原論文は第 5 節で解析空間の圏を使うが、解析空間を定義しない。本頁は、同じ連作の第 II 回が与える解析空間の定義と、その直後の初等的な事実、はめ込みの底変換、第 III 回のファイバー積の存在を引用としてまとめ、そこから直ちに出る三つの補題(「剰余体が基礎体の局所代数の射」「一点の解析空間と終対象」「点の部分空間の存在」)と命題「開はめ込みの底変換と非交和」を証明する。解析空間は分離的とは限らないという連作の約束を、原点を二重にした直線の例とともに述べる。記号は本書『0-5 記号と約束』のとおりで、環付き空間と貼り合わせの前提は本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』に、圏とスライス圏の前提は本書『0-2 圏と前層』にある。
前提知識: 解析空間, 環付き空間, 層, 収束冪級数, ファイバー積, Hausdorff空間
原論文の第 5 節は「$\mathbf C$ を解析空間の圏 $(\mathrm{An})$ とする」と書いて始まる(原論文 PDF 23、印字 11-22)。その後も、貼り合わせで作った空間を「$k$ 代数の環付き空間」とみて解析空間だと述べ(印字 11-24)、点の部分空間の局所環を「基礎体 $k$」と呼ぶ(印字 11-27)が、解析空間も $k$ も講演の中では定義されない。定義は同じ連作「Techniques de construction en géométrie analytique」の第 II 回(exposé n° 9、1961 年 1 月 16 日)Gro61ii にある。原論文が第 5 節の注意で「前の講演」と呼んで積の存在証明に触れるのは第 III 回(exposé n° 10)Gro61iii で、その定理 2.1 が解析空間のファイバー積の存在である。
本書はこの二つの回を枠組みとして受け取る。すなわち、第 II 回の定義と、定義から直ちに出る事実(下の四つの引用)を仮定として使い、第 II 回・第 III 回の定理(はめ込みの底変換、ファイバー積の存在)は外部の結果として引用する。本書はこの立場を「解析空間の定義」と呼ぶ。第 II 回は冒頭で、議論をすべて「a priori arbitraire」な完備付値体の上で展開すると断る(印字 9-01)。原論文の解析空間は複素解析空間とは限らない。
第 II 回の定義を引く所在は、本書が第 II 回の頁画像で確かめた印字頁で書く(第 II 回の PDF $n$ は印字 9-$(n-1)$)。第 III 回は定理 2.1 の頁(印字 10-04)だけを確かめた。
解析空間はモデル $E^n$ の部分から局所的に組み立てる。まずモデルと部分環付き空間を置き、それから定義を述べる。
$k$ を完備付値体とする。
(1) $k^n$($n\ge0$)の開集合 $U$ の上の関数 $U\to k$ が解析的とは、$U$ の各点の近傍で収束冪級数で与えられることをいう。これは局所的な条件なので、$U$ を動かすと $k^n$ の上の $k$ 代数の層が得られる。$k^n$ にこの層を与えた $k$ 代数の環付き空間を $E^n$ と書く。$E^0$ は一点に $k$ を与えた空間で、これを $e$ と書く。
(2) 環付き空間 $X$ の部分環付き空間とは、局所閉な部分集合 $A\subset X$ に、開集合 $U=X-(\bar A-A)$($A$ が閉になる最大の開集合)の上の $\mathcal O_X$ の Ideal $\mathcal J$ による商 $\mathcal O_U/\mathcal J$ を与えたもの(台は $A$)である。$\mathcal J$ が有限型のとき、有限表示の部分環付き空間という。開集合 $U$ に $\mathcal O_X|_U$ を与えたもの、$X$ 全体の上の Ideal による閉部分環付き空間はその特別な場合である。
(3) $k$ 上の解析空間とは、$k$ 代数の環付き空間 $X$ で、各点が、ある $E^n$ の有限表示の部分環付き空間に(誘導された構造について)同型な開近傍をもつものをいう。
(4) 底の位相空間の分離性(Hausdorff 性)は要求しない。構造層が冪零元をもつこと(非被約)も許す。
(1)〜(3) は第 II 回の §1 の部分環付き空間の定義(印字 9-05、9-08)、§2 のモデル $E^n$ の構成(印字 9-08〜9-09)と定義 2.1(印字 9-09)を、本書の言葉でまとめたものである。第 II 回は $E^n$ から一点 $e$ への射を書き、$e$ が $E^0$ に同型であることを断る(印字 9-09)。(4) の前半は定義 2.1 の直後の注意そのもので、第 II 回は、分離的でない解析空間を解として持つ興味深い普遍問題があり、原点を二重にした直線とその変種が Picard 空間の研究で現れると書く(印字 9-09)。後半は、有限表示の部分環付き空間が Ideal による商であることから出る。第 II 回は冪零元をもつ空間を例として扱い(印字 9-11〜9-13)、射が底の写像だけでは決まらないのは冪零元のためだと述べる(例 2.9、印字 9-13)。
本書は $k$ の絶対値が自明でないものとする。第 II 回は完備付値体を「a priori arbitraire」とだけ書き、自明な絶対値を除く文は無い。絶対値が自明なら $k^n$ は離散空間になり、どの点も孤立点である。本書でこの約束が効くのは、非孤立点を要する例(下の例「原点を二重にした直線」と、それを使う第 4 章の反例)だけである。第 II 回の注意も、原点を二重にした直線を作るときに点が孤立していないことを断る。原論文の $k$(印字 11-24 の $k$ 代数、11-27 の「基礎体 $k$」)はこの $k$ と読む。
解析空間の定義は、分離性を課さないことと冪零元を許すことの二点で、後代の複素解析幾何の教科書の定義と違いうる。前者は第 4 章の定理の成否に関わるので、頁の最後の注意で改めて述べる。次に、定義から直ちに出る事実を引用としてまとめる。
$X$ を解析空間とする。
(1) $X$ の有限表示の部分環付き空間は、それ自身が解析空間である。とくに、$X$ の開集合 $U$ に $\mathcal O_X|_U$ を与えたものは解析空間で、$X$ の有限型の Ideal が定める閉部分環付き空間も解析空間である。
(2) $X$ の有限表示の部分環付き空間を $X$ の部分解析空間という。開部分解析空間(開部分空間)は $X$ の開集合と一対一に対応し、閉部分解析空間は $X$ の有限型の Ideal と一対一に対応する。
(3) 解析空間の射 $f\colon Y\to X$ がはめ込みとは、$f$ が $Y$ から $X$ のある部分解析空間 $Y'$ への同型と包含 $Y'\to X$ の合成であることをいう。$Y'$ が開部分空間のとき開はめ込み、閉部分解析空間のとき閉はめ込みという。部分環付き空間の包含は環付き空間の圏の単射(monomorphism)で、はめ込みの合成ははめ込みである。
解析空間 $X$ の各点 $x$ で、局所環 $\mathcal O_{X,x}$ は局所 $k$ 代数で、その剰余体は $k$ 代数として $k$ に同型である。
モデル $E^n$ の点については、局所環は収束冪級数の環で、剰余体への写像は点での値をとる写像である。第 II 回はこれを「trivialement」確かめられるとし(印字 9-09)、一般の解析空間については命題 2.3 a の後半として定義から直ちに出るとする(印字 9-10)。命題 2.3 a の前半は局所環がネーター的であることで、第 II 回はこれを「moins faciles」事実として別の講演に送る。本書はネーター性を使わない。
$A$、$B$ を $k$ 代数である局所環とし、$B$ の剰余体は $k$ 代数として $k$ に同型であるとする。$k$ 代数の射 $u\colon A\to B$ は局所的($u^{-1}(\mathfrak m_B)=\mathfrak m_A$)で、$A$ の剰余体も $k$ 代数として $k$ に同型である。
$\varepsilon\colon B\to k$ を剰余体への射とする。$\varepsilon\circ u\colon A\to k$ は $k$ 代数の射なので全射で、核 $\mathfrak m$ は $A/\mathfrak m\cong k$ となる極大イデアルである。$A$ は局所環なので $\mathfrak m=\mathfrak m_A$ で、$u^{-1}(\mathfrak m_B)=\ker(\varepsilon\circ u)=\mathfrak m_A$ である。
$T$ を解析空間、$t\in T$ とする。
(1) $T$ の各点は、分離的な開近傍をもつ。とくに一点 $\{t\}$ は $T$ の閉集合である。
(2) $x\ne t$ では $\mathcal O_{T,x}$ 全体、$t$ では極大イデアル $\mathfrak m_t$ を茎とする $\mathcal O_T$ の Ideal $\mathcal J_t$ があって、有限型である。したがって $\mathcal J_t$ の定める閉部分解析空間 $e_t$ が定まり、それは一点 $t$ に剰余体 $\mathcal O_{T,t}/\mathfrak m_t\cong k$ を与えた空間で、$e$ と一意に同型である。
包含 $i_t\colon e_t\to T$ は閉はめ込みで、上の補題(一点の解析空間と終対象)の (1) では、点 $t$ と剰余体への射 $\mathcal O_{T,t}\to k$ の組に当たる。本書『4-3 開はめ込みの点ごとの判定』は、この $e_t$ を使う。
第 4 章は、開はめ込みに沿ったファイバー積と非交和を繰り返し使う。これらは連作の定理を使わずに、上の引用と環付き空間の貼り合わせから直ちに出る。
段 1(開部分空間への射).$V$ を解析空間 $Y$ の開部分空間とする。射 $h\colon T\to Y$ で $h(T)\subset V$ となるものは、射 $h_V\colon T\to V$ で包含との合成が $h$ になるものを一意にもつ。実際、$V$ に含まれる開集合 $W$ について $\mathcal O_V(W)=\mathcal O_Y(W)$ なので、層の射 $\mathcal O_Y\to h_*\mathcal O_T$ を $V$ の開集合に制限したものがそのまま $\mathcal O_V\to(h_V)_*\mathcal O_T$ を与え、逆に包含との合成が $h$ になる射はこれしかない。ゆえに $\mathrm{Hom}(T,V)$ は $\{h\in\mathrm{Hom}(T,Y):h(T)\subset V\}$ と一対一で、とくに包含 $V\to Y$ は単射(monomorphism)である。
段 2((1) のファイバー積).$g$ を $V'$ に制限した射 $g'\colon V'\to V$ と同型 $U\cong V$ の逆の合成を $a\colon V'\to U$ とする。$b\colon T\to U$、$c\colon T\to Y'$ が $j\circ b=g\circ c$ を満たすとする。$g(c(T))=j(b(T))\subset V$ なので $c(T)\subset V'$ で、段 1 により $c$ は射 $c'\colon T\to V'$ を一意に経由する。$j\circ a\circ c'=g\circ c=j\circ b$ で、$j$ は同型と単射の合成なので単射であり、$a\circ c'=b$ となる。$V'$ への射は $Y'$ への合成で決まる(段 1)ので $c'$ は一意である。ゆえに $(V',a,\text{包含})$ はファイバー積である。別の選び方は、これに同型を合成したもので、射影は同型と開はめ込みの合成、すなわち開はめ込みである。
段 3((2) の和).各点はある $X_i$ に入り、$X_i$ は $X$ の開集合なので、その点の $X_i$ の中の開近傍が定義の条件を満たす。ゆえに $X$ は解析空間である。$X_i$ は互いに交わらない $X$ の開被覆なので、本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』の「環付き空間と射の貼り合わせ」により、射 $X\to Z$ は射 $X_i\to Z$ の族と一対一に対応する(重なりが空なので一致の条件は無い。$k$ 代数の射であることは局所的な条件である)。ゆえに $X$ は和である。射 $h\colon T\to X$ について $T_i=h^{-1}(X_i)$ は $T$ の開かつ閉な部分で、互いに交わらず $T$ を覆い、段 1 により $h|_{T_i}$ は $X_i$ を経由する。逆に分解と射の族は同じ貼り合わせで一つの射になる。この二つの対応は互いに逆である。$f\circ b=g\circ c$ となる $b\colon T\to X$、$c\colon T\to Y'$ の組は、分解 $T=\coprod T_i$ と $f|_{X_i}\circ b_i=g\circ c|_{T_i}$ を満たす $b_i\colon T_i\to X_i$ の族、すなわち $T_i\to X_i\times_YY'$ の族と同じで、それは $T\to\coprod_i(X_i\times_YY')$ と同じである。$I=\emptyset$ なら底は空集合で、層は零環だけの層であり、どの $Z$ へも射はただ一つ、$\emptyset$ への射は源が空のときだけある。
段 4((3) $S$ 上の場合).$(\mathrm{An})_{/S}$ のファイバー積は $(\mathrm{An})$ のファイバー積に構造射を合わせたものである(本書『0-2 圏と前層』の「スライス圏」)。和については、射 $\coprod X_i\to Z$ が $S$ 射であることは、各 $X_i$ への制限が $S$ 射であることと同じである(段 3 の一意性)。開被覆 $(T_i)$ の上の $S$ 射 $h_i\colon T_i\to Z$ を $(\mathrm{An})$ で貼り合わせた $h$ について、$p_Z\circ h$ と $p_T$ は各 $T_i$ の上で一致するので、貼り合わせの一意性により等しく、$h$ は $S$ 射である。
この命題は証明の中で、上の引用(解析空間の定義、開部分空間)と本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』の貼り合わせを使う。したがって、この命題を使う主結果は[条件付き]になり、連作の定理を使わなければ、札の理由に「解析空間の定義の下では完結」と添える(本書『0-5 記号と約束』の「状態札の意味」)。
$f\colon Y\to X$ を解析空間のはめ込み、$g\colon X'\to X$ を任意の射とする。ファイバー積 $Y'=Y\times_XX'$ は $(\mathrm{An})$ に存在し、射影 $Y'\to X'$ ははめ込みである。$f$ が閉はめ込みで $Y$ が有限型の Ideal $\mathcal J$ で定まるなら、$Y'$ は $X'$ の Ideal $g^*(\mathcal J)\,\mathcal O_{X'}$ の定める閉部分解析空間で、射影は閉はめ込みである。$f$ が開はめ込みなら射影は開はめ込みである。
主張の前半は第 II 回の注意 2.10 の後半(印字 9-14)で、第 II 回はこのファイバー積が環付き空間の圏でもファイバー積であると付け加える。閉はめ込みの場合の形は、第 II 回 §1 の環付き空間の段(閉部分環付き空間の逆像がファイバー積であること、印字 9-05)と、有限表示のはめ込みの逆像が有限表示であること(印字 9-08)による。第 III 回の補題 2.2 の証明も、前の講演の結果として同じ形を引く(印字 10-04)。開はめ込みの場合は、上の命題(開はめ込みの底変換と非交和)の (1) で本書の中で示してある。
$(\mathrm{An})$ には有限射影極限がある。すなわち終対象(上の補題(一点の解析空間と終対象)の $e$)と、任意の二つの射 $X\to Z\leftarrow Y$ のファイバー積 $X\times_ZY$ が存在する。底の位相空間をとる関手は有限射影極限と交換する。したがって $(\mathrm{An})_{/S}$ にもファイバー積がある。
これは第 III 回の定理 2.1(印字 10-04)で、原論文の第 5 節の注意が「前の講演」で証明済みとして触れる積の存在である。第 III 回は証明を段の素描だけで述べ、本書はその証明を確かめていない。最後の文は本書『0-2 圏と前層』の「スライス圏」による。
本書はこの定理を主結果の判定には使わない。原論文の群構造の定め方が解析空間の圏では群対象の定義と一致すること(本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の注意)、系 3.5 と命題 3.7 の括弧の見込みが解析空間の圏で正しいこと(本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』『2-3 表現可能な関手の間の射』)、原論文の命題 3.10 (iii) が解析空間の圏では偽にならないこと(本書『2-4 安定性と射のクラス』の注意)、同値の対の読みが解析空間の圏では部分対象の読みと同じになること(本書『3-1 有効エピと降下』)、原論文の命題 5.6 の証明が積の存在を使わないという原論文の注意の説明(本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』)を述べるときだけに引く。
分離的でない解析空間と、冪零元をもつ解析空間の、最も簡単な例を置く。どちらも第 4 章の反例の材料になる。
$Y_1$、$Y_2$ を $E^1$ の二つの写しとし、開集合 $Y_1-\{0\}$ と $Y_2-\{0\}$ を恒等写像で貼り合わせた $k$ 代数の環付き空間を $L$ と書く(本書『0-3 層と環付き空間の貼り合わせ』の例「二枚の直線の貼り合わせ」を、層まで込めて $E^1$ で行ったもの。片が二つなのでコサイクル条件は自明である)。$Y_i$ の像への写像を $j_i\colon E^1\to L$、二つの原点の像を $0'$、$0''$ と書く。
(a) $L$ は解析空間である。各点が $E^1$ に同型な開近傍($j_1$ か $j_2$ の像)をもつからである。
(b) $j_1$、$j_2$ は開はめ込みで、像は $L$ を覆う。$j_1^{-1}(j_2(E^1))=E^1-\{0\}$ なので、上の命題の (1) により $j_1$ と $j_2$ のファイバー積は $E^1-\{0\}$ で、二つの射影はどちらも包含である。
(c) $L$ は分離的でない。$0'\ne0''$ だが、$0'$ の近傍は $j_1(B-\{0\})$ の形の集合を含み($B$ は $0$ を中心とする円板)、$0''$ の近傍は $j_2(B'-\{0\})$ の形の集合を含む。$x\ne0$ では $j_1(x)=j_2(x)$ で、$0$ は $k$ の孤立点でない(上の注意(基礎体の約束))ので $(B\cap B')-\{0\}$ は空でなく、二つの近傍は交わる。
第 II 回は定義 2.1 の注意でこの例を挙げ、同じ点を任意個に増やした変種が Picard 空間の研究に現れると書く(印字 9-09)。第 II 回の印字は二点について「一方のどの近傍も他方を含む」と読めるが、上の (c) のとおり正しくは「一方のどの近傍も他方のどの近傍とも交わる」であり($j_1(E^1)$ は $0'$ の近傍で $0''$ を含まない)、本書は後者で読む。例の要点(分離的でないこと)は変わらない。
$E^1$ の座標を $z$ とし、有限型の Ideal $z^2\mathcal O_{E^1}$ の定める閉部分解析空間を $D$ と書く。
(a) $D$ は一点 $0$ に環 $k\{z\}/(z^2)\cong k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ を与えた解析空間である。$x\ne0$ では $z^2$ の芽が可逆なので茎は $0$ になり、台は $\{0\}$ だからである。
(b) Ideal $(\varepsilon)$ の定める閉部分解析空間は $e$ で、包含 $e\to D$ は閉はめ込みであり、底の写像は同相(一点から一点)だが、同型ではない(環 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は $k$ と同型でない)。
(c) 上の補題(一点の解析空間と終対象)の (1) により、$\mathrm{Hom}(e,D)$ は $k$ 代数の射 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\to k$ の全体で一点である。$\mathrm{Hom}(D,D)$ は $\varepsilon\mapsto a\varepsilon$($a\in k$)の全体で、底の写像はどれも同じなので、射は底の写像では決まらない。
(d) 恒等射 $\mathrm{id}_D$ は $e\to D$ を経由しない。経由すれば $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ の恒等写像が $k$ を経由し、$\varepsilon$ が $0$ に送られるからである。
第 II 回は一点の空間に剰余体が $k$ の有限次元の局所 $k$ 代数を与えたものが解析空間であることを例 2.8 として示し、双対数の環 $k[T]/(T^2)$ の場合を詳しく述べる(印字 9-11〜9-13)。上の (a) はそれを閉部分空間として直接確かめたものである。
後代の複素解析幾何では、解析空間に底の位相空間の分離性(Hausdorff 性)を課すのが普通とされる(たとえば GR84。本書は該当箇所を確かめていない)。本書は連作第 II 回の定義に従い、分離性を課さない(上の定義(解析空間の定義)の (4))。これは本書が明示して足した仮定の一つである(本書『0-5 記号と約束』の「本書が足した仮定」)。
分離的な解析空間だけの圏で原論文の第 5 節を読むと、二つの命題が偽になる。命題 5.3 の「開はめ込みで局所的な同値の対は貼り合わせで商をもつ」は、二つの $E^1$ を原点の外で貼り合わせる同値の対で破れる。この対は条件を満たすが、分離的な商は無い。分離性を課さなければ、商は上の例「原点を二重にした直線」になる(本書『4-1 局所化射と貼り合わせの商』)。命題 5.6 の判定は、原点を二重にした直線への射の前層で破れる(本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』)。一方、系 5.7(底の開被覆による判定)は分離的な読みでも成り立つ(同じ頁)。
上の補題(点の部分空間の存在)の (1) のとおり、解析空間は局所的には分離的で、点は閉である。分離的でなくなるのは、貼り合わせの段で異なる片の点が分けられなくなるときだけである。
本書の第 4 章の主結果のうち、貼り合わせで作った空間が解析空間であることを証明で使うものは、札に「足した仮定:解析空間は分離的とは限らない」と書く。
原論文 Gro61iv の中で、本頁の事実が使われる箇所を並べる。原論文はどれにも所在を書かない。
| 原論文の箇所 | 印字頁 | 本頁の事実 |
|---|---|---|
| 注意 3.13 の用例(はめ込み・閉はめ込み・開はめ込みのクラス) | 11-11 | 解析空間の開部分空間とはめ込み、はめ込みの底変換、開はめ込みの底変換と非交和 |
| 第 5 節冒頭の $(\mathrm{An})$、定義 5.1 | 11-22 | 解析空間の定義、解析空間の射、開部分空間とはめ込み |
| 命題 5.2 とその証明(射は定義から局所的に決まる) | 11-22〜11-23 | 開はめ込みの底変換と非交和 |
| 命題 5.3 の証明(貼り合わせた空間は解析空間)、$S$ 上の版 | 11-23〜11-24 | 解析空間の定義(分離性を課さない)、開はめ込みの底変換と非交和の (3) |
| 定義 5.4、補題 5.5、命題 5.6、系 5.7 | 11-24〜11-26 | 開はめ込みの底変換と非交和 |
| 注意 5.8(前の講演の積の存在) | 11-26 | 解析空間のファイバー積の存在 |
| 点の部分空間 $e_t$、命題 5.9 | 11-27〜11-28 | 局所環の剰余体、剰余体が基礎体の局所代数の射、点の部分空間の存在、一点の解析空間と終対象 |
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