affine代数的集合を
$$
V(S)=\{a\mid f(a)=0\text{ for every }f\in S\}
$$
と定義したとき、$S$ は無限集合でもよいとしました。しかし実際の計算では、有限個の方程式へ落とせなければ始まりません。
Hilbert基底定理は、体上の多項式環の全イデアルが有限生成であることを保証します。これにより次が同時に従います。
可換環 $R$ の全てのイデアルが有限生成であるとき、$R$ をNoetherian ring|Noetherian環という。
イデアルの任意の昇鎖
$$
I_1\subseteq I_2\subseteq I_3\subseteq\cdots
$$
が、ある $N$ 以後
$$
I_N=I_{N+1}=I_{N+2}=\cdots
$$
となる性質をascending chain condition on ideals|イデアル昇鎖条件という。
可換環 $R$ について次は同値である。
$1\Rightarrow2$ を示します。昇鎖 $(I_n)$ に対し
$$
I=\bigcup_{n\ge1}I_n
$$
と置きます。昇鎖なので、$a,b\in I$ はある共通の $I_N$ に入り、和・差・$R$ 倍も $I_N$ に入ります。従って $I$ はイデアルです。1から
$$
I=(a_1,\ldots,a_r)
$$
と有限生成です。各 $a_i$ はある $I_{n_i}$ に入り、$N=\max n_i$ とすれば全生成元が $I_N$ に入ります。従って
$$
I\subseteq I_N\subseteq I
$$
で $I=I_N$。$n\ge N$ では $I_N\subseteq I_n\subseteq I$ なので全て等しくなります。
$2\Rightarrow3$ を示します。極大元を持たない空でないイデアル族 $\mathcal S$ があると仮定します。$I_1\in\mathcal S$ を選ぶと極大でないため $I_1\subsetneq I_2$ となる $I_2\in\mathcal S$ があります。同様に続けて真の昇鎖
$$
I_1\subsetneq I_2\subsetneq I_3\subsetneq\cdots
$$
を作れ、2に反します。
$3\Rightarrow1$ を示します。イデアル $I$ を固定し、その有限生成部分イデアル全体
$$
\mathcal S=\{(a_1,\ldots,a_r)\mid r\ge0, a_i\in I\}
$$
を考えます。零イデアルを含むので空でなく、3から極大元 $J=(a_1,\ldots,a_r)$ を持ちます。もし $J\ne I$ なら $b\in I\setminus J$ を取り
$$
J\subsetneq J+(b)\subseteq I
$$
とでき、$J+(b)$ も有限生成なので極大性に反します。従って $I=J$ は有限生成です。□
これをNoetherian ring equivalent criteria|Noetherian環の三つの同値条件と呼びます。証明は、有限生成性を「過程が止まる」という形へ翻訳しています。
$R$ がNoetherian環なら、一変数多項式環 $R[x]$ もNoetherian環である。
これがHilbert basis theorem|Hilbert基底定理です。
証明の核心は、イデアル $I\subseteq R[x]$ の元を次数ごとに追うのではなく、leading coefficientだけを $R$ のイデアルへ集めることです。
$I\subseteq R[x]$ をイデアルとします。$I=0$ なら空集合または0一個で生成されるのでよいです。$I\ne0$ とします。
$I$ の非零多項式のleading coefficient全体と0を集めた集合を $L\subseteq R$ とします。$a,b\in L$ を取ります。leading coefficientが $a,b$ の多項式 $f,g\in I$ を選び、次数をそれぞれ $m,n$ とします。$m\le n$ として $x^{n-m}f$ を使えば両者の次数を揃えられます。leading coefficientの和 $a+b$ が0でなければ
$$
x^{n-m}f+g\in I
$$
のleading coefficientは $a+b$ です。0なら0は既に $L$ に入っています。$r\in R$ に対し $rf\in I$ のleading coefficientは、$ra\ne0$ なら $ra$ です。$ra=0$ なら0です。したがって $L$ は $R$ のイデアルです。
$R$ はNoetherianなので
$$
L=(a_1,\ldots,a_s)
$$
と有限生成です。各 $a_i$ をleading coefficientに持つ $f_i\in I$ を選び、その次数を $d_i$ とします。$d=\max_i d_i$ と置きます。
次に、次数が $d$ 未満の $I$ の多項式全体を
$$
M=I\cap R[x]_{< d}
$$
とします。ここで $R[x]_{< d}$ は次数 $< d$ の多項式からなる自由 $R$-moduleで、基底 $1,x,\ldots,x^{d-1}$ を持ちます。Noetherian環上の有限生成moduleの部分moduleは有限生成です。この事実を確認します。
まず自由module $R^d$ の部分module $N$ について $d$ に関する帰納法を使います。$d=1$ はイデアルの有限生成性です。最後の座標への射影 $p:N\to R$ のimageは有限生成イデアル $(c_1,\ldots,c_u)$ です。各 $c_i$ のlift $v_i\in N$ を選びます。一方 $N\cap\ker p$ は $R^{d-1}$ の部分moduleなので、帰納法から $w_1,\ldots,w_v$ で生成されます。任意の $z\in N$ に対し $p(z)=\sum r_ic_i$ と書き、
$$
z-\sum r_iv_i\in N\cap\ker p
$$
とすれば、これは $w_j$ の線形結合です。従って $v_i,w_j$ が $N$ を生成します。
一般の有限生成module $Q$ にはある全射 $R^d\to Q$ があります。部分module $N\subseteq Q$ の逆像は $R^d$ の有限生成部分moduleで、その有限生成元の像が $N$ を生成します。以上から $M$ は有限生成で、
$$
M=Rg_1+\cdots+Rg_t
$$
となる $g_j\in I$ を取れます。
ここで
$$
J=(f_1,\ldots,f_s,g_1,\ldots,g_t)\subseteq I
$$
と置き、逆包含を次数に関する帰納法で示します。$0\ne f\in I$ とし、$\deg f< d$ なら $f\in M$ なので $f$ は $g_j$ の $R$-線形結合、特に $J$ に入ります。
$\deg f=N\ge d$ とします。$f$ のleading coefficientを $a\in L$ とすれば
$$
a=r_1a_1+\cdots+r_sa_s
$$
と書けます。各 $d_i\le d\le N$ なので
$$
h=f-\sum_{i=1}^s r_i x^{N-d_i}f_i
$$
と置けます。右の和は $f$ と同じleading term $ax^N$ を持つので
$$
\deg h< N
$$
です。また $h\in I$ です。帰納法の仮定から $h\in J$、右の和も $J$ に入るので $f\in J$ です。
従って $I=J$ は有限生成です。任意のイデアルで示したので $R[x]$ はNoetherianです。□
証明中で使ったNoetherian module submodule theorem|Noetherian環上の有限生成moduleの部分module定理も展開して証明したため、論理上の穴はありません。
$R$ がNoetherianなら
$$
R[x_1,\ldots,x_n]
$$
は全ての $n\ge0$ でNoetherianである。特に体 $k$ 上の多項式環 $k[x_1,\ldots,x_n]$ はNoetherianである。
$n=0$ は $R$ 自身です。$n-1$ 変数の場合がNoetherianなら
$$
R[x_1,\ldots,x_n]
=\bigl(R[x_1,\ldots,x_{n-1}]\bigr)[x_n]
$$
へ一変数版を適用できます。帰納法で全 $n$ に従います。
体 $k$ のイデアルは $(0)$ と $(1)$ だけなので有限生成、従って $k$ はNoetherianです。□
これがmultivariable Hilbert basis theorem|多変数Hilbert基底定理です。
$R$ がNoetherian、$I\subseteq R$ がイデアルなら $R/I$ もNoetherianである。
$R/I$ のイデアル $J$ の逆像を商写像 $\pi:R\to R/I$ で取ると、$\pi^{-1}(J)$ は $I$ を含む $R$ のイデアルです。有限生成
$$
\pi^{-1}(J)=(a_1,\ldots,a_r)
$$
を取れば
$$
J=(\overline a_1,\ldots,\overline a_r)
$$
です。従って全イデアルが有限生成です。□
これはNoetherian quotient theorem|Noetherian環の商環定理です。
任意の体 $k$ 上のaffine代数的集合 $X\subseteq\mathbb A_k^n$ の座標環
$$
k[X]=k[x_1,\ldots,x_n]/I(X)
$$
はNoetherianである。
多変数Hilbert基底定理により多項式環がNoetherianで、前命題によりその商もNoetherianです。□
これはNoetherian affine coordinate ring|affine座標環のNoether性です。
任意の体 $k$ と任意の部分集合 $S\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ に対し、有限個の $s_1,\ldots,s_N\in S$ が存在して
$$
V(S)=V(s_1,\ldots,s_N)
$$
となる。
Hilbert基底定理により $S$ が生成するイデアルは有限生成で
$$
(S)=(f_1,\ldots,f_r)
$$
と書けます。各 $f_i$ は $S$ の元の有限個の多項式係数結合です。全 $i$ の表示に現れる $S$ の元を集めると有限集合 $\{s_1,\ldots,s_N\}\subseteq S$ を得ます。すると
$$
(f_1,\ldots,f_r)
\subseteq(s_1,\ldots,s_N)
\subseteq(S).
$$
左端と右端が等しいので三者は等しいです。「アフィン空間と多項式の零点集合」で零点集合は生成イデアルだけに依存することを証明したので
$$
V(S)=V((S))=V(s_1,\ldots,s_N).
$$
□
これをfinite equation presentation|affine代数的集合の有限方程式表示と呼びます。有限生成元は一般に一意ではなく、最小個数も座標変換で見え方が変わります。
$\mathbb A_k^n$ およびその任意のaffine代数的部分集合 $X$ はNoetherian位相空間である。
$X$ の閉集合の下降列
$$
F_1\supseteq F_2\supseteq F_3\supseteq\cdots
$$
を取ります。各消滅イデアルは包含を逆転するので
$$
I_X(F_1)\subseteq I_X(F_2)\subseteq I_X(F_3)\subseteq\cdots
$$
は $k[X]$ のイデアル昇鎖です。座標環はNoetherianなので、ある $N$ 以後この昇鎖は停止します。
各 $F_i$ は $X$ の閉集合なので
$$
F_i=V_X(I_X(F_i)).
$$
従って消滅イデアルが等しくなれば閉集合も等しくなり、$F_N=F_{N+1}=\cdots$ です。よって $X$ はNoetherian位相空間です。$X=\mathbb A_k^n$ とすればaffine spaceも含まれます。□
これはNoetherian affine Zariski topology|affine Zariski位相のNoether性です。任意の開集合がquasi-compactであることもNoetherian topologyの一般論から従いますが、その証明は演習で行います。
任意のaffine代数的集合 $X$ は有限個の既約成分を持ち、それらの和として一意に表される。
前定理から $X$ はNoetherian位相空間です。「既約集合と既約成分」で、Noetherian位相空間の任意の非空閉集合が有限既約分解を持つことを完証しました。$X$ 自身は $X$ の閉集合なので有限既約分解を持ちます。包含で冗長な成分を除けば、「既約集合と既約成分」の一意性定理により残ったものがちょうど既約成分で、一意です。空集合では成分は0個とします。□
これはfinite irreducible components theorem|affine代数的集合の有限既約成分定理です。これで「既約集合と既約成分」に残していた存在条件が閉じました。
Noetherian位相空間 $X$ の任意の開部分集合 $U$ はquasi-compactである。すなわち、$U$ の任意の開被覆は有限部分被覆を持つ。
有限部分被覆を持たない開被覆 $(U_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ があると仮定します。有限和
$$
U_{\lambda_1}\cup\cdots\cup U_{\lambda_r}
$$
全体を包含で比較します。Noetherian空間では開集合の昇鎖条件が成立します。実際、開集合の昇鎖の補集合は閉集合の下降鎖なので停止します。従って有限和全体に極大元 $W$ が存在します。
被覆全体が $U$ を覆うのに $W\ne U$ なので、$x\in U\setminus W$ を取れます。ある $\mu$ で $x\in U_\mu$ です。すると
$$
W\subsetneq W\cup U_\mu
$$
で、右辺も有限個の被覆要素の和です。これは $W$ の極大性に反します。従って有限部分被覆が存在します。□
これはNoetherian open quasi-compactness|Noetherian空間の開部分のquasi-compact性です。主開集合の任意の被覆から有限個を選べることは、局所表示を有限個へ圧縮するときに重要です。
$k[x,y]$ のイデアル
$$
I=(x,xy,xy^2,xy^3,\ldots)
$$
は無限個の生成元で書かれていますが
$$
I=(x)
$$
です。全ての後続項が最初の生成元 $x$ の倍数だからです。
もう少し見えにくい例として
$$
J=(x^2,xy,x^2y,xy^2,x^2y^2,\ldots)
$$
も
$$
J=(x^2,xy)
$$
です。Hilbert基底定理は、どれほど複雑な無限族でも、何らかの有限部分が同じイデアルを生成することを保証します。ただし定理の存在証明だけでは効率的な生成元計算は与えません。「消去とGröbner基底への入口」のGröbner基底がalgorithmを補います。
多項式環
$$
k[x_1,x_2,x_3,\ldots]
$$
では
$$
(x_1)\subsetneq(x_1,x_2)\subsetneq(x_1,x_2,x_3)\subsetneq\cdots
$$
が停止しない。従ってこの環はNoetherianでない。
これはinfinite-variable polynomial ring non-Noetherian|無限変数多項式環の非Noether性です。各包含が真であることは、$x_{n+1}$ を含まない変数だけのイデアル $(x_1,\ldots,x_n)$ に $x_{n+1}$ が入らないことから分かります。有限変数という仮定は本質的です。
Noetherian環 $R$ のイデアル族 $\mathcal S$ が空でないとき、$\mathcal S$ の元を一つ選び、真に大きい元を選び続ける手続きが有限回で止まることを昇鎖条件から示せ。その停止点が極大元であることを確認せよ。
$k[x,y]/(x^2,xy,y^3)$ がNoetherianであることを示し、その全ての元が
$$
a+bx+cy+dy^2
$$
の形に一意に書けることを証明せよ。
$\mathbb A_k^2$ の方程式族
$$
x=0,\quad xy=0,\quad xy^2=0,\quad xy^3=0,\ldots
$$
の共通零点集合を求め、有限個の方程式だけで同じ集合を定義せよ。
Noetherian空間では、開集合の任意の昇鎖が停止することを閉集合の下降鎖から直接示せ。それを使い、本文とは別に「有限部分被覆を持つ開部分集合の有限和も有限部分被覆を持つ」という形からquasi-compact性を証明せよ。
$k$ を無限体とし
$$
X=V(x^2y^3(x-y)^4)\subseteq\mathbb A_k^2
$$
の既約成分を求めよ。冪指数が点集合と既約成分に影響しない理由を説明せよ。
$I_1\in\mathcal S$ を選びます。極大でなければ $I_1\subsetneq I_2$ となる $I_2\in\mathcal S$ を選びます。同様に、現在の元が極大でない限り真に大きい元を選びます。
もし有限回で止まらなければ
$$
I_1\subsetneq I_2\subsetneq I_3\subsetneq\cdots
$$
という停止しない昇鎖ができ、Noetherian環の昇鎖条件に反します。従ってある $I_N$ で止まります。止まるとは $I_N$ を真に含む $\mathcal S$ の元がないことなので、$I_N$ は極大元です。□
$k$ はNoetherianなのでHilbert基底定理から $k[x,y]$ はNoetherianです。その商
$$
A=k[x,y]/(x^2,xy,y^3)
$$
もNoetherianです。
任意のmonomial $x^iy^j$ は、$i\ge2$ なら $x^2$ の倍数、$i,j\ge1$ なら $xy$ の倍数、$j\ge3$ なら $y^3$ の倍数として0になります。残るmonomialは
$$
1,x,y,y^2
$$
だけなので全てのclassが $a+bx+cy+dy^2$ と書けます。
一意性は、イデアル $(x^2,xy,y^3)$ の各元が次数0項、$x$ 項、$y$ 項、$y^2$ 項を持たないことから従います。これら四monomialの線形結合がイデアルへ入るなら全係数が0です。□
最初の方程式 $x=0$ が成立すれば、全ての $m\ge1$ について $xy^m=0$ は自動的に成立します。従って共通零点集合は
$$
V(x)=\{(0,b)\mid b\in k\},
$$
すなわち $y$-axisです。一つの方程式 $x=0$ だけで同じ集合を定義できます。イデアルとしても
$$
(x,xy,xy^2,\ldots)=(x)
$$
です。□
開集合の昇鎖
$$
U_1\subseteq U_2\subseteq\cdots
$$
に補集合を取ると
$$
X\setminus U_1\supseteq X\setminus U_2\supseteq\cdots
$$
は閉集合の下降鎖です。Noetherian性により停止するので元の昇鎖も停止します。
開被覆 $(V_\lambda)$ に対し、有限個の $V_\lambda$ の和として書ける開集合全体を考えます。空集合は0個の和なのでこの族は空でありません。開集合の昇鎖条件とNoetherian環の極大元条件と同じ議論により、この族は包含極大元 $W$ を持ちます。
もし $W\ne U$ なら $x\in U\setminus W$ を取れます。被覆なので、ある $\mu$ について $x\in V_\mu$ です。すると $W\cup V_\mu$ も有限個の被覆要素の和であり
$$
W\subsetneq W\cup V_\mu,
$$
これは極大性に反します。従って $W=U$ で、$U$ は有限個の $V_\lambda$ により覆われます。□
体には非零nilpotentがないので
$$
x^2y^3(x-y)^4=0
$$
であることは
$$
x=0,\quad y=0,\quad\text{または}\quad x-y=0
$$
と同値です。従って
$$
X=V(x)\cup V(y)\cup V(x-y).
$$
各直線は座標環が $k[t]$ なので既約で、互いを含みません。よって三本が既約成分です。
一般に $V(f^r)=V(f)$ なので、冪指数は古典的点集合を変えません。積の各因子に付いた指数はnilpotentな厚みとしてschemeでは意味を持ちますが、affine代数的集合とその既約成分には影響しません。□
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