被約複素解析空間 $X$ とその閉解析的部分集合 $Y$ に対し、$Y$ に沿って極をもつ有理型微分形式の複体 $\Omega^\bullet_X(*Y)$ を定義し、そのコホモロジー層が補集合 $U=X-Y$ の定数層の高次順像 $R^qf_*\mathbb C_U$ に一致するという局所比較定理(原論文 Theorem 2)を述べる。消滅条件 (8) の下で大域切断の複体が $H^\bullet(U,\mathbb C)$ を計算すること(Corollary)を示し、射影的な場合には (8) が成り立つが、原論文が主張する「$X$ が Stein なら (8) が成り立つ」は $\mathbb C^2$ の反例で破れることを示す。
前提知識: 複素解析空間, 連接層, Stein空間, 超コホモロジー, 帰納極限, Serre の GAGA
本頁では、原論文 Theorem 2 の設定に従い、$X$ を被約な複素解析空間、$Y\subset X$ を各点の近傍で 1 個の正則関数の零点集合として書ける閉解析的部分集合、$U=X-Y$ を $X$ で稠密な複素多様体、$f\colon U\to X$ を包含とする。$\mathcal J$ は $Y$ を零点集合にもつ連接イデアル層、$\mathcal E$ は $X$ 上の連接層である。第 1 章と本書『2-1 affine 被覆による帰着』の $X$ はスキームであったが、本頁では解析空間を $X$ と書き、代数側のスキームが要るときは $X_0$($X=X_0^h$)と書く。
本頁の主結果は次の六つである。
Theorem 1(本書『2-1 affine 被覆による帰着』)は、$\mathbb C$ 上の滑らかな affine 多様体 $U_0$ の複素コホモロジーが代数的微分形式の複体で計算できるという主張である。原論文はこれを直接には示さず、$U_0$ を射影閉包 $X_0$ の中に置き、無限遠の因子 $Y_0$ に極をもつ有理型形式を考える。$U_0$ 上の代数的形式は、$X_0$ 上で $Y_0$ にだけ極をもつ有理型形式にほかならないので(原注 (6) の (8″)。本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)、問題は「$Y$ に極をもつ形式の複体が $U$ のコホモロジーを計算するか」に移る。
この問いは、$X$ を複素解析空間とし、代数性を忘れても意味をもつ。原論文は、Hironaka の特異点解消が解析空間でも少なくとも局所的には成り立つことを根拠に、Theorem 1 を純粋に局所的なより強い定理に帰着させる。それが Theorem 2 で、主張は層の射 (7) が同型であること、すなわち $\Omega^\bullet_X(*Y)$ が導来順像 $\mathbf Rf_*\mathbb C_U$ を表すということである。層の同型から大域的な主張へ戻すには、超コホモロジーを大域切断の複体で計算できるための消滅条件 (8) が要り、原論文はそれが成り立つ二つの場合として、a) $X$ が射影的で $Y$ が豊富な因子の台、b) $X$ が Stein、を挙げる。
a) は Theorem 1 の証明に使われ、本頁で閉じる。b) は原論文が「同様の議論が通る」と述べるだけの場合で、本頁の主な仕事の一つは、その論法が帰納極限の層に対しては通らず、主張自体が $\mathbb C^2$ で破れることを示すことである。この破れは Theorem 1 の証明には影響しないが、原論文が Theorem 2 と b) を「本質的に同値」と呼ぶ根拠を片方向に限る。
原論文の N.B. は $\Omega^\bullet_X(*Y)$ を「$V$ 上の有理型 Kähler 微分形式の制限」として導入し、原注 (5) がそれを、連接層の切断を局所方程式の冪で割ったものとして言い直す。本書は後者を定義に採る。
$\mathcal E$ を $X$ 上の連接層とする。$f_*(\mathcal E|_U)$ の部分層 $\mathcal E(*Y)$ を次で定める。開集合 $V$ 上の切断は、$V\cap U$ 上の $\mathcal E$ の切断 $\omega$ であって、各点 $y\in V\cap Y$ について、$y$ の開近傍 $W\subset V$、$W$ 上の $\mathcal E$ の切断 $\omega'$、整数 $n\ge0$、$W$ 上での $Y$ の局所方程式 $\varphi$($Y\cap W=\{\varphi=0\}$)があって、$W\cap U$ 上 $\omega=\omega'/\varphi^n$ となるものである。$\mathcal E(*Y)$ の切断を、$U$ 上正則で $Y$ に極をもつ $\mathcal E$ の有理型切断という。
$W\cap U$ 上では $\varphi$ が可逆なので、$\omega'/\varphi^n$ は意味をもつ。$X$ が被約で $U$ が稠密なので、$\varphi$ は $\mathcal O_{X,y}$ の零因子でない($\varphi$ がある既約成分の上で恒等的に $0$ なら、その成分から他の成分を除いた空でない開集合が $Y$ に含まれ、$U$ の稠密性に反する)。この事実は下の命題の証明で使う。
$\Omega^p_X$ を、解析空間 $X$ の Kähler 微分の層 $\Omega^1_X$ の $p$ 次外冪とする(連接層。$X$ の非特異な点では正則 $p$ 形式の層に一致する)。$\Omega^p_X(*Y)$ を上の定義で $\mathcal E=\Omega^p_X$ としたものとする。外微分は $d(\omega'/\varphi^n)=(\varphi\,d\omega'-n\,d\varphi\wedge\omega')/\varphi^{n+1}$ により $\Omega^p_X(*Y)$ を $\Omega^{p+1}_X(*Y)$ に送るので、$f_*\Omega^\bullet_U$ の部分複体 $\Omega^\bullet_X(*Y)$ ができる。これを $Y$ に極をもつ微分形式の複体という。$U$ 上ではこれは $\Omega^\bullet_U$ そのものである。
$L^\bullet$ を $\Omega^\bullet_U$ の Godement 分解(各項が flasque な標準的分解。本書『0-2 Kähler 微分と超コホモロジー』)とする。正則 Poincaré の補題により $\mathbb C_U\to\Omega^\bullet_U$ は分解なので、$\mathbb C_U\to\Omega^\bullet_U\to L^\bullet$ は $\mathbb C_U$ の flasque 分解である。複体の射
$$(10)\qquad\Omega^\bullet_X(*Y)\hookrightarrow f_*\Omega^\bullet_U\longrightarrow f_*L^\bullet$$
がコホモロジー層に誘導する射 $\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))\to\mathcal H^q(f_*L^\bullet)=R^qf_*\mathbb C_U$ を写像 (7)、大域切断に誘導する射 $H^q\Gamma(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\to H^q\Gamma(U,L^\bullet)=H^q(U,\mathbb C)$ を写像 (9) という。
Godement 分解は標準的なので、(7) と (9) の定義は選択を含まない(本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』も同じ形で定める)。$\mathbb C_U$ の入射分解から出発する流儀(原論文と本書『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』)でも同じ写像になることを、先に確かめておく。
$\mathcal L^\bullet$ を $\mathbb C_U$ の入射分解、$\Omega^\bullet_U\to\mathcal L^\bullet$ を増大射と両立する複体の射とする。$L^\bullet$ の代わりに $\mathcal L^\bullet$ を使って定めた写像 $\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))\to\mathcal H^q(f_*\mathcal L^\bullet)=R^qf_*\mathbb C_U$ と $H^q\Gamma(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\to H^q\Gamma(U,\mathcal L^\bullet)=H^q(U,\mathbb C)$ は、それぞれ (7)、(9) に一致する。
段 1(分解の間の射).$L^\bullet$ は $\mathbb C_U$ の分解、$\mathcal L^\bullet$ は入射分解なので、増大射と両立する複体の射 $\theta\colon L^\bullet\to\mathcal L^\bullet$ が存在する。合成 $\Omega^\bullet_U\to L^\bullet\xrightarrow{\theta}\mathcal L^\bullet$ と与えられた $\Omega^\bullet_U\to\mathcal L^\bullet$ は、どちらも分解 $\Omega^\bullet_U$ から入射分解 $\mathcal L^\bullet$ への増大射と両立する射なので、鎖ホモトピックである。
段 2(誘導される写像).鎖ホモトピーは $f_*$ と $\Gamma$ を施しても鎖ホモトピーなので、$f_*\Omega^\bullet_U\to f_*\mathcal L^\bullet$ の二つの射はコホモロジー層にも大域切断のコホモロジーにも同じ写像を誘導する。一方 $\theta$ は $\mathbb C_U$ の二つの flasque 分解の間の増大射と両立する射なので、$f_*\theta$ と $\Gamma(U,\theta)$ が誘導する写像は、$R^qf_*\mathbb C_U$ と $H^q(U,\mathbb C)$ をそれぞれの分解で計算したときの標準的な同一視である。したがって $\mathcal L^\bullet$ で定めた写像は (10) の誘導する (7)、(9) に一致する。
定義に現れる局所的な選択($W$、$\omega'$、$n$、$\varphi$)に依らないこと、そして $\mathcal E(*Y)$ が連接層の帰納極限として書けることが、次の命題である。
$\mathcal E$ を $X$ 上の連接層とする。
Oka の連接定理(連接層の核・像・余核・$\mathcal{H}om$・イデアルの冪は連接で、$\mathcal O_{X,y}$ はネーター)と Rückert の零点定理(連接イデアル $I\subset\mathcal O_{X,y}$ の零点集合の上で消える正則関数 $h$ は $h^m\in I$ をみたす $m$ をもつ)を引用する(本書『0-4 複素解析空間と GAGA』)。零点定理の系として、台が $Y$ に含まれる連接層 $\mathcal F$ は局所的に $\varphi$ の冪で消される(連接層の消滅イデアルは連接で、その零点集合は台に等しいので、$\varphi$ はその上で消え、$\varphi^m$ が消滅イデアルに入る)。
段 1(局所方程式の取り替え).二つの局所方程式 $\varphi_1,\varphi_2$ が同じ零点集合をもてば、零点定理により $\varphi_1^m=h\varphi_2$ の形に書けるので、$\omega'/\varphi_2^n=h^n\omega'/\varphi_1^{mn}$ となり、条件は $\varphi$ の選び方に依らない。$\omega'$ と $n$ の違いは、条件が存在量化であることに吸収される。和は $(\varphi^{n_2}\omega'_1+\varphi^{n_1}\omega'_2)/\varphi^{n_1+n_2}$、$\mathcal O_X$ 倍は $(a\omega')/\varphi^n$ で、条件は局所的なので部分層である。
段 2(帰納系の共終性).$\mathcal J$ の零点集合が局所的に $V(\varphi)$ に等しいので、零点定理を両向きに使って、各点の近傍で $\varphi^a\in\mathcal J$、$\mathcal J^b\subset(\varphi)$ となる $a,b$ が取れる(後者は $\mathcal J$ の有限個の局所生成元それぞれに零点定理を当てる)。よって帰納系 $\{\mathcal{H}om(\mathcal J^n,\mathcal E)\}_n$ と $\{\mathcal{H}om((\varphi^n),\mathcal E)\}_n$ は互いに共終で、極限は等しい。
段 3(主イデアルの場合).$\varphi$ は零因子でないので $(\varphi^n)\cong\mathcal O_X$($\varphi^n\mapsto1$)であり、$\mathcal{H}om((\varphi^n),\mathcal E)\cong\mathcal E$($u\mapsto u(\varphi^n)$)、制限写像は $\mathcal E\xrightarrow{\varphi}\mathcal E$ になる。したがって極限は $\varinjlim(\mathcal E\xrightarrow{\varphi}\mathcal E\xrightarrow{\varphi}\cdots)$ で、その局所切断は組 $(e,n)$($e$ は $\mathcal E$ の切断)を $(e,n)\sim(\varphi e,n+1)$ で割ったものである。$(e,n)\mapsto e/\varphi^n|_U$ は $\mathcal E(*Y)$ への射で、定義の形から局所的に全射である。単射性:$e/\varphi^n$ が $W\cap U$ 上 $0$ なら、$e$ が生成する部分層 $\mathcal O_We\subset\mathcal E|_W$ は連接($\mathcal O_W\to\mathcal E|_W$ の像)で $W\cap U$ 上 $0$、台は $Y$ に含まれるので、零点定理の系により局所的に $\varphi^m(\mathcal O_We)=0$ である。ゆえに $\varphi^me=0$、$(e,n)\sim(\varphi^me,n+m)=0$ である。$\mathcal J$ に依らないことは段 2 の共終性から従う。
段 4(射の誘導).$\alpha$ は $\omega'/\varphi^n\mapsto\alpha(\omega')/\varphi^n$ により $\mathcal E_1(*Y)\to\mathcal E_2(*Y)$ を誘導し、これは $f_*(\alpha|_U)$ の制限なので単射である。全射性:$\operatorname{coker}\alpha$ は連接で $U$ 上 $0$、台が $Y$ に含まれるので、零点定理の系により局所的に $\varphi^m\operatorname{coker}\alpha=0$ である。よって $\mathcal E_2$ の切断 $e_2$ について $\varphi^me_2=\alpha(e_1)$ となる $e_1$ があり、$e_2/\varphi^n=\alpha(e_1)/\varphi^{n+m}$ となる。
帰納極限表示は本頁の消滅の議論の出発点である。各項 $\mathcal{H}om(\mathcal J^n,\mathcal E)$ は連接で、極の位数が $n$ 以下の切断だけをもつ。$\mathcal E(*Y)$ 自身は連接でなく、その差が後の Stein の場合に効いてくる。
原注 (5) は、この部分層が行った選択に依らないと述べる。命題が示すのは局所的な選択と $\mathcal J$ に依らないことで、延長 $\mathcal E$ の取り替えについては限定が要る。
命題(有理型切断の層の帰納極限表示)の 1 と 2 は、$W$、$\omega'$、$n$、$\varphi$、$\mathcal J$ の選び方に依らないことを示す。しかし、$U$ 上の層 $\mathcal E|_U$ の連接な延長 $\mathcal E$ を、$U$ 上の同一視だけを固定して任意に取り替えると、$f_*(\mathcal E|_U)$ の部分層としての $\mathcal E(*Y)$ は変わりうる(本頁の反例「延長の取り替えで変わる有理型切断の層」)。同じ層になるのは、命題の 3 のように二つの延長の間に $U$ 上同型な連接層の射があるときである。本頁と本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』で使う延長($\Omega^p_X$ と、代数的な $\Omega^p_{X_0}$ の解析化)はすべてこの形で結ばれている。原注 (5) の文言は、局所的な選択を指すと読めば正しい。
次の事実は証明せずに引用する。主な出典は GuR65、GR84、God58、Ser56 で、言明は本書第 0 章に置いた。該当箇所は本頁では確認していない。
定義が揃ったので、原論文 Theorem 2 を現代の記号で述べる。証明は次の頁に委ねる。
$X$ を被約複素解析空間、$Y$ を局所 1 方程式の閉解析的部分集合、$U=X-Y$ を非特異で $X$ で稠密とする。写像 (7)
$$\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))\longrightarrow R^qf_*\mathbb C_U$$
はすべての $q$ で同型である。すなわち (10):$\Omega^\bullet_X(*Y)\to f_*L^\bullet$ は擬同型であり、$\Omega^\bullet_X(*Y)$ は導来順像 $\mathbf Rf_*\mathbb C_U$ を表す。
要点のみ述べる。証明本体は本書『2-3 特異点解消と Grauert–Remmert による証明』にある(そこでは (10) を $\mathbb C_U$ の入射分解で書くが、上の補題(分解の取り替え)により同じ写像である)。主張は層の同型なので $X$ 上局所的に示せばよい。各点の近傍で解析的な特異点解消 $g\colon X'\to X$(射影的双有理射で、$X'$ は非特異、$Y'=g^{-1}(Y)$ は正規交叉因子、$g$ は $U'=g^{-1}(U)$ の上で同型)をとる。正規交叉因子については (7) は Laurent 級数の明示計算で同型になる。$g_*\Omega^\bullet_{X'}(*Y')\cong\Omega^\bullet_X(*Y)$ と $R^qg_*(\Omega^p_{X'}(*Y'))=0$($q>0$)を Grauert–Remmert の比較定理で示し、非輪状な項をもつ複体の間の擬同型が $g_*$ で保たれることから $X$ での (7) の同型が従う。
局所比較定理は層についての主張である。ここから $U$ のコホモロジーそのものを得るには、超コホモロジーを大域切断の複体で計算できることが要る。
$X$、$Y$、$U$ を局所比較定理のとおりとし、さらに消滅条件
$$(8)\qquad H^p(X,\Omega^q_X(*Y))=0\quad(p>0,\ \text{任意の }q)$$
を仮定する。このとき写像 (9)
$$H^q\Gamma(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\longrightarrow H^q(U,\mathbb C)$$
はすべての $q$ で同型である。
段 1(超コホモロジーの同型).局所比較定理により (10):$\Omega^\bullet_X(*Y)\to f_*L^\bullet$ は擬同型なので、超コホモロジーの同型 $\mathbf H^q(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\to\mathbf H^q(X,f_*L^\bullet)$ を誘導する。
段 2(右辺).$f_*L^p$ は flasque なので、$\mathbf H^q(X,f_*L^\bullet)=H^q\Gamma(X,f_*L^\bullet)=H^q\Gamma(U,L^\bullet)=H^q(U,\mathbb C)$ である。
段 3(左辺).スペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_X(*Y))\Rightarrow\mathbf H^{p+q}(X,\Omega^\bullet_X(*Y))$ は (8) により行 $q=0$ だけになり、辺写像 $H^n\Gamma(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\to\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X(*Y))$ は同型である。
段 4(写像の一致).段 1〜3 の合成は、$\Gamma(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\to\Gamma(X,f_*L^\bullet)$ がコホモロジーに誘導する写像、すなわち (9) である(辺写像の自然性)。
局所比較定理が使えるところでは、(8) だけが (9) の障害である。残る問いは (8) がいつ成り立つかで、原論文は二つの場合を挙げる。まず射影的な場合である。
$X_0$ を $\mathbb C$ 上射影的な被約スキーム、$D_0$ を $X_0$ 上の有効 Cartier 因子で $\mathcal O_{X_0}(D_0)$ が豊富なものとし、$X=X_0^h$、$Y$ を $\operatorname{Supp}D_0$ の解析化、$U=X-Y$ は非特異で稠密とする(原論文の「$X$ が射影的で $Y$ が豊富な正因子の台」をこの意味に読む。射影的な解析空間は Chow の定理により代数的である)。このとき (8) が成り立ち、したがって (9) はすべての $q$ で同型である。
段 1(帰納系の同定).$Y$ は $D_0$ の局所方程式で定まるので局所 1 方程式である。$\mathcal J=\mathcal O_X(-D_0)$ は零点集合 $Y$ の可逆イデアル層なので、命題(有理型切断の層の帰納極限表示)の 2 により、任意の連接層 $\mathcal E$ について $\mathcal E(*Y)=\varinjlim_n\mathcal{H}om(\mathcal J^n,\mathcal E)=\varinjlim_n\mathcal E(nD_0)$、ここで $\mathcal E(nD_0)=\mathcal E\otimes\mathcal O_X(nD_0)$ である。
段 2(代数的な延長).$\Omega^q_{X_0}$ を $X_0$ の Kähler 微分の外冪(連接層)とすると、自然な射 $(\Omega^q_{X_0})^h\to\Omega^q_X$ は $U$ 上同型なので、命題の 3 により $\Omega^q_X(*Y)=(\Omega^q_{X_0})^h(*Y)=\varinjlim_n(\Omega^q_{X_0}(nD_0))^h$ である。
段 3(極限と GAGA).$X$ はコンパクトなので、コホモロジーは帰納極限と可換であり、GAGA により
$$H^p(X,\Omega^q_X(*Y))=\varinjlim_nH^p\bigl(X,(\Omega^q_{X_0}(nD_0))^h\bigr)=\varinjlim_nH^p\bigl(X_0,\Omega^q_{X_0}(nD_0)\bigr).$$
段 4(Serre の消滅).$\mathcal O_{X_0}(D_0)$ は豊富なので、$p>0$ について右辺の各項は $n\ge n_0(p,q)$ で $0$ になり、極限も $0$ である。これが (8) で、(9) の同型は上の定理(消滅条件の下での大域比較)による。
原論文はここで Atiyah–Hodge の lemma 6 AH55 を引くが、上の証明はそれを使わない。証明の要は、コンパクト性による極限との可換と、各 $n$ では消えない群が $n$ を大きくすると消えることの二つである。Stein 空間では前者が失われる。
原論文は「$X$ が Stein なら (8) が成り立つ」と述べ、正則凸コンパクト集合の上での消滅から $X$ 全体の消滅を導く。前半は正しく、1 次元では全体でも正しいが、2 次元で破れる。反例の核は次の補題である。
$\mathbb C$ 上の正則関数の層 $\mathcal O$ について、$H^1\bigl(\mathbb C,\bigoplus_{m\ge1}\mathcal O\bigr)\ne0$ である。
段 1(完全列).直和 $\bigoplus_m\mathcal O$ は直積 $\prod_m\mathcal O$ の部分層で、開集合 $V$ 上の切断は族 $(s_m)_m$($s_m\in\mathcal O(V)$)のうち局所有限なもの、すなわち $V$ の各点が、有限個を除くすべての $s_m$ が恒等的に $0$ になる近傍をもつものである。商層を $\mathcal P$ とし、短完全列 $0\to\bigoplus\mathcal O\to\prod\mathcal O\to\mathcal P\to0$ の長完全列を見る。$\Gamma(\mathbb C,\prod\mathcal O)=\prod_m\mathcal O(\mathbb C)\to\Gamma(\mathbb C,\mathcal P)$ が全射でなければ、連結準同型により $H^1(\mathbb C,\bigoplus\mathcal O)\ne0$ である。
段 2(切断の構成).$D_k=\{|z|< k\}$ とし、$D_k$ 上の族 $s^{(k)}=(s^{(k)}_m)_m$ を $s^{(k)}_m=1/(z-m)$($m>k$)、$s^{(k)}_m=0$($m\le k$)で定める。$m>k$ なら $1/(z-m)$ は $D_k$ 上正則なので $s^{(k)}\in\prod\mathcal O(D_k)$ である。$k< k'$ のとき、$D_k$ 上で $s^{(k)}-s^{(k')}$ は $k< m\le k'$ の有限個の成分しかもたないので $\bigoplus\mathcal O$ の切断であり、$s^{(k)}$ と $s^{(k')}$ の類は $\mathcal P(D_k)$ で一致する。層の公理により、これらの類は $\sigma\in\Gamma(\mathbb C,\mathcal P)$ に貼り合う。
段 3(持ち上がらないこと).$\sigma$ が $(F_m)_m\in\prod\mathcal O(\mathbb C)$ の類だとする。左完全性により、各 $k$ で $(F_m-s^{(k)}_m)_m$ は $D_k$ 上の $\bigoplus\mathcal O$ の切断、すなわち局所有限な族である。連結な開集合の上では、局所有限な正則関数の族は有限個を除いて恒等的に $0$ である(一点の近傍で恒等的に $0$ なら、一致の定理により全体で $0$)。$k=1$ について、有限個を除くすべての $m\ge2$ で $D_1$ 上 $F_m=1/(z-m)$ となる。$F_m$ は整関数なので、一致の定理により $\mathbb C-\{m\}$ 上 $F_m=1/(z-m)$ となるが、右辺は $z=m$ の近くで有界でない。矛盾。ゆえに $\sigma$ は持ち上がらず、$H^1(\mathbb C,\bigoplus\mathcal O)\ne0$ である。
この補題は、$\bigoplus\mathcal O$ が連接でないために定理 B が使えず、実際に $H^1$ が消えないことを示す。これを $\mathbb C^2$ の有理型関数の層に翻訳する。
$X$ を Stein 空間、$Y$、$U$ を局所比較定理のとおりとし、$\mathcal E$ を $X$ 上の連接層とする。
段 1(コンパクト集合の上).命題(有理型切断の層の帰納極限表示)により $\mathcal E(*Y)=\varinjlim_n\mathcal E_n$、$\mathcal E_n=\mathcal{H}om(\mathcal J^n,\mathcal E)$ は連接である。コンパクトな $K$ の上でコホモロジーは帰納極限と可換なので $H^p(K,\mathcal E(*Y)|_K)=\varinjlim_nH^p(K,\mathcal E_n|_K)$、また $H^p(K,\mathcal E_n|_K)=\varinjlim_{W\supset K}H^p(W,\mathcal E_n)$ である。$K$ は Stein 開近傍の基本系をもち、その上で定理 B により $H^p(W,\mathcal E_n)=0$ なので、すべて $0$ である。
段 2(1 次元).$\dim X=1$ とする。$Y$ は局所的に零因子でない正則関数の零点集合なので離散閉集合である。$\mathcal Q=\mathcal E(*Y)/\mathcal E$ とおくと、$\mathcal Q$ は $Y$ に台をもち、$y\in Y$ での茎は $\mathcal E_y[1/\varphi]/\mathcal E_y$ である。$Y$ が離散閉なので、開集合 $V$ 上の $\mathcal Q$ の切断は茎の族 $\prod_{y\in Y\cap V}\mathcal Q_y$ にほかならず(各 $y$ の近傍で $Y$ は $y$ だけなので、茎の族は $V-Y$ 上の $0$ と貼り合う)、制限写像は射影で全射である。すなわち $\mathcal Q$ は flasque で $H^p(X,\mathcal Q)=0$($p>0$)。$0\to\mathcal E\to\mathcal E(*Y)\to\mathcal Q\to0$ の長完全列と定理 B($H^p(X,\mathcal E)=0$)から $H^p(X,\mathcal E(*Y))=0$ を得る。
段 3($\mathbb C^2$ での商層).$X=\mathbb C^2$、$Y=\{z_1=0\}\cong\mathbb C$(座標 $z_2$)、$i\colon Y\to X$ を包含、$\mathcal Q=\mathcal O_X(*Y)/\mathcal O_X$ とする。$Y$ の点の近傍の正則関数 $g$ を $z_1$ について展開して $g=\sum_{j\ge0}g_j(z_2)z_1^j$($g_j=\frac1{j!}\partial_1^jg|_{z_1=0}$ は $Y$ 上の正則関数)と書き、$g/z_1^N$ に主要部 $\sum_{j< N}g_j(z_2)z_1^{j-N}$ を対応させると、層の射 $\mathcal Q\to i_*\bigl(\bigoplus_{m\ge1}\mathcal O_Y\,z_1^{-m}\bigr)$ が定まる(主要部の係数は、$U$ 上での $z_1$ についての Laurent 展開の負冪の係数 $c_{-m}(z_2)=\frac1{2\pi i}\oint(g/z_1^N)z_1^{m-1}\,dz_1$ なので表示 $g/z_1^N$ に依らず、$N$ は局所的に有界なので主要部の族は局所有限であり、$\mathcal O_X$ の切断は $0$ に行く)。茎で見ると、主要部が $0$ であることは $z_1^N$ が $g$ を割ること、すなわち $g/z_1^N\in\mathcal O_X$ と同値なので単射であり、与えられた主要部 $\sum_{m=1}^Mh_m(z_2)z_1^{-m}$ は $g=\sum_mh_mz_1^{M-m}$、$N=M$ から得られるので全射である。ゆえに $\mathcal Q\cong i_*\bigl(\bigoplus_{m\ge1}\mathcal O_Y\bigr)$ である。
段 4(長完全列).$0\to\mathcal O_X\to\mathcal O_X(*Y)\to\mathcal Q\to0$ の長完全列で、定理 B により $H^1(X,\mathcal O_X)=H^2(X,\mathcal O_X)=0$ なので $H^1(X,\mathcal O_X(*Y))\cong H^1(X,\mathcal Q)$ である。$i$ は閉埋め込みなので $i_*$ は完全で flasque 層を flasque 層に送り、$H^1(X,i_*\mathcal A)=H^1(Y,\mathcal A)$ である。よって $H^1(X,\mathcal O_X(*Y))\cong H^1\bigl(\mathbb C,\bigoplus_{m\ge1}\mathcal O\bigr)$ で、これは上の補題により $0$ でない。
段 1 が原論文の中間主張であり、段 3・4 がそれを $X$ 全体へ移せないことを示す。どこで原論文の論法が切れるかを注意しておく。
原論文(印字 p. 98)は、正則凸コンパクト集合 $K$ の上で $\Omega^q_X(*Y)$ 係数のコホモロジーが消えること(上の定理の 1)から、「hence also」の一語で $X$ 全体の消滅を導く。$X$ を正則凸コンパクト集合の列 $K_m\subset\operatorname{int}K_{m+1}$ で尽くし、$X_m=\operatorname{int}K_{m+1}$、$\mathcal G=\mathcal E(*Y)$ とおくと、Milnor の完全列
$$0\to{\varprojlim_m}^1\,\Gamma(X_m,\mathcal G)\to H^1(X,\mathcal G)\to\varprojlim_mH^1(X_m,\mathcal G)\to0$$
の右の項は 1 により $0$ になる($X_{m+1}$ 上の類は $K_{m+1}$ のある近傍で消え、$X_m\subset K_{m+1}$ である)。しかし左の $\varprojlim^1$ は消えない。$\mathcal G$ が連接なら、尽くし列を Runge 対の列にとり、Runge 型の近似(Fréchet 空間の射影系についての Mittag-Leffler の定理。本書『0-4 複素解析空間と GAGA』)で $\varprojlim^1$ が消えるが、$\mathcal G=\varinjlim\mathcal E_n$ では、$m$ とともに極の位数が増える切断の列を近似で補正できない。上の定理の 3 の例では $H^1(X,\mathcal G)\ne0$ かつ $\varprojlim H^1(X_m,\mathcal G)=0$ なので、実際に $\varprojlim^1\Gamma(X_m,\mathcal O_X(*Y))\ne0$ である。なお $p\ge2$ では、$\varprojlim^1$ の項の射影系 $H^{p-1}(X_m,\mathcal G)$ も推移写像が $0$ なので消え、$H^p(X,\mathcal G)=0$ が任意の Stein 空間で成り立つ。(8) が破れうるのは $p=1$ だけである。この誤りは Theorem 1 の証明(場合 a) と原注 (6))には影響しない。
原論文は Theorem 2 を Corollary の場合 b) と「本質的に同値」と述べるが、証明は書かない。片方向は Stein 近傍の基本系で閉じる。
次の二つの主張を考える。(A) 局所比較定理(写像 (7) が、仮定をみたすすべての $X$、$Y$ で同型)。(B) 任意の Stein 空間 $X$ と局所比較定理の仮定をみたす $Y$ について、写像 (9) が同型。このとき (B) ならば (A) が成り立つ。
段 1(茎の表示).写像 (7) が同型であることは茎で確かめればよい。$x\in X$ をとる。$x$ は Stein 開近傍の基本系 $\{V\}$ をもち、各 $V$ は $Y\cap V$ について局所比較定理の仮定をみたす($V\cap U$ は $V$ で稠密な複素多様体)。コホモロジー層の茎は切断の複体のコホモロジーの帰納極限なので $\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X(*Y))_x=\varinjlim_VH^q\Gamma(V,\Omega^\bullet_V(*(Y\cap V)))$ であり、$R^qf_*\mathbb C_U$ は前層 $V\mapsto H^q(V\cap U,\mathbb C)$ の層化なので $(R^qf_*\mathbb C_U)_x=\varinjlim_VH^q(V\cap U,\mathbb C)$ である。
段 2(極限).Godement 分解は開集合への制限と可換なので、(10) を $V$ に制限したものは $(V,Y\cap V)$ についての (10) であり、(7) の $x$ での茎は、各 $V$ についての写像 (9) の帰納極限である。(B) により各項が同型なので、極限も同型である。
逆向きについて、原論文の道は「Stein なら (8)、したがって (9)」であったが、(8) は上の定理(Stein 空間での消滅条件)により偽である。局所比較定理から従うのは $\mathbf H^q(X,\Omega^\bullet_X(*Y))\cong H^q(U,\mathbb C)$ までで、それを大域切断の複体のコホモロジーに結ぶ段が空く。原論文の「本質的に同値」は、本書では片方向しか閉じない。
Stein 空間 $X$ と局所比較定理の仮定をみたす $Y$ について、写像 (9) が常に同型かどうかは、本書では決められない。(8) を欠くので上の定理(消滅条件の下での大域比較)は使えないが、(8) の反例 $X=\mathbb C^2$、$Y=\{z_1=0\}$ では (9) は同型である(本頁の反例「Stein 空間で消滅条件が破れる例」)。したがって (8) の不成立は (9) の不成立を意味しない。(9) を一般の Stein 空間で示すには、超コホモロジーのスペクトル系列の $q>0$ の項が微分で相殺されること、または大域切断の極の位数の有界性のような、(8) の代替が要る。
以下の例は、主結果の適用と、原注 (5) および場合 b) で何が破れるかを示す。まず射影的な場合で、大域切断の複体が実際に $U$ のコホモロジーを与えることを確かめる。
$X_0=\mathbb P^1_{\mathbb C}$、$D_0=\infty$(次数 1 の因子で豊富)、$Y=\{\infty\}$、$U=\mathbb C$ とする。定理(射影的な場合の消滅)により (8) が成り立ち、(9) は同型である。実際、$\infty$ にだけ極をもつ $\mathbb P^1$ 上の有理型関数は多項式($\infty$ で高々極をもつ整関数)なので $\Gamma(X,\mathcal O_X(*Y))=\mathbb C[z]$ であり、同様に $\Gamma(X,\Omega^1_X(*Y))=\mathbb C[z]\,dz$ で、複体 $\mathbb C[z]\xrightarrow{d}\mathbb C[z]\,dz$ のコホモロジーは $H^0=\mathbb C$、$H^1=0$ である。これは $H^\bullet(\mathbb C,\mathbb C)$ に一致する。$D_0=0+\infty$、$Y=\{0,\infty\}$、$U=\mathbb C^*$ とすると、$\Gamma(X,\mathcal O_X(*Y))=\mathbb C[z,z^{-1}]$、$\Gamma(X,\Omega^1_X(*Y))=\mathbb C[z,z^{-1}]\,dz$ で、$H^1=\mathbb C\,dz/z$ が $H^1(\mathbb C^*,\mathbb C)$ に一致し、留数が同型を与える。どちらも本書『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』の代数的な計算と同じ結果で、大域切断が代数的な形式に一致する理由は原注 (6) の (8″)(本書『2-4 代数的な別証明と affine 補集合の消滅』)が説明する。
次は Stein で 1 次元の場合で、定理(Stein 空間での消滅条件)の 2 の具体例である。
$X=\mathbb C$、$Y=\{0\}$、$U=\mathbb C^*$ とする。$\mathcal O_X(*Y)/\mathcal O_X$ は原点に台をもつ摩天楼層(茎は $\mathbb C\{z\}[z^{-1}]/\mathbb C\{z\}$)で flasque なので、定理 B と合わせて $H^p(\mathbb C,\mathcal O_X(*Y))=0$($p>0$)、同様に $\Omega^1_X(*Y)$ についても消え、(8) が成り立つ。大域切断:$U$ 上正則で $0$ に極をもつ関数は $\mathbb C^*$ 全体で収束する Laurent 展開 $\sum_{k\ge-N}c_kz^k$ をもつので、$\Gamma(X,\mathcal O_X(*Y))=\mathcal O(\mathbb C)[z^{-1}]$、$\Gamma(X,\Omega^1_X(*Y))=\mathcal O(\mathbb C)[z^{-1}]\,dz$ である。$\sum_{k\ge-N}b_kz^k\,dz$ は $b_{-1}\,dz/z$ と完全形式 $d\bigl(\sum_{k\ne-1}b_kz^{k+1}/(k+1)\bigr)$ の和で($|b_k/(k+1)|\le|b_k|$ により原始級数は同じ領域で収束する)、$H^0=\mathbb C$、$H^1=\mathbb C\,dz/z$ を得る($dz/z$ は、$\sum a_kz^k$ の微分に $z^{-1}\,dz$ の項が現れないので完全でない)。これは $H^\bullet(\mathbb C^*,\mathbb C)$ に一致し、(8) が成り立つので定理(消滅条件の下での大域比較)により (9) は同型である。1 次元では $Y$ が離散なので商層 $\mathcal E(*Y)/\mathcal E$ が flasque になることが消滅の理由であり、2 次元では同じ商層が正の次元の $Y$ の上の無限直和になって flasque でなくなる。
次が主結果 5 の反例で、どの条件が破れるかをまとめる。
原論文 Corollary の場合 b)「$X$ が Stein なら (8) が成り立つ」に対する反例である。$X=\mathbb C^2$、$Y=\{z_1=0\}$、$U=\mathbb C^*\times\mathbb C$、$\mathcal E=\mathcal O_X$ とする。
最後は、原注 (5) の「選択に依らない」の限定に関わる例である。
原注 (5) の「部分層は選択に依らない」を、$U$ 上の同一視だけを固定して連接な延長 $\mathcal E$ を任意に取り替えてよい、と読んだ場合の反例である。$X=\mathbb C$、$Y=\{0\}$、$U=\mathbb C^*$ とし、$U$ 上の層 $\mathcal O_U$ の二つの延長を考える。$\mathcal E_1=\mathcal O_X$($U$ 上の同一視は恒等)と、$\mathcal E_2=\mathcal O_X$ で $U$ 上の同一視 $\mathcal E_2|_U\to\mathcal O_U$ を $e^{1/z}$ 倍で与えたものである。
以下は後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。文献の該当箇所は本書では確かめていない)。
本頁が対応する原論文は On the de Rham cohomology of algebraic varieties Gro66 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義($Y$ に極をもつ有理型切断の層)、定義(極をもつ微分形式の複体と写像 (7)・(9))、補題(分解の取り替え) | N.B.、原注 (5)、式 (7)(9)、式 (10)(印字 p. 98) | 97–98 |
| 命題(有理型切断の層の帰納極限表示)、注意(原注 (5) の「選択に依らない」の範囲)、反例(延長の取り替えで変わる有理型切断の層) | 原注 (5)(容易に確かめられるとされる部分層の性質と選択非依存の主張、帰納極限表示) | 97 |
| 定理(局所比較定理) | Theorem 2、式 (7) | 97 |
| 定理(消滅条件の下での大域比較) | Corollary、式 (8)(9)、標準的とされる導出の段 | 97–98 |
| 定理(射影的な場合の消滅)、例(射影直線と無限遠点) | Corollary の a)、Serre の消滅定理と A-H lemma 6 を引く段 | 97–98 |
| 補題(可算個の $\mathcal O$ の直和の $H^1$)、定理(Stein 空間での消滅条件)、注意(原論文の論証の誤りの所在)、反例(Stein 空間で消滅条件が破れる例)、例(複素平面と原点) | Corollary の b)、正則凸コンパクト集合から「hence also」で $X$ へ移る段 | 97–98 |
| 命題(局所比較定理と Stein の場合の関係)、注意(未決の問い:Stein 空間での大域比較) | Theorem 2 が b) と本質的に同値であるという主張 | 97 |
原論文は $Y$ を定めるイデアル層を原注 (5) では $\mathfrak J$、本文では $\mathcal J$ と印字するが、本書は $\mathcal J$ に統一した。
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