前提知識: fppf位相, エタールコホモロジー, 相対Picard関手, コホモロジー的Brauer群, Lerayスペクトル系列, 狭義Hensel局所環
本頁の記号は本書の記号表に従う。とくに $H^i(X,F)$ は添字が無ければエタールコホモロジーであり、fppf 位相では $H^i(X_{\mathrm{fppf}},F)$ と添字を付ける。$\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)_{\mathrm{tors}}$ であり、捩れでない部分まで含めるときは $H^2(X,\mathbb G_m)$ と書く。第1章の余境界 $\delta$ と区別するため、本頁の障害準同型は $\partial$ と書く。
本頁の主結果は次の五つである。
第2章で見たとおり、Brauer 群は $H^2(-,\mathbb G_m)$ の中に住む。他方、相対 Picard 関手 $\mathcal Pic_{X/Y}$ は、$Y$ 上のスキーム $Y'$ に $\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ を対応させる関手を層化して得られ、FGA 以来、忠実平坦な位相で層化するのが自然とされてきた。層化をすると、$Y$ 全体の上では「局所的には直線束の類だが、大域的には直線束から来ない」元が現れる。§5 の出発点は、この「来ない」ことの障害が $H^2(Y,\mathbb G_m)$ に値をもつこと、すなわち相対 Picard 群と Brauer 群が一本の完全列でつながることである。
この完全列を得るには Leray スペクトル系列を fppf 位相で使う必要がある。一方、Brauer 群はエタール位相で定義される。二つの位相をつなぐのが、滑らかな可換群スキームについてエタールコホモロジーと fppf コホモロジーが一致するという比較定理であり、原論文は §5 ではこれを引用し、証明を付録 §11 に回す(本書の 4-2 の頁)。
§5 の後半は、分離閉体 $k$ 上の固有スキームを扱う。$k$ が完全でないとき、代数閉包 $\bar k/k$ は純非分離拡大であり、$\operatorname{Spec}\bar k\to\operatorname{Spec}k$ はエタールでない。したがって Galois 降下は使えず、$H^2(X,\mathbb G_m)$ と $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ の関係はエタール位相だけでは見えない。fppf 位相では純非分離拡大も被覆になるので、降下の言葉で比較ができる。そこに現れる障害が $\mathrm{Pic}_{X/k}$ の fppf コホモロジーであり、それが消えるかどうかは $\mathrm{Pic}_{X/k}$ が滑らかかどうかで決まる。つまり、Picard スキームの非被約性が Brauer 群に跡を残すというのが §5 後半の内容である。
スキーム $X$ の fppf サイト $X_{\mathrm{fppf}}$ とは、$X$ 上局所有限表示なスキームを対象とし、平坦かつ局所有限表示な射の全射族を被覆とするサイトである(fppf位相)。エタール射は平坦かつ局所有限表示なので、エタールサイト $X_{\mathrm{et}}$ は $X_{\mathrm{fppf}}$ の充満部分圏であり、サイトの射
$$
\varepsilon:X_{\mathrm{fppf}}\to X_{\mathrm{et}}
$$
がある。$\varepsilon_*$ はエタールな対象への制限である。原論文は fppf サイトを $X_{\mathrm{pl}}$ と書き、この射を $p$ と書く。
$X$ 上の可換群スキーム $G$ は、$T\mapsto\operatorname{Hom}_X(T,G)$ によって $X_{\mathrm{fppf}}$ 上の層を定め、それを $X_{\mathrm{et}}$ に制限したものがエタール層としての $G$ である。
$X$ 上の任意の可換群スキーム $G$ について、標準写像 $H^i(X,G)\to H^i(X_{\mathrm{fppf}},G)$ は $i=0$ で同型、$i=1$ で単射である。
上の説明により $\varepsilon_*G=G$(エタール層としての $G$)である。$\varepsilon$ の Leray スペクトル系列の低次の完全列
$$
0\to H^1(X,\varepsilon_*G)\to H^1(X_{\mathrm{fppf}},G)\to H^0(X,R^1\varepsilon_*G)
$$
から $i=1$ の単射性が出る。$i=0$ では両辺とも $\operatorname{Hom}_X(X,G)$ である。
高い次数での同型には $G$ の滑らかさが要る。次の定理は本書の 4-2 の頁で証明する(そこで述べる引用に依存する)。
$G$ が $X$ 上の滑らかな可換群スキーム(局所有限表示)なら、すべての $i$ について $H^i(X,G)\cong H^i(X_{\mathrm{fppf}},G)$ である。とくに $G=\mathbb G_m$、$G=\mathbb G_a$ に当てられる。
一方、滑らかでない群では $\mathbb G_m$ の $p$ 乗写像がエタール位相で全射でなくなる。次の事実が、§5 後半の非消滅の源である。
$p$ を素数とすると、$1\to\mu_p\to\mathbb G_m\xrightarrow{\,x\mapsto x^p\,}\mathbb G_m\to1$ は $X_{\mathrm{fppf}}$ 上の層の完全列である($p$ が $X$ 上可逆とは限らない)。標数 $p$ の $X$ 上では、$0\to\alpha_p\to\mathbb G_a\xrightarrow{\,x\mapsto x^p\,}\mathbb G_a\to0$ も $X_{\mathrm{fppf}}$ 上完全である。
核については定義どおりである。全射性を示す。$T$ を $X_{\mathrm{fppf}}$ の対象、$a\in\Gamma(T,\mathcal O_T)^\times$ とし、$T'=\operatorname{Spec}_T\mathcal O_T[S]/(S^p-a)$ と置く。$T'\to T$ は階数 $p$ の自由加群を与える有限射なので、平坦かつ有限表示な全射であり、fppf 被覆である。$T'$ の上で $a=S^p$ は $p$ 乗である。$\mathbb G_a$ についても、$S^p-a$($a\in\Gamma(T,\mathcal O_T)$)で同じ議論をすればよい。
$p$ が可逆でないとき $T'\to T$ はエタールでない。これがエタール位相との違いである。
$f:X\to Y$ をスキームの射とする。$Y_{\mathrm{fppf}}$ 上の前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ の層化を $\mathcal Pic_{X/Y}$ と書き、その大域切断の群
$$
\mathrm{Pic}(X/Y):=\mathcal Pic_{X/Y}(Y)
$$
を相対 Picard 群と呼ぶ(相対Picard関手)。
本頁では、次の条件をまとめて (S) と呼ぶ。
次の事実は本頁では証明せず、引用として使う。出典の該当箇所は本頁では確認していない。
原論文は §5 の前半で結論を短く並べ、証明の多くを「いつものように」「直ちに」で済ませる。本頁では依存の順に並べ直し、省かれた段を補う。とくに原論文は、エタール位相での層化の式(原論文の式 (5.7))を狭義局所な底の場合(III (5.2))より前に印字するが、論理的には後者が先に要るので、本頁はその順に述べる。
$f:X\to Y$ が (S) を満たすとする。このとき $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$($Y_{\mathrm{fppf}}$ 上の層を、$Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象に制限したものとして)、$R^1f_*\mathbb G_m=\mathcal Pic_{X/Y}$ であり(どちらも fppf 位相での順像)、完全列
$$
0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\xrightarrow{\ \partial\ }H^2(Y,\mathbb G_m)
$$
がある。ここで最後の項は、比較定理により $H^2(Y_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ と同一視したものである。
(a) $Y'$ を $Y$ 上平坦かつ局所有限表示とすると、(S) により $\Gamma(X\times_YY',\mathcal O)=\Gamma(Y',\mathcal O)$ なので単数の群も一致する。よって、平坦かつ局所有限表示な対象の上で $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$。fppf 位相のコホモロジーは、被覆がもともと平坦な射からなるので、$Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象だけからなるサイトで計算しても同じであり、以下の議論にはこの範囲の等式で足りる。
(b) $R^1f_*\mathbb G_m$ は前層 $Y'\mapsto H^1((X\times_YY')_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ の層化であり、比較定理によりこの前層は $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')$ に等しい。前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(Y')$ の層化は $0$ である(可逆層は Zariski 局所に自明だから)。層化は完全関手なので、商の前層 $Y'\mapsto\mathrm{Pic}(X\times_YY')/\mathrm{Pic}(Y')$ の層化 $\mathcal Pic_{X/Y}$ は $R^1f_*\mathbb G_m$ に等しい。
(c) $f$ の fppf 位相での Leray スペクトル系列の低次の完全列に (a)(b) を代入し、比較定理で $H^1(-_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)=\mathrm{Pic}$、$H^2(Y_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)=H^2(Y,\mathbb G_m)$ と書き換えればよい。
(S) の第 3 条件(fppf 局所的な切断)は、原論文が $\mathcal Pic_{X/Y}$ を FGA の定義(忠実平坦な位相での層化)と一致させるために置くもので、上の証明の段では直接は使っていない。原論文は (S) のもとでの等式 $\mathcal Pic_{X/Y}=R^1f_*\mathbb G_m$ に「一粒の塩をもって」という但し書きを付ける(III 印字 p. 126)。本頁の定義では、これは両辺を $Y$ 上平坦かつ局所有限表示な対象の上で比べるという意味である。
$f:X\to Y$ が (S) を満たすとする。$\xi\in\mathrm{Pic}(X/Y)$ に対し、$Y$ のエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ で、各 $i$ について $\xi$ の $\mathrm{Pic}(X\times_YY_i/Y_i)$ への像が $\mathrm{Pic}(X\times_YY_i)$ の元から来るものがある。
補題の完全列により、$\xi$ が $\mathrm{Pic}(X)$ から来るための障害はただ一つ、$\partial\xi\in H^2(Y,\mathbb G_m)$ の消滅である。エタールコホモロジーの正の次数の類は、適当なエタール被覆に制限すると消える(前層 $V\mapsto H^2(V,\mathbb G_m)$ の層化は $0$)。そこで $\partial\xi$ が消えるエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ をとる。(S) はエタールな底変換で保たれ、補題の完全列は $Y_i$ の上でも成り立ち、$\partial$ は底変換と両立する。よって各 $Y_i$ の上で $\xi$ の像は持ち上がる。
(S) に加えて $Y$ が狭義局所なら、$\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)$ は同型である。
引用 3 により $\mathrm{Pic}(Y)=H^1(Y,\mathbb G_m)=0$ なので、補題の完全列から単射性が出る。全射性:$\xi\in\mathrm{Pic}(X/Y)$ について定理のエタール被覆 $(Y_i\to Y)$ をとる。引用 3 により、ある $Y_i$ は $Y$ と同型な連結成分 $Y^\circ$ をもつ。$\xi$ の像は $X\times_YY^\circ\cong X$ の上で直線束から来るので、$\xi$ 自身が $\mathrm{Pic}(X)$ の元の像である。
$f:X\to Y$ が (S) を満たし、(S) の第 2 条件が任意の底変換で保たれるとする。このとき $\mathcal Pic_{X/Y}$ を $Y_{\mathrm{et}}$ に制限したものは $R^1f_*\mathbb G_m$(エタール位相での順像)に等しい。
標準射があるので、幾何的点 $\bar y$ での茎を比べればよい。引用 1 により右辺の茎は $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y})$ である。左辺の茎は $\bar y$ のエタール近傍 $V$ にわたる帰納極限 $\varinjlim_V\mathrm{Pic}(X\times_YV/V)$ であり、引用 2 によりこれは $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y}/Y_{\bar y})$ に等しい。$Y_{\bar y}$ は狭義局所なので、系によりこれは $\mathrm{Pic}(X\times_YY_{\bar y})$ である。
原論文はこの主張を III (5.1) の言い換えと位置づけ、証明を書かない。上の概略では、系を狭義局所化 $Y_{\bar y}$($Y$ 上局所有限表示とは限らない)に当てるところで、相対 Picard 群の定義を極限で延ばす操作を引用 2 に任せている。
前の命題の仮定のもとで、エタールコホモロジーの完全列
$$
0\to\mathrm{Pic}(Y)\to\mathrm{Pic}(X)\to\mathrm{Pic}(X/Y)\xrightarrow{\ \partial\ }H^2(Y,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}\to H^1(Y,\mathcal Pic_{X/Y})
$$
がある。ここで $H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}:=\ker\big(H^2(X,\mathbb G_m)\to H^0(Y,R^2f_*\mathbb G_m)\big)$ である。
$f$ のエタール位相での Leray スペクトル系列 $E_2^{s,t}=H^s(Y,R^tf_*\mathbb G_m)\Rightarrow H^{s+t}(X,\mathbb G_m)$ をとる。エタール射は平坦なので、補題の (a) と同じ理由で $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ であり、前の命題により $R^1f_*\mathbb G_m=\mathcal Pic_{X/Y}$ である。第一象限のスペクトル系列の低次の完全列
$$
0\to E_2^{1,0}\to H^1\to E_2^{0,1}\to E_2^{2,0}\to\ker(H^2\to E_2^{0,2})\to E_2^{1,1}
$$
にこれらを代入すると、$E_2^{1,0}=\mathrm{Pic}(Y)$、$H^1=\mathrm{Pic}(X)$、$E_2^{0,1}=\mathrm{Pic}(X/Y)$、$E_2^{2,0}=H^2(Y,\mathbb G_m)$、$E_2^{1,1}=H^1(Y,\mathcal Pic_{X/Y})$ となり、主張の列を得る。$\partial$ は微分 $d_2:E_2^{0,1}\to E_2^{2,0}$ である。
$H^2(X,\mathbb G_m)^{\mathrm{tr}}$ は、原論文が「遷移的な元」と呼ぶものを核として書き直したものである。$\partial\xi=0$ であることと $\xi$ が $\mathrm{Pic}(X)$ から来ることが同値なので、$\partial$ は相対的な直線束の類を絶対的な直線束へ持ち上げる障害である。$\partial$ の像は $H^2(Y,\mathbb G_m)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ の核であり、「$X$ に引き戻すと消える Brauer 類」を相対 Picard 群が記述する、と読むこともできる。
$\partial$ の値は一般には $H^2(Y,\mathbb G_m)$ の元であって、Azumaya 代数の類とは限らない。原論文は、Mumford の正規曲面(II の §1 の例)の特異点の補集合をとると $\partial$ の値が $\mathrm{Br}(Y)$ に入らない場合があると述べるが、その例自体に講演者の思い違いでなければという留保を付けている。本書はこの例を検証していない。
さらに原論文は、$f$ が平坦・固有・有限表示で (S) が普遍的に成り立つ場合に $\partial$ の値が $\mathrm{Br}(Y)$ に入るかは分からないと書き(III 印字 p. 128、原文は「J'ignore」)、$f$ が射影的で $Y$ が準コンパクト、各 $y$ で $\kappa(y)\cong H^0(X_y,\mathcal O)$ となる場合に $\partial$ が $\mathrm{Pic}(X/Y)\to\mathrm{Br}(Y)$ を与えると主張する(III (5.5))。その論拠は、十分豊富な $\xi$ に対して、$f_*$ した局所自由層の射影化をエタール降下して $Y$ 上の Severi–Brauer スキームを作り、その類が $\partial\xi$ に等しいとするものである。しかし原論文は、この類の一致を J. Giraud に帰して証明も文献も与えず、また任意の元が十分豊富な二つの元の差に書けることにも証明を与えない。本書はこの二点を確かめておらず、III (5.5) を定理としては扱わない。
以下、$k$ を分離閉体、$\bar k$ をその代数閉包($\bar k/k$ は純非分離拡大)、$X$ を $k$ 上固有なスキーム、$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ とする。
$$
H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}:=\ker\Big(H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)\rightrightarrows H^2(X\otimes_k(\bar k\otimes_k\bar k),\mathbb G_m)\Big)
$$
と置く。二つの射は $\bar k\otimes_k\bar k$ の二つの因子への埋め込みから来る。これは、降下の意味で「$k$ 上に定義されていてよい」元の部分群である。
上の設定で、制限写像を含む完全列
$$
0\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}\to H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)
$$
がある。とくに、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ が単射であることと $H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$ は同値であり、$H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$ なら像はちょうど $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ である。
$f:X\to\operatorname{Spec}k$ の fppf 位相での Leray スペクトル系列 $E_2^{s,t}=H^s(k_{\mathrm{fppf}},R^tf_*\mathbb G_m)$ を使う。
(1) 底の行が消えること。 $A=H^0(X,\mathcal O_X)$ は $k$ 上有限な代数である。体上ではすべてのスキームが平坦なので、$k$ 上の任意の $T$ について $\Gamma(X_T,\mathcal O)=A\otimes_k\Gamma(T,\mathcal O)$ であり、$f_*\mathbb G_m$ は「$A$ の単数」の群スキーム $G$ で表される。$G$ は $A$ を台とするアフィン空間の中でノルムが可逆な開部分スキームなので、$k$ 上滑らかである。比較定理と、分離閉体の Galois コホモロジーが正の次数で消えることから、$E_2^{s,0}=H^s(k_{\mathrm{fppf}},G)=H^s(k,G)=0$($s\ge1$)。
(2) $R^1f_*\mathbb G_m=P$。 補題の (b) と同じ議論である。
(3) 列を読む。 底の行が消えるので、$H^2(X_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)$ のフィルトレーションの次数付きの部分は $E_\infty^{1,1}=E_2^{1,1}=H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)$ と $E_\infty^{0,2}=\ker(d_2:E_2^{0,2}\to E_2^{2,1})$ だけである。これを並べると
$$
0\to H^1(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^2(X_{\mathrm{fppf}},\mathbb G_m)\to H^0(k_{\mathrm{fppf}},R^2f_*\mathbb G_m)\to H^2(k_{\mathrm{fppf}},P)
$$
を得る。比較定理により中央の項は $H^2(X,\mathbb G_m)$ である。
(4) 第 3 項の同定。 $R^2f_*\mathbb G_m$ は前層 $T\mapsto H^2(X_T,\mathbb G_m)$ の層化である。$\operatorname{Spec}k$ の fppf 被覆は、有限な局所 $k$ 代数による被覆で細分でき(fppf 被覆が準有限な射で細分できるという SGA 3 の型の事実による)、さらにその剰余体 $L$ による被覆 $\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}k$ で細分できる。$k$ は分離閉なので $L/k$ は有限純非分離拡大であり、$\bar k$ はそのような $L$ の帰納極限である。引用 2 で極限をとると、大域切断は $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ になる。第 2 項から第 3 項への写像は Leray スペクトル系列の縁写像であり、これは底変換による制限写像である。
原論文は (4) を「容易な極限移行」とだけ書く。上の概略は、分離閉体の fppf 被覆が純非分離拡大で細分できるという一点に帰着させたものであり、層化の大域切断と帰納極限の交換は引用 2 に任せている。
$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ が $k$ 上滑らかなら、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ は同型である。$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ の場合と $H^1(X,\mathcal O_X)=0$ の場合は、$P$ が滑らかになる。
$P$ が滑らかなら、比較定理と $k$ の分離閉性により $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=H^i(k,P)=0$($i\ge1$)なので、命題の列から主張が出る。
後半の二つの場合は理由が異なる。$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ なら、引用 4 により変形の障害が消えるので、局所有限型の $P$ は形式的に滑らか、したがって滑らかである。$H^1(X,\mathcal O_X)=0$ なら、引用 4 により原点での接空間が $0$ である。体上局所有限型の群スキームは平行移動で等質なので、どの点でも不分岐であり、したがって $P$ はエタール、とくに滑らかである。
$X$ を分離閉体 $k$ 上の固有な代数曲線とする。このとき $H^2(X,\mathbb G_m)=0$、とくに $\mathrm{Br}(X)=0$ である。
$X$ は次元 1 なので、連接層の $H^2$ は消え、$H^2(X,\mathcal O_X)=0$ である。前の系により $P$ は滑らかで、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ は単射である。$X_{\bar k}$ は代数閉体上の固有な代数曲線なので、引用 7 により $\mathrm{Br}(X_{\bar k})=0$ であり、引用 8 により $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(X_{\bar k})=0$ である。よって $H^2(X,\mathbb G_m)=0$ であり、標準的な単射 $\mathrm{Br}(X)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ により $\mathrm{Br}(X)=0$ である。
$X_{\bar k}$ に引用 8 を当てる段に留保はない。$X_{\bar k}$ はネーターで次元 $1$ の曲線であり、引用 8 は剰余体の条件なしに適用できる(原論文は III (1.2) を $X_{\bar k}$ に当てることも、そのために単射性が要ることも書かず、「(1.2) を使えば」とだけ書く)。
$k$ の標数を $p>0$ とし、$P$ の被約部分 $P'=P_{\mathrm{red}}$ が $k$ 上滑らかな部分群スキームであると仮定する。$P''=P/P'$ と置くと次が成り立つ。
原論文はこの計算を「容易な分解(dévissage)」の一言で済ませ(III 印字 p. 132)、$\alpha_p$ と $\mu_p$ への分解も、$H^1$ が $0$ でないことの論証も書かない。また原論文は、$P^0$ が $k$ 上固有なら(たとえば $X$ が幾何的に正規なら)$P_{\mathrm{red}}$ が滑らかな部分群スキームになると述べるが、紙面に証明は無く、本書は確かめていない。非完全体の上では被約な群スキームが滑らかとは限らないので、本頁ではこれを仮定として置いた。
$P=\mathrm{Pic}_{X/k}$ に何も仮定しなくても、$H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$($i\ge2$)である。したがって $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ はつねに全射である。
標数 $0$ なら $k$ は完全で分離閉、すなわち代数閉なので $\bar k=k$ であり、主張は自明である($P$ も滑らかである)。標数 $p>0$ とする。引用 4・引用 6 により、有限無限小な部分群 $N\subset P$ で $P/N$ が滑らかなものがとれる。$P/N$ は滑らかなので $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P/N)=0$($i\ge1$)であり、長完全列
$$
H^{i-1}(k_{\mathrm{fppf}},P/N)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},N)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)\to H^i(k_{\mathrm{fppf}},P/N)
$$
で $i\ge2$ なら両端が $0$ である。$N$ は有限無限小な可換群スキームなので、前の命題の (2) の証明(組成列による帰納法)により $H^i(k_{\mathrm{fppf}},N)=0$($i\ge2$)。よって $H^i(k_{\mathrm{fppf}},P)=0$($i\ge2$)であり、降下の完全列から全射性が出る。
原論文は $N$ の存在を使えと括弧で指示するだけで、この長完全列を書かない。また原論文の印字では、結論の右辺が $\mathrm{Br}(X_{\bar k})^{\mathrm{inv}}$ と書かれているが、定義に合わせて $H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)^{\mathrm{inv}}$ と読む。
原論文に無い例である。$Y=\operatorname{Spec}\mathbb R$、$X\subset\mathbb P^2_{\mathbb R}$ を $x^2+y^2+z^2=0$ で定まる円錐曲線とする。$X$ は固有で幾何的に整なので (S) の第 2 条件を普遍的に満たし、$X_{\mathbb C}\cong\mathbb P^1_{\mathbb C}$ は切断をもつので第 3 条件も満たす。
$k$ を標数 $p>0$ の完全でない分離閉体とする。命題「Picardスキームが滑らかでない場合」の証明と同じ計算で $H^1(k_{\mathrm{fppf}},\mu_p)=k^\times/(k^\times)^p\ne0$ である。他方、エタールコホモロジーでは $H^1(k,\mu_p)=0$($k$ は分離閉)である。したがって、比較定理から「滑らか」を外すことはできない。破られるのは群の滑らかさだけで、$\mu_p$ は $k$ 上有限かつ平坦な可換群スキームである。
完全体 $k_0$ 上の射影的で滑らかな曲面 $X_0$ で、$\mathrm{Pic}_{X_0/k_0}$ が被約でないものがあるとする(標数 $2$ の Igusa の曲面がそのような例であることが知られている。本頁では出典を確認していない)。$k$ を $k_0$ を含む完全でない分離閉体(たとえば $\bar k_0(t)$ の分離閉包)とし、$X=X_0\otimes_{k_0}k$ と置く。$\mathrm{Pic}_{X/k}=\mathrm{Pic}_{X_0/k_0}\otimes k$ であり、完全体上では被約部分が滑らかな部分群スキームなので、その底変換は $\mathrm{Pic}_{X/k}$ の被約部分で、滑らかである。$\mathrm{Pic}_{X/k}$ は滑らかでないので、命題「Picard スキームが滑らかでない場合」により、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_{\bar k},\mathbb G_m)$ は単射でない。すなわち、代数閉包へ上げると消える $H^2$ の元がある。
曲線ではこの現象は起きない。次元 1 では $H^2(X,\mathcal O_X)=0$ なので Picard スキームはつねに滑らかであり、系「分離閉体上の曲線」の証明がその事実を使っている。
以下は原論文(1966 年の講演、1968 年刊)より後の展開であり、本頁では出典を確認していない。
| 原論文(III §5、印字 pp. 124–133) | 本頁 |
|---|---|
| 式 (5.1)(5.2):$\varepsilon_*$ と比較写像 | 命題「低い次数での比較」 |
| 式 (5.2) が滑らかな $G$ で同型であること(付録 (11.7) に委任) | 定理「比較定理」(4-2 の頁で証明) |
| 式 (5.3)(5.4):仮定と $\mathcal Pic_{X/Y}=R^1f_*\mathbb G_m$ | 条件 (S)、補題「fppf位相でのLerayの低次の列」 |
| 式 (5.5)(5.6) | 同上の補題の完全列と比較定理 |
| 定理 (5.1) | 定理「エタール局所的な持ち上げ」 |
| 式 (5.7) | 命題「エタール位相での層化」(順序を系の後に回した) |
| 系 (5.2)・式 (5.8) | 系「狭義局所な底」 |
| 系 (5.3)・式 (5.9)、段落 (5.4) | 定理「障害準同型を含む完全列」 |
| Mumford の例、「J'ignore」、射影束の構成、系 (5.5)・式 (5.10) | 注意「障害はいつAzumaya代数の類になるか」(III (5.5) は定理として扱わない) |
| 式 (5.11)〜(5.14)、命題 (5.6) | 命題「分離閉体上の降下の完全列」 |
| 式 (5.15)、系 (5.7) | 系「Picardスキームが滑らかな場合」 |
| 系 (5.8) | 系「分離閉体上の曲線」 |
| 注意 (5.9)・式 (5.16)〜(5.18) | 命題「Picardスキームが滑らかでない場合」 |
| 式 (5.19) | 定理「降下の写像の全射性」 |
| (原論文に無い) | 例「実数体上の点をもたない円錐曲線」、例「降下の写像が単射でない場合」 |
原論文の §5 では、式番号と言明の番号が同じ数字を使う(式 (5.1)〜(5.4) と定理 (5.1)・系 (5.2)(5.3) など)。上の表では種別を添えて区別した。また原論文は式番号 (5.12) を二度印字している。
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