前提知識:Hilbert基底定理
連立方程式
$$
f_1(x_1,\ldots,x_n)=\cdots=f_r(x_1,\ldots,x_n)=0
$$
から $1$ を多項式の組合せとして作れてしまえば、解はありません。実際、
$$
1=g_1f_1+\cdots+g_rf_r
$$
なら、共通零点で右辺を評価すると $1=0$ になるからです。
逆は成り立つでしょうか。実数上では
$$
x^2+1=0
$$
に解がないのに $(x^2+1)$ はproper idealです。したがって係数体には条件が要ります。代数閉体上では驚くほど強い逆が成立します。
この章の目標は次の三段階です。
体 $k$ を部分環として含む可換環 $A$ が
$$
A=k[a_1,\ldots,a_n]
$$
と有限個の元で $k$-algebraとして生成されるとき、$A$ をfinitely generated algebra|有限生成!FORMULA[11][37949][0]-algebraという。
ここで有限生成とは、$a_i$ の多項式で全要素が書けるという意味です。$k$-vector spaceとして有限次元という意味ではありません。例えば $k[x]$ は一元 $x$ で $k$-algebraとして生成されますが、
$$
1,x,x^2,x^3,\ldots
$$
が一次独立なので無限次元です。
$k$-algebra $A$ が $k$-vector spaceとして有限次元であるとき、$A$ をfinite algebra|有限!FORMULA[22][37949][0]-algebraという。
有限$k$-algebraなら有限生成$k$-algebraですが、逆は一般に偽です。ところが $A$ が体である場合、逆が成立するというのがZariski補題です。
環拡大 $A\subseteq B$ と $b\in B$ に対し、あるmonic polynomial
$$
T^d+c_{d-1}T^{d-1}+\cdots+c_0\in A[T]
$$
が $b$ を零点に持つとき、$b$ は $A$ 上integral element|integralであるという。
体拡大 $k\subseteq K$ では、$K$ の元が $k$ 上integralであることとalgebraicであることは同値です。非零の多項式関係があればleading coefficientで割ってmonicにできるからです。
$A\subseteq B$ とし、$b_1,\ldots,b_s\in B$ が全て $A$ 上integralなら、
$$
A[b_1,\ldots,b_s]
$$
は有限生成$A$-moduleである。
まず一元 $b$ の場合を考えます。$b$ が次数 $d$ のmonic relation
$$
b^d+c_{d-1}b^{d-1}+\cdots+c_0=0
$$
を満たすなら、
$$
b^d=-c_{d-1}b^{d-1}-\cdots-c_0
$$
です。これを繰り返し使えば $b^m$ は全て $1,b,\ldots,b^{d-1}$ の$A$-linear combinationに下げられます。従って $A[b]$ はこの $d$ 元で生成されます。
一般の場合は生成元を一つずつ加えます。$b_i$ が $A$ 上integralなら、同じmonic relationは係数を大きい環に移しても有効なので、$b_i$ は $A[b_1,\ldots,b_{i-1}]$ 上もintegralです。各段階が有限moduleであり、有限生成moduleの有限生成moduleは有限生成です。具体的には各 $b_i$ のrelationの次数を $d_i$ とすれば、
$$
b_1^{e_1}\cdots b_s^{e_s}
\qquad(0\le e_i< d_i)
$$
という有限個のmonomialが全体を生成します。□
従って、体拡大 $K=k(a_1,\ldots,a_s)$ の生成元が全て $k$ 上algebraicなら、$K=k[a_1,\ldots,a_s]$ は有限次元です。これをfinitely generated algebraic extension is finite|有限生成代数拡大の有限性と呼びます。
次の補題が、Zariski補題の証明で局所化を排除します。
$A\subseteq B$ は可換環の包含で、$B$ は体かつ有限生成$A$-moduleであるとする。このとき $A$ も体である。
$0\ne a\in A$ を取ります。$B$ は体なので $a^{-1}\in B$ です。写像
$$
T:B\longrightarrow B,\qquad z\longmapsto a^{-1}z
$$
は$A$-linearです。
$B$ の$A$-module生成元を $v_1,\ldots,v_m$ とします。各 $T(v_j)$ を生成元で表すと
$$
T(v_j)=\sum_{i=1}^m c_{ij}v_i\qquad(c_{ij}\in A)
$$
です。行列 $C=(c_{ij})$ を用いれば $(TI_m-C)v=0$ です。adjugate matrixを左から掛けると
$$
\det(TI_m-C)v_j=0
$$
が全ての $j$ について従います。$1$ も $v_j$ の$A$-linear combinationなので
$$
T^m+d_{m-1}T^{m-1}+\cdots+d_0
$$
を $1$ に作用させた結果は0です。従って
$$
(a^{-1})^m+d_{m-1}(a^{-1})^{m-1}+\cdots+d_0=0.
$$
両辺に $a^{m-1}$ を掛ければ
$$
a^{-1}=-(d_{m-1}+d_{m-2}a+\cdots+d_0a^{m-1})\in A.
$$
任意の非零元が $A$ 内に逆元を持つので、$A$ は体です。□
この議論はdeterminant trick|determinant trickの基本形です。行列式は、有限個のmodule生成元に対する作用からmonic relationを作っています。
$k$ を体とし、$K$ を $k$-algebraとする。$K$ が体で、かつ有限生成$k$-algebraなら、$K/k$ は有限代数拡大である。
これをZariski lemma|Zariski補題といいます。「有限個の元と四則演算で作った体」にtranscendentalな生成元は残れない、という主張です。
$$
K=k[a_1,\ldots,a_n]
$$
とします。生成元のうち極大なalgebraically independent部分集合を取り、添字を並べ替えて
$$
t_1=a_1,\ldots,t_r=a_r
$$
と書きます。極大性により残りの $a_{r+1},\ldots,a_n$ は
$$
F=k(t_1,\ldots,t_r)
$$
上algebraicです。
各 $a_i$ は $F$ 係数のmonic polynomialを満たします。現れる有限個の係数の分母を全て掛け合わせた非零多項式を
$$
f\in k[t_1,\ldots,t_r]
$$
とすれば、全ての $a_i$ は
$$
R=k[t_1,\ldots,t_r,1/f]
$$
上integralです。さらに $1/f\in K$ であり、元の全生成元を含むので
$$
K=R[a_{r+1},\ldots,a_n].
$$
integralな有限個の生成元に関する命題から、$K$ は有限生成$R$-moduleです。直前の命題により $R$ は体でなければなりません。
$r\ge1$ と仮定して矛盾を導きます。$k[t_1]$ にはmonic irreducible polynomialが無限個あります。実際、有限個 $p_1,\ldots,p_s$ しかないなら、
$$
p_1\cdots p_s+1
$$
のirreducible factorはどの $p_i$ とも異なり矛盾します。
$f$ を $t_2,\ldots,t_r$ の多項式と見たとき、その係数は有限個の $k[t_1]$ の元です。従って、それらの非零係数を全て割るようなirreducible polynomialも有限個しかありません。$f$ を割らないmonic irreducible polynomial $g(t_1)$ を一つ選べます。
$g$ が $R$ のunitなら、ある $h\in k[t_1,\ldots,t_r]$ と $N\ge0$ により
$$
g h=f^N
$$
となります。$(g)$ で割った商
$$
(k[t_1]/(g))[t_2,\ldots,t_r]
$$
はdomainです。上の等式をこの商へ移すと $f^N=0$ なので $f=0$ となり、$g$ が $f$ を割らないことに反します。従って $g$ は $R$ の非零非unitで、$R$ が体であることに反します。
よって $r=0$ です。すなわち全ての $a_i$ は $k$ 上algebraicです。有限生成代数拡大の有限性から $K/k$ は有限です。□
証明で本質的なのは、transcendentalな元を残すと「多項式のほとんどは逆元にならない」一方、有限moduleである体の部分環なら「全ての非零元が逆元になる」という衝突です。
$k$ がalgebraically closedで、$K/k$ が有限代数拡大なら $K=k$ である。
$\alpha\in K$ を取ります。$\alpha$ は $k$ 上algebraicなのでminimal polynomial $m_\alpha(T)\in k[T]$ を持ちます。$k$ はalgebraically closedだから $m_\alpha$ は一次式の積に分解します。一方minimal polynomialはirreducibleなので一次であり、$\alpha\in k$ です。任意の $\alpha$ について成り立つので $K=k$ です。□
点 $a=(a_1,\ldots,a_n)\in k^n$ に対し
$$
\mathfrak m_a=(x_1-a_1,\ldots,x_n-a_n)
$$
と置きます。評価写像
$$
\operatorname{ev}_a:k[x_1,\ldots,x_n]\longrightarrow k,
\qquad f\longmapsto f(a)
$$
はsurjectiveで、kernelは $\mathfrak m_a$ です。従って
$$
k[x_1,\ldots,x_n]/\mathfrak m_a\cong k
$$
であり、$\mathfrak m_a$ はmaximal idealです。
$k$ をalgebraically closed fieldとする。$k[x_1,\ldots,x_n]$ の任意のmaximal ideal $\mathfrak m$ は、ただ一つの点 $a=(a_1,\ldots,a_n)\in k^n$ により
$$
\mathfrak m=(x_1-a_1,\ldots,x_n-a_n)
$$
と書ける。
これがweak Nullstellensatz|弱Hilbert零点定理です。
商
$$
K=k[x_1,\ldots,x_n]/\mathfrak m
$$
は体であり、$x_i$ の剰余類 $\overline{x_i}$ で有限生成される $k$-algebraです。Zariski補題により $K/k$ は有限代数拡大です。$k$ はalgebraically closedなので直前の命題から $K=k$ です。
$\overline{x_i}$ に対応する $k$ の元を $a_i$ とします。商で $\overline{x_i}=a_i$ なので
$$
x_i-a_i\in\mathfrak m.
$$
従って
$$
(x_1-a_1,\ldots,x_n-a_n)\subseteq\mathfrak m.
$$
左辺は既にmaximal idealなので等号です。
一意性を示します。同じidealが $a,b\in k^n$ から得られたなら、$x_i-a_i$ を点 $b$ で評価して
$$
b_i-a_i=0
$$
です。全ての $i$ で $a_i=b_i$ なので $a=b$ です。□
これはmaximal ideals of a polynomial ring over an algebraically closed field|代数閉体上の多項式環のmaximal ideal分類です。抽象的なmaximal idealが、具体的な一点での消滅条件へ完全に戻りました。
弱零点定理を連立方程式へ翻訳します。そのために標準的な存在命題を確認します。
単位環 $R$ の任意のproper ideal $I$ は、あるmaximal idealに含まれる。
$I$ を含むproper ideal全体を包含関係で順序づけます。空でないchain $\mathcal C$ に対し
$$
J=\bigcup_{L\in\mathcal C}L
$$
と置きます。chainなので二元はどちらか大きい方のidealに同時に入り、$J$ はidealです。もし $1\in J$ なら、ある $L\in\mathcal C$ が $1$ を含んでproperでないことになり矛盾します。従って $J$ はproperで、chainの上界です。Zorn's lemmaにより極大元が存在し、それが $I$ を含むmaximal idealです。□
$k$ をalgebraically closed fieldとする。ideal
$$
I\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]
$$
について、次は同値である。
$V(I)$ に点 $a$ があれば、$I\subseteq\mathfrak m_a$ なので $1\notin I$、従って $I$ はproperです。
逆に $I$ がproperなら、maximal ideal $\mathfrak m\supseteq I$ を取れます。弱零点定理により $\mathfrak m=\mathfrak m_a$ となる $a\in k^n$ があります。全ての $f\in I$ は $\mathfrak m_a$ に属するので $f(a)=0$、従って $a\in V(I)$ です。□
これをproper ideal common zero theorem|proper idealの共通零点定理と呼びます。有限個の多項式 $f_1,\ldots,f_r$ については
$$
V(f_1,\ldots,f_r)=\varnothing
\quad\Longleftrightarrow\quad
1\in(f_1,\ldots,f_r)
$$
です。つまり解がないことは、ある $g_1,\ldots,g_r$ を用いたcertificate
$$
1=g_1f_1+\cdots+g_rf_r
$$
で証明できます。これはNullstellensatz infeasibility certificate|零点定理による非可解certificateです。
$\mathbb C[x,y]$ では
$$
(x^2+1,y-2)=(x-i,y-2)\cap(x+i,y-2)
$$
で、左辺はmaximalではありません。実際、$x^2+1=(x-i)(x+i)$ と分解し、零点は $(i,2),(-i,2)$ の二点です。
一方
$$
(x-i,y-2)
$$
の商は $\mathbb C$ でありmaximalです。弱零点定理は、$\mathbb C[x,y]$ のmaximal idealが必ずこの形になると主張します。
$\mathbb R[x]$ のideal $(x^2+1)$ はmaximalです。商
$$
\mathbb R[x]/(x^2+1)\cong\mathbb C
$$
が体だからです。しかし実数零点はありません。基礎体がalgebraically closedという仮定を外すと、maximal idealは必ずしも基礎体上の点になりません。これはweak Nullstellensatz over nonclosed fields|非代数閉体上の弱零点定理の失敗です。
弱零点定理から、幾何的な条件を環の計算へ翻訳する便利な系が出ます。
$k$ をalgebraically closed field、$I\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ をidealとする。多項式 $f$ が $V(I)$ のどの点でも0にならないことと、$f$ のclassが $k[x_1,\ldots,x_n]/I$ のunitであることは同値である。
$f$ が $V(I)$ 上零点を持たないなら
$$
V(I+(f))=V(I)\cap V(f)=\varnothing.
$$
proper idealの共通零点定理により $I+(f)$ はproperでなく、$1\in I+(f)$ です。従ってある $h\in I$ と $g\in k[x_1,\ldots,x_n]$ により
$$
1=h+gf.
$$
商環では $\overline g\,\overline f=1$ なので $\overline f$ はunitです。
逆に $\overline g\,\overline f=1$ なら、$a\in V(I)$ で評価して $g(a)f(a)=1$ です。従って $f(a)\ne0$ です。□
これはnowhere-zero regular function unit criterion|零点を持たない正則関数のunit判定です。例えばhyperbola
$$
X=V(xy-1)
$$
では $x$ は決して0にならず、座標環
$$
k[x,y]/(xy-1)
$$
で $y$ が $x$ のinverseです。幾何的な「0を避ける」が、環論的な「逆元を持つ」に変わっています。
$k$ を体、$\alpha$ を $k$ 上algebraicな元とする。$k[\alpha]$ が体であり $k(\alpha)=k[\alpha]$ となることを、minimal polynomialを用いて証明せよ。
$\alpha$ のminimal polynomialを $m(T)$ とします。評価写像 $k[T]\to k[\alpha]$ のkernelは $(m)$ です。$m$ はirreducibleなので $(m)$ はmaximal ideal、従って
$$
k[\alpha]\cong k[T]/(m)
$$
は体です。$\alpha$ を含む最小の体 $k(\alpha)$ は $k[\alpha]$ を含みますが、後者が既に体なので等号です。□
$K=k[a,b]$ が体で、$a$ が $k$ 上transcendental、$b$ が $k(a)$ 上algebraicであると仮定する。Zariski補題の証明がどこで矛盾を生むかを説明せよ。
$b$ のmonic relationの係数の分母を一つの $f(a)\in k[a]$ にまとめると、$b$ は $R=k[a,1/f]$ 上integralです。従って $K=R[b]$ は有限生成$R$-moduleです。$K$ が体なので命題から $R$ も体であるはずです。しかし $k[a]$ には $f$ を割らないirreducible polynomial $g(a)$ があり、$g$ は $R$ で逆元を持ちません。これは $R$ が体であることに反します。従ってこのような表示の体 $K=k[a,b]$ は存在しません。□
$k$ をalgebraically closed fieldとする。$k[x,y]$ のideal
$$
I=(x-2,y^2-1)
$$
を含むmaximal idealを全て求めよ。
弱零点定理によりmaximal idealは $(x-a,y-b)$ の形です。$I$ を含むには
$$
a-2=0,\qquad b^2-1=0
$$
が必要十分です。従って $a=2$、$b=1$ または $-1$ であり、求めるidealは
$$
(x-2,y-1),\qquad(x-2,y+1)
$$
です。□
$k$ をalgebraically closed fieldとする。方程式
$$
x=0,\qquad xy-1=0
$$
が共通零点を持たないことを、$1$ のideal表示によって証明せよ。
生成多項式を $f_1=x$, $f_2=xy-1$ とします。直接
$$
yf_1-f_2=yx-(xy-1)=1
$$
です。従って $1\in(x,xy-1)$ であり、このidealは全環です。proper idealの共通零点定理から共通零点はありません。もちろん $x=0$ を第2式へ代入して $-1=0$ となる計算の、環論的certificateがこの等式です。□
$k$ をalgebraically closed fieldとし、
$$
A=k[x,y]/(xy-1)
$$
とする。$x+y$ のclassがunitであるための条件を幾何的に調べ、characteristicが2の場合とそうでない場合を分けよ。
$X=V(xy-1)$ 上で $x\ne0$ かつ $y=x^{-1}$ です。従って
$$
x+y=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
x+x^{-1}=0
\quad\Longleftrightarrow\quad
x^2+1=0.
$$
$k$ はalgebraically closedなので $x^2+1$ は根を持ちます。characteristicが2でなければ根 $\alpha$ に対し $(\alpha,\alpha^{-1})$ は零点です。characteristicが2でも $x^2+1=(x+1)^2$ で、$(1,1)$ が零点です。従ってcharacteristicによらず $x+y$ は $X$ 上で零点を持ち、unitではありません。
場合分けで変わるのは零点の重複度です。characteristic $\ne2$ では二つの根があり、characteristic $2$ では一つの重根になります。unit判定は点集合だけを見れば同じですが、重複度は後の章以降のscheme的情報に関わります。□
Zariski補題は「有限生成$k$-algebraである体」を有限代数拡大へ圧縮しました。代数閉体上では拡大が消え、maximal idealは一点での評価kernelになります。その結果、proper idealは共通零点を持ち、連立方程式の非可解性は $1$ のideal表示で証明できました。
ただし、まだ
$$
I(V(I))=\sqrt I
$$
は証明していません。弱零点定理が扱うのはmaximal idealと「零点が存在するか」だけです。次の頁ではRabinowitsch trickを使い、任意のidealについて零点上で消える全多項式を根基まで正確に回収する強いHilbert零点定理を証明します。
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