$X$ をスキーム、$\ell$ を $X$ 上可逆な素数、$n$ を $X$ 上可逆な正整数とする。$H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ は §3 のとおり $\varinjlim_\nu H^i(X,\mu_{\ell^\nu})$ と定める。
2-1 で、$\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)_{\mathrm{tors}}$ を主な対象にすることにした。しかし $\mathbb G_m$ 係数のコホモロジーは直接には計算しにくい。一方、有限係数 $\mu_n$ のエタールコホモロジーは、固有・滑らかな場合に有限性や比較定理(複素数体上なら特異コホモロジーとの比較)が使え、よく分かっている。Kummer完全列 はこの二つを結ぶ橋である。
講演 II §3 の要点は、この橋によって Brauer 群の「大きさ」が位相的な不変量 $B_2$ と算術的な不変量 $\rho$ の差として測れることである。講演 I の序文は、大域 Brauer 群が $B_2-\rho$ 個の「超越的な 2 次コホモロジー類」と関係することを動機に挙げていた。講演者は $B_2$ を位相的、$\rho$ を本質的に算術的な不変量と対比し($\rho$ は滑らかな族の中で一定でない)、したがって $B_2-\rho$ も算術的な不変量になることを強調している。$\rho\le B_2$(Picard の不等式)は、この見方からは「余階数が負でない」という自明な事実になる。
本頁で引用として使う事実(証明しない).
Kummer 列の完全性.$n$ が可逆なら、エタール層の列
$$0\to\mu_n\to\mathbb G_m\xrightarrow{\ x\mapsto x^n\ }\mathbb G_m\to0$$
は完全である。左と中央の完全性は定義による。右端の全射性:切断 $u\in\Gamma(U,\mathcal O_U^\times)$ に対し $U'=\operatorname{Spec}_U\mathcal O_U[t]/(t^n-u)$ をとると、$t^n-u$ の微分 $nt^{n-1}$ は $U'$ 上可逆($n$ と $t$ が可逆)なので $U'\to U$ はエタール全射であり、$U'$ の上で $u$ は $n$ 乗になる。
短完全列.長完全列の一部
$$H^1(X,\mathbb G_m)\xrightarrow{n}H^1(X,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mu_n)\to H^2(X,\mathbb G_m)\xrightarrow{n}H^2(X,\mathbb G_m)$$
で $H^1(X,\mathbb G_m)=\mathrm{Pic}(X)$ だから、左の余核 $\mathrm{Pic}(X)/n$ と右の核 ${}_nH^2(X,\mathbb G_m)$ で短完全列ができる。${}_nH^2(X,\mathbb G_m)$ は捩れ元だけからなるので ${}_n\mathrm{Br}'(X)$ に等しい。一般の $i$ でも同じで、$0\to H^{i-1}(X,\mathbb G_m)/n\to H^i(X,\mu_n)\to{}_nH^i(X,\mathbb G_m)\to0$。
極限.$\nu$ について、層の射 $(\text{包含},\ \mathrm{id},\ x\mapsto x^\ell)$ は Kummer 列の射
$$[\mu_{\ell^\nu}\to\mathbb G_m\xrightarrow{\ell^\nu}\mathbb G_m]\longrightarrow[\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mathbb G_m\xrightarrow{\ell^{\nu+1}}\mathbb G_m]$$
を与える(右の四角:$x\mapsto x^{\ell^\nu}\mapsto x^{\ell^{\nu+1}}$)。これが短完全列の間に誘導する写像は、左では $\mathrm{Pic}/\ell^\nu\xrightarrow{\ell}\mathrm{Pic}/\ell^{\nu+1}$(右端の $\mathbb G_m$ の縦の射が $\ell$ 乗だから)、右では包含 ${}_{\ell^\nu}\mathrm{Br}'\subset{}_{\ell^{\nu+1}}\mathrm{Br}'$(中央の縦の射が恒等だから)である。帰納極限は完全なので、
$$\varinjlim(\mathrm{Pic}/\ell^\nu,\ \times\ell)=\mathrm{Pic}\otimes\varinjlim(\mathbb Z/\ell^\nu,\ \times\ell)=\mathrm{Pic}\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell,\qquad\varinjlim{}_{\ell^\nu}\mathrm{Br}'=\mathrm{Br}'(\ell)$$
から定理 A の 2 番目の列を得る。3 番目も同じ。$\square$
この証明は $H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ を有限係数のコホモロジーの帰納極限として使っており、$X$ に仮定を要しない。$X$ が準コンパクト準分離なら、これは層 $\mu_{\ell^\infty}$ のコホモロジーに等しい。
注意.射影極限をとると、遷移写像の役割が入れ替わる(左は自然な全射、右は $\ell$ 倍)。第6章の $0\to\mathrm{NS}(X)\otimes\mathbb Z_\ell\to H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))\to T_\ell\mathrm{Br}'(X)\to0$ はその形である(Tate加群)。
補題 1.$\ell$ 準素なアーベル群 $M$ について、${}_\ell M$ が有限なら $M\cong(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)^r\oplus F$($F$ は有限)であり、$r=\operatorname{rank}_{\mathbb Z_\ell}T_\ell M$。
証明.$M$ の Pontryagin 双対 $M^\vee=\operatorname{Hom}(M,\mathbb Q/\mathbb Z)$ は副有限な $\mathbb Z_\ell$ 加群で、$M^\vee/\ell M^\vee=({}_\ell M)^\vee$ は有限。副有限(コンパクト)加群に対する中山の補題により $M^\vee$ は有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群で、$M^\vee\cong\mathbb Z_\ell^r\oplus F^\vee$。双対をとり直して主張の分解を得る。$T_\ell(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)=\mathbb Z_\ell$、$T_\ell F=0$ から $r=\operatorname{rank}T_\ell M$。$\square$
補題 2.余有限型の群の短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ で、余階数は加法的。余有限型の群の部分群と商は余有限型である。また任意の $\ell$ 準素群 $N$ について $N\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell=0$。
証明.前半は Pontryagin 双対が完全で、有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群の階数が加法的であることによる。後半:$x\in N$ が $\ell^m x=0$ なら、$x\otimes y=x\otimes\ell^m y'=\ell^mx\otimes y'=0$($\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ は可除)。$\square$
(原論文 II (3.2) の証明は、後半の主張を「$M$ が余有限型の $\ell$ 捩れ群なら」と述べるが、余有限型の仮定は不要である。Bourbaki 版の正誤表もこの語を削っている。)
$X$ は準コンパクト準分離なので、$H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ は層 $\mu_{\ell^\infty}$ のコホモロジーであり、層の完全列 $0\to\mu_\ell\to\mu_{\ell^\infty}\xrightarrow{\ell}\mu_{\ell^\infty}\to0$ の長完全列が使える。$H^i(X,\mu_\ell)$ が有限とすると、${}_\ell H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ は $H^i(X,\mu_\ell)$ の商なので有限であり、$H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ は余有限型。定理 A の 3 番目の列により $H^i(X,\mathbb G_m)(\ell)$ はその商なので、補題 2 により余有限型である。
$H^{i-1}(X,\mathbb G_m)$ が捩れなら、その $\ell$ 準素でない部分は $\ell$ 倍で全単射なので $\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ で消え、$\ell$ 準素部分は補題 2 で消える。したがって定理 A の 3 番目の列の左端は $0$ で、$H^i(X,\mu_{\ell^\infty})\cong H^i(X,\mathbb G_m)(\ell)$。$\square$
(ここで「$\ell$ 準素でない部分」とは、$\ell$ と素な位数の元のなす部分群で、捩れ群は $\ell$ 準素部分とこれとの直和である。)
(1).定理 B により、定理 A の 2 番目の列の真ん中の項は余有限型で、補題 2 により左右の項も余有限型である。余階数の加法性から $\operatorname{corank}\mathrm{Br}'(X)(\ell)=b_\ell-\rho_\ell$。
(2) 左の項.(K2)(K3) により $0\to\mathrm{Pic}^0(X)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{NS}(X)\to0$ で、$\mathrm{Pic}^0(X)$ は $\ell$ 可除。$\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ は右完全で、$\ell$ 可除な群 $D$ について $D\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell=0$($d\otimes y=\ell^m d'\otimes y=d'\otimes\ell^m y$ で、$y$ は $\ell^m y=0$ となる $m$ をもつ)。よって
$$\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell\cong\mathrm{NS}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell\cong(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)^{\rho}$$
(有限生成群 $\mathrm{NS}(X)\cong\mathbb Z^\rho\oplus(\text{有限})$ の有限部分は補題 2 の後半で消える)。すなわち $\rho_\ell=\rho$。
(2) 真ん中の項.(K1) で $H^2(X,\mu_\ell)$ は有限である。$k$ は代数閉なので $\mu_{\ell^\nu}\cong\mathbb Z/\ell^\nu$ と($\nu$ について両立するように)同一視できる。(K1) により $H^i(X,\mathbb Z_\ell)$ は有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群であり、標準的な完全列
$$0\to H^2(X,\mathbb Z_\ell)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell\to H^2(X,\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)\to H^3(X,\mathbb Z_\ell)_{\mathrm{tors}}\to0$$
がある(引用。有限係数のコホモロジーの射影系が Mittag-Leffler 条件をみたすことによる)。左の項の余階数は $B_2$、右の項は有限なので、補題 2 により $b_\ell=B_2$。
(2) 結論.(1) により $\operatorname{corank}\mathrm{Br}'(X)(\ell)=B_2-\rho$。補題 1 で分解の形を得る。余階数は負でないので $\rho\le B_2$。$\square$
$X$ は正則なので、2-1 の定理 A・B により $\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$ であり、$\dim X\le2$ ならこれは $\mathrm{Br}(X)$ に等しい。
注意.(1) の $b_\ell$ と、有限体など分離閉でない体の上で $H^2(X,\mathbb Z_\ell)$(Tate 捻りなし)の階数として定めた数は、一般には一致しない(§5 の反例「有限体上の $B_2$」)。原論文 II (3.4) は二つを同じものとして並べている。Tate 捻りつきの $\operatorname{rank}H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))$ は、$H^2(X,\mu_\ell)$ が有限なら $b_\ell$ に等しい。
(1) 曲線.$X$ の連結成分 $X_i$ は、$H^0(X_i,\mathcal O)$ が $k$ の有限分離拡大、すなわち $k$ 自身なので幾何的に連結であり、滑らかなので幾何的に整である。$X$ は正則で次元 $1$ なので、2-1 の定理 A・B により $\mathrm{Br}(X)=H^2(X,\mathbb G_m)\hookrightarrow\bigoplus_i\mathrm{Br}(K_i)$($K_i$ は $X_i$ の関数体)。$k$ が代数閉なら、Tsen の定理(3-1)により $\mathrm{Br}(K_i)=0$ で、$\mathrm{Br}(X)=0$。一般の分離閉体 $k$ では、$\bar k/k$ は純非分離で、$\bar K_i=K_i\otimes_k\bar k$ は代数閉体上の曲線の関数体なので $\mathrm{Br}(\bar K_i)=0$。$\bar K_i$ は $K_i$ の次数 $p^s$ の有限純非分離拡大の合併で、制限と余制限の合成は次数倍なので、$\mathrm{Br}(K_i)\to\mathrm{Br}(\bar K_i)$ の核の元はある $p^s$ で消える。よって $\mathrm{Br}(X)$ は $p$ の冪の位数の元だけからなる。
$k$ が代数閉のときは、Kummer 列からも $\ell$ 部分が見える:(K4) により $\mathrm{Pic}(X)/n\to H^2(X,\mu_n)$ は全射(次数 $1$ の因子がある)なので、定理 A から ${}_n\mathrm{Br}'(X)=0$($n$ は $p$ と素)。
(2) 曲面.$d=2$ として (K5) から $B_0=B_4=1$、$B_1=B_3$、$c_2=2-2B_1+B_2$。(K6) により $B_1=2\dim\mathrm{Pic}^0_{X/k,\mathrm{red}}$ は $\ell$ によらないので、$B_2=c_2-2+2B_1$ も $\ell$ によらない。$\rho_\ell$ は、分離閉体の上でも $\mathrm{Pic}(X)$ が有限生成な群の $\ell$ 可除な群による拡大であること((K2)(K3) の分離閉体上の形。引用)から $\ell$ によらない階数に等しい。$B_2$ はエタールコホモロジーが純非分離な底変換で変わらないので $b_\ell$ に等しい。2-1 の定理 B により $\mathrm{Br}(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$ なので、余階数 $B_2-\rho$ は $\ell$ によらない。$\square$
注意.系 D (2) は $\mathrm{Br}(X)(\ell)$ の有限部分が $\ell$ によらないとは言っていない。原論文 II (3.7) も、分離閉体上の曲線については「$\mathrm{Br}(X)$ は $p$ 準素群」とだけ述べる。
定義.Azumaya 代数の同型類のテンソル積による可換モノイドを、次の関係で割ったものを $\mathrm{SBr}(X)$ とする:$A\sim B\iff$ $\det E_1\cong\mathcal O$、$\det E_2\cong\mathcal O$ となる階数正の局所自由加群 $E_1,E_2$ で $A\otimes\mathcal End(E_1)\cong B\otimes\mathcal End(E_2)$。(トーサーの言葉では、構造群が $\mathrm{SL}_n$ まで持ち上がる $\mathrm{PGL}_n$ トーサーだけを無視する。)
$X$ は準コンパクトなので、局所自由加群の階数は有限個の値しかとらず、$X$ を有限個の開かつ閉な片に分ければ各片で階数一定としてよい。以下、階数一定の加群だけを考える。$\det(E\otimes E')\cong\det(E)^{\otimes r'}\otimes\det(E')^{\otimes r}$($r,r'$ は階数)なので、$\sim$ はテンソル積と両立する同値関係である。$\mathrm{Pic}$ を加法的に書く。
(a) 補題.階数 $r$ の $E$ について、$\mathcal End(E)\sim\mathcal O$ であることと、$\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q/\mathbb Z$ の中で $\det(E)\otimes\frac1r=0$ であることは同値。
証明.後者は、ある $k\ge1$ と $M$ で $k(\det E-rM)=0$ となることと同値である($\mathrm{Pic}\otimes\mathbb Q/\mathbb Z=\varinjlim_m\mathrm{Pic}/m$)。$\Leftarrow$:$E'=E\otimes M^{-1}$ は $\mathcal End(E')=\mathcal End(E)$ をみたし、$T=\det E'$ は $kT=0$ をみたす。$E_1=\mathcal O^k$、$E_2=E'^{\oplus k}$ とすると $\det E_1=0$、$\det E_2=kT=0$ で、$\mathcal End(E')\otimes\mathcal End(E_1)\cong\mathcal End(E_2)$。$\Rightarrow$:$\mathcal End(E\otimes E_1)\cong\mathcal End(E_2)$ なら (K7) により $E_2\cong E\otimes E_1\otimes M$。行列式をとって $0=r_1\det E+r\det E_1+rr_1M=r_1(\det E+rM)$。$\square$
(b) 群であること.$A\otimes A^{\mathrm{op}}\cong\mathcal End(A)$ で、(K7) により $\det A$ は $2$ で消えるので、(a) により $\mathcal End(A)\sim\mathcal O$。よって $[A^{\mathrm{op}}]$ が $[A]$ の逆元である。
(c) 左の射.$N=\{[\mathcal End(E)]\}\subset\mathrm{SBr}(X)$ は部分群である($\mathcal End(E)^{\mathrm{op}}\cong\mathcal End(E^\vee)$)。$\psi([\mathcal End(E)])=\det(E)\otimes\frac1{\operatorname{rk}E}$ と定める。$\mathcal End(E)\cong\mathcal End(E')$ なら (K7) により $E'\cong E\otimes M$ で $\det E'=\det E+rM$ なので値は変わらず、$\det E_i=0$ の $E_i$ とのテンソルでも値は変わらないので、$\psi$ は $N$ の上で well-defined な準同型である。(a) により単射で、$L\otimes\frac an=\psi([\mathcal End(L^{\otimes a}\oplus\mathcal O^{n-1})])$($a\ge0$)なので全射である。よって $N\cong\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q/\mathbb Z$。
(d) 完全性.$\mathrm{SBr}(X)\to\mathrm{Br}(X)$ は全射で、$[A]$ が $\mathrm{Br}(X)$ で $0$ となるのは $A\otimes\mathcal End(F)\cong\mathcal End(F')$ のとき、すなわち $[A]=[\mathcal End(F')]-[\mathcal End(F)]\in N$ のときである。
(e) 特性準同型.$X$ を準コンパクト準分離とする。次数 $n$ の Azumaya 代数 $A$ に (K8) の $\tau(A)\in H^2(X_{\mathrm{fppf}},\mu_n)$ を対応させ、$\mu_n\subset\varinjlim_m\mu_m$ で送る。テンソル積との両立と、$\det E\cong\mathcal O$ の $\mathcal End(E)$ のトーサーが $\mathrm{SL}_n$ に持ち上がる($\tau=0$)ことから、これは $\mathrm{SBr}(X)$ 上の準同型を定める。$\mathrm{SBr}(X)$ は捩れ群($\mathrm{Pic}\otimes\mathbb Q/\mathbb Z$ と、$X$ が準コンパクトなので捩れ群の $\mathrm{Br}(X)$ の拡大)なので、(d) の列の $\ell$ 準素部分も完全であり、$\ell$ 準素部分に制限すると、(K8) により値は $H^2(X,\mu_{\ell^\infty})$ に入る。これを $\chi\colon\mathrm{SBr}(X)(\ell)\to H^2(X,\mu_{\ell^\infty})$ とする。(K8) により、左の四角は $\psi$ と定理 A の左の射 $L\otimes\frac1n\mapsto\partial_K(L)$ で(規約で決まる符号を除き)可換であり、右の四角は $\delta\colon\mathrm{Br}(X)(\ell)\to\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ で可換である。左の縦の射は同型で、$\delta$ は単射なので、蛇の補題により $\delta$ が同型であることと $\chi$ が同型であることは同値である。$\square$
(原論文 II (3.9) は、この完全列と特性準同型を「容易に定義される」とだけ述べ、任意のスキームについて述べる。上の証明は $X$ が準コンパクトな場合に限った。局所自由加群の階数が有界でないとき、$\det(E)\otimes\frac1r$ の意味が定まらないからである。)
以下、例 1〜5 では $k$ は代数閉体、$\ell\ne\operatorname{char}k$ とする。
例 1(射影空間).$X=\mathbb P^d_k$ では $B_2=1$、$\mathrm{NS}(X)=\mathrm{Pic}(X)=\mathbb Z$ で $\rho=1$。余階数は $0$。さらに $H^2(X,\mu_n)\cong\mathbb Z/n$ は $\mathcal O(1)$ の類で生成されるので、定理 A から ${}_n\mathrm{Br}(X)=0$ である。
例 2(アーベル曲面).$X=E\times E'$($E,E'$ は楕円曲線)では $B_2=6$ である。標数 $0$ では $\rho=2+\operatorname{rank}\operatorname{Hom}(E,E')$ であり(引用)、$E,E'$ が同種でなければ $\rho=2$、余階数 $4$。$E=E'$ が虚数乗法をもてば $\rho=4$、余階数 $2$。標数 $p>0$ で $E=E'$ が超特異なら $\operatorname{rank}\operatorname{End}(E)=4$ で $\rho=6=B_2$、余階数 $0$ となり、$\mathrm{Br}(X)(\ell)$ は有限群である。同じ位相型の曲面でも、$\rho$、したがって $\mathrm{Br}$ の大きさが算術的な事情で変わる例である。
例 3(K3 曲面).K3 曲面では $B_2=22$。標数 $0$ では Hodge 理論により $\rho\le h^{1,1}=20$ なので(引用)、余階数は $2$ 以上である。標数 $p>0$ では $\rho=22$ となる超特異 K3 曲面が存在し(Shioda、Artin。引用)、そこでは余階数 $0$ である。標数 $0$ の曲面では $\rho\le B_2-2p_g$($p_g$ は幾何種数)なので、$\rho=B_2$ となるのは $p_g=0$ のとき(例えば有理曲面)に限られる。正標数では、K3 曲面のように $p_g=1$ でも $\rho=B_2$ となりうる。
例 4(有限部分が非自明な場合).複素数体上の滑らかな射影多様体 $X$ では、比較定理と指数完全列により
$$\mathrm{Br}(X)\cong(\mathbb Q/\mathbb Z)^{b_2-\rho}\oplus H^3(X,\mathbb Z)_{\mathrm{tors}}$$
となる(引用。1-1 の位相的な計算と、Lefschetz の $(1,1)$ 定理による)。Enriques 曲面では $b_2=\rho=10$、$H^3(X,\mathbb Z)_{\mathrm{tors}}\cong\mathbb Z/2$ なので、余階数は $0$ だが $\mathrm{Br}(X)\cong\mathbb Z/2\ne0$。定理 C の余階数だけでは Brauer 群は決まらない。この有限部分は双有理不変量で(5-2)、Artin–Mumford の単有理だが有理でない 3 次元多様体の例では、$H^3(X,\mathbb Z)_{\mathrm{tors}}\ne0$ が非有理性の証拠になった。
例 5(曲線の Kummer 列).種数 $g$ の曲線 $C$ では $\mathrm{Pic}(C)/n\cong\mathbb Z/n$($\mathrm{Pic}^0$ は可除)、$H^2(C,\mu_n)\cong\mathbb Z/n$ で、定理 A の列は $0\to\mathbb Z/n\xrightarrow{\cong}\mathbb Z/n\to0\to0$ となる。一方 $H^1$ の段では $0\to\mathcal O(C)^\times/n\to H^1(C,\mu_n)\to{}_n\mathrm{Pic}(C)\to0$ となり、$H^1(C,\mu_n)\cong(\mathbb Z/n)^{2g}$ は ${}_n\mathrm{Pic}^0(C)$ から来る($\mathcal O(C)^\times=k^\times$ は可除)。$B_1=2g=2\dim\mathrm{Pic}^0$ がここから読める。
原論文 II (3.6)・(3.8) は、$B_1$(Igusa の式では $q=B_1$)を「Picard スキームの次元」と述べている。
$E$ を代数閉体 $k$ 上の楕円曲線とする。
原論文 II (3.1) は、任意のスキーム $X$ について、層 $\mu_{\ell^\infty}$ のコホモロジーで定理 A の列を述べる。この読みでは成り立たない。
$p,\ell$ を素数、$X=\bigsqcup_{j\in\mathbb N}\operatorname{Spec}\mathbb Q_p$(可算個の直和)とする。
原論文 II (3.4) は、$B_2$ を「$H^2(X,\mathbb Z_\ell)$ の階数、あるいは同じことだが $H^2(X,\mu_{\ell^\infty})$ の余階数」と定めて、$\mathrm{Br}'(X)(\ell)$ の余階数を $B_2-\rho$ とする。有限体上ではこの二つは一致しない。
$q$ を素数冪、$\ell\nmid q$、$X=\mathbb P^1_{\mathbb F_q}$ とし、$H^2(X,\mathbb Z_\ell)=\varprojlim_mH^2(X,\mathbb Z/\ell^m)$(Tate 捻りなし)とする。
原論文 II (3.5) は、$X$ が $\operatorname{Spec}\mathbb Z$ 上有限型で被約なら $\mathrm{Pic}(X)$ は有限生成であることが「もっともらしい」と述べる。これは成り立たない(Bourbaki 版の注記(1966 年 8 月付)も、Bass と Murthy の指摘として、被約だけでは足りず、固有または正規なら有限型であると訂正している)。
$A=\mathbb Z[s,t^2,t^3]\subset B=\mathbb Z[s,t]$、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。
注意(原論文 II (3.2) の仮定).1968 年版の II (3.2) は、$i\ge3$ で $H^i(X,\mathbb G_m)(\ell)\cong H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ を追加の仮定なしに述べる。定理 A の 3 番目の列から分かるとおり、この同型には $H^{i-1}(X,\mathbb G_m)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell=0$ が必要である。原論文の証明が挙げる理由(余有限型の $\ell$ 捩れ群 $M$ なら $M\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell=0$)は正しいが、$H^{i-1}(X,\mathbb G_m)$ は $\ell$ 捩れ群とは限らないので、それだけでは閉じない。仮定から言えるのは、$H^{i-1}(X,\mathbb G_m)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ が余有限型の群の可除な部分群であることまでである。Bourbaki 版はこの同型の前に「(1.8) の条件のもとで」を差し込んでおり、定理 B はその形($H^{i-1}$ が捩れ)で述べた。この仮定を外したときに同型が実際に崩れる例は、本書では与えない(原論文の形が正しいかどうかは判定しない)。
注意(Néron の定理についての原論文の注記).原論文 II (3.8) は、同じ方法で $\mathrm{NS}(X)$ が有限生成であること(Néron の定理)も同時に示せ、族の中で $\mathrm{NS}$ が同型を除き有限個の値しかとらないことにも関係すると述べる。Kummer 列から直接に出るのは、$\mathrm{Pic}(X)/\ell\hookrightarrow H^2(X,\mu_\ell)$ による $\mathrm{NS}(X)/\ell$ の有限性と、$\operatorname{rank}\mathrm{NS}\le B_2$ までである。$\mathrm{NS}(X)$ 自身の有限生成性には、$\mathrm{NS}$ が $\mathbb Z[1/\ell]$ のような可除な部分群や $p$ 準素部分を含まないこと、すなわち Picard スキームの構造が要る。本頁では (K2) として引用する。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。書誌の頁は確認していない)。
| 本頁 | 原論文(II) | 印字頁 |
|---|---|---|
| §4-1 Kummer 列 | II §3 の式 (10) | 80 |
| 定理 A、反例(準コンパクトでない $X$) | II (3.1) | 80 |
| 補題 1、補題 2 | II (3.2) の証明中の主張、II (3.4) の余有限型・余階数・$T_\ell$ の定義 | 80–82 |
| 定理 B、§5 の注意((3.2) の仮定) | II (3.2) | 80–81 |
| (K1) の有限性の範囲 | II (3.3) | 81 |
| 定理 C、反例(有限体上の $B_2$) | II (3.4)、(3.5) | 82–83 |
| 反例(Picard 群の有限生成性) | II (3.5) の見込み | 82 |
| 系 D (1) | II (3.7) の後半 | 83–84 |
| 系 D (2)、反例($B_1$) | II (3.6)、(3.7)、(3.8) の Igusa の式 | 83–84 |
| $\rho\le B_2$、§5 の注意(Néron の定理) | II (3.8)、式 (11) | 84–85 |
| 命題 E | II (3.9)、式 (12)、(13) | 85–86 |
原論文 II (3.3) は、$H^i(X,\mu_\ell)$ の有限性が「分離閉体または有限体上の有限型で、固有または滑らか(特異点解消が使える場合は一般)」、「$\operatorname{Spec}\mathbb Z$ 上の有限型で、滑らかまたは固有」の場合に知られていると述べ、一般の有限型の場合は「非常にもっともらしい」が当時の手段では示せないとしている。また 1968 年版は II (3.6) の標数の条件を「$p\ge0$」と印字するが、$p>0$ の意である。
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