標数 $0$ の体上の射影的で滑らかなスキームでは Hodge–de Rham スペクトル系列が $E_1$ で退化し、代数的 de Rham コホモロジーの Hodge フィルトレーションの付随次数は Hodge コホモロジーになる。しかし $\mathbb C$ 上の Hodge 分解に当たる「自然な」分裂は代数的には得られない。本頁は退化を次元の等式に言い換えて Lefschetz の原理で証明し、アーベル多様体での退化のうち本書で閉じる部分を切り分け、楕円曲線の Weierstrass 分裂の計算によって「自然」の三つの読みを区別する。
前提知識: スペクトル系列, de Rham コホモロジー, Hodge分解, 楕円曲線, アーベル多様体
$k$ を体、$X$ を $k$ 上滑らかなスキームとし、$H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$、$H^{p,q}(X)=H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ と書く。Hodge–de Rham スペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^{p,q}(X)\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(X)$(原論文の式 (3))が収束先に定める減少フィルトレーションを $F^pH^n_{dR}(X)$(Hodge フィルトレーション)と書く。楕円曲線は標数が $2$ でも $3$ でもない体の上で短 Weierstrass 型 $y^2=x^3+ax+b$ で表し、$\omega=dx/y$、$\eta=x\,dx/y$ とおく。
本頁の主結果は次の五つである。
$\mathbb C$ 上の射影的で滑らかな多様体 $X$ の複素係数コホモロジーは、Hodge 理論により $H^n(X^h,\mathbb C)=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}$ と直和に分かれ、各成分は Dolbeault の同型で $H^q(X^h,\Omega^p_{X^h})$ に同型である(本書『0-5 Hodge 理論・アーベル多様体・エタールコホモロジーの初歩』)。比較定理(本書『2-1 affine 被覆による帰着』)と GAGA により、左辺は代数的 de Rham コホモロジー $H^n_{dR}(X)$、右辺の各項は代数的な Hodge コホモロジー $H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ である。そこで原論文は、印字 p. 102 の一段落で次の三つを続けて述べる。第一に、標数 $0$ の体上の射影的で滑らかな $X$ では Lefschetz の原理と Hodge 理論により式 (3) の系列が退化し、アーベル多様体では任意標数で退化する。第二に、退化する場合、$H^n_{dR}(X)$ の自然なフィルトレーションの付随次数は Hodge コホモロジーである。第三に、しかし超越的な場合と違って、このフィルトレーションには「自然な」分裂がなく、de Rham と Hodge の間に自然な同型はない(楕円曲線で既に分かる)。
原論文はこの段落に証明を書かない。退化は「Lefschetz の原理と Hodge 理論」の名指しで済み、アーベル多様体の場合は方法も書かれず、楕円曲線の計算も省かれている。本頁は、退化を「Hodge 数の和が de Rham の次元に等しい」という基礎体の拡大で不変な等式に言い換えて Lefschetz の原理で $\mathbb C$ へ移し、分裂の不在は「自然」の三つの読みに分けて楕円曲線の Weierstrass 表示で確かめる。段落の末尾の「こうして得られる拡大は数論的な不変量である」という観察は、次の頁『4-2 アーベル多様体の $H^1$ と拡大類』の主題になる。
はじめに、退化とフィルトレーションの言葉を本頁で使う形に固定する。定義は本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』のものを短く繰り返す。
$X$ を体 $k$ 上滑らかなスキームとする。de Rham 複体 $\Omega^\bullet_{X/k}$ の愚かなフィルトレーション $\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/k}$ から、スペクトル系列
$$E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/k})\Longrightarrow H^{p+q}_{dR}(X)$$
が得られる(Hodge–de Rham スペクトル系列、原論文の式 (3))。収束先に誘導される減少フィルトレーション $F^pH^n_{dR}(X)=\operatorname{im}\bigl(\mathbf H^n(X,\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/k})\to H^n_{dR}(X)\bigr)$ を Hodge フィルトレーションといい、$E_\infty^{p,q}=\operatorname{gr}^p_FH^{p+q}_{dR}(X)=F^p/F^{p+1}$ である。系列が $E_1$ で退化するとは、すべての $r\ge1$ で $d_r=0$ となること、すなわち $E_1^{p,q}=E_\infty^{p,q}$ となることをいう。
退化はスペクトル系列の言葉で述べた主張だが、基礎体を取り替えたときにどう移るかは、そのままでは見えにくい。次の定義は、楕円曲線での計算に要る記号をまとめる。
$k$ を標数が $2$ でも $3$ でもない体とする。$k$ 上の楕円曲線 $E$ は、$4a^3+27b^2\ne0$ をみたす $a,b\in k$ により、平面 3 次曲線 $y^2=x^3+ax+b$ の射影閉包と無限遠点 $O$ の組として表せる(短 Weierstrass 型)。$U=E\smallsetminus\{O\}=\operatorname{Spec}A$、$A=k[x,y]/(y^2-x^3-ax-b)$ とおき、
$$\omega=\frac{dx}{y},\qquad\eta=\frac{x\,dx}{y}$$
と定める。本書『0-5 Hodge 理論・アーベル多様体・エタールコホモロジーの初歩』の型 $y^2=4x^3-g_2x-g_3$ とは $y\mapsto2y$ で移り、$\omega$、$\eta$ はともに $\tfrac12$ 倍されるので、$\omega$、$\eta$ の張る直線は型の取り方によらない。
原論文の「自然な分裂」は、何に関して自然かが書かれていない。本頁は次の三通りに読み分け、読みごとに判定する。
$E$ を体 $k$ 上の楕円曲線とし、完全列 $0\to F^1H^1_{dR}(E)\to H^1_{dR}(E)\to H^1_{dR}(E)/F^1\to0$ を考える($F^1=H^0(E,\Omega^1_E)$、商は $H^1(E,\mathcal O_E)$。本頁の例「曲線での退化」と例「楕円曲線の $H^1_{dR}$ の基底と Hodge フィルトレーション」)。この列の分裂とは、$F^1$ の補空間 $L\subset H^1_{dR}(E)$ のことをいう。楕円曲線ごとに分裂 $L_E$ を与える対応 $E\mapsto L_E$ が「自然」であることを、次の三通りに読む。
読み a は最も弱く、読み c は $\mathbb C$ 上の超越的な分裂そのものが代数的かを問う。読み b の (b1) と (b2) の違いは、$k=\mathbb C$ で得られる分裂を部分体へ下ろすことを要求するかどうかにある。原論文の「超越的な場合と対照的に」という言い方は読み c に近いが、紙面から断定はできない。
次の事実は証明せずに引用する。出典は本書の第 0 章と第 1〜3 章の頁、および Har77、Sil09 で、該当箇所は本頁では確認していない。
退化を基礎体の取り替えに強い形に言い換えるところから始める。次の補題は原論文にない補いで、原論文の「Lefschetz の原理」が何を運ぶのかを明示するために置く。
$E_r^{p,q}$ を体上の第一象限のスペクトル系列で、各全次数 $n$ について $\bigoplus_{p+q=n}E_1^{p,q}$ が有限次元、収束先 $H^n$ が有限の減少フィルトレーションをもち $E_\infty^{p,q}=\operatorname{gr}^pH^{p+q}$ であるものとする。このとき、すべての $r\ge1$ で $d_r=0$ であることと、すべての $n$ で $\sum_{p+q=n}\dim E_1^{p,q}=\dim H^n$ であることとは同値である。
段 1(不等式).$E_{r+1}^{p,q}=\ker d_r/\operatorname{im}d_r$ は $E_r^{p,q}$ の部分商なので $\dim E_{r+1}^{p,q}\le\dim E_r^{p,q}$ であり、等号は $E_r^{p,q}$ から出る $d_r$ と $E_r^{p,q}$ に入る $d_r$ がともに $0$ のときに限る。全次数 $n$ で和をとると $\sum_{p+q=n}\dim E_\infty^{p,q}\le\sum_{p+q=n}\dim E_1^{p,q}$ で、左辺は $\sum_p\dim\operatorname{gr}^pH^n=\dim H^n$ である。
段 2(同値).$d_r=0$ がすべての $r$ で成り立てば $E_1=E_\infty$ で等式が成り立つ。逆にすべての $n$ で等式が成り立てば、段 1 の不等式はすべての $r$ と $(p,q)$ で等号であり、$E_r^{p,q}$ に関わる $d_r$ はすべて $0$ である。$d_r$ は全次数を $1$ 上げるので、全次数 $n$ の等号が $n$ から出る $d_r$ の消滅を、全次数 $n+1$ の等号が $n+1$ に入る $d_r$ の消滅を含む。
これで退化は「Hodge 数の和が de Rham の次元に等しい」という等式になった。等式の両辺は連接層コホモロジーと超コホモロジーの次元なので、体の拡大で変わらない。原論文の「Lefschetz の原理と Hodge 理論」は、この等式を $\mathbb C$ 上で確かめてよい、という意味に開ける。
$k$ を標数 $0$ の体、$X$ を $k$ 上射影的で滑らかなスキームとする。Hodge–de Rham スペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/k})\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(X)$ はすべての $d_r$($r\ge1$)が消える。したがって $\operatorname{gr}^p_FH^n_{dR}(X)\cong H^{n-p}(X,\Omega^p_{X/k})$ であり、$\dim H^n_{dR}(X)=\sum_{p+q=n}\dim H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ である。
段 1($\mathbb Q$ 上有限生成な体への下降).引用する事実 1 により $E_1$ 項は有限次元で、$H^n_{dR}(X)$ もその部分商の有限個の拡大なので有限次元である。引用する事実 3 により、$\mathbb Q$ 上有限生成な部分体 $k_0\subset k$ と $k_0$ 上射影的で滑らかな $X_0$ で $X=X_0\otimes_{k_0}k$ となるものがある。引用する事実 2 により、上の補題(次元の等式による退化の判定)の等式の両辺は $k_0\to k$ で変わらない。よって $X_0$ で等式を示せばよい。
段 2($\mathbb C$ への上昇).引用する事実 3 により埋め込み $k_0\hookrightarrow\mathbb C$ がある。再び引用する事実 2 により、$X_{\mathbb C}=X_0\otimes_{k_0}\mathbb C$ で等式を示せばよい。
段 3($\mathbb C$ 上).引用する事実 5 により $H^n_{dR}(X_{\mathbb C})\cong H^n(X^h,\mathbb C)$、引用する事実 4 により $H^q(X_{\mathbb C},\Omega^p)\cong H^q(X^h,\Omega^p_{X^h})$ である。$X^h$ はコンパクト Kähler なので、引用する事実 6 により $\dim H^n(X^h,\mathbb C)=\sum_{p+q=n}\dim H^q(X^h,\Omega^p_{X^h})$ である。すなわち $X_{\mathbb C}$ で等式が成り立ち、補題(次元の等式による退化の判定)により $X_{\mathbb C}$ の系列は退化する。段 1、2 により $X$ の系列も退化する。付随次数の同型と次元の等式は退化の言い換えである。
原論文の一文は、底変換の不変性(段 1、2)と Hodge 分解による次元の一致(段 3)に分かれ、後者だけが超越的である。$\mathbb C$ 上で Hodge 分解という分裂を使いながら、戻ってくるのは次元の等式だけで分裂は戻らない。それが原論文の第三の主張の出発点である。
$A$ を体 $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体とする。原論文は、任意の標数で $A$ の Hodge–de Rham スペクトル系列が退化すると述べる。本書で閉じるのは次の二つである。(i) $k$ が標数 $0$ なら退化する。(ii) 任意の標数で、全次数 $0$、$1$ から出る微分と全次数 $1$ に入る微分はすべて消え、$0\to H^0(A,\Omega^1_A)\to H^1_{dR}(A)\to H^1(A,\mathcal O_A)\to0$ は完全で $\dim H^1_{dR}(A)=2g$ である。標数 $p>0$ で全次数 $2$ 以上に関わる微分が消えることは、本書では証明しない。
要点のみ述べる。(i) アーベル多様体は射影的で滑らかなので、上の定理(標数 0 の射影的で滑らかなスキームでの退化)に含まれる。(ii) 原論文は方法を書かない。本書『4-2 アーベル多様体の $H^1$ と拡大類』で、群法則 $m\colon A\times A\to A$ の引き戻しと Künneth の分解を使い、$d_1\colon H^1(A,\mathcal O_A)\to H^1(A,\Omega^1_A)$ と $d_2\colon H^1(A,\mathcal O_A)\to H^0(A,\Omega^2_A)/dH^0(A,\Omega^1_A)$ が $0$ であること、および不変微分が閉であることを示す(原始性の議論)。全次数 $0$ から出る $d_1$ は定数の微分で $0$ である。これで全次数 $1$ の $E_\infty$ が $E_1$ に等しく、完全列が得られる。残る部分は、$\dim H^n_{dR}(A)=\binom{2g}n$ を示して補題(次元の等式による退化の判定)を使うか、原始性の議論を Hopf 代数の構造と Künneth で高次に延ばすかで閉じると考えられるが、どちらも本書では行わない。
原論文が推測として添える一般化は、次の注意として記録するに留める。
原論文(印字 p. 102 上)は、Hodge コホモロジーが「正しい」Betti 数、すなわち $\ell$ 進エタールコホモロジー(原注 (11)、$\ell\ne\operatorname{char}k$)の与える $b_n(X)$ を与えるときは、おそらく常に系列が退化するだろう、と述べる。補題(次元の等式による退化の判定)により、確かなのは「$\sum_{p+q=n}\dim H^{p,q}(X)=\dim H^n_{dR}(X)$ なら退化する」である。推測はその右辺を $b_n(X)$ に置き換えるので、$\dim H^n_{dR}(X)=b_n(X)$ という別の期待(原論文 印字 p. 103、本書『5-1 相対 de Rham 層と Serre の反例』の HP2)を経由する。この期待は標数 $p>0$ では Serre の曲面で破れるので、推測の仮定と結論をつなぐ橋は一般には切れている。本書はこの推測を判定しない。
退化する場合には $\operatorname{gr}_FH^n_{dR}(X)$ が Hodge コホモロジーになる。ここから先が「分裂」の問題で、楕円曲線での計算が要る。
(i) $X$ を体 $k$ 上滑らかなスキームとし、Hodge–de Rham スペクトル系列が $E_1$ で退化するとする。このとき $\operatorname{gr}^p_FH^n_{dR}(X)\cong H^{n-p}(X,\Omega^p_{X/k})$ であり、$H^n_{dR}(X)$ は Hodge コホモロジー $\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}(X)$ を付随次数にもつフィルター付き空間である。
(ii) $k$ を標数 $0$ の体、$E$ を $k$ 上の楕円曲線とする。$E$ の短 Weierstrass 型を一つとり $L_E=k[\eta]\subset H^1_{dR}(E)$ とおくと、$L_E$ は型の取り方によらず、$F^1H^1_{dR}(E)=k[\omega]$ の補空間である(Weierstrass 分裂)。
(iii) 対応 $E\mapsto L_E$ は読み a の意味で自然である。すなわち同型 $\psi\colon E\xrightarrow{\sim}E'$ について $\psi^*L_{E'}=L_E$、体の拡大 $k\subset k'$ について $L_{E\otimes_kk'}=L_E\otimes_kk'$ が成り立つ。
段 1(付随次数).退化すれば $E_1^{p,q}=E_\infty^{p,q}=\operatorname{gr}^p_FH^{p+q}_{dR}(X)$ であり、これは定義(Hodge–de Rham スペクトル系列の退化と Hodge フィルトレーション)の言い換えである。
段 2(補空間).本頁の例「楕円曲線の $H^1_{dR}$ の基底と Hodge フィルトレーション」により $H^1_{dR}(E)$ は $[\omega]$、$[\eta]$ を基底とし、$F^1H^1_{dR}(E)=k[\omega]$ である。よって $k[\eta]$ は $F^1$ の補空間である。
段 3(型の取り方によらないこと).引用する事実 10 により、短 Weierstrass 型の取り替えは $(x,y)\mapsto(x',y')=(u^2x,u^3y)$ に限る。このとき $\omega'=dx'/y'=u^{-1}\omega$、$\eta'=x'\,dx'/y'=u\,\eta$ なので、直線 $k[\eta]$ は変わらない。
段 4(同型に関する関手性).同型 $\psi\colon E\to E'$ について、引用する事実 10 により $\psi^*x'$、$\psi^*y'$ は $E$ の短 Weierstrass 座標であり、$\psi^*\eta'=\psi^*x'\cdot d(\psi^*x')/\psi^*y'$ はその座標での $\eta$ である。段 3 により $\psi^*L_{E'}=k[\psi^*\eta']=L_E$。
段 5(体の拡大).引用する事実 2 により $H^1_{dR}(E\otimes_kk')=H^1_{dR}(E)\otimes_kk'$ であり、$E\otimes_kk'$ の短 Weierstrass 型は同じ方程式で与えられ、その $\eta$ は $\eta\otimes1$ である。よって $L_{E\otimes_kk'}=L_E\otimes_kk'$。
(iii) は、原論文の「自然な分裂はない」を読み a で読むと成り立たないことを示す。原論文自身が原注 (10) で $\eta=x\,dx/y$ を $H^1$ の基底に使っているので、著者がこの分裂を知らなかったとは考えにくく、意図された読みは a ではない。残る読み b、c を次の定理で調べる。
$k$ を標数 $0$ の体とする。
(i) Weierstrass 分裂は読み b の意味で自然ではない。$a\ne0$、$b(a^2-4b)\ne0$ をみたす $a,b\in k$ について、$E\colon y^2=x^3+ax^2+bx$ から $E'\colon Y^2=X^3-2aX^2+(a^2-4b)X$ への $2$ 次の同種 $\varphi(x,y)=\bigl(y^2/x^2,\ y(b-x^2)/x^2\bigr)$ は $\varphi^*L_{E'}\ne L_E$ をみたす。
(ii) $k=\mathbb C$ では、Hodge 分解 $E\mapsto H^{0,1}(E^h)\subset H^1(E^h,\mathbb C)=H^1_{dR}(E)$ が読み (b1) の意味で自然な分裂を与える。したがって「読み (b1) の意味で自然な分裂は存在しない」は $k=\mathbb C$ では偽である。底変換の関手性も課した読み (b2) で自然な分裂が存在しないことは、本書では示せない。
(iii) $k\subset\mathbb C$、$E\colon y^2=4x^3-g_2x-g_3$($g_2,g_3\in k$)とし、引用する事実 11 の周期を $\omega_1,\omega_2,\eta_1,\eta_2$ とする。$H^1(E^h,\mathbb C)=H^1_{dR}(E)\otimes_k\mathbb C$ の中で
$$H^{0,1}=\mathbb C\,\bigl[\eta+c\,\omega\bigr],\qquad c=\frac{\overline{\omega_1}\,\eta_2-\overline{\omega_2}\,\eta_1}{\omega_1\overline{\omega_2}-\omega_2\overline{\omega_1}}$$
であり、読み c の意味で Hodge 分解が $k$ 上定義されることと $c\in k$ とは同値である。$E$ が $k$ 上定義された虚数乗法をもつ($\operatorname{End}_k(E)\ne\mathbb Z$)なら $c\in k$ であり、Hodge 分解は代数的である。すなわち読み (c1) の「自然な分裂はない」は偽である(例は本頁の反例「虚数乗法をもつ楕円曲線では Hodge 分解が代数的である」)。虚数乗法をもたない場合 (c2) に $c\notin k$ を示すには周期の超越性が要り、本書では閉じない。
段 1((i) の計算).本頁の例「2 次同種での Weierstrass 分裂の変化」で、$\varphi^*[\eta']=-2[\eta]-a[\omega]$ と $\varphi^*[\omega']=-[\omega]$ を示す。$E$、$E'$ の短 Weierstrass 型はそれぞれ $x+a/3$、$X-2a/3$ を新しい座標にして得られるので、$L_E=k[\eta+\tfrac a3\omega]$、$L_{E'}=k[\eta'-\tfrac{2a}3\omega']$ であり、$\varphi^*[\eta'-\tfrac{2a}3\omega']=-2[\eta]-a[\omega]+\tfrac{2a}3[\omega]=-2[\eta+\tfrac a6\omega]$。$a\ne0$ なので $\varphi^*L_{E'}=k[\eta+\tfrac a6\omega]\ne L_E$。
段 2((ii)).$k=\mathbb C$ では引用する事実 5 により $H^1_{dR}(E)=H^1(E^h,\mathbb C)$ で、$F^1H^1_{dR}(E)=H^{1,0}$ である。同種 $\psi\colon E\to E'$ は $E^h\to E'^h$ の正則写像を与え、引用する事実 6 により $\psi^*$ は $H^{0,1}(E'^h)$ を $H^{0,1}(E^h)$ に写す。$H^{0,1}$ は $H^{1,0}=F^1$ の補空間なので、$E\mapsto H^{0,1}(E^h)$ は読み (b1) の意味で自然な分裂である。読み (b2) では、この分裂を $\mathbb C$ の部分体 $k$ 上の曲線に底変換と両立するように下ろせるかが問われ、それは $H^{0,1}$ が $k$ 上定義されるかという (iii) の問いそのものになる。同種に関する制約(本頁の例「2 次同種での Weierstrass 分裂の変化」の関係式 $\gamma_{E'}=2\gamma_E-a$)だけからは矛盾が出ないので、本書は判定しない。
段 3((iii) の計算).$H^{1,0}=\mathbb C[\omega]$、$H^{0,1}=\overline{H^{1,0}}=\mathbb C[\bar\omega]$ である(引用する事実 6)。$[\bar\omega]=\alpha[\omega]+\beta[\eta]$ と書き、両辺の $\gamma_j$ 上の周期をとると $\overline{\omega_j}=\alpha\omega_j+\beta\eta_j$($j=1,2$)。引用する事実 11 により係数行列式は $\omega_1\eta_2-\omega_2\eta_1=2\pi i\ne0$ なので
$$\alpha=\frac{\overline{\omega_1}\eta_2-\overline{\omega_2}\eta_1}{2\pi i},\qquad\beta=\frac{\omega_1\overline{\omega_2}-\omega_2\overline{\omega_1}}{2\pi i}=\frac{\operatorname{Im}(\omega_1\overline{\omega_2})}{\pi}.$$
$\omega_1,\omega_2$ は $\mathbb R$ 上一次独立なので $\beta\ne0$ であり、$H^{0,1}=\mathbb C[\eta+(\alpha/\beta)\omega]$、$c=\alpha/\beta$ が上の式である。$H^1_{dR}(E)=k[\omega]\oplus k[\eta]$ の部分 $k$ 空間 $L$ で $L\otimes\mathbb C=H^{0,1}$ となるものは $k[\eta+c'\omega]$($c'\in k$)の形に限り、$\mathbb C[\eta+c'\omega]=\mathbb C[\eta+c\omega]$ は $c'=c$ と同値である。
段 4(虚数乗法をもつ場合).$\operatorname{End}_k(E)\ne\mathbb Z$ とし、$[\alpha]\in\operatorname{End}_k(E)\smallsetminus\mathbb Z$ をとる。引用する事実 12 により $[\alpha]^*\omega=\alpha\omega$($\alpha\in k$、$\alpha\notin\mathbb R$)である。$\mathbb C$ 上では $[\alpha]^*$ は $H^{1,0}=\mathbb C[\omega]$ に $\alpha$ 倍で作用し、正則写像の引き戻しは複素共役と可換なので $H^{0,1}=\overline{H^{1,0}}$ には $\bar\alpha$ 倍で作用する。$[\alpha]^*$ は $k$ 線型写像 $H^1_{dR}(E)\to H^1_{dR}(E)$ の $\otimes\mathbb C$ なので、そのトレース $\alpha+\bar\alpha$ は $k$ に属し、$\bar\alpha\in k$、$\bar\alpha\ne\alpha$ である。よって $[\alpha]^*$ は $H^1_{dR}(E)$ の上で $k$ 上対角化され、固有値 $\bar\alpha$ の固有直線 $L'\subset H^1_{dR}(E)$ は $L'\otimes_k\mathbb C=H^{0,1}$ をみたす。すなわち $c\in k$。
段 5(残るもの).虚数乗法をもたない場合、$c$ が $k$ に属さないことは周期と擬周期の代数的独立性の型の主張であり、本書はその入力をもたない。
三つの読みの判定をまとめると、読み a では分裂が存在し(Weierstrass 分裂)、読み b では Weierstrass 分裂は落ちるが (b1) は $k=\mathbb C$ で Hodge 分解が分裂を与えるので偽、(b2) の不在は示せず、読み c では (c1) が偽で (c2) の虚数乗法のない場合が超越数論に残る。原論文の主張が意味をもつのは (b2) または (c2) の読みで、かつ主張として閉じるには本書にない入力が要る。
原論文は「超越的な場合と対照的に」と書くので、意図は読み c に近い。「楕円曲線で既に分かる」がどの計算を指すかは紙面から判定できない。読み b の (b1) は、構成を要求せず「関手的な分裂の存在」だけを問うと、同種類ごとの非標準的な選択で満たされる余地があり、主張として意味をもたせるには「代数的に構成される」といった条件を添える必要があると思われる。本書はこれ以上の判定をしない。
まず退化を直接確かめられる場合を二つ挙げる。どちらも任意の標数で成り立ち、標数 $0$ の定理に頼らない。
$X=\mathbb P^1_k$($k$ は任意の体)。$\Omega^1_{\mathbb P^1}\cong\mathcal O(-2)$ なので、$E_1$ 項は $E_1^{0,0}=H^0(\mathcal O)=k$、$E_1^{1,1}=H^1(\Omega^1)=k$ で、他は $0$ である。$d_r$ は $E_r^{p,q}$ から $E_r^{p+r,q-r+1}$ へ向かうので、$(0,0)$ から出るものは $(1,0)$ へ、$(1,1)$ に入るものは $(0,1)$ からで、どちらの項も $0$ である。よって系列は退化し、$H^0_{dR}=k$、$H^1_{dR}=0$、$H^2_{dR}\cong H^1(\mathbb P^1,\Omega^1)\cong k$ である。$H^2_{dR}$ の生成元は、被覆 $U_0=\{x\ne\infty\}$、$U_1=\{x\ne0\}$ の Čech 1 コサイクル $dx/x\in\Omega^1(U_0\cap U_1)$ で代表される。Hodge 数の和 $1,0,1$ は $S^2$ の Betti 数に一致する。
$X$ を任意の体 $k$ 上滑らかで固有な幾何的に連結な曲線とする。$E_1$ 項は $p,q\in\{0,1\}$ の範囲にしかなく、$0$ でないことがありうる微分は $d_1\colon H^0(\mathcal O_X)\to H^0(\Omega^1_X)$ と $d_1\colon H^1(\mathcal O_X)\to H^1(\Omega^1_X)$ だけである($d_2$ 以降は範囲の外へ出る)。前者は定数の微分で $0$。後者を引用する事実 9 の被覆 $\{U,V\}$ で書くと、$f\in\mathcal O(U\cap V)$ の類を $df\in\Omega^1(U\cap V)$ の類に送る写像である。$S$ の各点 $s$ で局所座標 $t$ により $f=\sum_nc_nt^n$(Laurent 級数)と書くと $df=\sum_nnc_nt^{n-1}dt$ で、$t^{-1}dt$ の係数は $0\cdot c_0=0$ である。よって $\sum_s\operatorname{res}_s(df)=0$ であり、引用する事実 9 の同型 $H^1(X,\Omega^1_X)\cong k$ のもとで $d_1[f]=0$。したがって曲線では任意の標数で系列は退化し、$0\to H^0(X,\Omega^1_X)\to H^1_{dR}(X)\to H^1(X,\mathcal O_X)\to0$ は完全で、$\dim H^1_{dR}(X)=2g$、$H^2_{dR}(X)\cong k$ である。とくに楕円曲線では、定理(アーベル多様体での退化)の残る部分(全次数 $2$)がこの引用のもとで閉じる。
次は本頁の定理の土台になる計算である。
$k$ を標数 $0$ の体、$E\colon y^2=x^3+ax+b$、$U=E\smallsetminus\{O\}=\operatorname{Spec}A$ とする。
(1) $\Omega^1_A$ は $\omega=dx/y$ を基底とする自由 $A$ 加群である。$2y\,dy=(3x^2+a)dx$ であり、$4a^3+27b^2\ne0$ は $x^3+ax+b$ と $3x^2+a$ が互いに素であることと同値なので、$A$ の中で $(y,3x^2+a)=(1)$ である。$\alpha y+\beta(3x^2+a)=1$ をみたす $\alpha,\beta\in A$ をとり $\omega=\alpha\,dx+2\beta\,dy$ とおくと、$y\omega=dx$、$(3x^2+a)\omega=2\,dy$ となる。
(2) $H^1_{dR}(U)=\Omega^1(U)/dA$(引用する事実 7)は $[\omega]$、$[\eta]$ を基底とする。$A$ は $x^i$、$x^iy$($i\ge0$)を $k$ 基底にもち、$d(x^i)=ix^{i-1}y\,\omega$、
$$d(x^iy)=\Bigl[\bigl(i+\tfrac32\bigr)x^{i+2}+\bigl(i+\tfrac12\bigr)a\,x^i+i\,b\,x^{i-1}\Bigr]\omega$$
である。標数 $0$ なので、第一の式から $x^iy\,\omega$ は完全微分で、第二の式から $x^{i+2}\omega$ は法 $dA$ で $x^i\omega$、$x^{i-1}\omega$ の一次結合に等しい。帰納的に $H^1_{dR}(U)$ は $[\omega]$、$[x\omega]=[\eta]$ で張られる。独立性は、$a'\omega+b'\eta=df$ とおいて $f$ の $x^iy$ の最高次の項を比べれば、$x^{i+2}\omega$ の係数 $(i+\tfrac32)e_i$ が $0$ でないことから $f$ が $x$ の多項式に限られ、さらに $x^iy\,\omega$ の係数の比較で $f$ が定数に限られることで分かる。
(3) $\iota=[-1]\colon(x,y)\mapsto(x,-y)$ は $O$ を固定し、$\iota^*\omega=-\omega$、$\iota^*\eta=-\eta$ である。留数は $O$ を固定する自己同型と可換なので $\operatorname{res}_O\omega=-\operatorname{res}_O\omega$、すなわち $\operatorname{res}_O\omega=\operatorname{res}_O\eta=0$。引用する事実 8 の留数完全列により $H^1_{dR}(E)\to H^1_{dR}(U)$ は同型で、$H^1_{dR}(E)$ は $[\omega]$、$[\eta]$ を基底とし、$H^2_{dR}(E)\cong k$ である。
(4) $\omega$ は $E$ 全体で正則で、$H^0(E,\Omega^1_E)=k\omega$ である($a'\omega$ が $O$ で正則なら $a'\in A$ は $E$ 上正則、よって定数)。$F^1H^1_{dR}(E)=E_\infty^{1,0}$ は $H^0(E,\Omega^1_E)$ の像 $k[\omega]$ であり、商 $H^1_{dR}(E)/F^1\cong H^1(E,\mathcal O_E)$ は $[\eta]$ の像で張られる。$\eta$ は $O$ に $2$ 位の極をもつ第二種微分で、Hodge フィルトレーションを「極のない形式」と「極を許す形式」の対比として見たものが、この $F^1\subset H^1_{dR}(E)$ である。
以下の三つは分裂に関するもので、最初の反例は原論文の主張を読み a で読んだときに破れることを示す。
外す条件は「自然」の意味で、「同型と体の拡大に関して関手的」と読む。$k$ を標数 $0$ の体とし、各楕円曲線 $E$ に短 Weierstrass 型の $\eta$ の張る直線 $L_E=k[\eta]$ を対応させる。定理(付随次数と Weierstrass 分裂)により、$L_E$ は $F^1H^1_{dR}(E)$ の補空間で、同型と体の拡大に関して関手的である。
$k$ を標数 $0$ の体、$a\ne0$、$b(a^2-4b)\ne0$ とし、$E\colon y^2=x^3+ax^2+bx$、$E'\colon Y^2=X^3-2aX^2+(a^2-4b)X$(右辺の 3 次式の判別式はそれぞれ $b^2(a^2-4b)$ と $16b(a^2-4b)^2$ で、ともに $0$ でない)、$\varphi(x,y)=(X,Y)=\bigl(y^2/x^2,\ y(b-x^2)/x^2\bigr)$ とする。$X=x+a+b/x$ であり、$Y^2-\bigl(X^3-2aX^2+(a^2-4b)X\bigr)$ の分子は $y^2-(x^3+ax^2+bx)$ で割り切れるので $\varphi$ は $E'$ に値をもつ有理写像、したがって原点を保つ射で同種であり(Sil09 第 III 章)、核は $\{O,(0,0)\}$ なので次数は $2$ である。$\omega=dx/y$、$\eta=x\,dx/y$、$\omega'=dX/Y$、$\eta'=X\,dX/Y$ とおく。
(1) $dX=(1-b/x^2)\,dx$ なので $\varphi^*\omega'=\dfrac{(x^2-b)/x^2}{y(b-x^2)/x^2}\,dx=-\omega$。
(2) $\varphi^*\eta'=-(x+a+b/x)\,\dfrac{dx}{y}=-\eta-a\omega-b\,\dfrac{dx}{xy}$。
(3) $2y\,dy=(3x^2+2ax+b)\,dx$ から $x\,dy-y\,dx=\dfrac{x^3-bx}{2y}\,dx$ であり、$d(y/x)=\dfrac{x\,dy-y\,dx}{x^2}=\tfrac12\eta-\tfrac b2\dfrac{dx}{xy}$。よって $b\,\dfrac{dx}{xy}\equiv\eta$(法:完全微分)。
(4) (2)、(3) から $\varphi^*[\eta']=-2[\eta]-a[\omega]$。一般に $E$ の分裂を $k[\eta+\gamma_E\omega]$、$E'$ の分裂を $k[\eta'+\gamma_{E'}\omega']$ と書くと、$\varphi$ に関する関手性 $\varphi^*L_{E'}=L_E$ は $\gamma_{E'}=2\gamma_E-a$ と同値である。Weierstrass 分裂は $\gamma_E=a/3$、$\gamma_{E'}=-2a/3$ で、$2\cdot\tfrac a3-a=-\tfrac a3\ne-\tfrac{2a}3$。
これらの恒等式($\varphi$ の像が $E'$ に入ること、(1)、(3))は多項式の割り算で確かめられる計算で、本書は計算機代数で検算した。
次は読み (b1) の反例で、$k=\mathbb C$ では超越的な分裂がそのまま同種に関して関手的な分裂になる。
外す条件は「自然」の意味で、読み b のうち体を $k=\mathbb C$ に固定した (b1) と読む。$\mathbb C$ 上の各楕円曲線 $E$ に $L_E=H^{0,1}(E^h)\subset H^1(E^h,\mathbb C)=H^1_{dR}(E)$(引用する事実 5)を対応させる。定理(同種と Hodge 分解に関する分裂)の (ii) により、$L_E$ は $F^1H^1_{dR}(E)=H^{1,0}$ の補空間で、すべての同種 $\psi\colon E\to E'$ について $\psi^*L_{E'}\subset L_E$ である。
最後は読み (c1) の反例で、$k$ 上定義された虚数乗法がある場合には Hodge 分解が代数的になる。
外す条件は「自然」の意味で、読み c のうち $E$ が $k$ 上定義された虚数乗法をもつ (c1) と読む。$E\colon y^2=x^3-x$($\mathbb Q$ 上定義)とし、$k$ は $\mathbb Q\subset k\subset\mathbb C$ の任意の体とする。$[i]\colon(x,y)\mapsto(-x,iy)$ は $E_{\mathbb C}$ の自己同型で($(iy)^2=-y^2=(-x)^3-(-x)$)、$[i]^*\omega=d(-x)/(iy)=i\,\omega$、$[i]^*\eta=(-x)\,d(-x)/(iy)=-i\,\eta$ である。$[i]^*$ は $H^1(E^h,\mathbb C)=\mathbb C[\omega]\oplus\mathbb C[\eta]$ に固有値 $i$、$-i$ で作用し、固有空間はそれぞれ $\mathbb C[\omega]$、$\mathbb C[\eta]$ である。$[i]$ は正則写像なので $[i]^*$ は $H^{0,1}=\overline{H^{1,0}}$ を保ち(引用する事実 6)、$H^{1,0}=\mathbb C[\omega]$ 上で $i$ 倍だから $H^{0,1}$ 上では $\bar i=-i$ 倍である。$-i$ の固有空間は $\mathbb C[\eta]$ しかないので $H^{0,1}=\mathbb C[\eta]$、すなわち定理(同種と Hodge 分解に関する分裂)の $c$ は $0$ で、Hodge 分解は $\mathbb Q$ 上定義される Weierstrass 分裂に一致する。
以下は後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による)。原論文の主張として帰属しない。全体像は Illusie の解説 Ill96 を見よ。
本頁が対応する原論文は On the de Rham cohomology of algebraic varieties Gro66 である。原論文は書簡で節番号をもたないので、印字頁と原注の番号で引く。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 補題(次元の等式による退化の判定) | なし(本書の補い。「Lefschetz の原理」の具体化) | 102 |
| 定理(標数 0 の射影的で滑らかなスキームでの退化) | 「If X is projective and smooth over a field k of char. 0 …」の一文 | 102 上 |
| 定理(アーベル多様体での退化) | 「The same holds in any characteristic if X is an abelian variety」 | 102 上 |
| 注意(Betti 数との一致と退化の推測) | 「presumably every time when the Hodge cohomology gives the “correct” Betti numbers」、原注 (11) | 102 上 |
| 定理(付随次数と Weierstrass 分裂)の (i) | 「the bigraded group associated to the natural filtration … is just the Hodge cohomology」 | 102 中 |
| 定義(Hodge フィルトレーションの分裂と「自然」の三つの読み)、定理(付随次数と Weierstrass 分裂)の (ii)(iii)、定理(同種と Hodge 分解に関する分裂)、反例 | 「no “natural” splitting available for this filtration」と、続く楕円曲線への言及 | 102 中 |
| 例(楕円曲線の $H^1_{dR}$ の基底と Hodge フィルトレーション) | 原注 (10) の $\omega=dx/y$、$\eta=x\,dx/y$ | 102(原注 (10)) |
| 例(射影直線での退化)、例(曲線での退化)、例(2 次同種での Weierstrass 分裂の変化)、反例(Hodge 分解は $\mathbb C$ 上の同種に関して関手的である)、反例(虚数乗法をもつ楕円曲線では Hodge 分解が代数的である) | なし(本書の補い) | — |
原論文の「natural」は何に関して自然かを書かないので、本頁は三つの読みに分け、読み b と c はさらに二つずつに分けて判定した。
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