前提知識: Azumaya代数, 形式的関数定理, Greenberg近似定理, Kummer完全列, コホモロジー次元, Hensel局所環
本頁を通じて次の設定を置く。
捩れ係数のエタールコホモロジーについては、固有底変換定理により、Hensel 局所環上固有な $X$ のコホモロジーは閉ファイバーのそれに等しい。$\mathbb G_m$ は捩れ層ではないので、同じことは一般には期待できない。実際 $H^0$ では $A^\times\to k^\times$ が単射でなく、$H^1=\mathrm{Pic}$ でも単射性が破れる(下の「例と反例」)。
原論文は、それにもかかわらず次元 2・相対次元 1 という制限のもとでは $H^2$ の段で閉ファイバーとの一致が成り立つことを「鍵となる結果」として掲げ、M. Artin に帰している。証明の骨格は、(i) 冪零な厚みは次元 1 のスキームの上では $H^2$ に効かないこと、(ii) 完備化の上では Azumaya 代数とその分裂が形式的な系から代数化できること(Grothendieck の存在定理)、(iii) 完備化の上の解を Hensel 環の上の解で近似できること(Greenberg の定理)、の三つである。
この結果は、次の頁(3-4)で曲線束 $X\to Y$ の Brauer 群を底 $Y$ の上の層のコホモロジーで表すときに、高次順像 $R^if_*\mathbb G_m$($i\ge2$)を消す道具として使われる。
ネーター整域 $A$ が japonais(Japanese、N-2 とも呼ぶ)であるとは、分数体の任意の有限次拡大 $L$ について、$L$ における $A$ の整閉包が $A$ 上有限であることをいう。
標数 $0$ の離散付値環はつねに japonais であり、excellent な離散付値環も japonais である。本頁の定理はこの仮定を Greenberg の近似定理を使うためにだけ置く。
集合(または群)の射影系 $(M_n)_{n\in\mathbb N}$ が Mittag-Leffler 条件をみたすとは、各 $n$ について像 $\operatorname{Im}(M_{n+j}\to M_n)$ が $j$ の十分大きいところで一定になることをいう。移行写像がすべて全射ならこの条件はみたされる。
空でない集合の射影系 $(S_n)_{n\in\mathbb N}$ が Mittag-Leffler 条件をみたせば、$\varprojlim_nS_n\ne\emptyset$ である。
$S'_n$ を安定した像 $\operatorname{Im}(S_{n+j}\to S_n)$($j\gg0$)とする。$S'_n$ は空でない。$S'_{n+1}\to S'_n$ は全射である:$s\in S'_n$ を $j$ の大きい $t\in S_{n+1+j}$ の像として書くと、$t$ の $S_{n+1}$ での像は $\operatorname{Im}(S_{n+1+j}\to S_{n+1})=S'_{n+1}$ に属し、$s$ に写る。よって $s_0\in S'_0$ から始めて $s_{n+1}\in S'_{n+1}$ を $s_n$ の逆像から順に選べば、$\varprojlim S_n$ の元が得られる。
スキーム $Z$ 上の階数正の局所自由加群 $V,V'$ と、$\mathcal O_Z$ 代数の同型 $\varphi\colon\operatorname{End}(V)\cong\operatorname{End}(V')$ が与えられると、可逆層 $L$ と同型 $V\otimes L\cong V'$ で、$\varphi$ と両立するものがある。
$\varphi$ により $V'$ は左 $\operatorname{End}(V)$ 加群になる。$L=\mathcal Hom_{\operatorname{End}(V)}(V,V')$ と置き、評価写像 $V\otimes L\to V'$ を考える。局所的に $V\cong\mathcal O^r$ とすると $\operatorname{End}(V)\cong M_r(\mathcal O)$ であり、森田同値により $M_r(\mathcal O)$ 加群 $M$ は $\mathcal O^r\otimes\mathcal Hom_{M_r(\mathcal O)}(\mathcal O^r,M)$ に標準的に同型である。$V'$ は局所自由で $\operatorname{End}(V')$ の階数が $r^2$ だから $V'$ の階数は $r$ であり、したがって $L$ は階数 1 の局所自由加群で、評価写像は同型である。
以下の証明で使う外部の結果を一覧にしておく。いずれも本頁では証明しない。
$X$ をスキーム、$\ell$ を素数、$n\ge0$ を整数とし、$\operatorname{cd}_\ell(X)\le n$(すなわち $\ell$ 準素捩れ層 $F$ と $i>n$ について $H^i(X,F)=0$)とする。
$r\ge1$ をとり、$\varphi_r\colon\mathbb G_m\to\mathbb G_m$、$x\mapsto x^{\ell^r}$ を考える。$H^i(X,\mathbb G_m)$ 上で $\varphi_r$ の誘導する写像は $\ell^r$ 倍である。すべての $r$ で $\ell^r$ 倍が単射であることを示せば、$\ell$ 準素部分は $0$ である。
2 の場合。 $\ell$ が可逆なので Kummer完全列 $1\to\mu_{\ell^r}\to\mathbb G_m\xrightarrow{\varphi_r}\mathbb G_m\to1$ は完全である($a$ の $\ell^r$ 乗根を添加する射 $U[T]/(T^{\ell^r}-a)\to U$ はエタール全射だから)。長完全列 $H^i(X,\mu_{\ell^r})\to H^i(X,\mathbb G_m)\xrightarrow{\ell^r}H^i(X,\mathbb G_m)$ で、$i>n$ なら左端は $0$ である。
1 の場合。 $\varphi_r$ は層として全射とは限らないので、$\mathcal K=\ker\varphi_r$、$\mathcal G=\operatorname{Im}\varphi_r$、$\mathcal C=\operatorname{Coker}\varphi_r$ と置き、二つの短完全列
$$0\to\mathcal K\to\mathbb G_m\to\mathcal G\to0,\qquad 0\to\mathcal G\to\mathbb G_m\to\mathcal C\to0$$
を使う。$\mathcal K$ は $\ell^r$ で消える。$\mathcal C$ も $\ell^r$ で消える(局所切断 $x$ について $x^{\ell^r}\in\mathcal G$)。よって $i>n$ で $H^i(X,\mathcal K)=H^i(X,\mathcal C)=0$。第 2 の列から、$i>n+1$ で $H^i(X,\mathcal G)\cong H^i(X,\mathbb G_m)$(両側の $H^{i-1}(\mathcal C)$、$H^i(\mathcal C)$ が $0$)。第 1 の列から、$i>n$ で $H^i(X,\mathbb G_m)\to H^i(X,\mathcal G)$ は単射。$i>n+1$ ではこの二つの合成 $H^i(X,\mathbb G_m)\to H^i(X,\mathcal G)\cong H^i(X,\mathbb G_m)$ は $\ell^r$ 倍に等しく、単射である。
1 の「$n+1$」は $\ell$ が可逆でないときの損失で、標数 $p$ の部分をこの補題で扱うときに効く。
$A$ を japonais な Hensel 離散付値環、$f\colon X\to Y$ を射影的かつ平坦とし、射影系 $(\mathrm{Pic}(X_n))_n$ が Mittag-Leffler 条件をみたすとする。このとき標準写像 $\mathrm{Br}(X)\to\varprojlim_n\mathrm{Br}(X_n)$ は単射である。
$\mathcal A$ を $X$ 上の Azumaya 代数で、各 $X_n$ 上で分裂するもの、すなわち $X_n$ 上の局所自由加群 $V_n$ と同型 $u_n\colon\mathcal A_n\cong\operatorname{End}(V_n)$($\mathcal A_n=\mathcal A|_{X_n}$)があるものとする。$[\mathcal A]=0$ を示す。
段 1:分裂を両立する系に選ぶ。 $S_n$ を、組 $(V,u)$($V$ は $X_n$ 上の局所自由加群、$u\colon\mathcal A_n\cong\operatorname{End}(V)$)の同型類の集合とする。仮定より $S_n\ne\emptyset$ であり、$X_n$ への制限が写像 $S_{n+1}\to S_n$ を与える。$\mathrm{Pic}(X_n)$ は $(L,(V,u))\mapsto(V\otimes L,u)$ で $S_n$ に作用し、
補題
によりこの作用は推移的である。したがって $\operatorname{Im}(S_{n+j}\to S_n)$ は群 $\operatorname{Im}(\mathrm{Pic}(X_{n+j})\to\mathrm{Pic}(X_n))$ の一つの軌道である。$j\gg0$ でこの群は一定の群 $G_n$ になり、像の集合は $j$ について減少する $G_n$ 軌道の列だから、やはり一定になる(同じ群の二つの軌道は一致するか交わらない)。よって $(S_n)$ は Mittag-Leffler 条件をみたし、
補題
により両立する系 $(V_n,u_n)$ がとれる。
段 2:完備化の上で代数化する。 (E1) により、この系は $\hat X$ 上の局所自由加群 $\hat V$ と同型 $\hat u\colon\hat{\mathcal A}\cong\operatorname{End}(\hat V)$ から来る。$A$ が完備なら、これで $[\mathcal A]=0$ である。ただし一般には $\hat V$ が $X$ 上の加群から来るとは限らない。
段 3:近似する。 仮定により $X$ は $Y$ 上射影的なので、(E2) により $X$ 上の局所自由加群 $E=\mathcal O_X(-N)^{\oplus r}$ と全射 $\hat E\to\hat V$ がとれる。$Y$ スキーム $Y'$ について
$$F(Y')=\{(V',\varphi')\ :\ V'\text{ は }E_{Y'}\text{ の局所自由な商加群},\ \varphi'\colon\mathcal A_{Y'}\cong\operatorname{End}(V')\}$$
と置くと、(E4) により $F$ は $Y$ 上局所有限型のスキームで表現される。段 2 の $(\hat V,\hat u)$ は $F(\hat Y)$ の点を与えるので、(E5) により $F(Y)\ne\emptyset$(考える点を含む有限型の開部分スキームに (E5) を使う)。すなわち $\mathcal A\cong\operatorname{End}(V)$ となる $X$ 上の局所自由加群 $V$ があり、$[\mathcal A]=0$。
$A$ を japonais な Hensel 離散付値環、$f\colon X\to Y$ を固有平坦な射で $X$ は正則かつ 2 次元とし、$Z$ を $X$ の閉部分スキームで台集合が $f^{-1}(y)$ に等しいものとする。このとき制限写像
$$H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(Z,\mathbb G_m)$$
は全単射である($\mathrm{Br}(X_0)=H^2(X_0,\mathbb G_m)$ の根拠は下の注意)。
段 1:$Z$ を $X_0$ に取り替える。 $Z$ のイデアル $\mathcal J$ の根基は $\mathfrak m\mathcal O_X$ の根基に等しいので、$n\gg0$ で $\mathfrak m^{n+1}\mathcal O_X\subset\mathcal J$、すなわち $Z\subset X_n$ であり、$Z$ は $X_n$ の中で冪零イデアル $J=\mathcal J/\mathfrak m^{n+1}\mathcal O_X$ で定まる。$J^N=0$ とし、$1\le j< N$ について $X_n$ 上の完全列
$$1\to J^j/J^{j+1}\to(\mathcal O_{X_n}/J^{j+1})^\times\to(\mathcal O_{X_n}/J^j)^\times\to1$$
を考える(左の写像は $a\mapsto1+a$ で、$j\ge1$ なので群準同型)。$J^j/J^{j+1}$ は 1 次元のスキーム $Z$ 上の連接層なので、その $H^2$ と $H^3$ は $0$ である(準連接層のエタールコホモロジーは Zariski コホモロジーに等しく、Grothendieck の消滅定理による)。よって中央の二項の $H^2$ は同型であり、$j$ について繰り返すと $H^2(X_n,\mathbb G_m)\cong H^2(Z,\mathbb G_m)$。同じことを $X_0\subset X_n$ に使えば $H^2(X_n,\mathbb G_m)\cong H^2(X_0,\mathbb G_m)$ なので、$H^2(Z,\mathbb G_m)\to H^2(X_0,\mathbb G_m)$ も同型である。以下 $Z=X_0$ とする。とくにすべての $n$ で $H^2(X_{n+1},\mathbb G_m)\to H^2(X_n,\mathbb G_m)$ は同型である。
段 2:単射性。 $X$ は正則 2 次元なので (E10) により $H^2(X,\mathbb G_m)=\mathrm{Br}(X)$ である。段 1 と $\mathrm{Br}\subset H^2$ により $\mathrm{Br}(X_{n+1})\to\mathrm{Br}(X_n)$ は単射であり、$\varprojlim_n\mathrm{Br}(X_n)\to\mathrm{Br}(X_0)$ も単射である。したがって $\mathrm{Br}(X)\to\mathrm{Br}(X_0)$ の単射性は
形式的分裂の代数化
に帰着する。その仮定を確かめる。$X$ は正則 2 次元なので (E3) により $f$ は射影的であり、補題が使える。$X$ は $Y$ 上平坦なので、$X_n\subset X_{n+1}$ のイデアル $I=\mathfrak m^{n+1}\mathcal O_X/\mathfrak m^{n+2}\mathcal O_X$ は $I^2=0$ をみたし、$X_0$ 上の連接層($\mathcal O_{X_0}$ に同型)である。完全列 $1\to I\to\mathbb G_{m,X_{n+1}}\to\mathbb G_{m,X_n}\to1$ から $\mathrm{Pic}(X_{n+1})\to\mathrm{Pic}(X_n)\to H^2(X_0,I)=0$ が完全で、移行写像は全射、したがって Mittag-Leffler 条件がみたされる。
段 3:全射性。 $\xi\in H^2(X_0,\mathbb G_m)$ が Azumaya 代数 $\mathcal A_0$ の類であるとする。(E9) により $\mathcal A_0$ を $X_n$ へ順に持ち上げる障害は $X_0$ 上の連接層の $H^2$ にあり、$\dim X_0=1$ なので $0$ である。こうして両立する系 $(\mathcal A_n)$ を得て、(E1) により $\hat X$ 上の Azumaya 代数 $\hat{\mathcal A}$ を得る。(E3) により $X$ は $Y$ 上射影的なので、(E2) により $X$ 上の局所自由加群 $E$ と全射 $\hat E\to\hat{\mathcal A}$ をとり、
$$F(Y')=\{(B',m')\ :\ B'\text{ は }E_{Y'}\text{ の局所自由な商加群},\ m'\text{ は }B'\text{ を Azumaya 代数にする乗法}\}$$
と置く。(E4) により $F$ は $Y$ 上局所有限型のスキームで表現され、$\hat{\mathcal A}$ は $F(\hat Y)$ の点で、その閉点での値は $\mathcal A_0$ の定める点である。(E5) を $N=1$ で使うと、閉点での値が同じ $F(Y)$ の点、すなわち $X$ 上の Azumaya 代数 $\mathcal A$ で $\mathcal A|_{X_0}\cong\mathcal A_0$ となるものが得られる。よって $\xi$ は像に入る。
段 3 は $H^2(X_0,\mathbb G_m)$ のすべての元が Azumaya 代数で表されること、すなわち $\mathrm{Br}(X_0)=H^2(X_0,\mathbb G_m)$ を前提にしている。これは (E10) の後半である。$X_0$ はネーターで次元 $1$ なので、II (2.2) の引用によりこの等式は $k$ の分離閉性によらず成り立つ(剰余体の条件は不要である)。したがって、この定理の全射性に留保はない。単射性の段と 系 も同様である。原論文は「幾何的な Brauer 群とコホモロジー的な Brauer 群の一致は II (2.2) による」とだけ書いている。
Artin の定理 の仮定のもとで、$\mathrm{Br}(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$ であり($Z$ はネーターで次元 $1$ 以下なので II (2.2) により $\mathrm{Br}(Z)=H^2(Z,\mathbb G_m)$ も成り立ち)、$\mathrm{Br}(X)\to\mathrm{Br}(Z)$ は同型である。
原論文は、同じ証明が、剰余標数と異なる $\ell$ の $\ell$ 準素部分については $A$ の japonais 性も $X$ の正則性も使わずに通ると注意している。また、Brauer 群だけについての主張($\mathrm{Br}(X)\to\mathrm{Br}(X_0)$ が全単射)なら $X$ の正則性は要らない(正則性は $\mathrm{Br}(X)=H^2(X,\mathbb G_m)$ のためにだけ使われる)とも述べる。本頁はこれらの弱めた形を別には証明しない。
$f\colon X\to Y$ を固有平坦な射とし、$X,Y$ は局所ネーターで正則、$Y$ は次元 1 でその局所環は japonais、$f$ のファイバーは 1 次元とする。このとき
$$R^if_*\mathbb G_m=0\qquad(i\ge2).$$
段 1:底を狭義 Hensel 局所にする。 $R^if_*\mathbb G_m$ の幾何的点 $\bar y$ での茎は、$Y$ を狭義 Hensel 化 $\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar y}$ に取り替えた $X$ の $H^i(\cdot,\mathbb G_m)$ である(本書 3-2 の事実 (a))。生成点の上では、茎は分離閉体 $K^{\mathrm s}$ 上の固有な 1 次元の正則スキーム $X\otimes K^{\mathrm s}$ の $H^i(\cdot,\mathbb G_m)$ であり、(E7) により段 3 と同じ議論で $i\ge3$ の消滅が、段 4 の最後に引く事実(分離閉体上の固有な 1 次元スキームで $H^2(\cdot,\mathbb G_m)=0$)で $i=2$ の消滅が出る。そこで $Y=\operatorname{Spec}A$、$A$ は狭義 Hensel 離散付値環で japonais((E11))、$k$ は分離閉、とする。この取り替えで $X$ の正則性は保たれる(ind-エタールな底変換だから)。
段 2:コホモロジー次元。 (E6) により、捩れ層について $H^i(X,F)\cong H^i(X_0,F|_{X_0})$ である。$X_0$ は分離閉体上の 1 次元スキームなので、(E7) により $\operatorname{cd}(X)\le2$、$p>0$ なら $\operatorname{cd}_p(X)\le1$。
段 3:$i\ge3$。 $\ell\ne p$ なら $\ell$ は $X$ 上可逆で $\operatorname{cd}_\ell(X)\le2$ なので、
補題
の 2 により $H^i(X,\mathbb G_m)(\ell)=0$($i>2$)。$\ell=p>0$ なら $\operatorname{cd}_p(X)\le1$ なので、補題の 1 により $H^i(X,\mathbb G_m)(p)=0$($i>2$)。$X$ は正則なので $H^i(X,\mathbb G_m)$ は捩れ群であり((E10))、すべての素数準素部分が消えるので $H^i(X,\mathbb G_m)=0$($i\ge3$)。
段 4:$i=2$、$\ell\ne p$ の部分。 Kummer 列から得られる行の完全な可換図式(本書 2-2)
$$\begin{array}{ccccccccc}
0&\to&\mathrm{Pic}(X)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell&\to&H^2(X,\mu_{\ell^\infty})&\to&H^2(X,\mathbb G_m)(\ell)&\to&0\\
&&\downarrow\alpha&&\downarrow\beta&&\downarrow\gamma&&\\
0&\to&\mathrm{Pic}(X_0)\otimes\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell&\to&H^2(X_0,\mu_{\ell^\infty})&\to&H^2(X_0,\mathbb G_m)(\ell)&\to&0
\end{array}$$
を考える。$\beta$ は (E6) により同型、$\alpha$ は (E8) により全射である。$c\in\ker\gamma$ を $b\in H^2(X,\mu_{\ell^\infty})$ に持ち上げると、$\beta(b)$ は下の行の左の項から来て、$\alpha$ の全射性によりある $a$ の像 $b'$ について $\beta(b)=\beta(b')$、$\beta$ の単射性から $b=b'$、よって $c=0$。すなわち $\gamma$ は単射である。$X_0$ は分離閉体上の固有な 1 次元スキームなので $H^2(X_0,\mathbb G_m)=0$ である($k$ が代数閉なら本書 3-1。一般の分離閉体の場合は原論文 III (5.8) によるとされ、本書 4-1 で扱う。本頁では引用する)。よって $H^2(X,\mathbb G_m)(\ell)=0$。
段 5:$i=2$、$p$ 部分。
Artin の定理
の単射性の段により $H^2(X,\mathbb G_m)\hookrightarrow H^2(X_0,\mathbb G_m)=0$。
段 5 は Artin の定理を使うが、Artin の定理の証明はこの系を使っていないので、論理の循環はない。原論文は段 4 について、Artin の定理も $Y$ の japonais 性も $X$ の正則性も使わないと注意している(ただし段 3 の捩れ性には正則性を使う)。段 5 で使うのは Artin の定理の単射性だけである。
Artin の定理 の設定で、さらに $f_*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$、$H^0(X_0,\mathcal O_{X_0})=k$ とし、$f_0\colon X_0\to y$ を閉ファイバーの構造射とする。次の二つを仮定する。
$f_*\mathcal O_X=\mathcal O_Y$ はエタールな(平坦な)底変換で保たれるので $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ であり、同様に $H^0(X_0,\mathcal O_{X_0})=k$ から $f_{0*}\mathbb G_m=\mathbb G_m$ である。
系
により $R^qf_*\mathbb G_m=0$($q\ge2$)。閉ファイバー側の $R^qf_{0*}\mathbb G_m$ の茎は、$A$ を狭義 Hensel 化 $A^{\mathrm{sh}}$ に取り替えたときの閉ファイバー $X_0\otimes_kk^{\mathrm s}$ の $H^q(\cdot,\mathbb G_m)$ である。$q=2$ では、底 $A^{\mathrm{sh}}$ の上の
Artin の定理
と
系
により $H^2(X_0\otimes_kk^{\mathrm s},\mathbb G_m)\cong H^2(X\otimes_AA^{\mathrm{sh}},\mathbb G_m)=0$。$q\ge3$ では (P1) と系により同様に $0$ である。よって $R^qf_{0*}\mathbb G_m=0$($q\ge2$)であり、どちらの Leray スペクトル系列も $q=0,1$ の 2 行しかもたず、長完全列
$$\cdots\to H^i(Y,\mathbb G_m)\to H^i(X,\mathbb G_m)\to H^{i-1}(Y,R^1f_*\mathbb G_m)\to H^{i+1}(Y,\mathbb G_m)\to H^{i+1}(X,\mathbb G_m)\to\cdots$$
と、その閉ファイバー版が得られ、制限写像はこの二つの列の間の射を与える。$H^i(X,\mathbb G_m)\to H^i(X_0,\mathbb G_m)$ は $i=2$ で
Artin の定理
により、$i\ge3$ で (P1) により同型である。$H^i(Y,\mathbb G_m)\to H^i(y,\mathbb G_m)$ は $i=1$ で両辺 $0$、$i\ge2$ で (P2) により同型である。五項補題により $H^{i-1}(Y,R^1f_*\mathbb G_m)\to H^{i-1}(y,R^1f_{0*}\mathbb G_m)$ は $i-1\ge1$ で同型である。
結論の $H^1(Y,R^1f_*\mathbb G_m)$ の場合(上の添字で $i=2$)は、五項補題の中で $H^2(X,\mathbb G_m)\to H^2(X_0,\mathbb G_m)$ の同型を、剰余体が一般の $k$ である元の $A$ の上で使っている(中央の全射性にはこの縦の矢印の全射性が要る)。
Artin の定理
の全射性は留保なしに成り立つので、結論の $i=1$ の場合も留保なしである。結論の $i\ge2$ の場合は、縦の矢印として Artin の定理を使わず (P1)(P2) だけによる。
原論文は (P1) について「Kummer 列と底変換定理からやはり従う」と括弧書きする。しかしその根拠で得られるのは、 系 の段 4 と同じ議論による剰余標数と異なる $\ell$ の部分だけであり、$p$ 準素部分の根拠は書かれていない。本頁も $p$ 部分を閉じられなかったので、(P1) を仮定として置いた。(P2) は原論文では付録 III (11.7) に委ねられており、本書 4-2 で扱う。また原論文は $f_*\mathbb G_m=\mathbb G_m$ を閉ファイバーの側でも黙って使っているので、本頁は $H^0(X_0,\mathcal O_{X_0})=k$ を仮定として明示した。
原論文 III Rem. (3.4) a) は、 形式的分裂の代数化 の一般化について次のように述べる。
以下は原論文(1966–1968 年)の後の話題で、本頁の証明には使っていない。
頁は『Dix exposés』(1968)の印字頁である。原論文は定理の番号の順ではなく、補題 (3.2.1) → 補題 (3.3) → 定理 (3.1) → 系 (3.2) の依存順で証明を進める。本頁も証明の依存の順に並べた(III (3.4) の a) と b) の順は入れ替えた)。
| 原論文 | 頁 | 本頁の箇所 |
|---|---|---|
| III Th. (3.1)(M. Artin) | 98(証明 101–104) | Artin の定理 、 閉ファイバーの Brauer 群 、全射性の段の注意 |
| III Cor. (3.2) | 98(証明 98–101) | 高次順像の消滅 |
| III Lemme (3.2.1) | 99–100 | コホモロジー次元と $\mathbb G_m$ |
| III Lemme (3.3) | 102(証明 102–104) | 形式的分裂の代数化 、 空でない極限 、 自己準同型代数の同型と可逆層 |
| III Rem. (3.4) a) | 105–106 | 「逆極限での単射性は一般には成り立たない」の節 |
| III Rem. (3.4) b) | 106–107 | 相対 Picard 層の閉ファイバーへの制限 |
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