を表す」により、これは $\mathbf C$ に終対象が無いことと同じである。
$F=c$、$u=\mathrm{id}_c$ とする。$S$ を $A$ か $B$ とすると、$\mathbf C/S$ の対象は $(S,\mathrm{id}_S)$ だけで、$c(S)$ のただ一つの元 $\eta$ のファイバー $F_\eta$ は $\mathbf C/S$ 上の一点集合への定数前層 $c_{/S}$ である。これは $\mathbf C/S$ の終対象 $(S,\mathrm{id}_S)$ で表される(本書『2-1 制限と底変換』の主結果「終対象と定数関手」)。したがって $u$ は表現可能だが、$F=c$ は表現可能でない。主結果 3 の同値の左辺は成り立ち、右辺は成り立たない。壊れるのは主結果 3 の証明の段 1 で、$c$ が表現可能でないので主結果 2 を $G=c$ に当てられない。

その後の発展

以下は後代の用法の紹介である(2026 年時点の一般的な記述。本書は各文献の該当箇所を確かめていない)。

  • 表現可能な射の基本性質:後代の代数幾何では、前層の射が表現可能であることを任意の $h_S\to G$ に沿うファイバー積が表現可能であることで定め(本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果「表現可能な射の言い換え」の形)、「表現可能な前層への表現可能な射の源は表現可能」という主結果 2 の一方の向きを、スキームの関手を調べる基本の手順として使う(Stacks、FGAex の Vistoli の部)。
  • 相対的な構成:前層の表現可能性を、表現可能な前層への射のファイバーの表現可能性に分けて示す型は、Hilbert スキームや Quot スキームの構成(FGAex の Nitsure の部)や、代数空間の理論(Knu71)で繰り返し使われるとされる。
  • 語 quarrable:原論文の「quarrable」は、後代のフランス語の文献(たとえば SGA4)でも任意の底変換が存在する射の意味で使われるとされる。多くの圏ではファイバー積がつねにあるので、この条件は意識されなくなった。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Techniques de construction en géométrie analytique IV Gro61iv の第 3 節の中ほどである。

本頁原論文印字頁
背景と動機(系 3.5 の後の「逆に」)系 3.5 の後の一句11-07
定理(普遍元の上のファイバーが関手を決める)補題 3.6 とその証明11-07〜11-08
補題(対応する射の取り替え)原論文に無い(本書が補った)—
定理(表現可能な射と関手の表現可能性)命題 3.7(括弧の注意を含む)11-08
定理(終対象への射の表現可能性)系 3.8 とその証明、N. B.11-08
定理(表現するファイバーの底変換)系 3.9 とその証明、直後の一文11-08
注意(印字の読み(補題 3.6 と系 3.9))補題 3.6 の主張、系 3.9 とその直後11-07〜11-08
例(集合の圏での命題 3.7)、反例(反例:終対象が無いと定数前層は表現可能でない)原論文に無い(本書が補った)—

参考文献

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