前提知識: Brauer群, 中心単純環, コホモロジー次元, Kummer完全列, Hensel局所環
体 $K$ の Brauer 群 $\mathrm{Br}(K)=H^2(K,\mathbb G_m)$ がいつ消えるかを、形式(斉次多項式)の零点の言葉で判定し、その帰結として $K$ の Galois コホモロジーを低次で計算する。主な結果は次のとおりである($p$ は $K$ の標数、$\ell$ は $p$ と異なる素数)。
体の Brauer 群が消えることは、その体の上の中心斜体が体そのものに限る、ということである。有限体についてのこの事実は Wedderburn の小定理として古くから知られ、代数閉体上の 1 変数関数体については Tsen が 1933 年に示した。Chevalley と Artin の流れの中で、これらはいずれも「変数の数が次数より多い形式は非自明な零点をもつ」という性質 $(C_1)$ の帰結として理解されるようになり、Lang はこの性質を剰余体が代数閉な完備離散付値環の分数体へ広げた。
Serre の『Galois コホモロジー』は、この性質を「次元 1 以下」と名づけ、コホモロジー次元 $\le 1$ との関係を整理した。原論文 III §1 は、スキームの Brauer 群を計算する準備として、この体の理論を $\mathbb G_m$ 係数の高次コホモロジーまで含めて述べ直す。次元 1 のスキームの Brauer 群(本書 3-2)は、生成点と各閉点の局所環の分数体に分けて計算されるので、そこで現れる体がすべて本頁の意味で「小さい」ことが要になる。
体 $K$ が次元 1 以下(of dimension at most one)であるとは、$K$ の任意の有限次拡大 $K'$ について $\mathrm{Br}(K')=0$ となることをいう。
ここで体 $K$ の Brauer群 $\mathrm{Br}(K)$ は、$K$ 上の中心単純環の類の群であり、$H^2(K,\mathbb G_m)$ と標準的に同一視される(本書 1-2)。$\mathrm{Br}(K)=0$ は、$K$ 上有限次元で中心が $K$ の斜体が $K$ 自身に限ることと同じである(Wedderburn の構造定理により中心単純環は $M_r(D)$、$D$ は中心斜体、の形に一意に書けるから)。
体 $K$ が $(C_1)$ であるとは、$K$ 係数の $n$ 変数・次数 $d$ の形式(斉次多項式)で $0< d< n$ をみたすものが、必ず $K^n$ に非自明な零点をもつことをいう。
射有限群 $G$ と素数 $\ell$ について、$\operatorname{cd}_\ell(G)\le n$ とは、$\ell$ 準素な捩れ離散 $G$ 加群 $M$ と $i>n$ のすべてについて $H^i(G,M)=0$ となることをいう。体 $K$ については $\operatorname{cd}_\ell(K)=\operatorname{cd}_\ell(\operatorname{Gal}(K^{\mathrm s}/K))$ と置く($K^{\mathrm s}$ は分離閉包)。
コホモロジー次元 については次の判定法(三項)を引用して使う(Serre『Galois コホモロジー』第 I 章の内容で、本頁では証明しない)。
射有限群 $G$ と素数 $\ell$ について次が成り立つ。
Ser64 の第 I 章 §3–§4 と第 II 章 §2 にある事実として引用する(本頁では章の中の番号を挙げない)。
もう一つ、中心斜体の被約ノルムを使う。これは証明をつけておく。
$D$ を体 $K$ 上の中心斜体とし、$\dim_K D=n^2$ とする。$D$ の $K$ 基底 $e_1,\dots,e_{n^2}$ を固定すると、$K$ 係数の $n^2$ 変数・次数 $n$ の形式 $\mathrm{Nrd}$ があって、$a=\sum_i x_ie_i$ について「$\mathrm{Nrd}(x)=0\iff a=0$」が成り立つ。
$D$ を分解する有限次 Galois 拡大 $L/K$ と $L$ 代数の同型 $\varphi\colon D\otimes_KL\cong M_n(L)$ をとる(本書 1-2)。多項式環 $L[x_1,\dots,x_{n^2}]$ の中で $P(x)=\det\varphi\bigl(\sum_ix_ie_i\otimes1\bigr)$ と置くと、$P$ は次数 $n$ の形式である。
別の同型 $\varphi'$ をとっても、Skolem–Noether の定理により $\varphi'=g\varphi g^{-1}$($g\in\mathrm{GL}_n(L)$)なので行列式は多項式として変わらない。$\sigma\in\operatorname{Gal}(L/K)$ について $\sigma\circ\varphi\circ(1\otimes\sigma^{-1})$(行列の成分に $\sigma$ を施す)も同型だから、$P$ の係数に $\sigma$ を施した多項式は $P$ 自身に等しい。よって $P$ の係数は $K$ に属する。これを $\mathrm{Nrd}$ と置く。
$a\in D$ の左乗法 $\lambda_a\colon D\to D$ は $K$ 線形で、$L$ へ係数拡大すると $M_n(L)$ 上の左乗法 $\varphi(a\otimes1)\cdot$ になる。$M_n(L)$ を $L^n$ の $n$ 個の直和と見れば、その行列式は $\det\varphi(a\otimes1)^n$ である。したがって $\det\lambda_a=\mathrm{Nrd}(a)^n$。$D$ は有限次元なので $a$ が可逆であることと $\lambda_a$ が全単射であることは同値であり、$D$ は斜体なので $a\ne0$ と $a$ 可逆は同値である。よって $\mathrm{Nrd}(a)=0\iff a=0$。
$(C_1)$ 体は次元 1 以下である。
段 1:$(C_1)$ は有限次拡大へ遺伝する。 $L/K$ を $m$ 次拡大、$f$ を $L$ 係数の $n$ 変数・次数 $d$($0< d< n$)の形式とする。$L$ の $K$ 基底 $w_1,\dots,w_m$ をとり、$x_j=\sum_iy_{ij}w_i$($y_{ij}$ は $mn$ 個の新しい変数)と置く。ノルム $N_{L/K}$ は $L$ の $K$ 座標について次数 $m$ の形式(乗法写像の行列式)であり、$f(x(y))$ の各座標は $y$ の次数 $d$ の形式だから、$g(y)=N_{L/K}(f(x(y)))$ は $K$ 係数の $mn$ 変数・次数 $dm$ の形式である。$dm< nm$ なので $g$ は非自明な零点 $y$ をもつ。$y\mapsto x$ は $K$ 線形同型なので $x\ne0$ であり、$N_{L/K}(f(x))=0$ である。ノルムは $0$ でない元で $0$ にならないから $f(x)=0$。よって $L$ も $(C_1)$ である。
段 2:$(C_1)$ 体の Brauer 群は $0$。 $D$ を $K$ 上の中心斜体、$\dim_KD=n^2$ とする。$n\ge2$ なら $n< n^2$ だから、
被約ノルム
の形式 $\mathrm{Nrd}$ に $(C_1)$ を当てはめて非自明な零点を得る。これは $0$ でない元 $a$ で $\mathrm{Nrd}(a)=0$ となるものを与え、補題に反する。よって $n=1$、$D=K$ であり、$\mathrm{Br}(K)=0$。
段 1 により $K$ の任意の有限次拡大も $(C_1)$ なので、段 2 をそれに適用すればよい。
証明の段 1 は有限次拡大についての議論だが、形式の係数は有限個しかないので、$(C_1)$ 体の代数拡大も $(C_1)$ である(係数を含む有限次部分拡大に段 1 を使う)。この観察は後で使う。
$K$ を次元 1 以下の体、$p$ をその標数とする。
1 の証明。 $\ell\ne p$ を固定し、$L/K$ を任意の有限次分離拡大とする。$L'=L(\mu_\ell)$ と置くと $[L':L]$ は $\ell-1$ を割るので $\ell$ と素である。$L'$ 上では $\mu_\ell\cong\mathbb Z/\ell\mathbb Z$ である。$\ell$ は $L'$ で可逆なので Kummer完全列 $1\to\mu_\ell\to\mathbb G_m\xrightarrow{\ell}\mathbb G_m\to1$ が使え、Hilbert の定理 90 により $H^1(L',\mathbb G_m)=0$ だから
$$0\to H^2(L',\mu_\ell)\to H^2(L',\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(L')$$
が完全である。$L'/K$ は有限次なので仮定より $\mathrm{Br}(L')=0$、よって $H^2(L',\mathbb Z/\ell\mathbb Z)=0$。
制限と余制限の合成 $\operatorname{cor}\circ\operatorname{res}$ は $[L':L]$ 倍であり、$H^2(L,\mathbb Z/\ell\mathbb Z)$ は $\ell$ で消えるので、$\operatorname{res}\colon H^2(L,\mathbb Z/\ell\mathbb Z)\to H^2(L',\mathbb Z/\ell\mathbb Z)$ は単射である。したがって $H^2(L,\mathbb Z/\ell\mathbb Z)=0$。$\operatorname{Gal}(K^{\mathrm s}/K)$ の開部分群は有限次分離拡大 $L$ の Galois 群なので、
判定法
の 1 により $\operatorname{cd}_\ell(K)\le1$。
2 の証明。 次の四段に分ける。
(a) $i=1$ は Hilbert の定理 90 である。$i=2$ は $H^2(K,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(K)=0$(仮定)である。
(b) $i\ge1$ で $H^i(K,\mathbb G_m)$ は捩れ群である。実際、離散加群 $M$ について $H^i(G,M)=\varinjlim_UH^i(G/U,M^U)$($U$ は開正規部分群)であり、有限群の $i\ge1$ 次コホモロジーは群の位数で消える。
(c) $\ell\ne p$、$i\ge2$ のとき $H^i(K,\mathbb G_m)(\ell)=0$。1 により $H^i(K,\mu_\ell)=0$($i\ge2$)なので、Kummer 列の長完全列 $H^i(K,\mu_\ell)\to H^i(K,\mathbb G_m)\xrightarrow{\ell}H^i(K,\mathbb G_m)$ から、$\ell$ 倍は単射である。
(d) $p>0$、$i\ge3$ のとき $H^i(K,\mathbb G_m)(p)=0$。標数 $p$ では $x\mapsto x^p$ は $(K^{\mathrm s})^\times$ 上単射なので、離散加群の完全列 $0\to(K^{\mathrm s})^\times\xrightarrow{p}(K^{\mathrm s})^\times\to C\to0$ がある。$C$ は $p$ で消える($x$ の類の $p$ 倍は $x^p$ の類で $0$)。
判定法
の 3 により $\operatorname{cd}_p(K)\le1$ なので、$i-1\ge2$ で $H^{i-1}(K,C)=0$。長完全列 $H^{i-1}(K,C)\to H^i(K,\mathbb G_m)\xrightarrow{p}H^i(K,\mathbb G_m)$ から $p$ 倍は単射である。
(b)(c)(d) により、$i\ge3$ では捩れ群 $H^i(K,\mathbb G_m)$ のすべての素数準素部分が $0$、したがって群全体が $0$ である。(a) と合わせて結論を得る。
原論文は 2 の $i\ge3$ の部分を Serre の本に委ね、$i=1$ を書かない。上の (a)〜(d) はそれを書き下したもので、Serre の本への依存は判定法の引用という形で残っている。(d) が示すとおり、標数 $p$ の体では $i\ge3$ の $\mathbb G_m$ コホモロジーに $p$ 捩れはそもそも現れない。後で見る $p$ 部分の異常は $i=2$、すなわち Brauer 群の段にだけ現れる。
定理 の仮定を満たす体の代表は次の三種類である。
有限体 $\mathbb F_q$ は $(C_1)$ である。
$q=p^m$ とし、$f$ を $\mathbb F_q$ 係数の $n$ 変数・次数 $d$($0< d< n$)の形式とする。$N$ を $f$ の $\mathbb F_q^n$ における零点の個数とする。$a\in\mathbb F_q$ について $a^{q-1}$ は $a\ne0$ なら $1$、$a=0$ なら $0$ だから、$\mathbb F_q$ の中で
$$N\cdot1=\sum_{x\in\mathbb F_q^n}\bigl(1-f(x)^{q-1}\bigr).$$
右辺の多項式 $1-f^{q-1}$ の単項式 $x_1^{m_1}\cdots x_n^{m_n}$ について、$\sum_{x\in\mathbb F_q^n}x_1^{m_1}\cdots x_n^{m_n}=\prod_i\sum_{t\in\mathbb F_q}t^{m_i}$($0^0=1$ と約束する)であり、$\sum_{t\in\mathbb F_q}t^m$ は $m>0$ かつ $(q-1)\mid m$ のとき $-1$、それ以外($m=0$ を含む)のとき $0$ である。$\deg(1-f^{q-1})\le d(q-1)< n(q-1)$ なので、各単項式で $\sum_im_i< n(q-1)$ となり、ある $i$ で $m_i< q-1$、したがってその因子は $0$ である。よって $N\equiv0\pmod p$。$x=0$ は零点なので $N\ge1$、したがって $N\ge p\ge2$ で、非自明な零点がある。
有限体は次元 1 以下であり、$H^i(\mathbb F_q,\mathbb G_m)=0$($i\ne0$)。とくに有限斜体は可換である(Wedderburn の小定理)。
逆に Wedderburn の小定理を先に知っていれば、$\mathbb F_q$ 上の中心斜体は有限集合なので可換、すなわち $\mathbb F_q$ 自身であり、$\mathrm{Br}(\mathbb F_q)=0$ が出る。二つの主張は同じ内容の言い換えである。
次の体は $(C_1)$ である。
$K$ が有限体、または Tsen・Lang の体 のいずれかならば、$\mathrm{Br}(K)=0$ であり、$i\ne0$ のすべての $i$ で $H^i(K,\mathbb G_m)=0$ である。
原論文の巻末の正誤表(III の 188 頁。Serre の指摘として記されている)は、2 から excellent の仮定を外すと $(C_1)$ はおそらく成り立たないと述べる一方、$\mathrm{Br}(K)=0$ は excellent の仮定なしに成り立つと述べる。理由として挙げられているのは、中心斜体が $K$ に等しいことの非コホモロジー的な古典的証明(付値を斜体へ延ばす議論)が、$V$ が完備でなく Hensel であれば通る、という点である。本頁はこの主張を引用として扱い、証明しない。次の頁(3-2)では、この引用を正則な次元 1 のスキームの計算に使う。なお「$(C_1)$ が成り立たない」実例は、正誤表にも挙げられていない。
Tsen・Lang の体で、「代数閉」を「分離閉」に弱めるとどうなるか。答えは、$\ell$ 準素部分は残り、$p$ 準素部分は残らない、である。まず剰余体が分離閉な Hensel 離散付値環を扱う。
$V$ を剰余体 $k$ が分離閉な Hensel 離散付値環(狭義 Hensel 離散付値環)、$K$ をその分数体、$p$ を $k$ の標数とする。$\ell\ne p$ ならば $\operatorname{cd}_\ell(K)=1$ であり、$H^i(K,\mathbb G_m)(\ell)=0$($i\ge1$)、とくに $\mathrm{Br}(K)(\ell)=0$ である。
Hensel 離散付値体の分岐理論(Serre『局所体』Ser62 の完備な場合と同じ形で Hensel な場合にも成り立つ。本頁では引用する)により、剰余体が分離閉だから $K$ の非自明な不分岐拡大は無く、$G_K=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm s}/K)$ は惰性群に等しい。その野性分岐群 $P$ は正規な pro-$p$ 部分群($p=0$ なら自明)で、$G_K/P\cong\prod_{q\ne p}\mathbb Z_q$ である。具体的には、$p$ と素な次数 $e$ の分離拡大は、素元 $\pi$ の $e$ 乗根を添加した巡回拡大 $K(\pi^{1/e})$ に限る($\mu_e\subset K$ は Hensel の補題による)。
$\ell\ne p$ だから、$G_K$ の $\ell$-Sylow 部分群は $P$ と交わらず、商の $\ell$-Sylow 部分群 $\mathbb Z_\ell$ へ同型に写る。
判定法
の 2 により $\operatorname{cd}_\ell(K)=\operatorname{cd}_\ell(\mathbb Z_\ell)=1$。
$H^i(K,\mathbb G_m)(\ell)=0$ は、$i=1$ が Hilbert の定理 90、$i\ge2$ が
定理
の証明の (b)(c) と同じ議論((c) は $\operatorname{cd}_\ell\le1$ だけを使っている)による。
原論文 III (1.4) は、同じ結論を、ネーターで次元 1 の狭義 Hensel 局所環 $A$(正則とは限らない)とその全分数環 $K$ について述べ、証明を SGA 4 の Exposé X に委ねる。$A$ が離散付値環でないとき $K$ は体の積になりうる。本頁が証明したのは $A$ が離散付値環の場合だけであり、一般の場合はSGA4 X による引用として扱う。なお、この結論で除く素数は剰余体 $k$ の標数である(分数体の標数が $0$ で剰余標数が $p>0$ のとき、$\ell=p$ は除かなければならない)。
$k$ を分離閉体、$p$ をその標数とし、$K$ は次のいずれかとする。
(ii) は
前の定理
そのものである。
(i) を示す。$\bar k$ を $k$ の代数閉包とすると、$k$ が分離閉なので $\bar k/k$ は純非分離である。$K$ の代数閉包の中で合成体 $\bar K=K\bar k$ をとると、$\bar K/K$ も純非分離である。純非分離拡大は分離閉包の Galois 群を変えないので $G_K\cong G_{\bar K}$、したがってすべての $\ell$ で $\operatorname{cd}_\ell(K)=\operatorname{cd}_\ell(\bar K)$ である。$\bar K$ は代数閉体 $\bar k$ 上の超越次数 1 の体なので、
Tsen の定理
と
定理
・
定理
により $\operatorname{cd}_\ell(\bar K)\le1$。$H^i(K,\mathbb G_m)(\ell)=0$ は前の定理の証明の最後の段と同じ議論による。
等号について。$\operatorname{cd}_\ell(K)\ge1$ を言うには、次数 $\ell$ の巡回拡大を一つ作って $H^1(K,\mathbb Z/\ell\mathbb Z)\ne0$ を示せばよい。(ii) では $\mu_\ell\subset K$(Hensel の補題)で、素元 $\pi$ は $\ell$ 乗でないから、Kummer 理論により $K(\pi^{1/\ell})/K$ は次数 $\ell$ の巡回拡大であり、$H^1(K,\mathbb Z/\ell\mathbb Z)\ne0$、よって $\operatorname{cd}_\ell(K)\ge1$。(i) で $K$ が $k$ 上有限生成なら、$K$ は $k$ 上の正則な曲線の関数体として離散付値をもち、その付値の素元について同じ議論が使える($\mu_\ell\subset k\subset K$)。
原論文 III (1.3) は結論を等号 $\operatorname{cd}_\ell(K)=1$ の形で述べるが、(i) の仮定「超越次数 1」だけでは等号は成り立たない。反例:$K$ を $k(t)$ の分離閉包とすると、$K$ は $k$ 上超越次数 1 だが分離閉なので $\operatorname{cd}_\ell(K)=0$ である。この反例は、等号の証明に要る「次数 $\ell$ の巡回拡大が存在する」という性質を破っている。
「$K$ が分離閉でない」と仮定するだけでもまだ足りない。反例:$G=\operatorname{Gal}(k(t)^{\mathrm s}/k(t))$ の $q$-Sylow 部分群($q\ne\ell$ は素数)の固定体を $K$ とすると、$K$ は $k$ 上超越次数 1 で、$G_K$ は自明でない pro-$q$ 群($k(t)$ は次数 $q$ の巡回拡大をもつから自明でない)なので $K$ は分離閉でないが、$\ell$-Sylow が自明なので $\operatorname{cd}_\ell(K)=0$ である。上の定理のように「$k$ 上有限生成」などと限定すれば正しい。
前の定理 は $\ell\ne p$ に限っていた。この制限は外せない。
$k$ を標数 $p>0$ の分離閉体で完全でないものとし、$a\in k\smallsetminus k^p$ をとる。$K=k(t)$ とし、$L=K(\theta)$、$\theta^p-\theta=t$ と置く。$L/K$ は $\sigma(\theta)=\theta+1$ で生成される $p$ 次巡回拡大であり、巡回多元環
$$\mathcal A=(L/K,\sigma,a)=\bigoplus_{i=0}^{p-1}Lv^i,\qquad v^p=a,\quad v\lambda v^{-1}=\sigma(\lambda)\ (\lambda\in L)$$
の類は $\mathrm{Br}(K)$ の位数 $p$ の元である。とくに $\mathrm{Br}(K)(p)\ne0$ である。
$t=\theta^p-\theta$ は $\theta$ の $p$ 次多項式なので $L=k(\theta)$ で $[L:K]=p$ であり、$\theta\mapsto\theta+i$($i\in\mathbb F_p$)が $L/K$ の自己同型を与えるから、$L/K$ は $\sigma$ で生成される巡回拡大である。
巡回多元環 $(L/K,\sigma,a)$ は $K$ 上の中心単純環で、その類が $0$ であることと $a\in N_{L/K}(L^\times)$ は同値である。また類の位数は $[L:K]=p$ を割る。これらは巡回多元環の標準的な性質として GS17 から引用する。
$a$ がノルムでないことを示す。$h\in L^\times=k(\theta)^\times$ を $h=cF/G$($c\in k^\times$、$F,G$ は $\theta$ のモニック多項式)と書くと、
$$N_{L/K}(h)=\prod_{i\in\mathbb F_p}h(\theta+i)=c^p\,\frac{\prod_iF(\theta+i)}{\prod_iG(\theta+i)}$$
で、分子・分母は $\theta$ のモニック多項式である。$N_{L/K}(h)=a$ なら $\prod_iF(\theta+i)=(a/c^p)\prod_iG(\theta+i)$ が多項式として成り立ち、最高次の係数を比べて $a=c^p\in k^p$ となり仮定に反する。よって $[\mathcal A]\ne0$ で、位数は $p$ である。
たとえば $k$ を $\mathbb F_p(s)$ の分離閉包、$a=s$ とすればよい($s^{1/p}$ は $\mathbb F_p(s)$ 上純非分離なので $k$ に属さない)。
分離閉な基礎体の定理 の証明は、$K$ から $\bar K=K\bar k$ への純非分離な移行を使った。この移行は Galois 群を変えないので、捩れ係数のコホモロジーと $\operatorname{cd}_\ell$ は保たれる。しかし係数 $\mathbb G_m$ は保たれない($\bar K^\times$ は $K^\times$ から作られる加群ではない)。$\ell$ 部分は Kummer 列によって捩れ係数 $\mu_\ell$ に移せるので保たれるが、標数 $p$ では $\mu_p$ が自明になりこの移し替えが使えないので、$p$ 部分の情報は失われる。上の命題はその失われた部分が実際に非自明でありうることを示す。
原論文 III 1.2.1 は、同じ現象を $k[t]$ の Brauer 群について述べ、$\mathrm{Br}(k[t])$ が $0$ になるのは $k$ が完全のとき(したがって代数閉のとき)に限る、と Auslander–Goldman AG60 を引いて書く。原論文が書いているのはこの必要条件の向きだけである。本頁は $k[t]$ についての主張を証明せず、関数体 $k(t)$ の段で具体的な元を与えた。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上有限型で次元 1 以下のスキームとする(被約とは仮定しない)。このとき $H^2(X,\mathbb G_m)=0$、したがって $\mathrm{Br}(X)=0$ である。
段 1:被約化への帰着。 $X$ はネーターなので、冪零根基のイデアル層 $\mathcal N$ は連接で、ある $r$ で $\mathcal N^r=0$ である。$X_0=X_{\mathrm{red}}$ と置く。冪零な閉埋め込み $X_0\to X$ はエタールサイトを変えないので(SGA4 VIII にある事実として引用する)、以下では同じサイトの上の層として考える。エタールな $U\to X$ について、$\mathcal O(U)$ の元はその $\mathcal N$ による像が可逆なら可逆なので、層の完全列
$$1\to1+\mathcal N\to\mathbb G_{m,X}\to\mathbb G_{m,X_0}\to1$$
がある。$j\ge1$ について $a,b\in\mathcal N^j$ なら $ab\in\mathcal N^{j+1}$ なので、$1+a\mapsto a$ は群の層の同型 $(1+\mathcal N^j)/(1+\mathcal N^{j+1})\cong\mathcal N^j/\mathcal N^{j+1}$ を与える。右辺は $X_0$ 上の連接層であり、準連接層のエタールコホモロジーは Zariski コホモロジーに一致し(SGA4 VII にある事実として引用する)、$\dim X\le1$ なので Grothendieck の消滅定理によりその $H^2$ は $0$ である。$j=r-1,r-2,\dots,1$ の順に長完全列を使うと $H^2(X,1+\mathcal N)=0$ を得る。よって
$$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_0,\mathbb G_m)\quad\text{は単射}$$
である。
段 2:被約な場合。 $X_0$ は被約ネーターで次元 1 以下、閉点の剰余体は $k$ で分離閉である。この条件のもとで、$H^2(X_0,\mathbb G_m)$ から $X_0$ の極大点 $\eta_i$ での $\bigoplus_iH^2(\kappa(\eta_i),\mathbb G_m)$ への制限は単射である(原論文 II (1.8)。本書第 2 章「$\mathrm{Br}$ と $\mathrm{Br}'$」の頁で扱う。本頁では引用する)。次元 1 の成分では $\kappa(\eta_i)$ は $k$ 上超越次数 1 なので、
Tsen の定理
により $\mathrm{Br}(\kappa(\eta_i))=0$ である。次元 0 の成分では $\kappa(\eta_i)=k$ で、代数閉体上の中心斜体は $k$ に限るので $\mathrm{Br}(k)=0$ である(この場合は Tsen の定理の範囲外なので別に扱った)。よって $H^2(X_0,\mathbb G_m)=0$。
段 3。 段 1・2 から $H^2(X,\mathbb G_m)=0$。Azumaya 代数による Brauer 群は $H^2(X,\mathbb G_m)$ に単射で入る(本書 1-3)ので $\mathrm{Br}(X)=0$。
上の証明は II (1.8) の単射性と $\mathrm{Br}\hookrightarrow H^2$ を引用している。段 1 の冪零の分解は原論文に無い議論で、原論文は被約性に触れずに II (1.8) を使っている。段 1 により、被約性を言明に加える必要はない。$X$ が正則で整な場合には、II (1.8) の代わりに次の頁(3-2)の剰余完全列 $0\to H^2(X,\mathbb G_m)\to\mathrm{Br}(K(X))$ を使っても同じ結論が出る。ただしその完全列自身が別の引用(excellent を外した $\mathrm{Br}=0$)に依存する。
以下は原論文(1966 年の講演)の後の話題であり、本頁の証明には使っていない。
原論文は A. Grothendieck「Le groupe de Brauer III」(『Dix exposés』所収)であり、頁は同書の印字頁である。
| 原論文 | 頁 | 本頁の箇所 |
|---|---|---|
| III §1 冒頭(次元 1 以下の定義、$(C_1)$、$\operatorname{cd}$ との関係) | 88–89 | 定義 、 定理 、 定理 の 1 |
| III (1.1) | 89 | Tsen・Lang の定理 とその系、 定理 の 2 |
| III (1.2) | 89 | 代数閉体上の代数曲線 |
| III 1.2.1 | 89–90 | 「$p$ 部分は残らない」の節(本頁は $k(t)$ で具体例を与え、$k[t]$ の主張は引用にとどめる) |
| III (1.3) | 90 | 分離閉な基礎体の定理 と等号の注意 |
| III (1.4) | 90 | 狭義 Hensel 離散付値環の定理 と一般の場合の注意(除く素数は剰余体の標数と読む) |
| III (1.5) | 91 | Chevalley–Warning の定理 とその系 |
| 巻末の正誤表(III の 89 頁についての項) | 188 | 「excellent の仮定について」の注意 |
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