2-6 Noether正規化

$$\newcommand{A}[0]{\mathbb{A}} \newcommand{AA}[0]{\mathscr{A}} \newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{Arg}[0]{\operatorname{Arg}} \newcommand{BB}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{CC}[0]{\mathscr{C}} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor} \newcommand{ind}[0]{\operatorname{ind}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{L}[0]{\mathbb{L}} \newcommand{mmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{Mod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rank}[0]{\mathrm{rank}} \newcommand{SS}[0]{\mathscr{S}} \newcommand{TT}[0]{\mathscr{T}} \newcommand{UU}[0]{\mathscr{U}} \newcommand{wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識:Hilbert基底定理、整拡大と有限射

任意のaffine図形に座標軸を通す

放物線
$$ C=V(y-x^2)\subseteq\mathbb A_k^2 $$
を $y$ 軸へ射影すると、一つの $y$ に対して $x^2=y$ を満たす点は高々二つです。座標環では
$$ k[y]\longrightarrow k[C]=k[x,y]/(y-x^2)\cong k[x] $$
となり、$x$ は $T^2-y=0$ を満たします。従って $k[C]$ は $k[y]$ 上module-finiteです。
一般のaffine代数的集合にも、適切に選んだ少数の「座標」へ有限に射影できるでしょうか。Noether正規化定理は、答えが常にyesであることを述べます。複雑な有限生成algebraの内部に多項式環を見つけ、残りの全ての元をその上のmonic方程式へ閉じ込める定理です。
本章では任意の体上で代数版を証明し、代数閉体上で有限全射という幾何版へ翻訳します。次の頁までは、正規化に現れる変数の個数をdimensionと同一視せず、「独立な座標の個数」として扱います。

algebraic independenceと正規化部分環

algebraically independent elements

$k$-algebra $A$ の元 $z_1,\ldots,z_d$ に対し、評価準同型
$$ k[T_1,\ldots,T_d]\longrightarrow A, \qquad T_i\longmapsto z_i $$
がinjectiveであるとき、$z_1,\ldots,z_d$ は $k$ 上algebraic independence|algebraically independentであるという。

これは、$z_i$ の間に係数が $k$ にある非自明な多項式関係が一つもないことと同値です。このとき $k[z_1,\ldots,z_d]$ は抽象的な多項式環 $k[T_1,\ldots,T_d]$ と同型です。

Noether normalizing subalgebra

有限生成$k$-algebra $A$ の部分algebra
$$ R=k[z_1,\ldots,z_d]\subseteq A $$
が多項式環と同型であり、$A$ がmodule-finite $R$-algebraであるとき、$R$ を $A$ のNoether normalizing subalgebra|Noether正規化部分環という。

ここでいうNoether正規化は、domainをそのintegral closureへ移すnormalizationとは別の操作です。本章の正規化は「多項式環を有限部分環として選ぶこと」です。

一つの関係式から生成元を一つ減らす

定理の心臓部は、代数関係が一つあれば座標を曲げて生成元を一つ減らせるという補題です。

separation of finitely many monomial weights

有限集合 $E\subseteq\mathbb N^n$ に対し、正整数
$$ w_1,\ldots,w_n $$
を、写像
$$ (\alpha_1,\ldots,\alpha_n)\longmapsto \sum_{i=1}^n\alpha_iw_i $$
が $E$ 上injectiveになるように選べる。

$E$ に現れる全ての成分より大きい整数 $M$ を取ります。$w_i=M^{i-1}$ と置きます。もし
$$ \sum_i\alpha_iM^{i-1}=\sum_i\beta_iM^{i-1} $$
なら、両辺は各桁が $0$ 以上 $M-1$ 以下のbase $M$ 展開です。base $M$ 表示の一意性により $\alpha_i=\beta_i$ が全ての $i$ で成り立ちます。従って写像は $E$ 上injectiveです。□

monic change of generators

$A=k[x_1,\ldots,x_n]$ とし、$x_1,\ldots,x_n$ がalgebraically dependentであるとする。このとき、適切な正整数 $m_1,\ldots,m_{n-1}$ に対して
$$ y_i=x_i-x_n^{m_i}\qquad(1\le i< n) $$
と置けば、$x_n$ は $B=k[y_1,\ldots,y_{n-1}]$ 上integralになり、$A$ はmodule-finite $B$-algebraになる。

algebraic dependenceにより、零でない多項式
$$ f(X_1,\ldots,X_n)= \sum_{\alpha\in E}c_\alpha X_1^{\alpha_1}\cdots X_n^{\alpha_n} $$
で $f(x_1,\ldots,x_n)=0$ となるものがあります。$E$ は $c_\alpha\ne0$ となる指数の有限集合です。
前補題でweightsを選びます。$w_n=1$ としたいので、$E$ の各成分より大きい $M$ を取り
$$ m_i=M^i\quad(1\le i< n), \qquad w_n=1 $$
とします。指数
$$ \alpha_n+\sum_{i< n}m_i\alpha_i $$
は $E$ 上で全て異なります。
形式的な代入
$$ X_i=Y_i+X_n^{m_i}\quad(i< n) $$
を $f$ に行います。各monomialから $Y_i$ を一つも選ばない項の $X_n$-degreeは
$$ \alpha_n+\sum_{i< n}m_i\alpha_i. $$
これらは互いに異なるので、最大degreeの項はただ一つです。その係数は対応する $c_\alpha\ne0$ であり、別の項とcancelしません。従って
$$ g(Y_1,\ldots,Y_{n-1},X_n) =f(Y_1+X_n^{m_1},\ldots,Y_{n-1}+X_n^{m_{n-1}},X_n) $$
は $X_n$ の多項式としてnonzero constantをleading coefficientに持ちます。そのconstantで割れば、$X_n$ についてmonicにできます。
$Y_i=y_i$、$X_n=x_n$ と評価すると $g(y_1,\ldots,y_{n-1},x_n)=0$ です。従って $x_n$ は $B$ 上integralです。さらに
$$ x_i=y_i+x_n^{m_i} $$
なので
$$ A=B[x_n]. $$
$x_n$ がmonic方程式を満たすことから、「整拡大と有限射」の冪を下げる議論により $A$ は有限生成$B$-moduleです。□

この操作をNoether normalization change of generators|Noether正規化の生成元変換と呼びます。係数体が有限体でも、係数を一般的に選ぶ必要はなく、冪による変換なのでそのまま働きます。

Noether正規化定理

Noether normalization theorem

$A$ を零でない有限生成$k$-algebraとする。このとき、あるalgebraically independent elements
$$ z_1,\ldots,z_d\in A $$
が存在し、$A$ は
$$ k[z_1,\ldots,z_d] $$
上module-finiteである。

$A$ のalgebra生成元の個数 $n$ に関するinductionを行います。
$n=0$ なら $A=k$ であり、$d=0$ としてよいです。$n>0$ とし
$$ A=k[x_1,\ldots,x_n] $$
と書きます。$x_1,\ldots,x_n$ がalgebraically independentなら、$A$ 自身が多項式環なので $z_i=x_i$ とすれば終わりです。
dependentならmonic change lemmaにより
$$ B=k[y_1,\ldots,y_{n-1}]\subseteq A $$
で、$A$ がmodule-finite $B$-algebraとなるものがあります。$B$ は高々 $n-1$ 個の元で生成されるので、induction hypothesisによりalgebraically independentな $z_1,\ldots,z_d\in B$ が存在し、$B$ は
$$ R=k[z_1,\ldots,z_d] $$
上module-finiteです。
$B$ の有限個の$R$-module生成元を $b_1,\ldots,b_r$、$A$ の有限個の$B$-module生成元を $a_1,\ldots,a_s$ とします。任意の $a\in A$ の係数をさらに $R$ 上へ展開すれば、有限個の積
$$ b_i a_j\qquad(1\le i\le r, 1\le j\le s) $$
が $A$ を $R$-moduleとして生成します。従って $A$ は $R$ 上module-finiteです。$z_i$ のalgebraic independenceは $R$ が多項式環であることから保たれます。□

これはNoether normalization theorem|Noether正規化定理です。証明は存在だけでなく、関係式を見つけて生成元変換を繰り返すNoether normalization algorithm|Noether正規化algorithmも与えています。ただし得られる正規化部分環は一意ではありません。

幾何版:affine spaceへの有限全射

$k$ をalgebraically closed fieldとし、$X$ を空でないaffine代数的集合とします。$A=k[X]$ にNoether正規化を適用して
$$ k[z_1,\ldots,z_d]\hookrightarrow A $$
を得ます。各 $z_i$ は $X$ 上の正則関数なので
$$ \pi:X\longrightarrow\mathbb A_k^d, \qquad p\longmapsto(z_1(p),\ldots,z_d(p)) $$
を定めます。

finite surjective projection to affine space

上の $\pi$ はfiniteかつsurjectiveである。従って任意の空でないaffine代数的集合は、あるaffine spaceへのfinite surjective projection|有限全射を持つ。

pullbackは正規化部分環の包含
$$ k[T_1,\ldots,T_d]\cong k[z_1,\ldots,z_d] \hookrightarrow A=k[X] $$
です。$A$ はこの部分環上module-finiteなので、定義から $\pi$ はfiniteです。
またpullbackはinjectiveです。「整拡大と有限射」のfinite morphismのsurjectivity判定により、finite morphismでpullbackがinjectiveなら像は
$$ V(\ker\pi^*)=V(0)=\mathbb A_k^d $$
です。従って $\pi$ はsurjectiveです。□

幾何的には、$X$ の各点を $d$ 個の数で記録し、各記録値の上に有限個の点だけが残る座標を選べるということです。この状態をNoether position|Noether positionにあるといいます。

手計算1:放物線と二乗写像

$$ A=k[x,y]/(y-x^2)\cong k[x] $$
では $k[y]\subseteq A$ を選ぶと、$x$ は
$$ T^2-y=0 $$
を満たします。従って
$$ A=k[y]+k[y]x. $$
対応する射影 $(x,y)\mapsto y$ のfiber algebraは $a\in k$ に対して
$$ A/(y-a)A\cong k[x]/(x^2-a). $$
$a\ne0$ で二つの異なる平方根を持つ場合には二点、$a=0$ では一点ですが $k[x]/(x^2)$ という長さ2の構造を持ちます。有限射は点数が衝突する場所でも代数的重複度を失いません。

手計算2:悪い射影を座標変換で直す

hyperbola
$$ H=V(xy-1) $$
の座標環は
$$ A=k[x,y]/(xy-1)\cong k[x,x^{-1}]. $$
$k[x]\subseteq A$ に関して $A$ はfiniteではありません。もし $x^{-1}$ が $k[x]$ 上integralなら、「整拡大と有限射」のfield criterionと同じconstant-term argumentから $x^{-1}$ は $k[x]$ に入らなければなりませんが、実際には入りません。幾何的にも $x$ 軸への像は $\mathbb A^1\setminus\{0\}$ で、closedですらありません。
そこで
$$ u=x+y=x+x^{-1} $$
を選びます。$x$ は
$$ T^2-uT+1=0 $$
を満たし、$y=u-x$ です。従って
$$ A=k[u]+k[u]x $$
で、$H\to\mathbb A^1$, $(x,y)\mapsto x+y$ はfinite surjectiveです。これはrepairing a nonfinite projection|非有限射影の正規化の最小例です。

hypersurfaceでは最高次項を見る

monic hypersurface projection criterion

$$ X=V(f)\subseteq\mathbb A_k^n $$
とする。ある座標変換後に $f$ が $x_n$ についてmonicなら、projection
$$ X\longrightarrow\mathbb A_k^{n-1} $$
はfiniteである。

座標環
$$ k[X]=k[x_1,\ldots,x_n]/(f) $$
で $x_n$ のclassは $f=0$ というmonic equationを満たします。従って $k[X]$ は $k[x_1,\ldots,x_{n-1}]$ 上、$1,x_n,\ldots,x_n^{r-1}$ で生成されます。ここで $r=\deg_{x_n}f$ です。従って対応するprojectionはfiniteです。□

この判定をmonic hypersurface projection criterion|monic hypersurface射影判定と呼びます。Noether正規化の証明は、一般の有限生成algebraに対してこのmonic化を一関係式ずつ繰り返したものです。

有限表示から得られるfiberの一様上界

正規化によって $A$ が
$$ A=Ra_1+\cdots+Ra_N, \qquad R=k[z_1,\ldots,z_d] $$
と書けたとします。$q\in\mathbb A^d$ のmaximal idealを $\mathfrak m_q$ とすると、fiber algebra
$$ A\otimes_R R/\mathfrak m_q\cong A/\mathfrak m_qA $$
は $a_1,\ldots,a_N$ のclassesで生成されます。従って
$$ \dim_k(A/\mathfrak m_qA)\le N. $$
特に各fiberの異なる点の個数も $N$ 以下です。これはuniform fiber bound from finite generators|有限生成元によるfiber一様上界です。正規化は単に各fiberが有限だと言うだけでなく、全fiberを一つの有限数で同時に抑えます。

正規化で何が解けるようになるか

Noether正規化は、一般のaffine algebraを多項式環と比較可能にします。

  1. 多項式環上の問題へ有限moduleとして帰着できる。
  2. 図形をaffine space上の有限個のsheetとして見ることができる。
  3. 独立な座標の個数を取り出し、次の頁でKrull dimensionと一致させられる。
  4. fiber algebraを計算して、点数だけでなく衝突の重複度も追跡できる。
    「抽象的な有限生成algebra」を「自由に動ける $d$ 個の座標と、その上でmonic方程式を満たす有限個の追加元」に分解することが、この定理の実用上の意味です。

演習

$A=k[x,y]/(y^3-x^2)$ が $k[x]$ 上module-finiteであることを示し、明示的なmodule生成元を与えよ。

$y$ のclassは
$$ T^3-x^2=0 $$
という $k[x]$ 係数のmonic equationを満たします。従って $y^3$ 以上の冪を下げられ、
$$ A=k[x]+k[x]y+k[x]y^2. $$
よって $1,y,y^2$ がmodule生成元です。□

$A=k[x,x^{-1}]$ が $k[u]$, $u=x+x^{-1}$ 上module-finiteであることを示し、$x^{-1}$ も $1,x$ の $k[u]$-linear combinationで書け。

$x$ は $T^2-uT+1=0$ を満たします。また
$$ x^{-1}=u-x. $$
従って $A=k[u][x]$ であり、二次のmonic equationにより
$$ A=k[u]+k[u]x. $$
特に $x^{-1}=u\cdot1-1\cdot x$ です。□

$A$ が $R$ 上 $N$ 個の元でmodule生成され、$R\to K$ がfieldへの準同型なら、$A\otimes_RK$ の $K$-dimensionが高々 $N$ であることを証明せよ。

$A=Ra_1+\cdots+Ra_N$ とします。tensor productの任意のpure tensorは
$$ a\otimes\lambda =\left(\sum_i r_i a_i\right)\otimes\lambda =\sum_i a_i\otimes(r_i\lambda). $$
一般の元はpure tensorsの有限和なので、$a_i\otimes1$ が $A\otimes_RK$ を $K$-vector spaceとして生成します。従ってdimensionは高々 $N$ です。□

$A=k[x,y]/(xy)$ に対して $u=x+y$ を取る。$A$ が $k[u]$ 上module-finiteであることを示せ。

$y=u-x$ をrelation $xy=0$ に代入すると
$$ x(u-x)=0, $$
すなわち
$$ x^2-ux=0. $$
従って $x$ は $k[u]$ 上integralです。また $y=u-x$ なので
$$ A=k[u][x]=k[u]+k[u]x. $$
よって対応する二直線の和集合からaffine lineへの写像はfiniteです。一般の $u$ の上には二点があり、$u=0$ で交点へ衝突します。□

Noether正規化 $R=k[z_1,\ldots,z_d]\subseteq A$ とideal $I\subseteq A$ に対し、$A/I$ が $R/(I\cap R)$ 上module-finiteであることを証明せよ。

$A=Ra_1+\cdots+Ra_N$ とします。商を取れば
$$ A/I=(R/(I\cap R))\overline a_1+\cdots+(R/(I\cap R))\overline a_N. $$
実際、$r\in I\cap R$ は $A/I$ 上で0として作用するので、係数作用は $R/(I\cap R)$ を経由します。従って $A/I$ はこの商環上module-finiteです。□

この章で得た橋

有限生成$k$-algebraの内部には、多項式環 $k[z_1,\ldots,z_d]$ があり、元のalgebraはその上でmodule-finiteになります。幾何側では任意の空でないaffine代数的集合からaffine spaceへの有限全射が得られ、fiberの大きさには一様上界があります。
次の頁では、正規化に現れる $d$ が選び方によらないことを示し、Krull dimension、prime ideal chain、超越次数を結びます。

参考文献

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