7-3 自由群の部分群

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自由群の部分群は再び自由群になります。これはNielsen--Schreierの定理です。このページでは有限指数の場合を、剰余類を頂点とするグラフから構成的に証明し、部分群の階数まで計算します。

Schreierグラフ

$F=F(X)$ を有限集合
$$ X=\{x_1,\ldots,x_r\} $$
上の自由群、$H\le F$ を指数 $d<\infty$ の部分群とします。

Schreierグラフ

$H$ の右剰余類 $Hg$ を頂点とし、各頂点 $Hg$ と各 $x\in X$ に対して
$$ Hg\xrightarrow{x}Hgx $$
という有向辺を置く。逆向きにたどるときのラベルは $x^{-1}$ とする。このSchreierグラフ|ラベル付きグラフを $\Gamma(H\backslash F,X)$ という。

単位剰余類 $H$ を基点とします。語 $w\in F$ を基点からラベルどおりにたどると終点は $Hw$ です。従って
$$ w\in H \quad\Longleftrightarrow\quad w\text{ が基点に戻る閉路を与える}. $$
グラフは連結です。実際、頂点 $Hg$ に対し $g$ を表す語を基点から読めば、その頂点へ到達します。

全域木と基本閉路

有限連結グラフから、全頂点を含み閉路をもたない部分グラフ $T$ を一つ選びます。これを全域木といいます。基点から各頂点 $v$ へは $T$ 内の道がただ一つあり、そのラベルを $p_v$ と書きます。
各有向辺 $e:u\xrightarrow{x}v$ に対して
$$ y_e=p_u x p_v^{-1}\in F $$
と置きます。この語は基点から $u$ へ進み、$e$ を渡り、木の道を逆に戻る閉路なので $H$ に属します。$e$ が木の辺なら $y_e=e$ です。木の外の辺について向きを一つ選び、その $y_e$ を集めた集合を $Y$ とします。逆向きの基本閉路は $y_e^{-1}$ です。

グラフの閉路基底

連結グラフに全域木を固定すると、基点閉路は木の外の辺に対応する基本閉路で一意に表される。直後に逆向きへ戻る操作を除いて簡約した基本閉路の語が空でなければ、元の閉路も空には縮まらない。

基点閉路の辺列を
$$ e_1e_2\cdots e_n, \qquad e_i:v_{i-1}\to v_i, \qquad v_0=v_n $$
とします。各辺の前後に木の道を挿入すると
$$ (p_{v_0}e_1p_{v_1}^{-1}) (p_{v_1}e_2p_{v_2}^{-1})\cdots (p_{v_{n-1}}e_np_{v_n}^{-1}) $$
となります。隣接する $p_{v_i}^{-1}p_{v_i}$ は往復なので消え、$p_{v_0}=p_{v_n}$ は空の道です。従って元の閉路は基本閉路の積です。木の辺に対応する因子は空なので、木の外の辺だけが残ります。
逆に、木の外の辺を含む基本閉路の積を道として簡約しても、木の辺の往復を消す操作は木の外の辺を消せません。木の外の辺が消えるのは同じ辺を直後に逆向きへ通る場合だけで、これは対応する基本閉路 $y_e,y_e^{-1}$ の隣接相殺です。従って基本閉路の簡約語が空でなければ、閉路も空になりません。生成性と自由性が同時に従います。□

有限指数Nielsen--Schreier定理

Nielsen--Schreierの定理(有限指数版)

階数 $r$ の自由群 $F_r$ の指数 $d$ の部分群 $H$ は自由群であり、その階数は
$$ \operatorname{rank}H=1+d(r-1) $$
である。

Schreierグラフの基点閉路のラベルはちょうど $H$ の元でした。閉路基底補題により、木の外の辺から作った集合 $Y$ は $H$ を生成し、その間に非自明な簡約関係はありません。従って $H$ は $Y$ 上の自由群です。
頂点数は右剰余類の個数なので $d$。各頂点と各正の生成元 $x\in X$ に一つの辺があるため、辺数は重複辺とloopも別々に数えて $dr$ です。頂点数 $d$ の木の辺数は $d-1$。よって木の外の辺数、すなわち自由基底の元数は
$$ dr-(d-1)=1+d(r-1). $$
□

この公式はSchreierの指数公式と呼ばれます。$r\ge2,d\ge2$ なら部分群の階数は元の群より大きくなり得ます。部分に入ると生成元が増えるという、ベクトル空間とは違う現象です。

指数2の具体計算

$F(a,b)$ から $C_2$ への準同型
$$ \varphi(a)=1, \qquad \varphi(b)=0 $$
を取り、$H=\ker\varphi$ とします。指数は2です。Schreierグラフの頂点は $H,Ha$ の二つ。全域木に $H$ から $Ha$ への $a$ 辺を一つ選びます。
木の外の三辺から得られる基本閉路は
$$ b, \qquad a^2, \qquad aba^{-1}. $$
従って
$$ H=F\bigl(b,a^2,aba^{-1}\bigr) $$
は階数3の自由群です。公式も
$$ 1+2(2-1)=3 $$
を与えます。

無限指数の場合

一般のNielsen--Schreier定理では $H$ の指数が無限でも、同じSchreierグラフに全域木を選び、木の外の辺を自由基底にします。有限指数版との違いは、頂点数・辺数の単純な引き算で有限の階数公式を出せないことです。有限グラフについての上の証明は、構成の核心をすべて含んでいます。

階数2の部分群はあり得るか

$F_2$ の有限指数部分群で階数2のものは $F_2$ 自身だけであることを示せ。

解答

指数を $d$ とするとSchreierの指数公式から
$$ \operatorname{rank}H=1+d(2-1)=1+d. $$
これが2なら $d=1$。指数1の部分群は全体だけなので $H=F_2$ です。□

指数3部分群

$F_3$ の指数3の部分群の階数を求めよ。また、そのような部分群が実際に存在することを示せ。

解答

指数公式から
$$ 1+3(3-1)=7 $$
です。存在については、自由基底の一つを $C_3$ の生成元へ送り、残る二つを単位元へ送る全射 $F_3\to C_3$ を取ります。その核は第一同型定理により指数3なので、階数7の部分群です。□

可換群との違い

$\mathbb Z^2$ の有限指数部分群は常に階数2の自由可換群である一方、$F_2$ の指数 $d$ 部分群は階数 $d+1$ の自由群になる。この差を、Schreierグラフの木の外の辺の個数から説明せよ。

解答

$F_2$ のSchreierグラフは頂点 $d$、辺 $2d$ をもち、全域木の $d-1$ 辺を除くと
$$ 2d-(d-1)=d+1 $$
本の独立な閉路が残ります。自由群ではこれらの閉路間に可換関係がないため、すべてが自由生成元になります。
$\mathbb Z^2$ では最初から二方向が可換する関係をもち、有限指数格子も平面内の二本の独立な格子ベクトルで生成されます。同じ「被覆」の図でも、可換関係の有無が階数の挙動を変えます。□

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004

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