整数を $n$ で割った余りの類として計算できるように、群も部分群の剰余類を新しい元としてまとめたくなります。しかし非可換群では、代表元を取り替えると積が変わることがあります。正規部分群は、剰余類の積を矛盾なく定義できるちょうどよい条件です。
$g,x\in G$ に対し
$$gxg^{-1}$$
を $x$ の $g$ による共役という。部分群 $N$ に対し
$$gNg^{-1}=\{gng^{-1}\mid n\in N\}$$
と書く。
共役は座標の取り替えに似ています。置換群では、巡回置換の文字を一斉に名前変更します。たとえば
$$
(123)(12)(123)^{-1}=(23).
$$
部分群 $N\le G$ が任意の $g\in G$ に対し
$$gNg^{-1}=N$$
を満たすとき、$N$ を正規部分群といい $N\trianglelefteq G$ と書く。
$N\le G$ に対し次は同値である。
1なら
$$
gN=(gNg^{-1})g=Ng
$$
なので2。2なら $gN=Ng$ の右から $g^{-1}$ を掛けて $gNg^{-1}=N$、従って1。
1なら3は包含 $gNg^{-1}\subset N$ から従う。3なら $gNg^{-1}\subset N$。$g^{-1}$ にも3を使うと $g^{-1}Ng\subset N$。両辺を $g$ と $g^{-1}$ で挟めば $N\subset gNg^{-1}$ となるので等号。□
可換群では $gng^{-1}=n$ なので全部分群が正規です。任意の群で $\{e\}$ と $G$ は正規です。$S_3$ の
$$
A_3=\{e,(123),(132)\}
$$
は正規ですが、$\{e,(12)\}$ は
$$
(123)(12)(123)^{-1}=(23)\notin\{e,(12)\}
$$
なので正規ではありません。
左剰余類全体の集合を
$$
G/N=\{gN\mid g\in G\}
$$
と書きます。二つの剰余類の積を
$$
(aN)(bN)=(ab)N
$$
と定めたいのですが、$aN=a'N,bN=b'N$ のとき結果が同じでなければなりません。
$N\trianglelefteq G$ なら
$$
(aN)(bN)=(ab)N
$$
は代表元によらず定まり、この演算で $G/N$ は群になる。単位元は $N$、$(aN)^{-1}=a^{-1}N$ である。
$aN=a'N,bN=b'N$ とする。ある $n_1,n_2\in N$ により
$$a'=an_1,\qquad b'=bn_2$$
と書ける。すると
$$
a'b'=an_1bn_2
=ab(b^{-1}n_1b)n_2.
$$
正規性から $b^{-1}n_1b\in N$ であり、その元と $n_2$ の積も $N$ に入る。従って $a'b'\in abN$、すなわち
$$a'b'N=abN.$$
よって演算は代表元によらない。
結合律は
$$
((aN)(bN))(cN)=((ab)c)N=(a(bc))N
=(aN)((bN)(cN))
$$
から従う。$N=eN$ は単位元で、
$$
(aN)(a^{-1}N)=aa^{-1}N=N
$$
なので逆元も表示どおり。□
逆に、この積が代表元によらず定義できるなら $N$ は正規です。任意の $n\in N$ について $N=nN$ なので
$$
(N)(gN)=(nN)(gN)
$$
であり、演算の定義から $gN=ngN$。剰余類の等号判定により
$$g^{-1}ng\in N.$$
$g,n$ は任意なので共役条件を満たし、$N$ は正規です。
$A_3$ は位数3、$S_3$ は位数6なので剰余類は二つです。
$$
S_3/A_3=\{A_3,(12)A_3\}.
$$
奇置換はすべて第二の剰余類に入り、
$$
((12)A_3)^2=(12)^2A_3=A_3.
$$
従って積表は2元巡回群と同じで
$$
S_3/A_3\cong\mathbb Z/2\mathbb Z.
$$
この同型を準同型の核から体系的に説明するのが第1章の第一同型定理です。
$H\le G$ かつ $[G:H]=2$ なら $H\trianglelefteq G$ を示せ。
左剰余類は二つ。一つは $H$ で、$g\notin H$ ならもう一つは $gH=G\setminus H$。右剰余類も二つで、$Hg=G\setminus H$。従って $g\notin H$ で $gH=Hg$。$g\in H$ なら両方とも $H$。全 $g$ で一致するので正規。□
群の中心
$$
Z(G)=\{z\in G\mid zg=gz\text{ for all }g\in G\}
$$
が正規部分群であることを示せ。
$e\in Z(G)$。$x,y\in Z(G)$ なら任意の $g$ に対し
$$
(xy^{-1})g=x(gy^{-1})=(xg)y^{-1}=gxy^{-1},
$$
よって $xy^{-1}\in Z(G)$ で部分群。さらに $z\in Z(G)$ なら
$$gzg^{-1}=zgg^{-1}=z\in Z(G).$$
正規性の共役条件から $Z(G)\trianglelefteq G$。□
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する