7-1 自由群と群の表示

$$$$

生成元だけを指定し、それらの間に必要な群公理以外の関係を一切課さない群が自由群です。自由群から商を取れば、生成元と関係式という有限データで多くの群を記述できます。

語と簡約

集合 $S$ の各文字 $s$ に形式的逆文字 $s^{-1}$ を用意します。有限列
$$ s_1^{\varepsilon_1}s_2^{\varepsilon_2}\cdots s_k^{\varepsilon_k}, \qquad \varepsilon_i\in\{1,-1\} $$
を語といいます。隣り合う $ss^{-1}$ または $s^{-1}s$ を削除する操作を簡約といいます。これ以上削除できない語が簡約語です。長さ0の空語を $1$ と書きます。

簡約語の一意性

任意の語は簡約操作によりただ一つの簡約語へ到達する。

左から文字を一つずつ読み、stackを作る。次の文字がstack末尾の逆文字なら末尾を削除し、そうでなければ追加する。この手続きの結果は簡約語である。
任意の一回の隣接相殺を先に行ってもstackの最終結果は変わらない。実際、相殺される二文字は連続して読まれ、第一文字が追加された直後に第二文字がそれを削除するか、第一文字が直前文字を削除した場合には第二文字の処理が、二文字を初めから除いた場合と同じ状態から始まる。従ってどの順序で相殺してもstack法と同じ結果になる。
簡約操作は長さを2ずつ減らすので必ず停止し、停止結果はstack法の結果に一致する。よって一意。□

自由群の構成

自由群

$S$ 上の簡約語全体に、二語を連結してから一意に簡約する積を入れた群を $S$ 上の自由群といい $F(S)$ と書く。

群公理を確認します。空語は単位元。語
$$w=s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$$
の逆語は
$$ w^{-1}=s_k^{-\varepsilon_k}\cdots s_1^{-\varepsilon_1}, $$
連結すると中央からすべて相殺します。結合律は、三語をどの順で先に簡約しても、最終的には全連結語の一意な簡約形になることから従います。

自由群の普遍性

任意の群 $G$ と写像 $f:S\to G$ に対し、$f$ を延長する準同型
$$ \widetilde f:F(S)\to G $$
がただ一つ存在する。

簡約語 $w=s_1^{\varepsilon_1}\cdots s_k^{\varepsilon_k}$ に対し
$$ \widetilde f(w) =f(s_1)^{\varepsilon_1}\cdots f(s_k)^{\varepsilon_k} $$
と定める。隣接する逆文字の像は $f(s)f(s)^{-1}=e$ なので、簡約前の語で計算しても同じ値。従って積を保つ。各一文字 $s$ では $\widetilde f(s)=f(s)$。
$F(S)$ は一文字 $s\in S$ で生成されるため、$S$ 上で値が一致する準同型はすべての有限積上でも一致する。よって一意。□

この定理が「自由」の意味です。生成元の像を好きに決めるだけで、矛盾なく準同型が一意に延長されます。

生成元と関係式

正規閉包と群表示

$R\subset F(S)$ に対し、$R$ を含む最小の正規部分群を
$$ \langle\!\langle R\rangle\!\rangle $$
と書き、$R$ の正規閉包という。商群
$$ \langle S\mid R\rangle :=F(S)/\langle\!\langle R\rangle\!\rangle $$
を生成元 $S$、関係式 $R$ による群表示という。

正規閉包は
$$ g_1r_1^{\pm1}g_1^{-1}\cdots g_kr_k^{\pm1}g_k^{-1} $$
という有限積全体です。この集合が正規部分群で $R$ を含み、$R$ を含む任意の正規部分群がこれらをすべて含むためです。

表示の普遍性

写像 $f:S\to G$ が各関係語 $r\in R$ を $e_G$ へ送るなら、一意な準同型
$$ \langle S\mid R\rangle\to G $$
へ延長される。

自由群の普遍性から $f$ は $\widetilde f:F(S)\to G$ へ延長される。$R\subset\ker\widetilde f$ で、核は正規部分群だから
$$ \langle\!\langle R\rangle\!\rangle \subset\ker\widetilde f. $$
従って第一同型定理の商写像の議論により、$\widetilde f$ は商上の準同型へ降りる。一意性は商の各元が生成元の語で表されることから従う。□

例

$$ C_n\cong\langle r\mid r^n=1\rangle, $$
$$ D_n\cong \langle r,s\mid r^n=s^2=1,\ srs=r^{-1}\rangle. $$
後者では関係式を使って任意の語を $r^i$ または $r^is$ へ変形できるため元は高々 $2n$ 個。一方、正 $n$ 角形の実際の回転・反転が同じ関係を満たし $2n$ 個の相異なる対称性を与えるため、この表示群は $D_n$ と同型です。

可換化された自由群

$$ \langle x,y\mid xyx^{-1}y^{-1}=1\rangle \cong\mathbb Z^2 $$
を示せ。

解答

関係式は $xy=yx$ と同値なので、任意の語は $x^my^n$ の形へ変形できる。写像
$$ \mathbb Z^2\to\langle x,y\mid[x,y]=1\rangle, \qquad(m,n)\mapsto x^my^n $$
は全射準同型。逆に $x\mapsto(1,0),y\mapsto(0,1)$ は関係式を満たすので表示の普遍性から逆向き準同型を与える。合成は生成元上で恒等だから互いに逆。□

無限二面体群

$$ \langle a,b\mid a^2=b^2=1\rangle $$
で $r=ab,s=a$ と置き、$srs=r^{-1}$ を示せ。また全元が $r^n$ または $r^ns$ と書けることを示せ。

解答

$$ srs=a(ab)a=(aa)ba=ba=(ab)^{-1}=r^{-1}. $$
$a^2,b^2$ を消去した簡約語では $a,b$ が交互に並ぶ。偶数長なら $(ab)^n$ または $(ba)^n=r^{-n}$、奇数長ならそれらに $a=s$ を掛けた形へ書ける。従って全元は $r^n$ または $r^ns$。これは $\mathbb Z\rtimes C_2$ である。□

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する

前ページへ
群論 ― 準同型・群作用・Sylow の定理と有限群の分類の表紙
次ページへ