前提知識: 余次元フィルトレーション, ℓ進コホモロジー, Tate捻り, Weil予想, Tate予想, Hodge予想, 一般Hodge予想, Hodge構造
有限体上($k=\mathbb F_q$、$\ell$ は $q$ と素な素数、$\bar k$ は代数閉包、$\mathrm{Frob}$ は幾何的 Frobenius)。
複素数体上($X$ は滑らかな射影多様体、$H^i=H^i(X(\mathbb C),\mathbb Q)$、$F^p$ は Hodge フィルトレーション)。
4. [証明] $F^p\cap\overline{F^p}=\bigoplus_{r\ge p,\ s\ge p}H^{r,s}$(原論文 (10.14) の右辺の、不等号の向きを正した形)。
5. [後代に確立] $N^pH^i\subset F^p\cap\overline{F^p}\cap H^i$(原論文 (10.12)〜(10.15))。
6. [偽] 原論文が掲げた「この包含は常に等号」という形は偽である(反例:3 つの楕円曲線の積、$i=3$、$p=1$)。原論文の 1968 年 10 月の追記がこれを認めて修正した形が [予想] 一般Hodge予想 であり、$i=2p$ の場合が Hodge予想 である。
前の頁の余次元フィルトレーション $N^p$ は、閉集合の外で消えるかどうかという「位相的」な定義をもつ。原論文 §10 は、これを別の構造から読み取れるかを問う。
有限体上では、コホモロジーに Frobenius が作用する。余次元 $p$ の部分多様体に支えられた類は、捻り $(-p)$ を経由するので、固有値に $q^p$ の因子が付くはずである。原論文はこの「算術的」なフィルトレーションが位相的な $N^p$ と一致すると予想し、Tate の予想 [Tat65] に触発されたと書く。複素数体上では、Frobenius の役割を Hodge 分解が果たし、原論文は両者の類似を明言したうえで、Hodge 側の等号の予想を掲げた。
原論文の執筆時(1966 年)には、Weil 予想の Riemann 予想の部分はまだ証明されておらず、原論文は有限体上の曲面の $H^2$ についてさえ Weil 予想も Tate 予想も知られていないと述べ、後者が Artin–Tate により Brauer 群の有限性と同値であることを Tate の講演 [Tat66] から引く。この頁は、その後に確立された事実を区別しながら、原論文の構想を追う。
Galois 作用と Frobenius. $k=\mathbb F_q$ とし、$X$ を $k$ 上のスキーム、$X_{\bar k}=X\otimes_k\bar k$ とする。$\Gamma=\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ は $\bar k$ への作用を通じて $X_{\bar k}$ に($k$ 線形でない)$X$ 上の自己同型として作用し、構造の輸送によって $H^i(X_{\bar k},F_{\bar k})$ に作用する。$\varphi\in\Gamma$ を $x\mapsto x^q$ とし、幾何的 Frobenius を $\mathrm{Frob}=\varphi^{-1}$ の作用と定める。$\Gamma$ は $\varphi$ を位相的生成元とする副有限群 $\hat{\mathbb Z}$ なので、$\Gamma$ の作用は $\mathrm{Frob}$ の作用で決まる。
原論文はこの作用を $\mathrm{frob}_N$($N$ は有限体の位数)と書き、向きを明記しないが、固有値が代数的整数になる向き、すなわち幾何的 Frobenius と読むほかない。$X$ の Frobenius 自己準同型が誘導する作用と $\mathrm{Frob}$ が一致することは、以下では Weil 予想の引用の中に含めて使う。
算術的フィルトレーション. $\mathrm{Frob}$ の $H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ 上の固有値がすべて代数的数であるとき、
$$
N^p_{\mathrm{ar}}H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)=\bigoplus_{\alpha/q^p\text{ は代数的整数}}\bigl(\alpha\text{ に対する一般固有空間}\bigr)
$$
と置く。条件「$\alpha/q^p$ が代数的整数」は $\operatorname{Gal}(\bar{\mathbb Q}/\mathbb Q)$ の作用で保たれるので、右辺は $\mathbb Q_\ell$ 上定義された部分空間である。原論文はこれを $\mathrm{Filt}'^p$ と書く。
Hodge フィルトレーション. 複素数体上の滑らかな射影多様体 $X$ について、Hodge 分解 $H^i\otimes\mathbb C=\bigoplus_{r+s=i}H^{r,s}$、$\overline{H^{r,s}}=H^{s,r}$ と、$F^pH^i=\bigoplus_{r\ge p}H^{r,s}$ を引用する(Hodge構造)。原論文は代数的 de Rham コホモロジーの素朴な切り捨てから $F^p$ を定め、比較定理で有理係数の形に言い換えている。本頁は初めから特異コホモロジーの上で述べる。
$\Gamma$ は $H^i(X_{\bar k},F_{\bar k})$ の $N^p$ を保ち、したがって $\mathrm{Gr}^p$ に作用する。
$\sigma\in\Gamma$ は $X_{\bar k}$ の(スキームとしての)自己同型 $\sigma_X$ を定め、$F_{\bar k}$ は $X$ からの引き戻しなので $\sigma_X^*F_{\bar k}\cong F_{\bar k}$ が標準的に定まる。$\sigma_X$ は位相同型で局所環を同型に写すので、開集合 $U$ の補集合の余次元は $\sigma_X^{-1}(U)$ でも同じである。引き戻しは制限と可換なので、$\sigma$ は $\operatorname{Ker}(H^i\to H^i(U))$ を $\operatorname{Ker}(H^i\to H^i(\sigma_X^{-1}U))$ に写す。
$Z$ を $k$ 上のスキーム、$m$ を整数とする。$\Gamma$ と両立する標準同型
$$
H^j(Z_{\bar k},\mathbb Z_\ell(-m))\cong H^j(Z_{\bar k},\mathbb Z_\ell)\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Z_\ell(-m)
$$
があり、$\mathrm{Frob}$ は $\mathbb Z_\ell(-m)$ に $q^m$ 倍で作用する。したがって左辺の $\mathrm{Frob}$ の固有値は、$H^j(Z_{\bar k},\mathbb Z_\ell)$ の固有値の $q^m$ 倍である(III (10.9))。
$Z_{\bar k}$ 上で $\mu_{\ell^\nu}$ は定数層 $\mu_{\ell^\nu}(\bar k)$ なので、$\mu_{\ell^\nu}^{\otimes(-m)}$ は階数 1 の自由 $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群 $M_\nu$ の定数層であり、係数の双線形写像 $H^j(Z_{\bar k},\mathbb Z/\ell^\nu)\times M_\nu\to H^j(Z_{\bar k},M_\nu)$ は基底の選び方によらず、同型 $H^j\otimes M_\nu\cong H^j(M_\nu)$ を与え、$\Gamma$ と両立する。$\nu$ について射影極限をとる。$\varphi$ は $\mu(\bar k)$ に $q$ 乗で作用するので、$\mathbb Z_\ell(1)$ に $q$ 倍、$\mathbb Z_\ell(-m)$ に $q^{-m}$ 倍で作用する。$\mathrm{Frob}=\varphi^{-1}$ は $q^m$ 倍で作用する。
算術的 Frobenius $\varphi$ で考えると、固有値は $q^{-m}$ 倍になる。原論文は「$q^m$ 倍」とだけ書くので、この向きの規約が必要である。
次を引用する。
$X$ を $k$ 上射影的で滑らかなスキーム、$i,p\ge0$ とする。各 $c\ge p$ について、$k$ 上射影的で滑らかで $\dim Z=\dim X-c$ の $Z$ と射 $Z\to X$ を有限個とり、それらの Gysin 像の和を $V\subset H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ とする。(W)(G) のもとで、$V$ は $\mathrm{Frob}$ で安定であり、$V$ 上の $\mathrm{Frob}$ の固有値はすべて
$$
q^p\beta\qquad(\beta\text{ は代数的整数で、どの複素埋め込みでも }|\beta|=q^{i/2-p})
$$
の形である。とくに $V\subset N^p_{\mathrm{ar}}H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ である。
(G) により各 Gysin 写像は $\mathrm{Frob}$ と可換なので、$V$ は源の直和の $\mathrm{Frob}$ 同変な商であり、$V$ 上の固有値は源の固有値のどれかである。源 $H^{i-2c}(Z_{\bar k},\mathbb Q_\ell(-c))$ の固有値は、捻りの命題により $q^c\alpha$($\alpha$ は $H^{i-2c}(Z_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の固有値)である。(W) により $\alpha$ は代数的整数で $|\alpha|=q^{(i-2c)/2}$。$c\ge p$ なので $q^c\alpha=q^p\cdot q^{c-p}\alpha$ と書け、$\beta=q^{c-p}\alpha$ は代数的整数で $|\beta|=q^{c-p}\cdot q^{i/2-c}=q^{i/2-p}$ である。
原論文との違い. 原論文は、前の頁で述べた Gysin 像による記述「$N^p$ は Gysin 像の和に等しい」(有限体上の版。そこでは $Z$ を有限体上で定義されたものにとれることも主張される)を経由して、この主張を $N^p$ そのものの上で述べる。その記述は本書では証明していないので、本頁は主張を Gysin 像の和 $V$ の上で述べた。また原論文は固有・滑らかな $Z$ で述べるが、本頁は (W) をそのまま使える射影的な場合に限った。
もう一つの主張について. 原論文は同じ箇所で、$N^p$ 上の固有値は $\mathbb Q$ 上の共役で閉じ、特性多項式は整数係数であるとも述べる。これは上の論証からは出ない。整数係数の特性多項式をもつ空間の $\mathrm{Frob}$ 安定な部分空間の特性多項式は、一般には有理係数にならないからである。たとえば $\mathbb Q_\ell^2$ 上の $\operatorname{diag}(\alpha,\alpha')$ で、$\alpha,\alpha'$ が $\mathbb Q$ 上共役な 2 次の無理数でともに $\mathbb Q_\ell$ に属する($\ell$ がその 2 次体で分解する)とき、全体の特性多項式は $\mathbb Z[T]$ に属するが、$\alpha$ の固有直線上の特性多項式 $T-\alpha$ は属さない。本頁はこの主張を立てない。
原論文は、上の主張がすべての固有で滑らかなスキームについて(特異点解消を仮定せずに)成り立つと予想し、それを
$$
N^pH^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\subset N^p_{\mathrm{ar}}H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\tag{P1}
$$
と言い換え(III (10.10))、さらに Tate に触発されて
$$
N^pH^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)=N^p_{\mathrm{ar}}H^i(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\tag{P2}
$$
を予想する(III §10.3 の冒頭、下線つき)。本頁はこの二つを判定しない。
$X$ を $k$ 上射影的で滑らかなスキームとする。(W) のもとで、(P2) の $i=2p$ の場合は次の主張と同値である:余次元 $p$ の既約閉集合 $Z\subset X_{\bar k}$ のサイクル類が $H^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell(p))$ で張る部分空間は、$\mathrm{Frob}$ の固有値が 1 の冪根であるような一般固有空間の和に等しい。
前の頁の次数 $2p$ の定理により、$N^pH^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Z_\ell(p))$ はサイクル類で張られる。捻りの同型 $H^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell(p))\cong H^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)\otimes\mathbb Q_\ell(p)$ は制限写像と可換なので、両辺の $N^p$ を互いに写し、固有値を $q^{-p}$ 倍する。(W) により $H^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の固有値 $\alpha$ はすべての複素埋め込みで $|\alpha|=q^p$ なので、$\gamma=\alpha/q^p$ はすべての共役の絶対値が 1 である。$\gamma$ が代数的整数なら、Kronecker の定理により $\gamma$ は 1 の冪根であり、逆に 1 の冪根は代数的整数である。したがって $N^p_{\mathrm{ar}}H^{2p}$ は、捻った側で「固有値が 1 の冪根の一般固有空間の和」に対応する。
Tate 予想. 通常、Tate予想 は次の形で述べられる:$k$ 上射影的で滑らかな $X$ について、$X$ 上で定義された余次元 $p$ のサイクルのサイクル類は $H^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell(p))^{\Gamma}$ を張る。有限次拡大 $\mathbb F_{q^r}$ ごとに適用すると、$X_{\bar k}$ のサイクル類が張る部分空間は $\bigcup_rH^{2p}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell(p))^{\mathrm{Frob}^r}$ に等しい、という形になる。易しい包含($\mathbb F_{q^r}$ 上で定義されたサイクルの類は $\mathrm{Frob}^r$ で固定される)は、サイクル類の構成が構造の輸送と両立することから従う。
原論文は「固有値が 1 の冪根である部分」と「十分大きな $r$ で $\mathrm{Frob}^r$ に固定される部分」を同じものとして書いている。前者を一般固有空間の和と読むと、両者が一致するのは $\mathrm{Frob}$ がその部分で半単純に作用するときに限る(固定ベクトルの合併は一般固有空間に含まれ、等号は半単純性と同値)。この半単純性は、Tate 予想と並べて予想として扱われることが多い。
Brauer 群との関係. 原論文は、有限体上の曲面について、因子の場合($p=1$)の Tate 予想が Brauer 群の有限性と同値であるという Artin–Tate の観察を、Tate の講演 [Tat66] から引く。第6章の完全列 $0\to\mathrm{NS}\otimes\mathbb Z_\ell\to H^2(\mathbb Z_\ell(1))\to T_\ell\mathrm{Br}'\to0$ は、この同値の幾何的な側の骨組みである。
原論文はさらに、$\mathbb F_q$ を有限型の体や $\operatorname{Spec}\mathbb Z$ 上有限型の正則な底に替え、閉点ごとの Frobenius を使って算術的フィルトレーションを定義し直し、そこでも (P2) を予想する。本頁はこの一般化を記録するにとどめる。
以下、$X$ は複素数体上の滑らかな射影多様体、$H^i=H^i(X(\mathbb C),\mathbb Q)$、$N^pH^i$ は前の頁と同じ式(Zariski 閉集合の外で消える類)で定める。
$F^pH^i\cap\overline{F^pH^i}=\bigoplus_{r\ge p,\ s\ge p}H^{r,s}$ である。
$F^p=\bigoplus_{r\ge p}H^{r,s}$ で、共役は $H^{r,s}$ を $H^{s,r}$ に写すから $\overline{F^p}=\bigoplus_{s\ge p}H^{r,s}$。一つの直和分解の部分和どうしの共通部分は、共通の添字の部分和である。
原論文 (10.14) の印字は、右辺の添字の条件を「$r\le p$、$s\le p$」としている。これは不等号の向きの誤りである。実際 $p=0$ とすると、印字の条件 $r\le0$、$s\le0$ を満たす型は $(0,0)$ だけなので、$i>0$ では印字の右辺は $0$ になるが、$F^0\cap\overline{F^0}=H^i\otimes\mathbb C$ である(たとえば $X=\mathbb P^1$、$i=2$ では $H^2\otimes\mathbb C=H^{1,1}\ne0$)。
$N^pH^i$ は有理 Hodge 部分構造であり、その複素化は $F^pH^i$ に含まれる。したがって
$$
N^pH^i\subset F^pH^i\cap\overline{F^pH^i}\cap H^i
$$
である(原論文 (10.12)〜(10.15) の包含)。
これは原論文の時点では証明されておらず、原論文も「少なくとも標数 0 で」と述べるだけで証明を書いていない。今日では Deligne の混合 Hodge 理論 [Del71] の帰結として知られている(引用):余次元 $\ge p$ の閉集合 $Y$ について、制限の核 $\operatorname{Ker}(H^i\to H^i(X\smallsetminus Y))$ は有理 Hodge 部分構造であり、その Hodge 型 $(r,s)$ はすべて $r,s\ge p$ を満たす。包含の後半は、有理 Hodge 部分構造 $W$ について $W_{\mathbb C}\subset F^p$ と $W_{\mathbb C}\subset F^p\cap\overline{F^p}$ が同値であること($W_{\mathbb C}$ は共役で閉じる)による。
原論文の等号の予想. 原論文は、有限体上の (P2) の類似として、上の包含がすべての $i,p$ で等号であると下線を引いて予想した。この形は偽である。
$\tau=2^{1/3}e^{2\pi i/3}$、$E=\mathbb C/(\mathbb Z+\mathbb Z\tau)$、$X=E\times E\times E$、$i=3$、$p=1$ とする。
計算の筋だけを述べる(全体は 一般Hodge予想 の記事にある)。$H^3=\bigwedge^3H^1$ は 20 次元で、$H^{3,0}$ は $\omega=dz_1\wedge dz_2\wedge dz_3$ で張られる。$F^1$ は $H^{3,0}$ の杯積に関する直交補なので、有理類 $v$ が右辺に入るのは $\int_Xv\wedge\omega=0$ のときであり、これは $\omega$ の周期写像 $H_3(X,\mathbb Q)\to\mathbb C$ の核に対応する。周期の値の張る空間は $\mathbb Q+\mathbb Q\tau+\mathbb Q\tau^2+\mathbb Q\tau^3$ で、$\tau^3=2$ と $[\mathbb Q(\tau):\mathbb Q]=3$ からこれは 3 次元なので、右辺は $20-3=17$ 次元である。一方、左辺は上の定理により有理 Hodge 部分構造で、重み 3 は奇数なので型 $(r,s)$ と $(s,r)$ が対になり、次元は偶数である。左辺の性質に 1971 年の結果を使っているので、この反例は原論文の時点の道具だけでは完成しない。
1968 年の追記と一般 Hodge 予想. 原論文には 1968 年 10 月付けの追記脚注があり、著者はそこで、この形の予想は本質的に自明な理由で偽であると認め、右辺を「右辺の $\mathbb Q$ 部分空間のうち、Hodge 分解について安定な複素部分空間を生成するもので最大のもの」に取り替えるよう修正した。同じ脚注は、$X$ が $m$ 次元のとき $i\le m$ を仮定し忘れたことと、$i\ge m$ の場合の読み替えにも触れているが、本頁はその部分を検証していない。上の反例は $i=m=3$ なので、この補足によっては救われない。Grothendieck は翌年、この事情を短い論文 "Hodge's general conjecture is false for trivial reasons" [Gro69] にまとめている。本書は、上の反例がその論文の論法と同じかどうかには立ち入らない。
修正後の形は次のとおりである。
$N^pH^i$ は、複素化が $F^pH^i$ に含まれる有理 Hodge 部分構造のうち最大のものに等しい。
これが 一般Hodge予想 である。$i=2p$ では $F^p\cap\overline{F^p}\cap H^{2p}=H^{p,p}\cap H^{2p}$ であり、この部分空間は(偶数重みで型 $(p,p)$ だけからなるので)それ自身が有理 Hodge 部分構造になる。したがって $i=2p$ では原形と修正形は一致し、前の頁の次数 $2p$ の議論の特異コホモロジー版($N^pH^{2p}$ がサイクル類で張られること。引用)と合わせて、「$H^{p,p}\cap H^{2p}(X,\mathbb Q)$ の元は余次元 $p$ の代数的サイクルの類の有理結合である」という Hodge予想 になる。上の反例は奇数重みの偶奇を使うので、$i=2p$ の場合には効かない。
有限体上の楕円曲線. $E$ を $\mathbb F_q$ 上の楕円曲線とする。$H^1(E_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の $\mathrm{Frob}$ の固有値 $\alpha,\bar\alpha$ は $\alpha\bar\alpha=q$、$|\alpha|=\sqrt q$ を満たす(引用。楕円曲線については Hasse の定理)。$\alpha/q=1/\bar\alpha$ のノルムは $1/q$ なので代数的整数でなく、$N^1_{\mathrm{ar}}H^1=0$ である。前の頁により曲線では $N^1H^1=0$ なので、(P2) は $i=1$、$p=1$ で成り立つ。$H^2(E_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の固有値は $q$ で、$N^1_{\mathrm{ar}}H^2=H^2=N^1H^2$ となり、これも (P2) と整合する。
射影空間. $X=\mathbb P^n$ では $H^{2j}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$ の固有値は $q^j$ で、前の頁の計算 $N^jH^{2j}=H^{2j}$、$N^{j+1}H^{2j}=0$ と、$q^j/q^p$ が代数的整数であることと $p\le j$ が同値であることが一致する。複素数体上でも $H^{2j}=H^{j,j}$ で、同じ整合が成り立つ。
因子の場合. $p=1$、$i=2$ の Hodge 予想は、Lefschetz の $(1,1)$ 定理として成り立つ(引用)。
部分空間の特性多項式. 上の $\operatorname{diag}(\alpha,\alpha')$ の例。「整数係数の特性多項式をもつ空間の安定な部分空間」という仮定だけでは、部分空間の特性多項式の有理性は出ない。
原形の一般 Hodge 予想. 上の $E\times E\times E$ の例。
以下は 2026 年 9 月の時点での記述である。
| 原論文 | 内容 | 本頁 |
|---|---|---|
| III §10.2 前半(p. 166) | Galois 作用がフィルトレーションを保つ、Frobenius | 作用はフィルトレーションを保つ、定義と準備 |
| III (10.8)(p. 167) | 有限体上の Gysin 像による記述 | 原論文との違い(本頁では使わない) |
| III (10.9)(p. 167) | 捻りと固有値 | 捻りと固有値 |
| III §10.2 の下線部(p. 167) | 固有値の可除性、共役で閉じること | Gysin像の上の固有値の可除性、もう一つの主張について |
| III (10.10)(pp. 167–168) | 算術的フィルトレーションとの包含 | (P1) |
| III §10.3(pp. 168–169) | 等号の予想、$i=2p$ で Tate 予想、一般の底、Artin–Tate と Brauer 群 | (P2)、次数2pでの読み替え、Tate 予想、Brauer 群との関係 |
| III §10.4、(10.11)〜(10.15)(pp. 169–170) | de Rham と Hodge のフィルトレーション、包含 | Hodge 側、共役との共通部分、余次元フィルトレーションとHodgeフィルトレーション |
| III §10.4 の下線部(p. 170) | 包含は等号という予想 | 原論文の等号の予想、楕円曲線の3重積 |
| 1968 年 10 月の追記脚注(p. 170) | 等号の形の誤りの承認と修正、次数の範囲 | 1968 年の追記と一般 Hodge 予想、修正された等号 |
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する