1-1 米田の対応と表現可能関手

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

圏の各対象に、その対象へ入る射の全体がなす前層(点の前層)を対応させ、点の前層から任意の前層への射が、その前層の一つの値の元とちょうど一対一に対応することを示す。そこから、対象は点の前層で同型を除いて決まり、前層を表す対象と普遍元の組が一意の同型を除いて一意であることを導く。
前提知識: 圏, 関手, 自然変換, 前層

この頁で示すこと

宇宙 $\mathcal U$ を一つ固定し、$(\mathrm{Ens})$ を $\mathcal U$ の元である集合と写像の圏(本書『0-2 圏と前層』の定義「宇宙と集合の圏」)、$\mathbf C$ を Hom がすべて $\mathcal U$ の元である圏とする(同じ頁の定義「圏と関手と前層」)。$\widehat{\mathbf C}$ は反対圏 $\mathbf C^\circ$ から $(\mathrm{Ens})$ への関手(前層)と、その間の自然変換(前層の射)のなす圏である(同じ頁の定義「圏と関手と前層」)。対象 $X$ の点の前層を $h_X=\mathrm{Hom}(-,X)$ と書く。
本頁の主結果は次の四つである。

  1. 点の関手の関手性(原論文 §2 の点の前層の定義に添えた主張、印字 11-01):対象 $X$ に点の前層 $h_X$ を、射 $a\colon X\to X'$ に合成 $h_a=a\circ-$ を対応させる $h\colon\mathbf C\to\widehat{\mathbf C}$ は関手である。[完結]
  2. 米田の対応(原論文 命題 2.1、印字 11-02):任意の対象 $X$ と前層 $F$ について、$u\mapsto u(X)(\mathrm{id}_X)$ は $\mathrm{Hom}(h_X,F)$ から $F(X)$ への全単射で、その逆は $\xi$ に「$f$ を $F(f)(\xi)$ に送る射」を対応させる。[完結]
  3. 点の関手の充満忠実性(原論文 定理 2.2、印字 11-02):任意の対象 $X$、$X'$ について、$a\mapsto h_a$ は $\mathrm{Hom}(X,X')$ から $\mathrm{Hom}(h_X,h_{X'})$ への全単射である。[完結]
  4. 普遍問題の解の一意性(原論文 §2 の表現可能の定義に添えた主張、印字 11-02〜11-03):前層 $F$ を表す二つの組 $(X,\xi)$、$(X',\xi')$ の間には $F(a)(\xi')=\xi$ となる射 $a\colon X\to X'$ がただ一つあり、それは同型である。さらに $h$ は $\mathbf C$ から表現可能な前層のなす充満部分圏への圏同値を与える。[完結]
    四つとも、定義と、圏の合成の結合律と恒等射の性質だけで閉じ、事実を引用しない。原論文は命題 2.1 について二つの写像を作り「逆である」と述べるだけなので、本頁はその確かめを全部書く。主結果 4 の圏同値の部分で逆向きの関手を作るときだけ、選択公理を使う。

背景と動機

本講演は、H. Cartan のセミナー(1960/61 年度)で Grothendieck が行った連作「解析幾何における構成の技法」の第 IV 回である。第 1 節で本人は、この回と次の回(Gro61v)の目的を、圏の普遍問題についての一般的な言明と、とくに簡単な例を与えることだと書く。一般的な言明は「多かれ少なかれ自明」だが構成の技法では常に使う、という位置づけである。例は、読者を «le yoga des foncteurs représentables» に慣れさせるためのもので、存在定理を一度得てしまえば、いろいろな自然な写像が解析的であることの退屈な確かめを避けられる、と続く(印字 11-01)。さらに後で Hilbert スキームを作るのに Grassmann 束が要る、という予告で第 1 節は終わる。
この考え方の要は、対象を直接作る代わりに、その対象へ入る射がどう振る舞うべきかを前層として書き下すことにある。求める対象 $X$ があるなら、各 $Y$ について $Y$ から $X$ への射の集合 $h_X(Y)$ が定まり、$Y'\to Y$ に沿って引き戻せる。逆に、前層 $F$ が「$Y$ から求める対象への射」の候補として与えられたとき、$F$ がある $X$ の点の前層と同型なら、その $X$ が求める対象である。このとき $X$ への射を作ることは $F$ の元を作ることに置き換わり、射の性質(解析的であることなど)は定義から自動的に付いてくる。本頁の主結果は、この置き換えが情報を失わないことを保証する。
第 2 節の冒頭で本人は、ここで使う表現可能関手の言語は Bourbaki セミナーの講演で素描したもの(原論文の文献 [1] II、Gro60mod)の想起だと断る。代数幾何のために作った言語を、解析幾何の構成に持ち込むのが本講演の筋である。ただし本講演の第 2〜4 節は任意の圏についての議論で、解析空間が主役になるのは第 5 節だけである(第 3 節の注意に用例が一つ出る)。本書も第 1〜3 章の証明では、第 3 節の注意の用例を扱う 2-4 の主結果の一つを除いて解析空間を使わない。

定義と準備

主結果の主語になる二つの対象、点の前層と表現可能な前層を定める。前層と自然変換の定義は本書『0-2 圏と前層』の定義「圏と関手と前層」のとおりで、ここでは記号を確かめるために短く繰り返す。前層 $F$ は、各対象 $Y$ に集合 $F(Y)\in\mathcal U$ を、各射 $g\colon Y'\to Y$ に写像 $F(g)\colon F(Y)\to F(Y')$ を対応させ、$F(\mathrm{id}_Y)=\mathrm{id}$、$F(g\circ g')=F(g')\circ F(g)$ をみたすものである。前層の射 $u\colon F\to G$ は写像の族 $u(Y)\colon F(Y)\to G(Y)$ で、任意の $g\colon Y'\to Y$ について $u(Y')\circ F(g)=G(g)\circ u(Y)$ をみたすものである(原論文の語では homomorphisme fonctoriel)。

点の前層と点の関手

$\mathbf C$ の対象 $X$ について、前層 $h_X\colon\mathbf C^\circ\to(\mathrm{Ens})$ を $h_X(Y)=\mathrm{Hom}(Y,X)$、射 $g\colon Y'\to Y$ について $h_X(g)(f)=f\circ g$($f\in\mathrm{Hom}(Y,X)$)で定め、$X$ の点の前層と呼ぶ。射 $a\colon X\to X'$ について、写像の族 $h_a(Y)\colon h_X(Y)\to h_{X'}(Y)$ を $h_a(Y)(f)=a\circ f$ で定める。$X\mapsto h_X$、$a\mapsto h_a$ を点の関手と呼び、$h$ と書く。

$h_X$ が前層であることは、$h_X(\mathrm{id}_Y)(f)=f$ と $h_X(g\circ g')(f)=f\circ g\circ g'=h_X(g')(h_X(g)(f))$ から分かる。$h_X(Y)$ は仮定により $\mathcal U$ の元である。「点の前層」「点の関手」は本書の呼び名で、原論文は $h_X$ を名前なしで導入し、$h$ を «foncteur canonique» と呼ぶ。
次に、前層が一つの対象で表されるという主題の概念を定める。原論文は同型 $u\colon h_X\to F$ の形で定義し、米田の対応を通じて元 $\xi\in F(X)$ の形に言い換える。本書は元の形を定義に置き、二つの形が同じことは下の補題「表現の二つの言い方」で確かめる。

表現可能な前層と普遍元

前層 $F$、対象 $X$、元 $\xi\in F(X)$ について、任意の対象 $Y$ で写像 $\mathrm{Hom}(Y,X)\to F(Y)$、$f\mapsto F(f)(\xi)$ が全単射であるとき、組 $(X,\xi)$ は $F$ を表すといい、$\xi$ を普遍元という。$F$ を表す組があるとき $F$ は表現可能であるといい、言葉を濫用して $X$ が $F$ を表すともいう。対象 $X$ と前層の同型 $u\colon h_X\to F$ の組 $(X,u)$ を、原論文にならって $F$ の定める普遍問題の解と呼ぶ。

普遍元の条件は、$F(Y)$ のどの元も $\xi$ を $Y\to X$ でただ一通りに引き戻したものとして書ける、ということである。主結果 4 の後半を述べるために、充満部分圏と圏同値の語を定めておく。

充満部分圏と圏同値

圏 $\mathbf A$ の対象の一部を選び、その間の射は $\mathbf A$ の射をすべてとった圏を $\mathbf A$ の充満部分圏という。関手 $\Phi\colon\mathbf A\to\mathbf B$ が充満忠実とは、任意の対象 $A$、$A'$ について $\mathrm{Hom}(A,A')\to\mathrm{Hom}(\Phi A,\Phi A')$ が全単射であることをいう。関手 $\Phi$ が圏同値とは、関手 $\Psi\colon\mathbf B\to\mathbf A$ と、関手の同型 $\Psi\circ\Phi\cong\mathrm{id}_{\mathbf A}$、$\Phi\circ\Psi\cong\mathrm{id}_{\mathbf B}$(逆をもつ自然変換)があることをいう。$\widehat{\mathbf C}$ の表現可能な前層のなす充満部分圏を $\widehat{\mathbf C}_{\mathrm{rep}}$ と書く。

前層の射が同型であるかどうかは、成分ごとに確かめればよい。これは主結果 4 の証明と、表現の二つの言い方の比較で使う。

成分ごとに全単射な前層の射は同型

前層の射 $u\colon F\to G$ の成分 $u(Y)$ がすべて全単射なら、$u$ は $\widehat{\mathbf C}$ の同型で、逆は成分ごとの逆写像の族 $v(Y)=u(Y)^{-1}$ である。逆に同型の成分はすべて全単射である。

段 1(逆の族の自然性).$g\colon Y'\to Y$ と $y\in G(Y)$ について、$x=v(Y)(y)$ とおくと、$u$ の自然性から $u(Y')(F(g)(x))=G(g)(u(Y)(x))=G(g)(y)$ である。両辺に $v(Y')$ を当てて $F(g)(v(Y)(y))=v(Y')(G(g)(y))$、すなわち $v$ は前層の射である。$u\circ v$、$v\circ u$ は成分ごとに恒等なので恒等射である。
段 2(逆向き).$u$ が逆 $v$ をもてば、成分ごとに $u(Y)\circ v(Y)$ と $v(Y)\circ u(Y)$ が恒等なので $u(Y)$ は全単射である。

宇宙の約束は、前層の圏の中の集合の大きさを管理するためのものだが、原論文はそれを本文で正面からは扱わない。

宇宙の約束の置き場所

原論文は宇宙を定義せず、次の段で射影極限の存在を述べるときに、集合の圏の定義に暗に入っている宇宙に一言触れるだけである(印字 11-03)。本書はこれを原論文自身の約束として読み、本書『0-2 圏と前層』の定義「宇宙と集合の圏」で先に置いた(足した仮定には数えない)。$\mathbf C$ 自身の対象の全体は $\mathcal U$ の元とは限らないので、$\widehat{\mathbf C}$ の二つの前層の間の射の全体は $\mathcal U$ の元とは限らない。したがって $\widehat{\mathbf C}$ は、Hom が集合ではあるが $\mathcal U$ 小とは限らない圏で、0-2 の約束の外にある。本書が $\widehat{\mathbf C}$ で使う定義と補題は Hom の $\mathcal U$ 小性を使わない。しかし本頁で集合として扱う $\mathrm{Hom}(h_X,F)$ は、米田の対応により $F(X)\in\mathcal U$ と一対一になるので、大きさの問題は起きない(下の証明の段 4)。

引用する事実

本頁は事実を引用しない。使うのは本書『0-2 圏と前層』の定義「宇宙と集合の圏」「圏と関手と前層」と、上で頁内に示した補題だけである。主結果 4 の圏同値の部分では、表現可能な前層ごとにそれを表す組を一つ選ぶ。宇宙の約束の下では圏の対象の全体も($\mathcal U$ の元とは限らないが)一つの集合なので、この選び方には通常の選択公理を使えばよい。

主結果と証明

まず点の関手が関手であることを確かめ、次に米田の対応を示す。充満忠実性と表現の一意性は、米田の対応をそれぞれ $F=h_{X'}$ と表現可能な $F$ に当てたものである。

点の関手

点の関手の関手性

射 $a\colon X\to X'$ について $h_a$ は前層の射 $h_X\to h_{X'}$ で、$h_{\mathrm{id}_X}=\mathrm{id}_{h_X}$、$b\colon X'\to X''$ について $h_{b\circ a}=h_b\circ h_a$ が成り立つ。したがって $h\colon\mathbf C\to\widehat{\mathbf C}$ は関手である。

段 1($h_a$ の自然性).$g\colon Y'\to Y$ と $f\in h_X(Y)$ について、$h_a(Y')(h_X(g)(f))=a\circ(f\circ g)$、$h_{X'}(g)(h_a(Y)(f))=(a\circ f)\circ g$ で、結合律により両者は等しい。
段 2(恒等射と合成).$h_{\mathrm{id}_X}(Y)(f)=\mathrm{id}_X\circ f=f$。$h_{b\circ a}(Y)(f)=(b\circ a)\circ f=b\circ(a\circ f)=h_b(Y)(h_a(Y)(f))$。どちらも成分ごとの等式なので、前層の射として等しい。

原論文はこの主張を「自明なしかたで」の一句で済ませる(印字 11-01)。実際、使ったのは結合律と恒等射の性質だけである。

米田の対応

原論文にならって二つの写像を置く。前層の射 $u\colon h_X\to F$ について $\alpha(u)=u(X)(\mathrm{id}_X)\in F(X)$ とおく。元 $\xi\in F(X)$ について、写像の族 $\beta(\xi)(Y)\colon\mathrm{Hom}(Y,X)\to F(Y)$ を $\beta(\xi)(Y)(f)=F(f)(\xi)$ で定める。定義「表現可能な前層と普遍元」の条件は、ちょうど $\beta(\xi)(Y)$ がすべての $Y$ で全単射であることである。

米田の対応

任意の対象 $X$ と前層 $F$ について、$\beta(\xi)$ は前層の射 $h_X\to F$ であり、$\alpha\colon\mathrm{Hom}(h_X,F)\to F(X)$ は全単射で、その逆は $\beta$ である。

段 1($\beta(\xi)$ は前層の射).$g\colon Y'\to Y$ と $f\in\mathrm{Hom}(Y,X)$ について、$F$ は反変なので
$$\beta(\xi)(Y')(h_X(g)(f))=F(f\circ g)(\xi)=F(g)(F(f)(\xi))=F(g)(\beta(\xi)(Y)(f))$$
である。これは $\beta(\xi)$ の自然性の等式そのものである。
段 2($\alpha\circ\beta$ は恒等).$\alpha(\beta(\xi))=\beta(\xi)(X)(\mathrm{id}_X)=F(\mathrm{id}_X)(\xi)=\xi$。
段 3($\beta\circ\alpha$ は恒等).$u\colon h_X\to F$ と $f\colon Y\to X$ をとる。$u$ の自然性の等式 $u(Y)\circ h_X(f)=F(f)\circ u(X)$ を元 $\mathrm{id}_X\in h_X(X)$ に当てると、$h_X(f)(\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_X\circ f=f$ なので
$$u(Y)(f)=F(f)(u(X)(\mathrm{id}_X))=F(f)(\alpha(u))=\beta(\alpha(u))(Y)(f)$$
を得る。すべての $Y$、$f$ で成り立つので $\beta(\alpha(u))=u$ である。
段 4(大きさ).段 2・3 により $\alpha$ と $\beta$ は互いに逆の写像で、$\mathrm{Hom}(h_X,F)$ は $F(X)\in\mathcal U$ と一対一である。したがって、この Hom は $\widehat{\mathbf C}$ の中で $\mathcal U$ の元と同じ大きさの集合として扱ってよい。

段 3 が要点で、前層の射 $h_X\to F$ は、普遍的な点 $\mathrm{id}_X$ の行き先 $\alpha(u)$ だけで決まる。どの $f\colon Y\to X$ も $\mathrm{id}_X$ を $f$ で引き戻したものだからである。

原論文の段と本書の補い

原論文は $\alpha$ と $\beta$ を定義し、命題 2.1 で「$\alpha$ は全単射で、逆は上で定義した $\beta$」と述べるが、証明を書かない(印字 11-02)。確かめるべきことは三つある:$\beta(\xi)$ が本当に前層の射であること(段 1)、$\alpha\circ\beta$ が恒等であること(段 2)、$\beta\circ\alpha$ が恒等であること(段 3)。三つめだけが自然性を使う。本書は三つとも書いた。原論文のどこにも米田の名は現れない。「米田の対応」は本書の呼び名である(下の「その後の発展」)。

対応 $\alpha$ は $X$ と $F$ の両方について自然である。原論文は述べないが、後の頁で米田の対応を射の合成と組み合わせるときに使うので、ここで確かめておく。

米田の対応の自然性
  1. 前層の射 $\varphi\colon F\to G$ と $u\colon h_X\to F$ について $\alpha(\varphi\circ u)=\varphi(X)(\alpha(u))$。(2) 射 $a\colon X'\to X$ と $u\colon h_X\to F$ について $\alpha(u\circ h_a)=F(a)(\alpha(u))$。同じことを $\beta$ で書けば、$\varphi\circ\beta(\xi)=\beta(\varphi(X)(\xi))$、$\beta(\xi)\circ h_a=\beta(F(a)(\xi))$ である。
  1. $\alpha(\varphi\circ u)=\varphi(X)(u(X)(\mathrm{id}_X))=\varphi(X)(\alpha(u))$。(2) 上の定理(米田の対応)の段 3 の等式を $Y=X'$、$f=a$ に当てると $u(X')(a)=F(a)(\alpha(u))$ で、左辺は $(u\circ h_a)(X')(\mathrm{id}_{X'})=u(X')(a\circ\mathrm{id}_{X'})=\alpha(u\circ h_a)$ である。$\beta$ の形は、両辺に $\beta$ を当てて $\beta\circ\alpha=\mathrm{id}$ を使えば得られる。

充満忠実性

米田の対応を点の前層 $F=h_{X'}$ に当てると、点の前層の間の射は、もとの圏の射と同じものになる。

点の関手の充満忠実性

任意の対象 $X$、$X'$ について、写像 $\mathrm{Hom}(X,X')\to\mathrm{Hom}(h_X,h_{X'})$、$a\mapsto h_a$ は全単射である。すなわち $h$ は充満忠実である。

$F=h_{X'}$ とおく。$a\in h_{X'}(X)=\mathrm{Hom}(X,X')$ について、$\beta(a)(Y)(f)=h_{X'}(f)(a)=a\circ f=h_a(Y)(f)$ なので $\beta(a)=h_a$ である。上の定理(米田の対応)により $\beta\colon\mathrm{Hom}(X,X')\to\mathrm{Hom}(h_X,h_{X'})$ は全単射である。

充満忠実な関手は同型を映し返す。次の補題は主結果 4 の証明で使う。

点の前層が同型なら対象も同型

射 $a\colon X\to X'$ について、$h_a$ が同型なら $a$ は同型である。とくに $h_X\cong h_{X'}$ なら $X\cong X'$ である。

$h_a$ の逆を $v\colon h_{X'}\to h_X$ とする。上の定理(点の関手の充満忠実性)により $v=h_b$ となる $b\colon X'\to X$ がある。主結果 1 により $h_{b\circ a}=h_b\circ h_a=\mathrm{id}_{h_X}=h_{\mathrm{id}_X}$ で、同じ定理の単射性から $b\circ a=\mathrm{id}_X$、同様に $a\circ b=\mathrm{id}_{X'}$ である。後半は、同型 $h_X\to h_{X'}$ が充満性により $h_a$ の形であることから従う。

表現可能な前層

ここで、表現の二つの言い方(同型 $u$ による形と普遍元 $\xi$ による形)が同じであることを確かめる。原論文が「(2.1) により」の一句で済ませる所である(印字 11-03)。

表現の二つの言い方

前層 $F$ と対象 $X$ について、米田の対応 $\alpha$ は、同型 $u\colon h_X\to F$ の全体と、$(X,\xi)$ が $F$ を表すような元 $\xi\in F(X)$ の全体との全単射を与える。すなわち $(X,u)$ が普遍問題の解であることと、$(X,\alpha(u))$ が $F$ を表すことは同じである。

上の定理(米田の対応)により、前層の射 $u\colon h_X\to F$ は $u=\beta(\xi)$、$\xi=\alpha(u)$ と書ける。上の補題(成分ごとに全単射な前層の射は同型)により、$\beta(\xi)$ が同型であることは、すべての $Y$ で $\beta(\xi)(Y)\colon f\mapsto F(f)(\xi)$ が全単射であること、すなわち $(X,\xi)$ が $F$ を表すことと同じである。

以上で、表現の一意性を述べる準備ができた。前半は組どうしの比較、後半は圏全体としての比較である。

普遍問題の解の一意性

(a) 組 $(X,\xi)$ と $(X',\xi')$ がともに前層 $F$ を表すなら、$F(a)(\xi')=\xi$ となる射 $a\colon X\to X'$ がただ一つあり、$a$ は同型である。
(b) $h$ は $\widehat{\mathbf C}_{\mathrm{rep}}$ に値をとり、関手 $h\colon\mathbf C\to\widehat{\mathbf C}_{\mathrm{rep}}$ は圏同値である。

段 1((a) の射の存在と一意性).$(X',\xi')$ が $F$ を表すので、$Y=X$ での全単射 $\mathrm{Hom}(X,X')\to F(X)$、$f\mapsto F(f)(\xi')$ により、$F(a)(\xi')=\xi$ となる $a\colon X\to X'$ はただ一つある。同じく $(X,\xi)$ が表すので、$F(b)(\xi)=\xi'$ となる $b\colon X'\to X$ がただ一つある。
段 2((a) の $a$ は同型).$F$ は反変なので $F(b\circ a)(\xi)=F(a)(F(b)(\xi))=F(a)(\xi')=\xi$ である。$F(\mathrm{id}_X)(\xi)=\xi$ でもあるから、全単射 $\mathrm{Hom}(X,X)\to F(X)$、$f\mapsto F(f)(\xi)$ の単射性により $b\circ a=\mathrm{id}_X$ である。同様に $a\circ b=\mathrm{id}_{X'}$ で、$a$ は同型である。
段 3((b) の逆向きの関手).$h_X$ は $(X,\mathrm{id}_X)$ で表されるので($f\mapsto h_X(f)(\mathrm{id}_X)=f$)、$h$ は $\widehat{\mathbf C}_{\mathrm{rep}}$ に値をとる。表現可能な前層 $F$ ごとに、$F$ を表す組 $(X_F,\xi_F)$ を一つ選ぶ(上の「引用する事実」の節で述べた選択公理)。上の補題(表現の二つの言い方)により $u_F=\beta(\xi_F)\colon h_{X_F}\to F$ は同型である。表現可能な前層の射 $\varphi\colon F\to G$ について、$u_G^{-1}\circ\varphi\circ u_F\colon h_{X_F}\to h_{X_G}$ は、上の定理(点の関手の充満忠実性)によりただ一つの $r(\varphi)\colon X_F\to X_G$ を用いて $h_{r(\varphi)}$ と書ける。$r(\mathrm{id}_F)=\mathrm{id}_{X_F}$ であり、$\psi\colon G\to H$ について主結果 1 から
$$h_{r(\psi)\circ r(\varphi)}=h_{r(\psi)}\circ h_{r(\varphi)}=u_H^{-1}\psi u_Gu_G^{-1}\varphi u_F=h_{r(\psi\circ\varphi)}$$
なので、単射性により $r(\psi\circ\varphi)=r(\psi)\circ r(\varphi)$ である。こうして関手 $r\colon\widehat{\mathbf C}_{\mathrm{rep}}\to\mathbf C$、$F\mapsto X_F$ を得る。
段 4($h\circ r\cong\mathrm{id}$).$r(\varphi)$ の定義は $\varphi\circ u_F=u_G\circ h_{r(\varphi)}$ と同じなので、同型の族 $u_F\colon h(r(F))\to F$ は関手の同型 $h\circ r\cong\mathrm{id}$ を与える。
段 5($r\circ h\cong\mathrm{id}$).対象 $X$ について、$u_{h_X}\colon h_{X_{h_X}}\to h_X$ は同型で、充満性により $h_{c_X}$($c_X\colon X_{h_X}\to X$)の形に書け、上の補題(点の前層が同型なら対象も同型)により $c_X$ は同型である。射 $a\colon X\to X'$ について、$r(h_a)$ の定義 $h_a\circ h_{c_X}=h_{c_{X'}}\circ h_{r(h_a)}$ を主結果 1 で書き直すと $h_{a\circ c_X}=h_{c_{X'}\circ r(h_a)}$ で、単射性により $a\circ c_X=c_{X'}\circ r(h_a)$ である。したがって $c_X$ は関手の同型 $r\circ h\cong\mathrm{id}_{\mathbf C}$ を与える。

(a) は、表現する対象が「一意の同型を除いて一意」であることの正確な形である。一意なのは、普遍元どうしを対応させる同型であって、$X$ と $X'$ の間の同型一般ではない(下の例「部分集合の前層を二点集合が表す」の (b))。(b) により、表現可能な前層は $\mathbf C$ の対象と同じものと思ってよく、以後の頁は「前層が表現可能であること」と「その前層を表す対象が $\mathbf C$ にあること」を区別せずに使う。

印字の読み(表現可能の定義の段)
  1. 原論文は表現可能の定義の直後で、$h$ が $\mathbf C$ と表現可能な前層の圏との同値を誘導することを「la proposition 2.2 の意味」と書く(印字 11-03)。番号 2.2 の主張は定理として印字されているので(印字 11-02)、定理 2.2 と読む。(2) 同じ段で、普遍問題の解の組を「$F$ の対象 $X$」と同型 $u$ からなる、と書く所がある。$F$ は前層なので、$\mathbf C$ の対象 $X$ と読む(直前の文は正しく $\mathbf C$ の対象と書いている)。(3) 同じ段の、普遍元の条件を述べる写像 $\mathrm{Hom}(?,X)\to F(Y)$ の第 1 引数はかすれて読めないが、直後の $f\colon Y\to X$ から $\mathrm{Hom}(Y,X)$ と読む。三つとも誤植・判読の問題で、主張の内容は変わらない。(4) 原論文は「$X$ を一意の同型を除いて決める」と書くが、一意なのは上の定理 (a) の意味、すなわち普遍元(または同型 $u$)と両立する同型である。

例と反例

原論文は例を挙げないので、ここでは集合の圏 $\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ で、表現できる前層とできない前層を一つずつ見る。最初の例は主結果 4 (a) の「一意」の意味を、最後の反例は表現可能性が前層に課す制約を示す。

部分集合の前層を二点集合が表す

$\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ とし、集合 $Y$ にその部分集合の全体 $P(Y)$ を、写像 $g\colon Y'\to Y$ に逆像 $P(g)(A)=g^{-1}(A)$ を対応させる。$P(Y)$ は宇宙の公理(冪集合で閉じる)により $\mathcal U$ の元で、$(g\circ g')^{-1}(A)=g'^{-1}(g^{-1}(A))$ なので $P$ は前層である。
(a) 二点集合 $\{0,1\}$ と元 $\xi=\{1\}\in P(\{0,1\})$ をとる。$f\colon Y\to\{0,1\}$ について $P(f)(\xi)=f^{-1}(\{1\})$ で、写像 $f\mapsto f^{-1}(\{1\})$ は、部分集合 $A$ にその特性写像($A$ の上で $1$、外で $0$)を対応させる写像を逆にもつ全単射である。ゆえに $(\{0,1\},\{1\})$ は $P$ を表す。上の定理(米田の対応)の言葉では、前層の射 $h_{\{0,1\}}\to P$ で $\mathrm{id}$ を $\{1\}$ に送るものが同型である。
(b) 入れ替え $\sigma\colon\{0,1\}\to\{0,1\}$ は同型で、$P(\sigma)(\{1\})=\sigma^{-1}(\{1\})=\{0\}$ である。$(\{0,1\},\{0\})$ も $P$ を表す((a) の特性写像を $\sigma$ と合成すればよい)。主結果 4 (a) の射 $a\colon\{0,1\}\to\{0,1\}$ は $P(a)(\{0\})=\{1\}$、すなわち $a^{-1}(\{0\})=\{1\}$ で決まり、$a=\sigma$ である。恒等写像も同じ二点集合の間の同型だが、普遍元 $\{1\}$ を $\{0\}$ に対応させないので、主結果 4 (a) の射ではない。一意なのは、普遍元と両立する同型だけである。

(b) のように、表す対象は同じでも普遍元を取り替えれば表し方は変わる。次の例は、表す対象が一意の同型を除いて一意であることが、終対象の一意性をも含むことを示す。

終対象は一点の定数前層を表す

一点集合 $\{*\}$ を値とする定数前層を $c$ と書く($c(Y)=\{*\}$、$c(g)=\mathrm{id}$)。組 $(e,*)$ が $c$ を表すとは、任意の $Y$ で $\mathrm{Hom}(Y,e)\to\{*\}$ が全単射、すなわち $\mathrm{Hom}(Y,e)$ がちょうど一点であることで、これは $e$ が $\mathbf C$ の終対象であることの定義そのものである。したがって、$c$ が表現可能であることと $\mathbf C$ が終対象をもつことは同じで、主結果 4 (a) を $c$ に当てると、終対象が一意の同型を除いて一意であることが得られる($c$ の元は一つなので、両立の条件は空である)。この見方は、本書『2-1 制限と底変換』の主結果「終対象と定数関手」で改めて述べる。

表現可能な前層は、点の前層と同型なので、点の前層がもつ性質をすべてもつ。とくに集合の圏の上では、空集合での値が制約を受ける。

反例:定数前層は表現可能とは限らない

表現可能であることを外した前層の例である。$\mathbf C=(\mathrm{Ens})$ とし、二点集合 $\{0,1\}$ を値とする定数前層 $F$($F(Y)=\{0,1\}$、$F(g)=\mathrm{id}$)を考える。
まず、表現可能な前層の空集合での値を確かめる。$(X,\xi)$ が前層 $G$ を表すなら、定義により $\mathrm{Hom}(\emptyset,X)\to G(\emptyset)$ は全単射で、空集合から $X$ への写像は空写像ただ一つなので、$G(\emptyset)$ は一点集合である。上の補題(表現の二つの言い方)により、$G\cong h_X$ と書いても同じで、$h_X(\emptyset)=\mathrm{Hom}(\emptyset,X)$ が一点であることから同じ結論が出る。
$F(\emptyset)=\{0,1\}$ は二点なので、$F$ は表現可能でない。それでも米田の対応により、任意の集合 $X$ と元 $\xi\in F(X)$ について前層の射 $\beta(\xi)\colon h_X\to F$ はある。$\beta(\xi)(Y)(f)=F(f)(\xi)=\xi$ なので $\beta(\xi)(Y)$ は定値写像で、その像は高々一点であり、二点集合 $F(Y)$ への全射にならない。どの $\beta(\xi)$ も同型にならない。主結果 2 はすべての前層で成り立つが、主結果 4 は表現可能な前層についての主張で、この条件は外せない。空集合での値が一点になるという制約は、本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』で、空の被覆の約束として再び現れる。

その後の発展

以下は後代の結果・呼び名の紹介である(2026 年時点の一般的な記述。本書は各文献の該当箇所を確かめていない)。

  • 米田の補題の名:主結果 2 と 3 は、今日「米田の補題」「米田埋め込み」と呼ばれる事実に当たる。名は米田信夫に由来し、1954 年の論文 Yon54 が挙げられることが多いとされる。本講演の紙面にこの名は無く、本書の「米田の対応」は本書の呼び名である。圏論の標準的な教科書 Mac Lane Mac98 は、米田の補題と表現可能関手、普遍元を基本の道具として扱う。
  • 現代の教科書の形:Riehl Rie16 は米田の補題を表現可能関手の理論の中心に置き、Kashiwara–Schapira KS06 は宇宙を固定した上で前層の圏と米田の補題を展開する。どちらも主結果 4 に当たる表現の一意性と、点の関手による埋め込みを基本に据える。
  • 宇宙の約束:原論文が暗に使う宇宙は、後に SGA 4 の第 I 部 SGA4 で公理として定式化され、小さな圏と大きな圏の区別の標準的な扱いになった。
  • 代数幾何での用法:スキームをその点の関手で扱う考え方は、原論文が想起として引く Bourbaki セミナーの講演 Gro60mod と、それを含む講演集 FGA で代数幾何に持ち込まれ、次の回 Gro61v ではベクトル束や Grassmann 束の構成に使われるとされる(本書は第 V 回を開いていない)。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Techniques de construction en géométrie analytique IV Gro61iv の第 1 節と第 2 節の前半である。

本頁原論文印字頁
背景と動機(講演の目的、yoga、Grassmann 束の予告)§111-01
背景と動機(表現可能関手の言語の想起)§2 の冒頭(文献 [1] II への送り)11-01
定義(点の前層と点の関手)、定理(点の関手の関手性)§2 の点の前層と標準関手の定義11-01
定理(米田の対応)、注意(原論文の段と本書の補い)$\alpha$・$\beta$ の定義と命題 2.111-02
定理(点の関手の充満忠実性)定理 2.211-02
定義(表現可能な前層と普遍元)、補題(表現の二つの言い方)表現可能・普遍問題の解・表す組の定義11-02〜11-03
定理(普遍問題の解の一意性)同じ段の「一意の同型を除いて決める」と定理 2.2 の言い換え11-02〜11-03
注意(印字の読み(表現可能の定義の段))同じ段の番号・記号・判読11-03
注意(宇宙の約束の置き場所)射影極限の段の宇宙への言及11-03

参考文献

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