6-1 正規列と可解群

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非可換群でも、商を取るたびに非可換性が小さくなり、最後に自明群へ到達することがあります。その過程を交換子と導来列で測るのが可解群です。Galois理論では「方程式が根号で解ける」という解析的な問題が、Galois群の可解性へ翻訳されます。

交換子と可換化

交換子部分群

$x,y\in G$ の交換子を
$$ [x,y]=xyx^{-1}y^{-1} $$
と定める。すべての交換子が生成する部分群
$$ [G,G]=\langle[x,y]\mid x,y\in G\rangle $$
を交換子部分群または導来部分群という。

交換子部分群の普遍性

$[G,G]\trianglelefteq G$ であり、商 $G/[G,G]$ は可換である。さらに $N\trianglelefteq G$ に対し
$$ G/N\text{ が可換} \quad\Longleftrightarrow\quad [G,G]\subset N. $$

共役について
$$ g[x,y]g^{-1} =[gxg^{-1},gyg^{-1}] $$
なので、交換子の生成する部分群は共役で不変、従って正規。
商で
$$ (x[G,G])(y[G,G]) =(xy)[G,G], $$
一方
$$ (yx)^{-1}(xy)=x^{-1}y^{-1}xy $$
は交換子の形 $[x^{-1},y^{-1}]$ だから $xy[G,G]=yx[G,G]$。よって商は可換。
$G/N$ が可換なら
$$ xyN=yxN, $$
従って $xyx^{-1}y^{-1}\in N$。全交換子を含むので $[G,G]\subset N$。逆にこの包含があれば同じ計算で商の全元が可換。□

$G^{\mathrm{ab}}=G/[G,G]$ を $G$ の可換化といいます。任意の可換群 $A$ への準同型 $\varphi:G\to A$ は全交換子を単位元へ送るため、可換化を一意に経由します。

導来列と可解群

導来列と可解群

$$ G^{(0)}=G,\qquad G^{(n+1)}=[G^{(n)},G^{(n)}] $$
を導来列という。ある $r$ で $G^{(r)}=\{e\}$ となる群を可解群という。

各商
$$ G^{(i)}/G^{(i+1)} $$
は可換化なので可換です。従って可解群は、可換な層を有限枚重ねて作られた群とみなせます。

可解群の拡大閉性

$N\trianglelefteq G$ とする。$N$ と $G/N$ が可解なら $G$ も可解である。

商写像を $\pi:G\to G/N$ とする。準同型は交換子を交換子へ送るので帰納的に
$$ \pi(G^{(k)})=(G/N)^{(k)}. $$
$G/N$ が可解なら、ある $r$ で右辺が自明。従って
$$G^{(r)}\subset N.$$
$N$ が可解で $N^{(s)}=\{e\}$ とする。部分群包含 $H\subset K$ なら $H^{(j)}\subset K^{(j)}$ が帰納的に成り立つので
$$ G^{(r+s)}=(G^{(r)})^{(s)} \subset N^{(s)}=\{e\}. $$
従って $G$ は可解。□

部分群と商群も可解性を保ちます。$H\le G$ なら $H^{(n)}\subset G^{(n)}$。全射 $\varphi:G\to Q$ なら $Q^{(n)}=\varphi(G^{(n)})$。よって $G^{(r)}=e$ ならどちらも高々 $r$ 段で自明になります。

具体例

$S_3$ の交換子部分群を考えます。符号写像の像は可換なので
$$[S_3,S_3]\subset A_3.$$
一方
$$ [(12),(23)] =(12)(23)(12)(23)=(132) $$
であり、$(132)$ は $A_3$ を生成します。従って
$$ S_3^{(1)}=A_3,\qquad S_3^{(2)}=[A_3,A_3]=\{e\}. $$
$S_3$ は非可換ですが可解です。
二面体群 $D_n$ では回転部分群 $C_n$ が正規で可換、商 $D_n/C_n\cong C_2$ も可換。拡大閉性から $D_n$ は可解です。

冪零群と有限 $p$ 群

上中心列と冪零群

$Z_0(G)=\{e\}$ とし、$Z_{i+1}(G)/Z_i(G)$ が
$$ G/Z_i(G) $$
の中心となるよう $Z_{i+1}(G)$ を定め、これを上中心列という。ある $c$ で $Z_c(G)=G$ となる群を冪零群という。

有限 $p$ 群は冪零

有限 $p$ 群は冪零群である。

$|G|$ に関する帰納法を使う。自明群では明らか。非自明な有限 $p$ 群は類等式の帰結により非自明な中心 $Z(G)$ をもつ。商 $G/Z(G)$ は位数がより小さい $p$ 群なので、帰納法によりその上中心列は有限段で全体へ到達する。
商の上中心列を商写像で逆像に取ると
$$ Z(G)=Z_1(G)\subset Z_2(G)\subset\cdots\subset G $$
が得られ、各段の商は残りの商群の中心です。従って $G$ の上中心列も有限段で $G$ へ到達する。□

冪零群は可解です。上中心列
$$ \{e\}=Z_0\trianglelefteq Z_1\trianglelefteq\cdots \trianglelefteq Z_c=G $$
では各 $Z_{i+1}/Z_i$ が中心に入り可換です。この正規列を上からたどり、可解群の拡大閉性を反復すれば $G$ は可解です。

$S_3$ の可解長

$S_3$ の導来列を直接計算し、可解長が2であることを確認せよ。

解答

本文の計算から
$$ S_3^{(0)}=S_3,\qquad S_3^{(1)}=A_3,\qquad S_3^{(2)}=\{e\}. $$
$S_3$ 自身は非可換なので第一導来群は自明でなく、1段では終わらない。従って最小段数は2。□

可換群の半直積

$N,H$ が可解なら、任意の作用に対する半直積 $N\rtimes H$ も可解であることを示せ。

解答

$N$ は $N\rtimes H$ の正規部分群として $n\mapsto(n,e)$ で入る。商は射影
$$ N\rtimes H\to H,\qquad(n,h)\mapsto h $$
の核が $N$ であることから $H$ と同型。$N$ と商 $H$ が可解なので、可解群の拡大閉性から $N\rtimes H$ も可解。□

五次方程式の一般解が根号で書けない理由は、一般五次方程式のGalois群 $S_5$ が可解でないことにあります。$A_5$ の単純性は第5章で証明しました。$S_n$ の可解性は次のページで調べます。

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004

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