3-1 第二種の微分形式と Leray スペクトル系列

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

滑らかで連結なスキーム $X$ 上の有理閉 $p$ 形式が第二種であることを、Zariski 稠密開集合 $U$ への制限の類が $H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U)$ の像に入ることとして純代数的に定義し、この定義が $U$ の取り方に依らないこと、曲線では極での留数がすべて $0$ であることと同値になることを示す。あわせて、原論文が問いとして残した開埋め込み $U\to X$ の Leray スペクトル系列の代数的定義について、解析側では (12) が極をもつ有理型形式の複体の超コホモロジーの系列に一致すること、しかし同じ形を Zariski 位相で取った代数的な系列は Leray 系列の対応物にならないことを曲線の例で確かめ、問いは問いのまま残す。
前提知識: de Rham コホモロジー, 微分形式, Lerayスペクトル系列, 留数

この頁で示すこと

$k$ を体、$X$$k$ 上滑らかで連結な(したがって整な)局所有限型スキーム、$K=k(X)$ をその関数体とする。$H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ は代数的 de Rham コホモロジー(本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』)、$k=\mathbb C$ のとき $\rho\colon H^n_{dR}(X)\to H^n(X^h,\mathbb C)$ は比較写像である。曲線に関する主張では $k$ の標数を $0$ とする。
本頁の主結果は次の四つである。

  1. 第二種の定義の整合性(原論文 印字 p. 100 末尾の段落。Atiyah–Hodge の定義の代数化):有理閉 $p$ 形式 $\varphi$ が第二種であること($\varphi$ が正則なある稠密開集合 $U$ で、類が $H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U)$ の像に入る)は、$U$ をより小さい稠密開集合に取り替えても保たれ、第二種の形式全体は完全形式を含む $k$ 部分空間をなす。[完結]
  2. 曲線での留数判定(原論文にはない。原注 (10) の楕円曲線の例の一般形):標数 $0$ の体上の滑らかで固有な連結曲線では、有理 1 形式が第二種であることとすべての閉点での留数が $0$ であることは同値で、$H^1_{dR}(X)$ は第二種の有理 1 形式を完全微分で割った空間に同型である。[条件付き:affine スキームでの大域切断による計算(本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』)を引用]
  3. Atiyah–Hodge の定義との関係(原論文 印字 p. 100、A-H p. 84 への参照):Atiyah–Hodge が Leray スペクトル系列 (12) を使って超越的に定義した第二種の概念と 1 の代数的定義が一致することを原論文は主張する。本書は比較定理からそれが出る筋を書くが、A-H の定義の文言を確かめていない。[未完結:A-H p. 84 の定義の文言を本書は確かめていない]
  4. 開埋め込みの Leray 系列の解析的表示と Zariski 側の系列(原論文 式 (12)、印字 p. 100):$Y\subset X$ が局所的に 1 個の方程式で定まる閉部分集合、$U=X-Y$ のとき、$k=\mathbb C$ では Leray スペクトル系列 (12) は解析化した複体 $\Omega^\bullet_{X^h}(*Y^h)$ の超コホモロジーの第二スペクトル系列と $E_2$ 以降で同型である。同じ形を Zariski 位相で取った系列 $H^p(X,\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y)))\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(U)$ は任意の体上で定義され $H^\bullet_{dR}(U)$ に収束するが、$E_2$ 項もフィルトレーションも (12) と一般に一致せず、(12) の代数的な対応物ではない。[条件付き:局所比較定理 Theorem 2(本書『2-2 極をもつ微分形式と局所比較定理』)を引用]「Zariski 側の系列が (12) の代数的な対応物である」という読みは反例「$Y$ が空のときの Zariski 側の系列と Leray 系列の食い違い」で破れる。
    本頁で閉じるのは 1 と、2 の根拠になる留数完全列である。引用するのは、超コホモロジーのスペクトル系列と affine 射の高次順像の消滅、affine スキームでの大域切断による計算、滑らかな曲線の局所環の完備化の形、および比較定理である。原論文が問いとして残した Leray 系列の代数的定義(式 (12) の前後の二つの問い)には本書は答えを与えない。4 はその問いに対する観察であって答えではなく、問いは未解決のまま注意として記録し、本書『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』の原注 (13) へ橋を架ける。

背景と動機

曲線上の有理微分を、極をもたないもの(第一種)、極をもつが留数がすべて $0$ のもの(第二種)、それ以外(第三種)に分けるのは 19 世紀以来の分類である。第二種の微分は完全微分 $df$ を法として種数 $g$ の曲線で $2g$ 次元の空間をなし、その周期が古典的な第一種・第二種の周期である(楕円曲線の $\omega=dx/y$$\eta=x\,dx/y$。本書『0-5 Hodge 理論・アーベル多様体・エタールコホモロジーの初歩』)。Atiyah と Hodge AH55 は、この理論を高次元の射影多様体へ広げるために、開集合 $U$ の包含 $f\colon U\to X$ の Leray スペクトル系列(原論文の式 (12))を使って有理閉形式が「第二種」であることを定義した。その理論は特異点解消の型の主張(A-H の Conjecture C、p. 81)を仮定しており、原論文はこれが Hironaka の定理 Hir64 により成り立つと述べる(本書は A-H の言明の文言を確かめていない)。
原論文の出発点は、この理論が比較定理 Theorem 1 に本質的に含まれるという観察である(印字 p. 95)。実際、Theorem 1′(本書『2-1 affine 被覆による帰着』)で代数的 de Rham コホモロジーが解析的な値と一致するなら、A-H の定義に現れる「$H^\bullet(X^h,\mathbb C)\to H^\bullet(U^h,\mathbb C)$ の像」は代数的な「$H^\bullet_{dR}(X)\to H^\bullet_{dR}(U)$ の像」で置き換えられ、定義は任意の体の上で意味をもつ。原論文は印字 p. 100 でこれを一段落で述べ、その直前で二つの問い、すなわち Leray スペクトル系列 (12) 自身が純代数的な定義をもつか、$\mathbb C$ の部分体 $k_0$ 上の模型から Leray フィルトレーションが来るか、を立てる。原注 (8) はその代替として Cousin 分解から作る代数的なスペクトル系列を提案する(本書『3-2 Cousin 分解と余次元スペクトル系列』)。本頁は定義の代数化を書き切り、問いの方は記録にとどめる。

定義と準備

有理形式と正則性、極の集合を先に固定する。

有理微分形式とその正則な開集合

$X$$k$ 上滑らかで連結な局所有限型スキーム、$\xi$ をその生成点、$K=\mathcal O_{X,\xi}$ を関数体とする。$X$有理 $p$ 形式とは茎 $\Omega^p_{X/k,\xi}=\Omega^p_{K/k}$ の元のことである。$\Omega^p_{X/k}$ は局所自由で $X$ は整だから、空でない開集合 $V$ について $\Omega^p_{X/k}(V)\to\Omega^p_{K/k}$ は単射であり、有理 $p$ 形式 $\varphi$$V$正則であるとはこの像に入ることをいう。正則である点の集合は開集合で、その補集合を $\varphi$極の集合という。外微分 $d\colon\Omega^p_{K/k}\to\Omega^{p+1}_{K/k}$ は各開集合上の外微分と両立し、$d\varphi=0$ のとき $\varphi$であるという。$\varphi$ が空でない開集合 $U$ 上正則で閉なら、$\varphi\in\Gamma(U,\Omega^p_U)$ は複体 $\Gamma(U,\Omega^\bullet_U)$$p$ 次コサイクルであり、その像 $[\varphi]_U\in H^p_{dR}(U)=\mathbf H^p(U,\Omega^\bullet_U)$$\varphi$$U$ での類という。

$X$ が連結で滑らかなら整なので、空でない開集合はすべて稠密である。以下「稠密開集合」は空でない開集合の意味で使う。原論文が印字 p. 100 で述べる定義を、そのまま書く。

第二種の有理閉形式

上の設定で、有理閉 $p$ 形式 $\varphi$第二種であるとは、$\varphi$ が正則な稠密開集合 $U\subset X$ で、類 $[\varphi]_U\in H^p_{dR}(U)$ が制限写像 $H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U)$ の像に入るものが存在することをいう。

定義は「ある $U$ が存在する」の形をしている。これが $U$ の取り方に依らないこと(より小さい $U$ でも成り立つこと)は次の節の最初の定理で確かめる。曲線では判定に留数を使うので、留数の定義もこの頁で使う形(局所環の完備化での Laurent 展開)で置いておく。

曲線上の留数

$k$ を標数 $0$ の体、$X$$k$ 上滑らかな曲線、$s\in X$ を閉点、$t\in\mathcal O_{X,s}$ を一意化元とする。$\mathcal O_{X,s}$ は離散付値環で、$k(s)/k$ は有限次分離拡大だから、係数体 $k(s)\subset\widehat{\mathcal O}_{X,s}$ は一意に定まり、完備化は $k$ 代数として $\widehat{\mathcal O}_{X,s}\cong k(s)[\![t]\!]$、その分数体は $k(s)((t))$ である。有理 1 形式 $\varphi\in\Omega^1_{K/k}=K\,dt$$\varphi=\bigl(\sum_{m\ge m_0}a_mt^m\bigr)dt$$a_m\in k(s)$)と展開でき、$\varphi$$s$ での留数$\operatorname{res}_s\varphi:=a_{-1}\in k(s)$ と定める。$s$ で正則な形式と、$g\in k(s)((t))$ の形式的微分 $dg$ の留数は $0$ である。$t'=ut$$u$ は単元)を別の一意化元とすると、$t^mdt$$m\le-2$)は $d(t^{m+1}/(m+1))$ で、$t^{-1}dt=t'^{-1}dt'-u^{-1}du$$u^{-1}du$ は正則だから、$t'$ で計算した留数も $a_{-1}$ に等しい。すなわち留数は一意化元の取り方に依らない。

留数は「$t^{-1}dt$ の係数」という局所的な数値だが、次の節では、これを商複体のコホモロジー層への標準写像として読み直し、$H^1_{dR}(X)\to H^1_{dR}(U)$ の像を記述する道具にする。そのために引用する事実を並べておく。

引用する事実

次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Har77Stacks と本書第 0 章で、以下に添える章節番号は記憶によるもので、本頁では確認していない。

  1. 超コホモロジーのスペクトル系列と長完全列(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』):下に有界な複体 $K^\bullet$ について第二スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(X,\mathcal H^q(K^\bullet))\Rightarrow\mathbf H^{p+q}(X,K^\bullet)$ が収束し、擬同型で $E_2$ 以降が同型に移る。複体の短完全列から超コホモロジーの長完全列が出る。$\mathcal H^q(K^\bullet)$ がすべて flasque(既約空間上の定数層、有限個の閉点上の摩天楼層など)なら $E_2^{p,q}=0$$p>0$)である。
  2. affine 射と Leray(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』『0-3 スキームと連接層コホモロジー』):affine 射 $j$ と準連接層 $\mathcal F$ について $R^qj_*\mathcal F=0$$q>0$)、したがって $U$ 上の準連接層の複体 $K^\bullet$ について $\mathbf H^n(X,j_*K^\bullet)=\mathbf H^n(U,K^\bullet)$。局所的に 1 個の方程式で定まる閉部分集合 $Y$ の補集合の包含 $j$ は affine 射で、$\mathcal J$$Y$ のイデアル層とすると、準連接な $\mathcal F$ について $j_*(\mathcal F|_U)=\varinjlim_m\mathcal Hom(\mathcal J^m,\mathcal F)=\mathcal F(*Y)$
  3. affine スキームでの計算(原論文 式 (4)、本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』):$U$ が affine なら $H^n_{dR}(U)=H^n(\Gamma(U,\Omega^\bullet_U))$
  4. 曲線の局所構造Har77 II.6、IV.1):滑らかで固有な曲線から空でない有限個の閉点を除いた開集合は affine である。標数 $0$ の体上の滑らかな曲線の閉点 $s$ で、$\mathcal O_{X,s}$ は離散付値環、$\Omega^1_{X,s}$ は一意化元 $t$$dt$ を基底とする自由加群、完備化は $k(s)[\![t]\!]$ で、$d$$t$ についての形式的微分に延びる。$X$ が固有かつ正規で $H^0(X,\mathcal O_X)=k$ なら、$K$ の元で $k$ 上代数的なものは $k$ に入る。
  5. 比較定理(本書『2-1 affine 被覆による帰着』『2-2 極をもつ微分形式と局所比較定理』):Theorem 1′($\mathbb C$ 上滑らかな $X$$\rho$ は同型であり、開集合への制限と両立する)と Theorem 2($X^h$ 上で $Y^h$ に沿って極をもつ有理型形式の複体 $\Omega^\bullet_{X^h}(*Y^h)$ から $\mathbf Rj^h_*\mathbb C_{U^h}$ への自然な射が擬同型である)。
  6. Leray スペクトル系列(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』):連続写像 $f\colon U\to X$ と層 $\mathcal F$ について $E_2^{p,q}=H^p(X,R^qf_*\mathcal F)\Rightarrow H^{p+q}(U,\mathcal F)$ が収束し、これは $\mathbf Rf_*\mathcal F$ の第二スペクトル系列である。原論文の式 (12) は $f^h\colon U^h\to X^h$$\mathcal F=\mathbb C_{U^h}$ の場合である。

主結果と証明

まず定義が $U$ の取り方に依らないことを確かめる。証明は制限写像の関手性だけで済む。

定義の整合性

第二種の定義の整合性

$X$$\varphi$ を定義(第二種の有理閉形式)のとおりとする。
(i) $U'\subset U$$\varphi$ の正則な稠密開集合で、$[\varphi]_U$$H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U)$ の像に入るなら、$[\varphi]_{U'}$$H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U')$ の像に入る。
(ii) したがって $\varphi$ が第二種なら、ある稠密開集合 $U_0$ があって、$U_0$ に含まれる $\varphi$ の正則な稠密開集合すべてで類は像に入る。
(iii) 第二種の有理閉 $p$ 形式全体は $\Omega^p_{K/k}$$k$ 部分空間で、$X$ 全体で正則な閉形式と、有理 $(p-1)$ 形式の外微分 $d\psi$ をすべて含む。

段 1(制限の関手性).包含 $U'\subset U\subset X$ について、制限写像は合成 $H^p_{dR}(X)\to H^p_{dR}(U)\to H^p_{dR}(U')$ に分解し、$[\varphi]_{U'}$$[\varphi]_U$ の像である。$[\varphi]_U=\alpha|_U$$\alpha\in H^p_{dR}(X)$)なら $[\varphi]_{U'}=\alpha|_{U'}$ となり (i) が従う。(ii) は (i) の言い換えである。
段 2(線型性).$\varphi_1,\varphi_2$ が第二種で、それぞれ $U_1,U_2$ で像に入るとする。$X$ は既約なので $U=U_1\cap U_2$ は稠密開集合で、(i) により両方とも $U$ で像に入り、$a\varphi_1+b\varphi_2$ の類 $a[\varphi_1]_U+b[\varphi_2]_U$ も像に入る。$X$ 全体で正則な閉形式は $U=X$ で像に入る。$\psi$ を有理 $(p-1)$ 形式、$U$ をその正則な開集合とすると、$d\psi$$U$ で正則で閉、$[d\psi]_U$ は複体 $\Gamma(U,\Omega^\bullet_U)$ のコバウンダリの像だから $0$ であり、像に入る。

これで定義は「十分小さい $U$ でつねに成り立つ」性質として読める。逆向き、すなわち「正則な任意の $U$ で成り立つ」に強められるかは別で、次の注意のとおり一般には期待できない。

「存在」を「任意」に強められないこと

定義の「ある $U$ が存在」を「$\varphi$ の正則な任意の稠密開集合 $U$ で像に入る」に強められるかどうかは、上の定理からは出ない。$U'\subset U$ について $H^p_{dR}(U)\to H^p_{dR}(U')$ は一般に単射でなく、$U$ で像に入らない類が $U'$ で像に入ることを上の定理は排除しないからである。本書はこの強い形が成り立つかどうかを決めず、例も挙げない。曲線では次の小節の留数判定により、$U$ を極の集合の補集合に取っても、より小さく取っても判定は変わらない。

曲線の留数完全列

曲線では $H^1_{dR}(X)\to H^1_{dR}(U)$ の像を留数で記述できる。鍵は次の完全列で、原論文にはなく本書が補うものである。以下 $S$ に沿って極を許した形式の層を $\Omega^p_X(*S)=\varinjlim_m\Omega^p_X(mS)$ と書く(本書『2-2 極をもつ微分形式と局所比較定理』の $\Omega^\bullet_X(*Y)$ の代数版)。

曲線の留数完全列

$k$ を標数 $0$ の体、$X$$k$ 上滑らかで固有な連結曲線、$S\subset X$ を空でない有限個の閉点の集合、$U=X-S$$j\colon U\to X$ とする。$H^1_{dR}(U)=\Omega^1(U)/d\mathcal O(U)$ であり、完全列
$$0\to H^1_{dR}(X)\to H^1_{dR}(U)\xrightarrow{\ \operatorname{res}\ }\bigoplus_{s\in S}k(s)\to H^2_{dR}(X)\to H^2_{dR}(U)=0$$
がある。ここで $\operatorname{res}$$\Omega^1(U)$ の元を有理 1 形式と見て各 $s\in S$ で留数を取る写像である。

段 1($U$ の超コホモロジーを $X$ 上で書く).引用する事実 4 により $U$ は affine で、$j$ は affine 射である。事実 2 により $R^qj_*\Omega^p_U=0$$q>0$)、$j_*\Omega^p_U=\Omega^p_X(*S)$ で、$\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X(*S))=H^n_{dR}(U)$。事実 3 により $H^1_{dR}(U)=\Omega^1(U)/d\mathcal O(U)$$H^2_{dR}(U)=0$$\Omega^2_U=0$)。
段 2(商複体).複体の短完全列 $0\to\Omega^\bullet_X\to\Omega^\bullet_X(*S)\to Q^\bullet\to0$$Q^\bullet$ を定める。$Q^\bullet$$S$ に台をもち、$Q^0=\mathcal O_X(*S)/\mathcal O_X$$Q^1=\Omega^1_X(*S)/\Omega^1_X$$Q^p=0$$p\ge2$)である。
段 3(局所計算).$s\in S$$t$ を一意化元とする。$\mathcal O_X(*S)_s=\mathcal O_{X,s}[t^{-1}]$ で、$t^{-m}\mathcal O_{X,s}/\mathcal O_{X,s}\cong\mathcal O_{X,s}/t^m$ は完備化で変わらないので、事実 4 により $Q^0_s\cong\bigoplus_{m\ge1}k(s)\,t^{-m}$、同様に $Q^1_s\cong\bigoplus_{m\ge1}k(s)\,t^{-m}dt$ で、微分は $d(a\,t^{-m})=-m\,a\,t^{-m-1}dt$$a\in k(s)$$da=0$$k(s)/k$ が分離代数的なことによる)。標数 $0$ だから $d\colon Q^0_s\to Q^1_s$ は単射で、像は $t^{-m}dt$$m\ge2$)の張る部分空間である。よって $\mathcal H^0(Q^\bullet)=0$$\mathcal H^1(Q^\bullet)_s\cong k(s)$ で、同型は $t^{-1}dt$ の係数、すなわち留数で与えられる。とくに標準写像 $\Omega^1_X(*S)_s\to\mathcal H^1(Q^\bullet)_s\cong k(s)$$\operatorname{res}_s$ である。
段 4($Q^\bullet$ の超コホモロジー).$\mathcal H^1(Q^\bullet)$$S$ 上の摩天楼層で、$\mathcal H^q(Q^\bullet)=0$$q\ne1$)。事実 1 の第二スペクトル系列により $\mathbf H^1(X,Q^\bullet)=H^0(X,\mathcal H^1(Q^\bullet))=\bigoplus_{s\in S}k(s)$$\mathbf H^n(X,Q^\bullet)=0$$n\ne1$)。
段 5(長完全列).段 2 の短完全列の長完全列(事実 1)は
$$0=\mathbf H^0(X,Q^\bullet)\to H^1_{dR}(X)\to H^1_{dR}(U)\to\mathbf H^1(X,Q^\bullet)\to H^2_{dR}(X)\to H^2_{dR}(U)\to\mathbf H^2(X,Q^\bullet)=0$$
である。$H^1_{dR}(U)\to\mathbf H^1(X,Q^\bullet)$ は複体の射 $\Omega^\bullet_X(*S)\to Q^\bullet$ が誘導する写像で、$d\varphi=0$ なる大域切断 $\varphi\in\Gamma(X,\Omega^1_X(*S))=\Omega^1(U)$ の類を、$\varphi$$\Gamma(X,Q^1)$ での像の $H^0(X,\mathcal H^1(Q^\bullet))$ における類、すなわち段 3 により $(\operatorname{res}_s\varphi)_{s\in S}$ に送る。

標数 $p>0$ では段 3 が壊れる。$p\mid m$ のとき $d(t^{-m})=0$ なので $d\colon Q^0_s\to Q^1_s$ は単射でなく、$t^{-m-1}dt$ の類が $\mathcal H^1(Q^\bullet)_s$ に残る。これは本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』で $\mathbb A^1$$H^1_{dR}$ が無限次元になる現象と同じもので、留数判定が標数 $p$ で破れる例は「例と反例」に置く。完全列から、第二種であることの判定と $H^1_{dR}(X)$ の記述が出る。

曲線での留数判定

$k$ を標数 $0$ の体、$X$$k$ 上滑らかで固有な連結曲線とする。
(i) 有理 1 形式 $\varphi$(曲線上では自動的に閉)が第二種であることと、$X$ のすべての閉点で $\operatorname{res}_s\varphi=0$ であることは同値である。
(ii) 第二種の有理 1 形式 $\varphi$ に、$[\varphi]_U$$U$$\varphi$ の正則な稠密開集合)の $H^1_{dR}(X)$ における一意な原像を対応させる写像は、全射 $k$ 線型写像で、核は完全微分 $dg$$g\in K$)全体である。すなわち $H^1_{dR}(X)\cong\{\text{第二種の有理 1 形式}\}/dK$

段 1((i)).$S$$\varphi$ の極の集合、$U=X-S$ とする。$S=\emptyset$ なら $\varphi$$X$ 全体で正則で両辺とも成り立つ。$S\ne\emptyset$ とする。$\varphi$ が第二種なら、上の定理(第二種の定義の整合性)の (i) により、ある稠密開集合 $U_1=X-S_1\subset U$$S_1\supset S$ は有限集合)で $[\varphi]_{U_1}$ は像に入り、上の補題(曲線の留数完全列)を $S_1$ に適用すれば $\operatorname{res}_s\varphi=0$$s\in S_1$)、$S_1$ の外では $\varphi$ は正則で留数は $0$ である。逆にすべての留数が $0$ なら、補題を $S$ に適用して $[\varphi]_U$ は像に入り、$\varphi$ は第二種である。
段 2((ii) の well-defined 性).補題により $H^1_{dR}(X)\to H^1_{dR}(X-S)$$S\ne\emptyset$)は単射なので原像は一意で、$S\subset S'$ について両立する(定理(整合性)の (i) と単射性)。$S=\emptyset$ のときは $[\varphi]_X$ 自身を対応させる。線型性は定理(整合性)の (iii) による。
段 3(核と像).核は $[\varphi]_U=0$ なる形式全体で、段 2 により $U$ は affine($X$ から空でない有限集合を除いたもの)に取り替えてよいから、事実 3 によりそれは $\varphi=dg$$g\in\mathcal O(U)\subset K$)と同値であり、逆に $g\in K$ について $dg$ は第二種で類 $0$ である(定理(整合性)の (iii))。全射性:閉点 $s_0$ を取り $U=X-\{s_0\}$ とすると $H^1_{dR}(U)=\Omega^1(U)/d\mathcal O(U)$ なので、$\alpha\in H^1_{dR}(X)$ の像は $U$ 上正則な有理 1 形式 $\varphi$ で代表され、補題の完全性により $\operatorname{res}_{s_0}\varphi=0$、よって $\varphi$ は第二種で $\alpha$ に写る。

曲線では、第二種の代数的定義が古典的な「留数がすべて $0$」に戻り、$H^1_{dR}$ が「第二種の微分 mod 完全微分」になる。原注 (10) が楕円曲線について述べる同一視(本書『3-3 $k$ 構造と周期』)はこの特別な場合である。次に、原論文が定義の出所とした Atiyah–Hodge の定義との関係を見る。

Atiyah–Hodge の定義との関係

Atiyah–Hodge の定義との関係

原論文(印字 p. 100)によれば、A-H は $X$ が射影的で $f\colon U\to X$ が開埋め込みの場合の Leray スペクトル系列 (12) を用いて、有理閉形式 $\varphi$ が第二種であることを定義した(A-H p. 84)。本書はその定義の文言を確かめていない。原論文の言い方から読める形は「$\varphi$ の解析的な類 $[\varphi]_{U^h}\in H^p(U^h,\mathbb C)$ が制限写像 $H^p(X^h,\mathbb C)\to H^p(U^h,\mathbb C)$ の像に入る」である。実際、(12) の辺写像 $E_2^{p,0}=H^p(X^h,f^h_*\mathbb C_{U^h})\to H^p(U^h,\mathbb C)$ の像は Leray フィルトレーションの最後の段 $F^pH^p(U^h,\mathbb C)$ であり、$U^h$ が連結複素多様体 $X^h$ の真の解析的部分集合の補集合なら(連結開集合からそのような集合を除いても連結なので)$f^h_*\mathbb C_{U^h}=\mathbb C_{X^h}$ だから、この像は制限写像の像に等しい。この読みが正しければ、代数的な定義との一致は次のように出る。$k=\mathbb C$ とする。比較写像 $\rho$$X$$U$ について制限写像と可換で(引用する事実 5)、Theorem 1′ により $\rho_X$$\rho_U$ はともに同型だから、$[\varphi]_U$$H^p_{dR}(X)$ の像に入ることと $\rho_U([\varphi]_U)=[\varphi]_{U^h}$$H^p(X^h,\mathbb C)$ の像に入ることは同値である。$k\subset\mathbb C$ の部分体上の準コンパクトで分離的な $X$ については、係数拡大 $H^p_{dR}(X)\otimes_k\mathbb C\cong H^p_{dR}(X_{\mathbb C})$(本書『3-3 $k$ 構造と周期』の補題(de Rham コホモロジーの底変換))が制限写像と両立し、$k$ 部分空間 $I$ とベクトル $v$ について $v\otimes1\in I\otimes_k\mathbb C$$v\in I$ が同値なので、$k$ 上定義された稠密開集合 $U$ について「$[\varphi]_U$ が像に入る」ことは $k$ 上で見ても $\mathbb C$ 上で見ても同じである。したがって $k$ 上で第二種なら $\mathbb C$ 上でも第二種である。逆に $\mathbb C$ 上で第二種であるとき、定義に使う稠密開集合を $k$ 上定義されたものに取り直せるかは上の定理(第二種の定義の整合性)からは出ず、本書は示さない。閉じていないのは、A-H の定義が上の読みのとおりであることの確認と、この逆向きである。

以上が印字 p. 100 の末尾の段落の内容である。同じ段落の冒頭にある二つの問いに対しては、原論文は答えを書いていない。開埋め込みの場合に解析側で言えることと、同じ形を Zariski 位相で取ったときに何が起こるかを命題として書き、問いそのものは注意として記録する。

開埋め込みの Leray スペクトル系列と極をもつ形式の複体

開埋め込みの Leray 系列の解析的表示と Zariski 側の系列

$k$ を体、$X$$k$ 上滑らかなスキーム、$Y\subset X$ を局所的に 1 個の方程式で定まる閉部分集合、$\mathcal J$ をそのイデアル層、$U=X-Y$$j\colon U\to X$ とし、$\Omega^p_X(*Y)=\varinjlim_m\mathcal Hom(\mathcal J^m,\Omega^p_X)$$\Omega^\bullet_X(*Y)$ をその複体とする。
(i) $j_*\Omega^p_U=\Omega^p_X(*Y)$$R^qj_*\Omega^p_U=0$$q>0$)であり、$\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\cong H^n_{dR}(U)$
(ii) Zariski 位相での第二スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p\bigl(X,\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))\bigr)\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(U)$ が収束する。これは任意の体上で定義され、$Y'=g^{-1}(Y)$ なる射 $g\colon(X',Y')\to(X,Y)$ について関手的である。
(iii) $k=\mathbb C$ のとき、解析化した複体 $\Omega^\bullet_{X^h}(*Y^h)$ の第二スペクトル系列は、Theorem 2 により $E_2$ 以降で Leray スペクトル系列 (12)($f=j$)と同型であり、その収束先 $H^{p+q}(U^h,\mathbb C)$$\rho_U$ により $H^{p+q}_{dR}(U)$ と同型である。
(iv) しかし (ii) の Zariski 側の系列は (12) の代数的な対応物ではない。$k=\mathbb C$ でも、その $E_2$$H^p(X,\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y)))$ と (12) の $E_2$$H^p(X^h,R^qj^h_*\mathbb C)$、および両者が収束先に定めるフィルトレーションは一般に一致しない。$Y=\emptyset$ で既に一致しない。

段 1((i)).$X$ 上局所的に $Y=\{t=0\}$ で、affine 開集合 $V$ について $V\cap U=V_t$ は affine だから $j$ は affine 射である。準連接層 $\mathcal F$ について $\Gamma(V_t,\mathcal F)=\Gamma(V,\mathcal F)_t=\varinjlim_mt^{-m}\Gamma(V,\mathcal F)$ で、$t^{-m}\Gamma(V,\mathcal F)=\operatorname{Hom}(\mathcal J^m,\mathcal F)(V)$ だから $j_*(\mathcal F|_U)=\mathcal F(*Y)$ である(事実 2)。$R^qj_*\Omega^p_U=0$$\mathbf H^n(X,j_*\Omega^\bullet_U)=H^n_{dR}(U)$ も事実 2 による。
段 2((ii)).事実 1 を $K^\bullet=\Omega^\bullet_X(*Y)$ に適用する。関手性は、$g^{-1}(Y)=Y'$ なら $g^*\mathcal J\cdot\mathcal O_{X'}$$Y'$ のイデアルの冪を含むので、引き戻し $g^*\Omega^p_X\to\Omega^p_{X'}$$\Omega^\bullet_X(*Y)\to g_*\Omega^\bullet_{X'}(*Y')$ を定めることによる。
段 3((iii)).事実 5 の Theorem 2 は、$\Omega^\bullet_{X^h}(*Y^h)\to\mathbf Rj^h_*\mathbb C_{U^h}$ が擬同型であると言う。事実 1 により擬同型は第二スペクトル系列を $E_2$ 以降で同型に移し、$\mathbf Rj^h_*\mathbb C_{U^h}$ の第二スペクトル系列は事実 6 により Leray スペクトル系列 (12) である。収束先は $\mathbf H^n(X^h,\mathbf Rj^h_*\mathbb C_{U^h})=H^n(U^h,\mathbb C)$ で、事実 5 の Theorem 1′ により $\rho_U$ は同型である。
段 4((iv)).「例と反例」の反例「$Y$ が空のときの Zariski 側の系列と Leray 系列の食い違い」で、$X$ が固有な曲線、$Y=\emptyset$ のとき、Zariski 側の系列は $H^1_{dR}(X)$$E_2^{0,1}$ に、(12) は $E_2^{1,0}$ に置き、$E_2$ 項もフィルトレーションも異なる。

命題が言うのは、(12) が解析空間 $X^h$ の上では極をもつ有理型形式の複体で書けること、そして同じ形を Zariski 位相で取った系列は収束先こそ $H^\bullet_{dR}(U)$ だが (12) とは別物であること、である。Zariski 側の系列は Leray 系列の代数的定義にはならず、原論文の問いはその形のまま残る。

Leray スペクトル系列の代数的定義の問い

原論文(印字 p. 100)は、$\mathbb C$ 上の正則スキームの射 $f\colon U\to X$ について、Leray スペクトル系列 (12) $E_2^{p,q}=H^p(X^h,R^qf^h_*\mathbb C_{U^h})\Rightarrow H^{p+q}(U^h,\mathbb C)$ が任意の体(少なくとも標数 $0$ の体)で有効な純代数的定義をもつかを問い、原注 (13) を参照させる。これは原論文の「問題」であり、本書は答えを与えない。開埋め込みの場合、上の命題(開埋め込みの Leray 系列の解析的表示と Zariski 側の系列)により (12) は解析側で $\Omega^\bullet_{X^h}(*Y^h)$ の第二スペクトル系列に一致するが、同じ形を Zariski 位相で取った系列は答えにならない。Zariski 位相のコホモロジー層 $\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))$ は前層 $V\mapsto H^q_{dR}(V\cap U)$ の層化であって、$Y=\emptyset$ でも $q>0$ で一般に $0$ でなく、$R^qj^h_*\mathbb C$$Y=\emptyset$ なら $q>0$$0$)には対応しない。反例「$Y$ が空のときの Zariski 側の系列と Leray 系列の食い違い」のように $E_2$ 項もフィルトレーションも異なる。Zariski 側の系列は、原注 (8) の Cousin 分解による余次元の系列(本書『3-2 Cousin 分解と余次元スペクトル系列』)や後代の coniveau スペクトル系列(「その後の発展」の Bloch–Ogus)の型のものと見られる(本書は確かめていない)。$f$ が滑らかで固有な射のときは、原注 (13) が相対 de Rham 層 $\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ に標準的な可積分接続を入れて $E_2^{p,q}=H^p_{dR}(S,\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S})$ を初項とする系列を提案しており、それが答えの方向である(本書『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』)。

$k_0$ 上の模型と Leray フィルトレーション

原論文の第二の問い(印字 p. 100)は、$f$$\mathbb C$ の部分体 $k_0$ 上のスキームの射 $U_0\to X_0$ から来るとき、$H^\bullet(U^h,\mathbb C)$ の Leray フィルトレーションが $H^\bullet_{dR}(U_0)$ のフィルトレーションから来るか、である。これも原論文の「問題」で、本書は答えない。上の命題の Zariski 側の系列は $k_0$ 上で定義され $H^\bullet_{dR}(U_0)$ にフィルトレーションを与えるが、それは (12) の Leray フィルトレーションではない(曲線の例で既に異なる)ので、この問いの答えにはならない。後代の答えの型(混合 Hodge 理論の weight フィルトレーション)は「その後の発展」に記す。

例と反例

以下の例は、留数判定の適用と、仮定を外したときに何が破れるかを示す。まず $H^1_{dR}$ が消える曲線で、第二種であることが完全であることと一致する場合である。

$\mathbb P^1$ 上の有理 1 形式

$k$ を標数 $0$ の体、$X=\mathbb P^1_k$$z$ を affine 座標、$w=1/z$ を無限遠点 $\infty$ での座標とする。Hodge–de Rham スペクトル系列の $E_1^{1,0}=H^0(\mathbb P^1,\Omega^1)=H^0(\mathcal O(-2))=0$$E_1^{0,1}=H^1(\mathbb P^1,\mathcal O)=0$ から $H^1_{dR}(\mathbb P^1)=0$ なので、定理(曲線での留数判定)の (ii) により、有理 1 形式が第二種であることと $dg$$g\in k(z)$)の形であることは同値で、いずれもすべての留数が $0$ であることと同値である。

  • $dz$$\infty$$dz=-w^{-2}dw$ なので $2$ 位の極をもつが留数は $0$。第二種で、$dz=d(z)$
  • $dz/(z-1)^2$$z=1$ で留数 $0$$\infty$ では $-dw/(1-w)^2$ で正則。第二種で、$d(-1/(z-1))$ に等しい。
  • $dz/z$$z=0$ で留数 $1$$\infty$ では $-dw/w$ で留数 $-1$。第二種でない。実際 $U=\mathbb G_m$$[dz/z]_U$$H^1_{dR}(\mathbb G_m)=k[z,z^{-1}]dz/d(k[z,z^{-1}])$ の基底(本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』)で、$H^1_{dR}(\mathbb P^1)=0$ の像に入らない。
  • $z\,dz/(z^2-1)=\tfrac12\bigl(dz/(z-1)+dz/(z+1)\bigr)$$z=\pm1$ で留数 $\tfrac12$$\infty$ では $-dw/(w(1-w^2))$ で留数 $-1$。第二種でない。留数の和が $0$ になっているのは留数定理である。

次は原注 (10) の例で、楕円曲線の $\eta$ が第二種であることを留数判定で確かめる。$H^1_{dR}(E)$ の基底になることと周期は本書『3-3 $k$ 構造と周期』で扱う。

楕円曲線の $\eta$ が第二種であること

$k$ を標数 $0$ の体、$E\colon y^2=4x^3-g_2x-g_3$$g_2^3-27g_3^2\ne0$)、$O$ を無限遠点とする。$\omega=dx/y$$E$ 全体で正則で(本書『0-5 Hodge 理論・アーベル多様体・エタールコホモロジーの初歩』)、第一種だから第二種でもある。$\eta=x\,dx/y$ は affine 部分 $E-\{O\}$ で正則で、極は $O$ だけである。$O$$k$ 有理点で、$\operatorname{ord}_O(x)=-2$$\operatorname{ord}_O(y)=-3$ だから $t=x/y$$O$ での一意化元である。$\iota\colon(x,y)\mapsto(x,-y)$$O$ を固定する自己同型で、$\iota^*t=-t$$\iota^*\eta=-\eta$$\eta=\sum_ma_mt^mdt$ と展開すると $\iota^*\eta=\sum_ma_m(-t)^m\,d(-t)=\sum_m(-1)^{m+1}a_mt^mdt$ で、これが $-\eta$ に等しいから $m$ が奇数なら $a_m=0$。とくに $a_{-1}=\operatorname{res}_O\eta=0$ で、定理(曲線での留数判定)により $\eta$ は第二種である。同じ議論で $x^n\,dx/y$$n\ge0$)はすべて第二種であり、それらが $H^1_{dR}(E)$ の中で $[\omega],[\eta]$ の一次結合になることは本書『3-3 $k$ 構造と周期』で示す。

次の反例は、留数判定の標数 $0$ の仮定が外せないことを示す。補題(曲線の留数完全列)の段 3 が壊れる場所そのものである。

反例:標数 $p$ では留数判定が破れる

外した条件は「$k$ の標数が $0$」である。$k$ を標数 $p>0$ の体、$X=\mathbb P^1_k$$\varphi=z^{-p-1}dz$ とする。

  • 満たす条件:$X$ は滑らかで固有な連結曲線。$\varphi$ の留数は、$z=0$ では $z^{-1}dz$ の係数が $0$$\infty$ では $\varphi=w^{p+1}(-w^{-2})dw=-w^{p-1}dw$ が正則なので $0$。すなわちすべての閉点で留数は $0$
  • 破る結論:$\varphi$ は第二種でない。$\varphi$ が正則な稠密開集合 $U$$\mathbb P^1$ の真の開集合なので affine で、$H^1_{dR}(\mathbb P^1_k)=0$(上の $E_1$ の計算は標数によらない)だから、$[\varphi]_U$ が像に入ることは $\varphi=dg$$g\in\mathcal O(U)\subset k(z)$)と同値である。$g$$\infty$$g=\sum_nb_nw^n$ と Laurent 展開すると $dg=\sum_nnb_nw^{n-1}dw$$w^{p-1}dw$ の係数は $p\,b_p=0$ で、$-1$ に等しくなれない。よってどの $U$ でも $[\varphi]_U\ne0$
  • 壊れた段:$d(z^{-p})=-pz^{-p-1}dz=0$ なので、補題の段 3 の $d\colon Q^0_s\to Q^1_s$ は単射でなく、$\mathcal H^1(Q^\bullet)_0$$t^{-1}dt$ のほかに $t^{-p-1}dt$ などの類を含む。留数($t^{-1}dt$ の係数)だけでは $H^1_{dR}(X)$ の像を切り出せない。$\mathbb A^1_w$ 上で $[w^{p-1}dw]\ne0$ は本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』の $H^1_{dR}(\mathbb A^1)$ が無限次元になる例と同じものである。

最後の例は、命題(開埋め込みの Leray 系列の解析的表示と Zariski 側の系列)の Zariski 側の系列が Leray スペクトル系列 (12) と $E_2$ 項からして違うことを、最も簡単な場合で確かめる。

反例:$Y$ が空のときの Zariski 側の系列と Leray 系列の食い違い

外した条件は「Zariski 側の系列が Leray スペクトル系列 (12) の代数的な対応物である($E_2$ 項とフィルトレーションが一致する)」という、素朴に期待されうる主張である。破れる含意は「Zariski 側の系列が問い(Leray 系列の純代数的定義)の答えになる」である。$k$ を標数 $0$ の体、$X$$k$ 上滑らかで固有な連結曲線で $H^0(X,\mathcal O_X)=k$ なるもの、$Y=\emptyset$$U=X$ とする。

  • Zariski 側の系列:$E_2^{p,q}=H^p(X,\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X))$(Zariski 位相)。$\mathcal H^0(\Omega^\bullet_X)$$d f=0$ なる関数の層である。$f\in\mathcal O(V)\subset K$$k$ 上超越的なら $K/k(f)$ は有限次分離拡大で $\Omega^1_{K/k}=K\,df$ だから $df\ne0$$f$ が代数的なら $df=0$ で、引用する事実 4 により $f\in k$。よって $\mathcal H^0(\Omega^\bullet_X)$ は定数層 $k_X$ で、既約空間上の定数層は flasque だから $E_2^{p,0}=0$$p>0$)、$E_2^{0,0}=k$$\Omega^2_X=0$ なので $\mathcal H^q=0$$q\ge2$)、$\dim X=1$ なので $E_2^{p,q}=0$$p\ge2$Har77 III.2.7)。残るのは $E_2^{0,0}$$E_2^{0,1}$$E_2^{1,1}$ だけで微分はすべて $0$、したがって $H^1_{dR}(X)=E_2^{0,1}=H^0(X,\mathcal H^1(\Omega^\bullet_X))$$H^2_{dR}(X)=E_2^{1,1}=H^1(X,\mathcal H^1(\Omega^\bullet_X))$ である。$H^1_{dR}(X)$ のフィルトレーションは $F^1=E_\infty^{1,0}=0$$F^0=H^1_{dR}(X)$ となる。
  • Leray 系列 (12):$Y=\emptyset$ なら $j^h$ は恒等写像で $R^qj^h_*\mathbb C=0$$q>0$)、$E_2^{p,0}=H^p(X^h,\mathbb C)$、他は $0$$H^1(X^h,\mathbb C)$ のフィルトレーションは $F^1=H^1(X^h,\mathbb C)$ である。
  • 破る結論:Zariski 側の系列は $H^1$$(0,1)$ の位置に、(12) は $(1,0)$ の位置に置き、$E_2$ 項もフィルトレーションも一致しない。一致するのは収束先だけである。なお $E_2^{0,1}=H^0(X,\mathcal H^1)$ が「すべての留数が $0$ の有理 1 形式 mod 完全微分」に等しいことは定理(曲線での留数判定)の (ii) と整合し、$E_2^{1,1}=H^2_{dR}(X)$ が点の類で張られること(補題(曲線の留数完全列)の右端の全射 $\bigoplus_{s\in S}k(s)\to H^2_{dR}(X)$)は、原注 (8) の「$H^{2p}$ の最後の段は代数的類」(本書『3-2 Cousin 分解と余次元スペクトル系列』)の $p=1$ の場合にあたる。Zariski 側の系列は余次元によるフィルトレーションの型のものと見られる(本書は確かめていない)。

その後の発展

以下は原論文の主張ではなく後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。文献の該当箇所は本書では確認していない)。

  • 混合 Hodge 理論と weight フィルトレーション(Deligne Del71、1971 年、Del74、1974 年):$\mathbb C$ 上の滑らかな $U$$H^n(U^h,\mathbb Q)$ に weight フィルトレーション $W$ が入る。$U=X-Y$$X$ 滑らかで固有、$Y$ 正規交叉因子)のとき $W$ は対数的 de Rham 複体 $\Omega^\bullet_X(\log Y)$ の極の位数によるフィルトレーションから代数的に定義され、$W_nH^n(U)$$H^n(X)\to H^n(U)$ の像に等しい、と担当は理解する(本書は該当箇所を確かめていない)。この読みでは、本頁の第二種の類は weight が最小の類であり、$W$$k_0$ 上で定義されるので、原論文の第二の問いに肯定的な答えの型を与える。開埋め込みの Leray スペクトル系列 (12) については、同論文で $E_2$ 項が $Y$ の成分の交わりのコホモロジーで書け、系列が $E_3$ で退化して Leray フィルトレーションが(番号を付け替えた)weight フィルトレーションに一致することが示されている、と担当は理解するが未確認である。総説は PS08
  • Leray スペクトル系列の退化(Deligne、1968 年、Publ. Math. IHÉS 35。本書の文献表にはなく、本書は確かめていない):滑らかで射影的な射 $f\colon X\to S$ について Leray スペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(S,R^qf_*\mathbb Q)$$E_2$ で退化する(相対 Hard Lefschetz による)。原注 (13) の提案(本書『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』)の解析側の性質にあたる。
  • Gauss–Manin 接続と代数的な Leray 型の系列(Katz–Oda KO68、1968 年):滑らかな射 $f\colon X\to S$ について、$\Omega^\bullet_{X/k}$$f^*\Omega^1_{S/k}$ で濾過したスペクトル系列から Gauss–Manin 接続と、$E_2^{p,q}=H^p_{dR}(S,\mathbf R^qf_*\Omega^\bullet_{X/S})$ を初項とする代数的な系列が構成される。原論文の第一の問いに対する、$f$ が滑らかな場合の代数的な答えである(本書『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』)。
  • Zariski 層 $\mathcal H^q$ と coniveau(Bloch–Ogus BO74、1974 年):本頁の Zariski 側の系列の $E_2$$H^p(X,\mathcal H^q)$ は Bloch–Ogus が Gersten 予想の型の分解で調べた対象で、$H^p(X,\mathcal H^q)=0$$p>q$)と、$E_2^{p,p}$ が余次元 $p$ の輪体の類の群の商になることが示された。原注 (8) の系列(本書『3-2 Cousin 分解と余次元スペクトル系列』)の現代的な形であり、曲線の例で $E_2^{1,1}=H^2_{dR}(X)$ が点の類で張られるのはその最も簡単な場合である。
  • 特異なスキームへの拡張(Hartshorne Har75、1975 年):代数的 de Rham コホモロジーを特異なスキームに広げ、$H^\bullet(X)\to H^\bullet(U)$ の型の局所コホモロジー完全列と Leray 型の系列を代数的に扱う。第二種の議論の高次元・特異版はそこに置かれる。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Gro66 である。

本頁原論文印字頁
背景と動機(A-H の Conjecture C、第二種積分の理論が Theorem 1 に含まれること)書簡の冒頭の段落(原注 (2)、(3))95
定義(第二種の有理閉形式)、定理(第二種の定義の整合性)印字 p. 100 末尾の段落(「this definition now makes sense in a purely algebraic way」)100
注意(Atiyah–Hodge の定義との関係)同段落の A-H p. 84 への参照100
命題(開埋め込みの Leray 系列の解析的表示と Zariski 側の系列)、注意(Leray スペクトル系列の代数的定義の問い)「further questions」の段落、式 (12)、原注 (13) への参照100
注意($k_0$ 上の模型と Leray フィルトレーション)同段落の第二の問い100
補題(曲線の留数完全列)、定理(曲線での留数判定)原論文にない(本書が補った)。原注 (10) の「第二種の微分 mod 完全微分」が原型102
例(楕円曲線の $\eta$ が第二種であること)原注 (10)102
原注 (8) の代数的な代替の系列への言及原注 (8) 冒頭100–101

参考文献

[3]
Heisuke Hironaka, Resolution of singularities of an algebraic variety over a field of characteristic zero I, II, Annals of Mathematics, 1964, 109–326
[5]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. VII. Étude locale des morphismes : éléments de calcul infinitésimal, Séminaire Henri Cartan, 13e année, exposé 14, 1960, 1–27
[6]
Alexander Grothendieck, Sur les faisceaux algébriques et les faisceaux analytiques cohérents, Séminaire Henri Cartan, 9e année, exposé 2, 1956, 1–16
[7]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Faisceaux analytiques cohérents sur le produit d'un espace analytique et d'un espace projectif, Comptes Rendus de l'Académie des Sciences de Paris, 1957, 819–822
[8]
Alexander Grothendieck, Techniques de construction en géométrie analytique. VIII. Rapport sur les théorèmes de finitude de Grauert et Remmert, Séminaire Henri Cartan, 13e année, exposé 15, 1960, 1–10
[10]
Yuri I. Manin, Rational points of algebraic curves over function fields, Izvestiya Akademii Nauk SSSR, Seriya Matematicheskaya, 1963, 1395–1440
[11]
Jean-Pierre Serre, Sur la topologie des variétés algébriques en caractéristique p, Symposium internacional de topología algebraica, México, 1958, 24–53
[12]
David Mumford, Pathologies of modular algebraic surfaces, American Journal of Mathematics, 1961, 339–342
[15]
Michael Artin, Alexander Grothendieck, Jean-Louis Verdier, Théorie des topos et cohomologie étale des schémas (SGA 4), Lecture Notes in Mathematics 269, 270, 305, Springer, 1972
[16]
Gerhard Hochschild, Bertram Kostant, Differential forms and Lie algebra cohomology for algebraic linear groups, Illinois Journal of Mathematics, 1962, 264–281
[17]
John Tate, Algebraic cycles and poles of zeta functions, Arithmetical Algebraic Geometry (Proc. Conf. Purdue Univ. 1963), Harper & Row, 1965, 93–110
[20]
Nicholas M. Katz, Algebraic solutions of differential equations (p-curvature and the Hodge filtration), Inventiones Mathematicae, 1972, 1–118
[24]
Robin Hartshorne, Algebraic de Rham cohomology, Manuscripta Mathematica, 1972, 125–140
[27]
Luc Illusie, Frobenius et dégénérescence de Hodge, Introduction à la théorie de Hodge, Société Mathématique de France Panoramas et Synthèses 3, 1996, 113–168
[33]
Alexander Grothendieck, Crystals and the de Rham cohomology of schemes, Dix exposés sur la cohomologie des schémas, North-Holland(Amsterdam)/ Masson(Paris) Advanced Studies in Pure Mathematics 3, 1968, 306–358
[35]
Alexander Grothendieck, Standard conjectures on algebraic cycles, Algebraic Geometry (Internat. Colloq., Tata Inst. Bombay 1968), Oxford University Press, 1969, 193–199
[36]
Maxim Kontsevich, Don Zagier, Periods, Mathematics Unlimited — 2001 and Beyond, Springer, 2001, 771–808
[39]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique IV : Étude locale des schémas et des morphismes de schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS 20, 24, 28, 32, 1964
[42]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique III : Étude cohomologique des faisceaux cohérents, Publications Mathématiques de l'IHÉS 11, 17, 1961

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について寄付する

前ページへ
代数的 de Rham コホモロジー(Grothendieck の de Rham コホモロジー論文を読む)の表紙
次ページへ