3-2 商と表現可能性の主定理

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

表現可能な前層 $F$ から前層 $G$ への射が与えられたとき、$F$ の自分自身とのファイバー積が同値の対を定めることを示し、$G$ が表現可能で射が与えられたクラスに属するための条件を、ファイバーの表現可能性・降下・同値の対の有効性の三つで与える。原論文の証明は $G$ の表現可能性で止まり、射がクラスに属することを示さないので、その段を補う。
前提知識: 前層, 表現可能関手, ファイバー積, 余等化子, 降下

この頁で示すこと

本書『3-1 有効エピと降下』と同じく、$\mathbf C$ は Hom が $\mathcal U$ 小な圏で、$X(Z)=\mathrm{Hom}(Z,X)$ と書く。$u\colon F\to G$ を $\mathbf C$ 上の前層の射とし、$F$ は組 $(X,\xi_X)$ で表されるとする($\xi_X\in F(X)$ は普遍元)。$\eta_X=u(X)(\xi_X)\in G(X)$ とおく。$\mathcal S$ は底変換で安定な射のクラスで、その元はすべて有効エピであるとする(したがって普遍有効エピである)。
本頁の主結果は次の六つである。

  1. ファイバー積が定める同値の対(原論文 命題 4.5、印字 11-16〜11-17):$u$ が表現可能なら $F\times_GF$ は表現可能で、それを表す対象 $R$ の二つの射影 $R\rightrightarrows X$ は同値の対である。[完結。足した仮定:同値の対の読み(原論文の同値の対の語を、原論文の文献 [1] III の各点で単射で像が同値関係のグラフである対と読む)]
  2. 商による表現可能性の判定(原論文 定理 4.7、印字 11-17〜11-21):$G$ が表現可能で $u$ を表す射が $\mathcal S$ に属することは、(a) すべてのファイバーが $\mathcal S$ に属する射で表されること、(b) $\mathcal S$ の元が $G$ 有効降下の射であること、(c) 主結果 1 の同値の対が有効で商射が $\mathcal S$ に属すること、の三つと同値である。[完結。足した仮定:同値の対の読み(条件 (c) の「graphe d'équivalence」とその「有効」を同じ意味で読む)]
  3. 降下データの関手との一致(原論文 系 4.8、印字 11-21):(a)(b) の下で、$G$ は $X$ の上の降下の組の関手に同型である。[完結]
  4. 最大の射のクラス(原論文 注意 4.9、印字 11-21):普遍有効エピで、その底変換がすべて $G$ 有効降下の射であるもの全体は、主結果 2 の前提と (b) を満たす最大のクラスで、$G$ が表現可能なら、$u$ を表す射は普遍有効エピでありさえすればこのクラスに属する。[完結]
  5. 有効性の条件の省略(原論文 注意 4.10 の前半、印字 11-21〜11-22):$\mathcal S$ が「射影の一方が $\mathcal S$ に属する同値の対は有効で、商射が $\mathcal S$ に属する」を満たせば、(c) は (a) から従う。[完結。足した仮定:同値の対の読み]
  6. 代数幾何の判定例の解析幾何への移し替え(原論文 注意 4.10 の後半、印字 11-22):原論文は、主結果 5 の条件を満たすクラスの重要な例が代数幾何にあり、解析幾何に移せると述べる。[未完結:原論文にも原論文の文献 [1] III にも移し替えの証明が無く、主張の精確な形も本講演に無い]
    主結果 1〜5 は、本書『0-2 圏と前層』の基本事実、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果と補題「表現の二つの言い方」、本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の主結果、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の定義「射のファイバー」「表現可能な射と底変換可能な射」、本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「表現可能な関手とのファイバー積」「底変換で安定な射のクラスの判定」、本書『3-1 有効エピと降下』の主結果と補題、頁内の補題だけで閉じ、事実を引用しない。原論文の定理 4.7 の証明は $G$ の表現可能性で終わり、$u$ を表す射が $\mathcal S$ に属することを示さないので、本頁はその段を補う(注意「原論文の証明の終わり方」)。主結果 4・5 は原論文が事実として述べるだけで証明が無いので、本頁が証明を与える。

背景と動機

前の頁の系 4.3(本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「商対象への射の記述」)は、商対象 $Y=X/R$ が分かっているときに、$Y$ へ入る射を $X$ の上の降下の組で書いた。表現可能性の問題では順序が逆になる。欲しいのは $Y$ そのもので、手元にあるのは $G$ と、$X$ で表される $F$ からの射 $u$ だけである。$G$ が表現可能になるなら、$Y$ は $X$ をある同値の対で割ったものになるはずで、その同値の対は $F\times_GF$ から読める。原論文はこれを「この節の主結果」と呼ぶ(印字 11-17)。
筋は二段に分かれる。第一段では、$G$ の値を降下の組の言葉に移す。(a) により、$G$ の元 $\eta$ ごとにファイバー $F_\eta$ が $\mathcal S$ の元で表され、それが一つの降下の組を与える。(b) は、この対応が単射かつ全射であること、すなわち $G$ が降下の組の関手に一致することを保証する。この段では $G$ はまだ表現可能とは限らない。第二段では、(c) により同値の対が有効な商をもち、前の頁の系 4.3 が降下の組の関手を商対象の点の前層と同一視する。こうして $G$ が表現可能になる。
原論文は、この定理を本講演では第 5 節の貼り合わせの判定に使うだけだと断る(本書『3-1 有効エピと降下』の「背景と動機」)。第 4 章では、$\mathcal S$ を解析空間の局所化射のクラスにとると、(b) が層の条件に、(c) が開はめ込みで局所的な同値の対の貼り合わせに言い換わる(下の例「開被覆に沿った降下の予告」)。

定義と準備

主定理の条件 (a) は第 2 章の言葉で書かれている。記号を確かめるために短く繰り返す。対象 $S$ と $\eta\in G(S)$ について、$u$ のファイバー $F_\eta$ は、$\mathbf C/S$ 上の前層 $F_\eta(T)=\{x\in F(T):u(T)(x)=G(p_T)(\eta)\}$($p_T\colon T\to S$ は構造射)である。$u$ が表現可能とは、すべての $S$ と $\eta\in G(S)$ について $F_\eta$ が $\mathbf C/S$ 上で表現可能であることをいう(本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の定義「射のファイバー」「表現可能な射と底変換可能な射」)。$F_\eta$ が $\mathbf C/S$ の対象 $(T,p_T)$ で表されるとき、「ファイバー $F_\eta$ は射 $p_T$ で表される」という。$G$ が組 $(Y,\eta_Y)$ で表されるとき、$u(X)(\xi_X)=G(f)(\eta_Y)$ を満たすただ一つの射 $f\colon X\to Y$ を、$u$ を表す射という。$G$ を表す別の組 $(Y_2,\eta_{Y_2})$ をとると、表す射は同型 $Y\to Y_2$ との合成に変わる(本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」)ので、本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」の (b) により、それが $\mathcal S$ に属するかどうかは組の選び方によらない。
降下の組とその関手は、本書『3-1 有効エピと降下』の定義「降下の組」と補題「降下の組の前層」のとおりである。$X$ の同値の対 $R$ と対象 $Y'$ について、$B_R(Y')$ は、$f'\colon X'\to Y'$ が $\mathcal S$ の元で、$v\colon X'\to X$ が $R'=X'\times_{Y'}X'$ から $R$ への射 $w$($p_iw=vp'_i$)を誘導し、正方形 $(w,p'_1,p_1,v)$ がカルテシアンであるような組 $(X',f',v)$ の同型類の全体で、射 $Y''\to Y'$ に沿う底変換で反変関手になる。

引用する事実

本頁は事実を引用しない。使うのは上に挙げた頁の主結果・補題・定義と、本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」「Hom は極限を保つ」「カルテシアン正方形の貼り合わせ」「エピと余等化子」だけである。

主結果と証明

まず $F\times_GF$ が同値の対を定めることを示し、その片が普遍元の上のファイバーを表すことを確かめる。この二つが主定理の証明の材料である。

ファイバー積の同値の対

ファイバー積が定める同値の対

$u$ が表現可能なら、前層 $F\times_GF$ は表現可能である。組 $(R,(\xi^1_R,\xi^2_R))$ がそれを表すとき、$F(p_i)(\xi_X)=\xi^i_R$($i=1,2$)を満たす射 $p_1,p_2\colon R\rightrightarrows X$ がただ一つずつあり、$(p_1,p_2)$ は同値の対である。

段 1(表現可能性).本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「表現可能な関手とのファイバー積」を、表現可能な $F$ と表現可能な射 $u\colon F\to G$ に当てると、$F\times_GF$ は表現可能である。
段 2(射影).$\xi^i_R\in F(R)$ なので、$F$ の普遍性により $F(p_i)(\xi_X)=\xi^i_R$ を満たす $p_i\colon R\to X$ がただ一つある。
段 3(各点で単射で像は同値関係).対象 $Z$ について、前層のファイバー積は点ごとに作られる(本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の主結果「前層の圏の極限と表現可能性」の (a))ので、$(F\times_GF)(Z)=\{(x_1,x_2)\in F(Z)^2: u(x_1)=u(x_2)\}$ である。$(R,(\xi^1_R,\xi^2_R))$ が表すので、$c\mapsto(F(c)\xi^1_R,F(c)\xi^2_R)$ は $R(Z)$ からこの集合への全単射で、$F(c)\xi^i_R=F(c)F(p_i)\xi_X=F(p_ic)\xi_X$ である。全単射 $X(Z)\to F(Z)$、$a\mapsto F(a)\xi_X$ で書き直すと、$c\mapsto(p_1c,p_2c)$ は $R(Z)$ から
$$\{(a_1,a_2)\in X(Z)^2:\ u(F(a_1)\xi_X)=u(F(a_2)\xi_X)\}$$
への全単射である。とくに $R(Z)\to X(Z)\times X(Z)$ は単射で、像は写像 $a\mapsto u(F(a)\xi_X)$ の定める同値関係のグラフである。

原論文は、証明で $P(Z)$ と書き、$P$ を定義しない(下の注意「印字の読み(命題 4.5 と定理 4.7 の証明)」)。命題 4.5 自身は、文献 [1] III の語「couple d'équivalence」をそのまま使う。本書が足した仮定(同値の対の読み)が効くのは、この対を主定理の条件 (c) で「graphe d'équivalence」と呼び直す所である。
次の補題は、原論文が定理 4.7 の証明の中で確かめる事実(印字 11-19)を独立させたもので、主定理の証明と主結果 5 で使う。

同値の対の片と普遍元の上のファイバー

$u$ が表現可能で、$(R,(\xi^1_R,\xi^2_R))$、$p_1,p_2$ を上の定理のとおりとする。$R$ を $p_1$ で $X$ の上の対象とみると、組 $((R,p_1),\xi^2_R)$ は $\mathbf C/X$ 上の前層 $F_{\eta_X}$ を表す。

段 1(普遍元が $F_{\eta_X}$ に入る).$u(\xi^2_R)=u(\xi^1_R)=u(F(p_1)\xi_X)=G(p_1)(u(\xi_X))=G(p_1)(\eta_X)$ なので、$\xi^2_R\in F_{\eta_X}(R,p_1)$ である。
段 2(全単射).$X$ の上の対象 $(T,t)$ をとる。上の定理の段 3 の全単射により、$T$ 点 $c\in R(T)$ は組 $(a_1,a_2)=(p_1c,p_2c)$ で $u(F(a_1)\xi_X)=u(F(a_2)\xi_X)$ を満たすものと一対一で、$X$ の上の射であること($p_1c=t$)は $a_1=t$ と同じである。$u(F(t)\xi_X)=G(t)(\eta_X)$ なので、$c\mapsto F(c)\xi^2_R=F(a_2)\xi_X$ は $\mathrm{Hom}_X((T,t),(R,p_1))$ から $\{x\in F(T): u(x)=G(t)(\eta_X)\}=F_{\eta_X}(T,t)$ への全単射である。これは $((R,p_1),\xi^2_R)$ が $F_{\eta_X}$ を表すことの定義である。

主定理

主定理の第一段で $G$ と比べる関手を、原論文にならって名付ける。

降下データの前層

$u$ が表現可能なとき、上の定理(ファイバー積が定める同値の対)の同値の対 $R$ について、本書『3-1 有効エピと降下』の補題「降下の組の前層」の関手 $B_R$ を $G'$ と書き、$X$ の上の降下データの前層と呼ぶ。すなわち $G'(Y')$ は、$Y'$ の上の降下の組 $(X',f',v)$($f'\in\mathcal S$、$v$ は $R'=X'\times_{Y'}X'$ から $R$ への射 $w$ を誘導し、正方形 $(w,p'_1,p_1,v)$ はカルテシアン)の同型類の全体である。

$G'$ は $X$ と $R$ と $\mathcal S$ だけで決まり、$G$ が表現可能かどうかによらない。原論文はこの段階で商 $X/R$ の存在を仮定しない、と断る(印字 11-18)。以上で主定理を述べられる。

商による表現可能性の判定

$F$ が $(X,\xi_X)$ で表され、$\mathcal S$ が底変換で安定で元がすべて有効エピであるとき、次の二つは同値である。
(i) $G$ は表現可能で、$u$ を表す射 $f\colon X\to Y$ は $\mathcal S$ に属する。
(ii) 次の三つが成り立つ。(a) すべての対象 $S$ と $\eta\in G(S)$ について、ファイバー $F_\eta$ は $\mathbf C/S$ の対象 $(T,p_T)$ で表され、$p_T$ は $\mathcal S$ に属する。(b) $\mathcal S$ の元はすべて $G$ 有効降下の射である。(c) ((a) により $u$ は表現可能なので)$F\times_GF$ を表す同値の対 $R$ は有効で、商射 $X\to X/R$ は $\mathcal S$ に属する。

(c) は $F\times_GF$ を表す組の選び方によらない。二つの組は射影と両立する同型で結ばれ(本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」)、有効性と商射は同型で移るからである。証明は二段に分ける。(a)(b) だけで $G$ が $G'$ に同型になることを先に示す。これが原論文の系 4.8 である。

降下データの関手との一致

上の定理の条件 (a)(b) が成り立つとする。対象 $Y'$ と $\eta\in G(Y')$ について、$F_\eta$ を表す組 $((X',f'),\xi_{X'})$ で $f'\in\mathcal S$ となるものをとり、$F(v)(\xi_X)=\xi_{X'}$ を満たすただ一つの $v\colon X'\to X$ をとる。このとき $(X',f',v)$ は $Y'$ の上の降下の組で、その類 $\alpha(Y')(\eta)\in G'(Y')$ は組の選び方によらない。$\alpha(Y')\colon G(Y')\to G'(Y')$ は全単射で、$Y'$ について自然である。すなわち $G\cong G'$ である。

段 1(組の選び方).(a) により $f'\in\mathcal S$ となる組がある。$F_\eta$ を表す別の組 $((X'_2,f'_2),\xi_{X'_2})$ とは、$\mathbf C/Y'$ の同型 $\varphi\colon X'\to X'_2$ で $F(\varphi)(\xi_{X'_2})=\xi_{X'}$ となるもので結ばれる(本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」を圏 $\mathbf C/Y'$ で使う)。$f'_2\varphi=f'$ なので、本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」の (b) により $f'_2$ も $\mathcal S$ に属する。$F(v_2\varphi)\xi_X=F(\varphi)\xi_{X'_2}=\xi_{X'}$ なので $v_2\varphi=v$ で、$\varphi$ は組の同型である。
段 2(射 $w$).$f'$ は有効エピなので $R'=X'\times_{Y'}X'$ が存在する。$\xi_{X'}\in F_\eta(X',f')$ なので $u(\xi_{X'})=G(f')(\eta)$ で、$u(F(p'_i)\xi_{X'})=G(p'_i)G(f')(\eta)=G(f'p'_i)(\eta)$ は $i=1,2$ で等しい。したがって $(F(p'_1)\xi_{X'},F(p'_2)\xi_{X'})\in(F\times_GF)(R')$ で、$R$ の普遍性により $F(w)(\xi^i_R)=F(p'_i)(\xi_{X'})$ を満たす $w\colon R'\to R$ がただ一つある。$F(p_iw)\xi_X=F(w)\xi^i_R=F(p'_i)F(v)\xi_X=F(vp'_i)\xi_X$ なので $p_iw=vp'_i$ である。
段 3(カルテシアン性).本書『3-1 有効エピと降下』の補題「カルテシアン性は点ごとに確かめられる」により、各 $Z$ で、$p_1c=vt$ を満たす $c\in R(Z)$、$t\in X'(Z)$ に、$wc'=c$、$p'_1c'=t$ を満たす $c'\in R'(Z)$ がただ一つあることを示せばよい。上の定理の段 3 により $c$ は組 $(a_1,a_2)$、$a_1=vt$、$u(F(a_1)\xi_X)=u(F(a_2)\xi_X)$ で、$c'$ は組 $(t',s)$、$f't'=f's$ で表され、$wc'=(vt',vs)$ である。したがって、$f's=f't$ かつ $vs=a_2$ を満たす $s\in X'(Z)$ がただ一つあることを示せばよい。$Z$ を $f't$ で $Y'$ の上の対象とみると、$F_\eta$ の普遍性により、$s\mapsto F(s)\xi_{X'}=F(vs)\xi_X$ は $\{s: f's=f't\}$ から $\{x\in F(Z): u(x)=G(f't)(\eta)\}$ への全単射である。$x=F(a_2)\xi_X$ はこの集合に入る。実際 $u(F(a_2)\xi_X)=u(F(vt)\xi_X)=u(F(t)\xi_{X'})=G(t)G(f')(\eta)$ である。ゆえに $F(vs)\xi_X=F(a_2)\xi_X$、すなわち $vs=a_2$ となる $s$ がただ一つある。以上で $(X',f',v)$ は降下の組で、段 1 により類は組の選び方によらない。
段 4(自然性).$h\colon Y''\to Y'$ と $\eta''=G(h)(\eta)$ をとる。$f'\in\mathcal S$ なので $X''=X'\times_{Y'}Y''$(射影 $q\colon X''\to X'$、$f''\colon X''\to Y''$)が存在し、安定性により $f''\in\mathcal S$ である。$Y''$ の上の対象 $(T,t)$ について、$c\mapsto qc$ は $\mathrm{Hom}_{Y''}(T,X'')$ から $\mathrm{Hom}_{Y'}((T,ht),(X',f'))$ への全単射で、$s\mapsto F(s)\xi_{X'}$ はそこから $F_\eta(T,ht)=\{x: u(x)=G(ht)(\eta)=G(t)(\eta'')\}=F_{\eta''}(T,t)$ への全単射である。合成は $c\mapsto F(c)(F(q)\xi_{X'})$ なので、$((X'',f''),F(q)\xi_{X'})$ は $F_{\eta''}$ を表す。$F(vq)\xi_X=F(q)\xi_{X'}$ なので、$\alpha(Y'')(\eta'')=[X'',f'',vq]=G'(h)(\alpha(Y')(\eta))$ である。
段 5(単射).$\alpha(\eta_1)=\alpha(\eta_2)$ とし、組の同型 $\varphi\colon X'_1\to X'_2$($f'_2\varphi=f'_1$、$v_2\varphi=v_1$)をとる。$G(f'_j)(\eta_j)=u(\xi_{X'_j})=u(F(v_j)\xi_X)=G(v_j)(\eta_X)$ なので、
$$G(f'_1)(\eta_2)=G(\varphi)G(f'_2)(\eta_2)=G(\varphi)G(v_2)(\eta_X)=G(v_1)(\eta_X)=G(f'_1)(\eta_1)$$
である。(b) により $f'_1$ は $G$ 有効降下の射で、とくに $G(f'_1)$ は単射なので $\eta_1=\eta_2$ である。
段 6(全射).降下の組 $(X',f',v)$ をとり、$\xi_{X'}=F(v)\xi_X$、$\eta_{X'}=u(\xi_{X'})=G(v)(\eta_X)$ とおく。$G(p_i)(\eta_X)=u(F(p_i)\xi_X)=u(\xi^i_R)$ は、$(\xi^1_R,\xi^2_R)\in(F\times_GF)(R)$ なので $i=1,2$ で等しい。したがって $G(p'_i)(\eta_{X'})=G(vp'_i)(\eta_X)=G(w)G(p_i)(\eta_X)$ も $i=1,2$ で等しい。(b) により $f'$ は $G$ 有効降下の射なので、$G(f')(\eta)=\eta_{X'}$ を満たす $\eta\in G(Y')$ がただ一つある。$\alpha(\eta)=[\bar X',\bar f',\bar v]$(普遍元 $\xi_{\bar X'}$)とする。$u(\xi_{X'})=G(f')(\eta)$ なので $\xi_{X'}\in F_\eta(X',f')$ で、$F_\eta$ の普遍性により $F(r)(\xi_{\bar X'})=\xi_{X'}$ を満たす $Y'$ 上の射 $r\colon X'\to\bar X'$ がただ一つある。$F(\bar vr)\xi_X=F(r)\xi_{\bar X'}=\xi_{X'}=F(v)\xi_X$ なので $\bar vr=v$ である。$\bar R'=\bar X'\times_{Y'}\bar X'$ とし、$r$ の誘導する $r_R\colon R'\to\bar R'$($\bar p'_ir_R=rp'_i$)をとる。$p_i\bar wr_R=\bar v\bar p'_ir_R=\bar vrp'_i=vp'_i=p_iw$ なので、同値の対の単射性により $\bar wr_R=w$ である。本書『0-2 圏と前層』の補題「カルテシアン正方形の貼り合わせ」を、右の正方形 $(\bar w,\bar p'_1,p_1,\bar v)$($[\bar X',\bar f',\bar v]$ の条件 (c) によりカルテシアン)と左の正方形 $(r_R,p'_1,\bar p'_1,r)$ に当てると、外側 $(w,p'_1,p_1,v)$ がカルテシアンなので、左の正方形もカルテシアンである。本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「カルテシアン正方形の降下」を、$\bar f'$、$f'$、$g=\mathrm{id}_{Y'}$、$v=r$($\bar f'r=f'$)とこの左の正方形に当てる。$f'\in\mathcal S$ は普遍有効エピなので、正方形 $(r,f',\bar f',\mathrm{id}_{Y'})$ はカルテシアンである。$(\bar X';\mathrm{id},\bar f')$ も同じファイバー積なので(本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」の (4))、両者を結ぶ射 $r$ は同型で(同じ補題の (1))、組の同型である。ゆえに $\alpha(\eta)=[X',f',v]$ である。
段 7(大きさ).段 5・6 により $G'(Y')$ は $G(Y')\in\mathcal U$ と一対一なので、$G'$ は(値を代表の集合に取り替えれば)前層で、$\alpha$ は前層の同型である。

段 5 は (b) のうち「$G(f')$ が単射」の部分だけを、段 6 は等化子の条件の全体を使う。(c) はまだ使っていない。$G$ は、$X$ の $\mathcal S$ 局所的な写しに $\eta$ を引き戻したものの全体として、すでに決まっている。残るのは、この関手が一つの対象で表されるかどうかで、それを決めるのが (c) である。

主定理(商による表現可能性の判定)の証明である。
段 1((i) から (a)).$G$ が $(Y,\eta_Y)$ で表され、$u$ を表す射 $f$ が $\mathcal S$ に属するとする。本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」により、すべてのファイバー $F_\eta$ は $\mathcal S$ に属する射で表される。
段 2((i) から (b)).$\mathcal S$ の元は有効エピで、$G$ は表現可能なので、本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「有効エピと表現可能な関手の降下」により、$\mathcal S$ の元は $G$ 有効降下の射である。
段 3((i) から (c)).$f$ は有効エピなので $X\times_YX$(射影 $\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2$)が存在する。$(X\times_YX,(F(\mathrm{pr}_1)\xi_X,F(\mathrm{pr}_2)\xi_X))$ は $F\times_GF$ を表す。実際、$Z$ 点 $c$ は組 $(a_1,a_2)$、$fa_1=fa_2$ と一対一で(本書『0-2 圏と前層』の補題「Hom は極限を保つ」)、$u(F(a)\xi_X)=G(a)G(f)(\eta_Y)=G(fa)(\eta_Y)$ と $(Y,\eta_Y)$ の普遍性から、$fa_1=fa_2$ は $u(F(a_1)\xi_X)=u(F(a_2)\xi_X)$ と同じだからである。本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」により、$F(\mathrm{pr}_i\varphi)\xi_X=\xi^i_R$、すなわち $\mathrm{pr}_i\varphi=p_i$ を満たす同型 $\varphi\colon R\to X\times_YX$ がある。本書『3-1 有効エピと降下』の補題「有効エピの定める同値の対」により $X\times_YX$ は有効な同値の対で $f$ はその商射であり、同型 $\varphi$ で移して、$R$ も有効で $f$ はその商射である(本書『0-2 圏と前層』の補題「エピと余等化子」の (3))。商射の別の選び方は $f$ に目標の側の同型を合成したものなので、本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」の (b) により $\mathcal S$ に属する。
段 4((ii) から $G\cong h_{X/R}$).(a)(b) により、上の定理(降下データの関手との一致)の同型 $\alpha\colon G\to G'=B_R$ がある。(c) により $R$ は有効で、商射 $q\colon X\to X/R$ は $\mathcal S$ に属する。$K=X\times_{X/R}X$ とし、$\varphi=(p_1,p_2)\colon R\to K$ を有効性の同型とする。$Y'$ の上の組 $(X',f',v)$ が $R$ について降下の組であることと、$K$ について降下の組であることは同じである。(b) の射 $w$ は $\varphi w$ に対応し、(c) の正方形は同型 $\varphi$ の合成で移る(本書『0-2 圏と前層』の補題「極限の普遍性と一意性」の (3))からである。底変換による関手の構造も $R$ によらないので $B_R=B_K$ である。本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「商対象への射の記述」を $q\in\mathcal S$ に当てると、$\beta\colon B_K\to h_{X/R}$(組 $(X',f',v)$ に $g'f'=qv$ となる $g'$ を対応させるもの)は関手の同型である。したがって $\Theta=\beta\circ\alpha\colon G\to h_{X/R}$ は前層の同型で、$G$ は表現可能である。
段 5($u$ を表す射は商射).$\eta_{X/R}=\Theta(X/R)^{-1}(\mathrm{id}_{X/R})$ とおくと、本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の補題「表現の二つの言い方」により $(X/R,\eta_{X/R})$ は $G$ を表し、$\Theta$ の自然性から $\Theta(Z)(G(a)(\eta_{X/R}))=a$($a\colon Z\to X/R$)である。したがって $u$ を表す射は $\Theta(X)(\eta_X)$ である。上の補題(同値の対の片と普遍元の上のファイバー)により $((R,p_1),\xi^2_R)$ は $F_{\eta_X}$ を表す。上の定理の段 1 と (a) により $p_1$ は $\mathcal S$ に属し、$F(v)\xi_X=\xi^2_R=F(p_2)\xi_X$ から $v=p_2$ なので、$\alpha(X)(\eta_X)=[R,p_1,p_2]$ である。$\beta$ はこれを $g'p_1=qp_2$ を満たす $g'\colon X\to X/R$ に送る。$qp_1=qp_2$ なので $g'=q$ はこれを満たし、$p_1$ は有効エピでエピなので、そのような $g'$ は $q$ に限る。ゆえに $u$ を表す射は $q$ で、(c) により $\mathcal S$ に属する。

段 5 で、$u$ を表す射が商射 $X\to X/R$ そのものであることが分かった。$G$ は $X$ を同値の対 $R$ で割った商で表され、$u$ はその商射に当たる。

原論文の証明の終わり方

原論文の (ii)⇒(i) の証明は、系 4.8 で $G\cong G'$ を得たあと、「$R$ が有効な同値の対で商射が $\mathcal S$ に属するなら、系 4.3 により $G'$ は $X/R$ で表される。これで定理 4.7 の証明が終わる」と結ぶ(印字 11-21)。しかし (i) は $G$ の表現可能性に加えて「$u$ を表す射が $\mathcal S$ に属すること」を主張し、原論文はこの後半に触れない。$G\cong h_{X/R}$ だけからは、$u$ を表す射が $X\to X/R$ のどれであるかは分からない。原論文の推論のままでは結論に届かない段である。本書は上の証明の段 5 で、$\eta_X$ に対応する降下の組が $(R,p_1,p_2)$ であること(上の補題(同値の対の片と普遍元の上のファイバー))と、系 4.3 の逆写像がそれを商射に送ることを示して埋めた。原論文は $\alpha$ の関手性も「系 3.9 を見よ、容易に確かめられる」とするだけなので(印字 11-19)、本書は上の定理(降下データの関手との一致)の段 4 で確かめた。

印字の読み(命題 4.5 と定理 4.7 の証明)
  1. 命題 4.5 の証明(印字 11-17)の $P(Z)$ の $P$ は定義されていない。文脈から $P=F\times_GF$ と読む。(2) 定理 4.7 の (ii) a(印字 11-17)の「$F_\eta=F\times_GG$」は、本書『2-2 ファイバーと表現可能な射』の主結果「ファイバーは引き戻しのファイバー積」の形 $F_\eta=F_{/S}\times_{G_{/S}}c_{/S}$($c_{/S}$ は $\eta$ の定める $\mathbf C/S$ 上の定数前層からの射)と読む。(3) 証明の $p_i$ の定義「$F(p_i)(\xi_X)=\xi^i_X$」(印字 11-18)の右辺は $\xi^i_R$ と読む。(4) 同じ頁の正方形 $(\mathrm D_1)$ の上の矢印は潰れて読めないが、次の頁の同じ正方形から $w$ と読む。(5) 「$f(w)(\xi^i_R)=\xi^i_{R'}$」(印字 11-19)の $f$ は $F$ と読む。(6) 同じ頁の「$(R,\xi^2_X)$ は $F_{\eta_X}$ を表す」は $(R,\xi^2_R)$ と読む。(7) 同じ頁の「$\xi^1_{R'}=F(w)(\xi^2_R)$」は、直前の $F(w)(\xi^i_R)=\xi^i_{R'}$ から左辺を $\xi^2_{R'}$ と読む。(8) 「$G(p_1)(\eta_X)=G(p_2(\eta_X))$」(印字 11-20)は $G(p_2)(\eta_X)$ と読む。どれも同じ段の前後の式が正しい形を与える誤植で、主張と証明の筋は変わらない。

条件の読み方

原論文は定理の後に、クラス $\mathcal S$ の選び方について二つの注意を置く。どちらも事実を述べるだけで証明が無いので、本頁が証明を与える。最初は、$G$ から決まる最大のクラスである。

最大の射のクラス

$\mathcal S_{\max}$ を、普遍有効エピ $h\colon X_1\to Y_1$ で、どの $Y'\to Y_1$ とどのファイバー積 $X_1\times_{Y_1}Y'$ の選び方についても射影 $X_1\times_{Y_1}Y'\to Y'$ が $G$ 有効降下の射であるもの全体とする。
(1) $\mathcal S_{\max}$ は底変換で安定で、元はすべて有効エピで、上の定理(商による表現可能性の判定)の条件 (b) を満たす。
(2) $\mathcal S$ が上の定理の前提と条件 (b) を満たせば、$\mathcal S\subset\mathcal S_{\max}$ である。したがって、$\mathcal S$ について (a)(c) が成り立てば $\mathcal S_{\max}$ についても成り立つ。
(3) $G$ が表現可能なら、$\mathcal S_{\max}$ は普遍有効エピの全体に一致する。とくに $u$ を表す射が普遍有効エピなら、$\mathcal S_{\max}$ について上の定理の (i)、したがって (ii) が成り立つ。

  1. $h\in\mathcal S_{\max}$、$g\colon Y'\to Y_1$ と、ファイバー積の任意の選び方 $(X';a,h')$ をとる。本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「普遍有効エピのクラス」により $h'$ は普遍有効エピである。$k\colon Y''\to Y'$ について、$X'\times_{Y'}Y''$ の任意の選び方は、本書『0-2 圏と前層』の補題「カルテシアン正方形の貼り合わせ」により $X_1\times_{Y_1}Y''$($gk$ に沿う)の一つの選び方なので、その射影は $G$ 有効降下の射である。ゆえに $h'\in\mathcal S_{\max}$ である。元が有効エピであることは普遍有効エピの定義から、(b) は $g=\mathrm{id}_{Y_1}$ と選び方 $(X_1;\mathrm{id},h)$ に定義を当てれば従う。
  2. $h\in\mathcal S$ とする。$h$ のどの底変換も(任意の選び方で)$\mathcal S$ に属するので有効エピであり、$h$ は普遍有効エピである。それらは (b) により $G$ 有効降下の射なので、$h\in\mathcal S_{\max}$ である。(a)(c) の「$\mathcal S$ に属する」は「$\mathcal S_{\max}$ に属する」を含む。
  3. $G$ が表現可能なら、本書『3-1 有効エピと降下』の主結果「有効エピと表現可能な関手の降下」により、有効エピはすべて $G$ 有効降下の射である。普遍有効エピの底変換は有効エピなので、普遍有効エピはすべて $\mathcal S_{\max}$ に属する。後半は定義と (1)、上の定理から従う。

原論文は、$\mathcal S_{\max}$ をとると表現可能性の「最も広い仮定」が得られ、判定は $u$ を表す射が普遍有効エピである限り「理論的には」いつでも使える、と書く(印字 11-21)。(2) の意味で $\mathcal S_{\max}$ は最も弱い条件を与えるが、その元を実際に見分けるのは難しい。それが次の注意の出発点である。

有効性の条件の省略

$\mathcal S$ が上の定理の前提に加えて次の条件 (P) を満たすとする。(P) $\mathbf C$ のどの同値の対 $p_1,p_2\colon R_1\rightrightarrows X_1$ についても、$p_1$ が $\mathcal S$ に属するなら、$R_1$ は有効で、商射 $X_1\to X_1/R_1$ は $\mathcal S$ に属する。このとき、上の定理の条件 (c) は条件 (a) から従う。

(a) により $u$ は表現可能で、上の定理(ファイバー積が定める同値の対)により $F\times_GF$ を表す $R$ は同値の対である。上の補題(同値の対の片と普遍元の上のファイバー)により、$((R,p_1),\xi^2_R)$ は $F_{\eta_X}$ を表す。(a) により $F_{\eta_X}$ は $\mathcal S$ に属する射 $T\to X$ で表され、二つの表し方は $X$ の上の同型で結ばれる(本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「普遍問題の解の一意性」)ので、本書『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「底変換で安定な射のクラスの判定」の (b) により $p_1$ は $\mathcal S$ に属する。(P) により $R$ は有効で、商射は $\mathcal S$ に属する。これが (c) である。

原論文は「(c) は他の二つの条件から従う」と書くが、上の証明が使うのは (a) だけである。(b) は主定理の残りの部分で使う。足した仮定(同値の対の読み)は、(P) の「同値の対」を主結果 1 の対と同じ意味で読むために要る。

原論文の注意 4.10 の所見

原論文は注意 4.10 で、実際には普遍有効エピを特徴づける方法が分からないので、扱いやすいクラス、たとえば忠実平坦な射(全射で平坦な射)で作業するほうがよいと述べ、忠実平坦な射は後の講演で扱うと予告する(印字 11-21〜11-22)。どの講演かを本書は特定していない。さらに、一般には条件 (c) が最も確かめにくい、と括弧で添える。どれも所見と予告で、本書は判定しない。

最後の文は、主結果 5 の条件 (P) を満たすクラスの例についての主張である。原論文はこれを事実として述べるが、証明は無い。

代数幾何の判定例の解析幾何への移し替え

原論文は、条件 (P) の形の定理が成り立つ場合があり、代数幾何にその重要な例があって「d'ailleurs transposables à la géométrie analytique」と述べ、文献 [1] III(Gro61quot)を引く(印字 11-22)。本書はこの主張を[未完結]とする。第一に、どのクラス $\mathcal S$ についての、どの形の定理を指すのかが本講演に書かれていない。第二に、解析幾何への移し替えの証明は、本講演にも文献 [1] III にも無い(本書は文献 [1] III を同値の対の定義の所しか開いていない)。本書は精確な主張の形も証明も立てられない。第 4 章の貼り合わせの判定は、(P) に頼らず (c) を直接確かめる(本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』)。

主結果 2 の境界の場合を確かめておく。$F$ は $(X,\xi_X)$ で表されるので $G(X)$ は元 $\eta_X$ をもち、$\mathcal S$ が空なら (a) は $\eta_X$ で破れ、(i) も破れる。(a)(b) の下では、$G(Y')$ が空な対象で、上の定理(降下データの関手との一致)により $G'(Y')$ も空である。集合の圏で $X=\emptyset$ のときも、$R=\emptyset$ で以上の議論はそのまま通る。

例と反例

集合の圏では条件 (b)(c) が自動的に成り立ち、主定理は条件 (a) だけの判定になる。まずそれを確かめ、次に第 4 章で主定理がどう使われるかを予告する。条件 (b) または (c) の一つだけを外して結論が崩れる例は、本書は検算できたものを持たないので載せない。

集合の圏での定理の読み

$\mathbf C=(\mathrm{Ens})$、$\mathcal S$ を全射の全体とする(本書『3-1 有効エピと降下』の例「集合の圏の全射は普遍有効エピ」により、主定理の前提を満たす)。
(1) 条件 (c) は自動的に成り立つ。$R$ は集合の圏の同値の対なので、本書『3-1 有効エピと降下』の例「同値関係の商集合と有効な同値の対」により有効で、商射は全射である。
(2) 条件 (b) は、どの前層 $G$ についても成り立つ。全射 $f\colon X_1\to Y_1$ をとる。$Y_1=\emptyset$ なら $X_1=\emptyset$ で $f$ は恒等写像なので明らかである。$Y_1\ne\emptyset$ なら、選択公理により $fs=\mathrm{id}$ となる $s\colon Y_1\to X_1$ がある。$G(s)G(f)=\mathrm{id}$ なので $G(f)$ は単射である。$x\in G(X_1)$ が $G(\mathrm{pr}_1)x=G(\mathrm{pr}_2)x$ を満たすとき、$f\circ sf=f$ なので $\sigma=(\mathrm{id},sf)\colon X_1\to X_1\times_{Y_1}X_1$ があり、
$$x=G(\mathrm{pr}_1\sigma)x=G(\sigma)G(\mathrm{pr}_1)x=G(\sigma)G(\mathrm{pr}_2)x=G(\mathrm{pr}_2\sigma)x=G(sf)x=G(f)(G(s)x)$$
である。ゆえに $f$ は $G$ 有効降下の射である。
(3) したがって集合の圏では、主定理は「$G$ が表現可能で $u$ を表す写像が全射であることは、(a) と同値」と読める。このとき $G$ は、$X$ を関係「$u(F(a_1)\xi_X)=u(F(a_2)\xi_X)$」(一点集合からの写像 $a_1,a_2$ で見たもの)で割った商集合で表され、$u$ はその商写像に当たる。
(4) 条件 (a) は自動的ではない。本書『1-2 前層の圏の極限と関手で与える構造』の例「前層の積と表現対象の積」の前層 $H(T)=\mathrm{Hom}(T,\{a\})\sqcup\mathrm{Hom}(T,\{b\})$ をとる。$X=\{a\}$、$F=h_X$、$\xi_X=\mathrm{id}_X$ とし、$u\colon F\to H$ を $H(X)$ の第 1 成分の元 $\mathrm{id}_{\{a\}}$ の定める射とする(本書『1-1 米田の対応と表現可能関手』の主結果「米田の対応」)。$H(\emptyset)$ の第 2 成分の元 $\eta$ について、$(\mathrm{Ens})/\emptyset$ の対象は $\emptyset$ だけで、$F_\eta(\emptyset)$ は空写像 $\emptyset\to X$ の像が $\eta$ になる場合の集合だが、その像は第 1 成分の元なので $F_\eta(\emptyset)=\emptyset$ である。表現可能な前層の値は表す対象の上で空でないので、$F_\eta$ は表現可能でなく、(a) は破れる。実際 $H$ は表現可能でない(同じ例の (b))。

  1. の議論は、切断をもつエピがどの前層についても有効降下の射であることを示している。集合の圏では全射がすべて切断をもつので、降下の条件は空になる。一般の圏では、それが (b) として残る。
開被覆に沿った降下の予告

第 4 章では、$\mathbf C$ を解析空間の圏 $(\mathrm{An})$(またはその上の圏 $(\mathrm{An})_{/S}$)、$\mathcal S$ を局所化射(全射で、源が開集合の非交和に分かれ、各片の上で開はめ込みである射)のクラスにとる。本書『4-1 局所化射と貼り合わせの商』の主結果「局所化射の基本性質」は、このクラスが主定理の前提を満たすことを示す。そのとき条件 (a) は「各ファイバーが開はめ込みの非交和で表され、底を覆う」ことに、(b) は $G$ が開被覆について層になること(本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』の主結果「局所的な関手の言い換え」)に、(c) は開はめ込みで局所的な同値の対の貼り合わせ(本書『4-1 局所化射と貼り合わせの商』の主結果「はめ込みで局所的な同値の対の商」)に言い換わる。こうして主定理から、本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』の主結果「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」が導かれる。ここでは言い換えの見取り図を述べるだけで、証明と、そこで要る足した仮定(解析空間は分離的とは限らないこと、空の和と空の被覆の扱い)は第 4 章に置く。

その後の発展

以下は後代の展開の紹介である(2026 年時点の一般的な記述。本書は各文献の該当箇所を確かめていない)。

  • 商と Hilbert スキーム:スキームの圏での商の存在と、そのための同値関係の条件は、原論文が引く Bourbaki セミナーの講演 Gro61quot で扱われ、Hilbert スキームの構成を含む講演集 FGA にまとめられた。今日の解説として FGAex が挙げられることが多い。原論文の主定理は、その議論を集合値の関手の水準に抜き出した形である。
  • 代数空間:スキームをエタールな同値関係で割った商として代数空間を定める理論は、Artin Art71 と Knutson Knu71 により 1970 年前後に展開された。そこでは商が一般にはスキームの圏に無いことを前提に、圏を広げて商を作る。表現可能な前層の同値関係による商の表現可能性という原論文の問題は、その前段に当たると説明されることがある。
  • Teichmüller 空間:原論文は §4 の冒頭で、この定理の一般形が Teichmüller 空間の構成に要ると予告した。構成は同じ連作の第 X 回 Gro61x で、その公理的な記述は第 I 回 Gro61i で行われる(本書は二つの回を開いていない)。
  • 忠実平坦な降下:原論文が「後の講演」に送る忠実平坦な射のクラスについては、代数幾何での降下の理論が Bourbaki セミナーの講演 Gro60desc にある。原論文が指す後の講演がどれかは、本書は特定していない。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Techniques de construction en géométrie analytique IV Gro61iv の第 4 節の後半である。

本頁原論文印字頁
定理(ファイバー積が定める同値の対)注意 4.4 の後の設定と命題 4.5、その証明11-16〜11-17
補題(同値の対の片と普遍元の上のファイバー)定理 4.7 の証明の中の $(\mathrm D_1)$ のカルテシアン性の段11-19
定義(降下データの前層)定理 4.7 の証明の $G'(Y')$ の定義11-18
定理(商による表現可能性の判定)定理 4.7 とその証明11-17〜11-21
定理(降下データの関手との一致)定理 4.7 の証明の第一段($\alpha$ の定義、単射、全射)と系 4.811-18〜11-21
注意(原論文の証明の終わり方)系 4.8 の後の段11-21
注意(印字の読み(命題 4.5 と定理 4.7 の証明))命題 4.5 と定理 4.7 の証明の記号11-17〜11-20
定理(最大の射のクラス)注意 4.911-21
定理(有効性の条件の省略)、注意(原論文の注意 4.10 の所見)注意 4.1011-21〜11-22
注意(代数幾何の判定例の解析幾何への移し替え)注意 4.10 の括弧(文献 [1] III への送り)11-22
例(集合の圏での定理の読み)、例(開被覆に沿った降下の予告)原論文に無い(本書が補った)—

参考文献

[1]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. IV. Formalisme général des foncteurs représentables(exposé n° 11), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 1, 1961, 1–28
[2]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. I. Description axiomatique de l'espace de Teichmüller et de ses variantes(exposés n° 7 et 8), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 1, 1961, 1–33
[3]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. III. Produits fibrés d'espaces analytiques(exposé n° 10), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 1, 1961, 1–11
[4]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. II. Généralités sur les espaces annelés et les espaces analytiques(exposé n° 9), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 1, 1961, 1–14
[5]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. X. Construction de l'espace de Teichmüller(exposé n° 17), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 2, 1961, 1–20
[6]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. V. Fibrés vectoriels, fibrés projectifs, fibrés en drapeaux(exposé n° 12), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 1, 1961, 1–15
[7]
Alexander Grothendieck, Technique de descente et théorèmes d'existence en géométrie algébrique. II. Le théorème d'existence en théorie formelle des modules(exposé n° 195), Séminaire Bourbaki, années 1958/59–1959/60, 1960, 369–390
[8]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. IX. Quelques problèmes de modules(exposé n° 16), Séminaire Henri Cartan, Familles d'espaces complexes et fondements de la géométrie analytique 13e année (1960/61), tome 13, n° 2, 1961, 1–20
[9]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction et théorèmes d'existence en géométrie algébrique. III. Préschémas quotients(exposé n° 212), Séminaire Bourbaki, années 1960/61, 1961, 99–118
[10]
Samuel Eilenberg, Saunders Mac Lane, General theory of natural equivalences, Transactions of the American Mathematical Society, 1945, 231–294
[11]
Alexander Grothendieck, Sur quelques points d'algèbre homologique, Tôhoku Mathematical Journal, 1957, 119–221
[12]
Daniel M. Kan, Adjoint functors, Transactions of the American Mathematical Society, 1958, 294–329
[13]
Alexander Grothendieck, Fondements de la géométrie algébrique(Séminaire Bourbaki の講演の集成), Secrétariat mathématique, Paris, 1962
[16]
Michael Artin, Alexander Grothendieck, Jean-Louis Verdier, Théorie des topos et cohomologie étale des schémas (SGA 4), 269, 270, 305, Springer, Lecture Notes in Mathematics, 1972
[17]
Nobuo Yoneda, On the homology theory of modules, Journal of the Faculty of Science, University of Tokyo, Section I, 1954, 193–227
[18]
Michel Demazure, Alexander Grothendieck, Schémas en groupes (SGA 3), 151, 152, 153, Springer, Lecture Notes in Mathematics, 1970
[20]
Adrien Douady, Le problème des modules pour les sous-espaces analytiques compacts d'un espace analytique donné, Annales de l'Institut Fourier, 1966, 1–95
[24]
Jean-Pierre Serre, Faisceaux algébriques cohérents, Annals of Mathematics, 1955, 197–278
[25]
Michel Demazure, Pierre Gabriel, Groupes algébriques, Tome I : Géométrie algébrique, généralités, groupes commutatifs, Masson / North-Holland, 1970
[26]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique I(新版), 166, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, 1971
[28]
Donald Knutson, Algebraic Spaces, 203, Springer, Lecture Notes in Mathematics, 1971
[29]
Alexander Grothendieck, Technique de descente et théorèmes d'existence en géométrie algébrique. I. Généralités. Descente par morphismes fidèlement plats(exposé n° 190), Séminaire Bourbaki, années 1958/59–1959/60, 1960, 299–327
[30]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique I:Le langage des schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1960, 5–228
[33]
Jean Giraud, Méthode de la descente, Mémoires de la Société Mathématique de France, 1964, 1–156

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
表現可能関手の一般形式(Grothendieck「Techniques de construction en géométrie analytique IV」を読む)の表紙
次ページへ