直積では異なる因子の元を可換させました。自由積では反対に、各群の内部ですでに成り立つ関係以外を一切加えません。そのため、有限群どうしの自由積でさえ普通は無限群になります。
群 $A,B$ を取り、単位元を除いた集合を
$$
A^\times=A\setminus\{e_A\},
\qquad B^\times=B\setminus\{e_B\}
$$
と書きます。
$A^\times\sqcup B^\times$ の文字からなる有限列
$$
x_1x_2\cdots x_n
$$
で、隣り合う二文字が常に異なる因子から来るものを自由積の簡約語|簡約語という。長さ0の空語も認める。
たとえば $a_1,a_2\in A^\times$ と $b_1,b_2\in B^\times$ に対し
$$
a_1b_1a_2b_2
$$
は簡約語ですが、$a_1a_2b_1$ は簡約されていません。同じ因子の隣接文字は $A$ または $B$ の積で一文字にまとめ、積が単位元なら消します。
$A$ と $B$ を含み、次を満たす群 $A*B$ が存在する。
簡約語全体の集合を $W$ とします。$a\in A$ に対する写像 $L_a:W\to W$ を、語の左端へ $a$ を付けて簡約する操作として定めます。$a=e_A$ なら何もしません。左端が $A$ の文字 $a'$ なら $aa'$ にまとめ、$aa'=e_A$ ならその文字を消します。左端が $B$ の文字または空語なら $a$ を一文字として加えます。
定義を場合分けして確かめると
$$
L_aL_{a'}=L_{aa'},
\qquad L_a^{-1}=L_{a^{-1}}.
$$
従って各 $L_a$ は $W$ の置換で、$a\mapsto L_a$ は $A$ から対称群 $\operatorname{Sym}(W)$ への準同型です。同様に $b\in B$ から置換 $L_b$ を作れます。
これらの置換が生成する $\operatorname{Sym}(W)$ の部分群を $A*B$ と定めます。任意の置換の積は、同じ因子から続く文字をまとめれば簡約語の形になります。
簡約語 $x_1\cdots x_n$ に対応する置換
$$
L_{x_1}\cdots L_{x_n}
$$
を空語に作用させると、右端から順に文字が付け加わり、最終的にちょうど $x_1\cdots x_n$ が得られます。従って二つの簡約語が異なれば、空語の像が異なり、置換としても異なります。これで存在、一意性、積の規則がすべて示されました。□
この証明から $A$ と $B$ はそれぞれ $A*B$ に単射で入ります。以後はその像と元の群を同一視します。
準同型 $f:A\to G$ と $g:B\to G$ が与えられると、一意な準同型
$$
\Phi:A*B\to G
$$
で
$$
\Phi|_A=f,
\qquad \Phi|_B=g
$$
を満たすものが存在する。
簡約語 $x_1\cdots x_n$ に対して、$x_i\in A$ なら $f(x_i)$、$x_i\in B$ なら $g(x_i)$ を同じ順に掛けたものを $\Phi(x_1\cdots x_n)$ と定めます。空語は $e_G$ へ送ります。
自由積の積で起こる簡約は、同じ因子の二文字をその積へ置き換えるか、単位元になった文字を消す操作です。$f,g$ は準同型なので、どちらの操作も $G$ での像を変えません。従って $\Phi(uv)=\Phi(u)\Phi(v)$ で、$\Phi$ は準同型です。
$A*B$ は $A$ と $B$ で生成されるため、それら上の値を指定した準同型は高々一つです。よって一意です。□
普遍性は自由積を座標によらず特徴づけます。同じ普遍性をもつ二つの群があれば、互いへの一意な準同型を合成することで同型だと分かります。
$A=\langle X\mid R\rangle$、$B=\langle Y\mid S\rangle$ で、生成元集合を互いに素に取れば
$$
A*B\cong\langle X\sqcup Y\mid R\sqcup S\rangle.
$$
異なる因子を結ぶ関係がないことが式にそのまま現れています。
$A*B$ に、すべての $a\in A,b\in B$ に対する関係
$$
ab=ba
$$
を加えた商群は $A\times B$ と同型である。
標準的な準同型
$$
A\to A\times B,\quad a\mapsto(a,e),
\qquad
B\to A\times B,\quad b\mapsto(e,b)
$$
から、普遍性により全射
$$
\Phi:A*B\to A\times B
$$
を得ます。像では異なる因子が可換するので、全交換子 $[a,b]$ の正規閉包 $N$ は核に入ります。
商 $(A*B)/N$ では任意の語を、$A$ の文字を左、$B$ の文字を右へ移して $ab$ の形にできます。したがって $(a,b)\mapsto abN$ は $A\times B$ から商への準同型で、$\Phi$ が誘導する写像の逆です。よって同型です。□
$$
C_2*C_2=\langle s,t\mid s^2=t^2=e\rangle
$$
とします。$r=st$ と置けば $srs=r^{-1}$ であり、$r$ は無限位数です。実際、$(st)^n$ は $n>0$ で長さ $2n$ の簡約語なので単位元になりません。従って
$$
C_2*C_2\cong D_\infty
$$
で、有限二面体群の無限版になります。
また
$$
C_2*C_3=\langle s,t\mid s^2=t^3=e\rangle
$$
はモジュラー群 $PSL_2(\mathbb Z)$ の標準表示です。Möbius変換を扱うと、位数2と3の具体的な行列を構成し、この表示が現れる出発点を確認します。表示の単射性までを別証明なしに使うことはしません。
$a\in A^\times,b\in B^\times$ とする。$ab\in A*B$ が無限位数であることを示せ。
$n\ge1$ に対し
$$
(ab)^n=abab\cdots ab
$$
は、隣接文字が交互に $A,B$ から来る長さ $2n$ の簡約語です。正規形定理により空語とは異なるため $(ab)^n\ne e$。従って $ab$ は無限位数です。□
$C_2*C_3=\langle s,t\mid s^2=t^3=e\rangle$ から $A_4$ へ、
$$
s\mapsto(12)(34),
\qquad t\mapsto(123)
$$
と送る準同型が存在することを示し、その像を求めよ。
$(12)(34)$ の位数は2、$(123)$ の位数は3なので、それぞれ $C_2,C_3$ から $A_4$ への準同型を定めます。自由積の普遍性により所望の準同型が一意に延長されます。
像は $(123)$ と $(12)(34)$ を含みます。$(123)$ による共役で三つの二重互換がすべて得られるため像は $V$ を含み、さらに3-cycleを含みます。従って像の位数は少なくとも $4\cdot3=12$ で、$A_4$ 全体です。□
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する