1-1 対称性から群へ

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正三角形を動かし、頂点の集合を元の位置へ戻す操作を考えます。何もしない、$120^\circ$ 回す、裏返す。操作を続けて二回行っても、やはり同じ種類の操作になります。図形の見た目を捨てて「操作の合成」だけを残したものが群です。
この章では、演算を保つ写像を群について調べます。

正三角形の六つの対称性

頂点を $1,2,3$ と名付けます。反時計回りの $120^\circ$ 回転を $r$、頂点1を固定する反転を $s$ とすると
$$ r^3=e,\qquad s^2=e,\qquad sr=r^{-1}s $$
が成り立ちます。$e$ は何もしない操作です。六つの操作は
$$ e,\ r,\ r^2,\ s,\ rs,\ r^2s $$
で尽くされます。積 $xy$ は「先に $y$、次に $x$」と約束します。たとえば
$$ (rs)r=r(sr)=r(r^{-1}s)=s. $$
一般に $rs\ne sr$ で、操作の順序は重要です。

群の公理

群

集合 $G$ と二項演算 $(x,y)\mapsto xy$ が次を満たすとき、$G$ を群という。

  1. 結合律:任意の $x,y,z\in G$ に対し $(xy)z=x(yz)$。
  2. 単位元:ある $e\in G$ が存在し、任意の $x\in G$ に対し $ex=xe=x$。
  3. 逆元:任意の $x\in G$ に対し、ある $y\in G$ が存在して $xy=yx=e$。
    さらに $xy=yx$ が全 $x,y$ で成り立つ群を可換群またはAbel群という。

演算の結果が再び $G$ に入ることは二項演算という言葉に含まれます。結合律があるため、$xyz$ に括弧を付けなくても値は一意です。

基本例

  • 整数 $\mathbb Z$ は加法について群です。単位元は0、$n$ の逆元は $-n$。
  • $\mathbb Z/n\mathbb Z$ は加法について有限可換群です。
  • 0でない実数 $\mathbb R^\times$ は乗法について群です。
  • 可逆な $n\times n$ 実行列全体 $GL_n(\mathbb R)$ は行列積について群です。$n\ge2$ では一般に非可換です。
    自然数 $\mathbb N$ は加法逆元をもたないので群ではありません。実数全体も乗法について0の逆元がないため群ではありません。どの公理が破れるかを言うことが反例の本体です。

公理から一意性を導く

単位元と逆元の一意性

群の単位元は一意であり、各元の逆元も一意である。

$e,e'$ がともに単位元なら
$$e=ee'=e'.$$
最初の等号では $e'$ が右単位元、次では $e$ が左単位元であることを使った。
$y,z$ がともに $x$ の逆元なら
$$ y=ye=y(xz)=(yx)z=ez=z. $$
従って逆元は一意であり $x^{-1}$ と書ける。□

消去律

群 $G$ で $ax=ay$ なら $x=y$、$xa=ya$ なら $x=y$。

$ax=ay$ の両辺の左から $a^{-1}$ を掛けると
$$ a^{-1}(ax)=a^{-1}(ay). $$
結合律と逆元・単位元の性質から $x=y$。右消去も両辺の右から $a^{-1}$ を掛ければよい。□

積の逆元

任意の $x,y\in G$ に対し
$$ (xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}. $$

実際
$$ (xy)(y^{-1}x^{-1})=x(yy^{-1})x^{-1}=e, $$
$$ (y^{-1}x^{-1})(xy)=y^{-1}(x^{-1}x)y=e. $$
逆元の一意性から結論を得る。順序が逆転する点が重要。□

整数 $n$ に対して
$$ x^n= \begin{cases} \underbrace{x\cdots x}_{n\text{個}}&(n>0),\\ e&(n=0),\\ (x^{-1})^{-n}&(n<0) \end{cases} $$
と定めると、$x^mx^n=x^{m+n}$、$(x^m)^n=x^{mn}$ が成り立ちます。ただし非可換群では一般に $(xy)^n=x^ny^n$ ではありません。

正三角形の群 $D_3$

関係式 $r^3=s^2=e,sr=r^{-1}s$ を使えば全積を計算できます。行を左因子、列を右因子とすると

$\cdot$$e$$r$$r^2$$s$$rs$$r^2s$
$e$$e$$r$$r^2$$s$$rs$$r^2s$
$r$$r$$r^2$$e$$rs$$r^2s$$s$
$r^2$$r^2$$e$$r$$r^2s$$s$$rs$
$s$$s$$r^2s$$rs$$e$$r^2$$r$
$rs$$rs$$s$$r^2s$$r$$e$$r^2$
$r^2s$$r^2s$$rs$$s$$r^2$$r$$e$

$sr=r^2s$ なのに $rs$ は別の元なので非可換です。抽象公理は、図形、整数、行列に同じ推論を一度で適用する共通言語です。

方程式を群で解く

群 $G$ で $axb=c$ を満たす $x$ を $a,b,c$ で表し、解が一意であることを示せ。

解答

両辺の左から $a^{-1}$、右から $b^{-1}$ を掛けると
$$x=a^{-1}cb^{-1}.$$
実際
$$ a(a^{-1}cb^{-1})b=(aa^{-1})c(b^{-1}b)=c. $$
別の解も同じ操作でこの形になるので一意。□

逆元と可換性

写像 $\iota(x)=x^{-1}$ について、$\iota(xy)=\iota(x)\iota(y)$ が全 $x,y$ で成り立つことと $G$ が可換であることが同値だと示せ。

解答

可換なら
$$ \iota(xy)=y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1} =\iota(x)\iota(y). $$
逆に仮定から $y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1}$。$x,y$ の代わりに $x^{-1},y^{-1}$ を入れれば $yx=xy$。□

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004

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