原論文に 1965 年 7 月に加えられた原注 (13) は、固有で滑らかな射 $f\colon X\to S$ の相対 de Rham 層 $\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ に標準的な可積分接続を入れるべきことを提案し、その解析的な定義、Hodge 予想・Tate 予想の変種、可積分接続付き局所自由層を係数とする de Rham コホモロジー、底の de Rham コホモロジーで初項を書く Leray 型のスペクトル系列を述べる。本頁は解析的定義と係数付き複体の整合性を証明し、予想と提案は予想として記録し、後に Gauss–Manin 接続と呼ばれる代数的構成は「その後の発展」で引く。
前提知識: de Rham コホモロジー, 微分形式, Lerayスペクトル系列, 導来関手, Hodge予想, Tate予想
$k$ を標数 $0$ の体、$f\colon X\to S$ を $k$ 上局所有限型のスキームの間の固有で滑らかな射とし、$S$ も $k$ 上滑らかとする。$k=\mathbb C$ のとき $f^h\colon X^h\to S^h$ は複素多様体の間の固有な沈め込みである。$(\mathcal E,\nabla)$ は接続付きの局所自由 $\mathcal O_X$ 加群を表す。
本頁の主結果は次の七つである。
原論文の書簡部分は、比較定理を証明したあと「更なる問い」として、$\mathbb C$ 上の正則スキームの射 $f\colon U\to X$ の Leray スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(X^h,R^qf^h_*\mathbb C)\Rightarrow H^{p+q}(U^h,\mathbb C)$(式 (12)、印字 p. 100)が純代数的な定義をもつか、と問う(本書『3-1 第二種の微分形式と Leray スペクトル系列』)。書簡の末尾では滑らかな射の相対 de Rham 層 $\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/S}$(式 (13))を導入し、固有なら局所自由で底変換と両立するという期待を述べ、原注 (12) でその期待を撤回した(本書『5-1 相対 de Rham 層と Serre の反例』)。
原注 (13) は受理と同じ 1965 年 7 月の追記で、方向を変えて、相対 de Rham 層に足すべき構造を提案する。動機として挙げられるのは Manin の関数体上の Mordell 予想の仕事 Man63 である。Manin は、曲線の族の周期をパラメータで微分する古典的な手法(Legendre の族の Picard–Fuchs 方程式に始まる)を関数体上の有理点の問題に用いた。周期を微分するとは、$\mathbb C$ 上では局所定数なサイクル $\gamma$(局所定数層 $R^qf^h_*\mathbb C$ の双対の切断)を固定して代数的な微分形式の類を動かすことであり、それは $R^qf^h_*\mathbb C\otimes\mathcal O_{S^h}$ の上の平坦な接続にほかならない。問題は、この接続を標数 $0$ の任意の底の上で代数的に定義し、それで Leray 系列(式 (12))の代数的な形を作ることである。原注 (13) はその両方を提案の形で述べ、代数的な定義は与えない。本頁は、解析的な側の同型と接続を証明し、係数付きの定義が矛盾なく置けることを確かめ、予想と提案を後の理論と区別して記録する。
まず、係数として使う「接続付き局所自由層」と、原論文が引用なしに使う曲率の言葉を定める。
$X$ を体 $k$ 上滑らかなスキーム、$\mathcal E$ を局所自由 $\mathcal O_X$ 加群とする。$\mathcal E$ の接続(接続)とは、$k$ 線型な層の写像 $\nabla\colon\mathcal E\to\Omega^1_{X/k}\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal E$ で Leibniz 則 $\nabla(ae)=da\otimes e+a\nabla e$($a\in\mathcal O_X$、$e\in\mathcal E$)をみたすものをいう。$\nabla$ は
$$\nabla(\alpha\otimes e)=d\alpha\otimes e+(-1)^p\alpha\wedge\nabla e\qquad(\alpha\in\Omega^p_{X/k})$$
によって $k$ 線型写像 $\nabla\colon\Omega^p_{X/k}\otimes\mathcal E\to\Omega^{p+1}_{X/k}\otimes\mathcal E$ に延びる($\alpha\otimes ae$ と $a\alpha\otimes e$ の像が一致することは $\alpha\wedge da=(-1)^pda\wedge\alpha$ から分かる)。合成 $R=\nabla\circ\nabla\colon\mathcal E\to\Omega^2_{X/k}\otimes\mathcal E$ を曲率といい、$R=0$ のとき $\nabla$ は可積分であるという。$\nabla e=0$ をみたす切断 $e$ を水平という。局所的な枠 $\mathcal E|_U\cong\mathcal O_U^N$ をとれば $\nabla=d+A$($A$ は $1$ 形式を成分とする $N\times N$ 行列)と書け、$R=dA+A\wedge A$ である。
複素多様体の上でも同じ定義を正則な層について使う。次に、前頁の相対 de Rham 層とその解析的な相手を置く。
$f\colon X\to S$ を滑らかな射とし、$\Omega^\bullet_{X/S}$ を相対 de Rham 複体とする。$H^q_{dR}(f)=\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ を相対 de Rham 層という(原論文の式 (13)。$f$ が固有なら連接。本書『5-1 相対 de Rham 層と Serre の反例』)。$k=\mathbb C$ のとき、$\Omega^\bullet_{X^h/S^h}=\Omega^\bullet_{X^h}/\bigl(f^{h*}\Omega^1_{S^h}\wedge\Omega^{\bullet-1}_{X^h}\bigr)$ を解析的な相対 de Rham 複体といい、$\mathbf R^qf^h_*\Omega^\bullet_{X^h/S^h}$ を解析的な相対 de Rham 層という。局所座標 $(z,s)$ で $f^h$ が射影 $(z,s)\mapsto s$ になる開集合では、$\Omega^p_{X^h/S^h}$ の切断は $\sum_{|I|=p}a_I(z,s)\,dz_I$ で、微分は $z$ についての外微分である。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に God58、Voi02、EGA4、Car61b、Del70 で、該当箇所は本頁では確認していない。
原注 (13) の第 1 段落は、解析的には標準接続が標準同型で定義されると述べるだけで、同型の証明を書かない。その同型は、相対 de Rham 複体が底の構造層の引き戻しの分解であること(相対 Poincaré の補題)と、固有射の底変換に帰着する。
$g\colon Y\to T$ を複素多様体の間の沈め込みとする。自然な写像 $g^{-1}\mathcal O_T\to\Omega^\bullet_{Y/T}$ は擬同型である。
主張は層についてなので、$Y=D^n\times D^m$(座標 $(z,s)$)、$T=D^m$、$g$ が射影の場合に多重円板の上で示せばよい。$\mathcal H^0$:$a(z,s)$ が $d_{Y/T}a=0$ をみたすことは $\partial a/\partial z_i=0$(すべての $i$)と同値で、$D^n$ は連結なので $a$ は $s$ だけの関数、すなわち $g^{-1}\mathcal O_T$ の切断である。$\mathcal H^p$($p\ge1$):本書『0-4 複素解析空間と GAGA』の正則 Poincaré の補題の証明を、$s$ をパラメータとして繰り返す。閉じた相対 $p$ 形式 $\omega=\sum a_I(z,s)\,dz_I$ が $dz_1,\dots,dz_k$ だけを含むとして $k$ に関する帰納法で示す。$d_{Y/T}\omega=0$ から係数は $z_{k+1},\dots,z_n$ に依らず、$\omega=dz_k\wedge\alpha+\beta$ と書いて $\alpha$ の係数を $z_k$ について $0$ から $z_k$ まで冪級数の項ごとに積分して $\gamma$ を作る。$(z,s)$ の冪級数を $z_k$ について項ごとに積分したものは同じ多重円板で収束するので $\gamma$ は $(z,s)$ の正則な相対 $(p-1)$ 形式で、$\omega-d_{Y/T}\gamma$ は $dz_1,\dots,dz_{k-1}$ だけを含む閉形式になる。
補題により、解析的な相対 de Rham 層は底の構造層の引き戻しの高次順像に置き換わる。固有な射ではその茎がファイバーのコホモロジーで書ける。
$f\colon X\to S$ を $\mathbb C$ 上滑らかなスキーム $S$ の上の固有で滑らかな射とする。
段 1(分解への置き換え).引用する事実 4 により $f^h$ は固有な沈め込みである。上の補題(相対 Poincaré の補題)と引用する事実 8 により $\mathbf R^qf^h_*\Omega^\bullet_{X^h/S^h}\cong R^qf^h_*(f^{h,-1}\mathcal O_{S^h})$ である。
段 2(写像の構成).開集合 $V\subset S^h$ と $g\in\mathcal O(V)$ は層の写像 $\mathbb C_{f^{-1}V}\to f^{h,-1}\mathcal O_{S^h}|_{f^{-1}V}$、$1\mapsto g\circ f^h$ を与え、$H^q(f^{-1}V,\mathbb C)\to H^q(f^{-1}V,f^{h,-1}\mathcal O_{S^h})$ を誘導する。$g$ について $\mathbb C$ 線型なので、層化して $\theta\colon R^qf^h_*\mathbb C\otimes_{\mathbb C}\mathcal O_{S^h}\to R^qf^h_*(f^{h,-1}\mathcal O_{S^h})$ を得る。
段 3(茎での同型).$s\in S^h$、$X_s=f^{h,-1}(s)$(コンパクト複素多様体)、$W=\mathcal O_{S^h,s}$ とおく。引用する事実 1 により左辺の茎は $H^q(X_s,\mathbb C)\otimes_{\mathbb C}W$、右辺の茎は $H^q(X_s,(f^{h,-1}\mathcal O_{S^h})|_{X_s})$ で、$f^{h,-1}\mathcal O_{S^h}$ の $X_s$ への制限は茎 $W$ の定数層 $W_{X_s}$ である。引用する事実 2 の有限良被覆をとると、$W_{X_s}$ の Čech 複体は $\mathbb C_{X_s}$ の Čech 複体を $W$ でテンソルしたものであり、体の上のテンソルは完全なので $H^q(X_s,W_{X_s})=H^q(X_s,\mathbb C)\otimes_{\mathbb C}W$。$\theta$ の茎はこの同一視そのもの($\sigma\otimes g\mapsto\sigma\cdot g$)なので同型である。よって $\theta$ は層の同型で、1 が従う。
段 4(局所自由性と接続).2 は引用する事実 3 である。3 について、$\nabla$ は $\sigma$ と $g$ の双方について $\mathbb C$ 線型なので well-defined で、$\nabla(\sigma\otimes ag)=\sigma\otimes(da\cdot g+a\,dg)$ は Leibniz 則、$\nabla\nabla(\sigma\otimes g)=\sigma\otimes ddg=0$ は可積分性を与える。局所的に $R^qf^h_*\mathbb C\cong\mathbb C^N$ ととれば、$\sum\sigma_i\otimes g_i$ が水平であることは各 $dg_i=0$、すなわち各 $g_i$ が局所定数であることと同値であり、水平切断の層は $R^qf^h_*\mathbb C$ に一致する。
この定理が原注 (13) の超越的な定義の内容である。原論文の印字と本書が足した仮定について断っておく。
原論文は同型の右辺を $R^qf^h_*(\mathbb C_{X^h})\otimes_{\mathbb C}\mathcal O_{X^h}$ と印字する(読解ノートの 9-21)。両辺は $S^h$ 上の層なので、テンソルの相手は $\mathcal O_{S^h}$ でなければならず、本頁はそう読む。また第 1 段落の最初の $\mathbf Rf_*(\Omega^\bullet_{X/S})$ には上付きの $q$ がない(9-20)。全次数をまとめて指すと読める。原注 (13) は $S$ を $\mathbb C$ 上局所有限型としか書かないが、本頁は $S$ の滑らかさを足した。$f^h$ が沈め込みであることに使うためで、$S$ が被約なら滑らかさの局所構造から補題の証明はそのまま通ると思われるが、本書は滑らかな場合だけを完結とする。さらに、引用する事実 5 を Hodge 型のスペクトル系列 $E_1^{p,q}=R^qf_*\Omega^p_{X/S}$ に項ごとに使えば $(\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S})^h\cong\mathbf R^qf^h_*\Omega^\bullet_{X^h/S^h}$ が得られ、標準接続は代数的な相対 de Rham 層の解析化の上の接続になる(この段の詳細は本書は確かめていない)。原注 (13) が求める代数的な定義(任意の底スキーム、最適には $\operatorname{Spec}\mathbb Q$ に関する接続)は原論文にはなく、「導入すべきである」という提案にとどまる。その定義は「その後の発展」の Katz–Oda の構成である。
接続が手に入ると、切断の水平性と代数性の関係を問える。原注 (13) の第 2 段落の予想の一方の向きは、$\mathbb C$ 上では有理係数という条件だけから従う。
上の定理(標準接続の解析的定義)の設定で、さらに $S$ を連結、$f$ を射影的とし、$\varphi$ を $\mathbf R^{2q}f^h_*\Omega^\bullet_{X^h/S^h}\cong R^{2q}f^h_*\mathbb C\otimes\mathcal O_{S^h}$ の大域切断とする。$s\in S^h$ での $\varphi$ の値 $\varphi(s)\in H^{2q}(X_s,\mathbb C)$ が、余次元 $q$ の代数的サイクルの有理係数の類 $\mathrm{cl}(Z)$ に等しいとき、$\varphi$ は $s$ で代数的であるという。$\varphi$ がすべての $s\in S^h$ で代数的なら、$\varphi$ は標準接続について水平である。
連結な開集合 $U\subset S^h$ の上で局所系 $R^{2q}f^h_*\mathbb Q$ を自明化し、その切断 $\sigma_1,\dots,\sigma_N$ を各点で $H^{2q}(X_s,\mathbb Q)$ の基底になるようにとる(引用する事実 3 と $\mathbb Q$ 係数の固有底変換)。$\varphi|_U=\sum\sigma_i\otimes g_i$($g_i\in\mathcal O(U)$)と書くと $\varphi(s)=\sum g_i(s)\sigma_i(s)$ であり、$s$ で代数的なら引用する事実 7 により $\varphi(s)\in H^{2q}(X_s,\mathbb Q)$、すなわち $g(s)=(g_i(s))_i\in\mathbb Q^N$ である。$g\colon U\to\mathbb C^N$ は連続で $U$ は連結なので、各座標の実部と虚部は $\mathbb R$ の連結部分集合(区間)を像にもつ。像は可算集合 $\mathbb Q^N$ に含まれるので、その区間は一点である。よって $g$ は定数で、$dg_i=0$、$\varphi|_U$ は水平である。$U$ は $S^h$ を覆うので $\varphi$ は水平である。
有理係数であることが要点で、$\mathbb C$ 係数の代数的類を許すと、代数的な類に正則関数を掛けた切断が反例になる。原論文の予想は、この逆向きの主張である。
$f\colon X\to S$ を標数 $0$ のスキームの間の固有で滑らかな射、$S$ を連結かつ被約とし、$\mathbf R^{2q}f_*\Omega^\bullet_{X/S}$ に代数的な標準接続が与えられているとする。切断 $\varphi\in\Gamma(S,\mathbf R^{2q}f_*\Omega^\bullet_{X/S})$ について、$\varphi$ がすべての幾何的ファイバー $X_{\bar s}$ で有理係数の代数的サイクルの類に対応することと、$\varphi$ が標準接続について水平でかつ $S$ のある一点で代数的であることとは同値である。
原論文は「$\mathbf R^qf_*(\Omega^\bullet_{X/S})$ の標準接続について定数」と印字するが、$\varphi$ は $\mathbf R^{2q}f_*$ の切断なので $\mathbf R^{2q}$ の接続の意に読む(9-22)。原論文は、標準接続の適切な代数的定義が与えられればこの予想は Tate 予想(Woods Hole 会議での報告として引かれる。本書は公刊された Tat65 を引く)から従うだろう、と述べるだけで筋は書かない。本書もその筋を補わない。予想の内容は「一点で代数的な水平切断が全ファイバーで代数的」という広がりの主張で、上の命題(ファイバーごとに代数的な切断は水平である)が示すように、逆向きは $\mathbb C$ 上では易しい。$\mathbb C$ 上の Hodge 予想との関係は「その後の発展」で述べる。
第 3 段落は、係数を定数から接続付きの層に広げる。定義が置けることの根拠は、延ばした $\nabla$ が複体を成すことで、それは曲率の計算である。
$(\mathcal E,\nabla)$ を接続付き局所自由層とし、$\nabla$ を定義(接続・曲率・可積分性)のとおり $\Omega^p_{X/k}\otimes\mathcal E\to\Omega^{p+1}_{X/k}\otimes\mathcal E$ に延ばす。すべての $p$ と $\alpha\in\Omega^p_{X/k}$、$e\in\mathcal E$ について $\nabla\circ\nabla(\alpha\otimes e)=\alpha\wedge R(e)$ であり、$R$ は $\mathcal O_X$ 線型である。したがって $(\Omega^\bullet_{X/k}\otimes\mathcal E,\nabla)$ が複体であることと、$\nabla$ が可積分であることは同値である。
段 1(二階の合成).$\nabla(\alpha\otimes e)=d\alpha\otimes e+(-1)^p\alpha\wedge\nabla e$ にもう一度 $\nabla$ を当てる。第 1 項は $dd\alpha\otimes e+(-1)^{p+1}d\alpha\wedge\nabla e$、第 2 項は $(-1)^p\bigl(d\alpha\wedge\nabla e+(-1)^p\alpha\wedge\nabla(\nabla e)\bigr)$ で、$dd\alpha=0$ と $d\alpha\wedge\nabla e$ の項の相殺により $\nabla\nabla(\alpha\otimes e)=\alpha\wedge R(e)$。
段 2($R$ の線型性).$\nabla(ae)=da\otimes e+a\nabla e$ に $\nabla$ を当てると $dda\otimes e-da\wedge\nabla e+da\wedge\nabla e+aR(e)=aR(e)$。
段 3(同値).$R=0$ なら段 1 により $\nabla\nabla=0$。逆に $\nabla\nabla=0$ なら $p=0$ で $R=0$。
$X$ を $k$ 上滑らか、$(\mathcal E,\nabla)$ を可積分接続付き局所自由 $\mathcal O_X$ 加群とする。上の定理により $(\Omega^\bullet_{X/k}\otimes\mathcal E,\nabla)$ は複体であり、その超コホモロジー
$$H^n_{dR}(X,\mathcal E)=\mathbf H^n\bigl(X,\Omega^\bullet_{X/k}\otimes\mathcal E\bigr)$$
を $\mathcal E$ を係数とする de Rham コホモロジー という。原論文は $H^\bullet_{DR}(X,E)$ と印字する(9-23、字体の不統一)。$\mathcal E=\mathcal O_X$、$\nabla=d$ なら $H^n_{dR}(X)$ に戻る。$X$ が affine なら、通常の場合と同じく大域切断の複体 $\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/k}\otimes\mathcal E)$ のコホモロジーに等しい(各項が準連接で高次コホモロジーが消えるため。本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』の議論)。
原論文はこの定義で Theorem 1・1′ が係数付きへ一般化されるだろうと述べる。完備な場合は、本書『1-2 解析化と比較写像』の GAGA による証明がそのまま係数付きで通る。
$X$ を $\mathbb C$ 上固有で滑らか、$(\mathcal E,\nabla)$ を可積分接続付き局所自由層、$\mathcal L=\ker(\nabla\colon\mathcal E^h\to\Omega^1_{X^h}\otimes\mathcal E^h)$ を水平切断の局所系とする。自然な同型 $H^n_{dR}(X,\mathcal E)\cong H^n(X^h,\mathcal L)$ がある。
段 1(係数付き Poincaré の補題).引用する事実 6 により局所的に $(\mathcal E^h,\nabla)\cong(\mathcal O^N,d)$ で、このとき $\Omega^\bullet_{X^h}\otimes\mathcal E^h\cong(\Omega^\bullet_{X^h})^{\oplus N}$ である。正則 Poincaré の補題により $\mathcal L\to\Omega^\bullet_{X^h}\otimes\mathcal E^h$ は擬同型で、$\mathbf H^n(X^h,\Omega^\bullet_{X^h}\otimes\mathcal E^h)\cong H^n(X^h,\mathcal L)$。
段 2(GAGA).複体の射 $\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}\otimes\mathcal E\to\varphi_*(\Omega^\bullet_{X^h}\otimes\mathcal E^h)$($\varphi\colon X^h\to X$)は愚かなフィルトレーションのスペクトル系列の射を与え、$E_1$ では $H^q(X,\Omega^p\otimes\mathcal E)\to H^q(X^h,\Omega^p_{X^h}\otimes\mathcal E^h)$ である。$\Omega^p\otimes\mathcal E$ は連接で $X$ は固有なので GAGA(本書『0-4 複素解析空間と GAGA』)によりこれは同型で、引用する事実 8 により超コホモロジーでも同型である。段 1 と合わせて主張を得る。
affine の場合はこうはいかない。原論文の推測をそのままの形で記録し、反例は「例と反例」で与える。
原論文(原注 (13) 第 3 段落)は、係数付き de Rham コホモロジーの定義のもとで Theorem 1 と Theorem 1′ が係数付きの場合へ一般化されるだろう(likely)と述べる。Theorem 1 の形に書けば、$\mathbb C$ 上の affine で滑らかな $X$ と可積分接続付き $(\mathcal E,\nabla)$ について $H^n\bigl(\Gamma(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}\otimes\mathcal E)\bigr)\cong H^n(X^h,\mathcal L)$ が成り立つ、という主張である。この形は本頁の反例「正則特異点をもたない係数」で破れる。
第 4 段落は、標準接続と係数付き de Rham を組み合わせて、問い Q12 の Leray 系列の代数的な形を提案する。
$X$ を $S$ 上滑らかで固有、$S$ を標数 $0$ の体 $k$ 上滑らかとし、$\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ に代数的な標準接続が与えられているとする。このとき $E_2^{p,q}=H^p_{dR}\bigl(S,\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S}\bigr)$(係数付き de Rham コホモロジー)を初項とし、$H^{p+q}_{dR}(X)$ に収束するスペクトル系列が存在するはずである。
原論文はこの提案の末尾で「Leray スペクトル系列(note (12))の適切な一般化」と印字するが、原注 (12) は Serre の反例の注であり、内容上は印字 p. 100 の式 (12)(Leray スペクトル系列)を指すと読む(9-24)。$k=\mathbb C$ で $f$ が固有滑らかなら式 (12) の $E_2^{p,q}=H^p(S^h,R^qf^h_*\mathbb C)$ は局所系係数のコホモロジーで、上の定理(標準接続の解析的定義)によりそれは $R^qf^h_*\mathbb C\otimes\mathcal O_{S^h}$ の水平切断の局所系の係数付き de Rham コホモロジーに置き換わる。提案はこの置き換えを代数的に行うものである。系列の構成と収束は原論文にはなく、本書も証明しない。
最初の例は、標準接続が古典的な Picard–Fuchs 方程式にほかならないことを、楕円曲線の族で確かめる。
$S=\operatorname{Spec}\mathbb C[\lambda,\lambda^{-1},(\lambda-1)^{-1}]$ の上の楕円曲線の族 $E_\lambda\colon y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ を $f\colon X\to S$ とし、$\omega=dx/y$ とおく。$\rho(\lambda)=\int_\gamma\omega$($\gamma$ は $H_1(E_\lambda^h,\mathbb Z)$ の局所定数な元)は
$$\lambda(1-\lambda)\rho''+(1-2\lambda)\rho'-\tfrac14\rho=0$$
をみたす。実際、$F=x(x-1)(x-\lambda)$ とおくと $\partial_\lambda\omega=\tfrac12x(x-1)F^{-3/2}dx$、$\partial_\lambda^2\omega=\tfrac34x^2(x-1)^2F^{-5/2}dx$ で、
$$\lambda(1-\lambda)\partial_\lambda^2\omega+(1-2\lambda)\partial_\lambda\omega-\tfrac14\omega=d\Bigl(\frac{x(x-1)}{2y(x-\lambda)}\Bigr)$$
が直接の計算で確かめられる(両辺を $F^{-5/2}dx$ の倍数として書き、$g=\tfrac12x^2(x-1)^2$ について $g'F-\tfrac32gF'$ が左辺の分子に一致する)。右辺の関数は $y/(2(x-\lambda)^2)$ に等しく $(\lambda,0)$ にだけ極をもつ(無限遠点では $0$ になる)有理関数なので、その微分は $(\lambda,0)$ を避ける閉路 $\gamma$ の上で積分すると $0$ になり、Ehresmann の定理により $\gamma$ を局所定数にとれるから積分と $\partial_\lambda$ は交換する。これは $a=b=\tfrac12$、$c=1$ の Gauss の超幾何方程式で、$\lambda=0$ で正則な解 $\pi\cdot{}_2F_1(\tfrac12,\tfrac12;1;\lambda)=\int_0^1dt/\sqrt{t(1-t)(1-\lambda t)}$ は $x=\lambda t$ の置換により線分 $[0,\lambda]$ の上の $\omega$ の積分である。接続の言葉では、$R^1f^h_*\mathbb C\otimes\mathcal O$ の枠 $\omega$、$\nabla_{\partial_\lambda}\omega$ について
$$\nabla_{\partial_\lambda}\bigl(\nabla_{\partial_\lambda}\omega\bigr)=\frac{1}{\lambda(1-\lambda)}\Bigl(\tfrac14\omega-(1-2\lambda)\nabla_{\partial_\lambda}\omega\Bigr)$$
であり、周期 $\rho(\lambda)=\int_\gamma\omega$ は局所定数なサイクル $\gamma$ とこの枠との対で、$\partial_\lambda\int_\gamma\omega=\int_\gamma\nabla_{\partial_\lambda}\omega$ により枠についての上の式が $\rho$ の方程式になる。方程式は $\lambda=0,1,\infty$ に確定特異点をもつ。
次は係数付き de Rham コホモロジーの最も簡単な計算で、階数 $1$ の係数が答えをどう変えるかを見る。
$k$ を標数 $0$ の体、$X=\mathbb G_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$、$\mathcal E=\mathcal O_X$、$\nabla=d+\alpha\,dt/t$($\alpha\in k$)とする。階数 $1$ なので曲率は $d(\alpha\,dt/t)=0$ で可積分である。$X$ は affine なので $H^\bullet_{dR}(X,\mathcal E)$ は複体 $k[t,t^{-1}]\to k[t,t^{-1}]\,dt$、$g\mapsto(g'+\alpha g/t)\,dt$ のコホモロジーで、$t^n\mapsto(n+\alpha)t^{n-1}dt$ である。$\alpha\notin\mathbb Z$ なら写像は全単射で $H^0_{dR}=H^1_{dR}=0$。$\alpha=-m\in\mathbb Z$ なら $H^0_{dR}$ は $t^m$ で、$H^1_{dR}$ は $t^{m-1}dt$ の類で張られ、ともに次元 $1$ である。$g\mapsto t^ng$ は $(\mathcal O,d+\alpha\,dt/t)\cong(\mathcal O,d+(\alpha-n)\,dt/t)$ を与えるので、答えが $\alpha$ の $\mathbb Z$ を法とする類だけで決まるのは当然である。$k=\mathbb C$ では水平切断は $t^{-\alpha}$ で、局所系 $\mathcal L$ のモノドロミーは $e^{-2\pi i\alpha}$、$H^n(\mathbb C^\times,\mathcal L)$ は $\alpha\notin\mathbb Z$ なら $0$、$\alpha\in\mathbb Z$ なら $n=0,1$ で次元 $1$ であり、上の推測(係数付き比較の推測)はこの例では成り立つ。
残りは反例である。まず、定理(係数付き de Rham 複体と曲率)の可積分性を外す。
外す条件は曲率 $R=0$ である。$X=\mathbb A^2_k=\operatorname{Spec}k[x,y]$、$\mathcal E=\mathcal O_X$、$\nabla=d+x\,dy$ とする。$R=d(x\,dy)=dx\wedge dy\ne0$ で、$\nabla\nabla(g)=g\,dx\wedge dy$ は $g=1$ で $0$ でない。したがって $\Omega^\bullet_{X/k}\otimes\mathcal E$ は複体にならず、$H^n_{dR}(X,\mathcal E)$ は定義できない。階数 $1$ では $\nabla=d+\eta$ が可積分であることは $d\eta=0$ と同値であり、$x\,dy$ はそれを破る最も簡単な $1$ 形式である。
次に、定理(標準接続の解析的定義)の固有性を外す。
外す条件は $f$ の固有性である。$X=\{(x,s)\in\mathbb A^2_{\mathbb C}:x^2\ne s\}$、$f(x,s)=s$、$S=\mathbb A^1$ とする。$f$ は滑らかで固有でない。ファイバーは $s\ne0$ で $2$ 点を除いた直線、$s=0$ で $\mathbb C^\times$ である。$U\subset S^h$ を $0$ を中心とする小さな円板とすると、$f^{-1}(U)=(\mathbb C\times U)\setminus\Gamma$、$\Gamma=\{s=x^2\}\cap(\mathbb C\times U)$ は連結な閉部分多様体(実余次元 $2$)で、Thom 同型と対の完全列 $H^1(\mathbb C\times U)\to H^1(f^{-1}U)\to H^0(\Gamma)\to H^2(\mathbb C\times U)$ から $H^1(f^{-1}(U),\mathbb C)\cong H^0(\Gamma,\mathbb C)=\mathbb C$。$0$ を含まない小さな円板 $U'$ では $\Gamma$ は $x=\pm\sqrt s$ の $2$ 成分に分かれ $H^1(f^{-1}(U'),\mathbb C)=\mathbb C^2$。よって $(R^1f^h_*\mathbb C)_0\cong\mathbb C$、$(R^1f^h_*\mathbb C)_{s_0}\cong\mathbb C^2$($s_0\ne0$)で、$R^1f^h_*\mathbb C$ は局所定数でなく、定理の 2 は成り立たない。代数的な側では、$f$ は affine 射なので $H^1_{dR}(f)$ は $\mathbb C[s]$ 加群 $H^1\bigl(A\xrightarrow{\partial_x}A\,dx\bigr)$($A=\mathbb C[s,x,(x^2-s)^{-1}]$)に付随する準連接層で、$A$ は $\mathbb C[s]$ 上平坦だから $s=0$ での底変換 $H^1_{dR}(f)\otimes k(0)\cong H^1_{dR}(X_0)$ は成り立つ。しかしファイバーの $H^1_{dR}$ の次元は $s\ne0$ で $2$、$s=0$ で $1$ に落ち、連接層のファイバーの次元は特殊化で下がらないので、$H^1_{dR}(f)$ は連接でない(本書『5-1 相対 de Rham 層と Serre の反例』の反例「固有性を外した相対 de Rham 層」と同じ現象)。
最後に、推測(係数付き比較の推測)を affine の場合に破る例である。
外す条件は、後に Deligne が加えた「無限遠での正則特異点」である。$X=\mathbb A^1_{\mathbb C}=\operatorname{Spec}\mathbb C[t]$、$\mathcal E=\mathcal O_X$、$\nabla=d+dt$ とする。階数 $1$ なので可積分である。代数的な複体は $\mathbb C[t]\to\mathbb C[t]\,dt$、$g\mapsto(g'+g)\,dt$ で、$t^n\mapsto(t^n+nt^{n-1})\,dt$ は単項式の基底について対角成分 $1$ の三角行列だから全単射であり、$H^0_{dR}(X,\mathcal E)=H^1_{dR}(X,\mathcal E)=0$。一方、解析的な水平切断は $g'+g=0$ の解 $ce^{-t}$ で、$\mathcal L$ は単連結な $\mathbb C$ の上の階数 $1$ の自明な局所系、$H^0(\mathbb C,\mathcal L)=\mathbb C\ne0$ である。よって affine の場合の係数付き比較は、係数に条件を付けなければ成り立たない。$\nabla=d+dt$ は $\mathbb P^1$ の無限遠点で不確定特異点(水平切断 $e^{-t}$ が有理型でない)をもち、Kummer 接続(水平切断 $t^{-\alpha}$ は緩増加)との違いがここにある。
以下は後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。文献を開いていないものは「本書は確かめていない」と記す)。
本頁が対応する原論文は On the de Rham cohomology of algebraic varieties Gro66 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:Leray スペクトル系列の代数的定義の問い(Q12) | 式 (12) | 100 |
| 定義(相対 de Rham 層とその解析化) | 式 (13) | 102–103 |
| 定理(標準接続の解析的定義)、注意(原論文の印字と本書が足した仮定) | 原注 (13) 第 1 段落(1965 年 7 月追記) | 103 |
| 命題(ファイバーごとに代数的な切断は水平である)、予想(Hodge 予想・Tate 予想の変種) | 原注 (13) 第 2 段落 | 103 |
| 定理(係数付き de Rham 複体と曲率)、定義(係数付き de Rham コホモロジー)、命題(完備な場合の係数付き比較)、推測(係数付き比較の推測) | 原注 (13) 第 3 段落 | 103 |
| 予想(相対 de Rham 層を係数とする Leray 型スペクトル系列)、注意(問い Q12 との関係) | 原注 (13) 第 4 段落 | 103 |
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