$X$ をネーター・スキームとする。$\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)_{\mathrm{tors}}$ と書く(記号表の注)。
1-3 で $\mathrm{Br}(X)\hookrightarrow H^2(X,\mathbb G_m)$ を得た。位相空間では Serre の定理により像はちょうど捩れ部分群であった(1-1)。スキームでも同じことが言えるかが、講演 II の中心的な問いである。
講演 II は二つのことに気づく。第一に、$H^2(X,\mathbb G_m)$ はそもそも捩れとは限らない(Mumford の正規曲面。§5)。したがって比べる相手は捩れ部分群であるべきである。第二に、全射性を保証する満足な一般判定法が当時は無く、しかも $H^2(X,\mathbb G_m)$ は Azumaya 代数による解釈とは独立に計算しやすい対象である。そこで講演 II は $H^2(X,\mathbb G_m)$ を「コホモロジー的 Brauer 群」と名づけ、以後の計算(第2〜7章)はこの群を主な対象にする。講演者自身、全射性の問いに対して、複素数体上の正規曲面や非特異 3 次元多様体でも答えを知らないと述べている(II, p. 76)。
本頁の方法は二つある。一つは、$\mathbb G_m$ を「有理関数」と「因子」の二つの層に分けることである。有理関数の側は体の Galois コホモロジーに帰着して捩れになり、因子の側は点ごとの層に分かれて計算できる(コホモロジー的Brauer群)。もう一つは、Azumaya 代数を生成点から始めて余次元の低い点を一つずつ越えて延ばし、各段で類が一致することを Mayer–Vietoris 列で確かめることである。
Cartier 因子の層.$X$ を被約なネーター・スキームとし、$g_i\colon\eta_i=\operatorname{Spec}\kappa(\eta_i)\to X$ を生成点(有限個)とする。可逆な有理関数の層を $\mathcal R_X^\times=\bigoplus_ig_{i*}\mathbb G_{m,\eta_i}$ と定める(アフィンでエタールな $U$ の上では、$U$ の全商環の単元群である)。$X$ は被約なので $\mathbb G_m\to\mathcal R_X^\times$ は単射で、その余核を Cartier 因子の層 $\mathcal Div_X$ と呼ぶ:
$$0\to\mathbb G_m\to\mathcal R_X^\times\to\mathcal Div_X\to0.\tag{3.1}$$
Weil 因子の層.$X$ が正規なら、各 $x\in X^{(1)}$ で $\mathcal O_{X,x}$ は離散付値環であり、付値で $\mathcal Div_X\to\mathcal Z^1_X=\bigoplus_{x\in X^{(1)}}i_{x*}\mathbb Z$ が得られる($i_x\colon\operatorname{Spec}\kappa(x)\to X$)。これは単射で、幾何的点 $\bar y$ での余核は狭義 Hensel 化の因子類群 $\mathrm{Cl}(\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y})$ である。したがって、これが同型であることは、エタール局所環(狭義 Hensel 化)がすべて一意分解整域であることと同値である。余核を局所 Picard 群の層と呼ぶ(局所Picard群)。
本頁で引用として使う事実(証明しない).
$X$ は正規で、連結成分ごとに考えて $X$ は整としてよい。$g\colon\eta=\operatorname{Spec}K\to X$ を生成点とする。仮定と §3 により (3.1) は
$$0\to\mathbb G_m\to g_*\mathbb G_{m,K}\to\bigoplus_{x\in X^{(1)}}i_{x*}\mathbb Z\to0\tag{4.1}$$
となる。
(a) 真ん中の項.(G5) の Leray の系列で $H^p(X,R^qg_*\mathbb G_m)\Rightarrow H^{p+q}(K,\mathbb G_m)$。$q\ge1$ の $R^qg_*\mathbb G_m$ は (G2) で捩れ層なので、$p+q\ge1$、$q\ge1$ の $E_2$ 項は捩れ。$E_\infty^{n,0}$ は $H^n(K,\mathbb G_m)$ の部分群で、$n\ge1$ では (G1) により捩れ。$E_2^{n,0}=H^n(X,g_*\mathbb G_m)$ から $E_\infty^{n,0}$ への道のりでは、捩れ群($E_r^{n-r,r-1}$)からの微分の像で割るだけなので、$E_2^{n,0}$ は捩れ群による捩れ群の拡大であり、捩れである。したがって $H^n(X,g_*\mathbb G_m)$ は $n\ge1$ で捩れ。
(b) 右の項.各 $x\in X^{(1)}$ について、同じ議論($i_x$ への Leray の系列と、$H^n(\kappa(x),\mathbb Z)$ が $n\ge1$ で捩れであること)で $H^n(X,i_{x*}\mathbb Z)$ は $n\ge1$ で捩れ。(G2) により直和と交換するので $H^n(X,\mathcal Z^1_X)$ も捩れ。さらに $n=1$ では 0 である:(G5) より $H^1(X,i_{x*}\mathbb Z)\hookrightarrow H^1(\kappa(x),\mathbb Z)=\operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(\mathrm{Gal},\mathbb Z)=0$(射有限群から捩れの無い離散群への連続準同型は像が有限なので $0$)。
(c) (1) の証明.(4.1) の長完全列
$$H^{q-1}(X,\mathcal Z^1_X)\to H^q(X,\mathbb G_m)\to H^q(X,g_*\mathbb G_m)$$
で、$q\ge2$ なら両端が (a)(b) により捩れなので、真ん中も捩れ。
(d) (2) の証明.(4.1) と (b) の $H^1(X,\mathcal Z^1_X)=0$ から、$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X,g_*\mathbb G_m)$ は単射。次に (G5) の低次の完全列で、$H^2(X,g_*\mathbb G_m)\to H^2(K,\mathbb G_m)$ の核は $H^0(X,R^1g_*\mathbb G_m)$ の像である。$R^1g_*\mathbb G_m$ の幾何的点 $\bar y$ での茎は、(G2) により $H^1(\operatorname{Spec}(\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}\otimes_{\mathcal O_X}K),\mathbb G_m)$ である。$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}$ は正規整域で、$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}\otimes K$ はその商体である。Hilbert の定理 90(G3)によりこの群は $0$。よって $R^1g_*\mathbb G_m=0$ で、合成 $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(K,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(K)$ は単射。1-3 の定理 C と合わせて $\mathrm{Br}(X)\hookrightarrow\mathrm{Br}(K)$。$\square$
注意(原論文の番号の入れ替わり).原論文 II は、ここで使った「$H^1(X,i_{x*}\mathbb Z)=0$」(II (1.9))と「Brauer 群の生成点への単射性」(II (1.10))を、後の段落で互いに取り違えて引いている(II (1.11) a) と式 (6))。本頁の証明は内容で並べた。
被約な場合の同じ議論.$X$ が被約なネーター・スキーム(正規とは限らない)なら、(a) の議論は各生成点 $g_i$ にそのまま通り、$H^n(X,\mathcal R_X^\times)$ は $n\ge1$ で捩れである。(d) の後半の議論も、$R^1g_{i*}\mathbb G_m$ の茎が Krull 次元 $0$ の環 $\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,\bar y}\otimes\kappa(\eta_i)$ の Picard 群で $0$(G3)となることから通り、$H^1(X,\mathcal R_X^\times)=0$、$H^2(X,\mathcal R_X^\times)\hookrightarrow\bigoplus_i\mathrm{Br}(\kappa(\eta_i))$ を得る。したがって (3.1) の境界写像 $\partial\colon H^1(X,\mathcal Div_X)\to H^2(X,\mathbb G_m)$ は単射で、その像が制限 $H^2(X,\mathbb G_m)\to\bigoplus_i\mathrm{Br}(\kappa(\eta_i))$ の核である。(II (1.6)、(1.7)。)
次元 $\le1$ の場合.まず次の補題を示す。
補題 0(冪零元による不変性).$X$ をネーター、$X_0=X_{\mathrm{red}}$、$d=\dim X$ とする。制限 $H^q(X,\mathbb G_m)\to H^q(X_0,\mathbb G_m)$ は $q\ge d+1$ で同型であり、$X$ がアフィンなら $q\ge1$ で同型である。
証明.(G10) により $X$ と $X_0$ のエタール景は同じである。冪零根基を $N$ とすると、単元は冪零元を法として持ち上がるので $1\to1+N\to\mathbb G_{m,X}\to\mathbb G_{m,X_0}\to1$ は完全である。$1+N$ は $1+N^i$ による有限のフィルトレーションをもち、$(1+N^i)/(1+N^{i+1})\cong N^i/N^{i+1}$($1+a\mapsto a$)は準連接層に付随する層である。(G10) により $q>d$(アフィンなら $q\ge1$)で $H^q(X,1+N)=0$ となり、長完全列から主張が従う。$\square$
$\dim X\le1$ とする。$X$ が被約なら、$\mathcal Div_X$ の生成点での茎は $0$ で、準コンパクトなエタールな $U$ の上の切断の台は有限個の閉点からなるので、
$$\mathcal Div_X=\bigoplus_{x}i_{x*}\bigl(\mathcal Div_{X,x}\bigr)$$
($x$ は $\dim\mathcal O_{X,x}=1$ の閉点。$\mathcal Div_{X,x}$ は $\operatorname{Spec}\kappa(x)$ 上のエタール層で、幾何的点での値は狭義 Hensel 化の Cartier 因子の群)となる。閉点では $i_{x*}$ は完全なので、$H^q(X,\mathcal Div_X)=\bigoplus_xH^q(\kappa(x),\mathcal Div_{X,x})$ は $q\ge1$ で捩れ(G1)であり、上の被約な場合の議論と合わせて、$q\ge2$ で $H^q(X,\mathbb G_m)$ は捩れである。一般の $X$ では、補題 0($d\le1$)により $q\ge2$ で $H^q(X,\mathbb G_m)\cong H^q(X_{\mathrm{red}},\mathbb G_m)$ なので、同じ結論を得る(II (1.5))。
一方、(2) の型の単射性は一般には成り立たない。$H^1(X,\mathcal Div_X)=\bigoplus_xH^1(\kappa(x),\mathcal Div_{X,x})$ は、$\mathcal Div_{X,x}$ が捩れの無い定数層とは限らないため $0$ とは限らない(§5 の例 1)。閉点の剰余体 $\kappa(x)$ が分離閉なら、この群は $0$ で、生成点への制限は単射になる(II (1.8))。原論文 II (1.11) c) は、この仮定を「剰余体の次元が $\le1$」または「$X$ が幾何的単分岐」に弱められるだろうと見込むが、後者は成り立たない(§5 の反例「幾何的単分岐な曲線」)。前者は本書では扱わない。
必要性.$\xi=\delta(A)$ なら、1-3 の定理 A (iii) により有限エタール全射 $U'\to X$ で $A$ は行列代数になり、$\xi|_{U'}=0$。$X$ は局所なので近傍 $U$ は $X$ 自身にとれる。
十分性.$\xi|_{X'}=0$ となる有限エタール全射 $X'\to X$ をとる。$X'$ を連結成分の一つに置き換え、その Galois 閉包をとることで、$X'\to X$ は有限群 $G$ の Galois 被覆としてよい。(G6) の Hochschild–Serre の系列
$$E_2^{p,q}=H^p(G,H^q(X',\mathbb G_m))\Rightarrow H^{p+q}(X,\mathbb G_m)$$
で、$X'$ は半局所スキーム(有限個の閉点をもつアフィンスキーム)なので $H^1(X',\mathbb G_m)=\mathrm{Pic}(X')=0$。したがって $E_2^{p,1}=0$ で、低次の完全列
$$0\to H^2(G,\Gamma(X',\mathbb G_m))\xrightarrow{\ \alpha\ }H^2(X,\mathbb G_m)\xrightarrow{\ \beta\ }H^2(X',\mathbb G_m)$$
を得る。$\xi\in\ker\beta$ なので、$\xi=\alpha(c)$ となる 2 コサイクル $c\in Z^2(G,R'^\times)$($X'=\operatorname{Spec}R'$)がある。接合積(1-3 の例 5)
$$A_c=\bigoplus_{\sigma\in G}R'u_\sigma,\qquad u_\sigma\lambda=\sigma(\lambda)u_\sigma,\quad u_\sigma u_\tau=c(\sigma,\tau)u_{\sigma\tau}$$
は $R$ 上階数 $|G|^2$ の Azumaya 代数であり、その類について $\delta(A_c)=\varepsilon\,\alpha(c)$ が成り立つ(接合積の古典的な計算。引用。$\varepsilon=\pm1$ は符号の規約だけで決まり、$c$ によらない)。$\delta$ の像 $\mathrm{Br}(X)$ は部分群なので、$\xi=\alpha(c)=\varepsilon\,\delta(A_c)\in\mathrm{Br}(X)$。$\square$
$R$ を Hensel 局所環、$R^{\mathrm{sh}}$ をその狭義 Hensel 化とする。$R^{\mathrm{sh}}$ は、剰余体の有限分離拡大に対応する $R$ 上の有限エタール局所代数 $R_i$ の帰納極限である(Hensel 性により、剰余体の有限分離拡大は有限エタール拡大に一意に持ち上がる)。$\xi\in H^2(R,\mathbb G_m)$ は (G7) により $H^2(R^{\mathrm{sh}},\mathbb G_m)=0$ で消え、同じく (G7) により、ある $R_i$ の上で既に消える。$\operatorname{Spec}R_i\to\operatorname{Spec}R$ は有限エタール全射なので $\xi$ は isotrivial で、定理 C により $\xi\in\mathrm{Br}(R)$。$\square$
とくに Hensel 局所環では $H^2(R,\mathbb G_m)$ 全体が捩れであり、1-3 の定理 D と合わせて $H^2(R,\mathbb G_m)\cong\mathrm{Br}(R)\cong\mathrm{Br}(k)$ となる。
開集合 $U$ の上で $\xi$ が実現されるとは、$U$ 上の Azumaya 代数 $A$ で $\xi|_U=\delta(A)$ となるものがあることをいう。まず局所環の場合を二つの補題で扱う。
補題 1(格子の対応).$\mathcal O$ を次元 $1$ のネーター局所環、$f\in\mathfrak m$ を非零因子で $V(f)=\{\mathfrak m\}$ となるもの、$\mathcal O\to\mathcal O'$ を平坦な局所準同型で、すべての $k$ について $\mathcal O/f^k\to\mathcal O'/f^k$ が同型なものとする。$K=\mathcal O_f$、$K'=\mathcal O'_f$、$V$ を自由 $K$ 加群、$V'=V\otimes_KK'$ とする。有限生成で $L_f=V$ となる部分 $\mathcal O$ 加群 $L\subset V$ を格子と呼ぶ($\mathcal O'$ についても同様)。このとき $L\mapsto L\otimes_{\mathcal O}\mathcal O'$ は $\mathcal O$ 格子の全体から $\mathcal O'$ 格子の全体への全単射で、包含を保つ。$V$ が $K$ 代数なら、積 $L_1L_2$ と、$1$ を含むことも保たれる。
証明.$\mathcal O\to\mathcal O'$ は平坦な局所準同型なので忠実平坦で、$L\otimes\mathcal O'\to V'$ は単射である。$V$ の基底が張る格子 $L_0$ と $L'_0=L_0\otimes\mathcal O'$ をとる。どの格子 $L$ についても、ある $N$ で $f^NL_0\subset L\subset f^{-N}L_0$ となる($\mathcal O'$ についても同様)。この範囲の $\mathcal O$ 格子は $Q_N=f^{-N}L_0/f^NL_0\cong(\mathcal O/f^{2N})^r$ の部分加群と一対一で、$\mathcal O'$ 格子は $Q'_N\cong(\mathcal O'/f^{2N})^r$ の部分加群と一対一である。仮定により $Q_N\to Q'_N$ は同型で、$\mathcal O'$ は $Q'_N$ に $\mathcal O'/f^{2N}=\mathcal O/f^{2N}$ を通して作用するので、両者の部分加群は一致する。平坦性により $(L\otimes\mathcal O')/f^NL'_0=(L/f^NL_0)\otimes\mathcal O'$ はこの同型で $L/f^NL_0$ に対応し、$N$ を大きくしても対応は両立する。積 $L_1L_2$ は $L_1\otimes L_2\to V$ の像なので、平坦な $\mathcal O'$ を掛けると $(L_1\otimes\mathcal O')(L_2\otimes\mathcal O')$ になる。$1\in L$ は $\mathcal O\cdot1+L=L$ と同値で、これも $\mathcal O'$ を掛けて保たれる。$\square$
補題 2(次元 $\le1$ の局所環).$\mathcal O$ を次元 $\le1$ のネーター局所環とすると、$\mathrm{Br}(\mathcal O)=H^2(\operatorname{Spec}\mathcal O,\mathbb G_m)$。
証明.$S=\operatorname{Spec}\mathcal O$、$s$ を閉点、$\kappa=\kappa(s)$ とする。
(0) 次元 $0$.$\mathcal O$ は Artin 局所環で、補題 0(アフィン)により $H^2(S,\mathbb G_m)\cong H^2(\kappa,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(\kappa)$。1-2 の定理 D により $\kappa$ 上の中心単純環は $\mathcal O$ 上の自由な代数に持ち上がり、これは Azumaya 代数である。$\mathrm{Br}(\mathcal O)\to H^2(S,\mathbb G_m)$ は単射なので、両者は一致する。
(1) 次元 $1$ で $\mathcal O$ が被約.
(2) 次元 $1$ で一般.$\mathcal O_0=\mathcal O_{\mathrm{red}}$ とすると、補題 0(アフィン)により $H^2(S,\mathbb G_m)\cong H^2(\operatorname{Spec}\mathcal O_0,\mathbb G_m)$。(1) により $\zeta$ の像は $\delta(\Lambda_0)$ と書け、(G10) により $\Lambda_0$ は $\mathcal O$ 上の Azumaya 代数 $\Lambda$ に持ち上がる。$\delta(\Lambda)$ と $\zeta$ は同じ像をもつので等しい。$\square$
(原論文 II (2.1) の証明は、この補題に当たる段を「局所環が 1 次元なので難しくない」とだけ述べる。上の (1) の格子による貼り合わせと、生成点と Hensel 化の両方で消える類が $0$ であることの議論は本頁で補った。(e) は閉点の剰余体についての仮定を使わない。)
段 1(生成点).$\eta_1,\dots,\eta_m$ を既約成分の生成点とし、$\eta_j$ を含み他の既約成分と交わらないアフィン開集合 $V_j$ をとる($V_j$ は互いに交わらない)。$\mathcal O_{X,\eta_j}$ は次元 $0$ なので、補題 2 により $\xi|_{\operatorname{Spec}\mathcal O_{X,\eta_j}}=\delta(A_j^0)$。(G8) により $A_j^0$ は縮めた $V_j$ 上の Azumaya 代数 $A_j$ に延び、(G7)($\operatorname{Spec}\mathcal O_{X,\eta_j}$ は $V_j$ の射影極限)によりさらに縮めれば $\xi|_{V_j}=\delta(A_j)$。$U=\bigsqcup_jV_j$ の上で $\xi$ は実現される。
段 2(次元 1 の点を越える).$U$ をすべての生成点を含む開集合、$A$ を $U$ 上の Azumaya 代数で $\xi|_U=\delta(A)$ となるものとする。$X\smallsetminus U$ の点 $x$ で $\dim\mathcal O_{X,x}=1$ のものは、真の一般化(生成点で $U$ に属する)が $X\smallsetminus U$ に無いので、$X\smallsetminus U$ の既約成分の生成点であり、有限個しかない。その一つ $x$ について、$x$ を含む開集合 $V''$ と $U\cup V''$ 上の実現を作る。
段 3(次元 2 の点を越える).(2) の仮定のもとで、段 2 の $U$、$A$ から始める。$X\smallsetminus U$ の点 $y$ で $\dim\mathcal O_{X,y}=2$ のものは、同じ理由で $X\smallsetminus U$ の既約成分の生成点であり、有限個である。その一つ $y$ をとる。
(3) の証明.$\dim X\le1$ なら、すべての点で $\dim\mathcal O_{X,y}\le1$ なので、(1) の $Y$ は空である。$X$ が正則で $\dim X\le2$ なら、(2) の $Y$ は空で、定理 A により $H^2(X,\mathbb G_m)$ は捩れなので $\mathrm{Br}(X)=\mathrm{Br}'(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$。
(4) の証明.$X$ は正則・連結なので整である。定理 A (2) を $X$ と各 $\operatorname{Spec}\mathcal O_{X,x}$ に当てて、$\mathrm{Br}(X)\subset\mathrm{Br}(\mathcal O_{X,x})\subset\mathrm{Br}(K)$ を得る。逆に $\alpha$ がすべての $x\in X^{(1)}$ で $\mathrm{Br}(\mathcal O_{X,x})$ に入るとする。$\alpha$ を表す中心単純環 $A_K$ を、(G8) により稠密な開集合 $U$ の上の Azumaya 代数 $A$ に延ばす。$x\in X^{(1)}\smallsetminus U$ では、仮定により $\mathcal O_{X,x}$ 上の Azumaya 代数 $B^0$ で類が $\alpha$ のものがある。段 2 の (a)(b)(d) を、(c) を「$A\otimes K$ と $B^0\otimes K$ は同じ類・同じ次数の中心単純環なので同型」に替えて行えば、$U\cup V'$ 上の Azumaya 代数で生成点での類が $\alpha$ のものを得る(類を比べる (e) は不要)。これをくり返したあと、段 3 の (a)(b)(d)(e) を同様に行えば((c)(f) は不要)、$\dim X\le2$ なので $X$ 全体の上の Azumaya 代数 $C$ で $[C\otimes K]=\alpha$ となるものを得る。$\square$
(原論文 II は、(2.1) の第二の主張の議論と (2.2) の第二の主張が本質的に Auslander–Goldman によると述べている。(4) の証明はコホモロジーを使わず、Auslander–Goldman の形に当たる。)
$X$ を局所スキーム、$\ell$ を剰余標数と異なる素数とする。Kummer 列(2-2)により $H^2(X,\mathbb G_m)$ の $\ell^n$ 捩れ元は $H^2(X,\mu_{\ell^n})$ から来るので、定理 C と合わせると次が分かる:$H^2(X,\mathbb G_m)$ の $\ell$ 準素部分がすべて $\mathrm{Br}(X)$ に入ることは、すべての $n$ とすべての $\zeta\in H^2(X,\mu_{\ell^n})$ が有限エタール被覆で消えることと同値である(II (2.6))。「$\Leftarrow$」は、$\zeta$ を消す有限エタール全射がその像も消すことによる。「$\Rightarrow$」は、$\zeta$ の像を消す有限エタール全射 $X'\to X$ をとると、$X'$ は半局所なので $\mathrm{Pic}(X')/\ell^n=0$ であり、Kummer 列から $\zeta|_{X'}=0$ となることによる。原論文は、$X$ が体上の滑らかなスキームの局所化ならこの条件がみたされると述べ、その根拠として Artin の「良い近傍」(SGA 4 XI)を挙げる。この最後の主張は 1968 年版の言明から脱落しており、Bourbaki 版の正誤表で補われている。本頁ではこの主張を証明せず、引用として扱う。
例 1(非正規曲線では生成点への単射性が崩れる).$X=\operatorname{Spec}\mathbb R[x,y]/(x^2+y^2)$ とする。$x^2+y^2$ は $\mathbb R$ 上既約なので $X$ は整な曲線であり、原点 $o$ だけが特異点で、$\kappa(o)=\mathbb R$。$t=y/x$ は $t^2=-1$ をみたすので、関数体は $K=\mathbb C(x)$ である。Tsen の定理(3-1)により $\mathrm{Br}(\mathbb C(x))=0$。一方、四元数 $\mathbb H\otimes_{\mathbb R}\mathcal O_X$ は $X$ 上の Azumaya 代数で、原点への制限は $\mathbb H\ne0\in\mathrm{Br}(\mathbb R)$ だから、その類は $\mathrm{Br}(X)$ で $0$ でない。したがって $\mathrm{Br}(X)\to\mathrm{Br}(K)$ は単射でない。この例は定理 A (2) の「狭義 Hensel 化が一意分解整域」を破り($o$ での狭義 Hensel 化は $\mathbb C$ 上の 2 本の直線の交点で、整域ですらない)、次元 $\le1$ の場合の「閉点の剰余体が分離閉」という仮定(§4-1)も破っている($\kappa(o)=\mathbb R$)。なお $\dim X=1$ なので、定理 B (3) により $\mathrm{Br}(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$ は成り立っている。原論文 II (1.11) b) は、この例を Auslander–Goldman に帰している。
原論文 II (1.11) c) は、次元 $\le1$ のネーター・スキーム $X$ が幾何的単分岐(被約化の整閉包の各局所環が局所環で、その剰余体が元の剰余体の純非分離拡大)なら、生成点への制限 $H^2(X,\mathbb G_m)\to\bigoplus_i\mathrm{Br}(\kappa(\eta_i))$ が単射になるだろうと見込む。これは成り立たない。
$p$ を素数、$k=\mathbb F_p(a,b)$(2 変数の有理関数体)、$k'=k(\alpha)$($\alpha^p=a$)、$R=k+t\,k'[t]\subset k'[t]$、$X=\operatorname{Spec}R$ とする。
例 2(孤立特異点をもつ正規曲面と Mumford の例).$X$ を正規なネーター・スキーム、$Z$ を有限個の閉点の集合とし、$Z$ の外で狭義 Hensel 化が一意分解整域であるとする。$x\in Z$ について $U_x=\operatorname{Spec}\mathcal O_{X,x}\smallsetminus\{x\}$、$\bar U_x=\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,x}\smallsetminus\{\text{閉点}\}$、$\pi_x$ を剰余体の絶対 Galois 群とする。局所 Picard 群の層は $Z$ に台をもち、$0\to\mathcal Div_X\to\mathcal Z^1_X\to(\text{局所 Picard 群の層})\to0$ と $H^1(X,\mathcal Z^1_X)=0$ から、
$$\ker\bigl(H^2(X,\mathbb G_m)\to\mathrm{Br}(K)\bigr)\cong H^1(X,\mathcal Div_X)\cong\Bigl(\bigoplus_{x\in Z}\mathrm{Pic}(\bar U_x)^{\pi_x}\Bigr)\Big/\operatorname{Im}Z^1(X)$$
を得る($X$ が整の場合。$Z^1(X)$ は $X$ の Weil 因子の群で、各 Weil 因子を各点 $x$ での局所的な類に送る)。ここで $\bar U_x$ と $U_x$ は局所的に因子分解的なので $\mathrm{Pic}(\bar U_x)=\mathrm{Cl}(\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{X,x})$、$\mathrm{Pic}(U_x)=\mathrm{Cl}(\mathcal O_{X,x})$ であり、後者は前者の部分群である(G12)。したがって完全列
$$0\to\operatorname{Coker}\Bigl(Z^1(X)\to\bigoplus_{x\in Z}\mathrm{Pic}(U_x)\Bigr)\to H^1(X,\mathcal Div_X)\to\bigoplus_{x\in Z}\mathrm{Pic}(\bar U_x)^{\pi_x}/\operatorname{Im}\mathrm{Pic}(U_x)\to0$$
がある。$Z$ が 1 点 $x$ なら、$\mathcal O_{X,x}$ の高さ $1$ の素イデアルはどれも $X$ の余次元 $1$ の点の閉包の局所的な類なので左端は $0$ で、
$$H^1(X,\mathcal Div_X)\cong\mathrm{Pic}(\bar U_x)^{\pi_x}/\operatorname{Im}\mathrm{Pic}(U_x)$$
となる。原論文 II (1.11) b) の式 (7)・(7 bis) はこの右辺を $x\in Z$ についての直和の形で述べ、「(6) から容易に導かれる」とするが、$Z$ が 2 点以上では一般に成り立たない(次の反例)。
原論文は同じ段落で、講演者自身の留保「Sauf malentendu de la part du conférencier」(II, p. 75)を付けて、Mumford の例を挙げる。Mumford は、局所環 $\mathcal O_{X,x}$ が一意分解整域であるのに $\mathrm{Pic}(\bar U_x)$ が捩れでも有限型でもない(望むなら複素数体上の)正規曲面を構成した、という。$x$ の外で狭義 Hensel 化が一意分解整域なら、上の 1 点の場合の式から $H^1(X,\mathcal Div_X)\cong\mathrm{Pic}(\bar U_x)$ は捩れでなく、$H^2(X,\mathbb G_m)$ は捩れでない。本頁は Mumford の構成を確かめていないので、この例は原論文の主張の引用にとどめる。定理 A の仮定を「Zariski 局所環が一意分解整域」に弱めてはいけないことを示す例として挙げられている。
$k$ を標数 $\ne2$ の代数閉体、$Y=\mathbb P^1\times\mathbb P^1$、$\iota$ を両成分のアフィン座標で $t\mapsto-t$ と作用する位数 $2$ の自己同型、$X=Y/\iota$ とする。
例 3(4 枚の平面。原論文の時点で未解決の試験台).アフィン 3 次元空間の中で一般の位置にある 4 枚のアフィン平面の和 $X$ は、複素位相で $S^2$ とホモトピー同値である。原論文 II は、Kummer 理論(2-2)で得られる $H^2(X,\mathbb G_m)$ の $n$ 捩れの標準的な元が Azumaya 代数で表されるかを問い、答えを与えていない(II, p. 76)。$X$ は正規でも既約でもなく、次元 $2$ なので、定理 B (3) の範囲の外にある。
例 4(正則曲面の Brauer 群の記述).$X=\mathbb A^2_k$($k$ は標数 $0$ の代数閉体)なら、定理 B (4) により $\mathrm{Br}(X)=\bigcap_{x\in X^{(1)}}\mathrm{Br}(\mathcal O_{X,x})\subset\mathrm{Br}(k(s,t))$ であり、これは「すべての既約曲線に沿って不分岐な類」の群である。$\mathrm{Br}(\mathbb A^2_k)=0$ が知られている(Auslander–Goldman。引用)ので、$k(s,t)$ の非零の類はどれかの曲線に沿って分岐する。
注意(原論文の仮定).1968 年版の II (2.1) は「$X$ はネーター」とだけ仮定して二つの主張(余次元 $\ge2$、正則なら余次元 $\ge3$ の外で Azumaya 代数で表せる)を述べ、段 2 の類の一致を II (1.8) の単射性で確かめる。II (1.8) は因子分解性か閉点の剰余体の分離閉性を要するので、原論文の証明の筋はこの仮定では閉じない。Bourbaki 版の正誤表は、第一の主張に「余次元 $\le1$ で正則」、第二の主張に「余次元 $\le2$ で正則」を付け加え、II (2.2) の次元 $\le1$ の場合に「剰余体が分離閉」(括弧内で、コホモロジー次元 $\le1$ でおそらく足りると注記)を付け加えている。
本頁の証明は、段 2 で II (1.8) を使わず、局所環についての補題 2 と Mayer–Vietoris 列で類を一致させる。したがって、第一の主張は 1968 年版の仮定(ネーター)のままで成り立ち、次元 $\le1$ のネーター・スキームでは剰余体に仮定を置かずに $\mathrm{Br}=H^2$ が成り立つ(定理 B (3))。II (2.2) の印字には「ネーター」の語が無いが、(2.1) の系として置かれているので、本頁はネーターのスキームについての主張と読む。ネーターでないスキームについては、本頁は何も述べない。第二の主張には、余次元 $\le2$ の点での正則性が段 3 で要る(正誤表の仮定と同じ)。また II (2.7) は $\mathrm{Br}=\mathrm{Br}'$ となる場合として「正則で次元 $2$」と書くが、(2.2) の「次元 $\le2$」と数学的な差は無い(正則で次元 $\le1$ の場合は次元 $\le1$ の場合に含まれる)。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。書誌の頁は確認していない)。
| 本頁 | 原論文(II=Le groupe de Brauer II) | 印字頁 |
|---|---|---|
| §3 の (3.1)、Cartier 因子の層 | II §1 の式 (2) | 71 |
| §3 の Weil 因子の層・局所 Picard 群の層 | II 式 (3)、(5) | 71、74 |
| 定理 A の証明 (a) | II (1.1)、(1.2)、式 (1) | 70–71 |
| 定理 A (1)、補題 0 を使う次元 $\le1$ の場合 | II (1.3)、(1.4)、(1.5)、式 (3 bis) | 71–72 |
| 定理 A の証明 (b)(d)、被約な場合の議論 | II (1.6)、(1.7)、式 (4)、(1.9) | 72–73 |
| 定理 A (2)、次元 $\le1$ の単射性 | II (1.8)、(1.10) | 73 |
| 定理 B (1)(2)、補題 2 | II (2.1) | 76–77 |
| 定理 B (3) | II (2.2) | 76 |
| 定理 B (4) | II (2.3)、式 (9) | 77–78 |
| 定理 C | II (2.4) | 78 |
| 定理 D | II (2.5) | 79 |
| §4-5 | II (2.6) | 79 |
| $\mathrm{Br}'$ の命名、§5 の注意 | II (2.7) | 79–80 |
| 例 1、例 2、反例(式 (7))、§6 の Grothendieck–Serre | II (1.11) a) b)、式 (5)–(7 bis) | 73–75 |
| 反例(幾何的単分岐) | II (1.11) c) | 75 |
| 例 3、§2 の問い | II §2 冒頭(番号なし) | 76 |
原論文 II (2.7) は $H^2(X,\mathbb G_m)$ 全体を $\mathrm{Br}'(X)$ と名づけ、$\mathrm{Br}=\mathrm{Br}'$ となる場合として「ネーターで次元 $\le1$」「正則で次元 $2$」「Hensel 局所」「標数 $0$ の体上の滑らかなスキームの局所化」を挙げる。本書の $\mathrm{Br}'$ は捩れ部分群であり、正則な場合には両者は一致する(定理 A)。また原論文は II (1.10) の右辺を $\mathrm{Br}(X_i)$ と印字するが、生成点の局所環の Brauer 群の意である。
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