本書で引用として使うスキーム論の概念(局所有限型・準コンパクト・分離的な射、固有射と射影射、滑らかな射、局所 1 方程式の閉集合と Cartier 因子、射影閉包と無限遠超平面、正規交叉因子、Hironaka の特異点解消)と、連接層コホモロジーの基本定理(affine スキーム上の消滅、affine 射の高次順像の消滅、固有射の有限性、Serre の消滅定理、極をもつ切断の層への応用、体の拡大による底変換)の要点を集めた頁である。各項目は定義または定理の要点をボックスに書き、続けて本書での使いどころと案内を書く。Kähler 微分と超コホモロジーの前提は本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』に、解析空間の側の前提は本書『0-4 複素解析空間と GAGA』にある。
射 $f\colon X\to S$ が局所有限型であるとは、$S$ の affine 開集合 $\operatorname{Spec}B$ とその逆像に含まれる affine 開集合 $\operatorname{Spec}A$ をどうとっても $A$ が有限生成 $B$ 代数になることをいう。$f$ が準コンパクトであるとは、準コンパクトな開集合の逆像が準コンパクトなことをいい、局所有限型かつ準コンパクトな射を有限型という。$f$ が分離的であるとは、対角射 $X\to X\times_SX$ が閉埋め込みなことをいう。$X$ が $k$ 上分離的なら、$X$ の 2 つの affine 開集合の交わりは再び affine である。本書の $X$ は $k$ 上局所有限型で滑らかなスキームであり、原論文の「prescheme」は現在の「スキーム」(分離性を課さない)にあたる。分離性・準コンパクト性を使うときはその頁で明記する。
射 $f\colon X\to S$ が固有であるとは、分離的・有限型・普遍閉(任意の底変換が閉写像)なことをいう。$f$ が射影的であるとは、$S$ 上の射影空間 $\mathbb P^N_S$(より一般に有限型準連接層 $\mathcal E$ の $\mathbb P(\mathcal E)$)への閉埋め込みを経由することをいい、射影的な射は固有である。$k$ 上固有なスキームを本書では完備という。射影的スキームの閉部分スキームは射影的、固有射の合成は固有で、固有性・射影性は底変換で保たれる。$S$ が体のスペクトルのときは、$\mathbb P^N_S$ で定義する射影性と $\mathbb P(\mathcal E)$ で定義する射影性は一致する。
射 $f\colon X\to S$ が相対次元 $n$ で滑らかであるとは、局所有限表示・平坦で、すべての幾何的ファイバーが $n$ 次元の正則スキームなことをいう。体 $k$ の上では、$k$ 上局所有限型な $X$ が点 $x$ で滑らか(相対次元 $n=\dim_xX$)であることは次の各条件と同値である。(a) $x$ のある開近傍が affine 空間 $\mathbb A^n_k$ へのエタール射をもつ(エタール座標 $t_1,\dots,t_n$ をもつ)。(b) $\Omega^1_{X/k}$ が $x$ の近傍で階数 $n$ の局所自由層である。(c) $X$ が $x$ で幾何的に正則、すなわち $k$ の任意の拡大体 $k'$ について $X\otimes_kk'$ が $x$ の上の点で正則である。$k$ が完全体なら幾何的に正則と正則は同じである。Jacobi の判定法:$X=V(f_1,\dots,f_r)\subset\mathbb A^N_k$ が $x$ で $N-r$ 次元・滑らかであることは、Jacobi 行列 $(\partial f_i/\partial x_j)$ の $x$ での階数が $r$ であることと同値である。エタール座標があれば $dt_1,\dots,dt_n$ は $\Omega^1_{X/k}$ の局所基底であり、$\Omega^p_{X/k}=\bigwedge^p\Omega^1_{X/k}$ は階数 $\binom np$ の局所自由層になる。
閉部分集合 $Y\subset X$ が局所的に 1 個の方程式で定義されるとは、各点に affine 開近傍 $V=\operatorname{Spec}A$ と $t\in A$ があって $Y\cap V=V(t)$ となることをいう。$t$ を非零因子にとれるとき、$Y$ にイデアル層 $\mathcal J=(t)$ で定めたスキーム構造を入れたものを有効 Cartier 因子といい、可逆層 $\mathcal O_X(Y)=\mathcal J^{-1}$ が定まる。$Y$ が局所的に 1 個の方程式で定義されるとき、$U=X-Y$ の包含 $f\colon U\to X$ は affine 射である。実際 $f^{-1}(V)=D(t)=\operatorname{Spec}A_t$ は affine で、射が affine であることは底の affine 開被覆で確かめればよい。特に $X$ が affine で $Y$ が 1 個の方程式で定義されるなら $U$ は affine である。$X$ が正則(たとえば $k$ 上滑らか)で $Y$ が純余次元 1 の閉部分集合なら、$Y$ に被約構造を入れたものは局所的に 1 個の非零因子で定義される(正則局所環は一意分解整域なので高さ 1 の素イデアルは単項)。
「$Y$ が局所的に 1 個の方程式で定義される」という条件を外す。$X=\mathbb A^2_k=\operatorname{Spec}k[x,y]$、$Y=\{(0,0)\}$ とすると $Y$ の定義には $x=y=0$ の 2 個の方程式が要る。$U=X-Y$ は $D(x)\cup D(y)$ で被覆され、この 2 つの affine 開集合による Čech 複体 $k[x,y]_x\oplus k[x,y]_y\to k[x,y]_{xy}$ の余核として $H^1(U,\mathcal O_U)\cong\bigoplus_{i,j\ge1}k\,x^{-i}y^{-j}$ が得られ、無限次元である。affine スキームでは準連接層の $H^1$ が消えるから(本頁の「affine スキーム上の消滅」)、$U$ は affine でなく、包含 $U\to X$ も affine 射でない。第 2 章の仮定はこの状況を排するためにある。
$\mathbb P^N_k=\operatorname{Proj}k[x_0,\dots,x_N]$ の開集合 $D_+(x_0)=\operatorname{Spec}k[x_1/x_0,\dots,x_N/x_0]$ は $\mathbb A^N_k$ と同一視され、その補集合 $H_\infty=V_+(x_0)\cong\mathbb P^{N-1}_k$ を無限遠超平面という。$H_\infty$ は $\mathbb P^N_k$ の有効 Cartier 因子で、各 $D_+(x_i)$ 上では $x_0/x_i=0$ という 1 個の方程式で定義され、$\mathcal O(H_\infty)=\mathcal O(1)$ は豊富である。$\mathbb A^N_k$ の閉部分スキーム $X=V(I)$ に対し、$I$ の元の斉次化全体が生成する斉次イデアル $I^h$ で定義される $\bar X=V_+(I^h)\subset\mathbb P^N_k$ を $X$ の射影閉包という。$\bar X$ は $\mathbb P^N_k$ における $X$ のスキーム論的閉包で、$\bar X\cap\mathbb A^N_k=X$ であり、$Y=\bar X\cap H_\infty=\bar X-X$ は $\bar X$ の超平面切断である。$X$ が滑らかでも $\bar X$ は一般に $Y$ に沿って特異であり、$Y$ は正規交叉因子とは限らない。
$X$ を $k$ 上滑らかな $n$ 次元スキームとする。有効 Cartier 因子 $Y\subset X$ が強正規交叉因子(strict normal crossings、snc)であるとは、$Y$ の各点 $x$ で局所環 $\mathcal O_{X,x}$ の正則パラメータ系 $t_1,\dots,t_n$ と $1\le r\le n$ があって、$Y$ が $x$ の近傍で $t_1t_2\cdots t_r=0$ で定義されることをいう。このとき $Y$ の既約成分はすべて正則である。$Y$ が正規交叉因子(normal crossings)であるとは、エタール局所的に($X$ のあるエタール被覆に引き戻すと)強正規交叉因子になることをいう。$k$ が完全体で $x$ が閉点なら、上の $t_1,\dots,t_n$ は $x$ の近傍でエタール座標になる。$k=\mathbb C$ のとき、$Y$ が正規交叉因子であることは、解析化 $Y^h\subset X^h$ が各点で解析的局所座標 $z_1,\dots,z_n$ について $z_1\cdots z_r=0$ と書けることと同値であり、$U^h=X^h-Y^h$ は各点の近傍で多重円板から $r$ 枚の座標超平面を除いた $(\Delta^*)^r\times\Delta^{n-r}$ に局所同型である。
$\mathbb A^2_k$ の座標軸の和 $xy=0$ は強正規交叉因子である。節点をもつ 3 次曲線 $y^2=x^2(x+1)$ は既約で原点に特異点をもつので強正規交叉因子ではないが、原点でエタール局所的に($k$ の標数が $2$ でなければ $u=\sqrt{x+1}$ を添加すると)$y^2=x^2u^2$、すなわち $(y-xu)(y+xu)=0$ の 2 本の枝に分かれるので正規交叉因子である。尖点をもつ曲線 $y^2=x^3$ は原点でどの正則パラメータ系についても $t_1\cdots t_r$ の形に書けず、正規交叉因子でない。原点を通る 3 本の直線 $xy(x+y)=0$ も、$n=2$ なので $r\le2$ しか許されず、正規交叉因子でない。後の 2 つは、原点を有限回ブローアップすれば総変換が強正規交叉因子になる。
$k$ を標数 $0$ の体、$X$ を $k$ 上有限型の被約なスキームとする。(a) 特異点解消:射影的双有理射 $g\colon X'\to X$ で、$X'$ が $k$ 上滑らかで、$g$ が $X$ の滑らかな点の集合の上で同型なものがある。(b) 埋め込み解消(対 $(X,Y)$ の解消):$X$ が滑らかで $Y\subset X$ が閉部分集合のとき、射影的双有理射 $g\colon X'\to X$ で、$X'$ が滑らか、$g$ が $U=X-Y$ の上で同型($U'=g^{-1}(U)\cong U$)、$Y'=g^{-1}(Y)$(被約構造)が強正規交叉因子となるものがある。(a)(b) とも $g$ は滑らかな中心をもつブローアップの有限回の合成としてとれ、$X$ が射影的なら $X'$ も射影的である。(c) 局所版:複素解析空間についても、各点のある近傍の上では (a)(b) と同じ言明が成り立つ。原論文は解析空間での解消を「少なくとも局所的には」成り立つとして使う。
$X=\operatorname{Spec}A$ が affine スキーム、$\mathcal F$ が $X$ 上の準連接層なら、$q\ge1$ で $H^q(X,\mathcal F)=0$ であり、$H^0(X,\mathcal F)=\Gamma(X,\mathcal F)$ は $\mathcal F$ に対応する $A$ 加群そのものである。逆(Serre の判定法):準コンパクトなスキーム $X$ で、すべての有限型準連接イデアル層 $\mathcal I$ について $H^1(X,\mathcal I)=0$ なら $X$ は affine である。系として、分離的な $X$ の affine 開被覆 $\mathfrak U$ と準連接層 $\mathcal F$ について、Čech コホモロジー $\check H^q(\mathfrak U,\mathcal F)$ は $H^q(X,\mathcal F)$ に一致する(有限個の affine 開集合の交わりが affine で、そこで $\mathcal F$ が非輪状だから)。
射 $f\colon U\to X$ が affine(affine 開集合の逆像が affine)で $\mathcal F$ が $U$ 上の準連接層なら、$f_*\mathcal F$ は $X$ 上の準連接層で、$q\ge1$ について $R^qf_*\mathcal F=0$ である。実際 $R^qf_*\mathcal F$ は前層 $V\mapsto H^q(f^{-1}(V),\mathcal F)$ の層化であり、affine な $V$ でこの群は消える。したがって Leray スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(X,R^qf_*\mathcal F)\Rightarrow H^{p+q}(U,\mathcal F)$ は $q=0$ の行だけになって退化し、すべての $p$ で $H^p(X,f_*\mathcal F)\cong H^p(U,\mathcal F)$ が成り立つ。同じことは準連接層からなる下に有界な複体 $\mathcal F^\bullet$ の超コホモロジーにも成り立ち(各項が $f_*$ 非輪状なので $\mathbf Rf_*\mathcal F^\bullet=f_*\mathcal F^\bullet$)、$\mathbf H^n(X,f_*\mathcal F^\bullet)\cong\mathbf H^n(U,\mathcal F^\bullet)$ である。複体の微分が $\mathcal O$ 線型でなくてもよい。閉埋め込み・有限射・局所 1 方程式の閉集合の補集合の包含は affine 射である。
$f\colon X\to S$ が固有射、$S$ が局所ネーター、$\mathcal F$ が $X$ 上の連接層なら、すべての $q$ で $R^qf_*\mathcal F$ は $S$ 上の連接層である(射影射の場合は Serre、固有射は Grothendieck)。特に $X$ が体 $k$ 上固有(完備)なら $H^q(X,\mathcal F)$ は有限次元 $k$ ベクトル空間である。さらに $X$ がネーターで $\dim X=n$ なら、任意のアーベル層 $\mathcal G$ について $q>n$ で $H^q(X,\mathcal G)=0$(Grothendieck の消滅定理)。したがって完備で滑らかな $n$ 次元の $X$ では、Hodge コホモロジー $H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ は $0\le p,q\le n$ の範囲の有限次元空間で、$H^m_{dR}(X)$ も有限次元、$m>2n$ で $0$ である。
$X$ をネーター環 $A$ 上射影的(より一般に固有)なスキーム、$\mathcal L$ を $X$ 上の豊富な可逆層、$\mathcal F$ を連接層とする。このとき $n_0$ があって、$n\ge n_0$ かつ $q\ge1$ なら $H^q(X,\mathcal F\otimes\mathcal L^{\otimes n})=0$ である。$n_0$ を大きくとれば $\mathcal F\otimes\mathcal L^{\otimes n}$ は大域切断で生成される。ここで可逆層 $\mathcal L$ が豊富であるとは、任意の連接層 $\mathcal F$ についてある $n_0$ 以上のすべての $n$ で $\mathcal F\otimes\mathcal L^{\otimes n}$ が大域切断で生成されることをいい、射影的な $X$ の $\mathcal O(1)$ は豊富である。有効 Cartier 因子 $Y$ で $\mathcal O_X(Y)$ が豊富なものを豊富因子といい、射影的な $X$ の超平面切断がその典型である。豊富因子 $Y$ の補集合 $U=X-Y$ は affine である($Y$ を定める $\mathcal O_X(Y)$ の切断 $s_Y$ について $U=X_{s_Y}$ で、豊富な可逆層の切断の非零集合は affine)。
$Y\subset X$ を連接イデアル層 $\mathcal J$ で定義される閉部分スキーム、$\mathcal E$ を連接層とし、$\mathcal E(*Y)=\varinjlim_n\mathcal{H}om_{\mathcal O_X}(\mathcal J^n,\mathcal E)$ とおく(記号表。推移写像は $\mathcal J^{n+1}\subset\mathcal J^n$ による制限)。$Y$ が有効 Cartier 因子で $\mathcal J=\mathcal O_X(-Y)$ が可逆なら $\mathcal{H}om(\mathcal J^n,\mathcal E)=\mathcal E\otimes\mathcal O_X(nY)=\mathcal E(nY)$ であり、$\mathcal E(*Y)=\varinjlim_n\mathcal E(nY)$ は「$Y$ に沿って高々極をもつ $\mathcal E$ の切断」の層、すなわち包含 $f\colon U=X-Y\to X$ について $f_*(\mathcal E|_U)$ に一致する(局所的に $\mathcal J=(t)$ なら $\mathcal E(*Y)=\mathcal E\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal O_X[1/t]$)。ネーターなスキーム上では層コホモロジーは帰納極限と交換するから $H^q(X,\mathcal E(*Y))=\varinjlim_nH^q(X,\mathcal E(nY))$ である。応用の型:$X$ が $k$ 上射影的で $Y$ が豊富因子なら、Serre の消滅定理により右辺は $q\ge1$ で $0$ になり、$H^q(U,\mathcal E|_U)=H^q(X,f_*\mathcal E|_U)=H^q(X,\mathcal E(*Y))=0$ を得る。$U$ が affine であることからも同じ消滅は出るが、この形では $U$ 上の類が $Y$ に沿って有限の位数の極をもつ大域切断で代表されることまで分かる。
$K/k$ を体の拡大、$X$ を $k$ 上分離的・準コンパクトなスキーム、$\mathcal F$ を準連接層とし、$X_K=X\otimes_kK$、$\mathcal F_K$ をその引き戻しとする。このとき自然な同型 $H^q(X_K,\mathcal F_K)\cong H^q(X,\mathcal F)\otimes_kK$ がすべての $q$ で成り立つ。証明の要点:$X$ の有限 affine 開被覆 $\mathfrak U$ をとると $X_K$ の被覆 $\mathfrak U_K$ も affine で、Čech 複体について $\check C^\bullet(\mathfrak U_K,\mathcal F_K)=\check C^\bullet(\mathfrak U,\mathcal F)\otimes_kK$ であり、$K$ は $k$ 上平坦(体上の加群は自由)だから $\otimes_kK$ はコホモロジーをとる操作と交換する。より一般に平坦な底変換 $u\colon S'\to S$ について $u^*R^qf_*\mathcal F\cong R^qf'_*\mathcal F'$ である($f$ は分離的・準コンパクト)。同じ議論は準連接層からなる下に有界な複体の超コホモロジー(Čech 二重複体で計算する)にも通用し、$\Omega^\bullet_{X_K/K}$ が $\Omega^\bullet_{X/k}$ の引き戻しであることから $H^n_{dR}(X_K/K)\cong H^n_{dR}(X/k)\otimes_kK$、Hodge コホモロジーと Hodge–de Rham スペクトル系列も $\otimes_kK$ で移る。
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