滑らかな射 $f\colon X\to S$ に対して、体上の de Rham コホモロジーの定義を相対化した層 $H^n_{dR}(f)=\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ を導入し、$f$ が固有なら連接であることを示す。原論文はこの層について、固有なら局所自由で底変換と可換だろう、体上なら次元が $\ell$ 進 Betti 数に一致するだろう、という二つの期待を述べたが、Serre の指摘により原注 (12) で撤回した。本頁は、標数 $0$ で期待が定理になること、標数 $p$ では固有性を外すと連接性すら破れること(アフィン直線)、固有でも次元が Betti 数を超えること(Serre の曲面)を計算で確かめる。
$S$ を局所ネーター的スキーム、$f\colon X\to S$ を滑らかな射、$\Omega^\bullet_{X/S}$ を相対 de Rham 複体とする。体 $k$ 上のスキーム $X$ については $H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$、$b_n(X)$ を $\ell$ 進 Betti 数($\ell\ne\operatorname{char}k$)とする。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文は書簡の末尾で、体上の de Rham コホモロジーを滑らかな射 $f\colon X\to S$ の上の層の族へ一般化する(式 (13)、印字 pp. 102–103)。これは直前の段落でアーベルスキームの Hodge 拡大の類 $\xi_{X/S}$ を底スキーム $S$ の上で考えたこと(本書『4-2 アーベル多様体の $H^1$ と拡大類』)の続きであり、後に Gauss–Manin 接続(本書『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』)を載せる土台になる。
原論文はこの層について二つの期待を述べる。一つは、$f$ が固有なら $H^n_{dR}(f)$ は局所自由で底変換と可換だろう、したがって de Rham コホモロジーは特殊化と両立するだろう、というもの(HP1)。もう一つは、$S$ が任意標数の体 $k$ のスペクトルで $X/k$ が固有なら、$\dim H^n_{dR}(X)$ は $\ell$ 進コホモロジー(原注 (11)。当時建設中のエタールコホモロジー Art62、公刊形は SGA4)の意味の Betti 数に等しいだろう、というもの(HP2)。原論文は、標数 $0$ ではこれら(二つの期待)は「通常の超越的議論」で正しく、第二の主張は $X$ が固有でなくても Theorem 1′ により正しい、と筋を書かずに述べ、標数 $p$ については、Igusa・Serre・Mumford の反例はすべて Hodge コホモロジーが大きすぎる例であって、系列 (3) の非退化で説明できるかもしれない、と推測して書簡の抜粋は途切れる(HP3)。
1963 年 11 月の原注 (12) は、Serre の指摘によりこの二つの期待が「過大」であることを認める。Serre の 1958 年の論文 Ser58 の曲面($\mathbb P^3$ の非特異曲面の $\mathbb Z/p$ による自由商)では $\dim H^1_{dR}(X)=1$ だが $\pi_1(X)=\mathbb Z/p$ なので $b_1(X)=0$ であり、de Rham の次元はやはり大きすぎることがあり、おそらく $p$ 進コホモロジーの捩れ現象による、と原注は結ぶ。計算は「確かめるのは難しくない」と書くだけである。本頁はその計算を補い、連接性の主張が印字どおり「滑らか」だけでは成り立たないことも最も簡単な例で示す。
原論文の式 (1) の定義 $H^n_{dR}(X)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/k})$ を、体を底スキームに置き換えて層にする。要るのは相対 Kähler 微分と導来順像だけである。
$f\colon X\to S$ をスキームの滑らかな射とする。相対 微分形式 の層 $\Omega^1_{X/S}$ とその外冪 $\Omega^p_{X/S}=\bigwedge^p\Omega^1_{X/S}$ は局所自由であり、外微分 $d\colon\Omega^p_{X/S}\to\Omega^{p+1}_{X/S}$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型で $d\circ d=0$ を満たす。複体 $(\Omega^\bullet_{X/S},d)$ を相対 de Rham 複体という。その導来順像の $n$ 次コホモロジー層
$$H^n_{dR}(f)=\mathbf R^nf_*\bigl(\Omega^\bullet_{X/S}\bigr)$$
を $f$ の相対 de Rham 層という(原論文 式 (13)。原論文は $H^n(f)$ と印字)。$d$ が $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型なので $H^n_{dR}(f)$ は $\mathcal O_S$ 加群である。$S=\operatorname{Spec}k$ なら $H^n_{dR}(f)$ は $k$ ベクトル空間 $H^n_{dR}(X)$ に付随する準連接層である。
$\Omega^\bullet_{X/S}$ の次数による切り捨て(bête フィルトレーション)から、体上の Hodge–de Rham スペクトル系列(原論文 式 (3))の相対版
$$E_1^{p,q}=R^qf_*\Omega^p_{X/S}\Longrightarrow H^{p+q}_{dR}(f)$$
が得られる(本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』)。$E_1$ 項は連接層の高次順像なので、連接性の問題はこの系列に帰着する。
期待 HP2 と Serre の反例で比べる相手は $\ell$ 進 Betti 数である。定義を短く繰り返す。
$X$ を体 $k$ 上分離的で有限型なスキーム、$\bar k$ を代数閉包、$\ell$ を $\operatorname{char}k$ と異なる素数とする。ℓ進コホモロジー $H^n_{\text{ét}}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)=\bigl(\varprojlim_mH^n_{\text{ét}}(X_{\bar k},\mathbb Z/\ell^m)\bigr)\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Q_\ell$ の次元 $b_n(X)$ を $X$ の $\ell$ 進 Betti 数という。$X_{\bar k}$ が連結で $\pi_1^{\text{ét}}(X_{\bar k})$ が有限群なら $b_1(X)=0$ である(本書『0-5 Hodge 理論・アーベル多様体・エタールコホモロジーの初歩』)。
Serre の曲面の計算には、標数 $p$ の エタールコホモロジー に固有の完全列が要る。標数 $p$ のスキーム $X$ の上で、絶対 Frobenius $F\colon\mathcal O_X\to\mathcal O_X$、$a\mapsto a^p$ は環準同型であり、Artin–Schreier 列
$$0\to\mathbb Z/p\to\mathcal O_X\xrightarrow{\ F-1\ }\mathcal O_X\to0$$
はエタール位相で完全である(全射性は、方程式 $t^p-t=c$ がエタール局所的に解けることによる)。この列が、エタールな $\mathbb Z/p$ トーサー を $H^1(X,\mathcal O_X)$ の Frobenius 不変な類に結びつける。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に EGA3、Har77、SGA4、Mil80 で、該当箇所は本頁では確認していない。
相対 de Rham 層が「$S$ 上の連接層」であるという原論文の主張から始める。原論文は「(3) の類似のスペクトル系列で分かる」とだけ書く。その筋を書き下ろすと、固有性がどこで要るかが見える。
$S$ を局所ネーター的スキーム、$f\colon X\to S$ を滑らかで固有な射とする。すべての $n$ について $H^n_{dR}(f)=\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ は $S$ 上の連接層である。
段 1($E_1$ 項の連接性).$f$ は滑らかなので各 $\Omega^p_{X/S}$ は有限階数の局所自由層、とくに連接である。$f$ は固有なので、引用する事実 1 により $E_1^{p,q}=R^qf_*\Omega^p_{X/S}$ は連接である。
段 2(有限性).$f$ は固有だから準コンパクトで、$S$ の準コンパクト開集合 $V$ の上では相対次元が有界、よって $p$ が大きければ $\Omega^p_{X/S}|_{f^{-1}(V)}=0$ である。スペクトル系列(引用する事実 2)は $V$ 上で有限個の列しかもたず、有限段で $E_r=E_\infty$ に達する。
段 3(部分商と拡大).外微分が $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型なので微分 $d_r$ は $\mathcal O_S$ 線型であり、局所ネーター的スキームの上では連接層の間の線型写像の核・像・余核は連接だから、$E_r^{p,q}$ と $E_\infty^{p,q}$ はすべて連接である。abutment $H^n_{dR}(f)$ は有限のフィルトレーション $F^0\supset\cdots\supset F^{n+1}=0$ をもち $F^p/F^{p+1}\cong E_\infty^{p,n-p}$ なので、連接層の連接層による拡大が連接であることから、降下帰納法で $H^n_{dR}(f)=F^0$ は連接である。
固有性を使ったのは段 1 と段 2 だけである。それを外すと $E_1$ 項の連接性が失われ、実際に結論も失われる。原論文の印字との関係を注意しておく。
原論文(印字 pp. 102–103)は「$f\colon X\to S$ が滑らかな射なら」とだけ仮定して $H^n_{dR}(f)$ を「$S$ 上の連接層」と呼び、直後に「$f$ が固有なら、さらに…と期待できるかもしれない」と続ける。印字のままの主張は次の定理(標数 $p$ のアフィン直線の de Rham コホモロジー)により偽であり、固有性が要る。原論文が固有性を暗に仮定していたかどうかは紙面から判定できない。標数 $0$ で固有でない場合は、$S=\operatorname{Spec}k$ なら後の定理(標数 0 での Betti 数との一致)により有限次元だが、一般の $S$ では本頁は判定しない(「その後の発展」)。
反例はアフィン直線である。標数 $0$ では $H^1_{dR}(\mathbb A^1)=0$ だが、標数 $p$ では $d(x^p)=0$ が効いて、$H^0$ も $H^1$ も無限次元になる。
$k$ を標数 $p>0$ の体とする。$H^0_{dR}(\mathbb A^1_k)=k[x^p]$ であり、$H^1_{dR}(\mathbb A^1_k)$ は $x^{mp-1}dx$($m\ge1$)の類を $k$ 基底にもつ。とくに両者は無限次元で、$S=\operatorname{Spec}k$ 上の連接層ではない。
$\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ は affine なので、引用する事実 3 により $H^\bullet_{dR}(\mathbb A^1_k)$ は複体 $k[x]\xrightarrow{\ d\ }k[x]\,dx$ のコホモロジーである。$d\bigl(\sum a_nx^n\bigr)=\sum na_nx^{n-1}dx$ で、$k$ では $n=0$ となるのは $p\mid n$ のときだから、$\ker d=k[x^p]$ である。像 $d(k[x])$ は単項式 $x^{n-1}dx$($p\nmid n$)の張る部分空間に等しい($p\nmid n$ なら $x^{n-1}dx=d(x^n/n)$、逆に $d$ の像は係数 $na_n$ が $p\mid n$ で消えるのでこれらの張る空間に入る)。$k[x]\,dx$ の基底 $\{x^{n-1}dx\}_{n\ge1}$ のうち像に入らないのは $p\mid n$ のもの、すなわち $x^{mp-1}dx$($m\ge1$)であり、その類が商の基底をなす。
これで、連接性は「滑らかで固有」で成り立ち「滑らか」だけでは破れることが分かった。次は期待 HP2 である。標数 $0$ の部分は原論文が「通常の超越的議論」と呼ぶもので、Lefschetz の原理と二つの比較定理を組み合わせれば閉じる。
$k$ を標数 $0$ の体、$X$ を $k$ 上滑らかで分離的・有限型なスキームとする。任意の素数 $\ell$ について
$$\dim_kH^n_{dR}(X)=b_n(X)=\dim_{\mathbb Q_\ell}H^n_{\text{ét}}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$$
であり、両辺は有限である。$X$ が $k$ 上固有であることは要らない。
段 1(有限生成体への下降).$X$ は $k$ 上有限型なので、$\mathbb Q$ 上有限生成な部分体 $k_0\subset k$ と、$k_0$ 上滑らかで分離的・有限型なスキーム $X_0$ で $X=X_0\otimes_{k_0}k$ となるものがある(定義方程式と有限個の affine 開集合上の Jacobi 条件は有限個の係数で書ける)。引用する事実 4 により $\dim_kH^n_{dR}(X)=\dim_{k_0}H^n_{dR}(X_0)$ である。
段 2($\mathbb C$ への上昇と比較定理).$k_0$ は $\mathbb C$ に埋め込める($\mathbb C$ は代数閉で $\mathbb Q$ 上の超越次数が無限)。再び引用する事実 4 により $\dim_{k_0}H^n_{dR}(X_0)=\dim_{\mathbb C}H^n_{dR}(X_{0,\mathbb C})$ で、引用する事実 5(Theorem 1′)により後者は $\dim_{\mathbb C}H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb C)$ に等しく、引用する事実 6 の有限生成性により有限である。
段 3(エタール側).$\bar k_0$ を $k_0$ の $\bar k$ の中での代数閉包とし、$\bar k_0\hookrightarrow\mathbb C$ をとる。引用する事実 6 により、各 $m$ について
$$H^n_{\text{ét}}(X_{\bar k},\mathbb Z/\ell^m)\cong H^n_{\text{ét}}(X_{0,\bar k_0},\mathbb Z/\ell^m)\cong H^n_{\text{ét}}(X_{0,\mathbb C},\mathbb Z/\ell^m)\cong H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb Z/\ell^m)$$
である。引用する事実 6 により $H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb Z)$ は有限生成であり、普遍係数定理から $\varprojlim_mH^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb Z/\ell^m)\cong H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb Z)\otimes\mathbb Z_\ell$(捩れ部分が有限なので $\mathrm{Tor}$ 項の逆極限は消える)。$\mathbb Q_\ell$ をテンソルした次元は $\operatorname{rank}H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb Z)=\dim_{\mathbb C}H^n(X^h_{0,\mathbb C},\mathbb C)$ で、段 2 と合わせて $b_n(X)=\dim_kH^n_{dR}(X)$。
標数 $0$ ではこの等式が固有性なしに成り立つのに対し、標数 $p$ では固有な場合でさえ破れる。それを示すのが Serre の曲面である。その前に、原論文が同じ段落で述べたもう一つの期待 HP1 を記録しておく。
原論文(印字 p. 103)は、$f$ が固有なら $H^n_{dR}(f)$ は局所自由で、「同じことだが」その形成は底変換 $S'\to S$ と可換だろう、とくに de Rham コホモロジーは特殊化と両立するだろう、と期待し(HP1)、原注 (12) でこれを過大と認めた。「局所自由」と「底変換可換」が同じことになるのは、$S$ が被約で $H^n_{dR}(f)$ が連接であり、コホモロジーと底変換の一般論(EGA3 §7 の型)が使える場合の言い換えである。原注 (12) は Serre の曲面が HP2 を破ることを述べるだけで、HP1 が族の中でどう破れるかは書いておらず、本頁も補わない。原論文は標数 $0$ では HP1 も「通常の超越的議論」で正しいとするが筋は書いておらず、本頁はこれを確かめない。標数 $0$ の固有滑らかな族では HP1 は後に定理になり、標数 $p$ でも $p>\dim$ と $W_2$ への持ち上げのもとで成り立つ(「その後の発展」)。
Serre の曲面の計算に入る。要るのは、$\mathbb P^3$ の非特異曲面 $Y$ の二つの消滅と、Galois エタール被覆 $Y\to X$ の Hochschild–Serre スペクトル系列である。前者は射影空間の標準的な計算で閉じる。
$k$ を任意の体、$Y\subset\mathbb P^3_k$ を次数 $d$ の非特異曲面とする。$H^1(Y,\mathcal O_Y(m))=0$(すべての $m\in\mathbb Z$)、$H^0(Y,\Omega^1_Y)=0$ である。
段 1($H^1(\mathcal O_Y(m))$ と $H^0(\mathcal O_Y(-1))$).$0\to\mathcal O_{\mathbb P^3}(m-d)\to\mathcal O_{\mathbb P^3}(m)\to\mathcal O_Y(m)\to0$ の長完全列で、引用する事実 9 により $H^1(\mathbb P^3,\mathcal O(m))=0=H^2(\mathbb P^3,\mathcal O(m-d))$ だから $H^1(Y,\mathcal O_Y(m))=0$。同じ列で $m=-1$ とすると $H^0(\mathbb P^3,\mathcal O(-1))=0=H^1(\mathbb P^3,\mathcal O(-1-d))$ だから $H^0(Y,\mathcal O_Y(-1))=0$。
段 2($H^0(\Omega^1_Y)$).余法列 $0\to\mathcal O_Y(-d)\to\Omega^1_{\mathbb P^3}|_Y\to\Omega^1_Y\to0$ から $H^0(\Omega^1_{\mathbb P^3}|_Y)\to H^0(\Omega^1_Y)\to H^1(\mathcal O_Y(-d))=0$ なので、$H^0(\Omega^1_Y)$ は $H^0(\Omega^1_{\mathbb P^3}|_Y)$ の像である。Euler 列を $Y$ に制限した $0\to\Omega^1_{\mathbb P^3}|_Y\to\mathcal O_Y(-1)^{\oplus4}\to\mathcal O_Y\to0$(局所自由層の列なので制限しても完全)から $H^0(\Omega^1_{\mathbb P^3}|_Y)\hookrightarrow H^0(\mathcal O_Y(-1))^{\oplus4}=0$。よって $H^0(Y,\Omega^1_Y)=0$。
$k$ を標数 $p>0$ の代数閉体、$Y\subset\mathbb P^3_k$ を $G=\mathbb Z/p$ が自由に作用する非特異曲面、$X=Y/G$、$\pi\colon Y\to X$ を商写像とする。このとき $X$ は非特異射影曲面で、
$$h^{1,0}(X)=\dim H^0(X,\Omega^1_X)=0,\qquad h^{0,1}(X)=\dim H^1(X,\mathcal O_X)=1,\qquad\dim_kH^1_{dR}(X)=1,\qquad b_1(X)=0$$
である。とくに $X$ は固有で滑らかだが $\dim H^1_{dR}(X)\ne b_1(X)$ である。
$G$ が自由に作用するので $\pi$ は群 $G$ の有限エタール Galois 被覆であり、$X$ は非特異射影曲面である。$Y$ は連結($\mathbb P^3$ の超曲面)なので $X$ も連結で、$H^0(X,\mathcal O_X)=k$ である。
段 1(Hodge 数).上の補題($\mathbb P^3$ の非特異曲面の $H^0(\Omega^1)$ と $H^1(\mathcal O)$)により $H^1(Y,\mathcal O_Y)=0$、$H^0(Y,\Omega^1_Y)=0$。引用する事実 7 の Hochschild–Serre スペクトル系列を $\mathcal F=\mathcal O_X$ に使うと($\pi^*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$)、低次の完全列 $0\to H^1(G,H^0(Y,\mathcal O_Y))\to H^1(X,\mathcal O_X)\to H^1(Y,\mathcal O_Y)^G=0$ を得る。$H^0(Y,\mathcal O_Y)=k$($Y$ は連結・被約・射影的で $k$ は代数閉)に $G$ は自明に作用するので $H^1(G,k)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/p,k)\cong k$($\phi\mapsto\phi(1)$。$k$ は標数 $p$ なので $p$ 捩れ元は $k$ 全体)。$G$ は $k$ 上の作用なので系列の各項は $k$ ベクトル空間、各写像は $k$ 線型であり、よって $h^{0,1}(X)=1$。次に $\pi$ はエタールなので $\pi^*\Omega^1_X\cong\Omega^1_Y$ である。$\pi$ は有限エタールで全射だから忠実平坦で、$\mathcal O_X\to\pi_*\mathcal O_Y$ は単射、$\Omega^1_X$ は局所自由なので $\Omega^1_X\to\Omega^1_X\otimes_{\mathcal O_X}\pi_*\mathcal O_Y=\pi_*\pi^*\Omega^1_X$ も単射である。大域切断をとると $\pi^*\colon H^0(X,\Omega^1_X)\to H^0(Y,\Omega^1_Y)=0$ は単射で、$h^{1,0}(X)=0$。
段 2($b_1=0$).引用する事実 8 により $\pi_1^{\text{ét}}(X)=G$ は有限群だから、上の定義($\ell$ 進 Betti 数)の末尾の事実により $b_1(X)=0$。
段 3(Frobenius 不変な類).Artin–Schreier 列の長完全列
$$H^0(X,\mathcal O_X)\xrightarrow{F-1}H^0(X,\mathcal O_X)\to H^1_{\text{ét}}(X,\mathbb Z/p)\to H^1(X,\mathcal O_X)\xrightarrow{F-1}H^1(X,\mathcal O_X)$$
で、$H^0(X,\mathcal O_X)=k$ 上の $F-1\colon c\mapsto c^p-c$ は $k$ が代数閉なので全射である。よって $H^1_{\text{ét}}(X,\mathbb Z/p)$ は $H^1(X,\mathcal O_X)$ の Frobenius 不変な類の空間 $\ker(F-1)$ に単射に写る。$\pi\colon Y\to X$ は自明でない $\mathbb Z/p$ トーサー($Y$ が連結)なので、引用する事実 7 により $H^1_{\text{ét}}(X,\mathbb Z/p)\ne0$ であり、$0\ne a\in H^1(X,\mathcal O_X)$ で $F(a)=a$ となるものがとれる。段 1 と照らすと、$H^1_{\text{ét}}(X,\mathbb Z/p)\cong\operatorname{Hom}(\pi_1^{\text{ét}}(X),\mathbb Z/p)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z/p,\mathbb Z/p)\cong\mathbb Z/p$(段 2 の $\pi_1$)が、$1$ 次元空間 $H^1(X,\mathcal O_X)\cong k$ の中に $\ker(F-1)$ の $\mathbb F_p$ 部分空間 $\mathbb F_p\,a$ として単射に入っている($F$ は $p$ 線型 $F(ca)=c^pF(a)$ なので $\ker(F-1)$ は $k$ 部分空間ではなく $\mathbb F_p$ 空間である)。とくに $F$ は $H^1(X,\mathcal O_X)$ 上で $0$ でない。
段 4(de Rham 類への持ち上げ).$X$ の有限 affine 開被覆 $\mathfrak U=(U_i)$ をとり、$a$ を Čech 余輪体 $(f_{ij})$、$f_{ij}\in\mathcal O(U_{ij})$ で表す($X$ は分離的なので Čechコホモロジー で計算できる)。$F(a)=a$ は $(f_{ij}^p-f_{ij})$ が余境界であること、すなわち $g_i\in\mathcal O(U_i)$ があって $f_{ij}^p-f_{ij}=g_j-g_i$ となることを意味する。微分すると $d(f_{ij}^p)=pf_{ij}^{p-1}df_{ij}=0$ なので $df_{ij}=dg_i-dg_j$ であり、$\alpha_i=-dg_i\in\Omega^1(U_i)$ とおくと $\alpha_j-\alpha_i=df_{ij}$、$d\alpha_i=0$ である。したがって $(f_{ij};\alpha_i)$ は Čech 二重複体 $\check C^\bullet(\mathfrak U,\Omega^\bullet_X)$ の全次数 $1$ の余輪体で、その類 $\tilde a\in H^1_{dR}(X)$ は縁写像 $H^1_{dR}(X)\to H^1(X,\mathcal O_X)$ で $a$ に写る。
段 5(次元).全次数 $1$ で $F^1H^1_{dR}(X)=E_\infty^{1,0}$ は $E_1^{1,0}=H^0(X,\Omega^1_X)=0$ の部分商だから $0$、よって $H^1_{dR}(X)\cong E_\infty^{0,1}\subset E_1^{0,1}=H^1(X,\mathcal O_X)$ である。段 4 により $E_\infty^{0,1}$ は $a\ne0$ を含み、段 1 により $\dim H^1(X,\mathcal O_X)=1$ だから $E_\infty^{0,1}=H^1(X,\mathcal O_X)$ で $\dim H^1_{dR}(X)=1$。
原注 (12) が「確かめるのは難しくない」と書いた計算は、段 3 と段 4 の Artin–Schreier 余輪体の持ち上げである。同じ計算から、原論文の推測 HP3 がこの例では成り立たないことも読み取れる。
原論文(印字 p. 103)は、標数 $p$ の反例(Igusa、Serre、Mumford)はすべて Hodge コホモロジーが「大きすぎる」例であって、そこでは系列 (3) が非退化になり Hodge コホモロジーをちょうど必要な分だけ削るので abutment の次元は正しくなるかもしれない、と推測した(HP3)。上の定理(Serre の曲面)ではこの筋は成り立たない。全次数 $1$ の $E_1$ 項は $H^0(\Omega^1_X)=0$ と $H^1(\mathcal O_X)\cong k$ で、証明の段 5 により $E_\infty^{0,1}=E_1^{0,1}$、すなわち全次数 $1$ に関わる微分はすべて $0$ で、$\dim H^1_{dR}(X)=h^{1,0}+h^{0,1}=1$ である。Hodge コホモロジーの過大($h^{0,1}=1$ に対して $b_1=0$)はそのまま de Rham に引き継がれ、非退化による削減は起きない。原注 (12) の「de Rham の次元もまだ大きすぎうる」はこのことである。あわせて $h^{1,0}=0\ne1=h^{0,1}$ なので、Hodge 対称性もこの曲面では破れている。
まず、標数による違いが最も簡単に見える affine の例を二つ並べる。どちらも引用する事実 3 により大域切断の複体で計算できる。
$\operatorname{char}k=0$ なら、$x^{n-1}dx=d(x^n/n)$($n\ge1$)により $H^1_{dR}(\mathbb A^1_k)=0$、$H^0_{dR}(\mathbb A^1_k)=k$ で、$b_0=1$、$b_1=0$ と一致する(上の定理(標数 0 での Betti 数との一致)の最も簡単な場合)。$\operatorname{char}k=p$ なら上の定理(標数 $p$ のアフィン直線の de Rham コホモロジー)のとおり $H^0_{dR}=k[x^p]$、$H^1_{dR}$ は $x^{mp-1}dx$ の類の張る無限次元空間で、$b_0=1$、$b_1=0$ のどちらとも一致しない。
$\mathbb G_m=\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]$ では複体は $k[x,x^{-1}]\xrightarrow{d}k[x,x^{-1}]dx$ である。$\operatorname{char}k=0$ なら $H^0_{dR}=k$、$H^1_{dR}=k\cdot dx/x$($n\ne0$ の $x^{n-1}dx$ は完全)で、$b_0=b_1=1$ と一致する。$\operatorname{char}k=p$ なら $H^0_{dR}=k[x^p,x^{-p}]$、$H^1_{dR}$ は $x^{mp-1}dx$($m\in\mathbb Z$。$m=0$ が $dx/x$)の類を基底にもち、やはり無限次元である。残る類が $y=x^p$ についての形式 $y^{m-1}dy$ の形に見えることは、後の Cartier 作用素の一端である(「その後の発展」)。
次は主結果の連接性定理の仮定を外す反例で、$S$ が体でない場合にも同じことが起きることを示す。
外す条件は $f$ の固有性である。$k$ を標数 $p$ の体、$S=\operatorname{Spec}k[s]$、$X=\operatorname{Spec}k[s,x]$、$f$ を第 1 射影とする。$f$ は滑らかで固有でない。$f$ は affine 射なので $H^n_{dR}(f)$ は $k[s]$ 加群 $H^n\bigl(k[s,x]\xrightarrow{d_x}k[s,x]\,dx\bigr)$ に付随する準連接層で、上の定理(標数 $p$ のアフィン直線の de Rham コホモロジー)と同じ計算により $H^1_{dR}(f)$ は $x^{mp-1}dx$($m\ge1$)を基底とする階数無限の自由 $k[s]$ 加群、$H^0_{dR}(f)$ は $k[s][x^p]$ で、どちらも連接でない。破れるのは証明の段 1($E_1$ 項の連接性)である。
反対に、標数 $p$ でも次元が Betti 数と一致する固有な例は多い。Serre の曲面が病理であって規則でないことを見るために挙げる。
$\mathbb P^N_k$ では $H^q(\mathbb P^N,\Omega^p)$ は $p=q$ のとき $k$、それ以外は $0$ である(任意の標数。Har77 III 演習 7.3。本書は確かめていない)。$E_1^{p,q}$ が対角線上にしかないので $d_r$ はすべて $0$ であり、$\dim H^{2i}_{dR}(\mathbb P^N)=1=b_{2i}$、奇数次は $0$ である。楕円曲線 $E$ では任意の標数で $0\to H^0(E,\Omega^1)\to H^1_{dR}(E)\to H^1(E,\mathcal O_E)\to0$ が完全で(本書『4-2 アーベル多様体の $H^1$ と拡大類』)、$\dim H^1_{dR}(E)=2=b_1$ である。Serre の曲面で破れるのは、$h^{0,1}>b_1/2$ という Hodge 数の側の異常が、退化によってそのまま de Rham に持ち込まれるからである。
以下は原論文の主張ではなく後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。本書は次の文献を開いておらず、内容の細部は確かめていない)。
本頁が対応する原論文は On the de Rham cohomology of algebraic varieties Gro66 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(相対 de Rham 複体と相対 de Rham 層) | 式 (13) | 102–103 |
| 定理(相対 de Rham 層の連接性)、注意(原論文の印字と固有性の仮定) | 式 (13) 直後の連接性の主張(滑らかだけを仮定。固有を足した) | 103 |
| 定理(標数 $p$ のアフィン直線の de Rham コホモロジー)、例(アフィン直線、乗法群、固有性を外した相対 de Rham 層、射影空間と楕円曲線) | なし(本書が足した) | — |
| 定理(標数 0 での Betti 数との一致) | HP2 の標数 $0$ の部分 | 103 |
| 注意(局所自由性と底変換の期待) | HP1、原注 (12) | 103 |
| 定理(Serre の曲面) | 原注 (12)、Ser58 proposition 16 | 103 |
| 注意(Hodge コホモロジーの過大による説明) | HP3、原注 (12) | 103 |
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