$\mathbb C$ 上の非特異な代数多様体の複素係数コホモロジーが代数的な微分形式の複体だけで計算できるという Grothendieck の比較定理(Theorem 1 と Theorem 1′)の言明を与え、一般の滑らかなスキームについての Theorem 1′ が affine の場合の Theorem 1 に帰着することを、affine 開被覆の Čech 型スペクトル系列を代数側と解析側で比べて証明する。Theorem 1 自身の証明は後の頁に置き、本頁ではその二つの道の見取り図を示す。
前提知識: de Rham コホモロジー, Čechコホモロジー, スペクトル系列, 複素多様体
$X$ を $\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかなスキームとする(分離性・準コンパクト性は仮定しない)。$X^h$ をその解析化、$H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})$ を代数的 de Rham コホモロジー(本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』)、$\rho_X\colon H^n_{dR}(X)\to H^n(X^h,\mathbb C)$ を比較写像(原論文の式 (5)。本書『1-2 解析化と比較写像』)とする。
本頁の主結果は次の三つである。原論文が Theorem 1 の直後に置く Hochschild–Kostant の先行例の報告は他者の結果の報告であって本書の判定対象ではないので、主結果に数えず、下の注意(Hochschild–Kostant の先行例)に記録する。
Atiyah と Hodge AH55 は、「第二種の積分」の古典理論を高次元に広げ、非特異な射影多様体の複素係数コホモロジーを有理微分形式で記述した。その議論は特異点解消の型の主張(同論文の Conjecture C、p. 81。本書はその言明の文言を確かめていない)に依存しており、当時は仮定であった。原論文の書簡(1963 年 10 月)は、Hironaka Hir64 が標数 $0$ の特異点解消を証明したので Conjecture C とそれに依る結果がすべて成り立つ、という報告から始まる。書簡の主題は、Atiyah–Hodge は解消の力を使い切っておらず、第二種積分の理論は次の「非常に単純な」定理に本質的に含まれる、という観察である。それが Theorem 1、すなわち $\mathbb C$ 上の非特異 affine 多様体 $X$ について $H^n(X^h,\mathbb C)$ が「有理的で至る所定義された」微分形式の複体のコホモロジーで計算できる、という主張である(印字 p. 95)。書簡はこの観察を、Hartshorne の双対性のセミナー(Harvard、1963/64 年。その記録は後に Har66 として刊行された、と本書は理解する)に関連して Atiyah–Hodge の論文を読んだ機会に得たと述べている。
Theorem 1 は affine の場合の主張で、証明も affine の射影閉包の上で行われる(本書『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)。しかし応用のためには、射影多様体や、分離的ですらないスキームについても同じ比較が欲しい。原論文はそのために、体 $k$ 上局所有限型で滑らかなスキームの de Rham コホモロジーを超コホモロジー $\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ として定義し(式 (1)。本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』)、$k=\mathbb C$ では正則 Poincaré の補題により解析的 de Rham コホモロジーが $H^n(X^h,\mathbb C)$ に一致することから比較写像 (5) を得る(本書『1-2 解析化と比較写像』)。Theorem 1′ は (5) が同型であるという主張で、$X$ が affine なら式 (4) により Theorem 1 に戻る。
本頁の中心は逆向きの帰着、すなわち Theorem 1′ が Theorem 1 から「容易に」従うという原論文の一文(印字 p. 96)を閉じることである。道具は affine 開被覆 $\mathfrak U$ の Čech 型スペクトル系列 (6) と、$X^h$ と $\mathfrak U^h$ についての同じ系列で、比較写像 (5) はこの二つの系列の射から来るので、有限個の交わりでの (5) の同型に帰着する。原論文はここで、まず $X$ が affine スキームに含まれる、したがって分離的な場合に帰着し、そのとき交わりは affine になる、と述べる。affine スキームの開部分スキームは affine とは限らないので、この一文には二段の帰着が圧縮されている。本頁はその二段を分けて書く。完備な $X$ については、Hodge–de Rham 系列と GAGA Ser56 で解消なしに Theorem 1′ が直接示せる(本書『1-2 解析化と比較写像』)。
本頁で使う写像と前層を、本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』『1-2 解析化と比較写像』から短く繰り返す。超コホモロジーは Godement 分解で計算する(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』)。
$X$ を $\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかなスキーム、$\varphi\colon X^h\to X$ を解析化の射とする。$L^\bullet$ を $\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}$ の Godement 分解、$L'^\bullet$ を正則 de Rham 複体 $\Omega^\bullet_{X^h}$ の Godement 分解とすると、代数的微分形式の解析化 $\varphi^{-1}\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}\to\Omega^\bullet_{X^h}$ は分解の射 $\psi\colon\varphi^{-1}L^\bullet\to L'^\bullet$ に延び、大域切断をとって
$$\tilde\rho_X\colon H^n_{dR}(X)=H^n(\Gamma(X,L^\bullet))\longrightarrow H^n(\Gamma(X^h,L'^\bullet))=\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})$$
を得る(本書『1-2 解析化と比較写像』の $\tilde\rho$ と同じ写像である)。正則 Poincaré の補題により $\mathbb C_{X^h}\to\Omega^\bullet_{X^h}$ は分解であり、同型 $\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})\cong H^n(X^h,\mathbb C)$ を与える。$\tilde\rho_X$ とこの同型の合成を比較写像 $\rho_X\colon H^n_{dR}(X)\to H^n(X^h,\mathbb C)$ という(原論文の式 (5))。さらに、増大射 $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\to\Gamma(X,L^\bullet)$ がコホモロジーに誘導する $\varepsilon_X\colon H^n(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}))\to H^n_{dR}(X)$ と合成した
$$\bar\rho_X=\rho_X\circ\varepsilon_X\colon H^n\bigl(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\bigr)\longrightarrow H^n(X^h,\mathbb C)$$
を大域形式の標準写像という($X$ が affine のときは本書『1-2 解析化と比較写像』の $\bar\rho$ に一致する)。閉な代数的 $n$ 形式 $\omega$ の類を、$X^h$ 上の閉な正則 $n$ 形式 $\omega^h$ が定める類に送る写像である。
$\tilde\rho$、$\rho$、$\bar\rho$ は開集合への制限と両立する(本書『1-2 解析化と比較写像』)。この両立が、次に置く Čech 型スペクトル系列の比較を可能にする。
$\mathfrak U=(U_i)_{i\in I}$ を $X$ の任意の開被覆($I$ に全順序を入れておく)、$U_{i_0\cdots i_p}=U_{i_0}\cap\cdots\cap U_{i_p}$ とする。前層
$$\mathcal H^q\colon V\mapsto H^q_{dR}(V)\quad(V\subset X\text{ 開}),\qquad\mathcal H^q_h\colon W\mapsto\mathbf H^q(W,\Omega^\bullet_{X^h}|_W)\cong H^q(W,\mathbb C)\quad(W\subset X^h\text{ 開})$$
を考え、Čech 複体を $\check C^p(\mathfrak U,\mathcal H^q)=\prod_{i_0<\cdots< i_p}\mathcal H^q(U_{i_0\cdots i_p})$ とする。$X$ と $\mathfrak U$ のČech 型スペクトル系列(原論文の (6))は
$$E_2^{p,q}=\check H^p(\mathfrak U,\mathcal H^q)\Longrightarrow H^{p+q}_{dR}(X)$$
であり、$\mathfrak U^h=(U_i^h)_{i\in I}$ を $X^h$ の開被覆として($(U_{i_0\cdots i_p})^h=U^h_{i_0\cdots i_p}$)、その解析版は
$$E_2^{p,q}=\check H^p(\mathfrak U^h,\mathcal H^q_h)\Longrightarrow\mathbf H^{p+q}(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})\cong H^{p+q}(X^h,\mathbb C)$$
である。原論文は両側の前層をどちらも $\mathcal H^q$ と印字する。$\mathcal H^q$ は前層であって、その層化であるコホモロジー層ではない(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』の注意)。
系列 (6) の存在と収束、および $\rho$ がこの二つの系列の射から来ることは、次節の補題で確かめる。その前に引用する事実を並べる。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書第 0 章・第 1 章と God58、Har77、Stacks で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。
原論文の順序どおり、affine の場合の Theorem 1 の言明から始める。帰着に使うには写像を固定する必要があるので、大域形式の標準写像の形で述べる。
$X$ を $\mathbb C$ 上有限型で滑らかな affine スキームとする。大域形式の標準写像
$$\bar\rho_X\colon H^n\bigl(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\bigr)\longrightarrow H^n(X^h,\mathbb C)$$
はすべての $n\ge0$ で同型である。引用する事実 3 により $\varepsilon_X$ は同型なので、これは $\rho_X$ が同型であることと同値である。
要点のみ述べる。証明本体は本書『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』と『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』にあり、ここでは二つの道の段だけを並べる。
経路 I(原論文本文の道。Theorem 2 経由).
段 1(射影閉包).$X$ を $\mathbb A^N_{\mathbb C}$ の閉部分スキームとして埋め、$\mathbb P^N_{\mathbb C}$ での閉包を $\bar X$(被約構造)、$Y=\bar X-X$ とする。$X$ は $\bar X$ で稠密であり、$Y$ は無限遠超平面との交わりで、局所的に 1 個の方程式で定まる豊富因子の台である(本書『0-3 スキームと連接層コホモロジー』『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)。
段 2(局所比較).被約複素解析空間 $\bar X^h$ と $Y^h$ について、$Y^h$ に沿って極をもつ有理型微分形式の複体 $\Omega^\bullet_{\bar X^h}(*Y^h)$ のコホモロジー層は $R^qf_*\mathbb C_{X^h}$($f\colon X^h\to\bar X^h$ は包含)に同型である(Theorem 2。本書『2-2 極をもつ微分形式と局所比較定理』『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』)。
段 3(消滅).$\bar X$ が射影的で $Y$ が豊富因子の台なので $H^p(\bar X^h,\Omega^q_{\bar X^h}(*Y^h))=0$($p>0$)である(原論文の (8) の場合 a)。本書『2-2 極をもつ微分形式と局所比較定理』)。
段 4(大域比較).段 2 と段 3 から $H^n\Gamma(\bar X^h,\Omega^\bullet_{\bar X^h}(*Y^h))\to H^n(X^h,\mathbb C)$ は同型である(原論文の (9))。
段 5(大域切断の同定).$\Gamma(\bar X^h,\Omega^p_{\bar X^h}(*Y^h))=\Gamma(X,\Omega^p_{X/\mathbb C})$、すなわち $Y^h$ にだけ極をもつ有理型 $p$ 形式は $X$ 上の代数的 $p$ 形式にほかならない(原注 (6) の (8″)。本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)。外微分と両立するので複体の同型である。
段 6(標準写像との一致).段 4 の写像は有理型閉形式を $X^h$ に制限して正則閉形式と見なす写像、段 5 の同定は代数的形式の解析化なので、合成は $\bar\rho_X$ に一致する。
経路 II(原注 (6) の道。大域解消).Hironaka の解消 Hir64 により $X\cong X_0-Y_0$($X_0$ は射影的で滑らか、$Y_0$ は正規交叉因子)と書き、正規交叉因子に沿う極の局所計算(Atiyah–Hodge の補題の型)と GAGA による (8′)・(8″) で大域化する。Theorem 2 も Grauert–Remmert の定理も使わない(本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)。標準写像との一致は段 6 と同じである。
どちらの経路でも段 2〜5 は後の頁の定理を引くので、状態は条件付きである。
原論文の言明との差を注意しておく。
原論文の Theorem 1 は、$H^\bullet(X^h,\mathbb C)$ が代数的 de Rham 複体のコホモロジーとして「計算できる」と述べるだけで、どの写像による同型かを書かない。下の定理(affine 被覆による帰着)で Theorem 1 を使うには、交わりへの制限と両立する写像 $\rho$ について同型でなければならないので、本書は標準写像 $\bar\rho_X$ の形で述べた。後の頁の証明が与える同型がこの写像であることは上の証明の段 6 の事項で、本書『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』がそれを担う。原論文の「affine なら (4) により Theorem 1 に帰着する」(印字 p. 96)という文も、この読みを前提にしている。
原論文が Theorem 1 の直後に付ける先行例の報告を、記録として残す。
原論文(印字 p. 95)は、$X$ が代数的線型群の affine 等質空間の場合に Theorem 1 が Hochschild と Kostant により既に確かめられており、一般の場合の成立を彼らが問うたと思う、と「I think」の留保つきで記す。紙面に文献表示はない。本書はこれを Hochschild–Kostant HK62 と同定するが、そこで示された主張の範囲(体と群の条件、どの写像についての同型か)は確かめておらず、本頁の証明の入力には使わない。逆に、上の定理(affine の場合の比較定理)が成り立てば、affine 等質空間は滑らかで affine なので、その特別な場合として従う。
一般の場合の言明に移る。証明は帰着の定理と Theorem 1 から成るので、状態は Theorem 1 と同じ条件付きである。
$X$ を $\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかなスキームとする(分離性・準コンパクト性を仮定しない)。比較写像
$$\rho_X\colon H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\longrightarrow H^n(X^h,\mathbb C)$$
はすべての $n$ で同型である。同値に、$\tilde\rho_X\colon\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\to\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})$ は同型である。
段 1(帰着).下の定理(affine 被覆による帰着)により、$\mathbb C$ 上有限型で滑らかなすべての affine スキーム $V$ について $\rho_V$ が同型なら、$\rho_X$ は同型である。
段 2(affine の場合).上の定理(affine の場合の比較定理)がその仮定を与える。
段 3(完備な場合の別証明).$X$ が完備なら、引用する事実 6 により、段 1・段 2 に依らず $\rho_X$ は同型である。この場合は特異点解消を使わない。
残るのは段 1 の帰着である。まず、比較写像が二つの Čech 型スペクトル系列の射から来ることを確かめる。原論文の「(5) はスペクトル系列の準同型に付随する」の内容である。
$X$ を $\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかなスキーム、$\mathfrak U=(U_i)_{i\in I}$ を任意の開被覆とする。$X$ と $\mathfrak U$ の Čech 型スペクトル系列 (6) から、$X^h$ と $\mathfrak U^h$ の解析版へのスペクトル系列の射で、次を満たすものがある。
(i) $E_1$ 項 $\check C^p(\mathfrak U,\mathcal H^q)\to\check C^p(\mathfrak U^h,\mathcal H^q_h)$ は各交わりについての $\tilde\rho_{U_{i_0\cdots i_p}}$ の積であり、$E_2$ 項の射は前層の射 $\mathcal H^q\to\mathcal H^q_h\circ(-)^h$ が誘導する写像である。
(ii) 到達項の射は $\tilde\rho_X\colon H^n_{dR}(X)\to\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})$ である。
段 1(二重複体の射).$L^\bullet$、$L'^\bullet$、$\psi\colon\varphi^{-1}L^\bullet\to L'^\bullet$ を上の定義(比較写像と大域形式の標準写像)のとおりとし、$A^{p,m}=\check C^p(\mathfrak U,L^m)$、$A_h^{p,m}=\check C^p(\mathfrak U^h,L'^m)$ とおく。横の微分は Čech 微分、縦の微分は $L^\bullet$、$L'^\bullet$ の微分で、どちらも第一象限型の二重複体である。各交わりについて
$$\Gamma(U_{i_0\cdots i_p},L^m)\longrightarrow\Gamma(U^h_{i_0\cdots i_p},\varphi^{-1}L^m)\xrightarrow{\ \psi\ }\Gamma(U^h_{i_0\cdots i_p},L'^m)$$
(最初の写像は随伴の単位 $L^m\to\varphi_*\varphi^{-1}L^m$ の切断)の積として $A^{p,m}\to A_h^{p,m}$ を定める。随伴の単位と $\psi$ は制限写像と両立する(引用する事実 5)ので Čech 微分と可換であり、$\psi$ は複体の射なので縦の微分とも可換である。よって二重複体の射で、Čech 次数 $p$ によるフィルトレーションを保つ。
段 2(到達項).$m$ を固定すると $L^m$ は flasque なので、引用する事実 1 により $\check C^\bullet(\mathfrak U,L^m)$ のコホモロジーは次数 $0$ の $\Gamma(X,L^m)$ だけである。したがって各 $U_i$ への制限で定まる増大射 $\Gamma(X,L^\bullet)\to\operatorname{Tot}A$ は擬同型で $H^n(\operatorname{Tot}A)=H^n_{dR}(X)$、解析側も同様に $H^n(\operatorname{Tot}A_h)=\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h})$ である。段 1 の射は二つの増大射と両立する(制限してから $\psi$ で送っても、送ってから制限しても同じ)ので、$\operatorname{Tot}A\to\operatorname{Tot}A_h$ がコホモロジーに誘導する写像は $\tilde\rho_X$ である。
段 3($E_1$ 項と $E_2$ 項).$p$ を固定すると $\check C^p(\mathfrak U,L^\bullet)=\prod_{i_0<\cdots< i_p}\Gamma(U_{i_0\cdots i_p},L^\bullet)$ である。積はコホモロジーと可換で、Godement 分解は開集合への制限と可換なので、その $m$ 次コホモロジーは $\prod H^m_{dR}(U_{i_0\cdots i_p})=\check C^p(\mathfrak U,\mathcal H^m)$ である。これが $p$ によるフィルトレーションの系列の $E_1$ 項で、$d_1$ は Čech 微分、$E_2$ 項は $\check H^p(\mathfrak U,\mathcal H^m)$ になる。解析側も同じである。段 1 の射が $E_1$ 項に誘導する写像は、各交わりについて $\psi$ を $U_{i_0\cdots i_p}$ に制限したものがコホモロジーに誘導する写像であり、引用する事実 5 により $\tilde\rho_{U_{i_0\cdots i_p}}$ に等しい。フィルトレーションは各総次数 $n$ で $p\le n$ の有限個の段からなる。
この補題で、比較の問題は「交わりで同型なら全体でも同型」という原理に置き換わった。あとは交わりを affine にする被覆の取り方である。
次を仮定する:$\mathbb C$ 上有限型で滑らかな任意の affine スキーム $V$ について、比較写像 $\rho_V$ は同型である。このとき、$\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかな任意のスキーム $X$(分離性・準コンパクト性を仮定しない)について $\rho_X$ は同型である。
Poincaré の補題の同型は常に成り立つので、$\tilde\rho_X$ が同型であることを示せばよい。
段 0(帰着の原理).$X$ の開被覆 $\mathfrak U=(U_i)$ で、すべての有限個の交わり $U_{i_0\cdots i_p}$($p\ge0$)について $\tilde\rho_{U_{i_0\cdots i_p}}$ が同型になるものがあれば、$\tilde\rho_X$ は同型である。実際、上の補題(比較写像が誘導するスペクトル系列の射)の射は $E_1$ 項で $\prod\tilde\rho_{U_{i_0\cdots i_p}}$ だから同型であり、両系列は第一象限型で各次数のフィルトレーションは有限なので、引用する事実 2 により到達項の射 $\tilde\rho_X$ も同型である。
段 1(affine スキームの開部分スキームへの帰着).引用する事実 4 により $X$ は affine 開被覆 $\mathfrak U=(U_i)$ をもつ。有限個の交わり $V=U_{i_0\cdots i_p}$ は affine スキーム $U_{i_0}$ の開部分スキームで、局所有限型で滑らかである。したがって段 0 により、affine スキームの開部分スキーム $V$ について $\tilde\rho_V$ が同型であることを示せば十分である。そのような $V$ は分離的である(affine は分離的で、分離性は開部分スキームに遺伝する)。
段 2(affine への帰着).$V$ を affine スキームの開部分スキームとし、$V$ の affine 開被覆 $\mathfrak V=(V_j)$ をとる。$V$ は分離的なので、有限個の交わり $V_{j_0\cdots j_p}$ は affine であり(引用する事実 4 を交わりの個数について繰り返す)、$\mathbb C$ 上有限型で滑らかである。仮定により $\tilde\rho_{V_{j_0\cdots j_p}}$ は同型なので、段 0 を $V$ と $\mathfrak V$ に適用して $\tilde\rho_V$ は同型である。
段 1 と段 2 を合わせて $\tilde\rho_X$、したがって $\rho_X$ は同型である。
これで上の定理(一般の比較定理)の証明の段 1 が閉じた。原論文の一文との対応と、帰着の及ぶ範囲を記しておく。
(i) 原論文(印字 p. 96)は帰着を一文で述べる。affine スキームの開部分スキームは affine とは限らない($\mathbb A^2-\{0\}$。本書『0-3 スキームと連接層コホモロジー』の反例「余次元 2 の補集合」)が分離的ではあり、その分離性が段 2 で交わりの affine 性を保証する。原論文の一文はこの二段を圧縮している。
(ii) 被覆の添字集合は任意でよく、$X$ が準コンパクトでなくても議論は通る。原論文は被覆の有限性を述べていない。
(iii) $X$ が分離的でなければ $X^h$ は Hausdorff でないが、Čech 型スペクトル系列と上の補題は位相空間の一般論だけを使うので影響しない(本頁の例「二重原点の直線」)。
(iv) 仮定を $\rho_V$ でなく $\bar\rho_V$ の同型として与えても同じである(引用する事実 3)。原論文は交わりを $U_{i_0}\cap\cdots\cap U_{i_q}$ と印字し、$E_2^{p,q}$ の Čech 次数 $p$ と文字が衝突するが、誤りではない。
最も簡単な場合で系列 (6) を実際に計算し、Theorem 1 に頼らずに閉じる例を二つ、分離性が要る場面を示す反例を一つ挙げる。以下は標数 $0$ の計算で、$t^m\,dt=d(t^{m+1}/(m+1))$($m\ne-1$)を繰り返し使う。
$X=\mathbb P^1_{\mathbb C}$ を $U_0=\operatorname{Spec}\mathbb C[t]$ と $U_1=\operatorname{Spec}\mathbb C[t^{-1}]$ で覆う。交わりは $U_{01}=\operatorname{Spec}\mathbb C[t,t^{-1}]=\mathbb G_m$ である。
段 1(各片の代数的 de Rham).三つとも affine なので、引用する事実 3 により大域切断の複体で計算する。$\mathbb C[t]$ では $d$ の核は定数で $t^m\,dt$($m\ge0$)はすべて完全だから $H^0_{dR}(U_i)=\mathbb C$、$H^1_{dR}(U_i)=0$。$\mathbb C[t,t^{-1}]$ では $t^{-1}dt$ だけが完全でない($d(t^m)=mt^{m-1}dt$ に $t^{-1}dt$ の項は現れない)ので $H^0_{dR}(\mathbb G_m)=\mathbb C$、$H^1_{dR}(\mathbb G_m)=\mathbb C\cdot[dt/t]$。$\Omega^2=0$ なので 2 次は $0$。
段 2(Čech 複体).$\mathcal H^0$ について $\check C^0=\mathbb C\oplus\mathbb C\to\check C^1=\mathbb C$、$(a,b)\mapsto b-a$ は全射で核は対角線だから $\check H^0=\mathbb C$、$\check H^1=0$。$\mathcal H^1$ について $\check C^0=0$、$\check C^1=\mathbb C\cdot[dt/t]$ だから $\check H^1(\mathfrak U,\mathcal H^1)=\mathbb C$。$E_2$ 項で $0$ でないのは $E_2^{0,0}$ と $E_2^{1,1}$ だけで、系列は退化する。よって $H^0_{dR}(\mathbb P^1)=\mathbb C$、$H^1_{dR}(\mathbb P^1)=0$、$H^2_{dR}(\mathbb P^1)=\mathbb C$ で、生成元は交わり $\mathbb G_m$ 上の $dt/t$ が Čech–de Rham 二重複体の $\check C^1(\mathfrak U,\Omega^1)$ の元として表す類である。$\Gamma(\mathbb P^1,\Omega^1)=0$ なので大域切断の複体はこの類を見ない(本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』の反例「射影直線と大域切断の複体」)。
段 3(解析側と比較).$U_i^h=\mathbb C$ は可縮、$U_{01}^h=\mathbb C^\times$ は円周にホモトピー同値で $H^1(\mathbb C^\times,\mathbb C)=\mathbb C$、他の正の次数は $0$ である。$\rho_{\mathbb G_m}[dt/t]$ は de Rham の定理(本書『0-4 複素解析空間と GAGA』)により単位円周上の積分 $\oint dt/t=2\pi i\ne0$ で検出されるので $\rho_{\mathbb G_m}$ はすべての次数で同型、$\rho_{U_i}$ も同型である。よって帰着の定理の段 0 により $\rho_{\mathbb P^1}$ は同型で、$H^2(\mathbb P^1(\mathbb C),\mathbb C)=\mathbb C$ と一致する。この例では Theorem 1 を引かずに本頁の議論だけで比較定理が閉じる($\mathbb P^1$ は完備なので引用する事実 6 でも閉じる)。
Theorem 1′ は分離性を仮定しない。それが空虚な一般化でないことを、分離的でない最も簡単なスキームで確かめる。
$X$ を $\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の二つの複製 $U_0,U_1$ を $\mathbb G_m$ に沿って恒等写像で貼り合わせたスキーム(二重原点の直線)とする。$X$ は滑らかで有限型だが分離的でなく、$X^h$ は原点を二つもつ複素直線で Hausdorff でない。交わり $U_{01}=\mathbb G_m$ は affine なので、この被覆については段 1 を経ずに段 0 が使える。各片の計算は上の例と同じ(貼り合わせが $t\mapsto t$ か $t\mapsto t^{-1}$ かは各片に影響しない)なので $H^0_{dR}(X)=\mathbb C$、$H^1_{dR}(X)=0$、$H^2_{dR}(X)=\mathbb C\cdot[dt/t]$ である。解析側も $\mathfrak U^h$ の Čech 型系列(Hausdorff 性は要らない)で $H^2(X^h,\mathbb C)=\mathbb C$ となり、段 0 により $\rho_X$ は同型である。$X$ は完備でないので引用する事実 6 は使えず、帰着の定理が本質的に要る。なお $H^1(X,\mathcal O_X)$ と $H^1(X,\Omega^1_X)$ は無限次元だが、Hodge–de Rham 系列の $d_1\colon t^{-m}\mapsto-mt^{-m-1}dt$ が単射で余核が $t^{-1}dt$ の一次元になるため、$H^2_{dR}(X)$ は一次元に落ちる。
最後は、帰着の段 1 が省けないことを示す反例である。分離性を外すと、affine 開集合の交わりが affine でなくなる。
外す条件は $X$ の分離性である。$X$ を $\mathbb A^2_{\mathbb C}$ の二つの複製 $U_0,U_1$ を $\mathbb A^2-\{0\}$ に沿って恒等写像で貼り合わせたスキーム(二重原点の平面)とする。
以下は後代の結果の紹介である(執筆時点 2026 年の知識による。文献の該当箇所は本書では確認していない)。
本頁が対応する原論文は Gro66 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(Conjecture C、Hironaka の解消、Hartshorne のセミナー) | 書簡の冒頭の段落、原注 (1)〜(3) | 95 |
| 定理(affine の場合の比較定理)、注意(Hochschild–Kostant の先行例) | Theorem 1 とその直後の段落 | 95 |
| 定義(比較写像と大域形式の標準写像)、定理(一般の比較定理) | 式 (4)、(5)、Theorem 1′ | 96 |
| 定義(affine 被覆の Čech 型スペクトル系列と前層)、補題(比較写像が誘導するスペクトル系列の射) | 式 (6) と解析版の陳列式、(5) がスペクトル系列の準同型に付随するという文 | 96 |
| 定理(affine 被覆による帰着)、注意(二段に分ける理由と被覆の任意性) | 「This reduces us, first to the case」で始まる一文 | 96 |
| 一般の比較定理の証明の段 3(完備な場合) | 末尾の段落、原注 (4) | 96 |
| 例と反例(射影直線、二重原点の直線、二重原点の平面) | 原論文にない(本書が補った) | — |
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