本書の第 4 章が使う位相空間の層と環付き空間の基本(開集合の上の前層と層、空の被覆の約束、環付き空間と $k$ 代数の環付き空間、開部分環付き空間、環付き空間の貼り合わせ、射の貼り合わせ、分離的な空間、開かつ閉な部分と非交和)を集めた頁である。定義のほかは引用としてまとめる。本書の札の基準では、この頁の定理として引く事実(二つの貼り合わせ)を使う主結果は[条件付き]で、札に使った事実を名指す。定義を使うことは札に影響しない。案内に挙げる文献の該当箇所は、本書では確かめていない。圏・前層・極限の一般論は本書『0-2 圏と前層』に、解析空間の定義と開はめ込みは本書『0-4 解析空間』に、記号と本書が足した仮定の一覧は本書『0-5 記号と約束』にある。
前提知識: 位相空間, 開被覆, 層, 環付き空間, Hausdorff空間
原論文の定義 5.4 は、$S$ 上の解析空間の圏の上の前層 $G$ を、各 $T$ の開集合 $U$ に $G(U)$ を対応させる前層とみて、それが層であることを求める(原論文の印字 11-24)。その「層」の意味をここで決める。原論文は空の被覆に触れないので、本書はそれを含める約束を足す。
$T$ を位相空間とする。$T$ の開集合を対象とし、包含 $V\subset U$ をただ一つの射 $V\to U$ とする圏を $\mathrm{Ouv}(T)$ と書く。$\mathrm{Ouv}(T)$ 上の前層(本書『0-2 圏と前層』の定義「圏と関手と前層」の意味)を $T$ の上の前層といい、$V\subset U$ に対応する写像 $P(U)\to P(V)$ を $s\mapsto s|_V$ と書く。
$U$ の開被覆とは、$\mathcal U$ 小な添字集合 $I$ と $U$ の開集合の族 $(U_i)_{i\in I}$ で $\bigcup_iU_i=U$ となるものである。添字集合が空の族は、空集合 $\emptyset$ の開被覆に含める(空の被覆)。前層 $P$ が層であるとは、$T$ のどの開集合 $U$ とどの開被覆 $(U_i)_{i\in I}$ についても、写像の図式
$$P(U)\longrightarrow\prod_{i\in I}P(U_i)\rightrightarrows\prod_{(i,j)\in I\times I}P(U_i\cap U_j)$$
(左の写像は $s\mapsto(s|_{U_i})$、右の二本は $(s_i)\mapsto(s_i|_{U_i\cap U_j})$ と $(s_i)\mapsto(s_j|_{U_i\cap U_j})$)が等化子であることをいう。すなわち、重なりで一致する族 $(s_i)$ にはちょうど一つの $s\in P(U)$ があって $s|_{U_i}=s_i$ となる。
空の被覆について条件を書くと、右の二つの積は空の族の積で一点集合なので、層の条件は $P(\emptyset)$ が一点集合であることを言う。環の層(各 $P(U)$ が環で制限が環の準同型であるもの)では、$P(\emptyset)$ は零環である。
空集合は空でない族でも被覆できる(すべての片が $\emptyset$ の族)。その被覆についての条件は $P(\emptyset)$ を一点にしない。空の被覆の約束が効くのはこの点で、次の反例がその違いを示す。
上の定義(前層と層)の層の条件から、空の被覆についての条件を外す。$T$ を二点 $a,b$ からなる離散空間とし、前層 $P$ を、すべての開集合 $U$($\emptyset$ を含む)で $P(U)=\{0,1\}$、制限をすべて恒等写像として定める。空でない被覆 $(U_i)$ について、重なりで一致する族 $(s_i)$ は、重なり($\emptyset$ を含む)での値がすべて同じ集合 $\{0,1\}$ の恒等写像で比べられるので、すべての $s_i$ が等しい族に限る。そのような族は $s=s_i$ でただ一通りに $P(U)$ から来るので、空でない被覆についての条件はすべて成り立つ。しかし $P(\emptyset)$ は二点で、空の被覆についての条件は破れる。
この前層では、互いに交わらない開集合の和 $\{a,b\}=\{a\}\sqcup\{b\}$ の上の値 $P(\{a,b\})=\{0,1\}$ は $P(\{a\})\times P(\{b\})$(四点)と一致しない。空の被覆を含めて層であれば $P(\emptyset)$ は一点なので、互いに交わらない被覆では重なりの条件が空になり、値は積になる。本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』の「和を積に移す」の条件は、この約束の下で層の条件の一部になる。
本書は、原論文の「層」をこの約束(空の和と空の被覆を含める)で読む。これは本書が足した仮定の一つで、本書『0-5 記号と約束』にまとめる。外したときに原論文のどの主張が崩れるかは、本書『4-2 局所的な関手の表現可能性』の反例「反例:空の被覆を除くと判定が崩れる」で示す。
原論文は、命題 5.3 の証明で貼り合わせた空間を「$k$ 代数の環付き空間」とみる(原論文の印字 11-24)が、環付き空間を定義しない。連作第 II 回 Gro61ii は、環付き空間の一般論を FAC Ser55 と、文献番号 [2] で引く当時刊行中の Grothendieck–Dieudonné の本の第 0 章の §4・§5 に送り(第 II 回の印字 9-08。この [2] は EGA1 に当たると読むが、本書は第 II 回の文献表と EGA I の該当箇所を開いて確かめていない)、$k$ 代数の環付き空間を一点の空間の上の環付き空間として述べる(印字 9-09)。本書の読みを次に定める。
環付き空間とは、位相空間 $X$ と、$X$ の上の可換環(単位元をもつ)の層 $\mathcal O_X$ の組 $(X,\mathcal O_X)$ である。$k$ を体とし、$\mathcal O_X$ が $k$ 代数の層(各 $\mathcal O_X(U)$ が $k$ 代数で制限が $k$ 代数の準同型であるもの)であるとき、$k$ 代数の環付き空間という。
$k$ 代数の環付き空間の射 $f\colon X\to Y$ は、連続写像 $f$ と、$Y$ の上の $k$ 代数の層の射 $f^\sharp\colon\mathcal O_Y\to f_*\mathcal O_X$($(f_*\mathcal O_X)(V)=\mathcal O_X(f^{-1}(V))$)の組である。合成は $(g\circ f)^\sharp(W)=f^\sharp(g^{-1}(W))\circ g^\sharp(W)$ で定める。局所環の射であることは課さない。
$X$ の開集合 $U$ に $\mathcal O_X$ の $U$ の開集合への制限 $\mathcal O_X|_U$ を与えたものを開部分環付き空間といい、同じ記号 $U$ で書く。包含写像 $j\colon U\to X$ と、$X$ の開集合 $V$ ごとの制限写像 $\mathcal O_X(V)\to\mathcal O_X(V\cap U)=\mathcal O_U(j^{-1}(V))$ からなる層の射 $j^\sharp\colon\mathcal O_X\to j_*\mathcal O_U$ の組が射 $U\to X$ を定め、これを包含という($V\subset U$ のとき $j^\sharp(V)$ は恒等写像である)。射 $g\colon X\to Z$ の $U$ への制限 $g|_U$ は、$g$ と包含の合成である。空の位相空間に零環の層を与えたものを空の環付き空間 $\emptyset$ と書く。
解析空間の射は $k$ 代数の環付き空間の射であり、茎の上で自動的に局所的になることは本書『0-4 解析空間』にある。開部分環付き空間を経由する射の記述も同じ頁の命題「開はめ込みの底変換と非交和」の証明にある。
原論文は、命題 5.3 の証明の終わりで、位相空間と環の層の貼り合わせで商空間が得られることを「よく知られている」とだけ書く(原論文の印字 11-23〜11-24)。命題 5.2 (iv) でも、射が開被覆の上で貼り合わさることを「射の定義から自明」とする(印字 11-23)。本書はこの二つを引用する事実として立てる。
$I$ を $\mathcal U$ 小な集合、$(X_i)_{i\in I}$ を $k$ 代数の環付き空間の族とし、$i,j\in I$ ごとに開集合 $X_{ij}\subset X_i$ と $k$ 代数の環付き空間の同型 $\varphi_{ji}\colon X_{ij}\to X_{ji}$ が与えられ、次を満たすとする。
(a) $X_{ii}=X_i$、$\varphi_{ii}=\mathrm{id}$。
(b) $\varphi_{ji}(X_{ij}\cap X_{ik})=X_{ji}\cap X_{jk}$。
(c) $X_{ij}\cap X_{ik}$ の上で $\varphi_{kj}\circ\varphi_{ji}=\varphi_{ki}$(コサイクル条件)。
このとき、$k$ 代数の環付き空間 $Y$、その開被覆 $(Y_i)_{i\in I}$、同型 $\psi_i\colon X_i\to Y_i$ で、$\psi_i(X_{ij})=Y_i\cap Y_j$、$X_{ij}$ の上で $\psi_j\circ\varphi_{ji}=\psi_i$ を満たすものがある。そのような $(Y,(\psi_i))$ は、$\psi_i$ と両立するただ一つの同型を除いて一意である。$Y$ の底の位相空間は、非交和 $\coprod_iX_i$ を「$x\in X_{ij}$ と $\varphi_{ji}(x)$ を同じとみなす」同値関係で割った商空間で、$\psi_i$ の底の連続写像は商写像の $X_i$ への制限である。$Y$ の開集合 $W$ について、商写像による $W$ の逆像の $X_i$ の部分を $W_i\subset X_i$ と書くと、$\mathcal O_Y(W)$ は、切断の族 $(s_i\in\mathcal O_{X_i}(W_i))_i$ で、どの $i,j$ についても $X_{ij}\cap W_i$ の上で $s_i|_{X_{ij}\cap W_i}=\varphi_{ji}^\sharp\bigl(s_j|_{X_{ji}\cap W_j}\bigr)$($\varphi_{ji}(X_{ij}\cap W_i)=X_{ji}\cap W_j$ に沿う引き戻し)を満たすものの全体である。$I=\emptyset$ なら $Y=\emptyset$ である。
条件 (a)〜(c) は、商をとるための関係が同値関係になることを保証する((a) が反射律、(c) を $k=i$ に当てた $\varphi_{ij}\varphi_{ji}=\mathrm{id}$ が対称律、(b)(c) が推移律)。原論文の命題 5.3 の証明は $X_{ii}=X_i$ とコサイクルの式だけを書き(原論文の印字 11-23)、(b) の等号を書かない。本書『4-1 局所化射と貼り合わせの商』の主結果「はめ込みで局所的な同値の対の商」は、(b) の等号も同値の対から導いてからこの定理を使う。
$X$、$Z$ を $k$ 代数の環付き空間とする。
(1) $X$ の開被覆 $(U_i)_{i\in I}$ と射 $g_i\colon U_i\to Z$ の族で、どの $i,j$ についても $U_i\cap U_j$ の上で $g_i$ と $g_j$ の制限が一致するものがあれば、各 $U_i$ への制限が $g_i$ である射 $g\colon X\to Z$ がただ一つある。すなわち、$X$ の開集合 $U$ に $\mathrm{Hom}(U,Z)$ を、包含に射の制限を対応させる前層は、上の定義(前層と層)の意味の層である(空の被覆については、$\emptyset$ から $Z$ への射がただ一つであることに当たる)。
(2) 上の定理(環付き空間の貼り合わせ)の $Y$ から $Z$ への射は、$X_{ij}$ の上で $g_j\circ\varphi_{ji}=g_i$ を満たす射 $g_i\colon X_i\to Z$ の族と、$g\mapsto(g\circ\psi_i)_i$ によって一対一に対応する。
貼り合わせで作った空間は、片がどれも分離的でも分離的とは限らない。連作は解析空間に分離性を要求しないので(本書『0-4 解析空間』)、この違いが第 4 章の主張の成否に効く。また原論文の定義 5.1 の局所化射は、開集合の非交和からの射として定義される(原論文の印字 11-22)。二つの語をここで定める。
位相空間 $X$ は、相異なる二点がつねに互いに交わらない開近傍をもつとき分離的(Hausdorff)であるという。$X$ の部分集合で開かつ閉なものを開かつ閉な部分という。互いに交わらない開かつ閉な部分の族 $(X_i)$ で $X$ を覆うものを、$X$ の開かつ閉な分解といい、$X=\coprod_iX_i$ と書く。
$\mathcal U$ 小な集合 $I$ と $k$ 代数の環付き空間の族 $(X_i)_{i\in I}$ の非交和 $\coprod_iX_i$ は、底の集合を非交和とし、各 $X_i$ との交わりが開である部分集合を開集合とし、開集合 $W$ に $\prod_i\mathcal O_{X_i}(W\cap X_i)$ を対応させる層を与えた $k$ 代数の環付き空間である。各 $X_i$ はその開かつ閉な部分で、誘導された構造はもとの $X_i$ である。$I=\emptyset$ のとき非交和は空の環付き空間 $\emptyset$ である。
逆に、$k$ 代数の環付き空間 $X$ の開かつ閉な分解 $X=\coprod_iX_i$ があれば、上の定義(前層と層)の空の被覆を含む層の条件により $\mathcal O_X(W)=\prod_i\mathcal O_X(W\cap X_i)$ となり(重なりが空で、空集合での値は零環)、$X$ は開部分環付き空間 $X_i$ の非交和に同型である。非交和が解析空間の圏の和であることは、本書『0-4 解析空間』の命題「開はめ込みの底変換と非交和」の (2) にある。
$k$ を自明でない絶対値をもつ体(たとえば実数体や複素数体)とし、$k$ に絶対値の定める位相と、連続な $k$ 値関数の $k$ 代数の層を与えたものを直線と呼ぶ。直線の二つの写し $X_1$、$X_2$ と、開集合 $X_{12}=X_1-\{0\}$、$X_{21}=X_2-\{0\}$、$X_{11}=X_1$、$X_{22}=X_2$ をとる。片が二つなので、上の定理(環付き空間の貼り合わせ)の条件は $\varphi_{11}$、$\varphi_{22}$ が恒等で $\varphi_{12}=\varphi_{21}^{-1}$ であることに帰着する。
(1) $\varphi_{21}$ を恒等写像 $x\mapsto x$ にとる。貼り合わせた空間 $M$ では、$X_1$ と $X_2$ の $0$ でない点が同一視され、二つの原点 $0'$、$0''$ だけが別の点として残る。$0'$ の開近傍は、ある $\varepsilon>0$ について $X_1$ の $\{|x|<\varepsilon\}$ の像を含み、$0''$ の開近傍は、ある $\varepsilon'>0$ について $X_2$ の $\{|x|<\varepsilon'\}$ の像を含む。絶対値は自明でないので $0<|x|<\min(\varepsilon,\varepsilon')$ となる $x$ があり、その点は $M$ の中で両方の近傍に入る。したがって $0'$ と $0''$ は交わらない開近傍で分けられず、$M$ は分離的でない。一方 $M$ は、分離的な二つの開集合($X_1$、$X_2$ の像)で覆われている。
(2) $\varphi_{21}$ を反転 $x\mapsto x^{-1}$ にとる。反転は $k-\{0\}$ の同相写像で、連続関数を連続関数に引き戻すので、環付き空間の同型である。貼り合わせた空間 $P$ は分離的である。実際、二点が同じ片の像に入れば、その片($k$ と同相)の中で分けられる。そうでない二点は、$X_1$ の原点と $X_2$ の原点の像である。$X_1$ の $\{|x|<1\}$ と $X_2$ の $\{|y|<1\}$ の像が交わるなら、交わりの点は $X_{12}$ の $x$ で $|x|<1$ かつ $|x^{-1}|<1$ を満たすことになり、そのような $x$ は無い。
実数体では $P$ は円周に、複素数体では Riemann 球面に同相である(立体射影による。本書は以後使わない)。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro61iv である。本頁は前提の頁で、原論文の主張の証明は含まない。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 11-$(n-1)$)である。連作第 II 回の頁は第 II 回の印字頁で書く。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(前層と層)、反例(反例:空の被覆を除くと空集合での値は一点とは限らない) | 定義 5.4 と直後の言い換え、補題 5.5 の a(和を積に移す) | 11-24 |
| 定義(環付き空間) | 命題 5.3 の証明の終わり($k$ 代数の環付き空間)。連作第 II 回の環付き空間の段 | 11-24(第 II 回 9-08〜9-09) |
| 定理(環付き空間の貼り合わせ) | 命題 5.3 の証明(「bien connu」の貼り合わせ) | 11-23〜11-24 |
| 定理(環付き空間と射の貼り合わせ) | 命題 5.2 (iv) の説明、定義 5.4 の「trivialement」 | 11-23、11-24 |
| 定義(分離的な空間と非交和) | 定義 5.1(開集合の非交和)。分離性は原論文に無く、連作第 II 回の定義 2.1 の直後の注意 | 11-22(第 II 回 9-09) |
| 例(二枚の直線の貼り合わせ) | 原論文に無い。連作第 II 回の定義 2.1 の直後の注意(原点を二重にした直線) | 第 II 回 9-09 |
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