正三角形を動かし、頂点の集合を元の位置へ戻す操作を考えます。何もしない、$120^\circ$ 回す、裏返す。操作を続けて二回行っても、やはり同じ種類の操作になります。図形の見た目を捨てて「操作の合成」だけを残したものが群です。
この章では、演算を保つ写像を群について調べます。
頂点を $1,2,3$ と名付けます。反時計回りの $120^\circ$ 回転を $r$、頂点1を固定する反転を $s$ とすると
$$
r^3=e,\qquad s^2=e,\qquad sr=r^{-1}s
$$
が成り立ちます。$e$ は何もしない操作です。六つの操作は
$$
e,\ r,\ r^2,\ s,\ rs,\ r^2s
$$
で尽くされます。積 $xy$ は「先に $y$、次に $x$」と約束します。たとえば
$$
(rs)r=r(sr)=r(r^{-1}s)=s.
$$
一般に $rs\ne sr$ で、操作の順序は重要です。
演算の結果が再び $G$ に入ることは二項演算という言葉に含まれます。結合律があるため、$xyz$ に括弧を付けなくても値は一意です。
群の単位元は一意であり、各元の逆元も一意である。
$e,e'$ がともに単位元なら
$$e=ee'=e'.$$
最初の等号では $e'$ が右単位元、次では $e$ が左単位元であることを使った。
$y,z$ がともに $x$ の逆元なら
$$
y=ye=y(xz)=(yx)z=ez=z.
$$
従って逆元は一意であり $x^{-1}$ と書ける。□
群 $G$ で $ax=ay$ なら $x=y$、$xa=ya$ なら $x=y$。
$ax=ay$ の両辺の左から $a^{-1}$ を掛けると
$$
a^{-1}(ax)=a^{-1}(ay).
$$
結合律と逆元・単位元の性質から $x=y$。右消去も両辺の右から $a^{-1}$ を掛ければよい。□
任意の $x,y\in G$ に対し
$$
(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}.
$$
実際
$$
(xy)(y^{-1}x^{-1})=x(yy^{-1})x^{-1}=e,
$$
$$
(y^{-1}x^{-1})(xy)=y^{-1}(x^{-1}x)y=e.
$$
逆元の一意性から結論を得る。順序が逆転する点が重要。□
整数 $n$ に対して
$$
x^n=
\begin{cases}
\underbrace{x\cdots x}_{n\text{個}}&(n>0),\\
e&(n=0),\\
(x^{-1})^{-n}&(n<0)
\end{cases}
$$
と定めると、$x^mx^n=x^{m+n}$、$(x^m)^n=x^{mn}$ が成り立ちます。ただし非可換群では一般に $(xy)^n=x^ny^n$ ではありません。
関係式 $r^3=s^2=e,sr=r^{-1}s$ を使えば全積を計算できます。行を左因子、列を右因子とすると
| $\cdot$ | $e$ | $r$ | $r^2$ | $s$ | $rs$ | $r^2s$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $e$ | $e$ | $r$ | $r^2$ | $s$ | $rs$ | $r^2s$ |
| $r$ | $r$ | $r^2$ | $e$ | $rs$ | $r^2s$ | $s$ |
| $r^2$ | $r^2$ | $e$ | $r$ | $r^2s$ | $s$ | $rs$ |
| $s$ | $s$ | $r^2s$ | $rs$ | $e$ | $r^2$ | $r$ |
| $rs$ | $rs$ | $s$ | $r^2s$ | $r$ | $e$ | $r^2$ |
| $r^2s$ | $r^2s$ | $rs$ | $s$ | $r^2$ | $r$ | $e$ |
$sr=r^2s$ なのに $rs$ は別の元なので非可換です。抽象公理は、図形、整数、行列に同じ推論を一度で適用する共通言語です。
群 $G$ で $axb=c$ を満たす $x$ を $a,b,c$ で表し、解が一意であることを示せ。
両辺の左から $a^{-1}$、右から $b^{-1}$ を掛けると
$$x=a^{-1}cb^{-1}.$$
実際
$$
a(a^{-1}cb^{-1})b=(aa^{-1})c(b^{-1}b)=c.
$$
別の解も同じ操作でこの形になるので一意。□
写像 $\iota(x)=x^{-1}$ について、$\iota(xy)=\iota(x)\iota(y)$ が全 $x,y$ で成り立つことと $G$ が可換であることが同値だと示せ。
可換なら
$$
\iota(xy)=y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1}
=\iota(x)\iota(y).
$$
逆に仮定から $y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1}$。$x,y$ の代わりに $x^{-1},y^{-1}$ を入れれば $yx=xy$。□
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