7-1 不分岐コホモロジー

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

要約:Brauer 群を高次へ一般化する双有理不変量として、固有で滑らかなコンパクト化 $X\supset U$ から来る類だけを残した群 $H^i_{\mathrm{nr}}(U,G)=\operatorname{Im}(H^i(X,F)\to H^i(U,G))$ を導入し、それがコンパクト化によらないことを示す。鍵は、固有双有理射で像が変わらないという比較定理で、「固有」を落とすと成り立たない。関数体の不変量 $H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)$ は、基礎体が分離閉なら有限で、超越次数を超える次数で消えるが、基礎体が $\mathbb Q$ ならどちらも成り立たない。低い次数では $H^1_{\mathrm{nr}}$$H^1(X)$$H^2_{\mathrm{nr}}(K,\mu_{\ell^\infty})$$\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ を与える。原論文 III の §9.1〜§9.6 に当たる。

前提知識: 不分岐コホモロジー, Brauer群の双有理不変性, ℓ進コホモロジー, Tate捻り, Kummer完全列, 局所コホモロジー

この頁で示すこと

$k$ を体、$p$ をその標数とする。

  1. 比較定理(III (9.2) に「固有」を補った形):$X$$k$ 上滑らか、$f\colon X'\to X$固有双有理射で、開集合 $U\subset X$ の上で同型なら、局所定数な捩れ層 $F$(位数は $p$ と素)について
    $$ \operatorname{Im}\bigl(H^i(X,F)\to H^i(U,F)\bigr)=\operatorname{Im}\bigl(H^i(X',f^*F)\to H^i(U,F)\bigr). $$
    「固有」を外すと偽である($\mathbb P^1\supset\mathbb G_m$ による反例)。
  2. 不変量の定義(III (9.6)(9.7)):$U$ の固有で滑らかなコンパクト化 $X$$G$ が延びるとき、$H^i_{\mathrm{nr}}(U,G)$$X$ の選び方によらず、関数体の不変量 $H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)$ が定まる。
  3. 有限性と消滅(III §9.4、(9.8)。$k$ が分離閉という仮定を補った形):$H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)$ は有限で、$i>\operatorname{trdeg}_kK$ なら 0。$k=\mathbb Q$ ではどちらも偽である。
  4. 低い次数の計算(III (9.10)〜(9.16)):$H^1_{\mathrm{nr}}(K,F)=H^1(X,F)$$k$ が代数閉なら $H^1_{\mathrm{nr}}(K,\mu_{\ell^\infty})\cong\mathrm{Pic}(X)(\ell)$$H^2_{\mathrm{nr}}(K,\mu_{\ell^\infty})\cong\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ であり、$\mathbb Z_\ell(1)$ 係数の $H^2_{\mathrm{nr}}$$T_\ell\mathrm{Br}'(X)$(階数 $B_2-\rho$)である。
    1 は双対性の形式、2 は Zariski–Nagata の純性、3 は SGA 4 の有限性とアフィン消滅、4 はコホモロジー的純性を引用として使う。

背景と動機

第5章で、$\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ が固有正則スキームの双有理不変量であることを見た。原論文 §9.1 は、これを高次へ延ばす方向を探す。まず、$H^i(X,\mathbb G_m)$$i\ge3$ の項は、講演 II により本質的に $H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ と変わらず、そのままでは新しい双有理不変量にならない、と指摘する。
そこで原論文は、Hodge 理論の「第二種微分」が与える双有理不変量の $\ell$ 進版を求めるという方向を示す。複素数体上なら整係数の超越的コホモロジーが両者をつなぎ、一般の体の上では、両者は同じ「motif」の $\ell$ 進実現と de Rham 実現であるはずだ、と原論文は書く。ただし motif の理論は当時まだ予想の段階にあると明記し、示唆にとどめている。本頁も motif には立ち入らない。
原論文が実際に構成するのは、「境界で分岐しない類」だけを残した群である。境界まで延びる類は、コンパクト化の取り方によらない。これを保証するのが比較定理であり、原論文自身、§9 の展開はこの定理に本質的に依存すると述べている。

定義と準備

標準設定. $U$$k$ 上有限型で滑らかな連結スキーム、$G$$U$ 上の局所定数な捩れ層で、茎が有限かつ位数が $p$ と素なものとする。
良いコンパクト化. $(U,G)$良いコンパクト化とは、$k$ 上固有かつ滑らかな $X$ と稠密開埋入 $U\hookrightarrow X$ で、$G$$X$ 上の局所定数層 $F$ の制限になっているものをいう。$X$ の存在は、$p=0$ なら Hironaka の特異点解消により、$k$ が完全で $\dim U\le2$ なら Abhyankar により保証される。$G$$X$ まで延びることは仮定である。

不分岐な類の群

良いコンパクト化 $(X,F)$ に対し
$$ H^i_{\mathrm{nr}}(U,G)=\operatorname{Im}\bigl(H^i(X,F)\to H^i(U,G)\bigr) $$
と置く。$U$ の関数体を $K$ とし、$V$$U$ の空でない開集合を走るとき
$$ H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)=\varinjlim_VH^i_{\mathrm{nr}}(V,G|_V) $$
と置く(III (9.6)(9.7))。$G$ が定数層のときは、$G$ は任意のコンパクト化に延びる。

これが意味をもつには、右辺が $X$ によらないこと(下の系)と、$G$ が延びるという条件が $X$ によらないこと(下の定理)が要る。原論文は小さな山形の添字で $H^i_\wedge$ と書くが、台つきコホモロジー $H^i_Y$ や点の局所コホモロジーと紛れるので、本書では $H^i_{\mathrm{nr}}$ と書く。
現代の文献では、不分岐コホモロジーを関数体 $K$ の Galois コホモロジーのうち、すべての離散付値で剰余が消える類として定義することが多い(不分岐コホモロジー)。本頁の定義はコンパクト化を使う原論文の形であり、二つの定義の比較には本頁では立ち入らない。
$\ell$ 進係数. $\mu_{\ell^\infty}$ などの帰納極限の層、$\mathbb Z_\ell(j)$ などの射影系についても、$H^i(X,-)$ を記号表のとおり(前者は層のコホモロジー、後者は有限段の射影極限として)とって、同じ式で $H^i_{\mathrm{nr}}$ を定める(III §9.5)。

主結果と証明

固有双有理射による比較

固有双有理射で像は変わらない

$X$$k$ 上滑らかなスキーム、$f\colon X'\to X$ を固有な双有理射、$U\subset X$ を開集合で $f^{-1}(U)\to U$ が同型なもの、$F$$X$ 上の局所定数な捩れ層(茎は有限、位数は $p$ と素)とし、$F'=f^*F$ と置く。このとき、すべての $i$ について
$$ \operatorname{Im}\bigl(H^i(X,F)\to H^i(U,F)\bigr)=\operatorname{Im}\bigl(H^i(X',F')\to H^i(U,F)\bigr) $$
である。

証明には次を引用する(原論文は SGA 4 XVIII と SGA 5 I を引く)。

  • (T) 固有射 $f$ について $Rf_*$ は右随伴 $Rf^!$ をもち、$X$$k$ 上滑らかで $F$ が上の型のとき、$Rf^!F$ のコホモロジー層は負の次数で 0、次数 0 で $h_*(F'|_{V'})$ に等しい。ここで $V'$$X'$ の滑らかな点の開集合、$h\colon V'\hookrightarrow X'$ である。
証明

(a) 台つきコホモロジーへの帰着. $Y=X\smallsetminus U$$Y'=f^{-1}(Y)$ と置く。台つきの長完全列
$$ H^i(X,F)\to H^i(U,F)\xrightarrow{\partial}H^{i+1}_Y(X,F),\qquad H^i(X',F')\to H^i(U,F)\xrightarrow{\partial'}H^{i+1}_{Y'}(X',F') $$
により、二つの像はそれぞれ $\operatorname{Ker}\partial$$\operatorname{Ker}\partial'$ である。引き戻しとの可換性から $\operatorname{Ker}\partial\subset\operatorname{Ker}\partial'$ は自動的に成り立つ。逆向きは、引き戻し $H^{j}_Y(X,F)\to H^{j}_{Y'}(X',F')$ が単射であれば従う。
(b) 跡写像の構成. (T) により $\tau_{\le0}Rf^!F$$h_*(F'|_{V'})$ に等しいので、随伴の単位 $F'\to h_*h^*F'$ と標準射 $\tau_{\le0}Rf^!F\to Rf^!F$ を合成して $F'\to Rf^!F$ を得る。随伴によりこれは射 $\operatorname{tr}\colon Rf_*F'\to F$ を与える。
(c) 合成は恒等. 随伴の単位 $F\to Rf_*f^*F=Rf_*F'$$\operatorname{tr}$ の合成 $F\to F$ を考える。$f$ が同型になる $X$ の稠密開集合 $W$ の上では、この合成は恒等である。$F$ は局所定数なので $\mathcal End(F)$ も局所定数であり、$X$ は正規なので、局所定数層の切断は稠密開集合の上で決まる。よって合成は $X$ 上で恒等である。
(d) 台への移行. 関手 $R\Gamma_Y$ を施す。$f$ は固有で $f^{-1}(Y)=Y'$ なので $R\Gamma_Y(Rf_*F')\cong R\Gamma_{Y'}(F')$ である。したがって $R\Gamma_Y(F)\to R\Gamma_{Y'}(F')\to R\Gamma_Y(F)$ の合成は (c) により恒等であり、コホモロジーをとると引き戻し $H^j_Y(X,F)\to H^j_{Y'}(X',F')$ は左逆をもつので単射である。(a) により主張を得る。

仮定の役割. (b) は $X$ の滑らかさと $f$ の固有性($Rf_*$ が (T) の形の右随伴をもつこと)を使う。原論文の印字の言明には「固有」の語が無いが、次の反例のとおり、それでは成り立たない。

反例:固有でない双有理射

$k$ を代数閉体、$n$$k$ で可逆な整数とし、$X=\mathbb P^1_k$$X'=U=\mathbb G_{m,k}$$f\colon X'\to X$ を開埋入、$F=\mathbb Z/n$ とする。

  • 満たす条件$X$ は滑らか、$f$ は双有理な射で $f^{-1}(U)\to U$ は恒等、$F$ は局所定数な捩れ層で位数は $p$ と素。
  • 破る条件$f$ は固有でない。
  • 破る結論$i=1$ で左辺の像は 0、右辺の像は $\mathbb Z/n\ne0$
計算

$k$ は代数閉なので $\mu_n\cong\mathbb Z/n$ である。Kummer 列の低次の部分 $0\to\Gamma(S,\mathcal O_S)^\times/n\to H^1(S,\mu_n)\to{}_n\mathrm{Pic}(S)\to0$ を使う。$S=\mathbb P^1_k$ では $\Gamma^\times=k^\times$ は可除、$\mathrm{Pic}=\mathbb Z$ は捩れをもたないので $H^1(\mathbb P^1_k,\mu_n)=0$$S=\mathbb G_{m,k}$ では $\Gamma^\times=k^\times\times t^{\mathbb Z}$$\mathrm{Pic}=0$$k[t,t^{-1}]$ は単項イデアル整域)なので $H^1(\mathbb G_{m,k},\mu_n)\cong\mathbb Z/n$$X'=U$ なので右辺の写像は恒等であり、像は $\mathbb Z/n$ である。

反例は比較定理の応用を壊さない。以下で比較定理を当てるのは、固有なスキームの間の射に対してだけであり、それらは自動的に固有だからである。

二つのコンパクト化の比較

二つを支配する正規コンパクト化

$U$$k$ 上有限型で正規かつ既約なスキーム、$X_1,X_2$$U$$k$ 上固有なコンパクト化とする。このとき $U$ の正規で $k$ 上固有なコンパクト化 $X_3$ と、$U$ 上で恒等な固有射 $q_j\colon X_3\to X_j$$j=1,2$)で、$q_j^{-1}(U)=U$ となるものがある。

証明

$U\to X_1\times_kX_2$ ははめ込みである($U\to X_2$ のグラフは $U\times_kX_2$ の閉部分で、$U\times_kX_2$$X_1\times_kX_2$ の開部分)。その像のスキーム論的閉包を $Z$ とすると $Z$$k$ 上固有で、$U$$Z$ の稠密開集合である。$X_3$$Z$ の正規化とする。体上有限型な整スキームの正規化は有限なので、$X_3$$k$ 上固有で、$U$ は正規だから $X_3$ の開集合として残る。さらに $Z\cap(U\times_kX_2)$ はグラフの閉包で、グラフは既に閉なので $U$ に等しい。よって $Z$ における $X_1$ 側の $U$ の逆像は $U$ であり、正規化しても変わらない。$X_2$ 側も同様である。$q_j$$k$ 上固有なスキームの間の射なので固有である。

層が延びるという条件はコンパクト化によらない

$U,G$ を標準設定のとおりとし、$X_1,X_2$$U$$k$ 上固有で滑らかなコンパクト化とする。$G$$X_1$ 上の局所定数層に延びるなら、$X_2$ 上の局所定数層にも延び、その延長は一意である。

証明には次を引用する。

  • (ZN) Zariski–Nagata の純性(原論文は SGA 2 X を引く):$X$ が正則、$U\subset X$ が稠密開集合のとき、$U$ の有限エタール被覆が $X\smallsetminus U$ の余次元 1 の各点で不分岐なら、$X$ の有限エタール被覆に延びる。
  • 連結スキーム上の茎が有限な局所定数層は、基本群 $\pi_1$ の有限加群と同じものである。また $X$ が正規なら $\pi_1(U)\to\pi_1(X)$ は全射である。
証明

上げる. 補題の $X_3$ をとる。$G$ に対応する $\pi_1(U)$ の作用は $\pi_1(X_1)$ を経由し、$\pi_1(U)\to\pi_1(X_1)$$\pi_1(X_3)$ を経由するので、作用は $\pi_1(X_3)$ も経由する。よって $G$$X_3$ 上に延びる(その延長は $X_1$ 上の延長の引き戻しである)。
降ろす. $y$$X_2\smallsetminus U$ の余次元 1 の点とする。$X_2$ は正則なので $\mathcal O_{X_2,y}$ は離散付値環で、分数体は $K$ である。$q_2$ は固有なので、付値判定法により $\operatorname{Spec}\mathcal O_{X_2,y}\to X_2$$X_3$ へ持ち上がる。$X_3$ 上の延長に対応する有限エタール被覆をこの持ち上げに沿って引き戻すと、$\operatorname{Spec}\mathcal O_{X_2,y}$ 上の有限エタール被覆が得られ、生成点では $G$ に対応する被覆に一致する。すなわち $G$$y$ で不分岐である。(ZN) により $G$$X_2$ 上へ延びる。
一意性. $\pi_1(U)\to\pi_1(X_2)$ が全射なので、$\pi_1(X_2)$ の作用は $\pi_1(U)$ の作用で決まる。

上げるのは引き戻しだけで済むが、降ろすには純性が要る。この非対称が要点であり、原論文は「よく知られた議論」とだけ述べて論証を書いていない。

不変量の定義の正当化
  1. $H^i_{\mathrm{nr}}(U,G)$ は良いコンパクト化の選び方によらない。
  2. 空でない開集合 $V\subset U$ について、制限 $H^i_{\mathrm{nr}}(U,G)\to H^i_{\mathrm{nr}}(V,G|_V)$ は全射である。
  3. したがって $H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)$ が定まり、$K$$k$ 上の双有理不変量である($G$ を固定して)。
証明
  1. 良いコンパクト化 $(X_1,F_1)$$(X_2,F_2)$ に補題の $X_3$ をとる。定理の証明により $q_1^*F_1$$q_2^*F_2$ はともに $G$$X_3$ 上の延長で、一意性から一致する。比較定理を $q_1$$q_2$(固有、双有理、標的は滑らか、$q_j^{-1}(U)=U$)に当てると、$X_1$ からの像と $X_2$ からの像はどちらも $X_3$ からの像に等しい。
  2. $U$ の良いコンパクト化 $X$$V$ の良いコンパクト化でもあるので、$H^i_{\mathrm{nr}}(V)$$H^i(X,F)\to H^i(U,G)\to H^i(V,G)$ の像であり、1 により $X$ で計算してよい。
  3. 1・2 と定義による。$K$ だけから決まることは、同じ関数体をもつ二つの $U$ が共通の開集合をもつことによる。

原論文は、$H^i_{\mathrm{nr}}$$(U,G)$ について一般に反変関手であると「明らかに」と述べる。本頁で証明したのは開集合への制限の場合だけであり、以下でもその場合しか使わない。

有限性と高い次数での消滅

次の二つを引用する(原論文は SGA 4 XIV を引く)。

  • (F) 分離閉体上固有なスキーム $X$ と構成可能な捩れ層 $F$ について、$H^i(X,F)$ は有限である。
  • (A) 分離閉体上有限型なアフィンスキーム $V$ と構成可能な捩れ層について、$i>\dim V$ なら $H^i(V,-)=0$(Artin のアフィン消滅定理)。
分離閉体上の有限性と消滅

$k$分離閉体とし、$(U,G)$ が良いコンパクト化をもつとする。このとき

  1. $H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)$ は有限である。
  2. $i>\operatorname{trdeg}_kK$ なら $H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)=0$ である(III (9.8))。
証明
  1. $H^i_{\mathrm{nr}}(V,G)$ は有限群 $H^i(X,F)$((F))の商である。系の 2 により帰納系の遷移はすべて全射なので、位数が増えない有限群の全射の系であり、位数が最小になる $V$ から先では遷移は同型になる。極限はその値に等しく、有限である。
  2. $U$ の空でないアフィン開集合 $V$ は、空でない開集合の中で共終である。$\dim V=\operatorname{trdeg}_kK< i$ なので (A) により $H^i(V,G)=0$、その部分群 $H^i_{\mathrm{nr}}(V,G)$ も 0 である。極限はアフィンな $V$ だけでとってよいので 0 である。

原論文の印字では、この二つの主張に $k$ についての仮定が付いていない。引用している (F)(A) はどちらも分離閉体上の定理であり、一般の体の上では絶対 Galois 群のコホモロジーが加わるので、仮定は外せない。

反例:有理数体の上

$k=\mathbb Q$$U=X=\operatorname{Spec}\mathbb Q$$G=\mathbb Z/2$ とする。

  • 満たす条件$X$$k$ 上固有で滑らか、$G$ は定数層で位数 2 は標数 0 と素、$\operatorname{trdeg}_kK=0$
  • 破る条件$k$ は分離閉でない。
  • 破る結論$H^1_{\mathrm{nr}}(K,G)\cong\mathbb Q^\times/(\mathbb Q^\times)^2$ は無限群であり、$1>0$ なのに 0 でない。したがって有限性も消滅も成り立たない。
計算

$\operatorname{Spec}\mathbb Q$ の空でない開集合はそれ自身だけなので、$H^1_{\mathrm{nr}}(K,G)=H^1(\operatorname{Spec}\mathbb Q,\mathbb Z/2)$ である。$\mu_2=\{\pm1\}\subset\mathbb Q$ なので $\mathbb Z/2\cong\mu_2$ であり、Kummer 列と $\mathrm{Pic}(\operatorname{Spec}\mathbb Q)=0$ から $H^1(\operatorname{Spec}\mathbb Q,\mu_2)\cong\mathbb Q^\times/(\mathbb Q^\times)^2$。相異なる素数の積は、一意分解により互いに平方の差で異なるので、この群は無限である。

$k=\mathbb R$$G=\mathbb Z/2$ でも $H^i_{\mathrm{nr}}(\mathbb R,\mathbb Z/2)=H^i(\mathbb R,\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$(すべての $i\ge0$)なので消滅は破れるが、この場合は有限性は破れない。$\mathbb Q$ の例は二つを同時に破る。この例は、次の頁の「$i>\dim X$ なら $N^1H^i=H^i$」という主張に $k$ の仮定が要ることも示す。

低い次数での計算

1次ではコンパクト化のコホモロジーそのもの

$X$$k$ 上固有で滑らかな連結スキーム、$U\subset X$ を空でない開集合、$F$$X$ 上の局所定数な捩れ層(茎は有限)とする。

  1. $H^1(X,F)\to H^1(U,F)$ は単射である。
  2. したがって $H^1_{\mathrm{nr}}(K,F)\cong H^1(X,F)$ である(III (9.10))。
証明
  1. $X$ は正規で連結なので既約で、$U$ は稠密であり、$\pi_1(U)\to\pi_1(X)$ は全射である。$M=F_{\bar\xi}$ と置くと、$H^1(X,F)=H^1(\pi_1(X),M)$$H^1(U,F)=H^1(\pi_1(U),M)$(連続コホモロジー)で、制限は引き戻しである。$c$$\pi_1(X)$ 上の 1 余輪体とし、その引き戻しが余境界、すなわちある $m\in M$$c(\pi(g'))=g'm-m$$g'\in\pi_1(U)$)とする。$g\in\pi_1(X)$ に対して $\pi(g')=g$ となる $g'$ をとれば、作用は $\pi$ を経由するので $c(g)=gm-m$ となり、$c$ は余境界である。
  2. 1 により帰納系の各項は $H^1(X,F)$ と同型で、遷移はこの同一視のもとで恒等である。

以下、$k$代数閉体$X$$k$ 上固有で滑らかな連結スキーム、$K$ をその関数体とする。

1次とPicard群

$H^1_{\mathrm{nr}}(K,\mu_{\ell^\infty})\cong\mathrm{Pic}(X)(\ell)$$H^1_{\mathrm{nr}}(K,\mathbb Z_\ell(1))\cong T_\ell\mathrm{Pic}(X)$ である(III (9.11)(9.12))。

証明

Kummer 列から $0\to\Gamma(X,\mathbb G_m)/\ell^\nu\to H^1(X,\mu_{\ell^\nu})\to{}_{\ell^\nu}\mathrm{Pic}(X)\to0$$X$ は固有・連結・被約なので $\Gamma(X,\mathbb G_m)=k^\times$ で、これは可除だから、$H^1(X,\mu_{\ell^\nu})\cong{}_{\ell^\nu}\mathrm{Pic}(X)$。遷移は両側で対応し(前章の頁の完全列の定理の証明 (b) と同じ計算)、帰納極限・射影極限をとれば $H^1(X,\mu_{\ell^\infty})\cong\mathrm{Pic}(X)(\ell)$$H^1(X,\mathbb Z_\ell(1))\cong T_\ell\mathrm{Pic}(X)$。前の命題の単射性は、有限段ごとに成り立つので、帰納極限(完全)でも射影極限(左完全)でも保たれる。よって $H^1_{\mathrm{nr}}$ はこれらの群に等しい。

原論文は続けて、これらが $\mathrm{NS}(X)$ の捩れから来る有限群を除いて Picard 多様体や Albanese 多様体で表せ、Albanese 多様体の双有理不変性は古典的に知られていると述べる。本頁ではこの明示には立ち入らない。
2 次の計算には次を引用する。

  • (P) コホモロジー的純性局所コホモロジー):$X$$k$ 上滑らか、$F$ が局所定数で位数が $p$ と素なとき、余次元 $c$ 以上の閉集合 $Z$ について $H^j_Z(X,F)=0$$j<2c$)。$Z$ が余次元 $c$ の滑らかな閉部分なら $H^{2c}_Z(X,F)\cong H^0(Z,F(-c))$ であり、$c=1$ のとき、この同型を通して $H^2_Z(X,\mu_n)\to H^2(X,\mu_n)$ は因子の類を与える写像になる(Kummer 列による因子の類と一致する)。
2次の不分岐な類と因子

$F$ を位数が $p$ と素な局所定数な捩れ層とする。(P) のもとで

  1. 空でない開集合 $U$ について、$x$$X\smallsetminus U$ の余次元 1 の点(有限個)を走るとき
    $$ 0\to H^1(X,F)\to H^1(U,F)\to\bigoplus_xH^0\bigl(\kappa(x),F(-1)\bigr)\to H^2(X,F)\to H^2(U,F) $$
    は完全である(III (9.13))。ここで $H^0(\kappa(x),-)$$x$ の閉包の稠密開集合上の切断の帰納極限を表す。
  2. $U$ を小さくする極限をとると、$H^2_{\mathrm{nr}}(K,F)\cong H^2(X,F)/(\text{因子の類の像})$ である(III (9.14))。ここで「因子の類」は $\bigoplus_{x\in X^{(1)}}H^0(\kappa(x),F(-1))$$H^2(X,F)$ への像である。
証明の筋
  1. $Y=X\smallsetminus U$ の台つき長完全列で、(P) の半純性により $H^0_Y=H^1_Y=0$$Y$ の余次元 2 以上の部分と、余次元 1 の成分の特異点・交点の和を $Y_2$ とすると $\operatorname{codim}Y_2\ge2$ なので、$H^j_{Y_2}=0$$j\le3$)から $H^2_Y(X,F)\cong H^2_{Y\smallsetminus Y_2}(X\smallsetminus Y_2,F)$。右辺は滑らかな余次元 1 の閉部分に台をもつので、(P) により成分ごとの $H^0(-,F(-1))$ の直和であり、成分を小さくしても変わらない(局所定数層の切断は稠密開集合上で決まる)。
  2. $H^2_{\mathrm{nr}}(K,F)$$H^2(X,F)$$\bigcup_U\operatorname{Ker}(H^2(X,F)\to H^2(U,F))$ で割ったものであり(帰納極限は完全)、1 によりその核は $X\smallsetminus U$ に台をもつ因子の類の像である。$U$ を小さくすれば、すべての余次元 1 の点が現れる。

原論文は (9.13) を「相対コホモロジーの完全列から」とだけ書き、純性を引かないが、左端の 0 も中央の項の同定も純性なしには出ない。

2次の不分岐コホモロジーとBrauer群

$k$ は代数閉、$\ell\ne p$ とする。(P) と本書 6-1 の頁の定理の引用のもとで

  1. $H^2_{\mathrm{nr}}(K,\mu_{\ell^\infty})\cong\mathrm{Br}'(X)(\ell)$(III (9.15))。
  2. $H^2_{\mathrm{nr}}(K,\mathbb Z_\ell(1))\cong H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))/\bigl(\mathrm{NS}(X)\otimes\mathbb Z_\ell\bigr)\cong T_\ell\mathrm{Br}'(X)$ であり、これは階数 $B_2-\rho$ の自由 $\mathbb Z_\ell$ 加群である(III (9.16))。
証明
  1. $F=\mu_{\ell^\infty}$ なら $F(-1)=\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ で、因子の類の像は $\mathrm{Div}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ の像である。$X$ は正則な整スキームなので $\mathrm{Div}(X)\to\mathrm{Pic}(X)$ は全射であり、テンソル積の右完全性と (P) の最後の部分により、この像は $\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ の像に等しい。Kummer 列の帰納極限
    $$ 0\to\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell\to H^2(X,\mu_{\ell^\infty})\to\mathrm{Br}'(X)(\ell)\to0 $$
    により、商は $\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ である。
  2. 有限段 $F=\mu_{\ell^\nu}$ で前の命題の 1 を書き、固定した $U$ について各項が有限であること(代数閉体上のエタールコホモロジーの有限性。引用)を使って $\nu$ について射影極限をとると、$\operatorname{Ker}(H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))\to H^2(U,\mathbb Z_\ell(1)))$$X\smallsetminus U$ に台をもつ因子の類の $\mathbb Z_\ell$ 係数の像である。これらの核は $U$ について増大する $\mathbb Z_\ell$ 部分加群の族で、$H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))$ はネーター加群なので、合併はある段で止まり、すべての因子の類で張られる $\mathbb Z_\ell$ 部分加群に等しい。$\mathrm{Pic}^0(X)$ の類は可除なので、有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群の中では 0 に写り、この部分加群は $\mathrm{NS}(X)\otimes\mathbb Z_\ell$ の像である。本書 6-1 の頁の完全列の定理によりその写像は単射で、商は $T_\ell\mathrm{Br}'(X)$ である。階数は本書 6-1 の頁の系による。

1 は原論文が「約束どおり」と書く箇所で、§9 の不変量が Brauer 群の一般化であることをここで確かめている。原論文の (9.15) の印字は右辺に $\ell$ 準素成分の記号を付けていないが、左辺が $\ell$ 準素なので上のように読む。係数を $\mu_{\ell^\infty}$ にとるか $\mathbb Z_\ell(1)$ にとるかで、同じ構成が「Brauer 群そのもの」と「その Tate 加群(超越部分)」という別の答えを与える。後者は、$\ell$ 進コホモロジーの次数 2 から代数的な部分を除いたもので、原論文はこれを「超越部分」と呼ぶ。

例と反例

純超越的な関数体. $k$ を代数閉体、$K=k(t_1,\dots,t_n)$ とし、$X=\mathbb P^n_k$ をコンパクト化にとる。$G$ を位数が $p$ と素な定数層とすると、$H^i(\mathbb P^n_k,G)$$i$ が奇数なら 0、$i=2j$ なら余次元 $j$ の線形部分空間 $L$ の類で生成される(引用)。$L$ の類は $\mathbb P^n\smallsetminus L$ への制限で 0 になるので、$i\ge1$$H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)=0$ である。したがって、ある $i\ge1$$H^i_{\mathrm{nr}}(K,G)\ne0$ となる関数体 $K$ は、$k$ 上純超越的でない。これが不分岐コホモロジーを有理性の判定に使う基本的な仕組みである。
楕円曲線. $k$ を代数閉体、$E$ を楕円曲線、$K=k(E)$$n$$p$ と素な整数とすると、命題(1次)と Kummer 列により $H^1_{\mathrm{nr}}(K,\mathbb Z/n)=H^1(E,\mathbb Z/n)\cong{}_n\mathrm{Pic}(E)\cong(\mathbb Z/n)^2$ である($\mu_n\cong\mathbb Z/n$ と同一視)。0 でないので、$K$ は純超越的でない。
固有性を外した比較定理. 上の $\mathbb P^1\supset\mathbb G_m$ の反例。
分離閉性を外した有限性と消滅. 上の $\operatorname{Spec}\mathbb Q$ の反例。

その後の発展

以下は原論文より後の展開である(2026年9月の時点での記述)。

  • 有理性の問題. Artin と Mumford [AM72] は、2 次の不分岐な類(Brauer 群の捩れ)を使って、単有理だが有理でない複素 3 次元多様体を構成した。Saltman は同じ種類の不変量で、Noether の問題(有限群の不変体の有理性)に否定的な答えを与えた。Colliot-Thélène と Ojanguren [CTO89] は、関数体の剰余を使った不分岐コホモロジーの定義を整え、3 次の不分岐コホモロジーで同種の例を与えた。
  • Bloch–Ogus の理論. Bloch と Ogus [BO74] は Gersten 予想を証明し、不分岐コホモロジーを Zariski 層のコホモロジーとして扱う枠組みを与えた。原論文の定義と、剰余による定義との比較はこの枠組みで扱われる。
  • その後の広がり. 不分岐コホモロジーは、安定有理性の判定(退化の方法)などで現在も中心的な道具である。教科書的な整理として [CTS21] がある。

原論文との対応表

原論文内容本頁
III §9.1(pp. 152–153)動機:$H^i(\mathbb G_m)$ は新しくない、第二種微分、motif背景と動機
III §9.2、(9.1)〜(9.5)(pp. 153–155)双有理射による像の比較とその証明固有双有理射で像は変わらない、固有でない双有理射
III §9.3、(9.6)(pp. 155–156)コンパクト化、延長の条件、不変量の定義良いコンパクト化、補題、定理、系
III §9.4、(9.7)(9.8)(pp. 156–157)関数体の不変量、有限性、消滅分離閉体上の有限性と消滅、有理数体の上
III §9.5(pp. 158–159)ind 層と $\ell$ 進層への延長、Tate 捻り$\ell$ 進係数
III §9.6、(9.10)〜(9.16)(pp. 159–161)1 次と 2 次の計算低い次数での計算

原論文の §9.7・§9.8 と段落 (9.9) は次の頁で扱う。

参考文献

  • [Gro68] A. Grothendieck, Le groupe de Brauer I, II, III, in: Dix exposés sur la cohomologie des schémas, North-Holland / Masson, 1968(本頁は III の pp. 152–161)。
  • [SGA4] M. Artin, A. Grothendieck, J.-L. Verdier, Théorie des topos et cohomologie étale des schémas (SGA 4), Lecture Notes in Mathematics 269, 270, 305, Springer, 1972–1973.
  • [AM72] M. Artin, D. Mumford, Some elementary examples of unirational varieties which are not rational, Proceedings of the London Mathematical Society (3) 25 (1972).
  • [BO74] S. Bloch, A. Ogus, Gersten's conjecture and the homology of schemes, Annales scientifiques de l'École Normale Supérieure (4) 7 (1974).
  • [CTO89] J.-L. Colliot-Thélène, M. Ojanguren, Variétés unirationnelles non rationnelles : au-delà de l'exemple d'Artin et Mumford, Inventiones mathematicae 97 (1989).
  • [CTS21] J.-L. Colliot-Thélène, A. N. Skorobogatov, The Brauer–Grothendieck Group, Springer, 2021.

参考文献

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